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JP2002030385A - 歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板およびその製造方法

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JP2002030385A
JP2002030385A JP2000217275A JP2000217275A JP2002030385A JP 2002030385 A JP2002030385 A JP 2002030385A JP 2000217275 A JP2000217275 A JP 2000217275A JP 2000217275 A JP2000217275 A JP 2000217275A JP 2002030385 A JP2002030385 A JP 2002030385A
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steel sheet
temperature
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hot
rolled steel
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Tatsuya Nakagaito
達也 中垣内
Akio Tosaka
章男 登坂
Shinjiro Kaneko
真次郎 金子
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JFE Steel Corp
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Kawasaki Steel Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課 題】 自動車車体の軽量化に十分に寄与できる歪
時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板およびそ
の製造方法を提供する。 【解決手段】 所定量のC、Si、Mnと、Al≦0.02%、
N:0.0050〜0.0250%を含み、N/Al≧0.30、固溶N≧
0.0010%になる組成と、α(フェライト)≧50体積%、
残留γ≧3.0 体積%、α粒径≦10.0μmの組織を有する
熱延鋼板。熱延製造条件は、SRT=1000〜1300℃、仕上最
終パス圧下率≧15%および/または仕上後段3パス累積
圧下率≧50%、FDT=780 〜 980℃、CT=300〜500 ℃と
し、FDT 〜CT間を、FDT →50℃/s以上でT1(620〜 780
℃) →1.0 〜10秒等温保持または20℃/s以下でT2(T1 未
満〜600 ℃) まで1.0 〜10秒徐冷→50℃/s以上でT3(=C
T) 、とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、歪時効硬化特性に
優れた高張力高加工性熱延鋼板およびその製造方法に関
し、とくに、自動車用鋼板としての用途において好適な
歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板および
その製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車の軽量化が指向される中、成形性
に優れる高強度薄鋼板に対する要求が強くなってきてい
る。さらに、経済性に対する配慮も必要とされ、かかる
経済性を考慮した場合は、冷延鋼板に比べると熱延鋼板
の方が有利である。上記の現状を背景として、これまで
にも成形性を考慮した高強度熱延鋼板が種々開発されて
いる。この種の熱延鋼板として、一つには、フェライト
+マルテンサイトの複合組織を有するDual-Phase鋼(以
下DP鋼という)があり、強度−伸びバランスの優れた
鋼として使用されてきた。
【0003】さらに、特公平6−41617 号公報、特公平
5−65566 号公報および特公平5−67682 号公報には、
高加工性高強度熱延鋼板として、フェライト、べイナイ
