JP4548263B2 - 耐摩耗性に優れた鋳鉄品の製造方法 - Google Patents
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TA−0.5(TA−TS)< T < TMC ………(1)
(ここで、T:鋳型注入直前温度(℃)、TA:オーステナイト相の晶出開始温度(℃)、 TS:固相線温度(℃)、TMC:次(2)式で定義される温度(℃)、
TMC=1170+64.5C+24.6Si+5.0Mn−11.1Cr−1.4Mo+18.0V+60.0Nb ……(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cr、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%)))
を満足するように調整したのち、鋳型に注入し、凝固させることを特徴とする耐摩耗性鋳鉄品の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記注入前に、前記(1)式を満足する範囲の温度で前記溶湯を攪拌することを特徴とする耐摩耗性鋳鉄品の製造方法。
C:1.5〜5.5%
Cは、耐摩耗性を向上させる硬質な炭化物を形成するための必須元素であり、本発明では1.5%以上の含有を必要とする。一方、5.5%を超える多量の含有は靭性を劣化させる。このため、Cは1.5〜5.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.5%超4.5%以下、より好ましくは2.0〜3.5%である。
Siは、脱酸剤として作用するとともに、鋳造性を向上させる元素であり、0.1%以上含有することが望ましいが、1.5%を超えて含有しても効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できないため、経済的に不利となる。このため、Siは1.5%以下に限定した。なお、好ましくは0.2〜0.5%である。
Mnは、Siと同様の作用を有する元素であり、0.1%以上含有することが望ましいが、1.2%を超えて含有しても効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できないため、経済的に不利となる。このため、Mnは1.2%以下に限定した。なお、好ましくは0.2〜0.5%である。
Cr:4.0〜20%
Crは、共晶炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させるとともに、基地中に固溶して基地組織を強化し、さらに耐食性を向上させる重要な元素である。このような効果は4.0%以上の含有で顕著となるが、20%を超えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となる。このため、Crは4.0〜20%の範囲に限定した。なお、好ましくは6〜15%である。
Moは、Crと同様に,炭化物を形成して耐摩耗性の向上に有効に作用するとともに、炭化物中に固溶して炭化物を強化する作用を有する元素であり、本発明では2%以上の含有を必要とする。一方、12%を超えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となる。このため、Moは2〜12%の範囲に限定した。なお、好ましくは3〜7%である。
Vは、硬質なMC型炭化物を形成し、耐摩耗性の向上に寄与する元素であり、このような効果は3.0%以上の含有で顕著となる。一方、20%を超えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となる。このため、Vは3.0〜20%の範囲に限定した。なお、好ましくは4〜15%である。
Ni、Cu、Wは、いずれも基地組織を強化する作用を有する元素であり、必要に応じ1種または2種以上を選択して含有できる。
Coは、高温における組織を安定化させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このようなCoの効果は0.1%以上の含有で顕著となるが、10.0%を超えて含有しても効果が飽和し,含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となる。このため、Coは10.0%以下に限定することが好ましい。
0.6 < {C−0.24V−0.13Nb} < 2.0
(ここで、C、V、Nb:各元素の含有量(質量%))
を満足するように調整することが好ましい。なお、Nbを含有しない場合にはNbの項は零として計算するものとする。
本発明では、上記した組成の溶湯を溶製し、所定の鋳型に注入(注湯)し、凝固させて、鋳鉄品とする。溶湯の溶製方法はとくに限定する必要はなく、公知の溶製法がいずれも適用できる。
TA−0.5(TA−TS)< T < TMC ………(1)
( ここで、T:鋳型注入直前温度(℃)、TA:γ相の晶出開始温度(℃)、TS:固相線温度(℃)、TMC:(2)式で定義される温度(℃))
を満足するように調整する。なお、(2)式は、
TMC=1170+64.5C+24.6Si+5.0Mn−11.1Cr−1.4Mo+18.0V+60.0Nb ……(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cr、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%))
である。
TMC(℃)=1170+64.5C+24.6Si+5.0Mn−11.1Cr−1.4Mo+18.0V+60.0Nb……(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cr、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%))
また、(1)式におけるTAはγ相の晶出開始温度(℃)、TSは固相線温度(℃)であり、それぞれ次式を用いて算出するものとする。なお、含有しない元素は零として計算するものとする。
TS(℃)=1099−12.7C+0.4Si−6.5Mn−5.1Cr+2.7Mo+8.6V+7.5Nb−4.3Ni
(ここで、C、Si、Mn、Cr、Mo、V、Nb、Ni:各元素の含有量(質量%))
