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JP3803132B2 - ターゲットおよびその製造方法 - Google Patents

ターゲットおよびその製造方法 Download PDF

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JP3803132B2
JP3803132B2 JP01502896A JP1502896A JP3803132B2 JP 3803132 B2 JP3803132 B2 JP 3803132B2 JP 01502896 A JP01502896 A JP 01502896A JP 1502896 A JP1502896 A JP 1502896A JP 3803132 B2 JP3803132 B2 JP 3803132B2
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  • Manufacturing Of Electric Cables (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、スパッタリング法によって透明導電膜を製膜する際に使用されるスパッタリングターゲット(以下、単に「ターゲット」という。)およびその製造方法に係り、特に、酸化物焼結体からなるターゲットおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、パーソナルコンピュータ,ワードプロセッサ,電子手帳等のコンピュータ本体(主記憶装置)へのデータ入力を行うための入力装置として、タッチパネル(タッチスクリーンを含む。以下同じ。)、タブレット、デジタイザ等の座標入力装置が使用されてる。
【0003】
この座標入力装置には種々の原理のものがあるが、例えばアナログ式といわれる方式のタッチパネルでは、透明基材とこの透明基材上に平膜状に形成された透明電極膜(抵抗膜)とを備えた透明電極基板が2枚、前記の透明電極膜同士が対向するようにしてスペーサ等によって所定間隔に保たれつつ配置されており、2枚の透明電極基板のうちの一方が入力面側に位置している。そして、入力面側に位置している透明電極基板の外部から荷重が加えられて透明電極膜同士が導通したときに、一方の透明電極膜における所定の端部から前記の導通が生じた箇所を経て他方の透明電極膜における所定の端部へ電流が流れるように回路が組まれている。この回路における電気抵抗値は、前記の導通が生じた箇所、すなわち前記の荷重が加えられた箇所の位置座標に応じて変化することから、この電気抵抗値の変化に基づいて、前記の荷重が加えられた箇所の位置座標が座標検出手段によって検出される。
【0004】
このため、アナログ式のタッチパネルに使用される透明電極膜については、他の方式による座標入力装置に使用される透明電極膜よりも高電気抵抗で、かつ、シート抵抗の均一性に優れていることが要求される。そして、入力精度の向上や低消費電力化に対する近年の要望の高まりに伴い、アナログ式のタッチパネルに用いる透明電極膜については、透明性に優れていることはもとより、シート抵抗が800Ω/□〜10kΩ/□程度と高電気抵抗であることが要求されるに至っている。
【0005】
透明電極膜としては従来より物理的蒸着法によって形成されたITO膜が多用されているが、物理的蒸着法によって形成されたITO膜の比抵抗は一般に5×10-4Ω・cm未満となる。したがって、このようなITO膜を用いて例えばシート抵抗が800Ω/□の透明電極膜を得るためには、当該ITO膜の膜厚を6nm程度と非常に薄くする必要がある。しかしながら、このように極めて薄い薄膜は、島状構造の域を脱していない(『薄膜の基本技術』(東京大学出版会)第90〜91頁参照)ため、実用に耐え得るものではない。このため、特にアナログ式のタッチパネルに使用する透明電極膜については、ITO膜に代わる新たな高電気抵抗膜の開発が望まれている。
【0006】
ITO膜よりも高電気抵抗の膜としては、酸化インジウムに酸化錫と共に酸化ケイ素および/または酸化アルミニウムを所定量ドープした透明導電膜が知られている(特開平4−206403号公報参照)。この透明導電膜は、前記公報によれば、電子ビーム蒸着法、スパッタ蒸着法、イオンプレーティング法等によって作製することができ、均一性という点からはスパッタ蒸着法によって作製することが最も好ましい透明導電膜である。この透明導電膜は、シート抵抗、光透過性および耐環境性の点で、アナログ式のタッチパネルの透明電極膜として好適なものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の公報に開示されている透明導電膜をスパッタリング法によって形成する場合に酸化物からなるターゲットを使用すると、酸化ケイ素および酸化アルミニウムが共に電気絶縁物であることから、当該ターゲットの体積抵抗率が高くなる。体積抵抗率が高いターゲットを用いて直流スパッタリングを行うと、製膜時に異常放電が誘発されることから、目的とする膜を再現性よく得ることが困難である。また、体積抵抗率が高いターゲットを用いると、当該ターゲットに割れが発生し易い。ターゲットの体積抵抗率が高いことに起因する異常放電の誘発は、高周波スパッタリング法によって製膜を行うことにより防ぐことが可能であるが、高周波スパッタリング法では直流スパッタリング法に比べて製膜速度が遅くなる。
【0008】
合金ターゲットを用いて反応性スパッタリングを行うことにより、直流スパッタリング法によっても製膜時における異常放電の誘発やターゲットの割れを防止しつつ目的とする透明導電膜を製膜することが可能である。しかしながら、合金ターゲットを用いた反応性スパッタリング法では、通常のスパッタリング法や酸化物ターゲットを用いた反応性スパッタリング法と比較して成膜時に導入する酸素量の制御を極めて精密に行う必要があるため、目的とする透明導電膜を再現性よく得るための手法としては不適当である。
【0009】
本発明の目的は、シート抵抗が概ね800Ω/□〜10kΩ/□である透明導電膜を直流スパッタリング法によって安定に製膜することが可能なターゲットおよびその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の組成および電気的特性を有する酸化物焼結体をターゲットとして用いることにより、直流スパッタリング法によってもシート抵抗が概ね800Ω/□〜10kΩ/□である透明導電膜を安定に製膜することができることを見い出した。
【0011】
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものであり、本発明のターゲットは、インジウム(In)と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素と、酸素(O)とを構成元素とし、前記群より選択された金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+全金属原子)が16.9〜40at%である酸化物焼結体からなり、体積抵抗率が0.5×10−2〜5×10−2Ω・cmであることを要旨とする(以下このターゲットを「ターゲットT1」という。)。
