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JP4396007B2 - 歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板およびその製造方法 Download PDF

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JP4396007B2 JP2000217275A JP2000217275A JP4396007B2 JP 4396007 B2 JP4396007 B2 JP 4396007B2 JP 2000217275 A JP2000217275 A JP 2000217275A JP 2000217275 A JP2000217275 A JP 2000217275A JP 4396007 B2 JP4396007 B2 JP 4396007B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板およびその製造方法に関し、とくに、自動車用鋼板としての用途において好適な歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車の軽量化が指向される中、成形性に優れる高強度薄鋼板に対する要求が強くなってきている。さらに、経済性に対する配慮も必要とされ、かかる経済性を考慮した場合は、冷延鋼板に比べると熱延鋼板の方が有利である。
上記の現状を背景として、これまでにも成形性を考慮した高強度熱延鋼板が種々開発されている。この種の熱延鋼板として、一つには、フェライト+マルテンサイトの複合組織を有するDual-Phase鋼(以下DP鋼という)があり、強度−伸びバランスの優れた鋼として使用されてきた。
【0003】
さらに、特公平6−41617 号公報、特公平5−65566 号公報および特公平5−67682 号公報には、高加工性高強度熱延鋼板として、フェライト、べイナイトおよび5%以上の残留オーステナイトを含むいわゆるTransformation Induced Plasticity 鋼(以下TRIP鋼という)の製造方法が開示されている。このようなTRIP鋼においては、DP鋼では20000MPa・%程度までであった引張強度(TS)と伸び(El)の積(TS×El)をさらに向上させることが可能となった。しかし、現在、使用者のニーズによりさらなる強度−伸び特性を有する高強度熱延鋼板の開発が望まれている。
【0004】
このような要求に対して、プレス成形後に行われる 170℃×20分程度の塗装焼付け工程で起こる歪時効硬化現象を利用することが有利であると考えられる。例えば、外板パネル用の冷延鋼板では、極低炭素鋼を素材として、最終的に固溶状態で残存するC量を適正範囲に制御する鋼板製造技術が知られている。このような鋼板に塗装焼付け処理を行うことにより、成形後のYSが上昇し耐デント性が向上する。しかし、この技術では、表面欠陥となるストレッチャーストレインの発生を防止する観点から、そのYS上昇量は低く抑えられ、実際の鋼板の薄肉化に寄与するところは小さいという難点があった。
【0005】
また、外観があまり問題とならない用途に対しては、固溶Nを用いて焼付け硬化量をさらに増加させた鋼板(特公平7−30408 号公報)や、組織をフェライトとマルテンサイトからなる複合組織とすることで焼き付け硬化性をよりいっそう向上させた鋼板(特公平8−23048 号公報)が提案されている。
しかし、特公平7−30408 号公報に開示される鋼板では、塗装焼付け後にYSがある程度上昇し高い焼付け硬化量が得られるものの、TSまでは上昇させることはできず、成形後の耐疲労特性、耐衝撃特性の大きな向上が期待できない。このため、耐疲労特性、耐衝撃特性等が要求される使途への適用ができないという問題が残されていた。また、特公平8−23048 号公報に開示される鋼板は、極めて低い温度で巻き取る必要があるため、とくに板厚の薄い鋼板を製造しようとすると安定製造が困難であり、YSの増加量が大きくばらつくなど機械的性質の変動も大きいため、現在要望されている自動車部品の軽量化に寄与できるほどの鋼板の薄肉化が期待できないという問題もあった。