JP3971629B2 - 微粒子層積層膜およびそれを用いた光学機能材 - Google Patents
微粒子層積層膜およびそれを用いた光学機能材 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学機器や光通信機器などの分野に用いることが可能であり、超微粒子が含有された微粒子層が積層されてなる微粒子層積層膜およびこの微粒子層積層膜を用いた光学機能材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、光学機器や光通信機器などに用いられる光学機能材は、真空成膜装置や露光装置を用いて製造されてきた。例えば、各種光学フィルターなどは、屈折率の異なる2種以上の材料を用いて蒸着法により製造されており、またホログラフィック光学素子などは、精密な干渉露光装置を用いて製造されている。しかしながら、このような方法では、真空装置が必要であることからコスト面で問題が生じる可能性があり、また大きな面積の光学機能材を製造するためには必然的に大きな真空装置が要求されることになるといった問題があった。
【0003】
このような問題を解決する方法として、最近、有機高分子を用いた交互吸着法や金属アルコキシドを用いた表面ゾルゲル法を応用した光学機能材の作製方法が提案されている(白鳥、応用物理、第69巻、ページ553〜557、2000年)。この手法は、従来の手法とは異なり、ウェットプロセスで光学機能材を作製するものであり、液相における吸着や表面反応を利用しているので、常温・常圧のプロセスであることから真空装置が不要であり、また、大面積化が容易であるといった従来の課題を解決するものであった。また、この手法によれば、曲面や凹凸面などにも均一に成膜できるといる利点がある。
【0004】
しかしながら、このような方法の欠点として、分子オーダーでの積層を繰り返すため、非常に成膜に時間がかかる点が挙げられる。
【0005】
ところで、最近、可視光波長未満の超微粒子が、透明材料の屈折率制御の観点から注目されている。超微粒子は平均粒子径が十分に小さいため、粒子による光散乱がほとんど無い。そのため、透明性を損なうことなく屈折率制御を行うことができるという利点を有する。しかしながら、従来より行われている方法では、このような粒径の小さい超微粒子を薄膜の中に高密度で充填することは非常に難しく、その結果、このような超微粒子を効果的に用いた光学機能材を開発することは困難であった。
【0006】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、蒸着法等において必要であった真空装置を必要とせず、かつ従来の交互吸着法を用いた場合の問題点である低スループットを改善することにより、比較的低コストで製造することが可能な微粒子層積層膜およびこれを用いた光学機能材を提供することを目的とするものである。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、請求項1に記載するように、平均粒子径が1nm〜95nmの範囲内である微粒子を含有する微粒子層が複数層積層されてなる微粒子層積層膜であって、前記微粒子層積層膜の微粒子は高分子によって接着されており、前記微粒子層積層膜の膜内には空隙が存在し、前記微粒子積層膜における微粒子の密度が体積百分率にして40〜80%の範囲内であり、前記微粒子層積層膜が、少なくとも2種類以上の異なる屈折率を有する微粒子層から構成されていることを特徴とする微粒子積層膜を提供する。
【0008】
このように、本発明の微粒子層積層膜は微粒子層積層膜中の微粒子の密度が上述したような高密度で充填されたものであるので、微粒子の特性、例えば屈折率などを利用でき、且つ、膜内に空隙を有しているので、微粒子がプラスチックなどの誘電体中に分散した従来のコーティング材料では実現できない低屈折率膜を実現できる。また、本発明の微粒子層積層膜は、微粒子が高分子によって接着されて積層されているので、屈折率の異なる微粒子から成る微粒子層を積層することができ、反射防止膜や光学フィルターに利用できる屈折率変調微粒子層積層膜を実現できる。
【0009】
上記発明においては、請求項2に記載するように、波長400nm以上700nm以下の範囲における任意の波長において、前記複数層積層された微粒子層中の最も小さい屈折率を有する微粒子層と最も高い屈折率を有する微粒子層との屈折率差が0.2以上であることが好ましい。例えば、上述したような屈折率変調微粒子層積層膜とする場合は、上述したような屈折率差を有することが、その機能を発揮する上で好ましいからである。
【0010】
上記発明においては、請求項3に記載するように、上記微粒子層積層膜中の少なくとも1層の微粒子層の屈折率が1.32以下であることが好ましい。このような屈折率を有する層を形成することにより、従来にない光学機能、たとえば超低反射性の光学機能材とすることが可能である。
【0011】
本発明においては、請求項4に記載するように、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載された微粒子層積層膜と、この微粒子層積層膜を支持する支持材とを有することを特徴とする光学機能材を提供する。上記微粒子層積層膜は、自己支持性が無い場合もある。このような場合は、微粒子層積層膜は支持材と共に用いられ、光学機能材とされる。
【0012】
この場合の支持材としては、請求項5に記載するように、上記支持材が、上記微粒子層積層膜の一方の表面に配置された透明基材であってもよい。通常本発明の微粒子層積層膜は基材上に形成されるものであるので、この基材が透明基材であれば、微粒子層積層膜の自己支持性の有無にかかわりなく、そのまま光学機能材として用いることができるからである。
【0013】
また、上記発明においては、請求項6に記載するように、上記支持材が、上記微粒子層積層膜の一方の表面を残して上記微粒子層積層膜を埋設する透明封止材であってもよい。例えば微粒子層積層膜構造自体の強度が極めて弱い場合や、微粒子層積層膜が水分などにより変形することが不都合な場合等においては、このように基材側の面を除いて透明封止材により封止することにより、強度を確保したり変形を防いだりすると同時に透明であることからそのまま光学機能材として用いることができるという利点を有する。
【0014】
また、上記発明においては、請求項7に記載するように、上記微粒子層積層膜が、上記支持材上もしくは支持材内においてパターン状に形成されていることが好ましい。微粒子積層膜をパターン状に形成することにより、カラーフィルターやレンズアレイ等の種々の用途に用いることが可能となるからである。
【0015】