【0012】
また、本発明の他のターゲットは、インジウム(In)および錫(Sn)と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素と、酸素(O)とを構成元素とし、前記インジウム(In)の原子比In/(In+Sn+全金属原子)が60〜95at%、前記錫(Sn)の原子比Sn/(In+Sn+全金属原子)が2.8〜20at%、前記インジウム(In)と前記錫(Sn)との合量の原子比(In+Sn)/(In+Sn+全金属原子)が62.8〜98at%、前記群より選択された金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+Sn+全金属原子)が11.2〜37.2at%である酸化物焼結体からなり、体積抵抗率が1.3×10−2〜5×10−2Ω・cmであることを要旨とする(以下このターゲットを「ターゲットT2」という。)。
【0013】
一方、本発明のターゲットの製造方法は、インジウム(In)酸化物と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素についての酸化物との混合酸化物を得る原料調製工程と、前記原料調製工程で得られた混合酸化物を成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形物を焼結する焼結工程とを含み、インジウム(In)と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素と、酸素(O)とを構成元素とし、前記群より選択された金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+全金属原子)が16.9〜40at%で、体積抵抗率が0.5×10−2〜5×10−2Ω・cmである酸化物焼結体からなるターゲットを得ることを要旨とする(以下この方法を「方法I」という。)。
【0014】
また、本発明の他のターゲットの製造方法は、インジウム(In)酸化物および錫(Sn)酸化物と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素についての酸化物との混合酸化物を得る原料調製工程と、前記原料調製工程で得られた混合酸化物を成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形物を焼結する焼結工程とを含み、インジウム(In)および錫(Sn)と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素と、酸素(O)とを構成元素とし、前記インジウム(In)の原子比In/(In+Sn+全金属原子)が60〜95at%、前記錫(Sn)の原子比Sn/(In+Sn+全金属原子)が2.8〜20at%、前記インジウム(In)と前記錫(Sn)との合量の原子比(In+Sn)/(In+Sn+全金属原子)が62.8〜98at%、前記群より選択された金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+Sn+全金属原子)が11.2〜37.2at%で、体積抵抗率が1.3×10−2〜5×10−2Ω・cmである酸化物焼結体からなるターゲットを得ることを要旨とする(以下この方法を「方法II」という。)。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明のターゲットT1について説明すると、このターゲットT1は、上述したようにインジウム(In)と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),タンタル(Ta),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素と、酸素(O)とを構成元素とし、前記の群より選択された金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+全金属原子)が2.0〜40at%である酸化物焼結体からなる。
【0016】
ここで、酸化物焼結体において上記の群より選択された金属元素の総量の原子比を上述のように限定する理由は、この原子比が上記の範囲から外れると、当該酸化物焼結体をターゲットとして用いたスパッタリング法によって得られる透明導電膜の比抵抗が9.6×10-4Ω・cm未満になり易くなるか、または、当該酸化物焼結体の体積抵抗率を5×10-2Ω・cm以下にすることが困難になるからである。
【0017】
得られる透明導電膜の比抵抗が9.6×10-4Ω・cm未満では、当該透明導電膜の膜厚を実用に耐え得る最小膜厚(約12nm)としてもそのシート抵抗が800Ω/□未満となり、シート抵抗が800Ω/□未満では入力精度が向上したアナログ式のタッチパネルを得るための高抵抗電極膜に要求される電気的特性を満足し得なくなる。また、体積抵抗率が5×10-2Ω・cmを超える酸化物焼結体では、当該酸化物焼結体をターゲットとして用いて直流スパッタリングを行ったときに異常放電が誘発される,ターゲットに割れが生じる等の不具合が発生し易くなる。
なお、上述した原子比を表す式中の「全金属原子」とは、上記の群より選ばれた金属元素についての原子数(相対値)の総和を意味する(後述するターゲットT2、方法Iおよび方法IIにおいても同じ。)。
【0018】
上記の酸化物焼結体をターゲットとして用いた場合には、当該ターゲットの組成や製膜条件等を調整することによって、概ね9.6×10-4〜2.0×10-1Ω・cmの範囲内で、種々の比抵抗の透明導電膜を製膜することが可能である。したがって、酸化物焼結体の組成は、当該酸化物焼結体が後述する体積抵抗率についての条件を満たしさえすれば、目的とする透明導電膜の電気的特性に応じて適宜選択可能である。
【0019】
例えば、入力精度が向上したアナログ式のタッチパネルを得るためには、シート抵抗が概ね800Ω/□〜10kΩ/□、好ましくは800〜5000Ω/□、より好ましくは1000〜3000Ω/□、更に好ましくは2000〜3000Ω/□で、比抵抗が9.6×10-4〜2×10-1Ω・cm、より好ましくは3×10-3〜9×10-3Ω・cm、更に好ましくは6×10-3〜9×10-3Ω・cmである透明電極膜を得ることが望ましいので、このような透明電極膜(透明導電膜)が得られるよう、各成分のスパッタ率や製膜条件等を勘案して、酸化物焼結体の組成を適宜調整する。また、電気抵抗の経時安定性の高い透明導電膜を得るうえからは、上記の酸化物焼結体における前記金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+全金属原子)を2.5〜30at%とすることが好ましく、3.0〜15at%とすることが特に好ましい。