さらに、とくに薄肉化を達成するために板厚2.0mm 以下の薄鋼板を製造する場合には、鋼板の形状が大きく乱れるため、プレス成形が著しく困難になるという問題もあった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来技術の限界を打破し、高い成形性と安定した品質特性を有するうえ、自動車部品に成形した後に十分な自動車部品強度が得られ、自動車車体の軽量化に十分寄与できる、歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。具体的には、440MPa以上の引張強度(TS)を有し、かつ、5%塑性変形させたのち除荷し、引続き、温度:170 ℃×時間:20分の条件で熱処理する歪時効処理を受けた場合、変形応力増加量(BH)が80MPa 以上でかつ引張強度増加量(ΔTS)が40MPa 以上になる歪時効硬化特性を有する高張力高加工性熱延鋼板を提供することを目的とする。ここに、BH、ΔTSは以下の式で定義される。
【0007】
BH=熱処理後の降伏応力(YS)−除荷前の変形応力
ΔTS=歪時効処理後のTS−歪時効処理前のTS
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために成分および製造方法を種々変えて鋼板を製造し、多くの材料評価を行った。その結果、高加工性が要求される分野ではあまり積極的に利用されることがなかったNを強化元素として、かかる強化元素の作用により発現する大きな歪時効硬化現象を有効に活用することにより、成形性の向上と高強度化を容易に両立させうることを知見した。
【0009】
さらに、本発明者らは、Nによる歪時効硬化現象を有効に活用するためには、Nによる歪時効硬化現象を自動車の塗装焼き付け条件、あるいはさらに積極的に成形後の熱処理条件と有利に結合させる必要があり、このために、熱延条件を適正化して鋼板の微視組織と固溶N量とをある範囲に制御することが有効であることを見いだした。また、Nによる歪時効硬化現象を安定して発現させるためには、組成の面で、特にAl含有量をN含有量に応じて制御することが重要であることも見出した。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)質量百分率で、
C:0.05〜0.40%、 Si:1.0 〜3.0 %、 Mn:0.6 〜3.0 %、
Al:0.02%以下、 N:0.0050〜0.0250%
を含み、かつN/Al:0.30以上、固溶N:0.0010%以上、残部はFeおよび不可避的不純物である組成、および、フェライト:50体積%以上、残留オーステナイト:3.0 体積%以上を含み、前記フェライトの平均結晶粒径が10.0μm以下である組織を有することを特徴とする歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板。
【0011】
(2)前記組成がさらに、下記a群〜c群のうちから選ばれた1群または2群以上を含むことを特徴とする(1)記載の歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板。

a群:Cr:0.2 〜2.0 %、P:0.01〜0.2 %のうちの1種または2種
b群:Ti:0.005 〜0.25%、Nb:0.003 〜0.1 %のうちの1種または2種
c群:Ca:0.001 〜0.01%
なお、N/AlはN含有量(%)/Al含有量(%)を意味する。また、固溶Nは、固溶状態のNを意味する。
【0012】
(3)質量百分率で、
C:0.05〜0.20%、 Si:1.0 〜3.0 %、 Mn:0.6 〜3.0 %、
Al:0.02%以下、 N:0.0050〜0.0250%、
あるいはさらに、下記a群〜c群のうちから選ばれた1群または2群以上
を含み、N/Al:0.3 以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、1000〜1300℃に加熱し、粗圧延後、最終パス圧下率:15%以上および/または後段3パス累積圧下率:50%以上とし、かつ圧延終了温度: 780〜 980℃として仕上圧延し、この仕上圧延終了後、直ちに50℃/s以上の冷却速度で 620〜 780℃の範囲内の第1の温度まで急冷し、ついで該第1の温度に1.0 〜10秒間等温保持するかまたは該第1の温度未満600 ℃以上の範囲内の第2の温度まで20℃/s以下の冷却速度で1.0 〜10秒間徐冷し、ついで50℃/s以上の冷却速度で 300〜500 ℃の範囲内の第3の温度まで急冷してから巻き取ることを特徴とする歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板の製造方法。
