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JP2018188675A - 高強度熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

高強度熱延鋼板およびその製造方法 Download PDF

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JP2018188675A JP2017089031A JP2017089031A JP2018188675A JP 2018188675 A JP2018188675 A JP 2018188675A JP 2017089031 A JP2017089031 A JP 2017089031A JP 2017089031 A JP2017089031 A JP 2017089031A JP 2018188675 A JP2018188675 A JP 2018188675A
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Junji Shimamura
純二 嶋村
俊介 豊田
Shunsuke Toyoda
俊介 豊田
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Abstract

【課題】高靭性で打抜き性および打抜き曲げ疲労強度特性に優れ、安定して且つ安価に製造することができる高強度熱延鋼板を提供する。【解決手段】質量%で、C :0.05〜0.14%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.50〜2.0%、P :0.025%以下、S :0.005%以下、Al:0.005〜0.10%、N :0.002〜0.006%、Nb:0.001〜0.05%、Ti:0.001〜0.05%、Cr:0.01〜1.0%、B :0.0005〜0.0050%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、鋼組織が、マルテンサイト相および焼戻マルテンサイト相の少なくとも一方からなり鋼組織全体に対する面積率が95%以上である主相を有し、マルテンサイト相および/または焼戻マルテンサイト相のラス内に平均粒径が0.5μm以下のセメンタイトを含有し、セメンタイトの含有量が質量%で0.01〜0.08%である高強度熱延鋼板。【選択図】なし

Description

本発明は、高強度熱延鋼板およびその製造方法に関し、特に建設用機械や産業用機械(以下「建産機」ともいう)の構造部材用として好適な高強度鋼板に関する。
近年、建築物の高層化に伴って、建築物の建設に使用するクレーンやトラック等の建設用機械も大型化され、また、産業用機械も大型化する傾向にある。このため、これら機械の自重を軽くすることが必要とされ、これらの大型建産機の構造部材用として、引張強度TS:980MPa以上の高強度を有する薄鋼板への要望が高くなっている。また、建産機の構造部材用の鋼板は、高靭性であることや加工性に優れることも望まれている。
このような要望に対し、例えば、特許文献1には、質量%でC:0.05〜0.15%、Si:1.50%以下、Mn:0.70〜2.50%、Ni:0.25〜1.5%、Ti:0.12〜0.30%、B:0.0005〜0.0015%を含み、さらにP、S、Al、Nを適正量に調整して含む鋼スラブを、1250℃以上に加熱し、熱延仕上温度Ar変態点〜950℃で全仕上圧下率80%以上で熱間圧延し、800〜500℃の範囲の冷却速度を30〜80℃/sで冷却し500℃以下で巻取る、加工性および溶接性の良い高強度熱延鋼板の製造方法が提案されている。特許文献1に記載された技術によれば、降伏点890MPa以上、引張強さ950MPa以上を有し、曲げ加工性、溶接性に優れた高強度熱延鋼板を製造できるとしている。
また、特許文献2には、質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.60%以下、Mn:0.10〜2.50%、sol.Al:0.004〜0.10%、Ti:0.04〜0.30%、B:0.0005〜0.0015%を含む連続鋳造スラブを、少なくとも1100℃から、TiCの溶体化温度以上1400℃以下の加熱温度までの温度領域を150℃/h以上の昇温速度で加熱し、加熱温度での保定時間を5〜30minとし、その後熱間圧延する、高強度熱延鋼板の製造方法が提案されている。特許文献2に記載された技術では、微量のTiを析出硬化元素とし、微量の固溶Bをオーステナイト(γ)安定化元素として利用し、冷却時の変態温度を低下させ、変態後のフェライト組織を微細化することにより、引張強さ1020MPa程度の高強度と破面選移温度vTrs:−70℃程度の高靭性とを有する熱延鋼板が得られるとしている。
また、特許文献3には、質量%で、C:0.05〜0.15%、Si:1.50%以下、Mn:0.70〜2.50%、Ni:0.25〜1.5%、Ti:0.12〜0.30%、B:0.0005〜0.0030%を含み、さらにP、S、Al、Nを適正量に調整して含む鋼スラブを、1250℃以上に加熱し、Ar変態点〜950℃で全仕上げ圧下率80%以上で熱間圧延し、800〜200℃の範囲を冷却速度20℃/s以上30℃/s未満で冷却し、200℃以下で巻取り、0.2〜5.0%の加工歪を付与し、100〜400℃の範囲の温度で適正時間保持する熱処理を施し、加工性および溶接性の良い高強度熟延鋼板の製造方法が提案されている。特許文献3に記載された技術によれば、降伏点890N/mm以上、引張強さ950N/mm以上の高強度熱延鋼板を容易に製造することができるとしている。
また、特許文献4には、wt%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.05〜0.50%、Mn:1.0〜3.5%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Nb:0.005〜0.30%、Ti:0.001〜0.100%、Cr:0.01〜1.0%、Al:0.1%以下を含有する組成からなり、かつSi、P、Cr、Ti、Nb、Mnを特定の関係を満たして含有する鋼スラブを鋳造後、直ちに又は一旦冷却し、1100〜1300℃に加熱したのち、仕上げ圧延終了温度950〜800℃にて熱間圧延し、圧延終了後0.5秒以内に冷却を開始して、30℃/s以上の冷却速度で冷却を行い、500〜300℃で巻取る、加工性に優れた超高強度熱延鋼板の製造方法が記載されている。これにより、金属組織が体積分率で60〜90%未満のベイナイトを主相とし、パーライト、フェライト、残留オーステナイト、マルテンサイトのうちの少なくとも1種を第2相とする組織で、しかもベイナイト相の平均粒径が4μm未満である、加工性に優れ、引張強さが980MPa以上でありながら、伸びフランジ成形性と強度延性バランスがともに優れ、かつ低降伏比をも具えた、超高強度熱延鋼板が得られるとしている。