【0020】
本発明では、上記の酸化物焼結体の体積抵抗率を前述のように5×10-2Ω・cm以下に限定する。その理由は、酸化物焼結体の体積抵抗率が5×10-2Ω・cmを超えると、当該酸化物焼結体をターゲットとして用いて直流スパッタリングを行ったときに、異常放電が誘発されたりターゲットに割れが発生したりし易くなるからである。酸化物焼結体の体積抵抗率は2×10-2Ω・cm以下であることが好ましく、1×10-2Ω・cm以下であることが特に好ましい。
【0021】
酸化物焼結体の体積抵抗率を5×10-2Ω・cm以下にするうえからは、純度が99%以上の素原料を用いて相対密度が80%以上である酸化物焼結体を得ることが好ましい。前記素原料の純度は99.9%以上であることがより好ましく、99.99%以上であることが更に好ましい。また、酸化物焼結体の相対密度は90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。焼結後の酸化物焼結体の体積抵抗率が5×10-2Ω・cmを超える場合には、焼結後に真空中または還元雰囲気中でアニーリング処理を行って前記の酸化物焼結体を還元することにより、体積抵抗率が5×10-2Ω・cm以下の酸化物焼結体を得ることができる。
【0022】
なお、酸化物焼結体の相対密度を80%以上にすることは、十分な製膜速度を確保するうえからも、また、光透過性の高い透明導電膜を得るうえからも好適である。ここに相対密度とは、酸化物の組成から計算した理論密度に対する焼結体の実際の密度を面分率で示したものである(後述するターゲットT2においても同じ。)。
【0023】
前述した組成および上述した体積抵抗率を有する酸化物焼結体からなる本発明のターゲットT1は、当該ターゲットT1の体積抵抗率が5×10-2Ω・cm以下であることから、直流スパッタリング法によって透明導電膜を製膜するためのターゲットとして用いた場合でも、製膜時に異常放電が誘発されたりターゲットに割れが発生したりすることが起こりにくく、安定した製膜が可能である。また、直流スパッタリング法以外のスパッタリング法、例えば高周波スパッタリング法等によって透明導電膜を製膜する場合でも、安定した製膜が可能である。
【0024】
本発明のターゲットT1を用いたスパッタリング法によって得られる膜は、インジウム(In)と、前述した群より選択された金属元素と、酸素(O)とを構成元素とし、前記金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+全金属原子)が概ね2.2〜40at%である酸化物膜である。この酸化物膜における可視光の透過率はその膜厚が200nmのときに概ね85%以上であるので、当該酸化物膜は、その膜厚を200nm以下にすることにより透明導電膜として好適に使用することが可能になる。
【0025】
そして、この透明導電膜の比抵抗は、酸素も含めてその組成を適宜調整することにより、換言すれば上記本発明のターゲットT1の組成および製膜条件を適宜調整することにより、膜厚が12nmのときに概ね9.6×10-4〜1.2×10-2Ω・cm、膜厚が200nmのときに概ね1.6×10-2〜2.0×10-1Ω・cmとすることが可能であるので、その膜厚が12〜200nmのときのシート抵抗を概ね800Ω/□〜10kΩ/□とすることが可能である。このように高い電気抵抗を有する透明導電膜は、入力精度が向上したアナログ式のタッチパネルを得るための透明電極膜として特に好適である他、電磁波シールド材等としても好適である。
本発明のターゲットT1は種々の方法により製造することが可能であるが、後述する本発明の方法Iにより製造することが好ましい。
【0026】
次に、本発明のターゲットT2について説明する。
本発明のターゲットT2は、前述したようにインジウム(In)および錫(Sn)と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),タンタル(Ta),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素と、酸素(O)とを構成元素とし、前記インジウム(In)の原子比In/(In+Sn+全金属原子)が60〜95at%、前記錫(Sn)の原子比Sn/(In+Sn+全金属原子)が2.8〜20at%、前記インジウム(In)と前記錫(Sn)との合量の原子比(In+Sn)/(In+Sn+全金属原子)が62.8〜98at%、前記の群より選択された金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+全金属原子)が2.0〜37.2at%である酸化物焼結体からなる。
【0027】
ここで、酸化物焼結体におけるインジウム(In)の原子比、錫(Sn)の原子比、インジウム(In)と錫(Sn)との合量の原子比、および上記の群より選択された金属元素の総量の原子比をそれぞれ上述のように限定する理由は、これらの原子比が上記の範囲から外れると、当該酸化物焼結体をターゲットとして用いたスパッタリング法によって得られる透明導電膜の比抵抗が9.6×10-4Ω・cm未満になり易くなるか、または、当該酸化物焼結体の体積抵抗率を5×10-2Ω・cm以下にすることが困難になるからである。
【0028】
上記の酸化物焼結体をターゲットとして用いた場合にも、当該ターゲットの組成や製膜条件等を調整することによって、概ね9.6×10-4〜2.0×10-1Ω・cmの範囲内で、種々の比抵抗の透明導電膜を製膜することが可能である。したがって、上記の酸化物焼結体の組成は、当該酸化物焼結体が後述する体積抵抗率についての条件を満たしさえすれば、ターゲットT1についての説明の中で述べたように、目的とする透明導電膜の電気的特性に応じて適宜選択可能である。電気抵抗の経時安定性の高い透明導電膜を得るうえからは、上記の酸化物焼結体におけるインジウム(In)の原子比In/(In+Sn+全金属原子)を60〜95at%、錫(Sn)の原子比Sn/(In+Sn+全金属原子)を2.8〜20at%とすることが特に好ましい。
【0029】
本発明のターゲットT2は、組成的には上記の酸化物焼結体からなり、その体積抵抗率は、前述したターゲットT1におけると同じ理由から5×10-2Ω・cm以下に限定され、当該体積抵抗率は2×10-2Ω・cm以下であることが好ましく、1×10-2Ω・cm以下であることが特に好ましい。
【0030】
