JP4028972B2 - ダンパー機構 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トルクを伝達するとともに捩じり振動を吸収・減衰するためのダンパー機構に関する。
【0002】
車輌に用いられるクラッチディスク組立体は、フライホイールに連結・切断されるクラッチ機能と、フライホイールからの捩じり振動を吸収・減衰するためのダンパー機能とを有している。一般に車両の振動には、アイドル時異音(ガラ音)、走行時異音(加速・減速ラトル,こもり音)及びティップイン・ティップアウト(低周波振動)がある。これらの異音や振動を取り除くことがクラッチディスク組立体のダンパーとしての機能である。
【0003】
アイドル時異音とは、信号待ち等でシフトをニュートラルに入れ、クラッチペダルを放したときにトランスミッションから発生する「ガラガラ」と聞こえる音である。この異音が生じる原因は、エンジンアイドリング回転付近ではエンジントルクが低く、エンジン爆発時のトルク変動が大きいことにある。このときにトランスミッションのインプットギアとカウンターギアとが歯打ち現象を起こしている。
【0004】
ティップイン・ティップアウト(低周波振動)とは、アクセルペダルを急に踏んだり放したりしたときに生じる車体の前後の大きな振れである。駆動伝達系の剛性が低いと、タイヤに伝達されたトルクが逆にタイヤに伝達されたトルクが逆にタイヤ側からトルクに伝わり、その揺り返しとしてタイヤに過大トルクが発生し、その結果車体を過渡的に前後に大きく振らす前後振動となる。
【0005】
アイドリング時異音に対しては、クラッチディスク組立体の捩じり特性においてゼロトルク付近が問題となり、そこでの捩じり剛性は低い方が良い。一方、ティップイン・ティップアウトの前後振動に対しては、クラッチディスク組立体の捩じり特性をできるだけソリッドにすることが必要である。
【0006】
以上の問題を解決するために、2種類のばね部材を用いることにより2段特性を実現したクラッチディスク組立体が提供されている。そこでは、捩じり特性における1段目(低捩じり角度領域)における捩じり剛性及びヒステリシストルクを低く抑えているために、アイドリング時の異音防止効果がある。また、捩じり特性における2段目(高捩じり角度領域)では捩じり剛性及びヒステリシストルクを高く設定しているため、ティップイン・ティップアウトの前後振動を十分に減衰できる。
【0007】
さらに、捩じり特性2段目においてたとえばエンジンの燃焼変動に起因する微小捩じり振動が入力されたときに、2段目の大摩擦機構を作動させないことで、微小捩じり振動を効果的に吸収するダンパー機構も知られている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
たとえばエンジンの燃焼変動に起因する微小振動が入力されたときに、大摩擦機構を作動させないためには、高剛性ばね部材が圧縮された状態で、高剛性ばね部材と大摩擦機構との間に所定角度の回転方向隙間が確保されている必要がある
この回転方向隙間の角度は、例えば0.2°〜1.0°程度の微小角度であり、入力プレートがスプラインハブに対して回転方向駆動側(正側)に捩じれた正側2段目と、その反対側(負側)に捩じれた負側2段目の両方において存在する。
【0009】
特に、従来は回転方向隙間を構成する構造が正側2段目と負側2段目で同一の機構によって実現されているため、この回転方向隙間が捩じり特性正側と負側の両方において必ず発生する構造となっている。
【0010】
しかし、車両の特性に応じて、回転方向隙間の大きさを捩じり特性の正負両側で異ならせることが好ましい場合もあり、さらには正負の片側では前記回転方向隙間を設けないことが望ましい場合も考えられる。
【0011】
具体的には、捩じり特性の負側には、減速時共振回転数において振動のピークを低減させるために前記回転方向隙間は必要である。しかし、FF車などでは、実用回転域に共振ピークが残ることが多く、捩じり特性の正側に前記回転方向隙間を確保していると、共振回転数付近で音・振動性能が悪化する。
【0012】
その一方、捩じり特性の負側に高ヒスを発生させない構造とした場合は、ティップイン・ティップアウト減衰性能が低下してしまう。
【0013】
本発明の課題は、捩じり特性の正側と負側で特性を適切に異ならせることで好ましい振動減衰性能を実現することにある。
【0014】