また、特許文献5には、質量%で、C:0.10〜0.25%、Si:1.5%以下、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.005%以下、Al:0.01〜0.5%、N:0.010%以下、V:0.10〜1.0%を含み、(10Mn+V)/Cが50以上を満足するように含有する組成の鋼スラブを、1000℃以上に加熟後、粗圧延によリシートバーとし、ついで仕上げ圧延出側温度:800℃以上の条件で仕上げ圧延を施したのち、仕上げ圧延完了後3秒以内に、平均冷却速度:20℃/s以上の冷却速度で、400〜600℃の温度範囲で、かつ11000−3000[%V]≦24×Ta≦15000−1000[%V]を満足するTa℃まで冷却して巻取る、高強度熱延綱板の製造方法が記載されている。これにより、焼戻しマルテンサイト相の体積率が80%以上で、粒径:20nm以下のVを含む炭化物が1000個/μm以上析出し、かつ該粒径:20nm以下のVを含む炭化物の平均粒径が10nm以下である組織を有し、引張強さが980MPa以上で、強度と延性のバランスに優れた高強度熱延鋼板が得られるとしている。
また、特許文献6には、質量%で、C:0.08〜0.25%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.8〜1.5%、P:0.025%以下、S:0.005%以下、Al:0.005〜0.10%、Nb:0.001〜0.05%、Ti:0.001〜0.05%、Mo:0.1〜1.0%、Cr:0.1〜1.0%を含み、さらに、B:0.0005〜0.0050%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材を1100〜1250℃の温度に加熱し、仕上げ圧延入側温度FETを900〜1100℃の範囲の温度とし、仕上げ圧延出側温度FDTを800〜900℃の範囲の温度とし、再結晶オーステナイト域での累積圧下率を60%以上90%以下とする仕上圧延を施し、熱間圧延終了後、直ちに冷却を開始し、750〜500℃の温度範囲を、板厚中心部での冷却速度CRでマルテンサイト生成臨界冷却速度以上の冷却速度で、冷却開始から30s以内に(Ms点+50℃)以下の冷却停止温度まで冷却し、該冷却停止温度±100℃の温度範囲で10〜60s間保持し、冷却停止温度±100℃の範囲の温度で巻き取る低温靭性に優れる高強度熱延鋼板の製造方法が記載されている。これにより、マルテンサイト相または焼戻マルテンサイト相を主相とし、圧延方向断面における旧オーステナイト粒のアスペクト比が3〜18である組織を有する、降伏強さYS:960MPa以上の低温靭性に優れた高強度熱延鋼板が得られるとしている。
特開平05−230529号公報 特開平05−345917号公報 特開平07−138638号公報 特開2000−282175号公報 特開2006−183141号公報 特開2011−052321号公報
しかしながら、特許文献1〜5に記載された技術では、所望の形状が安定して得られにくい。加えて、特許文献1〜5に記載された技術では、引張強度TS:980MPa以上(例えば980MPa級や1180MPa級)の高強度と、試験温度−40℃でのシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーvE−40が40J以上の高靭性と、さらに良好な打抜き性および打抜き曲げ疲労強度特性(打抜き加工した後の曲げ加工に対する疲労強度特性)を兼備した鋼板を容易に製造することが難しいという問題があった。また、特許文献6に記載された技術では、高価なMoを含有する必要があり、製造コストが高騰するという問題があった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、高靭性で打抜き性および打抜き曲げ疲労強度特性に優れ、安定して且つ安価に製造することができる高強度熱延鋼板、および、その製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、引張強度TS:980MPa以上の高強度を有する熱延鋼板の強度、靭性、打抜き性、打抜き曲げ疲労強度特性に影響を及ぼす各種要因について、鋭意研究した。その結果、Moを含有しない成分組成において、Bを必須含有させ、さらにC、Si、Mn、P、S、Al、N、Nb、Ti、Crをそれぞれ適正範囲に調整した所定の成分組成を有し、鋼組織を、マルテンサイト相および焼戻マルテンサイト相の少なくとも一方を主相とし、該主相の組織全体に対する面積率が95%以上であり、マルテンサイト相および/または焼戻マルテンサイト相のラス内に平均粒径が0.5μm以下のセメンタイトを含有し、且つ、セメンタイトが質量%で0.01〜0.08%である鋼組織を有する熱延鋼板は、高強度であるにもかかわらず、高靭性で、打抜き性および打抜き曲げ疲労強度特性に優れることを知見した。
さらに、上記した鋼組織を有する熱延鋼板は、上記所定の成分組成を有する鋼素材に対して、熱間圧延する鋼素材の温度を1100℃以上1250℃以下とし、仕上圧延において仕上圧延出側温度が800℃以上900℃以下で930℃未満の温度域での累積圧下率を20〜90%とし、さらに熱間圧延終了後直ちに冷却を開始し熱間圧延後の冷却を750℃以下500℃以上の温度域での平均冷却速度が100℃/s以上且つ500℃未満400℃以上の温度域での平均冷却速度が20℃/s以上で冷却停止温度:300℃以下まで冷却する処理とし、次いで巻取り温度:300℃以下で巻き取ることにより、安定して且つ安価に得られることを見出した。
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎの通りである。
[1] 質量%で、
C :0.05〜0.14%、 Si:0.01〜1.0%、
Mn:0.50〜2.0%、 P :0.025%以下、
S :0.005%以下、 Al:0.005〜0.10%、
N :0.002〜0.006%、 Nb:0.001〜0.05%、
Ti:0.001〜0.05%、 Cr:0.01〜1.0%、
B :0.0005〜0.0050%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
鋼組織が、マルテンサイト相および焼戻マルテンサイト相の少なくとも一方からなり鋼組織全体に対する面積率が95%以上である主相を有し、マルテンサイト相および/または焼戻マルテンサイト相のラス内に平均粒径が0.5μm以下のセメンタイトを含有し、セメンタイトの含有量が質量%で0.01〜0.08%であることを特徴とする高強度熱延鋼板。
[2] 前記成分組成に加えてさらに、質量%でV:0.001〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%およびMo:0.01〜0.50%から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする上記[1]に記載の高強度熱延鋼板。