酸化物焼結体の体積抵抗率を5×10-2Ω・cm以下にするうえからは、前述したターゲットT1におけると同様に、純度が99%以上の素原料を用いて相対密度が80%以上である酸化物焼結体を得ることが好ましい。前記素原料の純度は99.9%以上であることがより好ましく、99.99%以上であることが更に好ましい。また、酸化物焼結体の相対密度は90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。焼結後の酸化物焼結体の体積抵抗率が5×10-2Ω・cmを超える場合には、前述したターゲットT1を得る場合と同様に、焼結後に真空中または還元雰囲気中でアニーリング処理を行って前記の酸化物焼結体を還元することにより、体積抵抗率が5×10-2Ω・cm以下の酸化物焼結体を得ることができる。なお、酸化物焼結体の相対密度を80%以上にすることは、十分な製膜速度を確保するうえからも、また、光透過性の高い透明導電膜を得るうえからも好適である。
【0031】
前述した組成および上述した体積抵抗率を有する酸化物焼結体からなる本発明のターゲットT2も、当該ターゲットT2の体積抵抗率が5×10-2Ω・cm以下であることから、直流スパッタリング法によって透明導電膜を製膜するためのターゲットとして用いた場合でも、製膜時に異常放電が誘発されたりターゲットに割れが発生したりすることが起こりにくく、安定した製膜が可能である。また、直流スパッタリング法以外のスパッタリング法、例えば高周波スパッタリング法等によって透明導電膜を製膜する場合でも、安定した製膜が可能である。
【0032】
本発明のターゲットT2を用いたスパッタリング法によって得られる膜は、インジウム(In)および錫(Sn)と、前述した群より選択された金属元素と、酸素(O)とを構成元素とし、インジウム(In)の原子比In/(In+Sn+全金属原子)が概ね60〜95at%、錫(Sn)の原子比Sn/(In+Sn+全金属原子)が概ね2.5〜20at%、インジウム(In)と錫(Sn)との合量の原子比(In+Sn)/(In+Sn+全金属原子)が概ね62.5〜98.2at%、前記の群より選択された金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+全金属原子)が概ね1.8〜37.5at%である酸化物膜である。この酸化物膜における可視光の透過率はその膜厚が200nmのときに概ね85%以上であるので、当該酸化物膜は、その膜厚を200nm以下にすることにより透明導電膜として好適に使用することが可能になる。
【0033】
そして、この透明導電膜の比抵抗は、酸素も含めてその組成を適宜調整することにより、換言すれば上記本発明のターゲットT2の組成および製膜条件を適宜調整することにより、膜厚が12nmのときに概ね9.6×10-4〜1.2×10-2Ω・cm、膜厚が200nmのときに概ね1.6×10-2〜2.0×10-1Ω・cmとすることが可能であるので、その膜厚が12〜200nmのときのシート抵抗を概ね800Ω/□〜10kΩ/□とすることが可能である。このように高い電気抵抗を有する透明導電膜は、入力精度が向上したアナログ式のタッチパネルを得るための透明電極膜として特に好適である他、電磁波シールド材等としても好適である。
本発明のターゲットT2は種々の方法により製造することが可能であるが、後述する本発明の方法IIにより製造することが好ましい。
【0034】
次に、本発明の方法Iについて説明する。
本発明の方法Iは、前述したように、インジウム(In)酸化物と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),タンタル(Ta),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素についての酸化物との混合酸化物を得る原料調製工程と、前記原料調製工程で得られた混合酸化物を成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形物を焼結する焼結工程とを含んでいる。
以下、原料調製工程、成形工程および焼結工程の順で説明する。
【0035】
(1) 原料調製工程
この工程では、インジウム(In)酸化物と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),タンタル(Ta),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素についての酸化物との混合酸化物を得る。この混合酸化物の平均粒径は、後述する造粒処理を行わない場合には0.01〜10μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがより好ましい。後述する造粒処理を行わない場合、混合酸化物の平均粒径が0.01μm未満では凝集が起こり易く、10μmを超えると混合性が低下し、また、緻密な焼結体を得ることが困難になる。
【0036】
上記の混合酸化物を得るにあたっては、酸素を除いた各成分(インジウム(In)と上記の群より選択された金属元素)についての酸化物,塩化物,無機酸塩,水酸化物等を素原料として用いることができる。各素原料の純度は99%以上であることが好ましく、より好ましくは99.9%以上、特に好ましくは99.99%以上である。素原料の純度が99%未満では、緻密な酸化物焼結体を得ることが困難になったり、目的とする体積抵抗率を有する酸化物焼結体を得ることが困難になる。
【0037】
各成分の素原料として酸化物を用いる場合には、目的とする組成のターゲットT1が得られるように各酸化物(素原料)の粉末を所定量づつボールミル,ジェットミル,パールミル等の混合器に入れ、これらを粉砕・混合することにより目的とする混合酸化物を得ることができる。このとき、粉砕・混合の時間は1〜100時間が好ましく、より好ましくは5〜50時間、特に好ましくは10〜50時間である。1時間未満では混合が不十分になり易く、100時間を超えると経済的でない。粉砕・混合時の温度について特別な制限はないが、室温が好ましい。
【0038】
また、各成分の素原料として酸化物以外の物質を用いる場合には、目的とする組成のターゲットT1が得られるように前記の素原料を所定量づつボールミル,ジェットミル,パールミル等の混合器に入れて粉砕・混合して混合物を得た後に当該混合物を仮焼し、得られた仮焼物を前記の混合器等によって粉砕することにより目的とする混合酸化物を得ることができる。このときの仮焼温度および仮焼時間は素原料の種類にもよるが、概ね800〜1600℃で1〜100時間が好ましい。800℃未満または1時間未満では素原料の熱分解が不十分となり易く、1600℃を超えるかまたは100時間を超えた場合には素原料が焼結して粒子の粗大化が起こり易くなる。より好ましい仮焼温度および仮焼時間は1000〜1300℃で2〜50時間である。
【0039】
上述した仮焼・粉砕処理は1回でもよいし、仮焼物を粉砕して得た混合酸化物について更に仮焼・粉砕を行うという操作を所望回数行ってもよい。また、各成分の素原料として酸化物を用いて上述した仮焼・粉砕処理を行うことによって、目的とする混合酸化物を得てもよい。
【0040】
仮焼の対象物が一旦得た混合酸化物である場合や素原料としての酸化物である場合の仮焼温度および仮焼時間も概ね800〜1600℃で1〜100時間が好ましい。800℃未満または1時間未満では素原料の熱分解が不十分となり易く、1600℃を超えるかまたは100時間を超えた場合には素原料が焼結して粒子の粗大化が起こり易くなる。より好ましい仮焼温度および仮焼時間は1000〜1300℃で2〜50時間である。