本発明においては、請求項8に記載するように、基材上に平均粒子径が1nm〜95nmの範囲内である微粒子を含有する微粒子層を、交互吸着法により積層させて微粒子層積層膜を形成するものであり、かつ、少なくとも2種類以上の異なる屈折率を有する前記微粒子を用いることを特徴とする微粒子層積層膜の製造方法を提供する。本発明においては、微粒子を交互吸着法により吸着させるものであるので、吸着させる各層を比較的厚い膜厚とすることができる。したがって、従来の交互吸着法による膜とは異なり、実用的に必要な膜厚を有する微粒子層積層膜を比較的短時間で形成することが可能となり、手間やコストの低減を図ることができる。また、少なくとも2種類以上の異なる屈折率を有する微粒子を用いることにより、光学フィルター機能や、広帯域の反射防止機能など、光学的に多用で高性能の微粒子層積層膜を得ることができる。
【0016】
この場合、請求項9に記載するように、上記交互吸着法が静電的相互作用によるものであることが好ましい。静電的相互作用による方法であれば、所定の吸着強度を有する微粒子層積層膜とすることが可能であり、また市販の材料を用いて行うことも可能であるので、コスト面で有利であるという利点を有する。
【0017】
また、本発明においては、請求項10に記載するように、基材上に高分子電解質を有する高分子含有層を形成し、前記高分子含有層を膨潤させることができる溶媒に平均粒子径が1nm〜95nmの範囲内である微粒子を分散させた微粒子分散液を調製し、前記高分子含有層と前記微粒子分散液とを接触させることにより微粒子層を形成する微粒子層形成工程を複数回繰り返すことにより、基材上に微粒子層積層膜を形成し、かつ、少なくとも2種類以上の異なる屈折率を有する前記微粒子を用いることを特徴とする微粒子層積層膜の製造方法を提供する。
【0018】
この方法によれば、高分子含有層に微粒子分散液を接触させることにより容易に微粒子層を形成することが可能であり、また各微粒子層の膜厚を比較的厚く形成することが可能であるので、比較的短時間で必要とされる膜厚に微粒子層積層膜を形成することができる。また、少なくとも2種類以上の異なる屈折率を有する微粒子を用いることにより、光学フィルター機能や、広帯域の反射防止機能など、光学的に多用で高性能の微粒子層積層膜を得ることができる。
【0019】
この際、請求項11に記載するように、上記高分子電解質が、微粒子が有する電荷と反対の電荷を有する高分子電解質であり、かつ上記高分子電解質が、水溶性の高分子電解質であることが好ましい。
【0020】
これは、高分子電解質と微粒子が有する電荷を反対の電荷とすることにより、高分子電解質に微粒子をファン・デル・ワールス力に加えて静電的引力により強力に取り込み、固定することが可能となり、微粒子の高分子物質内への充填を安定化すると共に、微粒子を高い密度で高分子物質内に充填することが可能となるからである。また、高分子電解質を水溶性の高分子電解質とすることが好ましいのは、有用な微粒子を含む微粒子分散液が、水系のコロイド溶液であることが多く、このような微粒子分散液を用いる場合は、水溶性の高分子電解質が好ましいからである。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明者は、可視光波長未満の超微粒子が、透明材料の屈折率制御の観点から有用である点に着目し、本発明を完成させるに至ったものである。すなわち、このような超微粒子は、平均粒子径が十分に小さいため、粒子による光散乱がほとんど無い。そのため、このような超微粒子を用いることにより、透明性を損なうことなく屈折率を制御することができる。また、超微粒子は分子よりも十分に大きいので、従来の分子オーダーでの積層を繰り返す交互吸着法と比較して、このような超微粒子を含有する層を積層することにより、成膜に要する時間をかなり短縮できるのである。以下、本発明の微粒子層積層膜、これを用いた光学機能材、および微粒子層積層膜の製造方法について、順次説明する。
1.微粒子層積層膜
まず、本発明の微粒子層積層膜について詳細に説明する。本発明の微粒子層積層膜は、平均粒子径が可視光波長未満の微粒子を含有する微粒子層が複数層積層されてなる微粒子層積層膜であって、上記微粒子層積層膜における微粒子の密度が、従来に無い高密度で充填されている層が複数層積層されているところに特徴を有するものである。
【0022】
本発明の微粒子層積層膜は、可視光波長未満の微粒子を用いるものであるので、粒子による光散乱がほとんど無い。したがって、透明性を損なうことなく微粒子の有する特性、例えば屈折率等を利用することができる。また、このような微粒子が従来に無い程度の高密度で充填された微粒子層が複数層積層されてなるものであるので、微粒子の有する屈折率等の特性を効果的に、微粒子層としての特性、もしくは微粒子層積層膜の特性として、充分に反映させることが可能となる。そして、このような微粒子層が積層されているので、例えば各微粒子層の微粒子の種類や充填量を変化させることにより、各層の光学的特性を変化させることが可能となり、これにより微粒子層積層膜全体に対して、種々の光学的特性を付与することが可能となる。
【0023】
本発明の微粒子層積層膜に用いられる微粒子は、本発明の微粒子層積層膜が光学機能材としての用途に用いられる点から、光学的に透明な微粒子、特に可視光域において透明な微粒子であることが好ましい。
【0024】
本発明においては、微粒子の光学的特性の内、特に屈折率を利用した光学機能材として用いる可能性が高いことから、屈折率に特徴のある微粒子が好適に用いられる。
【0025】
具体的に用いることができる無機材料の微粒子としては、MgF2(屈折率1.38)、SiO2(屈折率1.46)、AlF3(屈折率1.33〜1.39)、CaF2(屈折率1.44)、LiF(屈折率1.36〜1.37)、NaF(屈折率1.32〜1.34)、ThF4(屈折率1.45〜1.5)などの微粒子が挙げられる。
【0026】
また、有機材料の微粒子としては、ポリマー類の微粒子を挙げることができ、具体的には、架橋アクリル微粒子(例えば、綜研化学(株)製のMXシリーズ、MRシリーズ)、非架橋アクリル微粒子(例えば、綜研化学(株)製のMPシリーズ)、架橋ポリスチレン微粒子(例えば、綜研化学(株)製のSGPシリーズ)、非架橋ポリスチレン微粒子、架橋度の高い単分散ポリメチルメタクリレート微粒子(例えば、綜研化学(株)製のMSシリーズ、Mシリーズ)、これらの複合化微粒子、官能基導入微粒子等の微粒子を挙げることができる。
【0027】
本実施態様においては、上記微粒子の材料の内、シリカ(SiO2)微粒子もしくはポリマー類の微粒子を用いることが好ましい。
【0028】
また、屈折率の高い粒子としては、例えばチタニア(TiO2)微粒子やジルコニア(ZrO2)微粒子がある。
【0029】
このような微粒子の平均粒子径としては、光散乱防止の観点から1nm〜95nmの範囲内であることが好ましく、特に1nmから80nmの範囲内であることが好ましい。上記範囲より平均粒子径が大きい場合は、光散乱が生じる成分が大きくなり、光学的特性を著しく損なう可能性があることから好ましくない。一方、平均粒子径が上記範囲より小さい場合は、粒径が上記範囲より小さい微粒子は形成が困難であるため現実的ではなく、さらに分子サイズと同様のサイズとなることから、従来の交互吸着法と同様のスループットとなってしまう点から好ましくない。
