JP3841388B2 - 光ディスク用保護膜及び光ディスクの保護膜形成用スパッタリングターゲット - Google Patents
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Description
本発明は、光ディスク用保護膜(「層」として表現される材料を含む。以下同様。)に関し、スパッタリングによって膜を形成する際に発生するパーティクルを減少させることができ、形成された膜の可視光域の透過率が高く、かつ低反射率を有する光ディスク、特に相変化型光ディスクに好適な光ディスク用保護膜及び光ディスクの保護膜形成用スパッタリングターゲットに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高密度記録光ディスクは、磁気ヘッドを必要とせずに記録・再生ができるので関心が急速に高まっている。
この光ディスクは再生専用型、追記型、書き換え型の3種類に分けられるが、特に追記型又は書き換え型で使用されている相変化方式が注目されている。この相変化型光ディスクを用いた記録・再生の原理を以下に簡単に説明する。
【0003】
相変化光ディスクは、基板上の記録薄膜をレーザー光の照射によって加熱昇温させ、その記録薄膜の構造に結晶学的な相変化(アモルファス⇔結晶)を起こさせて情報の記録・再生を行うものであり、より具体的にはその相間の光学定数の変化に起因する反射率の変化を検出して情報の再生を行なうものである。
上記の相変化は1〜数μm程度の径に絞ったレーザー光の照射によって行なわれる。この場合、例えば1μmのレーザービームが10m/sの線速度で通過するとき、光ディスクのある点に光が照射される時間は100nsであり、この時間内で上記相変化と反射率の検出を行なう必要がある。
また、上記結晶学的な相変化すなわちアモルファスと結晶との相変化を実現する上で、溶融と急冷が光ディスクの相変化記録層だけでなく、これらの熱が周辺の保護膜やアルミニウム合金の反射膜にも繰返し付与されることになる。
【0004】
このようなことから相変化光ディスクは図1に示すように、Ge−Sb−Te系等の記録薄膜層4の両側をZnS・SiO2 系の高融点誘電体の保護膜3、5で挟み、さらにアルミニウム合金反射膜6を設けた四層構造となっている。
このなかで反射膜6と保護膜3、5はアモルファス部と結晶部との吸収を増大させ反射率の差が大きい光学的機能が要求されるほか、記録薄膜層4の耐湿性や熱による変形の防止機能、さらには記録の際の熱的条件の制御という機能が要求される(雑誌「光学」26巻1号頁9〜15参照)。
【0005】
このように、高融点の保護膜3、5は昇温と冷却による熱の繰返しストレスに対して耐性をもち、さらにこれらの熱影響が反射膜や他の箇所に影響を及ぼさないようにし、かつそれ自体も薄く、低反射率でかつ変質しない強靭さが必要である。この意味において保護膜3、5は重要な役割を有する。
なお、図1において符号1はレーザー入射方向、符号2はポリカーボネート等の基板、符号7はオーバーコート、符号8は接着層をそれぞれ示す。
【0006】
上記保護膜3、5は、通常スパッタリング法によって形成されている。このスパッタリング法は正の電極と負の電極とからなるターゲットとを対向させ、不活性ガス雰囲気下でこれらの基板とターゲットの間に高電圧を印加して電場を発生させるものであり、この時電離した電子と不活性ガスが衝突してプラズマが形成され、このプラズマ中の陽イオンがターゲット(負の電極)表面に衝突してターゲット構成原子を叩きだし、この飛び出した原子が対向する基板表面に付着して膜が形成されるという原理を用いたものである。
【0007】
上記保護膜を形成するためのターゲットとしては、従来SiO2粉末とZnS粉末との混合粉を焼結して製造されたZnS−SiO2スパッタリングターゲットが使用されていた。
ZnS−SiO2 ターゲットを用いてスパッタリングし薄膜を形成していく段階で、ある一定量以上を被覆するとパーティクルと言われるクラスター状の粗大粒が薄膜上に付着してくるようになる。このパーティクルはスパッタチャンバ内の壁や種々の機器にスパッタリングによる飛沫粒子が付着堆積したもので、それが一定量を超えると剥がれ出し、かつそれがスパッタチャンバ内に浮遊し、さらに基板あるいは薄膜に再付着したものが主な原因である。
【0008】
このようなパーティクルは薄膜の特性を著しく悪化させるので、これが基板または薄膜上に多く析出してきた段階で、一旦スパッタリングを中止し、スパッタチャンバを解放して、該チャンバ内の壁や種々の機器からパーティクルの原因となる膜の堆積物を清掃する必要があった。