本発明の他の課題は、簡単な構造で、捩じり特性の正側と負側で特性を異ならせることにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載のダンパー機構は、第1回転部材と、第2回転部材と、捩り特性実現機構と、摩擦発生機構と、中間回転部材とを備えている。第2回転部材は、第1回転部材に相対回転可能に配置されている。捩り特性実現機構は、入力及び第2回転部材を相対回転可能に連結する複数の弾性部材を含み、第1回転部材が第2回転部材に対して第1回転部材の回転方向側に捩じれ、複数の弾性部材が圧縮される正側領域と、第1回転部材が第2回転部材に対して第1回転部材の回転方向と反対側に捩じれ、複数の弾性部材のうち一部の弾性部材が圧縮されるとともに、正側領域と同じ捩り角度において正側領域より剛性が低い負側領域と、を有する捩じり特性を実現する。摩擦発生機構は、正側および負側領域において、第1回転部材と第2回転部材とが相対回転するときに摩擦を発生する。第2回転部材は当接部を有している。当接部は、第2回転部材に対して第1回転部材が正側領域に捩れている状態において弾性部材と回転方向に当接し、第2回転部材に対して第1回転部材が負側領域に捩れている状態において複数の弾性部材のうち負側領域において作動しない弾性部材と回転方向に離反する。摩擦発生機構は、第1回転部材と摩擦係合する中間回転部材を有している。中間回転部材は、第1回転部材と摩擦係合する摩擦係合部と、摩擦係合部と一体回転可能な第1隙間係合部と、を有している。第1隙間係合部は、正側領域において当接部と当接部に対応する弾性部材の端部との回転方向間に挟み込まれ、負側領域において当接部と当接部に対応する弾性部材の端部との間で回転方向に移動可能である。
【0016】
このダンパー機構では、捩じり特性の正側(加速側)で一定の剛性を有する特性が得られ、捩じり特性の負側(減速側)で正側より剛性が低い特性が得られる。この結果、捩じり特性の正側では共振点通過時の回転速度変動を抑えることができ、捩じり特性の負側では全体にわたって良好な減衰率が得られる。
【0017】
また、このダンパー機構では、弾性部材を介して第1回転部材と第2回転部材との間でトルクが伝達される。捩じり振動が入力されると、弾性部材が圧縮されて中間回転部材の摩擦係合部が第1回転部材に摺動し、所定の捩じり特性によって捩じり振動を減衰・吸収する。
【0018】
捩じり特性の正側領域では、中間回転部材の第1隙間係合部は、当接部と、当接部に対応する弾性部材の端部と、の回転方向間に挟み込まれる。このため、中間回転部材が第2回転部材と一体回転して、摩擦部係合部が第1回転部材と摺動する。
【0019】
一方、捩り特性の負側領域では、中間回転部材の第1隙間係合部は、当接部と、当接部に対応する弾性部材の端部と、の間で回転方向に移動可能である。このため、微小捩じり振動が入力されて所定角度範囲内で第1回転部材と第2回転部材が相対回転しているときには、中間回転部材が第1回転部材と一体回転し、摩擦係合部が第1回転部材と摺動しない。
【0020】
このように、このダンパー機構では、簡単な構造によって、捩じり特性の一方側のみで所定の捩じり角度範囲で摩擦を発生させない摩擦抑制機構を実現できる。このため、例えば実用回転域に共振ピークが残るFF車などに本ダンパー機構を採用すると、ティップイン・ティップアウト減衰機能を維持しつつ、捩じり特性の正側の共振点ピークが小さくでき、さらに負側の騒音レベルを低く抑えることができる。
【0021】
請求項2に記載のダンパー機構では、請求項1において、中間回転部材が、第1隙間係合部が当接部と弾性部材の端部との間で回転方向に移動可能な状態で、摩擦係合部と第1回転部材との回転方向両側の相対回転を所定の角度に規制する第2隙間係合部をさらに有している。
【0022】
請求項3に記載のダンパー機構では、請求項1または2において、第1回転部材が、弾性部材が収容される複数の第1窓孔を有している。第2回転部材は、弾性部材が収容される複数の第2窓孔を有している。当接部は、複数の第2窓孔のうち少なくとも1つの縁に設けられている。
【0023】
請求項4に記載のダンパー機構では、請求項1から3のいずれかにおいて、当接部が、弾性部材の端部と回転方向に当接する当接部本体と、当接部本体と弾性部材の端部とが当接している状態で弾性部材の端部との間に第1隙間係合部を収容する切欠部と、を有している。
【0024】
【発明の実施の形態】
図1に本発明の一実施形態としてのクラッチディスク組立体1の断面図を示し、図2にその平面図を示す。クラッチディスク組立体1は、車両(特にFF車)のクラッチ装置に用いられる動力伝達装置であり、クラッチ機能とダンパー機能とを有している。クラッチ機能とは、フライホイール(図示せず)に連結及び離反することによってトルクの伝達及び遮断を行う機能である。ダンパー機能とは、フライホイール側から入力されるトルク変動等をばね等によって吸収・減衰する機能である。