【0030】
本発明における平均粒子径の測定方法としては、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡を用いた電子顕微鏡観察により粒子径を最長径とそれに直角な方向の径との合計を2で割った2軸平均径を測定し、これらを総加平均する方法が挙げられる。
【0031】
本発明においては、上記微粒子層積層膜中の微粒子の密度が、体積百分率にして40〜80%の範囲内、特に45〜80%の範囲内であることが好ましい。上記範囲より微粒子の密度が小さい場合は、微粒子の有する光学的特性を微粒子層積層膜に効果的に反映させることができないからであり、上記範囲より微粒子の密度を大きくすることは、微粒子の粒径分布にもよるものではあるが、現時点では現実的ではないからである。
【0032】
また、微粒子層積層膜中の少なくとも1層の微粒子層中の微粒子の密度が、体積百分率にして40〜80%の範囲内、特に45〜80%の範囲内であることが好ましい。本発明においては、微粒子層積層膜中に積層された各微粒子層の光学的特性を各々変更することにより、微粒子層積層膜全体として、光学機能を付与させる点にも特徴を有するものである。この際、微粒子層積層膜中の少なくとも1層中の微粒子の密度を上記範囲内とすることにより、微粒子の有する光学的特性を微粒子層の特性とすることが可能となり、これにより微粒子層積層膜全体としての光学的機能を発揮させることが可能となるからである。
【0033】
本発明において、微粒子層の少なくとも1層中における微粒子の密度が上記範囲より小さい場合は、微粒子の光学的特性を微粒子層に反映させることが困難となり、さらに密度が小さすぎるため微粒子の積層が難しく、微粒子層を一つの層として維持することが困難となるからである。一方、密度が上記範囲より大きくすることは、微粒子の粒径分布にもよるものではあるが、現時点では現実的ではないからである。現実的でないと考えられる根拠として、サンダースらによる文献を挙げておく(Philosophical Magazine A, vol. 42, No. 6, 705-720, 1980; Philosophical Magazine A, vol. 42, No. 6, 721-740, 1980)。これらの論文は、粒子径の異なる2種の粒子をコロイド結晶構造にする際の粒子径比γ=r1/r2(r1<r2、つまりγ<1、r1及びr2は各粒子径)と粒子充填率に関して記されている。彼等の計算によれば、ある条件では、粒子径比γが限りなく0に近づくと、粒子充填率は93.3%に限りなく近づくとされているものの、より現実的なγでは、おおよそ80%が上限と示されている。一方、現状入手できる本発明の粒子径範囲の微粒子は一般的に多分散であり、また、コロイド結晶状に粒子を積層できるのは特別な場合に限られる、つまり一般的にはランダムに積層される。これらを考慮して、本発明の微粒子層積層膜の微粒子充填率の上限は80%とした。
【0034】
本発明においては、上述したような種々の特徴、具体的には微粒子層中の微粒子の屈折率、微粒子の密度、微粒子層中の空隙等を調整することにより、低い屈折率を有する微粒子層を形成することができる。具体的には、微粒子層積層膜中の少なくとも一つの微粒子層の屈折率を、樹脂などの単一の材料からなる層では達成できない1.32以下、特に1.05〜1.30の範囲とすることが可能である。本発明の微粒子層積層膜において、少なくとも一層の微粒子層をこのような低屈折率層とすることにより、高品質な光学機能材、例えば反射防止膜とすることができる。
【0035】
本発明の微粒子層積層膜は、同一の微粒子を有する微粒子層が複数層積層されてなるものであってもよく、また異なる微粒子を有する微粒子層が複数層積層されてなるものであってもよい。例えば反射防止膜等の屈折率の異なる層を複数層積層する場合は、必要とされる屈折率を達成するために、各微粒子層の微粒子の種類を変化させるようにしてもよい。また、例えば後述するように本発明の微粒子層積層膜をパターン状に形成して各種光学フィルター等として用いる場合は、所定の膜厚を得るために微粒子層を積層するものであるが、このような場合は同一の微粒子を含有する微粒子層を積層するようにしてもよい。
【0036】
また、各微粒子層の光学的な特性を変化させる方法としては、上述したように微粒子の種類を変化させる方法の他に、例えば微粒子の密度を変化させる方法や微粒子層の空隙を変化させる方法等を上げることができる。このような方法を組合わせることにより、各微粒子層の光学的な特性を大きく変化させることが可能であり、微粒子層積層膜として要求される光学的な特性を得ることが可能となる。
【0037】
本発明の微粒子層積層膜における微粒子層の積層数は、要求される膜厚や機能等により大きく異なるものではあるが、通常2層〜200層の範囲内であり、好ましくは3層〜100層の範囲内とされる。
【0038】
本発明においては、上述したように複数の微粒子層を積層することにより光学基材とするものであるが、このように複数の微粒子層を用いる場合は、波長400nm以上700nm以下の範囲における任意の波長において、前記複数層積層された微粒子層中の最も小さい屈折率を有する微粒子層と最も高い屈折率を有する微粒子層との屈折率差が0.2以上であることが好ましい。例えば、反射防止膜や、各種光学フィルタして機能させる場合には、この程度の屈折率差を有することが、その機能を発揮する上で好ましいからである。なお、この場合の屈折率差の上限は、用いられる微粒子等の材料に応じて変動するものであり、特に限定されるものではないが、一般的な材料を考慮すると1.7以下であるといえる。
【0039】
本発明における屈折率は、屈折率及び消衰係数の波長分散を測定することができ、膜の光学特性を十分に把握できる点から、分光エリプソメトリーを用いて測定した値を用いることとする。
【0040】
本発明における各微粒子層の組成および構造は、後述する製造方法によって異なるものではあるが、通常は微粒子とそれを支持する高分子とにより形成され、所定の空隙を有する構造となる。
【0041】
本発明の微粒子層積層膜の用途としては、その光学的な機能を活かした用途を挙げることが可能であり、具体的には、反射防止膜、各種光学フィルター、ディスプレイ用カラーフィルター等を挙げることができる。
【0042】
2.光学機能材
本発明の微粒子層積層膜は、製造方法によっては自己支持性を有するものもある。このように微粒子層積層膜が自己支持性を有する場合は、微粒子層積層膜を単独でその光学的な機能を用いた各種素子として用いることも可能であるが、通常は支持材と共に光学機能材として用いられる。
【0043】