【0013】

a群:Cr:0.2 〜2.0 %、P:0.01〜0.2 %のうちの1種または2種
b群:Ti:0.005 〜0.25%、Nb:0.003 〜0.1 %のうちの1種または2種
c群:Ca:0.001 〜0.01%
【0014】
【発明の実施の形態】
まず、本発明鋼板の組成(化学組成)について説明する。なお、以後、化学成分含有量については、質量百分率を%と略記する。
C:0.05〜0.40%
Cは、鋼の強化に寄与するだけでなく、残留オーステナイトを得るうえでも有効な元素であるが、0.05%未満ではその効果に乏しく、一方、0.40%を超えると延性および溶接性を低下させるので、0.05〜0.40%とした。なお、好ましくは0.10〜0.25%である。
【0015】
Si:1.0 〜3.0 %
Siは、残留オーステナイトの生成に不可欠な元素であり、そのためには少なくとも1.0 %の添加含有を必要とするが、3.0 %を超えると延性の低下を招くだけでなくスケール性状を低下させ表面品質上も問題となるので、1.0 〜3.0 %とした。なお、好ましくは1.0 〜2.0 %である。
【0016】
Mn:0.6 〜3.0 %
Mnは、鋼の強化元素として有用なだけでなく、残留オーステナイトを得るうえでも有効な元素であるが、0.6 %未満ではその効果に乏しく、一方、3.0 %を超えると延性の低下を招くので、0.6 〜3.0 %とした。なお、熱延条件の変動に対する鋼板の機械的性質および歪時効硬化特性のばらつきをより小さくしてさらなる品質安定化を図る観点からは、Mn量は1.2 %以上が好ましく、さらに好ましくは1.5 %以上である。
【0017】
Al:0.02%以下
Al含有量の抑制は本発明において特に重要である。Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有効な元素であり、鋼の組織微細化のためにも添加が望ましい元素である。しかし、本発明では、過剰のAl添加は表面性状の悪化につながり、また固溶Nを確保し難くする。また、固溶Nを確保できたとしても、Alが0.02%を超えると、製造条件の変動による歪時効硬化特性のばらつきが大きくなる。そのため、Alは0.02%以下に制限される。なお、材質安定性の観点からは、Al:0.001 〜0.015 %が望ましい。
【0018】
N:0.0050〜0.0250%
Nは、本発明において最も重要な添加元素である。すなわち、Nを適量添加して製造条件を制御することにより、母板(熱延まま状態の鋼板)で固溶Nを必要かつ十分な量だけ確保することができ、それによって固溶強化と歪時効硬化での強度(YS,TS)の上昇効果が十分に発揮され、TS 440MPa 以上,BH80MPa 以上、ΔTS40MPa 以上の目標特性を安定して達成することができる。また、Nは鋼の変態点(Ar3 )を降下させる効果もあり、薄物で変態点を大きく割り込んだ圧延が忌避される状況下での操業安定化にも有効である。さらに、Nはオーステナイト安定化元素であり、残留オーステナイトの生成にも有効な元素である。
【0019】
Nが0.0050%未満では、上記の諸々の効果が安定して現れにくい。一方、Nが0.0250%を超えると、鋼板の内部欠陥発生率が高くなるとともに、連続鋳造時のスラブ割れなどが多発するようになる。よって、N含有量は0.0050〜0.0250%に限定した。なお、製造工程全体を考慮した材質の安定性・歩留り向上の観点からは、0.0070〜0.0170%が好ましい。なお、本発明範囲内のN量であれば、溶接性や熱間加工性への悪影響はまったくない。
【0020】
固溶N:0.0010%以上
母板で十分な強度が確保され、さらにNによる歪時効硬化が十分に大きく発現するには、固溶Nが0.0010%以上の量で存在する必要がある。ここで、固溶N量は、鋼中の全N量から析出N量を差し引いて求める。析出Nの抽出法、すなわち地鉄を溶解する方法としては、酸分解法、ハロゲン法および電解法があるが、本発明者らがこれら抽出法について比較検討した結果、電解法は炭化物、窒化物等の極めて不安定な析出物を分解することなく、安定して地鉄のみを溶解できる。このため、本発明では電解法により析出Nを抽出するものとする。また、電解液としてアセチル・アセトン系を用い、定電位にて電解する。以上の電解法により抽出した残渣を化学分析して、残渣中のN量を求め、これを析出Nとする。
【0021】