【0025】
図1においてO−Oがクラッチディスク組立体1の回転軸である。図1の左側にエンジン及びフライホイール(図示せず)が配置され、図1の右側にトランスミッション(図示せず)が配置されている。さらに、図2の矢印R1側がクラッチディスク組立体1の駆動側(回転方向正側)であり、矢印R2側がその反対側(回転方向負側)である。なお、以下の説明で「回転(円周)方向」、「軸方向」及び「半径方向」とは、特に断らない限り、回転体としてのクラッチディスク組立体1の各方向をいうものとする。
【0026】
クラッチディスク組立体1は、主に、入力回転部材2と、出力回転部材3と、両回転部材2,3間に配置された弾性連結機構4とから構成されている。また、各部材によって、トルクを伝達するとともに捩じり振動を減衰するためのダンパー機構が構成されていることになる。
【0027】
入力回転部材2はフライホイール(図示せず)からトルクが入力される部材である。入力回転部材2は主にクラッチディスク11とクラッチプレート12とリティーニングプレート13とから構成されている。クラッチディスク11は、図示しないフライホイールに押し付けられて連結される部分である。クラッチディスク11は、クッショニングプレート15と、その軸方向両側にリベット18によって固定された1対の摩擦フェーシング16,17とからなる。
【0028】
クラッチプレート12とリティーニングプレート13は、ともに板金製の円板状かつ環状の部材であり、互いに対して軸方向に対して所定の間隔を開けて配置されている。クラッチプレート12はエンジン側に配置され、リティーニングプレート13はトランスミッション側に配置されている。リティーニングプレート13の外周縁には、円周方向に等間隔で複数の(4つの)連結部22が形成されている。連結部22は、リティーニングプレート13から一体に形成され軸方向に延びる延長部22aと、延長部22aの先端から半径方向内側に延びる固定部22bとから構成されている。固定部22bは、クラッチプレート12のトランスミッション側面に複数のリベット20によって固定されている。これにより、クラッチプレート12とリティーニングプレート13は一体回転するようになり、さらに軸方向の間隔が定められている。さらに、リベット20はクッショニングプレート15の内周部を固定部22b及びクラッチプレート12の外周部に固定している。
【0029】
クラッチプレート12及びリティーニングプレート13にはそれぞれ中心孔が形成されている。この中心孔内には後述のボス7が配置される。
【0030】
クラッチプレート12及びリティーニングプレート13の各々には、円周方向に並んだ複数の窓部(51,52)が形成されている。各窓部(51,52)は同一形状であり、同一半径方向位置で円周方向に並んで複数(4つ)形成されている。各窓部(51,52)は概ね円周方向に長く延びている。
【0031】
ここで、図2において左右方向に対向して配置された1対の窓部を第1窓部51といい、図2において上下方向に対向して配置された1対の窓部を第2窓部52ということにする。第1窓部51と第2窓部52は同一形状であるので、それらの形状について一括して説明する。図6に示すように、各窓部51,52は、軸方向に貫通した孔と、その孔の縁に沿って形成された支持部とからなる。支持部は外周側支持部55と内周側支持部56と回転方向支持部57とから構成されている。平面視で、外周側支持部55は概ね円周方向に沿った形状に湾曲しており、内周側支持部56はほぼ直線状に延びている。また、回転方向支持部57は、概ね半径方向に直線状に延びており、窓部51,52の円周方向中心とクラッチディスク組立体1の中心Oとを通る直線に平行である。外周側支持部55及び内周側支持部56は他のプレート部分から軸方向に起こされた部分である。
【0032】
出力回転部材3について説明する。出力回転部材3はハブ6によって主に構成されている。ハブ6はボス7とフランジ8とからなる。ボス7はクラッチプレート12及びリティーニングプレート13の中心孔内に配置された筒状の部材である。ボス7はその中心孔に挿入されたトランスミッション入力シャフト(図示せず)に対してスプライン係合している。フランジ8は、ボス7の外周に一体に形成され、外周側に延びる円板形状部分である。フランジ8は、クラッチプレート12とリティーニングプレート13との軸方向間に配置されている。フランジ8は、最内周側の内周部8aと、その外周側に設けられ内周部8aより軸方向厚みが小さい外周部8bとからなる。
【0033】