本発明においてこのような支持材としては、透明基材と透明封止材とを挙げることができる。ここで、透明基材とは、上記微粒子層積層膜の一方の表面に配置されて微粒子層積層膜を支持するものである。通常、後述する製造方法において、微粒子層積層膜は基材上に微粒子層を積層して形成させるものであり、この際基材を透明基材とすることにより、透明基板を有する光学機能材とすることができる。なお、透明基材上に微粒子層積層膜を形成する方法としては、これに限定されるものではなく、例えば微粒子層を積層し易い基材上に微粒子層を積層させ、次いで形成された微粒子層積層膜の上面に透明基板を付着させて転写させることにより透明基材とその表面に形成された微粒子層積層膜とからなる光学機能材としてもよい。
【0044】
このような透明基材としては、樹脂、ガラス等が適用でき、形状的にはフィルム、シート、板の他、曲面を有する形状、筒状構造物、複雑な形状等のいかなる形状の透明基材であっても用いることができる。
【0045】
樹脂製の透明基材としては、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエーテルサルホン、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、トリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、(メタ)アクリロニトリル等を挙げることができる。
【0046】
本発明に用いられる透明基材としては、PET、ガラス等を材料として用いたものが一般的である。
【0047】
一方、微粒子層積層膜を支持する他の支持材としては、透明封止材を挙げることができる。この透明封止材とは、微粒子層積層膜の少なくとも一方の表面を除いて配置される支持材である。具体的には、上述したように基材上に微粒子層積層膜を形成し、この微粒子層積層膜を封止するように透明封止材を付着させて形成されるものであり、基材を取り除くことにより、基材が配置されていた一方の面を除き全ての面を透明封止材で支持された光学機能材とすることができる。なお、基材が透明基材の場合は、この透明封止材と透明基材とを支持材として共用するものであってもよい。
【0048】
本発明における透明封止材として用いることができる材料としては、可視光域で透明である樹脂が好適に用いられ、具体的には、具体的には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリシラン類、シリコーン樹脂等を挙げることができる。
【0049】
このように透明封止材は、例えば微粒子層積層膜の微粒子層間の吸着力が弱く、側面からの補強が必要な場合や、微粒子の種類によっては水分や酸素が侵入することを遮断する必要がある場合、さらには水分などにより変形することが不都合な場合等に好適に用いられる。
【0050】
本発明の光学機能材においては、微粒子層積層膜が上記支持材上もしくは支持材内においてパターン状に形成されているものであってもよい。パターン状に形成することにより、各種光学フィルター等の種々の光学機能材として用いることができるからである。
【0051】
支持材上に微粒子層積層膜をパターン状に形成する方法としては、支持材として透明基材を用い、この透明基材上に親水/疎水パターンもしくは酸/塩基パターンを形成し、この上に微粒子層積層膜を形成する方法等を挙げることができる。また、支持材内に微粒子層積層膜をパターン状に形成する方法としては、基材上に上述した方法により微粒子層積層膜をパターン状に形成し、このパターン状に形成した微粒子層積層膜を封止するように透明封止材を塗布して硬化させ、その後必要であれば基材を剥離する方法等を挙げることができる。
【0052】
3.微粒子層積層膜の製造方法
本発明において、上述したような微粒子層積層膜の製造方法は通常以下に示すような2通りの製造方法により製造される。以下それぞれの方法について説明する。
【0053】
A.第1の製造方法
本発明の微粒子層積層膜における第1の製造方法は、基材上に平均粒子径が1nm〜95nmの範囲内である微粒子を含有する微粒子層を、交互吸着法により積層させて微粒子層積層膜を形成することを特徴とするものである。
【0054】
ここで用いられる微粒子については、上述したものと同様のものを用いることができるので、ここでの説明は省略する。また、基材に関しては、その上に微粒子層を積層することが可能なものであれば特に限定されるものではないが、上述したような透明基材を用いることにより、微粒子層積層膜を形成すると同時に光学機能材を形成することも可能である。
【0055】
第1の製造方法において、交互吸着法の相互作用としては静電的相互作用を始めとして、水素結合、電荷移動相互作用等の作用を利用したものを挙げることができる。しかしながら、本発明においては、静電的相互作用による交互吸着法により製造されることが好ましい。静電的相互作用による交互吸着法により微粒子層積層膜を製造することにより、比較的容易に吸着強度の高い微粒子層積層膜を形成することが可能であり、また市販の高分子電解質等を用いることが可能であることから、コスト面で有利であるからである。また、静電的相互作用による交互吸着法においては、基材上への微粒子の付着、言い換えると基材上での微粒子層の形成に際して、微粒子が均一に基材上に配置され、微粒子層積層膜とした場合の光学的な機能の高い微粒子層を基材上に形成することができるからである。
【0056】
このように交互吸着法において、静電的相互作用により基材上に微粒子を付着させる場合は、特に限定されるものではないが、通常基材上に正負いずれかの電荷を付与し、この電荷と反対の極性を有する微粒子を用いることにより微粒子を静電的相互作用により基材上に付着させる方法が採られる。
【0057】
基材表面に電荷を付与する方法としては、単に物理的に基材表面を帯電させる場合と、物理的あるいは化学的に基材表面にイオン性官能基を付与する場合がある。本発明においては、前者は電荷の安定性に乏しいことから、後者の基材表面にイオン性官能基を付与する方法によることが好ましい。
【0058】
この基材表面にイオン性官能基を導入する手法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、加水分解処理、シランカップリング処理、高分子電解質の塗布、高分子電解質多層膜の形成などが挙げられるが、本発明においては、高分子電解質を塗布等することにより得られる高分子電解質膜を形成することが好ましい。これは、以下の理由による。
【0059】
まず、一般に基材表面の電荷密度が高い方が基材上に均一に微粒子が付着した光学的な機能の高い微粒子層を形成できる。一方、基材上に高分子電解質膜を形成することにより、他の方法と比較して電荷密度を高くすることができる。したがって、高分子電解質膜を基材上に形成し、この高分子電解質膜と微粒子との静電的相互作用により微粒子を基材上、すなわち高分子電解質上に付着させることにより、微粒子が均一に付着した微粒子層とすることができ、結果として光学的機能の高い微粒子層積層膜とすることができるからである。
【0060】