なお、より高位のBH、ΔTSを達成するには、固溶Nは0.0020%以上、さらに高位の場合は、0.0030%以上が好ましい。
N/Al:0.30以上
前述のように、製造条件の変動によらず安定して母板に固溶Nを0.0010%以上存在させるには、Nを強力に固定する元素であるAlの量を制限する必要があり、Alを0.02%以下とする必要がある。本発明の組成範囲内でN量とAl量の組合せ広範囲に変えた鋼について熱延後の固溶Nが0.0010%以上になる条件を探索した結果、かかる条件が、N/Alを0.30%以上として仕上圧延後の冷却条件および巻取温度条件を適正範囲に収めることにあると判明した。したがって、N/Alは0.30以上とする。
【0022】
Cr:0.2 〜2.0 %、P:0.01〜0.2 %
CrおよびPは、いずれも残留オーステナイト生成元素として有用であり、必要に応じて何れか一方または両方を添加することができるが、Crは0.2 %、Pは0.01%に満たないとその効果に乏しく、一方、Crが2.0 %を超えると粗大なCr炭化物が生成して延性が阻害され、Pが0.2 %を超えると耐二次加工性が劣化するので、添加する場合はCrは0.2 〜2.0 %、Pは0.01〜0.2 %が望ましい。
【0023】
Ti:0.005 〜0.25%、Nb:0.003 〜0.1 %
TiおよびNbはいずれも、組織の基地相であるフェライトを細粒化させることによって強度の向上に寄与するので、必要に応じて何れか一方または両方を添加することができるが、含有量があまりに少ないとその添加効果に乏しく、一方、過度の添加は延性の低下を招くので、添加する場合はそれぞれ上記の範囲で含有させることが望ましい。
【0024】
Ca:0.001 〜0.01%
Caは、伸びフランジ性向上のために添加することができるが、0.001 %に満たないとその効果に乏しく、一方、0.01%を超えると耐食性の劣化を招くので、添加する場合は0.001 〜0.01%が望ましい。
本発明鋼板の組成では、上記の成分以外の残部は実質的にFe、すなわちFeおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、S:0.01%以下、O:0.01%以下が許容できる。
【0025】
なお、Cr,P,Ti,Nb,Caについても、不可避的不純物として、上述した下限値未満の範囲で含有されていてもかまわない。
つぎに、本発明鋼板の組織について説明する。
フェライト:50体積%以上
フェライトが50体積%に満たない組織では、自動車用鋼板としての加工性を確保できないので、フェライトは50体積%以上とする。なお、好ましくは70体積%以上である。ここで、フェライトとしては、通常の意味のフェライト(ポリゴナルフェライト)のみならず、炭化物を含まないベイニティックフェライト、アシキュラーフェライトをも含むものとする。
【0026】
残留オーステナイト:3.0 体積%以上
残留オーステナイトは、組織の一構成相とすることにより鋼の伸び特性を向上させる効果があるが、3.0 体積%に満たないとその効果に乏しいので、3.0 体積%以上とする。なお、好ましくは5.0 体積%以上である。
フェライトの平均結晶粒径(フェライト粒径と略記する):10.0μm以下
本発明では平均結晶粒径として、断面組織写真からASTMに規定された求積法により算出した値と、同じく切断法により求めた公称粒径(例えば梅本ら:熱処理24(1984)334 に解説有り)のうち、より大きい方を採用する。
【0027】
本発明では、製品(母板)段階で固溶Nを確保するが、本発明者らの実験・検討結果によれば、固溶N量を一定に保ってもフェライト粒径が10.0μmを超えると歪時効硬化特性に大きなばらつきが生じる。この理由は、詳細な機構は不明であるが、結晶粒界への合金元素の偏析と析出、さらにはこれらに及ぼす加工、熱処理の影響に関係するものと推定されるが、理由はさておき、歪時効硬化特性の安定化を図るには、フェライト粒径は10.0μm以下とする必要がある。なお、BHおよびΔTSのさらなる高位安定化の観点からは、フェライト粒径は8.0 μm以下が好ましい。
【0028】
なお、本発明鋼板の組織において、上記のフェライトと残留オーステナイトを除いた残部の相は、特に規定はしないがベイナイトあるいはマルテンサイトであること好ましい。
つぎに、本発明鋼板が具備すべき歪時効硬化特性について説明する。
〔5%の塑性変形(予歪)〕