フランジ8の外周部8bには、窓部51,52に対応して窓孔(53,54)が形成されている。すなわち、同一半径方向位置で円周方向に並んだ複数の(4つの)窓孔(53,54)が形成されている。ここで、図1において左右方向に対向して配置された1対の窓部を第1窓孔53といい、図1において上下方向に対向して配置された1対の窓部を第2窓孔54ということにする。第1窓孔53と第2窓孔54は概ね同一形状であるのでそれらの形状について一括して説明する。各窓孔53,54は、軸方向に打ち抜かれた孔であり、円周方向に長く延びている。各窓孔53,54は外周側支持部63と内周側支持部64と回転方向支持部65(当接部)とを有する。平面視で、外周側支持部63は円周方向に沿った湾曲形状であり、内周側支持部64はほぼ直線状に延びている。また、回転方向支持部65は概ね半径方向に直線状に延びており、より詳細には、回転方向支持部65は、窓孔53,54の回転方向中心とクラッチディスク組立体1の中心Oとを結ぶ直線に対して平行である。
【0034】
第1窓孔53は、第2窓孔54より円周方向に長く延びており、第1窓部51は、第1窓孔53に比べて回転方向に短く、かつ、第1窓孔53の回転方向R1側に寄っている。このため、第1窓部51の回転方向R1側の回転方向支持部57は第1窓孔53の回転方向R1側の回転方向支持部65に一致しているが、第1窓部51の回転方向R2側の回転方向支持部57は第1窓孔53の回転方向R2側の回転方向支持部65から回転方向R1側にθ2だけ離れて配置されている。
【0035】
なお、第2窓孔54と第2窓部52は円周方向長さ及び円周方向位置が互いに一致している。
【0036】
フランジ8の外周縁には、リティーニングプレート13の固定部22bが軸方向に通過可能な切り欠き8cが形成されている。切り欠き8cは、各窓孔(53,54)の回転方向間に位置しており、その中をリティーニングプレート13の連結部22が軸方向に通過可能である。
【0037】
フランジ8の外周縁において窓孔53,54の外周側部分に半径方向外方に突出する突起8dが形成されている。突起8dは連結部22の延長部22aとの間に回転方向隙間90を形成している。この実施形態では、回転方向隙間90の角度θ1は回転方向両側で同一である。以上より、連結部22と突起8dによってクラッチディスク組立体1のストッパー機構が形成されていることになる。
【0038】
弾性連結機構4は複数の弾性部材組立体(30,31)から構成されている。この実施形態では4つの弾性部材組立体(30,31)が用いられている。各弾性部材組立体(30,31)は窓孔53,54及び窓部51,52内に配置されている。弾性部材組立体(30,31)は、第1窓孔53及び第1窓部51内に配置された第1弾性部材組立体30と、第2窓孔54及び第2窓部52内に配置された第2弾性部材組立体31との2種類から構成されている。
【0039】
図6及び図7を用いて第1弾性部材組立体30について説明する。第1弾性部材組立体30は、第1コイルスプリング33と、その内部に配置されたフロート体34とから構成されている。第1コイルスプリング33は回転方向両端が第1窓部51の両回転方向支持部57に支持されている。したがって、第1コイルスプリング33は、窓孔53内において回転方向R1側に寄って配置されている。より具体的には、第1コイルスプリング33の回転方向R1側端は窓孔53の回転方向支持部65に当接又は近接しているが、第1コイルスプリング33の回転方向R2側端は窓孔53の回転方向支持部65から回転方向にθ2だけ離れている。
【0040】
フロート体34は、第1コイルスプリング33内で回転方向に移動可能に配置された弾性体である。フロート体は、例えばゴムや樹脂等からなり、捩じり角度が大きくなったときに十分に大きなストッパートルクを発生させるために用いられている。
【0041】
第2弾性部材組立体31は第2コイルスプリング36から構成されている。第2コイルスプリング36の両端は、第2窓部52の両回転方向支持部57及び第2窓孔54の回転方向支持部65に当接又は近接している。
【0042】
クラッチディスク組立体1は、弾性連結機構4に対して並列に作用するように配置された摩擦発生機構69をさらに備えている。摩擦発生機構69は、低ヒステリシストルクを発生するための第1摩擦発生部70と、高ヒステリシストルクを発生するための第2摩擦発生部71とを有している。
【0043】