また、コロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、及び加水分解処理では、一般的に導入されるイオン性官能基はアニオン性基であることが多い。したがって、微粒子表面の電荷はカチオンに限定されることになる。一方、高分子電解質はアニオン性、カチオン性、それらの密度やバランスを任意に選択できるので、微粒子表面の電荷がアニオン、カチオンのいずれか一方に限定されることがない。この点からも基材表面に電荷を付与する方法としては、高分子電解質からなる高分子電解質膜を形成することが好ましい。
【0061】
なお、基材表面は、疎水性であることが多いことから、上記手法を併用することも基材表面に十分な電荷を付与する手法として効果的である。例えば、基材表面に、コロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、加水分解処理、シランカップリング処理の少なくとも一つを施した後、高分子電解質塗布または、高分子電解質多層膜形成を行なうことも可能であり、好ましい方法である。
【0062】
高分子電解質膜を形成して基材表面に電荷を付与する場合、高分子電解質膜の膜厚は微粒子の平均粒子径より薄いことが好ましく、さらに高分子電解質の膜厚を微粒子の平均粒子径の50%未満とすることが好ましい。高分子電解質膜の膜厚が微粒子の平均粒子径以上であると、微粒子が部分的に二層以上積層されて入射する可視光を散乱したり、微粒子間の空隙を減少する、あるいは埋めるなど、微粒子膜の光学機能に関して不良の膜となってしまう可能性があるので好ましくない。
【0063】
本発明において、このような高分子電解質膜としては、互いに極性の異なる2種以上の高分子電解質が積層されて形成された多層膜であることが好ましい。このような高分子電解質多層膜の形成方法としては、公知のいわゆる交互吸着膜作製法(Layer-by-Layer Assembly法)を好適に用いることができる。この方法は、基材をカチオン性高分子電解質水溶液とアニオン性高分子電解質水溶液とに交互に浸漬することによって、ナノオーダーの膜厚制御で基材上に高分子電解質多層膜を形成する手法である(例えばGero Decherら、Science、277巻、1232ページ、1997年;白鳥世明ら、信学技報、OME98-106、1998年;Joseph B. Schlenoffら、Macromolecules、32巻、8153ページ、1999年)。この方法によると、高分子電解質多層膜が微粒子の粒径以上の厚膜であっても、微粒子層は、単粒子膜で形成される。なぜなら、高分子電解質多層膜は、媒体(主に水)不溶の高分子錯体になっており、ほとんど媒体に拡散せず、微粒子は高分子電解質多層膜の、ほとんど表面とのみ相互作用するからである。
【0064】
また本発明においては、上記高分子電解質膜を形成する高分子電解質が架橋された高分子電解質であることが好ましい。架橋された高分子電解質を用いることにより、微粒子層において不必要で不都合な粒子の多層化を防止することができるからである。この架橋された高分子電解質は、高分子電解質を単層で形成する場合も、上記高分子電解質多層膜とした場合も好適に用いられ、高分子電解質多層膜とした場合は、その最上層のみ架橋された高分子電解質を用いてもよいし、全ての層を架橋された高分子電解質で形成してもよい。
【0065】
本発明において、このような高分子電解質膜を用いた静電相互作用により微粒子層を複数層形成する際には、高分子電解質膜を形成してこれに微粒子を付着させた後、さらにその上に高分子電解質膜を形成し再度微粒子を付着させる工程を繰り返すことにより行うことができる。
【0066】
本発明に用いられる高分子電解質としては、ポリエチレンイミンおよびその4級化物、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリ(N,N’−ジメチル−3,5−ジメチレン−ピペリジニウムクロライド)、ポリアリルアミンおよびその4級化物、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびその4級化物、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドおよびその4級化物、ポリジメチル(メタ)アクリルアミドおよびその4級化物、ポリ(メタ)アクリル酸およびそのイオン化物、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)、ポリアミック酸、ポリビニルスルホン酸カリウム、さらには上記ポリマーを構成するモノマーと(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのノニオン性水溶液モノマーとの共重合体などを上げることができる。
【0067】
本発明においては、中でもポリエチレンイミン4級化物、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリ(N,N’−ジメチル−3,5−ジメチレン−ピペリジニウムクロライド)、ポリアリルアミン4級化物、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート4級化物、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド4級化物、ポリジメチル(メタ)アクリルアミド4級化物、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)、ポリビニルスルホン酸カリウム、さらには上記ポリマーを構成するモノマーと(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのノニオン性水溶液モノマーとの共重合体を用いることが好ましい。
【0068】
また、架橋された高分子電解質としては、上記高分子電解質を構成するモノマーとメチレンビスアクリルアミドなどの多官能モノマーとの架橋体や上記高分子電解質とアルデヒド類との反応による架橋体、上記高分子電解質への電子線、ガンマ線照射による架橋体などを挙げることができる。
【0069】
第1の製造方法においては、上述したように基材を透明基材とすることにより、もしくは透明基材に形成した微粒子層積層膜を転写させることにより、上述したような支持材上に微粒子層積層膜が形成された光学機能材とすることが可能である。また、基材上に形成された微粒子層積層膜を封止するように上述した透明封止材を塗布することによって、支持材中に微粒子層積層膜が形成された光学機能材を製造することが可能である。さらに、上述した高分子電解質を透明基材上にパターン状に形成することにより、微粒子層積層膜がパターン状に形成された光学機能材とすることができる。
【0070】
B.第2の製造方法
本発明における第2の製造方法は、基材上に高分子電解質を有する高分子含有層を形成し、上記高分子含有層を膨潤させることができる溶媒に、平均粒子径が1nm〜95nmの範囲内である微粒子を分散させた微粒子分散液を調製し、上記高分子含有層と上記微粒子分散液とを接触させることにより微粒子層を形成する微粒子層形成工程を複数回繰り返し、基材上に微粒子層積層膜を形成することを特徴とするものである。