トおよび5%以上の残留オーステナイトを含むいわゆる
Transformation Induced Plasticity 鋼(以下TRIP
鋼という)の製造方法が開示されている。このようなT
RIP鋼においては、DP鋼では20000MPa・%程度まで
であった引張強度(TS)と伸び(El)の積(TS×
El)をさらに向上させることが可能となった。しか
し、現在、使用者のニーズによりさらなる強度−伸び特
性を有する高強度熱延鋼板の開発が望まれている。
【0004】このような要求に対して、プレス成形後に
行われる 170℃×20分程度の塗装焼付け工程で起こる歪
時効硬化現象を利用することが有利であると考えられ
る。例えば、外板パネル用の冷延鋼板では、極低炭素鋼
を素材として、最終的に固溶状態で残存するC量を適正
範囲に制御する鋼板製造技術が知られている。このよう
な鋼板に塗装焼付け処理を行うことにより、成形後のY
Sが上昇し耐デント性が向上する。しかし、この技術で
は、表面欠陥となるストレッチャーストレインの発生を
防止する観点から、そのYS上昇量は低く抑えられ、実
際の鋼板の薄肉化に寄与するところは小さいという難点
があった。
【0005】また、外観があまり問題とならない用途に
対しては、固溶Nを用いて焼付け硬化量をさらに増加さ
せた鋼板(特公平7−30408 号公報)や、組織をフェラ
イトとマルテンサイトからなる複合組織とすることで焼
き付け硬化性をよりいっそう向上させた鋼板(特公平8
−23048 号公報)が提案されている。しかし、特公平7
−30408 号公報に開示される鋼板では、塗装焼付け後に
YSがある程度上昇し高い焼付け硬化量が得られるもの
の、TSまでは上昇させることはできず、成形後の耐疲
労特性、耐衝撃特性の大きな向上が期待できない。この
ため、耐疲労特性、耐衝撃特性等が要求される使途への
適用ができないという問題が残されていた。また、特公
平8−23048 号公報に開示される鋼板は、極めて低い温
度で巻き取る必要があるため、とくに板厚の薄い鋼板を
製造しようとすると安定製造が困難であり、YSの増加
量が大きくばらつくなど機械的性質の変動も大きいた
め、現在要望されている自動車部品の軽量化に寄与でき
るほどの鋼板の薄肉化が期待できないという問題もあっ
た。さらに、とくに薄肉化を達成するために板厚2.0mm
以下の薄鋼板を製造する場合には、鋼板の形状が大きく
乱れるため、プレス成形が著しく困難になるという問題
もあった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記した従
来技術の限界を打破し、高い成形性と安定した品質特性
を有するうえ、自動車部品に成形した後に十分な自動車
部品強度が得られ、自動車車体の軽量化に十分寄与でき
る、歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱延鋼板お
よびその製造方法を提供することを目的とする。具体的
には、440MPa以上の引張強度(TS)を有し、かつ、5
%塑性変形させたのち除荷し、引続き、温度:170 ℃×
時間:20分の条件で熱処理する歪時効処理を受けた場
合、変形応力増加量(BH)が80MPa 以上でかつ引張強
度増加量(ΔTS)が40MPa 以上になる歪時効硬化特性
を有する高張力高加工性熱延鋼板を提供することを目的
とする。ここに、BH、ΔTSは以下の式で定義され
る。
【0007】 BH=熱処理後の降伏応力(YS)−除荷前の変形応力 ΔTS=歪時効処理後のTS−歪時効処理前のTS
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題
を解決するために成分および製造方法を種々変えて鋼板
を製造し、多くの材料評価を行った。その結果、高加工
性が要求される分野ではあまり積極的に利用されること
がなかったNを強化元素として、かかる強化元素の作用
により発現する大きな歪時効硬化現象を有効に活用する
ことにより、成形性の向上と高強度化を容易に両立させ
うることを知見した。
【0009】さらに、本発明者らは、Nによる歪時効硬
化現象を有効に活用するためには、Nによる歪時効硬化
現象を自動車の塗装焼き付け条件、あるいはさらに積極
的に成形後の熱処理条件と有利に結合させる必要があ