第1摩擦発生部70は、弾性連結機構4が作用している全領域すなわち捩じり特性の正側及び負側両方でヒステリシストルクを発生するための機構である。第1摩擦発生部70は、第1ブッシュ72と、第1コーンスプリング73と、第2ブッシュ74とを有している。第1ブッシュ72と第1コーンスプリング73は、フランジ8の内周部8aとリティーニングプレート13の内周部との間に配置されている。第1ブッシュ72は、ワッシャ状の部材であり、フランジ8の内周部8aの軸方向トランスミッション側面に摺動可能に当接する摩擦面を有している。第1コーンスプリング73は、第1ブッシュ72とリティーニングプレート13の内周部との軸方向間に配置され、軸方向に圧縮されている。第2ブッシュ74はクラッチプレート12の内周面に装着された環状の部材であり、その内周面がボス7の外周面に当接している。これにより、クラッチプレート12及びリティーニングプレート13はハブ6に対して半径方向に位置決めされている。また、第2ブッシュ74は、フランジ8の内周部8aの軸方向エンジン側面に摺動可能に当接する摩擦面を有している。
【0044】
以上に述べた構造によって、第1摩擦発生部70では、第1コーンスプリング73の弾性力によって、クラッチプレート12及びリティーニングプレート13と一体回転する第1及び第2ブッシュ72,74が、フランジ8に対して軸方向から押し付けられ、回転方向に摺動可能となっている。
【0045】
第2摩擦発生部71は、第3ブッシュ76と、第2コーンスプリング77と、中間回転部材80とから構成されている。
【0046】
中間回転部材80は、入力回転部材2と出力回転部材3との間で相対回転可能に配置された部材であり、出力回転部材3に対して回転方向に係合するとともに、入力回転部材2との間に第2摩擦発生部71を形成している。なお、中間回転部材80は、出力回転部材3に対して捩じり特性の負側では所定角度範囲内で相対回転できるが、正側では一体回転するようになっている。
【0047】
中間回転部材80は、第1プレート部材81と、第2プレート部材82と、ピン83とから構成されている。第1プレート部材81と第2プレート部材82は環状の部材であり、フランジ8の内周側部分、より具体的には外周部8bの最内周環状部分つまり内周部8aより外周側でかつ窓孔53,54より内周側の環状部分の軸方向両側に配置されている。第1プレート部材81はフランジ8の軸方向トランスミッション側に配置されており、第2プレート部材82はフランジ8の軸方向エンジン側に配置されている。ピン83は、軸方向に延びる胴部83aと、胴部83aの両端からさらに軸方向に延びる挿入部83bとから構成されている。挿入部83bは胴部83aより小径であるため、胴部83aの軸方向両端には肩部83cが形成されている。第1プレート部材81及び第2プレート部材82には挿入部83bが挿入される孔が形成されている。この係合によって、第1プレート部材81と第2プレート部材82は一体回転する。また、胴部83aの肩部83cには第1プレート部材81と第2プレート部材82が軸方向から当接している。これにより、第1プレート部材81と第2プレート部材82の軸方向間隔が定められている。なお、胴部83aの軸方向長さはフランジ8の軸方向厚みより大きくなっているため、フランジ8の外周部8bの軸方向の両面が第1プレート部材81と第2プレート部材82の両方に当接していることはなく、図3で明らかなようにフランジ8の外周部8bの軸方向トランスミッション側面と第1プレート部材81との軸方向間には隙間が確保されている。ピン83は、半径方向に対向して2箇所に設けられ、第1窓孔53の切り欠き64a内を延びている。切り欠き64aは、第1窓孔53の内周側支持部64においてさらに半径方向内側に延びる部分である。ピン83と切り欠き64aの回転方向R2側端面との間には第1回転方向隙間91が形成され、第1回転方向隙間91の円周方向角度はθ3である。θ3は、本実施形態においては0.6度であり、0.2〜1.0度の範囲にあることが好ましい。
【0048】
第1プレート部材81は、ピン83が係合する環状部81aと、環状部81aから半径方向外方に延びる1対のアーム81bと、アーム81bの先端から軸方向に延びる爪部81cとから構成されている。1対のアーム81bは、図7に示すように、フランジ8の第1窓孔53の回転方向R1側の回転方向支持部65付近まで延びている。爪部81cは、第1窓孔53の回転方向支持部65の内周側部分に形成された凹部65a(切欠部)内に配置され、回転方向支持部65の他の部分から連続する直線状のばね受け面を構成している。この結果、中間回転部材80の爪部81cは、第1窓孔53の回転方向R1側の回転方向支持部65と第2コイルスプリング36の回転方向R1側端との間に挟まれ、フランジ8に対して回転方向R2側に離れることはできるが、回転方向R1側には移動不能となっている。
【0049】