これは著しく生産性を低下させるものである。この膜の堆積物がチャンバ内の壁や種々の機器に付着する要因は必ずしも明確に把握されている訳ではないが、ZnS−SiO2ターゲットの製造工程、すなわちSiO2粉末とZnS粉末の混合焼結の段階においても、因果関係があることが予想されたが、従来それ以上の解決策を見いだすに至っていなかった。
【0009】
また、スパッタリングによって形成される保護膜はなるべく低反射率であることが要求されていたが、ZnS−SiO2ターゲットの製造工程の段階でその改良が可能であるか否かも十分に検討されてはいなかった。
特に上記従来のZnS−SiO2ターゲットの大きな問題点は、この材料が絶縁体であるために直流スパッタリングができないことである。したがって、高周波スパッタリングなどの効率の悪い方法を採用しなけばならないのであるが、このため必要な膜厚を得るために長時間のスパッタリングが必要となり、本来減少させなければならないパーティクルが、かえって増加するという極めて望ましくない問題が発生した。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の問題点を解決したもので、スパッタリングターゲット材を基本的に見直し、パーティクルの発生を極力減少させ、スパッタリングの中断または中止の回数を減らして生産効率を上げることができる光ディスク用保護膜を得ることを課題とする。
【0011】
すなわち本発明は、1)Nb2O5、V2O5、B2O3、SiO2、P2O5から選択された1種以上のガラス形成酸化物を0.01〜20重量%と、Al2O3又はGa2O3を0.01〜20重量%含有し、残部In2O3、SnO2、ZnOから選択された1種以上の酸化物であることを特徴とする相変化光ディスクの記録層の両側を挟む光ディスク用保護膜、2)ZrO2及び又はTiO2の硬質材料酸化物を0.01〜5重量%含有することを特徴とする上記1)記載の光ディスク用保護膜、3)Nb2O5、V2O5、B2O3、SiO2、P2O5から選択された1種以上のガラス形成酸化物を0.01〜20重量%と、Al2O3又はGa2O3を0.01〜20重量%含有し、残部In2O3、SnO2、ZnOから選択された1種以上の酸化物であることを特徴とする相変化光ディスクの記録層の両側を挟む光ディスクの保護膜成用スパッタリングターゲット、4)ZrO2及び又はTiO2の硬質材料酸化物を0.01〜5重量%含有することを特徴とする上記3)記載の光ディスクの保護膜成用スパッタリングターゲット、を提供する。
【0012】
本発明の光ディスク保護膜を形成するスパッタリングターゲトは、In2O3、SnO2、ZnOから選択された1種以上の酸化物を主成分とし、これにNb2O5、V2O5、B2O3、SiO2、P2O5から選択された1種以上のガラス形成酸化物0.01〜20重量%、Al2O3及び又はGa2O30.1〜20重量%、また必要に応じてZrO2及び又はTiO2の硬質材料酸化物0.01〜5重量%を含有するものであり、それぞれの粉末を混合しホットプレス又はHIP等により焼結することにより製造する。
【0013】
Nb2O5、V2O5、SiO2、B2O3及びP2O5の成分の内から選択した少なくとも1成分を0.01〜20wt%添加するのは、この0.01〜20wt%の添加により、効果的に結晶化を抑制することができ、安定した光ディスク保護層を形成することができるからである。
0.01wt%未満では結晶化を抑制する効果が小さいので添加の効果がなく、20%wtを超えると添加した成分の結晶相が析出するので好ましくない。以上から上記酸化物の添加の範囲は0.1〜20wt%とするのがよい。
【0014】
さらに、Al2O3及び又はGa2O3を0.01〜20重量%添加するが、Al2O3及び又はGa2O3の含有量を0.01〜20wt%とする又は理由は、ターゲットバルク電気抵抗を低下させることにある。
0.01wt%未満ではターゲットバルク電気抵抗を低下させる効果が小さく添加の効果がない。また、20wt%を超えると同様にバルクの電気抵抗が高くなり電気絶縁性の傾向が生じ、また保護層用薄膜の可視光線域での透過率が低下するため好ましくない。0.01〜20wt%の添加がターゲットバルク電気抵抗を低下させる最適な条件である。
また、必要に応じてZrO2及び又はTiO2の硬質材料酸化物を0.01〜5重量%添加して膜に強度を持たせることもできる。
【0015】
以上のIn2O3、SnO2、ZnOから選択された1種以上の酸化物を主成分とする光ディスク保護膜用スパッタリングターゲットは、成膜後の保護膜の可視光線(360〜830nm)域での透過率が80%以上であり、これは光ディスク保護膜として十分な値である。