【0041】
また、目的とする混合酸化物は、上述のようにして得た混合酸化物を造粒することによっても、あるいは各成分の素原料を造粒することによっても、調製することができる。この造粒は、スプレードライ法等の常法により行うことができる。造粒をスプレードライ法で行う場合には、前記の混合酸化物もしくは素原料についての水溶液またはアルコール溶液等にポリビニルアルコール等のバインダーを添加した溶液を用いる。造粒条件は溶液濃度、バインダーの添加量によっても異なるが、造粒物の平均粒径が1〜100μm、好ましくは5〜100μm、特に好ましくは10〜100μmになるように調節する。この造粒を行うことにより成形時の流動性や充填性を改善することが可能であるが、造粒物の平均粒径が100μmを超えると成形時の流動性や充填性が悪く、造粒の効果がない。
【0042】
(2) 成形工程
この工程では、上記の原料調製工程で得た混合酸化物を、焼結に先立って所望形状に成形する。成形は金型成形,鋳込み成形,射出成形,加圧成形等により行うことができるが、相対密度の高い焼結体を得るうえからはCIP(冷間静水圧),HIP(熱間静水圧)等の方法で加圧成形することが好ましい。
成形体の形状はターゲットとして好適な各種形状とすることができる。また、成形助剤にポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等を用いてもよい。成形圧力は10kg/cm2 〜100t/cm2 が好ましく、より好ましくは100kg/cm2 〜100t/cm2 である。また成形時間は10分〜10時間が好ましい。成形圧力が10kg/cm2 未満である場合や成形時間が10分未満である場合には、相対密度の高い焼結体を得ることが困難になる。
【0043】
(3)焼結工程
この工程では、上記の成形工程で得た成形物を焼結して酸化物焼結体を得る。焼結方法としてはHIP焼結,ホットプレス焼結,常圧焼結等を適用することができるが、経済性の面からは常圧焼結が好ましい。
焼結温度は1200〜1600℃が好ましく、より好ましくは1250〜1550℃、更に好ましくは1300〜1500℃である。1200℃未満では十分な相対密度を有する酸化物焼結体を得ることが困難なため、後述するアニーリングを施しても目的とする体積抵抗率を有する酸化物焼結を得ることが困難である。また、1600℃を超えると組成のずれが生じ易くなる。
焼結時間は焼結温度にもよるが、1〜50時間が好ましく、より好ましくは2〜30時間、特に好ましくは3〜20時間である。1時間未満では焼結が十分に行われず、50時間を超えると経済的でない。焼結時の雰囲気は空気または還元雰囲気である。還元雰囲気としては、H2 ,メタン,CO等の還元性ガス雰囲気、Ar,N2 等の不活性ガス雰囲気が挙げられる。
【0044】
以上説明した原料調製工程、成形工程および焼結工程を経て得た酸化物焼結体の体積抵抗率が5×10-2Ω・cmを超えている場合には、以下に述べるアニーリング工程を行うことにより、体積抵抗率が5×10-2Ω・cm以下の酸化物焼結体を得ることができる。
【0045】
・アニーリング工程
この工程では、上記の焼結工程で得られた酸化物焼結体の体積抵抗率が5×10-2Ω・cmを超えている場合に、当該酸化物焼結体を還元することによってその体積抵抗率を低下させて、目的とする体積抵抗率を有する酸化物焼結体を得る。アニーリングは、焼結炉,ホットプレス還元炉等の炉中で真空下または還元雰囲気下に行われる。還元雰囲気としては、H2 ,メタン,CO等の還元性ガス、Ar,N2 等の不活性ガスの雰囲気が挙げられる。
【0046】
真空下にアニーリングを行う場合のアニーリング温度は200〜1000℃が好ましく、より好ましくは200〜700℃、更に好ましくは200〜500℃である。200℃未満では十分な還元が行われず、1000℃を超えると焼結体中のインジウム酸化物あるいは亜鉛酸化物の昇華が起り、組成のずれを生じる。アニーリング時間は1〜50時間が好ましく、より好ましくは2〜30時間、更に好ましくは3〜20時間である。1時間未満では十分な還元が行われず、50時間を超えると経済的でない。
【0047】
また、還元雰囲気下にアニーリングを行う場合のアニーリング温度は200〜1000℃が好ましく、より好ましくは300〜1000℃、更に好ましくは400〜1000℃である。200℃未満では十分な還元が行われず、1000℃を超えると経済的でない。アニーリング時間は上記と同様に1〜50時間が好ましく、より好ましくは2〜30時間、更に好ましくは3〜20時間である。
上述のようにしてアニーリングした後の焼結体は、アニーリング前に比べてその色が黒色化する。
【0048】
前述した原料調製工程、成形工程および焼結工程を行うことにより、または、前述した焼結工程まで行った後に必要に応じて上記のアニーリング工程を行うことにより、目的とする本発明のターゲットT1を得ることができる。このターゲットT1は、体積抵抗率が5×10-2Ω・cm以下であることから、直流スパッタリング法によって製膜を行う際のターゲットとして用いた場合にも異常放電が誘発されたり割れが生じたりしにくいものである。また、当該ターゲットT1は、シート抵抗が800Ω/□〜10kΩ/□の透明導電膜を直流スパッタリング法や高周波スパッタリング法等のスパッタリング法によって安定して製膜することが可能なターゲットである。
【0049】
次に、本発明の方法IIについて説明する。
本発明の方法IIは、前述したように、インジウム(In)酸化物および錫(Sn)酸化物と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),タンタル(Ta),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素についての酸化物との混合酸化物を得る原料調製工程と、前記原料調製工程で得られた混合酸化物を成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形物を焼結する焼結工程とを含んでいる。
【0050】
方法IIは、原料調製工程で得る混合酸化物が、インジウム(In)酸化物と上記の群より選択された少なくとも1種の金属元素についての酸化物との他に錫(Sn)酸化物を含んでいる点で前述した方法Iと異なるが、この点を除けば、原料調製工程、成形工程および焼結工程はそれぞれ前述した方法Iと同様にして行われる。したがって、新たに加わった錫(Sn)酸化物についてのみここでは詳しく説明し、原料調製工程における他の点ならびに成形工程、焼結工程および必要に応じて行うアニーリング工程の詳細については省略する。
【0051】