歪時効硬化特性を規定する場合、予歪(予変形)量は重要な因子である。本発明者らは、自動車用鋼板が適用される変形様式を想定して、歪時効硬化特性に及ぼす予歪量の影響について調査し、その結果、▲1▼極めて深い絞り加工以外は概ね1軸相当歪(引張歪)量で整理できること、▲2▼実部品ではこの1軸相当歪量が概ね5%を上回っていること、▲3▼部品強度(実部品の強度)が、予歪5%の歪時効処理後に得られる強度とよく対応することを突き止めた。この知見をもとに、本発明では、歪時効処理の予歪量を5%引張歪とした時に、後述する大きさのBH,ΔTSが得られるものとする。
【0029】
なお、本発明鋼板は、予歪量が5%を超える歪時効処理を受けた場合にも、高いBHおよびΔTSが得られる。
〔熱処理の温度(加熱温度)と時間(保持時間)〕
従来の塗装焼付け処理では、標準の熱処理条件として 170℃×20分が採用されている。したがって、前述の5%予歪付与後の時効処理条件として 170℃×20分で、後述する大きさのBH,ΔTSが得られるものとする。なお、多量の固溶Nが残存する本発明鋼板では、より緩やかな(低温側の)熱処理でも硬化が達成され、言いかえれば、時効条件をより幅広くとることができる。また、一般に、硬化量を稼ぐには、軟化させない限りにおいて、より高温により長時間保持することが有利である。
【0030】
本発明鋼板の場合、具体的には、予変形後に硬化が顕著となる加熱温度の下限は100 ℃である。一方、加熱温度が300 ℃を超えると硬化が頭打ちとなり、逆にやや軟化する傾向が現れるほか、熱歪やテンパーカラーの発生が目立つようになる。また、保持時間については、加熱温度200 ℃程度のとき30秒程度以上とすれば略十分な硬化が達成される。さらに大きな安定した硬化を得るには、保持時間を60秒以上とするのが好ましい。しかし、20分を超える保持では、さらなる硬化を望みえないばかりか、生産効率も著しく低下して実用面では不利である。これらの点を考慮して、本発明鋼を用いる場合には、歪時効処理の熱処理条件を、加熱温度=100 〜300 ℃、保持時間=30秒〜20分とすることが好ましい。
【0031】
すなわち、本発明鋼板には、従来の塗装焼付け型鋼板では十分な硬化が達成されない低温加熱・短時間保持の時効処理条件下でも、大きな硬化が得られるという利点がある。なお、加熱の仕方はとくに制限されず、例えば誘導加熱や無酸化炎、レーザ、プラズマなどによる加熱などの何れも好ましく用いうる。
も当然有効となる。従来の焼き付け硬化型鋼板では十分な硬化が達成されない低温、短時間でも本発明鋼では大きな硬化が達成される。
【0032】
〔BH:80MPa 以上、ΔTS:40MPa 以上〕
自動車用の部品強度は外部からの複雑な応力負荷に抗しうる必要があり、それゆえ素材鋼板では小さな歪域での強度特性だけでなく大きな歪域での強度特性も重要となる。本発明者らはこの点に鑑み、自動車部品の素材となりうる本発明鋼板が達成すべきBHを80MPa 以上、ΔTSを40MPa 以上と定めた。なお、より好ましくは、BHでは100MPa以上、ΔTSでは50MPa 以上である。
【0033】
また、本発明鋼板には、成形加工後に、加熱による加速時効(人工的な時効)を行わずとも、室温で放置しておくだけで、最低限でも完全時効時の40%程度に相当する強度増加が期待でき、しかも、一方において、成形加工されない状態では、室温で長時間放置されても時効劣化(YSが増加しかつElが減少する現象)は起こらないという、従来にない利点が備わっている。
【0034】
つぎに、本発明鋼板の好ましい製造方法について説明する。
〔スラブの加熱〕
スラブ加熱温度(SRT ):1000〜1300℃
SRT は、1000℃に満たないと初期の固溶N量が少なくなって母板での必要値(0.0010%以上)を満たせず、一方、1300℃を超えると鋼の結晶粒が粗大化して材質均質性および延性の劣化を招くため、1000〜1300℃とする。なお、スラブ加熱時間は、特に限定されないが、あまり長いと結晶粒が粗大化するので、60分以下とするのが好ましい。
【0035】
〔粗圧延〕
粗圧延は通常の方法で行えばよい。
〔仕上圧延〕
最終パス圧下率:15%以上および/または後段3パス累積圧下率:50%以上
このような後段パス強圧下圧延を行なうことにより、鋼中に歪みが残存し、これが駆動力となって再結晶が促進される(再結晶の核が多数存在する中で再結晶が進行する)ため、結晶粒が効果的に微細化する。逆に、最終パス圧下率が15%未満および後段3パス累積圧下率が50%未満であると、歪の蓄積が不十分なため、上述のような再結晶が十分には進行しない。よって、本発明では、熱間仕上圧延の後段パスについては、最終パス圧下率:15%以上および/または後段3パス累積圧下率:50%以上とする。