【0071】
以下、本発明の第2の製造方法について詳細に説明する。この第2の製造方法は、
▲1▼基材上に高分子電解質を有する高分子含有層を形成する工程
▲2▼上記高分子含有層を膨潤させることができる溶媒(媒質)に、平均粒子径が1nm〜95nmの範囲内である微粒子を分散させた微粒子分散液を調製し、上記高分子含有層と上記微粒子分散液とを接触させる工程
の少なくとも二つの工程を含むところに特徴を有するものである。このような方法により、上記高分子含有層内に微粒子が均一に充填され、これにより微粒子層を形成することが可能となる。そしてこの工程を繰り返すことにより、微粒子層が積層された微粒子層積層膜を形成することができるのである。
【0072】
以下、上記本発明の第2の製造方法について、詳しく説明する。
【0073】
まず、最初の工程、すなわち高分子電解質を含有する高分子含有層を形成する工程について説明する。
【0074】
本発明において、この高分子含有層の形成方法は特に限定されるものはなく、例えば押出成形等によるシート状等の単独で形成されたものであってもよく、また基材上に形成されたものであってよい。しかしながら、薄膜状の高分子含有層を用いた場合に有用であるケースが多いことから、基材上で形成することが好ましい。このような基材上での高分子含有層の形成方法としては、スピンコーティング、スクリーンコーティング、ロールコーティング、ディップコーティング、ダイコーティングなどの種々のコーティング方法を採用することができる。また、基材上での硬化は、用いる材料により種々の方法があり、高分子物質が溶媒に溶解したものであれば、溶媒を除去する方法、基材上で反応させて形成する場合は加熱硬化させる方法、光等のエネルギーを照射する方法等を挙げることができる。
【0075】
上記基材上での高分子含有層の形成は、必要に応じてパターン状に形成しても良い。パターン状に形成する方法としては、例えば基材表面に高分子電解質インキを用いて所望のパターンを直描する方法、具体的には、ノズル吐出による方法を用いてもよい。このようなノズル吐出方法としては、例えばマイクロシリンジ、ディスペンサー、インクジェット、針先より高分子電解質インキを電界などの外部刺激により飛ばす方法、外部刺激により振動するピエゾ素子などの振動素子を用いて素子より高分子電解質インキを飛ばす方法、針先に付着させた高分子電解質インキを基材表面に付着させる方法等を用いることができる。また、濡れ性の悪い疎液性部位の中に濡れ性の良好な親液性部位のパターンを形成し、そこに液状とした高分子電解質溶液を塗布し、親水性の部分のみに高分子電解質を付着させる方法等の一般に高分子物質のパターンを形成する方法等を用いることも可能である。
【0076】
本発明に用いられる基材としては、特に限定されるものではないが、上述したような透明基材を用いることにより、そのまま光学機能材とすることも可能である。
【0077】
この第2の製造方法において、高分子電解質は、微粒子が有する電荷と反対の電荷を有する高分子電解質であることが好ましい。これは、以下の理由による。
【0078】
すなわち、一般に微粒子が均一に分散している微粒子分散液において、微粒子表面は通常帯電しており、特に水などの極性溶媒中ではその傾向が強い。この荷電部位近傍には対イオンが存在し、粒子の周囲には電気二重層が形成されている。このため粒子間には静電的斥力が働き、微粒子は媒質中に安定に分散する。また、溶媒和層によっても微粒子間の接触は妨げられる。このことより、基材上の高分子電解質には、微粒子と静電的引力を生じる機能と微粒子を脱溶媒和させる機能とを有することが望ましい。この条件に適するのが、上記微粒子が有する電荷と反対の電荷を有する高分子電解質であり、微粒子と反対の電荷を有する高分子電解質であれば、微粒子との間に引力が生じるため、不安定化された微粒子は、周囲に高濃度で存在する高分子電解質と速やかに複合体を形成する。したがって、通常の高分子物質と比較して、より効率的に微粒子を取り込み、充填、固定させることができるのである。
【0079】
また、本発明においては、上記高分子電解質を含む高分子含有層が水溶性であることが好ましい。これは、後述する微粒子分散液において、好適に利用できる微粒子が水系の媒質に分散しているケースが多く、実際に利用する場合を考慮した場合はこのような水系の微粒子分散液に用いることができる水溶性であることが好ましいからである。さらに、高分子含有層が高分子電解質である場合であって、水系の媒質に微粒子が分散している場合は、上述したように高分子電解質表面に高塩濃度領域を形成して微粒子分散液中の微粒子の状態を不安定化させる場合、および静電的引力を用いて微粒子を高分子物質に取り込み、固定する場合のいずれの場合でも、水系で行うことにより、イオン化の度合いを高くすることが可能となり、効率的に行うことができるからである。
【0080】
このような、第2の製造方法に最も適した水溶性の高分子電解質としては、ポリエチレンイミンなどのイミン類、ポリアリルアミン、ポリビニルピリジンなどのアミン類、ポリスチレンスルホン酸などのスルホン酸類、ポリアクリル酸などのカルボン酸類、ゼラチン、アルギン酸などの天然高分子類及びこれらイオン性高分子の塩、ポリアクリルアミドなどのアミド類などが挙げられる。用途に応じてこれらの高分子を変性したり、これらの高分子のモノマーを一成分とする共重合体も好適に用いることができる。
【0081】
次に、上記高分子含有層と微粒子分散液とを接触させる工程について説明する。
【0082】
この高分子含有層と微粒子分散液との接触方法としては、具体的には高分子含有層を微粒子分散液に浸漬する方法および高分子含有層表面に微粒子分散液を塗布する方法を挙げることができる。
【0083】
本発明に用いられる微粒子分散液は、微粒子と媒質とからなるものであり、この媒質(溶媒)が、上述した高分子電解質を含有する高分子含有層を膨潤させるものである必要がある。
【0084】
このような微粒子分散液に分散する微粒子としては、上述したものと同様のものを用いることができるので、ここでの説明は省略する。
【0085】
本発明の第2の製造方法においては、溶媒中に微粒子と高分子物質とを混合し、微粒子を分散させた後、溶媒を除去して微粒子層を得るといった従来の方法では達成できないような粒径の細かい微粒子をも、高密度でかつ凝集させることなく高分子物質内に均一に分散・充填させることができる点に大きな特徴がある。
【0086】
本発明に用いられる微粒子分散液中の上記微粒子の濃度であるが、この濃度を調整することにより、最終的に得られる微粒子層中の微粒子密度を制御することができる。本発明では、微粒子と高分子物質との複数の引力を積極的に用いているので、一般的に分散液中の微粒子濃度よりも最終的に得られる微粒子層中の微粒子の濃度の方が高くなると考えられる。本発明においては、微粒子分散液の濃度を調整することにより、実際に微粒子が微粒子層中に最密充填された微粒子層を得ることも可能である。
【0087】