方法IIでは、原料調製工程において上記の錫(Sn)酸化物を含んでいる混合酸化物を得るわけであるが、当該混合酸化物を得るにあたっては、インジウム(In)酸化物についての素原料および上記の群より選択された少なくとも1種の金属元素についての酸化物の素原料の他に、錫(Sn)についての酸化物,塩化物,無機酸塩,水酸化物等を前記錫(Sn)酸化物の素原料として用い、目的とする組成のターゲットT2が得られるようにこれらの素原料をそれぞれ所定量づつ使用する。方法IIにおいて使用する各素原料の純度は、前述した方法Iにおけると同じ理由から99%以上であることが好ましく、より好ましくは99.9%以上、特に好ましくは99.99%以上である。
【0052】
原料調製工程、成形工程および焼結工程を経て得た酸化物焼結体の体積抵抗率が5×10-2Ω・cmを超えている場合には、前述した方法Iにおけると同様に、アニーリング工程を行うことにより体積抵抗率が5×10-2Ω・cm以下の酸化物焼結体を得ることができる。このアニーリング工程は、方法Iにおけると同様にして行うことができる。
【0053】
原料調製工程、成形工程および焼結工程を行うことにより、または、焼結工程まで行った後に必要に応じて上記のアニーリング工程を行うことにより、目的とする本発明のターゲットT2を得ることができる。このターゲットT2は、前述したターゲットT1と同様に体積抵抗率が5×10-2Ω・cm以下であることから、直流スパッタリング法によって製膜を行う際のターゲットとして用いた場合にも異常放電が誘発されたり割れが生じたりしにくいものである。また、当該ターゲットT2は、シート抵抗が800Ω/□〜10kΩ/□の透明導電膜を直流スパッタリング法や高周波スパッタリング法等のスパッタリング法によって安定して製膜することが可能なターゲットである。
【0054】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
実施例1
(1)原料の調製
表1に示すように、純度99.8%の酸化インジウム(In23)粉末(平均粒径1μm)268gと純度99.5%の酸化チタン(TiO2)粉末(平均粒 径1μm)32gとを素原料として用い、これらをエタノールおよびアルミナボールと共にポリイミド製ポットに入れ、遊星ボールミルで2時間混合した。
得られた混合粉末を空気雰囲気中、1000℃で5時間仮焼した後、得られた焼成物を再びエタノールおよびアルミナボールと共にポリイミド製ポットに入れ、遊星ボールミルで2時間粉砕した。
上述のようにして得られた粉末に水とポリビニルアルコールを添加し、混合した後、スプレードライヤーで造粒して、インジウム酸化物とチタン酸化物とからなる平均粒径10μmの混合酸化物を得た。
【0055】
(2)成形
上記の混合酸化物粉末を金型に入れ、金型プレス成形機により100kg/cm2 の圧力で予備成形を行った後、冷間静水圧プレス成型機で4t/cm2 の圧力で圧密化して、直径4.1インチ,厚さ5.3mmの円板状を呈する成形物を得た。
【0056】
(3)焼結
上記の成形物を焼結炉に入れ、空気雰囲気中1500℃で4時間常圧焼結して、酸化物焼結体を得た。
次に、この酸化物焼結体の表面研磨を行ってその大きさを直径4インチ,厚さ5mmとし、これによって目的とする酸化物焼結体からなるターゲット(相対密度95%;ターゲットT1の1つ)を得た。
上記のターゲットから20mm×40mm×5mmのテストピースを切り出し、その体積抵抗率を四端子法により測定した。また、このテストピースを用いて、セイコー電子工業(株)製のSPS−1500VRを用いたICP分析(誘導結合プラズマ発光分光分析)によりその組成分析を行い、この結果に基づいてインジウム(In)の原子比In/(In+Ti)およびチタン(Ti)の原子比Ti/(In+Ti)を求めた。これらの結果を表2に示す。
【0057】
(4)ターゲットの寿命試験
上記(1)〜(3)と同様にして直径4インチ,厚さ5mmの円板状を呈する酸化物焼結体からなるターゲットを作製し、このターゲットを用いての直流マグネトロンスパッタリングをターゲット印加電力5W/cm2 の条件で連続100時間行い、この間における異常放電の誘発の有無およびターゲットの割れの有無を観察した。
このとき、ターゲットのバッキングプレートとしては銅製のものを用い、ボンディング材としてはインジウム金属を用いた。なお、異常放電の誘発の有無はチャンバーのビューポートから目視により観察した。また、ターゲットの割れの有無は、異常放電が誘発された場合にはその直後にターゲットを目視検査し、異常放電が誘発されなかった場合には寿命試験後にターゲットを目視検査して、確認するものとした。これらの結果を表3に示す。
【0058】
(5)透明導電膜の製膜
上記(1)〜(3)と同様にして直径4インチ,厚さ5mmの円板状を呈する酸化物焼結体からなるターゲット(ターゲットT1の1つ)を作製し、このターゲットを用いて下記条件の直流マグネトロンスパッタリングにより、5cm(縦)×5cm(横)×1mm(厚さ)の大きさの無アルカリガラス(コーニング社製の#7059)上に膜厚15nmの透明導電膜を製膜した。
【0059】
スパッタリング装置 :HSM552(島津製作所(株)製)
ターゲットサイズ :直径4インチ,厚さ5mm
放電形式 :直流マグネトロン
放電電流 :0.2A
バックグラウンド圧力 :5×10-4Pa
導入ガス(雰囲気ガス):97vol%Ar+3vol%O2 混合ガス
ガス流量 :10SCCM
プレスパッタ圧力 :2×10-1Pa
プレスパッタ時間 :5分
スパッタリング圧力 :2×10-1Pa
スパッタリング時間 :10秒
基板温度 :室温
【0060】
上述の条件で得られた透明導電膜について、そのシート抵抗および比抵抗を求めた。これらの結果を表3に併記する。なお、透明導電膜の膜厚はスローン社製のDEKTAK3030を用いた触針法により測定し、そのシート抵抗は三菱油化社製のロレスタFPを用いた四端子法により測定し、その比抵抗はシート抵抗に膜厚を乗じることにより算出した。
さらに、上記の透明導電膜について、大気中において130℃,400時間の条件の耐熱試験を行い、試験前のシート抵抗R0 に対する試験後のシート抵抗Rの値R/R0 を求めた。この結果を表3に併記する。
【0061】
実施例2〜実施例14
素原料として表1に示すものを用いた以外は実施例1(1)〜(3)と同様にして原料の調製、成形および焼結を行って、実施例毎に目的とする酸化物焼結体からなるターゲット(ターゲットT1の1つ)を計2枚ずつ得た。◎
これらのターゲットについて、実施例毎に2枚のターゲットうちの一方を用いてその体積抵抗率の測定および組成分析を実施例1と同様にして行い、他方のターゲットを用いてその寿命試験および当該ターゲットを用いての透明導電膜の製膜を実施例1(4)または(5)と同様にして行い、更に、各透明導電膜については実施例1で求めたと同じ項目を実施例1と同様にして求めた。これらの結果を表2または表3に示す。
【0062】
実施例15
仮焼・粉砕処理とスプレードライヤーでの造粒処理をそれぞれ省いたこと以外は実施例1(1)〜(3)と同様にして原料の調製、成形および焼結を行って、目的とする酸化物焼結体からなるターゲット(ターゲットT1の1つ)を計2枚得た。