また、本発明の上記In2O3系、SnO2系及びZnO系光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲットは、従来のZnS−SiO2ターゲットに比べパーティクルの発生を著しく減少させることができた。その理由としてZnO等自体がZnSよりチェンバー内壁や機器への付着力が大きいためと考えられる。
【0016】
このようにしてパーティクルの発生を減少せしめることにより、スパッタリングの中断または中止の回数が減り、煩雑なスパッタチャンバ内の清掃の頻度が減少するので、生産効率を従来に比べて飛躍的に上げることができるという効果を有する。 また、本発明のIn2O3、SnO2、ZnO系光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲットにより、上記に述べたより低反射率の膜が得られるだけでなく、アモルファス部と結晶部との吸収を増大させ反射率の差が大きい光学的機能、記録薄膜の耐湿性や熱による変形の防止機能、さらには記録の際の熱的条件の制御という機能に対し、満足できる良好かつ安定したIn2O3系、SnO2系及びZnO系光ディスク保護膜(層)が再現性良く得ることができることが分かった。
【0017】
【実施例および比較例】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。以下に示す実施例は本発明の好適かつ代表的な実施例である。
【0018】
(実施例1)
光ディスク用保護膜に関する実施例を示す。Al2O3粉2wt%及びNb2O5粉10wt%とを秤量し、残部ZnO粉と共に混合した後、1400°C大気中で焼結しターゲットを作製した。得られたターゲットの密度は5.3g/cm3 であった。
このようにして得たZnO−Al2O3−Nb2O5ターゲットを使用しスパッタリングして基板上に成膜した。スパッタリング条件は次の通りである。
スパッタガス Ar
ガス圧 0.5Pa
基板温度 室温
膜厚 1500オングストローム
【0019】
パーティクルが発生しスパッタチャンバの内壁や機器をクリーニングしなければならない時に至るまでの基板への被覆、すなわち生産枚数を調べたところ、3000枚〜3500枚であった。これは以下に述べる比較例(ZnS−SiO2ターゲット生産枚数)と比べ20%〜40%の生産向上となった。
【0020】
また、上記実施例1のZnO−Al2O3−Nb2O5ターゲットにより成膜した保護膜を300°C及び400°Cに加熱(大気中)した場合の結晶化を見るために、X線回折によるデータを調べた。比較として加熱しない場合も同時にテストした。その結果を図2(a)、(b)及び(c)に示す。
図2(a)は400°Cに加熱した場合、図2(b)は300°Cに加熱した場合、そして図2(c)は加熱していない場合を示す。
この結果から明らかなように、300°C及び400°Cに加熱(大気中)した場合でも、非加熱の場合と同等であり結晶化が全く見られない。すなわち、本発明のターゲットは結晶化のない安定したZnO系光ディスク用保護層を得ることができた。
【0021】
(実施例2)
Al2O3粉2wt%及びSiO2粉5wt%とを秤量し、残部ZnO粉と共に混合した後、1400°C大気中で焼結しターゲットを作製した。得られたターゲットの密度は5.2g/cm3であった。
このようにして得たZnO−Al2O3−SiO2ターゲットを使用してスパッタリングして基板上に成膜し、パーティクルが発生してスパッタチャンバの内壁や機器をクリーニングしなければならない時に至るまでの基板への被覆、すなわち生産枚数を調べたところ、3000枚〜3500枚であった。これは以下に述べる比較例(ZnS−SiO2ターゲット生産枚数)と比べ20%〜40%の生産向上となった。
【0022】
また、上記実施例2のZnO−Al2O3−SiO2ターゲットにより成膜した保護膜を300°Cに加熱(大気中)した場合の結晶化を見るために、X線回折によるデータを調べた。実施例1と同様に結晶化が全く見られない。すなわち、本発明のターゲットは結晶化のない安定したZnO系光ディスク用保護層を得ることができた。
【0023】
(実施例3)
Ga2O3粉2wt%及びNb2O5粉10wt%とを秤量し、残部ZnO粉と共に混合した後、1400°C大気中で焼結しターゲットを作製した。得られたターゲットの密度は5.2g/cm3であった。
このようにして得たZnO−Ga2O3−Nb2O5ターゲットを使用しスパッタリングして基板に成膜し、パーティクルが発生してスパッタチャンバの内壁や機器をクリーニングしなければならない時に至るまでの基板への被覆、すなわち生産枚数を調べたところ、3000枚〜3500枚であった。これは以下に述べる比較例(ZnS−SiO2ターゲット生産枚数)と比べ20%〜40%以上の生産向上となった。