以上より中間回転部材80とフランジ8の関係をまとめると、中間回転部材80はフランジ8に対して、爪部81cが第1窓孔53の回転方向R1側の回転方向支持部65に当接しているため、回転方向R1側には相対回転不能である。しかし、中間回転部材80はフランジ8に対して、回転方向R2側にはピン83が切り欠き64aの回転方向R1側端に当接するまで相対回転可能である。つまり、爪部81cは凹部65aからθ3だけ回転方向R2側に離れて第2回転方向隙間92を形成することができる。このように、中間回転部材80は、フランジ8に対して、第1回転方向隙間91と第2回転方向隙間92に形成されるθ3内で相対回転可能となっている。
【0050】
第3ブッシュ76と第2コーンスプリング77は、第1プレート部材81の環状部81aとリティーニングプレート13の内周部との軸方向間、すなわち第1ブッシュ72及び第1コーンスプリング73の外周側に配置されている。第3ブッシュ76は第1プレート部材81の環状部81a(摩擦係合部)の軸方向トランスミッション側面に当接する摩擦面を有している。また、第3ブッシュ76は、環状本体部分から軸方向に延びリティーニングプレート13に形成された孔内に挿入された突起76aを有している。この係合によって第3ブッシュ76はリティーニングプレート13に対して軸方向には移動可能であるが相対回転は不能になっている。第2コーンスプリング77は第3ブッシュ76とリティーニングプレート13の内周部との軸方向間に配置され、両者の間で軸方向に圧縮されている。第3ブッシュ76の内周部には第1ブッシュ72から延びる突起が回転方向に係合する凹部が形成されており、この係合により第1ブッシュ72は第3ブッシュ76及びリティーニングプレート13と一体回転する。
【0051】
第2ブッシュ74は、第2プレート部材82とクラッチプレート12の内周部との間に配置された部分を有している。第2ブッシュ74のその部分は、第2プレート部材82(摩擦係合部)の軸方向エンジン側面に当接する摩擦面を有している。第2ブッシュ74には、環状本体から軸方向エンジン側に延びる複数の突起74aが形成されている。突起74aはクラッチプレート12に形成された孔内にはまり込み、この結果第2ブッシュ74はクラッチプレート12に対して軸方向に移動可能であるが相対回転は不能になっている。
【0052】
以上に述べた構造によって、第2摩擦発生部71では、第2コーンスプリング77の弾性力によって、クラッチプレート12及びリティーニングプレート13と一体回転する第2,第3ブッシュ74,76が、中間回転部材80に対して軸方向から押し付けられ、回転方向に摺動可能となっている。第2摩擦発生部71で発生するヒステリシストルクは第1摩擦発生部70で発生するヒステリシストルクよりかなり大きく、10〜20倍の範囲にある。
【0053】
次に、図9及び図10に示すダンパー機構の模式図及び図11に示す捩じり特性線図を用いて、クラッチディスク組立体1の捩じり特性について説明する。なお、図11に表れた具体的な数値は本発明の一実施例として開示するものであり、本発明を限定するものではない。
【0054】
最初に、図9の中立状態から入力回転部材2を固定しておきそれ対してハブ6を回転方向R2側に捩じっていく捩じり特性正側領域の動作(このとき入力回転部材2が出力回転部材3に対して回転方向R1側に捩じれることになる)を説明する。
【0055】
捩じり角度の小さな領域では、2個の第1コイルスプリング33と2個の第2コイルスプリング36が並列に圧縮され、高剛性の特性が得られる。また、第1摩擦発生部70及び第2摩擦発生部71が作動し、高ヒステリシストルクの特性が得られる。このとき第2摩擦発生部71では、中間回転部材80は、爪部81cが第1窓孔53のR1側の回転方向支持部65に押されることで、フランジ8と回転方向R2側に一体回転し、ブッシュ74,76に対して摺動する。
【0056】
この捩じり特性正側において微小捩じり振動がクラッチディスク組立体1に入力された場合に、中間回転部材80の爪部81cは常に第2コイルスプリング36によって第1窓孔53の回転方向R1側の回転方向支持部65に押し付けられている。したがって、中間回転部材80はフランジ8に対して相対回転することができず、微少振動入力時であってもコイルスプリング33,36の弾性力は常に中間回転部材80を介して第2摩擦発生部71に作用している。つまり、入力回転部材2と出力回転部材3とが相対回転するときは、捩じり特性正側では常に第2摩擦発生部71が作動し、高ヒステリシストルクを発生している。
【0057】
次に、図10の中立状態から入力回転部材2を固定しておきそれ対してハブ6を回転方向R1側に捩じっていく捩じり特性負側領域の動作(このとき入力回転部材2が出力回転部材3に対して回転方向R2に捩じれることになる)を説明する。