これらのターゲットのうちの一方を用いてその体積抵抗率の測定および組成分析を実施例1と同様にして行い、他方のターゲットを用いてその寿命試験および当該ターゲットを用いての透明導電膜の製膜を実施例1(4)または(5)と同様にして行い、更に、透明導電膜については実施例1で求めたと同じ項目を実施例1と同様にして求めた。これらの結果を表2または表3に示す。
【0063】
実施例16
焼結温度を1200℃とした以外は実施例1(1)〜(3)と同様にして原料の調製、成形および焼結を行い、焼結後さらに真空焼結炉を用いて真空中950℃で2時間熱処理することによりアニーリングを行って、目的とする酸化物焼結体からなるターゲット(ターゲットT1の1つ)を計2枚得た。
これらのターゲットのうちの一方を用いてその体積抵抗率の測定および組成分析を実施例1と同様にして行い、他方のターゲットを用いてその寿命試験および当該ターゲットを用いての透明導電膜の製膜を実施例1(4)または(5)と同様にして行い、更に、透明導電膜については実施例1で求めたと同じ項目を実施例1と同様にして求めた。これらの結果を表2または表3に示す。
【0064】
実施例17
表1に示すように、純度99.8%の酸化インジウム(In23)粉末(平均粒径1μm)250gと純度99.5%の酸化チタン(TiO2)粉末(平均粒 径1μm)20gと純度99.5%の酸化錫(SnO2)粉末(平均粒径1μm)30gとを素原料として用い、他は実施例1(1)〜(3)と同様にして原料の調製、成形および焼結を行って、目的とする酸化物焼結体からなるターゲット(ターゲットT2の1つ)を計2枚得た。
これらのターゲットのうちの一方を用いてその体積抵抗率の測定および組成分析を実施例1と同様にして行い、他方のターゲットを用いてその寿命試験および当該ターゲットを用いての透明導電膜の製膜を実施例1(4)または(5)と同様にして行い、更に、透明導電膜については実施例1で求めたと同じ項目を実施例1と同様にして求めた。これらの結果を表2または表3に示す。
【0065】
比較例1
表1に示すように酸化インジウム(In23)粉末として純度が90.5%のものを用い、他は実施例1(1)〜(3)と同様にして原料の調製、成形および焼結を行って、酸化物焼結体からなるターゲットを計2枚得た。
これらのターゲットのうちの一方を用いてその体積抵抗率の測定および組成分析を実施例1と同様にして行ったところ、表2に示すように体積抵抗率が本発明の限定範囲外のものであった。体積抵抗率の測定結果および組成分析結果を表2に示す。
また、他方のターゲットを用いてその寿命試験および当該ターゲットを用いての透明導電膜の製膜を実施例1(4)または(5)と同様にして行い、透明導電膜については実施例1で求めたと同じ項目を実施例1と同様にして求めた。これらの結果を表3に示す。
【0066】
比較例2
焼結温度を800℃とした以外は実施例1(1)〜(3)と同様にして原料の調製、成形および焼結を行って、酸化物焼結体からなるターゲットを計2枚得た。
これらのターゲットのうちの一方を用いてその体積抵抗率の測定および組成分析を実施例1と同様にして行ったところ、上記のようにして得たターゲットはその相対密度が75%(表2参照)と低いことから、表2に示すように体積抵抗率が本発明の限定範囲外のものであった。体積抵抗率の測定結果および組成分析結果を表2に示す。
また、他方のターゲットを用いてその寿命試験および当該ターゲットを用いての透明導電膜の製膜を実施例1(4)または(5)と同様にして行い、透明導電膜については実施例1で求めたと同じ項目を実施例1と同様にして求めた。これらの結果を表3に示す。
【0067】
比較例3
表1に示すように酸化インジウム(In23)粉末の使用量を298gとし、かつ、酸化チタン(TiO2)粉末の使用量を2gとし、他は実施例1(1)〜 (3)と同様にして原料の調製、成形および焼結を行って、酸化物焼結体からなるターゲットを計2枚得た。
これらのターゲットのうちの一方を用いてその体積抵抗率の測定および組成分析を実施例1と同様にして行ったところ、表2に示すように、上記のようにして得たターゲットは体積抵抗率およびチタン(Ti)の原子比が共に本発明の限定範囲外のものであった。体積抵抗率の測定結果および組成分析結果を表2に示す。
また、他方のターゲットを用いてその寿命試験および当該ターゲットを用いての透明導電膜の製膜を実施例1(4)または(5)と同様にして行い、透明導電膜については実施例1で求めたと同じ項目を実施例1と同様にして求めた。これらの結果を表3に示す。
【0068】
比較例4
表1に示すように酸化インジウム(In23)粉末の使用量を191gとし、かつ、酸化チタン(TiO2)粉末の使用量を109gとし、他は実施例1(1 )〜(3)と同様にして原料の調製、成形および焼結を行って、酸化物焼結体からなるターゲットを計2枚得た。
これらのターゲットのうちの一方を用いてその体積抵抗率の測定および組成分析を実施例1と同様にして行ったところ、表2に示すように、上記のようにして得たターゲットはチタン(Ti)の原子比が本発明の限定範囲外のものであった。体積抵抗率の測定結果および組成分析結果を表2に示す。
また、他方のターゲットを用いてその寿命試験および当該ターゲットを用いての透明導電膜の製膜を実施例1(4)または(5)と同様にして行い、透明導電膜については実施例1で求めたと同じ項目を実施例1と同様にして求めた。これらの結果を表3に示す。
【0069】
【表1】
Figure 0003803132
【0070】
【表2】
Figure 0003803132
【0071】
【表3】
Figure 0003803132
【0072】
表3に示したように、実施例1〜実施例17で作製した各ターゲットは、直流マグネトロンスパッタリングによって透明導電膜を製膜するためのターゲットして用いた場合でも、異常放電の誘発やターゲットの割れを起こしにくいものである。これは、各ターゲットの体積抵抗率が0.8×10-2〜3.9×10-2Ω・cmと低い(表2参照)からである。
【0073】
また、実施例1〜実施例17で製膜した各透明導電膜は、表3に示したように比抵抗が1.0×10-3〜9.4×10-3Ω・cmと高く、そのシート抵抗も0.8kΩ/□〜8.2kΩ/□と高い。このような電気的特性を有する実施例1〜実施例17の各透明導電膜は、抵抗変化率R/R0 が1.1〜1.3と低い(表3参照)ことと相俟って、入力精度が向上したアナログ式のタッチパネルを得るための透明電極膜またはその材料等として好適なものである。
【0074】
一方、表3に示したように、比較例1および比較例3で作製した各ターゲットは、直流マグネトロンスパッタリング用のターゲットとして用いた場合には連続18時間または50時間スパッタリングを行った後に異常放電の誘発およびターゲットの割れが起こり、長時間の製膜には耐えられない。したがって、これらのターゲットを用いた直流マグネトロンスパッタリングによって透明導電膜を製膜する場合には、ターゲットを頻繁に交換する必要が生じ、生産上、非効率的である。