[3] 前記成分組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%を含有することを特徴とする上記[1]または[2]に記載の高強度熱延鋼板。
[4] 鋼素材に、1100℃以上1250℃以下である鋼素材を粗圧延と仕上圧延とからなる熱間圧延を施す熱延工程と、冷却工程と、巻取工程を順次施し、熱延鋼板とするにあたり、
前記鋼素材を、質量%で、
C :0.05〜0.14%、 Si:0.01〜1.0%、
Mn:0.50〜2.0%、 P :0.025%以下、
S :0.005%以下、 Al:0.005〜0.10%、
N:0.002〜0.006%、 Nb:0.001〜0.05%、
Ti:0.001〜0.05%、 Cr:0.01〜1.0%、
B :0.0005〜0.0050%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材とし、
前記熱延工程の仕上圧延は、仕上圧延出側温度が800℃以上900℃以下であり、930℃未満の温度域での累積圧下率が20〜90%であり、
前記冷却工程は、熱間圧延終了後、直ちに冷却を開始し、750℃以下500℃以上の温度域での平均冷却速度が100℃/s以上且つ500℃未満400℃以上の温度域での平均冷却速度が20℃/s以上で、冷却停止温度:300℃以下まで冷却する工程であり、
前記巻取工程は、巻取温度:300℃以下でコイル状に巻き取る工程であることを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
[5] 前記鋼素材が、前記成分組成に加えてさらに、質量%で、V:0.001〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%およびMo:0.01〜0.50%から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする上記[4]に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
[6] 前記鋼素材が、前記成分組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%を含有することを特徴とする[4]または[5]に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
本発明によれば、高価な合金元素であるMoを含有しなくても、高靭性で、打抜き性および打抜き曲げ疲労強度特性に優れる高強度熱延鋼板、具体的には、引張強度TS:980MPa以上の高強度と、試験温度−40℃でのシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーvE−40が40J以上の高靭性とを有し、さらに打抜き性および打抜き曲げ疲労強度特性にも優れる高強度熱延鋼板を提供することができる。本発明の高強度熱延鋼板は、このように高強度、高靭性で、打抜き性および打抜き曲げ疲労強度特性にも優れ、また、例えば板厚を3mm以上12mm以下程度にすることができるため、トラックフレーム等の、建設用機械や産業用機械の構造部材用として好適であり、建設用機械や産業用機械の車体重量の軽減に大きく寄与することができる。また、このような高強度熱延鋼板は、本発明の高強度鋼板の製造方法によって、安定して且つ安価に製造することができる。したがって、産業上格段の効果を奏する。
本発明の高強度熱延鋼板は、質量%で、C :0.05〜0.14%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.50〜2.0%、P:0.025%以下、S :0.005%以下、Al:0.005〜0.10%、N:0.002〜0.006%、Nb:0.001〜0.05%、Ti:0.001〜0.05%、Cr:0.01〜1.0%、B:0.0005〜0.0050%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、鋼組織が、マルテンサイト相および焼戻マルテンサイト相の少なくとも一方からなり鋼組織全体に対する面積率が95%以上である主相を有し、マルテンサイト相および/または焼戻マルテンサイト相のラス内に平均粒径が0.5μm以下のセメンタイトを含有し、セメンタイトの含有量が質量%で0.01〜0.08%であることを特徴とするものである。なお、「熱延鋼板」には、熱延鋼板、熱延鋼帯を含むものとする。また、本明細書において、「高強度」とは、引張強度TSが980MPa以上である場合を言う。「高靭性」とは、試験温度−40℃でのシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーvE−40が40J以上である場合を言う。
まず、本発明の高強度熱延鋼板の成分組成について説明する。なお、とくに断らないかぎり、質量%は単に%と記す。
C:0.05〜0.14%
Cは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、本発明では所望の高強度を得るために、0.05%以上含有することが必要である。一方、0.14%を超えて過剰に含有すると、溶接性を低下させるとともに、母材靭性を低下させ、また、セメンタイト析出量増加に伴い、打抜き性が低下してしまう。このため、Cの含有量は0.05〜0.14%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.06〜0.12%である。
Si:0.01〜1.0%
Siは、固溶強化、焼入れ性を向上させて、鋼の強度を増加させる作用を有する。このような効果はSiを0.01%以上含有することで認められる。一方、Siを1.0%を超えて多量に含有させると、Cをオーステナイト(γ)相に濃化させ、オーステナイト相を安定化させて鋼組織の複合化を促進させる。このため、強度が低下する。また、Siを1.0%を超えて多量に含有させると、溶接部にSiを含む酸化物を形成し、溶接部品質を低下させる。このため、本発明では、Siの含有量は0.01〜1.0%の範囲に限定した。なお、組織の複合化を抑制する観点から、Siの含有量は0.8%以下とすることが好ましい。
Mn:0.50〜2.0%
Mnは、焼入性を向上させることによって、鋼板の強度を増加させる作用を有する。また、Mnは、MnSを形成してSを固定することにより、Sの粒界偏析を防止してスラブ(鋼素材)割れを抑制する。このような効果を得るためには、Mnは0.50%以上含有させることが必要である。一方、Mnが2.0%を超えると、スラブ鋳造時の凝固偏析を助長させる。また、鋼板にMn濃化部を残存させて、セパレーションの発生を増加させる。このようなMn濃化部を消失させるには、スラブを1300℃を超える温度に加熱する必要があり、このような熱処理を工業的規模で実施することは現実的でない。このため、Mnの含有量は0.50〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.1〜1.8%である。