【0024】
また、上記実施例3のZnO−Ga2O3−Nb2O5ターゲットにより成膜した保護膜を300°Cに加熱(大気中)した場合の結晶化を見るために、X線回折によるデータを調べた。実施例1、2と同様に結晶化が全く見られない。すなわち、本発明のターゲットは結晶化のない安定したZnO系光ディスク用保護層を得ることができた。
【0025】
上記実施例においては、ZnOにAl2O3とNb2O5を添加した例、ZnOにAl2O3とSiO2を添加した例及びZnOにGa2O3とNb2O5を添加した例の3例を示たが、その他の酸化物、すなわちV2O5、B2O3及びP2O5を添加した場合、さらにはこれらを複合添加した場合も同等の結果が得られた。
また、ZrO2及びTiO2の内の1又は2を添加した場合にも上記実施例と同様の結果が得られた。上記の実施例は代表的な実施例を示したものである。
上記の実施例1〜3におけるパーティクルが発生してスパッタチャンバの内壁や機器をクリーニングしなければならない時に至るまでの基板への被覆、すなわち生産枚数の調査結果を、下記比較例と対比し、まとめて表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
(比較例)
次に、SiO2粉末20mol%とZnS粉末80mol%とを混合して、Ar雰囲気の下で、1000°C、150Kgf/cm2 でホットプレスを行なった。得られたターゲットの密度は3.4g/cm3 であった。
このようにして得たZnS−SiO2焼結体ターゲットを使用してスパッタリングし、パーティクルが発生してスパッタチャンバの内壁や機器をクリーニングしなければならない時に至るまでの基板への被覆すなわち生産枚数を調べたところ、2500枚であった。これは実施例に比べると30%程度の生産率の減少となった。(表1参照)
さらにスパッタリングにより形成された保護膜の反射率が高く、また透過率も予期していたよりも低いという結果となった。
なお、上記実施例、比較例におけるスパッタリングターゲットの組成と成膜組成とのずれは、いずれの添加成分もターゲット組成の±10%以内であった。
【0028】
本発明の光ディスク保護膜は、従来のZnS−SiO2スパッタリングターゲットに替え、In2O3系、SnO2系、ZnO系光ディスク保護膜用スパッタリングターゲットとすることにより、パーティクルの発生を著しく減少させるとともに皮膜の均一性を向上させ、可視光域での高透過性をもつ保護膜を安定した製造条件で、再現性よく得ることができるという優れた特徴を有している。
そして上記の通り、本発明のターゲットを用いて成膜された光ディスク、特に相変化光ディスクの保護膜は、レーザービームによる相変化記録層の加熱昇温・冷却時に繰返し熱影響を受けるが、このような熱影響を受けても保護膜の特性が損なわれることなく安定した皮膜を形成することができるという優れた効果を有する。
さらに、本発明のIn2O3系、SnO2系、ZnO系ターゲットは上記に述べた通り、より低反射率の膜が得られるだけでなく、アモルファス部と結晶部との吸収を増大させ反射率の差が大きい光学的機能、記録薄膜の耐湿性や熱による変形の防止機能、さらには記録の際の熱的条件の制御という機能に満足できる良好かつ安定した膜が再現性良く得ることができる著しい特徴を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】記録薄膜層構造の断面説明図である。
【図2】実施例のZnO−Al2O3−Nb2O5ターゲットにより成膜した保護膜を300°C及び400°Cに加熱した場合のX線回折結果を示す図である。
【符号の説明】
1 レーザー入射方向
2 ポリカーボネート等の基板
3 ZnS・SiO2 等の誘電体保護膜
4 Ge・Sb・Te等の相変化記録薄膜層
5 ZnS・SiO2 等の誘電体保護膜
6 Al合金反射膜
7 オーバーコート
8 接着層
Claims (2)
- Nb2O5、V2O5、B2O3、SiO2、P2O5から選択された1種以上のガラス形成酸化物を0.01〜20重量%と、Al2O3又はGa2O3を0.01〜20重量%含有し、残部ZnOであることを特徴とする相変化光ディスクの記録層の両側を挟む相変化光ディスク用保護膜。
- ZrO2及び又はTiO2の硬質材料酸化物を0.01〜5重量%含有することを特徴とする請求項1記載の光ディスク用保護膜。
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