使用に適した分散液中の微粒子の濃度は、上述したように、微粒子層において必要とされる微粒子の密度により大きく異なるものであるが、一般的には1容量%〜65容量%であり、好ましくは1容量%〜55容量%、特に好ましくは3容量%〜50容量%である。
【0088】
このような微粒子分散液に用いられる媒質(溶媒)は、上述したように上記高分子電解質を膨潤させる必要があるが、この膨潤の程度としては、完全に媒質(溶媒)に可溶な程度(高分子電解質が非架橋の場合)から、初期の高分子電解質の体積の2倍膨潤する程度(高分子電解質が架橋、非架橋の場合)の範囲内であることが好ましい。
【0089】
上記媒質(溶媒)は、上述したように高分子含有層を膨潤させることができる溶媒であれば特に限定されるものではなく、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、エチレングリコールなどのグリコール類、水等を挙げることができる。
【0090】
第2の製造方法における媒質としては、上述したように水溶性の高分子電解質が高分子含有層を構成する高分子物質としては好適であることから、このような水溶性高分子を溶解する媒質(溶媒)が好ましい。このような媒質としては、誘電率が2以上の媒質が好ましく、具体的には、水(81(20℃における比誘電率、以降特に記載しない場合は同様である。)、メタノール(33.2)、アセトン(21.4)、モルフォリン(7.42(但し25℃))、1,4−ジオキサン(2.32)等を挙げることができる。
【0091】
第2の製造方法においては、上述したように高分子含有層を構成するのは、高分子電解質が好ましく、特に水溶性の高分子電解質が好ましい。したがって、上記微粒子分散液の媒質も、この水溶性の高分子電解質を溶解するものであることが好ましいが、この水溶性高分子電解質は水に最もよく溶けることから、最も好ましい媒質としては、水を挙げることができる。
【0092】
このような媒質は、単独で用いてもよく、また2種以上混合して用いてもよい。さらに、微粒子の分散性を阻害しないように、イオン性不純物はなるべくすくない方が好ましい。
【0093】
このような微粒子分散液には、必要に応じて界面活性剤等を添加することができる。
【0094】
第2の製造方法において用いられる微粒子分散液の種類としては、微粒子が均一に分散されていれば特に限定されるものでないが、固体粒子分散系(分散コロイド)、分子会合体分散系(ミセルコロイド)、および高分子分散系(分子コロイド)である微粒子分散液が好ましい。
【0095】
第2の製造方法においては、上述した二つの工程に加えて、他に得られる微粒子層の要求特性に応じて必要とされる工程があれば必要に応じて行うことが可能である。少なくとも上述した二つの工程を繰り返すことにより、微粒子層を積層することができ、微粒子層積層膜を得ることができる。
【0096】
第2の製造方法により得られる微粒子層積層膜の大きな特徴は、高分子電解質内に微粒子が均一に分散されて、充填されている点にある。ここで、微粒子が均一に分散しているとは、単に微粒子が凝集体を形成していないとの意味のみならず、高分子物質および微粒子が層をなしている等微粒子同士の間隔が不均一でないとの意味をも含むものである。すなわち、第2の製造方法により得られる微粒子層は、高分子電解質内に微粒子が凝集せずに分散しており、かつ微粒子間の間隔もほぼ一定となるように分散されている点に第1の特徴を有するのである。
【0097】
また、第2の製造方法により得られる微粒子層積層膜の第2の特徴は、自己支持性を有する点である。すなわち、得られる微粒子層積層膜は、基材なしでも形態を維持することが可能であり、必要であれば基材上で支持されずに用いることも可能である。このように基材の支持のない微粒子層積層膜を得るためには、上述したように、基材上に微粒子層積層膜を形成し、その後基材から剥離することにより得ることも可能であり、また高分子含有層を予め単独で形成しておき、これを微粒子分散液と接触させることによっても製造することができる。
【0098】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0099】
【実施例】
以下、本発明の微粒子層積層膜について、実施例を通じてさらに具体的に説明する。
【0100】
[実施例1]
(材料)
カチオン性高分子電解質として、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(以下、PDDAと略称する。平均分子量10〜20万、アルドリッチ社製)を用い、アニオン性高分子電解質として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(以下、PSSと略称する。平均分子量7万、アルドリッチ社製)を用いた。微粒子としては、2種類の微粒子を用い、低屈折率微粒子としてシリカ微粒子(日産化学社製、スノーテックスZL(商品名)、以下、ZLと略称する。)を用い、高屈折率微粒子としてチタニア微粒子(石原テクノ社製、STS−02、以下STSと略称する。)を用いた。電子顕微鏡観察により、ZLの平均粒子径は72nm、STSの平均粒子径は50nm(2次粒子径)及び7nm(1次粒子径)であった。
【0101】
(成膜)
1.基材への電荷の付与
0.4重量%のPDDA水溶液および0.4重量%のPSS水溶液を用い、洗浄済みガラス基板の両面に、PDDAとPSSとを繰り返して8回吸着させ、最後にPDDAを吸着させることにより交互吸着膜を作製し、基材表面に対して電荷を付与した。吸着時間は、各ポリマー2分、吸着の合間の洗浄は各1.5分とした。
【0102】
2.微粒子層積層膜の形成
上述したように電荷が付与された基板を用い、両面に成膜した。微粒子層の積層の順は、(ZL/PDDA/ZL/PDDA/PSS/STS/PSS/STS/PSS/PDDA)の順で10回積層した後、ZL/PDDA/ZLと積層した。
【0103】
微粒子の吸着時間を各1分とし、高分子の吸着時間を各2分とした。吸着の間に行う洗浄の時間は、1.5分とした。
【0104】
(評価)
得られた微粒子層積層膜の透過率を測定した結果を図1に示す。測定は、島津製作所社製の分光器UV−3100PCを用いて行った。図1に示すように、610nm付近に膜の誘電多層構造に基づくピークが認められた。
【0105】
また、微粒子層積層膜の断面を電子顕微鏡で観察した。なお、電子顕微鏡としては、日立製作所社製の走査型電子顕微鏡H−5000を用いた。図2に示すように、シリカ微粒子層(大粒子)とチタニア微粒子層(小粒子)とが積層され、微粒子層積層膜が認められる。
【0106】
さらに、本実施例の膜の構成要素であるZL/PDDA/ZLの構成の膜について、その実測された反射率スペクトルを用いて屈折率をシミュレートしたところ、上記構成の膜の屈折率は1.29(550nmにて)であることがわかった。
【0107】
[実施例2]