P:0.025%以下
Pは、鋼中に不純物として不可避的に含まれるが、鋼の強度を上昇させる作用を有する。しかし、Pが0.025%を超えて過剰に含有すると溶接性が低下する。このため、Pの含有量は0.025%以下に限定した。なお、好ましくは0.015%以下である。
S:0.005%以下
Sは、Pと同様に、鋼中に不純物として不可避的に含まれるが、Sが0.005%を超えると、スラブ割れが生起するとともに、熱延鋼板中に粗大なMnSが形成され、延性の低下が生じる。このため、Sの含有量は0.005%以下に限定した。なお、好ましくは0.004%以下である。
Al:0.005〜0.10%
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには、Alを0.005%以上含有させることが必要となる。一方、Alが0.10%を超えると、溶接部の清浄性が著しく低下する。このため、Alの含有量は0.005〜0.10%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.05%以下である。
N:0.002〜0.006%
Nは、Ti等と窒化物を形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制し鋼板の低温靭性の向上に貢献する。鋼板中に微細に析出した窒化物は、オーステナイト粒界をピンニングし、オーステナイト粒の粗大化を抑制する。このような効果を得るためには、Nは0.002%以上含有する必要がある。一方、Nを0.006%を超えて過剰に含有すると、Tiなどと粗大な窒化物を形成して鋼板の低温靭性を低下させる。このため、Nの含有量は0.002〜0.006%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.004%以下である。
Nb:0.001〜0.05%
Nbは、炭窒化物として鋼板中に微細析出することにより、溶接性を損なうことなく、少ない含有量で熱延鋼板を高強度化する作用を有する。また、オーステナイト粒の粗大化、再結晶を抑制する作用をも有する元素であり、熱間仕上圧延におけるオーステナイト未再結晶温度域圧延を可能にする。このような効果を得るために、Nbは0.001%以上含有する必要がある。一方、Nbを0.05%を超えて多量に含有すると、熱間仕上圧延中の圧延荷重の増大をもたらし、熱間圧延が困難となる場合がある。このため、Nbの含有量は0.001〜0.05%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.04%である。
Ti:0.001〜0.05%
Tiは、炭化物として鋼板中に微細析出することにより、鋼板を高強度化し、また、窒化物を形成することでNを固定し、スラブ割れを防止するとともに、オーステナイト粒の粗大化を抑制する作用を有する。このような効果は、Tiを0.001%以上含有することで顕著になる。一方、Tiを0.05%を超えて多量に含有すると、析出強化により降伏点が著しく上昇し、靭性が低下する。また、Ti炭窒化物の溶体化に、1250℃超という高温加熱を必要とし、旧オーステナイト粒の粗大化を招き、所望の旧オーステナイト粒の微細化が困難となる。このため、Tiの含有量は0.001〜0.05%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.03%である。
Cr:0.01〜1.0%
Crは、焼入性を向上させ、鋼板強度を増加させる作用を有する元素である。このような効果を得るためには、Crを0.01%以上含有させる必要がある。一方、Crを1.0%を超えて含有すると、溶接性が低下する。このため、Crの含有量は0.01〜1.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.1〜0.6%である。
B:0.0005〜0.0050%
Bは、オーステナイト粒界に偏析し、少ない含有量でも焼入れ性を顕著に向上させ、鋼の強度を高くする作用を有する元素である。このような効果を得るために、0.0005%以上含有する必要がある。一方、0.0050%を超えてBを含有させても、効果が飽和するため、含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となる。このため、Bの含有量は0.0005〜0.0050%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.0005〜0.0030%である。
上記した成分が基本の成分であるが、基本の組成に加えて、さらに必要に応じて、選択元素として、V:0.001〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%およびMo:0.01〜0.50%から選択される1種または2種以上、および/または、Ca:0.0005〜0.0050%を含有することができる。
V:0.001〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%およびMo:0.01〜0.50%から選択される1種または2種以上
V、Cu、Ni、Moは、いずれも鋼板の強度増加に寄与する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上含有することができる。
Vは、鋼中に固溶することにより鋼板の強度増加に寄与するとともに、炭化物、窒化物あるいは炭窒化物として鋼板中に析出して、析出強化により強度増加に寄与する元索である。このような効果を得るためには、Vは0.001%以上含有させることが好ましい。一方、0.50%を超えて含有すると、靭性が低下する。このため、含有させる場合には、Vの含有量は0.001〜0.50%の範囲に限定することが好ましい。
Cuは、鋼中に固溶して強度増加に寄与するとともに、耐食性をも向上させる元素である。このような効果を得るためには、Cuは0.01%以上含有させることが好ましい。一方、0.50%を超えて含有すると、鋼板の表面性状が劣化する。このため、含有させる場合には、Cuの含有量は0.01〜0.50%の範囲に限定することが好ましい。
Niは、鋼中に固溶して強度増加に寄与するとともに、靭性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、Niを0.01%以上含有させることが好ましい。一方、0.50%を超えて含有すると、材料コストの高騰を招く。このため、含有させる場合には、Niの含有量は0.01〜0.50%の範囲に限定することが好ましい。
Moは、鋼中に固溶して強度増加に寄与するとともに、靭性を向上させる元素である。本発明の高強度熱延鋼板は、Moを含有しなくても所望の特性を満足することができ、Moを含有しない成分組成とすることにより安価にすることができるが、必要に応じてMoを含有させることもできる。Moを含有させる場合は、材料コストの高騰等を考慮すると、Moの含有量は、0.01〜0.50%の範囲に限定することが好ましい。