【0058】
捩じり角度の小さな領域では、2個の第2コイルスプリング36のみが圧縮され、正側に比べて低剛性の特性が得られる。つまり、2個の第1コイルスプリング33は圧縮されない。また、第1摩擦発生部70及び第2摩擦発生部71が作動し、高ヒステリシストルクの特性が得られる。このとき第2摩擦発生部71では、中間回転部材80は、ピン83が切り欠き64aの回転方向R2側端に押されることで、フランジ8と回転方向R1側に一体回転し、ブッシュ74,76に対して摺動する。すなわち、爪部81cは凹部65aから回転方向R2側にθ2分離れる。
【0059】
捩じり角度がθ2になると、第1窓孔53の回転方向R2側の回転方向支持部65が第1コイルスプリング33の回転方向R2側端に当接する。これ以降は、2個の第1コイルスプリング33が2個の第2コイルスプリング36に並列に圧縮される。この結果、高剛性・高ヒステリシストルクの捩じり特性が得られる。
【0060】
次に、図11の捩じり特性線図を参照して、具体的にクラッチディスク組立体1に各種捩り振動が入力された時の捩り特性について説明する。
【0061】
車両の前後振動のように振幅の大きな捩り振動が発生すると、捩り特性は正負両側にわたって変動を繰り返す。この時、正負両側で発生する高ヒステリシストルクによって車両の前後振動は速やかに減衰される。
【0062】
次に、例えばエンジンブレーキをかけた減速時においてエンジンの燃焼変動に起因する微小捩り振動がクラッチディスク組立体1に入力されたとする。このとき、中間回転部材80は、第1回転方向隙間91及び第2回転方向隙間92においてフランジ8に対して相対回転し、第2摩擦発生部71においてブッシュ74,76に摺動しない。この結果、微小捩じり振動に対しては高ヒステリシストルクが発生しない。すなわち捩り特性線図において隙間角度θ3範囲内では第2コイルスプリング36が作動するが、第2摩擦発生機構71では滑りが生じない。つりま、捩じり角度θ3の範囲では、負側のヒステリシストルクよりはるかに小さなヒステリシストルク(第1摩擦発生部70によるヒステリシストルク)が得られる。このθ3内のヒステリシストルクは全体にわたるヒステリシストルクの1/10程度であることが好ましい。このように、捩じり特性の負側において第2摩擦発生機構71を所定角度範囲内では作動させない回転方向隙間を設けたため、エンジンブレーキをかけた減速時の振動・騒音レベルを大幅に低くすることができる。
【0063】
捩じり特性の正側において第2摩擦発生機構71を所定角度範囲内で作動させない回転方向隙間を設けなかったため、実用回転域に共振ピークが残ることが多いFF車などの場合、共振回転数付近で音・振動性能が悪化しない。
【0064】
このように、捩じり特性の正負両側のうち一方にのみ摩擦機構を所定角度範囲内で作動させない回転方向隙間を確保しているため、加速・減速の両方で音・振動性能が向上する。
【0065】
以上に述べたように、本発明に係るダンパー機構では、捩じり特性の正側と負側とで捩じり剛性を異ならせるのみでなく、微小捩じり振動に対して高ヒステリシストルクを発生させない構造を捩じり特性の一方のみに設けることで、全体として好適な捩じり特性を実現している。
【0066】
特に、本発明に係るダンパー機構では、中間回転部材80を用いた簡単な構造によって、捩じり特性の一方側のみに微小捩じり振動に対して高ヒステリシストルクを発生させない摩擦抑制機構を実現している。具体的には、中間回転部材80は、ピン83(第2隙間係合部)と爪部81c(第1隙間係合部)という回転方向に離れた2箇所によって、フランジ8に対して第1及び第2回転方向隙間91,92の範囲内で相対回転可能となっている。これにより中間回転部材80は、入力回転部材2に対して摩擦摺動する摩擦部材として機能するとともに、所定の捩じり角度範囲では摩擦を発生させない摩擦抑制機構をも構成している。さらに、中間回転部材80の爪部81cは、フランジ8の第2窓部53の回転方向R1側の回転方向支持部65と第2コイルスプリング36の回転方向R1側端との間に挟まれているため、捩じり特性正側では第2コイルスプリング36によって常に第2窓部53の回転方向支持部65に押し付けられており、フランジ8に対して回転方向R2側に移動することができない。つまり、捩じり特性の正側で微小捩じり振動が入力された場合でも、中間回転部材80はフランジ8と一体回転する。それに対して、捩じり特性負側では第2コイルスプリング36の回転方向R1側端は第2窓部53の回転方向支持部65から回転方向R2側に離れているため、爪部81cは凹部65aから回転方向R2側に離れることができる。つまり、捩じり特性の負側で微小捩じり振動が入力された場合には、中間回転部材80はフランジ8に対して捩じり角度θ3内で相対回転可能である。