り、このために、熱延条件を適正化して鋼板の微視組織
と固溶N量とをある範囲に制御することが有効であるこ
とを見いだした。また、Nによる歪時効硬化現象を安定
して発現させるためには、組成の面で、特にAl含有量を
N含有量に応じて制御することが重要であることも見出
した。
【0010】本発明は、これらの知見に基づいてなされ
たものであり、その要旨は以下の通りである。 (1)質量百分率で、 C:0.05〜0.40%、 Si:1.0 〜3.0 %、 Mn:0.6 〜3.0 %、 Al:0.02%以下、 N:0.0050〜0.0250% を含み、かつN/Al:0.30以上、固溶N:0.0010%以
上、残部は実質的に鉄である組成、および、フェライ
ト:50体積%以上、残留オーステナイト:3.0 体積%以
上を含み、前記フェライトの平均結晶粒径が10.0μm以
下である組織を有することを特徴とする歪時効硬化特性
に優れた高張力高加工性熱延鋼板。
【0011】(2)前記組成がさらに、下記a群〜c群
のうちから選ばれた1群または2群以上を含むことを特
徴とする(1)記載の歪時効硬化特性に優れた高張力高
加工性熱延鋼板。 記 a群:Cr:0.2 〜2.0 %、P:0.01〜0.2 %のうちの1
種または2種 b群:Ti:0.005 〜0.25%、Nb:0.003 〜0.1 %のうち
の1種または2種 c群:Ca:0.001 〜0.01% なお、N/AlはN含有量(%)/Al含有量(%)を意味
する。また、固溶Nは、固溶状態のNを意味する。
【0012】(3)質量百分率で、 C:0.05〜0.20%、 Si:1.0 〜3.0 %、 Mn:0.6 〜3.0 %、 Al:0.02%以下、 N:0.0050〜0.0250%、 あるいはさらに、下記a群〜c群のうちから選ばれた1
群または2群以上を含み、N/Al:0.3 以上である組成
を有する鋼スラブを、1000〜1300℃に加熱し、粗圧延
後、最終パス圧下率:15%以上および/または後段3パ
ス累積圧下率:50%以上とし、かつ圧延終了温度: 780
〜 980℃として仕上圧延し、この仕上圧延終了後、直ち
に50℃/s以上の冷却速度で 620〜 780℃の範囲内の第1
の温度まで急冷し、ついで該第1の温度に1.0 〜10秒間
等温保持するかまたは該第1の温度未満600 ℃以上の範
囲内の第2の温度まで20℃/s以下の冷却速度で1.0 〜10
秒間徐冷し、ついで50℃/s以上の冷却速度で 300〜500
℃の範囲内の第3の温度まで急冷してから巻き取ること
を特徴とする歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱
延鋼板の製造方法。
【0013】記 a群:Cr:0.2 〜2.0 %、P:0.01〜0.2 %のうちの1
種または2種 b群:Ti:0.005 〜0.25%、Nb:0.003 〜0.1 %のうち
の1種または2種 c群:Ca:0.001 〜0.01%
【0014】
【発明の実施の形態】まず、本発明鋼板の組成(化学組
成)について説明する。なお、以後、化学成分含有量に
ついては、質量百分率を%と略記する。 C:0.05〜0.40% Cは、鋼の強化に寄与するだけでなく、残留オーステナ
イトを得るうえでも有効な元素であるが、0.05%未満で
はその効果に乏しく、一方、0.40%を超えると延性およ
び溶接性を低下させるので、0.05〜0.40%とした。な
お、好ましくは0.10〜0.25%である。
【0015】Si:1.0 〜3.0 % Siは、残留オーステナイトの生成に不可欠な元素であ
り、そのためには少なくとも1.0 %の添加含有を必要と
するが、3.0 %を超えると延性の低下を招くだけでなく
スケール性状を低下させ表面品質上も問題となるので、
1.0 〜3.0 %とした。なお、好ましくは1.0 〜2.0 %で
ある。
【0016】Mn:0.6 〜3.0 % Mnは、鋼の強化元素として有用なだけでなく、残留オー
ステナイトを得るうえでも有効な元素であるが、0.6 %
未満ではその効果に乏しく、一方、3.0 %を超えると延
性の低下を招くので、0.6 〜3.0 %とした。なお、熱延
条件の変動に対する鋼板の機械的性質および歪時効硬化
特性のばらつきをより小さくしてさらなる品質安定化を
図る観点からは、Mn量は1.2 %以上が好ましく、さらに