Ca:0.0005〜0.0050%
Caは、SをCaSとして固定し、硫化物系介在物を球状化し、介在物の形態を制御する作用を有する。さらに、介在物の周囲のマトリックスの格子歪を小さくし、水素のトラップ能を低下させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、Caを0.0005%以上含有させることが望ましい。一方、0.0050%を超えて含有すると、CaOの増加を招き、耐食性、靭性が低下する。このため、含有させる場合には、Caの含有量は0.0005〜0.0050%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.0005〜0.0030%である。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、O(酸素):0.005%以下、Mg:0.003%以下、Sn:0.005%以下が許容できる。
O(酸素)は、鋼中では各種の酸化物として存在し、熱間加工性、耐食性、靭性等を低下させる原因となる。このため、本発明ではO(酸素)含有量をできるだけ低減させることが望ましいが、0.005%までは許容できる。このため、O(酸素)の含有量は0.005%以下とすることが望ましい。
Mgは、Caと同様に酸化物、硫化物を形成し、粗大なMnSの形成を抑制する作用を有するが、Mg含有量が0.003%を超えると、Mg酸化物、Mg硫化物のクラスターが数多く発生し、靭性の低下を招く。このため、Mgの含有量は0.003%以下とすることが望ましい。
Snは、製鋼原料として使用されるスクラップ等から混入する。Snは粒界等に偏析しやすい元素であり、Snの含有量が0.005%を超えると、粒界強度が低下し靭性の低下を招く。このため、Snの含有量は0.005%以下とすることが望ましい。
そして、本発明の高強度熱延鋼板は、上記した成分組成を有し、且つ、鋼組織は、マルテンサイト相および焼戻マルテンサイト相の少なくとも一方からなり鋼組織全体に対する面積率が95%以上である主相を有し、マルテンサイト相および/または焼戻マルテンサイト相のラス内に平均粒径が0.5μm以下のセメンタイトを含有し、セメンタイトの含有量が質量%で0.01〜0.08%である。以下に、鋼組織について、説明する。
本発明の高強度熱延鋼板は、マルテンサイト相および焼戻マルテンサイト相の少なくとも一方からなる主相を有する鋼組織である。なお、「マルテンサイト相」は、焼戻されていない、転位密度が高いマルテンサイト相をいうものとする。そして、マルテンサイト相および焼戻マルテンサイト相の少なくとも一方からなる主相の鋼組織に対する面積率は、95%以上であり、該面積率は、好ましくは97%以上である。鋼組織に対する面積率が95%以上である主相をマルテンサイト相および焼戻マルテンサイト相の少なくとも一方とすることにより、所望の高強度を得ることができる。なお、本発明の熱延鋼板の鋼組織を構成する主相は、マルテンサイト相でも、焼戻マルテンサイト相でも、マルテンサイト相と焼戻マルテンサイト相との混合相でもよい。すなわち、マルテンサイト相の鋼組織に対する面積率が95%以上、または、焼戻マルテンサイト相の鋼組織に対する面積率が95%以上でもよく、また、鋼組織に対するマルテンサイト相の面積率および鋼組織に対する焼戻マルテンサイト相の面積率の合計が95%以上でもよい。主相以外の第二相は、ベイナイト相、フェライト相およびパーライト相から選択される少なくとも1種からなるものとする。第二相の鋼組織に対する面積率が高くなると、強度が低下し、所望の高強度を得ることができなくなる。このため、第二相の面積率は5%以下、好ましくは3%以下である。
また、本発明の高強度熱延鋼板の鋼組織は、マルテンサイト相および/または焼戻マルテンサイト相のラス内に平均粒径が0.5μm以下のセメンタイトを含有した鋼組織である。すなわち、本発明の高強度熱延鋼板の鋼組織においては、主相を構成するマルテンサイト相および/または焼戻マルテンサイト相内にセメンタイトが含有されており、このマルテンサイト相のラス内および/または焼戻マルテンサイト相のラス内に含有されたセメンタイトは、平均粒径が0.5μm以下の微細なセメンタイトである。該平均粒径が0.5μmより大きいと、靭性等が低下してしまう。
また、本発明の高強度熱延鋼板の鋼組織は、セメンタイトの含有量が質量%で0.01〜0.08%である鋼組織である。セメンタイト含有量が0.01%未満では打抜き性が悪く、端面粗さが劣化してしまう。また、セメンタイト含有量が0.08%を超えるとボイドサイズが増大し、打抜き性、打抜き曲げ疲労強度特性、靭性が劣化してしまう。なお、セメンタイトは、マルテンサイト相のラス内および焼戻マルテンサイトのラス内以外の領域に存在していても存在していなくてもよく、上記質量%で0.01〜0.08%と規定したセメンタイトの含有量は、鋼組織全体に対する含有量である。
上記所定の成分組成を有し且つ上記所定の鋼組織を有する熱延鋼板とすることにより、本発明の高強度熱延鋼板は、高靭性で、打抜き性および打抜き曲げ疲労強度特性に優れる。具体的には、本発明の高強度熱延鋼板は、引張強度TS:980MPa以上、さらには引張強度TS:1180MPa以上の高強度と、試験温度−40℃でのシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーvE−40が40J以上の高靭性とを有し、さらに打抜き性および打抜き曲げ疲労強度特性にも優れる。そして、本発明の高強度熱延鋼板は、降伏強度YSが980MPa以上とすることができる。また、本発明の高強度熱延鋼板は、伸びEl:12%以上の高延性を有するものとすることもできる。さらには、本発明の高強度熱延鋼板は、曲げ特性(最小曲げ半径/板厚)や、耐遅れ破壊性にも優れたものとすることができる。
本発明の高強度熱延鋼板の板厚は特に限定されないが、例えば板厚は3mm以上12mm以下である。3mm以上12mm以下であると、特にトラックフレーム等の建設用機械や産業用機械の構造部材用として好適である。
本発明の高強度熱延鋼板は、このように高強度、高靭性で、打抜き性および打抜き曲げ疲労強度特性にも優れ、また、例えば板厚を3mm以上12mm以下程度にすることができるため、トラックフレーム等の、建設用機械や産業用機械の構造部材用として好適であり、建設用機械や産業用機械の車体重量、特に大型の建設用機械や産業用機械の車体重量の軽減に大きく寄与することができる。
次に、上記本発明の高強度熱延鋼板の製造方法について説明する。