【0075】
比較例1および比較例3で作製した各ターゲットを用いた直流マグネトロンスパッタリングにおいて異常放電の誘発およびターゲットの割れが起こるのは、これらのターゲットの体積抵抗率が20.0×10-2Ω・cmまたは7.3×10-2Ω・cmと高いことに起因している。そして、比較例1で作製したターゲットの体積抵抗率が20.0×10-2Ω・cmと高いのは、素原料として用いた酸化インジウム(In23)粉末の純度が90.5%と低いことに起因しているものと推察され、比較例3で作製したターゲットの体積抵抗率が7.3×10-2Ω・cmと高いのは、チタン(Ti)の原子比が1.2at%と低かったことに起因しているものと推察される。
【0076】
また、比較例2で作製したターゲットは体積抵抗率が61.3×10-2Ω・cmと極めて高く、DC放電そのものが起こらなかった。比較例2で作製したターゲットの体積抵抗率が61.3×10-2Ω・cmと高いのは、焼結温度が800℃と低かったことからその相対密度が75%という低い値にとどまったことに起因しているものと推察される。
【0077】
比較例4で作製したターゲットは体積抵抗率が0.2×10-2Ω・cmと低く、直流マグネトロンスパッタリングのターゲットとして用いた場合でも異常放電の誘発およびターゲットの割れが起こりにくいものであるが、このターゲットを用いたときに得られる透明導電膜の比抵抗は0.6×10-3Ω・cmと低い。したがって、シート抵抗が800Ω/□以上の透明導電膜を得るためにはその膜厚を8nm以下にする必要があり、このように薄い膜は島状構造の域を脱しないため、実用的でない。また、表3に示した抵抗変化率R/R0 の値から明らかなように、当該透明導電膜は耐熱性の低い膜であり、この点からも実用的でない。
【0078】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によればシート抵抗が概ね800Ω/□〜10kΩ/□と高い透明導電膜を生産上有利な直流スパッタリング法によって安定して製膜することが可能になる。

Claims (9)

  1. インジウム(In)と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素と、酸素(O)とを構成元素とし、前記群より選択された金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+全金属原子)が16.9〜40at%である酸化物焼結体からなり、体積抵抗率が0.5×10−2〜5×10−2Ω・cmであることを特徴とするターゲット。
  2. インジウム(In)および錫(Sn)と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素と、酸素(O)とを構成元素とし、前記インジウム(In)の原子比In/(In+Sn+全金属原子)が60〜95at%、前記錫(Sn)の原子比Sn/(In+Sn+全金属原子)が2.8〜20at%、前記インジウム(In)と前記錫(Sn)との合量の原子比(In+Sn)/(In+Sn+全金属原子)が62.8〜98at%、前記群より選択された金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+Sn+全金属原子)が11.2〜37.2at%である酸化物焼結体からなり、体積抵抗率が1.3×10−2〜5×10−2Ω・cmであることを特徴とするターゲット。
  3. インジウム(In)酸化物と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素についての酸化物との混合酸化物を得る原料調製工程と、
    前記原料調製工程で得られた混合酸化物を成形する成形工程と、
    前記成形工程で得られた成形物を焼結する焼結工程と
    を含み、
    インジウム(In)と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素と、酸素(O)とを構成元素とし、前記群より選択された金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+全金属原子)が16.9〜40at%で、体積抵抗率が0.5×10−2〜5×10−2Ω・cmである酸化物焼結体からなるターゲットを得ることを特徴とするターゲットの製造方法。
  4. インジウム(In)酸化物および錫(Sn)酸化物と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素についての酸化物との混合酸化物を得る原料調製工程と、
    前記原料調製工程で得られた混合酸化物を成形する成形工程と、
    前記成形工程で得られた成形物を焼結する焼結工程と
    を含み、
    インジウム(In)および錫(Sn)と、チタン(Ti),イリジウム(Ir),イットリウム(Y),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),コバルト(Co),ビスマス(Bi)およびマンガン(Mn)からなる群より選択された少なくとも1種の金属元素と、酸素(O)とを構成元素とし、前記インジウム(In)の原子比In/(In+Sn+全金属原子)が60〜95at%、前記錫(Sn)の原子比Sn/(In+Sn+全金属原子)が2.8〜20at%、前記インジウム(In)と前記錫(Sn)との合量の原子比(In+Sn)/(In+Sn+全金属原子)が62.8〜98at%、前記群より選択された金属元素の総量の原子比(全金属原子)/(In+Sn+全金属原子)が11.2〜37.2at%で、体積抵抗率が1.3×10−2〜5×10−2Ω・cmである酸化物焼結体からなるターゲットを得ることを特徴とするターゲットの製造方法。
  5. 原料調製工程において、純度が99%以上である素原料を用いて混合酸化物を得る、請求項3または請求項4に記載の方法。
  6. 原料調製工程において、所定の原料組成物を仮焼して仮焼物を得た後に該仮焼物を粉砕して粉末状の混合酸化物を得る仮焼・粉砕処理および/または所定の原料組成物を造粒して粒状の混合酸化物を得る造粒処理を行う、請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 焼結工程での焼結温度が1200〜1600℃である、請求項3〜請求項6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 焼結工程で得た焼結体をアニーリングするアニーリング工程を含む、請求項3〜請求項7のいずれか1項に記載の方法。
  9. アニーリング工程でのアニーリング温度が200〜1000℃である、請求項8に記載の方法。
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