好ましくは1.5 %以上である。
【0017】Al:0.02%以下 Al含有量の抑制は本発明において特に重要である。Al
は、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上さ
せるのに有効な元素であり、鋼の組織微細化のためにも
添加が望ましい元素である。しかし、本発明では、過剰
のAl添加は表面性状の悪化につながり、また固溶Nを確
保し難くする。また、固溶Nを確保できたとしても、Al
が0.02%を超えると、製造条件の変動による歪時効硬化
特性のばらつきが大きくなる。そのため、Alは0.02%以
下に制限される。なお、材質安定性の観点からは、Al:
0.001 〜0.015 %が望ましい。
【0018】N:0.0050〜0.0250% Nは、本発明において最も重要な添加元素である。すな
わち、Nを適量添加して製造条件を制御することによ
り、母板(熱延まま状態の鋼板)で固溶Nを必要かつ十
分な量だけ確保することができ、それによって固溶強化
と歪時効硬化での強度(YS,TS)の上昇効果が十分
に発揮され、TS 440MPa 以上,BH80MPa 以上、ΔT
S40MPa 以上の目標特性を安定して達成することができ
る。また、Nは鋼の変態点(Ar3 )を降下させる効果も
あり、薄物で変態点を大きく割り込んだ圧延が忌避され
る状況下での操業安定化にも有効である。さらに、Nは
オーステナイト安定化元素であり、残留オーステナイト
の生成にも有効な元素である。
【0019】Nが0.0050%未満では、上記の諸々の効果
が安定して現れにくい。一方、Nが0.0250%を超える
と、鋼板の内部欠陥発生率が高くなるとともに、連続鋳
造時のスラブ割れなどが多発するようになる。よって、
N含有量は0.0050〜0.0250%に限定した。なお、製造工
程全体を考慮した材質の安定性・歩留り向上の観点から
は、0.0070〜0.0170%が好ましい。なお、本発明範囲内
のN量であれば、溶接性や熱間加工性への悪影響はまっ
たくない。
【0020】固溶N:0.0010%以上 母板で十分な強度が確保され、さらにNによる歪時効硬
化が十分に大きく発現するには、固溶Nが0.0010%以上
の量で存在する必要がある。ここで、固溶N量は、鋼中
の全N量から析出N量を差し引いて求める。析出Nの抽
出法、すなわち地鉄を溶解する方法としては、酸分解
法、ハロゲン法および電解法があるが、本発明者らがこ
れら抽出法について比較検討した結果、電解法は炭化
物、窒化物等の極めて不安定な析出物を分解することな
く、安定して地鉄のみを溶解できる。このため、本発明
では電解法により析出Nを抽出するものとする。また、
電解液としてアセチル・アセトン系を用い、定電位にて
電解する。以上の電解法により抽出した残渣を化学分析
して、残渣中のN量を求め、これを析出Nとする。
【0021】なお、より高位のBH、ΔTSを達成する
には、固溶Nは0.0020%以上、さらに高位の場合は、0.
0030%以上が好ましい。 N/Al:0.30以上 前述のように、製造条件の変動によらず安定して母板に
固溶Nを0.0010%以上存在させるには、Nを強力に固定
する元素であるAlの量を制限する必要があり、Alを0.02
%以下とする必要がある。本発明の組成範囲内でN量と
Al量の組合せ広範囲に変えた鋼について熱延後の固溶N
が0.0010%以上になる条件を探索した結果、かかる条件
が、N/Alを0.30%以上として仕上圧延後の冷却条件お
よび巻取温度条件を適正範囲に収めることにあると判明
した。したがって、N/Alは0.30以上とする。
【0022】Cr:0.2 〜2.0 %、P:0.01〜0.2 % CrおよびPは、いずれも残留オーステナイト生成元素と
して有用であり、必要に応じて何れか一方または両方を
添加することができるが、Crは0.2 %、Pは0.01%に満
たないとその効果に乏しく、一方、Crが2.0 %を超える
と粗大なCr炭化物が生成して延性が阻害され、Pが0.2
%を超えると耐二次加工性が劣化するので、添加する場
合はCrは0.2 〜2.0 %、Pは0.01〜0.2 %が望ましい。
【0023】Ti:0.005 〜0.25%、Nb:0.003 〜0.1 % TiおよびNbはいずれも、組織の基地相であるフェライト