本発明の高強度熱延鋼板の製造方法は、鋼素材に、1100℃以上1250℃以下である鋼素材を粗圧延と仕上圧延とからなる熱間圧延を施す熱延工程と、冷却工程と、巻取工程を順次施し、熱延鋼板とするにあたり、前記鋼素材を、上記した成分組成を有する鋼素材とし、熱延工程の仕上圧延は、仕上圧延出側温度が800℃以上900℃以下であり、930℃未満の温度域での累積圧下率が20〜90%であり、冷却工程は、熱間圧延終了後、直ちに冷却を開始し、750℃以下500℃以上の温度域での平均冷却速度が100℃/s以上且つ500℃未満400℃以上の温度域での平均冷却速度が20℃/s以上で、冷却停止温度:300℃以下まで冷却する工程であり、巻取工程は、巻取温度:300℃以下でコイル状に巻き取る工程であることを特徴とする。以下、各工程について、詳細に説明する。以下の製造方法の説明において、温度は特に断らない限り鋼素材、シートバー、熱延板や鋼板等の表面温度とする。該表面温度は、放射温度計等で測定することができる。また、平均冷却速度は特に断らない限り((平均冷却速度を求める温度域での冷却開始時の温度−平均冷却速度を求める温度域での冷却終了時の温度)/平均冷却速度を求める温度域での冷却時間)とする。
上記した成分組成を有する鋼素材の製造方法はとくに限定されないが、上記した成分組成の溶鋼を転炉等の常用の方法で溶製し、連続鋳造法、造塊−分塊法等の常用の鋳造方法でスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。
まず、熱間圧延を施す1100℃以上1250℃以下の鋼素材を準備する。具体的には、例えば、鋼素材を加熱する加熱工程を実施する。
加熱工程では、上記した成分組成の鋼素材を1100℃以上1250℃以下の温度に加熱する。温度が1100℃未満の場合、熱間圧延での変形抵抗が高く圧延負荷が増大し、圧延機への負荷が大きくなる。一方、温度が1250℃を超えて高温になると、結晶粒が粗大化して、得られる熱延鋼板の低温靭性が低下するうえ、スケール生成量が増大し、歩留りが低下する。このため、鋼素材の温度を1100℃以上1250℃以下の範囲の温度に限定した。なお、好ましくは1240℃以下である。
なお、溶鋼を転炉等の常用の方法で溶製し、連続鋳造法、造塊−分塊法等の常用の鋳造方法で得た鋼素材を、加熱工程を行なうことなく1100℃以上1250℃以下にしたものを、熱間圧延を施す鋼素材としてもよい。
ついで、1100℃以上1250℃以下である鋼素材に粗圧延と仕上圧延とからなる熱間圧延を施す熱延工程を実施する。
粗圧延は、鋼素材を所望の寸法形状のシートバーとするとともに、仕上圧延における930℃未満の温度域での累積圧下率を所望の範囲内に調整しやすくするため、粗圧延出側温度(粗圧延終了温度)RDTを900℃以上1100℃以下の範囲の温度とすることが好ましい。
粗圧延出側温度が900℃未満の場合、粗圧延に続く仕上圧延で、930℃未満の温度域での累積圧下率を所望の範囲内に調整することが困難となる場合がある。また、粗圧延出側温度が1100℃を超えて高温となると、粗圧延に続く仕上圧延で、930℃未満の温度域での累積圧下率を所望の範囲内に調整することが困難となる場合がある。
また、粗圧延に続く仕上圧延は、粗圧延で得られたシートバーを熱延板とする。仕上圧延では、仕上圧延出側温度(仕上圧延終了温度)FDTが800℃以上900℃以下であり、930℃未満の温度域での累積圧下率が20〜90%である。仕上圧延入側温度(仕上圧延開始温度)FETは特に限定されないが、900℃以上1100℃以下であることが好ましい、なお、930℃未満の温度域での累積圧下率は、下記式で求める
930℃未満の温度域での累積圧下率(%)={(930℃未満の温度域における仕上圧延開始時の板厚)−(930℃未満の温度域における仕上圧延終了時の板厚)}×100/(930℃未満の温度域における仕上圧延開始時の板厚)
930℃以上の温度域は、本発明で用いる鋼素材の成分組成においては、ほぼ再結晶オーステナイト域に相当する。再結晶オーステナイト域においては、圧延によってオーステナイト結晶粒は圧延方向に伸展され、さらに結晶粒界およびオーステナイト結晶粒内に生ずる変形帯を核にして発生する再結晶によって、オーステナイト結晶粒は微細になる。しかし、930℃以上の温度域においては、結晶粒の成長速度も大きいため圧延再結晶による結晶粒の微細化には限界がある。一方、930℃未満の温度域は、本発明で用いる鋼素材の成分組成においては、ほぼ部分再結晶あるいは未再結晶オーステナイト域に相当する。この930℃未満の温度域では再結晶は起こりにくいが、結晶粒の成長速度も小さいため、この930℃未満の温度域での圧延によって、オーステナイト結晶粒は圧延方向に伸展されるとともに微細になる。
仕上圧延入側温度が900℃未満の場合、仕上圧延のうち上流側(前段スタンド)での930℃以上の温度域での圧下率が減少し、旧オーステナイト粒の微細化が困難になる場合がある。このため、曲げ加工性の低下を招く場合がある。一方、仕上圧延の入側温度が1100℃を超えると、仕上圧延出側温度を800℃以上900℃以下とすることが困難となる場合がある。
また、仕上圧延出側温度が800℃未満の場合、熱延板の表層温度がAr変態点未満となる場合があり、板厚方向の鋼組織が不均一となり靭性が低下する。一方、仕上圧延出側温度が900℃を超えて高温となると、靭性の劣化を招く。
なお、特に熱延鋼板の板厚が厚い場合には、粗圧延終了後仕上圧延前のシートバーに加速冷却を施すか、あるいはテーブル上でオシレーションなどを行って仕上圧延入側温度を調整することが好ましい。一方、熱延鋼板の板厚が薄い場合には、粗圧延終了後、バーヒーター等を用いるなどして、仕上圧延時の温度降下を緩和させてもよい。
また、仕上圧延は、上記した圧延温度条件でかつ、930℃未満の温度域での累積圧下率が20〜90%となる圧延とする。930℃未満の温度域での累積圧下率が20%未満では、旧オーステナイト粒の平均粒径が粗大化するため、所望の靭性を得ることが困難となる。一方、930℃未満の温度域での累積圧下率が90%超となると、曲げ加工性が低下する。
熱間圧延終了後、直ちに、例えばホットランテーブル上に設置された冷却装置で、冷却を開始し、板厚中心温度で、750℃以下500℃以上の温度域での平均冷却速度が100℃/s以上且つ500℃未満400℃以上の温度域での平均冷却速度が20℃/s以上で、冷却停止温度:300℃以下まで冷却する工程である、冷却工程を実施する。
熱間圧延終了後、直ちに冷却を開始することが必要である。具体的には、仕上圧延最終スタンドを出てから冷却を開始するまでの時間を、5s(秒)以内とすることが好ましい。冷却開始までの滞留時間が長くなると、マルテンサイト形成臨界時間を超過する恐れがある。また、冷却を、鋼板表面の温度が750℃以上であるうちに開始することが望ましい。板厚表面の温度が750℃未満となると、高温変態フェライト(ポリゴナルフェライト)あるいはベイナイトが形成され、所望の鋼組織を形成できなくなる場合がある。
また、750℃以下500℃以上の温度域での平均冷却速度が100℃/s未満では、所望の鋼組織が得られなくなる。このため、冷却工程において、750℃以下500℃以上の温度域での平均冷却速度を100℃/s以上とする。なお、750℃以下500℃以上の温度域での平均冷却速度の上限は、使用する冷却装置の能力に依存して決定されるが、反り等の鋼板形状の悪化を伴わない平均冷却速度である、250℃/s以下とすることが好ましく、より好ましくは100℃/s以上200℃/s以下である。