カチオン性高分子電解質C−200H(分子量250万、第一工業製薬(株)製)超薄膜をガラス基板上にディップコートした後、ZL中に浸漬し洗浄することによって、シリカ粒子層が2層形成された粒子膜を成膜した。次いで、この粒子膜付き基板に、PSS(平均分子量100万、アルドリッチ社製)の超薄膜をディップコートにて作製した後、STS中に浸漬し洗浄することによって、チタニア粒子層が2層形成された粒子膜を成膜した。この手順を繰り返し、実施例1と同様の光学特性を有する超微粒子多層膜を作製した。
【0108】
[実施例3]
(材料)
カチオン性高分子、アニオン性高分子として実施例1のPDDA、PSSを用いシリカ微粒子として日産化学社製のスノーテックス40(商品名、以下sn40とする)を用い、チタニア微粒子として石原テクノ社製STS−01(商品名、以下sts01とする)を用いた。
【0109】
(成膜)
1.基材への電荷の付与
実施例1と同じ高分子電解質水溶液を用い、洗浄済ガラス基板の両面にPDDAとPSSを繰り返して各々10回吸着させて交互吸着膜を作製し、基材表面に電荷を付与した。吸着時間は各ポリマー2分、吸着の合間の洗浄は各2.5分とした。基材表面に電荷が付与されていることは、大塚電子社製ゼータ電位計(LEZA−600)及び平板試料用セルを用いてゼータ電位を測定することにより定性的に確認した。
【0110】
2.微粒子層積層膜の形成
上述した電荷付与済ガラス基板を用い、基板両面に成膜した。先ずsts01とPSSを繰り返して各々4回吸着させてチタニア微粒子層が4層積層し最表面がPSSリッチである高屈折率層を形成した。次いで、その上にPDDAとsn40を繰り返して各々7回吸着させシリカ微粒子層が7層積層した膜を形成し、最後にPDDAを1回吸着させて低屈折率層を形成した。次いでPSSとsts01を繰り返して各々4回吸着させてさらにチタニア層を積層し、最後にPSSを1回吸着させて高屈折率層を形成した。このようにして、7.5周期膜(高屈折率層の合計が8層、低屈折率層の合計が7層で、それぞれが交互に積層した膜)を作製した。微粒子の吸着時間と高分子の吸着時間は共に2分とし、微粒子吸着後の洗浄時間は5分、高分子吸着後の洗浄時間は3分とした。
【0111】
(評価)
得られた微粒子積層膜付きガラス板の反射率を測定した結果を図3aに示す。385nm付近に膜の誘電多層構造に基づく反射ピークが認められた。
【0112】
[実施例4]
(材料)
実施例3と同様の材料を用いた。
【0113】
(成膜)
1.基材への電荷付与
実施例3と同様の方法により基材への電荷の付与を行った。
【0114】
2.微粒子層積層膜の形成
sn40を用いたシリカ微粒子層を10層積層膜とした以外は実施例3と同様の方法で試料を作製した。そうして、5.5周期膜(高屈折率層の合計が6層、低屈折率層の合計が5層)を作製した。
【0115】
(評価)
得られた微粒子積層膜付きガラス板の反射率を測定した結果を図3bに示す。435nm付近に膜の誘電多層構造に基づく反射ピークが認められた。
【0116】
[実施例5]
長さ15cm、内径5mmの透明なプラスチックチューブを基材として、実施例4と同様の成膜シーケンスで薬液及び洗浄液をチューブに吸引・吐出する手法により、チューブ内壁に長さ約10cmに渡って均一に光干渉フィルターを作製した。
【0117】
【発明の効果】
本発明の微粒子層積層膜は、微粒子層積層膜中の微粒子が高密度で充填されたものであるので、微粒子の特性、例えば低屈折率である等の特性を十分に有する積層膜とすることが可能であり、反射防止膜等の用途に好適に用いることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の微粒子層積層膜の一実施例の透過率を示すグラフである。
【図2】本発明の微粒子層積層膜の一実施例の断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3および実施例4における反射率を示すグラフである。
Claims (11)
- 平均粒子径が1nm〜95nmの範囲内である微粒子を含有する微粒子層が複数層積層されてなる微粒子層積層膜であって、前記微粒子層積層膜の微粒子は高分子によって接着されており、前記微粒子層積層膜の膜内には空隙が存在し、前記微粒子積層膜における微粒子の密度が体積百分率にして40〜80%の範囲内であり、前記微粒子層積層膜が、少なくとも2種類以上の異なる屈折率を有する微粒子層から構成されていることを特徴とする微粒子積層膜。
- 波長400nm以上700nm以下の範囲における任意の波長において、前記複数層積層された微粒子層中の最も小さい屈折率を有する微粒子層と最も高い屈折率を有する微粒子層との屈折率差が0.2以上であることを特徴とする請求項1に記載の微粒子層積層膜。
- 前記微粒子層積層膜中の少なくとも1層の微粒子層の屈折率が1.32以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微粒子層積層膜。
- 請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の微粒子層積層膜と、この微粒子層積層膜を支持する支持材とを有することを特徴とする光学機能材。
- 前記支持材が、前記微粒子層積層膜の一方の表面に配置された透明基材であることを特徴とする請求項4記載の光学機能材。
- 前記支持材が、前記微粒子層積層膜の一方の表面を残して前記微粒子層積層膜を埋設する透明封止材であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の光学機能材。
- 前記微粒子層積層膜が、前記支持材上もしくは支持材内においてパターン状に形成されていることを特徴とする請求項4から請求項6までのいずれかの請求項に記載の光学機能材。
- 基材上に平均粒子径が1nm〜95nmの範囲内である微粒子を含有する微粒子層を、交互吸着法により積層させて微粒子層積層膜を形成するものであり、かつ、少なくとも2種類以上の異なる屈折率を有する前記微粒子を用いることを特徴とする微粒子層積層膜の製造方法。
- 前記交互吸着法が静電的相互作用によるものであることを特徴とする請求項8に記載の微粒子層積層膜の製造方法。
- 基材上に高分子電解質を有する高分子含有層を形成し、前記高分子含有層を膨潤させることができる溶媒に平均粒子径が1nm〜95nmの範囲内である微粒子を分散させた微粒子分散液を調製し、前記高分子含有層と前記微粒子分散液とを接触させることにより微粒子層を形成する微粒子層形成工程を複数回繰り返すことにより、基材上に微粒子層積層膜を形成し、かつ、少なくとも2種類以上の異なる屈折率を有する前記微粒子を用いることを特徴とする微粒子層積層膜の製造方法。
- 前記高分子電解質は、前記微粒子が有する電荷と反対の電荷を有する高分子電解質であり、かつ前記高分子電解質が、水溶性の高分子電解質であることを特徴とする請求項10記載の微粒子層積層膜の製造方法。
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