を細粒化させることによって強度の向上に寄与するの
で、必要に応じて何れか一方または両方を添加すること
ができるが、含有量があまりに少ないとその添加効果に
乏しく、一方、過度の添加は延性の低下を招くので、添
加する場合はそれぞれ上記の範囲で含有させることが望
ましい。
【0024】Ca:0.001 〜0.01% Caは、伸びフランジ性向上のために添加することができ
るが、0.001 %に満たないとその効果に乏しく、一方、
0.01%を超えると耐食性の劣化を招くので、添加する場
合は0.001 〜0.01%が望ましい。本発明鋼板の組成で
は、上記の成分以外の残部は実質的にFe、すなわちFeお
よび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物とし
ては、S:0.01%以下、O:0.01%以下が許容できる。
【0025】なお、Cr,P,Ti,Nb,Caについても、不
可避的不純物として、上述した下限値未満の範囲で含有
されていてもかまわない。つぎに、本発明鋼板の組織に
ついて説明する。 フェライト:50体積%以上 フェライトが50体積%に満たない組織では、自動車用鋼
板としての加工性を確保できないので、フェライトは50
体積%以上とする。なお、好ましくは70体積%以上であ
る。ここで、フェライトとしては、通常の意味のフェラ
イト(ポリゴナルフェライト)のみならず、炭化物を含
まないベイニティックフェライト、アシキュラーフェラ
イトをも含むものとする。
【0026】残留オーステナイト:3.0 体積%以上 残留オーステナイトは、組織の一構成相とすることによ
り鋼の伸び特性を向上させる効果があるが、3.0 体積%
に満たないとその効果に乏しいので、3.0 体積%以上と
する。なお、好ましくは5.0 体積%以上である。 フェライトの平均結晶粒径(フェライト粒径と略記す
る):10.0μm以下 本発明では平均結晶粒径として、断面組織写真からASTM
に規定された求積法により算出した値と、同じく切断法
により求めた公称粒径(例えば梅本ら:熱処理24(198
4)334 に解説有り)のうち、より大きい方を採用す
る。
【0027】本発明では、製品(母板)段階で固溶Nを
確保するが、本発明者らの実験・検討結果によれば、固
溶N量を一定に保ってもフェライト粒径が10.0μmを超
えると歪時効硬化特性に大きなばらつきが生じる。この
理由は、詳細な機構は不明であるが、結晶粒界への合金
元素の偏析と析出、さらにはこれらに及ぼす加工、熱処
理の影響に関係するものと推定されるが、理由はさてお
き、歪時効硬化特性の安定化を図るには、フェライト粒
径は10.0μm以下とする必要がある。なお、BHおよび
ΔTSのさらなる高位安定化の観点からは、フェライト
粒径は8.0 μm以下が好ましい。
【0028】なお、本発明鋼板の組織において、上記の
フェライトと残留オーステナイトを除いた残部の相は、
特に規定はしないがベイナイトあるいはマルテンサイト
であること好ましい。つぎに、本発明鋼板が具備すべき
歪時効硬化特性について説明する。 〔5%の塑性変形(予歪)〕歪時効硬化特性を規定する
場合、予歪(予変形)量は重要な因子である。本発明者
らは、自動車用鋼板が適用される変形様式を想定して、
歪時効硬化特性に及ぼす予歪量の影響について調査し、
その結果、極めて深い絞り加工以外は概ね1軸相当歪
(引張歪)量で整理できること、実部品ではこの1軸
相当歪量が概ね5%を上回っていること、部品強度
(実部品の強度)が、予歪5%の歪時効処理後に得られ
る強度とよく対応することを突き止めた。この知見をも
とに、本発明では、歪時効処理の予歪量を5%引張歪と
した時に、後述する大きさのBH,ΔTSが得られるも
のとする。
【0029】なお、本発明鋼板は、予歪量が5%を超え
る歪時効処理を受けた場合にも、高いBHおよびΔTS
が得られる。 〔熱処理の温度(加熱温度)と時間(保持時間)〕従来
の塗装焼付け処理では、標準の熱処理条件として 170℃
×20分が採用されている。したがって、前述の5%予歪
付与後の時効処理条件として 170℃×20分で、後述する
大きさのBH,ΔTSが得られるものとする。なお、多
量の固溶Nが残存する本発明鋼板では、より緩やかな
(低温側の)熱処理でも硬化が達成され、言いかえれ