また、500℃未満400℃以上の温度域での平均冷却速度が20℃/s未満では、マルテンサイトや焼戻マルテンサイトの面積率の低下、セメンタイトの含有量の増加や、セメンタイトの粗大化を招くため、500℃未満400℃以上の温度域での平均冷却速度を20℃/s以上とする。500℃未満400℃以上の温度域での平均冷却速度は、例えば50℃/s以下とすることができる。なお、750〜400℃の温度域での冷却を2段階で行なう、すなわち、750℃以下500℃以上の温度域と500℃未満400℃以上の温度域とを異なる平均冷却速度で行なうことが好ましい。例えば、板厚中心温度で、750℃以下500℃以上の温度域での平均冷却速度と400〜500℃の温度域での平均冷却速度との差を20℃/s以上とすることが好ましい。
また、冷却停止温度が、鋼板表面温度で、300℃超えの場合は、マルテンサイト相および焼戻マルテンサイト相の少なくとも一方からなり鋼組織全体に対する面積率が95%以上である主相を有する所望の組織が得られなくなる。このため、冷却停止温度は、鋼板表面温度で、300℃以下である。なお、より好ましい冷却停止温度は、鋼板表面温度で、100℃以上250℃以下である。
冷却工程を終了したのち、ついで巻取温度:300℃以下でコイル状に巻き取る巻取工程を実施し、熱延鋼板とする。巻取温度は鋼板表面の温度である。このような巻取工程を実施することにより、生成したマルテンサイト相が焼戻され、ラス内に微細なセメンタイトが析出する。これにより、引張強度が上昇し、かつ靭性が向上する。また、降伏強度が上昇し、水素のトラップサイトとなる粗大なセメンタイトの旧オーステナイト粒界やラス界面等への生成を防止し、遅れ破壊を防止することができるようにもなる。
巻取温度が300℃を超えて高温となると、焼戻効果が過剰となり、セメンタイトが粗大化して所望の靭性が得られず、また遅れ破壊が生起しやすくなる。
なお、巻取温度の調整手段としては、誘導加熱等の手段を用いることもできる。なお、ホットランテーブル上でのマルテンサイト変態発熱を利用し、ホットランテーブル上に複数箇所設置した表面温度計を参照して、水冷バンクの水量ないし水圧を調整することにより行うこともできる。
このようにして製造された熱延鋼板は、引張強度TS:980MPa以上、さらには引張強度TS:1180MPa以上の高強度と、試験温度−40℃でのシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーvE−40が40J以上の高靭性とを有し、さらに打抜き性および打抜き曲げ疲労強度特性にも優れる。そして、該熱延鋼板は、降伏強度YSを980MPa以上とすることができる。また、伸びEl:12%以上の高延性を有するものとすることもできる。さらには、曲げ特性(最小曲げ半径/板厚)や、耐遅れ破壊性にも優れたものとすることができる。
以下に、実施例を用いて説明するが、実施例はなんら本発明を限定するものではない。
表1に示す組成のスラブ(鋼素材)(肉厚:230mm)を用いて、表2に示す加熱工程、熱延工程を施し、熱間圧延終了後、表2に示す条件の冷却工程と、表2に示す巻取温度で巻き取る巻取工程とを順次施し、表2に示す板厚の熱延鋼板(鋼帯)を得た。
なお、表1に併記した各鋼のマルテンサイト変態開始温度Ms点は、次のような方法で決定した値である。各鋼(鋼板)から円柱状試験片を採取し、該試験片を1200℃に加熱し、300s間保持したのち、20℃/sの冷却速度で1000℃まで冷却し、該温度で1/sの歪速度で30%の圧下を加え、ついで1000℃で60s間保持する処理を行った。該処理後、引続き20℃/sの冷却速度で800℃まで冷却し、該温度で1/sの歪速度で50%の圧下を加え、ついで10〜50℃/sの冷却速度で150℃まで連続冷却した。連続冷却中、試験片の熱膨張変化を測定した。また、冷却後、各試験片の組織観察、硬さ(ビッカース硬さ)測定を行い、熱膨張測定、組織観察および硬さ測定結果からMs点を決定した。
さらに、得られた熱延鋼板から試験片を採取し、組織観察、引張試験、衝撃試験、曲げ試験、遅れ破壊試験、打抜き性評価試験、打抜き曲げ疲労強度特性評価試験を実施した。試験方法は次の通りとした。
(1)組織観察
得られた熱延鋼板から組織観察用試験片を採取し、圧延方向に平行な断面(L断面)、および、圧延方向に垂直な断面(幅方向断面、C断面)を研磨し、ナイタール液で腐食し、光学顕微鏡(倍率:500倍)で組織を観察した。観察位置は、L断面、C断面とも、鋼板表面から1/4tの位置とした。tは鋼板の厚さ(板厚)である。また、各観察位置で各2視野以上観察し、撮像して、画像解析装置を用いて、組織の種類を特定し、各相の鋼組織全体に対する面積率を測定した。なお、表2において、主相の面積率欄に、鋼組織全体に対するマルテンサイト面積率および鋼組織全体に対する焼戻マルテンサイトの面積率の合計値を記載した。また、第二相については、構成する相の種類と、該相の鋼組織全体に対する面積率とを順に記載した。
マルテンサイト相のラス内に析出したセメンタイトおよび焼戻マルテンサイト相のラス内に析出したセメンタイトについて、上記の、得られた熱延鋼板から組織観察用試験片を採取し、圧延方向に平行な断面(L断面)、および、圧延方向に垂直な断面(幅方向断面、C断面)を研磨しナイタール液で腐食したものを、観察位置を鋼板表面から1/4tの位置として、走査型電子顕微鏡(倍率:10000倍)で観察し、各セメンタイト粒の面積を測定し、円相当直径に換算した。得られた各セメンタイト粒の直径(円相当直径)を平均し、当該熱延鋼板のマルテンサイト相および/または焼戻マルテンサイト相のラス内に含有されたセメンタイトの平均粒径(表3において「ラス内平均粒径」と記載する。)とした。
また、得られた熱延鋼板から組織観察用試験片を採取し、抽出残さ分析により、FeCを抽出し、セメンタイトの含有量(質量%)を測定した。なお、電解液には、10%アセチルアセトン−1%塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)−メタノール(以下、AA系電解液)を使用し、電流密度20mA/cm2で定電流電解した。そして、ICP発光分光分析装置でFe量を測定してFeが全てFeCであると仮定してFeC析出量を算出した。
(2)引張試験
得られた熱延鋼板の所定の位置(コイル長手方向端部、幅方向1/4の位置)から、圧延方向に垂直な方向(C方向)が長手方向となるように、板状の試験片(平行部幅:25mm、標点間距離:50mm)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、室温で引張試験を実施し、降伏強度YS、引張強度TS、伸びElを求めた。
(3)衝撃試験