【0036】
仕上圧延終了温度(FDT ): 780〜 980℃
FDT が780 ℃に満たないと鋼中に加工組織が残存して延性の劣化を招き、さらに圧延温度が低いと圧延中にNがAlN として析出してしまい、固溶Nの確保が困難となる。一方、FDT が980 ℃を超えると組織が粗大化し、フェライト変態の遅延に起因して成形性の低下を招くので、 FDTは 780〜 980℃とする。
【0037】
〔ホットラン冷却および巻取〕
仕上圧延後の鋼板はホットラン冷却を経て巻き取られる。本発明では、このホットラン冷却および巻取工程において図1に示す温度パターンで板温制御を行なう。すなわち、仕上圧延終了後、直ちに▲1▼冷却速度CR1 を50℃/s以上として第1の温度T1= 620〜 780℃まで急冷し、第1の温度T1に時間t1=1.0 〜10秒だけ等温保持(パターンI)するか、または冷却速度CR2 =20℃/s以下で第2の温度T2=第1の温度T1未満600 ℃以上まで徐冷時間t1'= 1.0〜10秒間徐冷(パターンII)し、ついで▲2▼冷却速度CR3 =50℃/s以上で第3の温度T3= 300〜500 ℃まで急冷してから巻き取る。この第3の温度T3は巻取温度(CT)に相当する。
【0038】
▲1▼の制御は、フェライト変態が起こる温度域まで急冷して、その後、等温保持するかまたは徐冷して、フェライトの析出を促進するためのものである。ここで、急冷の冷却速度CR1 を50℃/s以上としたことにより、結晶粒が微細となりかつAlN の析出が抑制され、母板での固溶Nを有効に確保することができる。なお、仕上圧延終了後直ちに▲1▼を開始するが、この「直ちに」は「0.5 秒以内に」の意である。
【0039】
また、第1の温度T1=620 〜780 ℃、等温保持の時間t1または徐冷時間t1' =1.0 〜10秒、第2の温度(徐冷の終点温度)T2=T1未満〜600 ℃、徐冷の冷却速度CR2 =20℃/s以下としたことにより、フェライト変態が最もスムーズに進行し、所望量のフェライト(初析フェライト)を得ることができる。
▲2▼の制御は、残留オーステナイトを確保するためのものである。ここで、急冷の冷却速度CR3 が50℃/s未満であると、冷却中にパーライト変態が生じて残留オーステナイトが得られなくなる可能性があるため、CR3 を50℃/s以上とした。また、T3=CT= 300〜500 ℃の温度範囲で巻取ることによりオーステナイト相がべイナイト変態するとともに、未変態のオーステナイト相にCが濃縮し、所望量の残留オーステナイトが得られる。しかし、CTが300 ℃未満であるとべイナイト変態がほとんど進行せず、一方、500 ℃を超えると過度にべイナイト変態が進行するため残留オーステナイトが得られない。よって、T3=CT= 300〜500 ℃とした。
【0040】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す種々の鋼組成になるスラブをSRT =1200℃に加熱後、粗圧延し、ついで、仕上圧延条件を最終パス圧下率=20%、後段3パス累積圧下率=60%、FDT =880 ℃として仕上圧延し、その後直ちに図1の等温保持パターンIに従い、ホットラン冷却・巻取条件をCR1 =60℃/s、T1=700 ℃、t1=5秒、CR3 =60℃/s、T3=CT=400 ℃としてホットラン冷却後巻き取って、板厚2.0mm の熱延鋼板(コイル)となした。これらのコイルについて、固溶N、微視組織、引張特性および歪時効硬化特性を調査した。
【0041】
固溶N量は前記した方法により測定した。
微視組織は、C断面(圧延方向に直交する断面)の板厚中心部について、腐食現出組織の拡大像を画像解析して調査した。
引張特性と歪時効硬化特性の調査に係わる引張試験はJIS 5号試験片を用いてJIS Z 2241に準拠した方法で行った。
【0042】
歪時効処理条件は、予歪量:5%、熱処理条件:170 ℃×20分とした。
結果を表2に示す。ここに、Vαはフェライト相分率、Vγは残留オーステナイト相分率、dαはフェライト粒径である。また、フェライト、残留オーステナイト以外の相はベイナイトであった。
表2より明らかなように、本発明例では比較例よりも格段に高いEl,TS×El,BH,ΔTSを呈する。
【0043】
【表1】
Figure 0004396007