ば、時効条件をより幅広くとることができる。また、一
般に、硬化量を稼ぐには、軟化させない限りにおいて、
より高温により長時間保持することが有利である。
【0030】本発明鋼板の場合、具体的には、予変形後
に硬化が顕著となる加熱温度の下限は100 ℃である。一
方、加熱温度が300 ℃を超えると硬化が頭打ちとなり、
逆にやや軟化する傾向が現れるほか、熱歪やテンパーカ
ラーの発生が目立つようになる。また、保持時間につい
ては、加熱温度200 ℃程度のとき30秒程度以上とすれば
略十分な硬化が達成される。さらに大きな安定した硬化
を得るには、保持時間を60秒以上とするのが好ましい。
しかし、20分を超える保持では、さらなる硬化を望みえ
ないばかりか、生産効率も著しく低下して実用面では不
利である。これらの点を考慮して、本発明鋼を用いる場
合には、歪時効処理の熱処理条件を、加熱温度=100 〜
300 ℃、保持時間=30秒〜20分とすることが好ましい。
【0031】すなわち、本発明鋼板には、従来の塗装焼
付け型鋼板では十分な硬化が達成されない低温加熱・短
時間保持の時効処理条件下でも、大きな硬化が得られる
という利点がある。なお、加熱の仕方はとくに制限され
ず、例えば誘導加熱や無酸化炎、レーザ、プラズマなど
による加熱などの何れも好ましく用いうる。も当然有効
となる。従来の焼き付け硬化型鋼板では十分な硬化が達
成されない低温、短時間でも本発明鋼では大きな硬化が
達成される。
【0032】〔BH:80MPa 以上、ΔTS:40MPa 以
上〕自動車用の部品強度は外部からの複雑な応力負荷に
抗しうる必要があり、それゆえ素材鋼板では小さな歪域
での強度特性だけでなく大きな歪域での強度特性も重要
となる。本発明者らはこの点に鑑み、自動車部品の素材
となりうる本発明鋼板が達成すべきBHを80MPa 以上、
ΔTSを40MPa 以上と定めた。なお、より好ましくは、
BHでは100MPa以上、ΔTSでは50MPa 以上である。
【0033】また、本発明鋼板には、成形加工後に、加
熱による加速時効(人工的な時効)を行わずとも、室温
で放置しておくだけで、最低限でも完全時効時の40%程
度に相当する強度増加が期待でき、しかも、一方におい
て、成形加工されない状態では、室温で長時間放置され
ても時効劣化(YSが増加しかつElが減少する現象)
は起こらないという、従来にない利点が備わっている。
【0034】つぎに、本発明鋼板の好ましい製造方法に
ついて説明する。 〔スラブの加熱〕 スラブ加熱温度(SRT ):1000〜1300℃ SRT は、1000℃に満たないと初期の固溶N量が少なくな
って母板での必要値(0.0010%以上)を満たせず、一
方、1300℃を超えると鋼の結晶粒が粗大化して材質均質
性および延性の劣化を招くため、1000〜1300℃とする。
なお、スラブ加熱時間は、特に限定されないが、あまり
長いと結晶粒が粗大化するので、60分以下とするのが好
ましい。
【0035】〔粗圧延〕粗圧延は通常の方法で行えばよ
い。 〔仕上圧延〕最終パス圧下率:15%以上および/または
後段3パス累積圧下率:50%以上 このような後段パス強圧下圧延を行なうことにより、鋼
中に歪みが残存し、これが駆動力となって再結晶が促進
される(再結晶の核が多数存在する中で再結晶が進行す
る)ため、結晶粒が効果的に微細化する。逆に、最終パ
ス圧下率が15%未満および後段3パス累積圧下率が50%
未満であると、歪の蓄積が不十分なため、上述のような
再結晶が十分には進行しない。よって、本発明では、熱
間仕上圧延の後段パスについては、最終パス圧下率:15
%以上および/または後段3パス累積圧下率:50%以上
とする。
【0036】仕上圧延終了温度(FDT ): 780〜 980℃ FDT が780 ℃に満たないと鋼中に加工組織が残存して延
性の劣化を招き、さらに圧延温度が低いと圧延中にNが
AlN として析出してしまい、固溶Nの確保が困難とな
る。一方、FDT が980 ℃を超えると組織が粗大化し、フ
ェライト変態の遅延に起因して成形性の低下を招くの
で、 FDTは 780〜 980℃とする。
【0037】〔ホットラン冷却および巻取〕仕上圧延後
の鋼板はホットラン冷却を経て巻き取られる。本発明で
は、このホットラン冷却および巻取工程において図1に
示す温度パターンで板温制御を行なう。すなわち、仕上