鋳型注湯直前温度T(℃)を、(1)式を満足するような温度に調整することにより、注湯前の溶湯中に微細な初晶炭化物(MC型炭化物)が多数晶出し、溶湯の粘度が適正範囲内に増加した状態が得られ、鋳型注入時の自然攪拌と温度降下の過程で初晶であるMC型炭化物の浮上・沈降,すなわち重力偏析が抑制され、凝固後に炭化物が均一に分散した組織が得られ、耐摩耗性が向上するとともに、MC型炭化物の密度増加に伴う引け巣やミクロポロシティーなどの鋳造欠陥のない健全な鋳鉄品が得られる。一方、(1)式を満足せず、鋳型注湯直前温度T(℃)がTMC以上の高温である場合には、鋳型注入時の凝固過程で未凝固溶湯の温度上昇に伴う粘度の低下により、凝固界面近傍で晶出するMC型炭化物が容易に浮上しMC型炭化物の偏析が発生する。また、鋳型注湯直前温度T(℃)が、(1)式を満足しないような低温では、デンドライト状に成長するγ相の影響で溶湯の流動性が顕著に低下し、ミクロポロシティーや引け巣の発生など鋳造欠陥が多発する。このため本発明では、鋳型注湯直前温度T(℃)は、(1)式を満足するような温度に調整し、鋳型に注湯するものとする。
なお、溶湯を急冷する場合は、溶湯の温度がTMC(℃)以下に低下している場合には、一旦、溶湯をTMC(℃)以上の温度に昇温したのち、溶湯を10℃/min以上の冷却速度で、(1)式を満足する温度域まで、冷却することが好ましい。溶湯温度がTMCより高温の場合には、昇温することなく上記した冷却速度で急冷することができる。これにより、晶出したMC型炭化物の成長が抑制され、微細なMC型炭化物が生成・分散し、MC型炭化物の重力偏析が抑制され、引け巣等の鋳造欠陥の発生が防止できる。とくに、MC型炭化物が粗大化しやすい、Vが8%以上の場合に有効となる。なお、冷却速度が10℃/min未満では、冷却中にMC型炭化物が成長し、粗大化する恐れがある。冷却速度のより好ましい範囲は50℃/min以上である。
上記した製造方法で得られた鋳鉄品は、さらに適正な温度(例えば、固液共存域)に再加熱したのち、圧縮等の加工を施すと、共晶炭化物等が多い液相が表層に滲み出やすく、表層が炭化物相が濃縮した層となる一方、内層が炭化物相が少なく靭性に富む層となり、傾斜機能を有する鋳鉄品とすることができる。
上記した製造方法で製造された鋳鉄品いずれも、所望の硬さに調整するため、必要に応じて調質処理を施してもよい。なお、調質処理としては、オーステナイト化したのち、ベイナイト変態開始温度以下でマルテンサイト変態開始温度以上の温度まで急冷し、その後保持または徐冷し、基地組織をベイナイト組織化する焼入れ処理と、ついで所定の適正硬さに調整する焼戻処理とを施す処理とすることが好ましい。
得られた鋳鉄品について、外観および断面観察試験、硬さ試験、耐摩耗性試験を実施した。試験方法はつぎの通りとした。
(1)外観および断面観察検査
得られた鋳鉄品について、目視観察により、引け巣等の表面欠陥、さらには得られた鋳鉄品の中央縦断面サンプルを採取し、該中央縦断面サンプルを全面研磨し、目視および光学顕微鏡(100倍)で、引け巣、ポロシティー等の鋳造欠陥の有無、およびMC型炭化物の重力偏析の有無を調査した。これら鋳造欠陥が無い場合を○、これら鋳造欠陥が軽微で光学顕微鏡によって認識可能な場合を△、これら鋳造欠陥が多量に存在し、目視で存在が確認できる場合を×とした。また、MC型炭化物の重力偏析が有る場合を×、無い場合を○として評価した。
得られた鋳鉄品から採取した中央縦断面サンプルについて、シヨア硬度計を用いて硬さHsを測定した。測定位置は、鋳鉄品の高さ方向中央とし、両表面(両側面)から中心方向に0、5、10、15、20mmの各点、計10点を測定し、それらの算術平均をその鋳鉄品の硬さとした。
得られた鋳鉄品から採取した中央縦断面サンプルの高さ方向中央部の表面近傍から、10mmφ×50mm長さの丸棒状試験片を切り出し、回転式摩耗試験を実施した。回転式摩耗試験は、試験片を珪砂、珪石と水とを混合し泥状とした液中で回転摩耗(回転数:640rpm、試験片速度:10m/s)させる試験とし、試験時間:20時間後の試験片の摩耗減量を測定し,耐摩耗性を評価した。耐摩耗性は、高Cr鋳鉄(従来例)の摩耗減量を基準(1.00)とし、従来例の摩耗減量に対する比(試験材の摩耗減量/従来例の摩耗減量)で表示した。耐摩耗比が小さいほど、耐摩耗性が向上していることを表す。なお、鋳造性が劣化した比較例は耐摩耗性試験を実施しなかった。得られた結果を表3に示す。
Claims (4)
- 質量%で、
C:1.5〜5.5%、 Si:1.5%以下、
Mn:1.2%以下、 Cr:4.0〜20%、
Mo:2〜12%、 V:3.0〜20%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の溶湯を、鋳型注入直前温度T(℃)が、下記(1)式を満足するように調整したのち、鋳型に注入し、凝固させることを特徴とする耐摩耗性鋳鉄品の製造方法。
記
TA−0.5(TA−TS)< T < TMC ………(1)
ここで、T:鋳型注入直前温度(℃)、
TA:オーステナイト相の晶出開始温度(℃)、
TS:固相線温度(℃)、
TMC:次(2)式で定義される温度(℃)
TMC=1170+64.5C+24.6Si+5.0Mn−11.1Cr−1.4Mo+18.0V+60.0Nb ……(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cr、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%)) - 前記溶湯の鋳型注入直前温度を調整するに当たり、前記溶湯の温度を前記TMC(℃)以上の温度にしたのち、該溶湯を10℃/min以上の冷却速度で冷却し、前記(1)式を満足する前記鋳型注入直前温度T(℃)に調整することを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性鋳鉄品の製造方法。
- 前記注入前に、前記(1)式を満足する範囲の温度で前記溶湯を攪拌することを特徴とする請求項1または2に記載の耐摩耗性鋳鉄品の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ni:5.5%以下、Co:10.0%以下、Cu:2.0%以下、W:1.0%以下、Nb:2.0%以下、Ti:2.0%以下、Zr:2.0%以下、B:0.1%以下のうちから選ばれた1種又は2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の耐摩耗性鋳鉄品の製造方法。
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