【0044】
【表2】
Figure 0004396007
【0045】
(実施例2)
表1に示した各スラブを表3に示す条件で加熱後、粗圧延し、ついで、表3に示す条件で仕上圧延し、その後直ちに図1の等温保持パターンIあるいは徐冷パターンIIに従い表3に示す条件でホットラン冷却後巻き取って、板厚2.0mm の熱延鋼板(コイル)となした。これらのコイルについて、実施例1と同様に固溶N、微視組織、引張特性および歪時効硬化特性を調査した。なお、表3のP1は仕上圧延最終3パスの累積圧下率、P2は同最終パスの圧下率である。
【0046】
結果を表4に示す。ここに、Vαはフェライト相分率、Vγは残留オーステナイト相分率、dαはフェライト粒径である。また、フェライト、残留オーステナイト以外の相はベイナイトまたはマルテンサイトであった。
表4より明らかなように、本発明例では比較例よりも格段に高いEl,TS×El,BH,ΔTSを呈する。
【0047】
【表3】
Figure 0004396007
【0048】
【表4】
Figure 0004396007
【0049】
【発明の効果】
本発明の高張力高加工性熱延鋼板は、化学組成、熱延条件の適正化により、固溶Nを活用して歪時効硬化特性の大幅向上を達成し、かつ、残留オーステナイトを含む微細組織として延性・加工性の向上を達成したものであるので、自動車車体の軽量化推進に大きく寄与するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】ホットラン冷却・巻取の板温制御方法を示す温度パターン図である。

Claims (3)

  1. 質量百分率で、
    C:0.05〜0.40%、 Si:1.0 〜3.0 %、 Mn:0.6 〜3.0 %、
    Al:0.02%以下、 N:0.0050〜0.0250%
    を含み、かつN/Al:0.30以上、固溶N:0.0010%以上、残部はFeおよび不可避的不純物である組成、および、フェライト:50体積%以上、残留オーステナイト:3.0 体積%以上を含み、前記フェライトの平均結晶粒径が10.0μm以下である組織を有することを特徴とする歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板。
  2. 前記組成がさらに、下記a群〜c群のうちから選ばれた1群または2群以上を含むことを特徴とする請求項1記載の歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板。

    a群:Cr:0.2 〜2.0 %、P:0.01〜0.2 %のうちの1種または2種
    b群:Ti:0.005 〜0.25%、Nb:0.003 〜0.1 %のうちの1種または2種
    c群:Ca:0.001 〜0.01%
  3. 質量百分率で、
    C:0.05〜0.20%、 Si:1.0 〜3.0 %、 Mn:0.6 〜3.0 %、
    Al:0.02%以下、 N:0.0050〜0.0250%、
    あるいはさらに、下記a群〜c群のうちから選ばれた1群または2群以上
    を含み、N/Al:0.3 以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、1000〜1300℃に加熱し、粗圧延後、最終パス圧下率:15%以上および/または後段3パス累積圧下率:50%以上とし、かつ圧延終了温度: 780〜 980℃として仕上圧延し、この仕上圧延終了後、直ちに50℃/s以上の冷却速度で 620〜 780℃の範囲内の第1の温度まで急冷し、ついで該第1の温度に1.0 〜10秒間等温保持するかまたは該第1の温度未満600 ℃以上の範囲内の第2の温度まで20℃/s以下の冷却速度で1.0 〜10秒間徐冷し、ついで50℃/s以上の冷却速度で 300〜500 ℃の範囲内の第3の温度まで急冷してから巻き取ることを特徴とする歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板の製造方法。

    a群:Cr:0.2 〜2.0 %、P:0.01〜0.2 %のうちの1種または2種
    b群:Ti:0.005 〜0.25%、Nb:0.003 〜0.1 %のうちの1種または2種
    c群:Ca:0.001 〜0.01%
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