圧延終了後、直ちに冷却速度CR1 を50℃/s以上として
第1の温度T1= 620〜 780℃まで急冷し、第1の温度T1
に時間t1=1.0 〜10秒だけ等温保持(パターンI)する
か、または冷却速度CR2 =20℃/s以下で第2の温度T2=
第1の温度T1未満600 ℃以上まで徐冷時間t1'= 1.0〜10
秒間徐冷(パターンII)し、ついで冷却速度CR3 =50
℃/s以上で第3の温度T3= 300〜500 ℃まで急冷してか
ら巻き取る。この第3の温度T3は巻取温度(CT)に相当
する。
【0038】の制御は、フェライト変態が起こる温度
域まで急冷して、その後、等温保持するかまたは徐冷し
て、フェライトの析出を促進するためのものである。こ
こで、急冷の冷却速度CR1 を50℃/s以上としたことによ
り、結晶粒が微細となりかつAlN の析出が抑制され、母
板での固溶Nを有効に確保することができる。なお、仕
上圧延終了後直ちにを開始するが、この「直ちに」は
「0.5 秒以内に」の意である。
【0039】また、第1の温度T1=620 〜780 ℃、等温
保持の時間t1または徐冷時間t1' =1.0 〜10秒、第2の
温度(徐冷の終点温度)T2=T1未満〜600 ℃、徐冷の冷
却速度CR2 =20℃/s以下としたことにより、フェライト
変態が最もスムーズに進行し、所望量のフェライト(初
析フェライト)を得ることができる。の制御は、残留
オーステナイトを確保するためのものである。ここで、
急冷の冷却速度CR3 が50℃/s未満であると、冷却中にパ
ーライト変態が生じて残留オーステナイトが得られなく
なる可能性があるため、CR3 を50℃/s以上とした。ま
た、T3=CT= 300〜500 ℃の温度範囲で巻取ることによ
りオーステナイト相がべイナイト変態するとともに、未
変態のオーステナイト相にCが濃縮し、所望量の残留オ
ーステナイトが得られる。しかし、CTが300 ℃未満であ
るとべイナイト変態がほとんど進行せず、一方、500 ℃
を超えると過度にべイナイト変態が進行するため残留オ
ーステナイトが得られない。よって、T3=CT= 300〜50
0 ℃とした。
【0040】
【実施例】(実施例1)表1に示す種々の鋼組成になる
スラブをSRT =1200℃に加熱後、粗圧延し、ついで、仕
上圧延条件を最終パス圧下率=20%、後段3パス累積圧
下率=60%、FDT =880 ℃として仕上圧延し、その後直
ちに図1の等温保持パターンIに従い、ホットラン冷却
・巻取条件をCR1 =60℃/s、T1=700 ℃、t1=5秒、CR
3 =60℃/s、T3=CT=400 ℃としてホットラン冷却後巻
き取って、板厚2.0mm の熱延鋼板(コイル)となした。
これらのコイルについて、固溶N、微視組織、引張特性
および歪時効硬化特性を調査した。
【0041】固溶N量は前記した方法により測定した。
微視組織は、C断面(圧延方向に直交する断面)の板厚
中心部について、腐食現出組織の拡大像を画像解析して
調査した。引張特性と歪時効硬化特性の調査に係わる引
張試験はJIS 5号試験片を用いてJIS Z 2241に準拠した
方法で行った。
【0042】歪時効処理条件は、予歪量:5%、熱処理
条件:170 ℃×20分とした。結果を表2に示す。ここ
に、Vαはフェライト相分率、Vγは残留オーステナイ
ト相分率、dαはフェライト粒径である。また、フェラ
イト、残留オーステナイト以外の相はベイナイトであっ
た。表2より明らかなように、本発明例では比較例より
も格段に高いEl,TS×El,BH,ΔTSを呈す
る。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】(実施例2)表1に示した各スラブを表3
に示す条件で加熱後、粗圧延し、ついで、表3に示す条
件で仕上圧延し、その後直ちに図1の等温保持パターン
Iあるいは徐冷パターンIIに従い表3に示す条件でホッ
トラン冷却後巻き取って、板厚2.0mm の熱延鋼板(コイ
ル)となした。これらのコイルについて、実施例1と同
様に固溶N、微視組織、引張特性および歪時効硬化特性
を調査した。なお、表3のP1は仕上圧延最終3パスの累
積圧下率、P2は同最終パスの圧下率である。
【0046】結果を表4に示す。ここに、Vαはフェラ
イト相分率、Vγは残留オーステナイト相分率、dαは