【0067】
本発明が適用されるクラッチディスク組立体の構造は前記実施形態に限定されない。例えば、ハブのボスとフランジが分離してダンパー機構によって連結された構造にも本発明を適用できる。
【0068】
本発明に係るダンパー機構は、クラッチディスク組立体以外にも採用可能である。例えば、2つのフライホイールを回転方向に弾性的に連結するダンパー機構等である。
【0069】
【発明の効果】
本発明に係るダンパー機構では、捩じり特性の負側では、正側より剛性が低く、微小捩じり振動に対して高ヒステリシストルクを発生しないため回転方向隙間を有している。したがって、捩じり特性の正負両側にわたって好適な音振性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施形態に係るクラッチディスク組立体の縦断面図。
【図2】 クラッチディスク組立体の平面図。
【図3】 図1の部分拡大図であり、摩擦発生機構の縦断面図。
【図4】 図1の部分拡大図であり、摩擦発生機構の縦断面図。
【図5】 図2の部分拡大図であり、第1弾性部材組立体の平面図。
【図6】 図2の部分拡大図であり、第1弾性部材組立体の平面図。
【図7】 図2の部分拡大図であり、フランジと中間回転部材との関係を説明するための平面図。
【図8】 ピンと切り欠きとの関係を説明するための部分平面図。
【図9】 クラッチディスク組立体のダンパー機構の模式図。
【図10】 クラッチディスク組立体のダンパー機構の模式図。
【図11】 クラッチディスク組立体の捩り特性線図。
【符号の説明】
1 クラッチディスク組立体
2 入力回転部材
3 出力回転部材
4 弾性連結機構
6 ハブ
7 ボス
8 フランジ
30 第1弾性部材組立体
31 第2弾性部材組立体
33 第1コイルスプリング
36 第2コイルスプリング
80 中間回転部材
91 第1回転方向隙間
92 第2回転方向隙間
Claims (4)
- 第1回転部材と、
前記第1回転部材に相対回転可能に配置された第2回転部材と、
前記第1及び第2回転部材を回転方向に弾性的に連結する複数の弾性部材を含み、前記第1回転部材が前記第2回転部材に対して前記第1回転部材の回転方向側に捩じれ、前記複数の弾性部材が圧縮される正側領域と、前記第1回転部材が前記第2回転部材に対して前記第1回転部材の回転方向と反対側に捩じれ、前記複数の弾性部材のうち一部の弾性部材が圧縮されるとともに、前記正側領域と同じ捩り角度において前記正側領域より剛性が低い負側領域と、を有する捩じり特性を実現する捩り特性実現機構と、
前記第1回転部材と前記第2回転部材とが相対回転するときに摩擦を発生する摩擦発生機構と、を備え、
前記第2回転部材は、前記第2回転部材に対して前記第1回転部材が前記正側領域に捩れている状態において前記弾性部材と回転方向に当接し、前記第2回転部材に対して前記第1回転部材が前記負側領域に捩れている状態において前記複数の弾性部材のうち前記負側領域において作動しない弾性部材と回転方向に離反する、当接部を有しており、
前記摩擦発生機構は、前記第1回転部材と摩擦係合する中間回転部材を有しており、
前記中間回転部材は、前記第1回転部材と摩擦係合する摩擦係合部と、前記摩擦係合部と一体回転可能な第1隙間係合部と、を有しており、
前記第1隙間係合部は、前記正側領域において前記当接部と前記当接部に対応する前記弾性部材の端部との回転方向間に挟み込まれ、前記負側領域において前記当接部と前記当接部に対応する前記弾性部材の端部との間で回転方向に移動可能である、
ダンパー機構。 - 前記中間回転部材は、前記第1隙間係合部が前記当接部と前記弾性部材の端部との間で回転方向に移動可能な状態で、前記摩擦係合部と前記第1回転部材との回転方向両側の相対回転を所定の角度に規制する第2隙間係合部をさらに有している、
請求項1に記載のダンパー機構。 - 前記第1回転部材は、前記弾性部材が収容される複数の第1窓孔を有し、
前記第2回転部材は、前記弾性部材が収容される複数の第2窓孔を有し、
前記当接部は、前記複数の第2窓孔のうち少なくとも1つの縁に設けられている、
請求項1または2に記載のダンパー機構。 - 前記当接部は、前記弾性部材の端部と回転方向に当接する当接部本体と、前記当接部本体と前記弾性部材の端部とが当接している状態で前記弾性部材の端部との間に前記第1隙間係合部を収容する切欠部と、を有している、
請求項1から3のいずれかに記載のダンパー機構。
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