得られた熱延鋼板の所定の位置(コイル長手方向端部、幅方向1/4の位置)の板厚中心部から、圧延方向に垂直な方向(C方向)が長手方向となるようにVノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、試験温度:−40℃での吸収エネルギーvE−40(J)を求めた。なお、試験片は各3本とし、得られた吸収エネルギー値の算術平均をもとめ、その鋼板の吸収エネルギー値vE−40(J)とした。なお、板厚が10mm未満の鋼板については、板厚換算でフルサイズ試験片(10mm厚)における値(吸収エネルギー)に換算して示した。
(4)曲げ試験
得られた熱延鋼板の所定の位置(コイル長手方向端部、幅方向1/4の位置)から曲げ試験片(長辺側が圧延方向と直角方向となるように、短辺側が板厚の5倍以上となるようにした短柵状試験片)を採取し、180度曲げ試験を実施し、割れの発生しない最小曲げ半径(mm)を求め、最小曲げ半径/板厚で示した。最小曲げ半径/板厚が4.0以下である場合を曲げ加工性に優れると評価した。
(5)遅れ破壊試験
得られた熱延鋼板から、圧延方向に垂直な方向(C方向)が長手方向となるように、丸棒引張試験片(GL.25mm)を採取し、陰極水素チャージをしたのち、電気亜鉛めっきを施し、鋼中に水素を封じ込めた試験片Aとした。このような処理を施さない試験片を試験片Bとし、これら試験片を歪速度:10×10-6/s(室温)で引張り、絞り値を求めた。得られた絞り値から絞り比(=(試験片Aの絞り値)/(試験片Bの絞り値))を求めた。絞り比が85%以上を耐遅れ破壊性に優れると評価した。
(6)打抜き性評価試験
得られた熱延鋼板から、30mm角の試験片を採取し、試験片中央部を10mmΦで打抜き、端面粗さを計測した。なお、クリアランス5%〜20%の条件とした。最大粗さRZ<30μmであるものを打抜き性が良好(○)とした。
(7)打抜き曲げ疲労強度特性評価試験
得られた熱延鋼板から曲げ試験片を採取し、試験片中央部を10mmΦで打抜き加工した後、種々の応力振幅で曲げ疲労試験を実施し、10回の繰り返し数で破断しない限界応力を求めた。該限界応力が250MPa以上となったものを良好とした。なお、クリアランス5%〜20%の条件とした。
得られた結果を表3に示す。
Figure 2018188675
Figure 2018188675
Figure 2018188675
本発明例はいずれも、引張強度TS:980MPa以上の高強度と、vE−40が40J以上の高靭性と、打抜き性および打抜き曲げ疲労強度特性にも優れた熱延鋼板となっている。さらに、本発明例は、伸びEl:12%以上の高延性であり、曲げ加工性に優れ、また耐遅れ破壊性にも優れている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、引張強度TSが980MPa未満であるか、vE−40が40J未満であるか、あるいは引張強度TSが980MPa未満でvE−40が40J未満であり、所望の高強度、所望の高靭性が得られていないか、打抜き性、打抜き曲げ疲労強度特性のいずれかが劣化した熱延鋼板となっている。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C :0.05〜0.14%、 Si:0.01〜1.0%、
    Mn:0.50〜2.0%、 P :0.025%以下、
    S :0.005%以下、 Al:0.005〜0.10%、
    N :0.002〜0.006%、 Nb:0.001〜0.05%、
    Ti:0.001〜0.05%、 Cr:0.01〜1.0%、
    B :0.0005〜0.0050%
    を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
    鋼組織が、マルテンサイト相および焼戻マルテンサイト相の少なくとも一方からなり鋼組織全体に対する面積率が95%以上である主相を有し、マルテンサイト相および/または焼戻マルテンサイト相のラス内に平均粒径が0.5μm以下のセメンタイトを含有し、セメンタイトの含有量が質量%で0.01〜0.08%であることを特徴とする高強度熱延鋼板。
  2. 前記成分組成に加えてさらに、質量%でV:0.001〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%およびMo:0.01〜0.50%から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度熱延鋼板。
  3. 前記成分組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度熱延鋼板。
  4. 鋼素材に、1100℃以上1250℃以下である鋼素材を粗圧延と仕上圧延とからなる熱間圧延を施す熱延工程と、冷却工程と、巻取工程を順次施し、熱延鋼板とするにあたり、
    前記鋼素材を、質量%で、
    C :0.05〜0.14%、 Si:0.01〜1.0%、
    Mn:0.50〜2.0%、 P :0.025%以下、
    S :0.005%以下、 Al:0.005〜0.10%、
    N:0.002〜0.006%、 Nb:0.001〜0.05%、
    Ti:0.001〜0.05%、 Cr:0.01〜1.0%、
    B :0.0005〜0.0050%
    を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材とし、
    前記熱延工程の仕上圧延は、仕上圧延出側温度が800℃以上900℃以下であり、930℃未満の温度域での累積圧下率が20〜90%であり、
    前記冷却工程は、熱間圧延終了後、直ちに冷却を開始し、750℃以下500℃以上の温度域での平均冷却速度が100℃/s以上且つ500℃未満400℃以上の温度域での平均冷却速度が20℃/s以上で、冷却停止温度:300℃以下まで冷却する工程であり、
    前記巻取工程は、巻取温度:300℃以下でコイル状に巻き取る工程であることを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
  5. 前記鋼素材が、前記成分組成に加えてさらに、質量%で、V:0.001〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%およびMo:0.01〜0.50%から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項4に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
  6. 前記鋼素材が、前記成分組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%を含有することを特徴とする請求項4または5に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
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