フェライト粒径である。また、フェライト、残留オース
テナイト以外の相はベイナイトまたはマルテンサイトで
あった。表4より明らかなように、本発明例では比較例
よりも格段に高いEl,TS×El,BH,ΔTSを呈
する。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【発明の効果】本発明の高張力高加工性熱延鋼板は、化
学組成、熱延条件の適正化により、固溶Nを活用して歪
時効硬化特性の大幅向上を達成し、かつ、残留オーステ
ナイトを含む微細組織として延性・加工性の向上を達成
したものであるので、自動車車体の軽量化推進に大きく
寄与するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】ホットラン冷却・巻取の板温制御方法を示す温
度パターン図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 金子 真次郎 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 Fターム(参考) 4K037 EA01 EA05 EA06 EA09 EA11 EA15 EA16 EA18 EA19 EA23 EA28 EA31 EB05 EB08 EB09 EB12 FA02 FA03 FB08 FC03 FC04 FD02 FD03 FD04 FE01 FE06 HA01 JA06 JA07

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量百分率で、 C:0.05〜0.40%、 Si:1.0 〜3.0 %、 Mn:0.6 〜3.0 %、 Al:0.02%以下、 N:0.0050〜0.0250% を含み、かつN/Al:0.30以上、固溶N:0.0010%以
    上、残部は実質的に鉄である組成、および、フェライ
    ト:50体積%以上、残留オーステナイト:3.0 体積%以
    上を含み、前記フェライトの平均結晶粒径が10.0μm以
    下である組織を有することを特徴とする歪時効硬化特性
    に優れた高張力高加工性熱延鋼板。
  2. 【請求項2】 前記組成がさらに、下記a群〜c群のう
    ちから選ばれた1群または2群以上を含むことを特徴と
    する請求項1記載の歪時効硬化特性に優れた高張力高加
    工性熱延鋼板。 記 a群:Cr:0.2 〜2.0 %、P:0.01〜0.2 %のうちの1
    種または2種 b群:Ti:0.005 〜0.25%、Nb:0.003 〜0.1 %のうち
    の1種または2種 c群:Ca:0.001 〜0.01%
  3. 【請求項3】 質量百分率で、 C:0.05〜0.20%、 Si:1.0 〜3.0 %、 Mn:0.6 〜3.0 %、 Al:0.02%以下、 N:0.0050〜0.0250%、 あるいはさらに、下記a群〜c群のうちから選ばれた1
    群または2群以上を含み、N/Al:0.3 以上である組成
    を有する鋼スラブを、1000〜1300℃に加熱し、粗圧延
    後、最終パス圧下率:15%以上および/または後段3パ
    ス累積圧下率:50%以上とし、かつ圧延終了温度: 780
    〜 980℃として仕上圧延し、この仕上圧延終了後、直ち
    に50℃/s以上の冷却速度で 620〜 780℃の範囲内の第1
    の温度まで急冷し、ついで該第1の温度に1.0 〜10秒間
    等温保持するかまたは該第1の温度未満600 ℃以上の範
    囲内の第2の温度まで20℃/s以下の冷却速度で1.0 〜10
    秒間徐冷し、ついで50℃/s以上の冷却速度で 300〜500
    ℃の範囲内の第3の温度まで急冷してから巻き取ること
    を特徴とする歪時効硬化特性に優れた高張力高加工性熱
    延鋼板の製造方法。 記 a群:Cr:0.2 〜2.0 %、P:0.01〜0.2 %のうちの1
    種または2種 b群:Ti:0.005 〜0.25%、Nb:0.003 〜0.1 %のうち
    の1種または2種 c群:Ca:0.001 〜0.01%
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