JP3788228B2 - 電界放射型電子源 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電界放射により電子線を放射するようにした電界放射型電子源に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、電界放射型電子源として、例えば米国特許3665241号などに開示されているいわゆるスピント(Spindt)型電極と呼ばれるものがある。このスピント型電極は、微小な三角錐状のエミッタチップを多数配置した基板と、エミッタチップの先端部を露出させる放射孔を有するとともにエミッタチップに対して絶縁された形で配置されたゲート層とを備え、真空中にてエミッタチップをゲート層に対して負極として高電圧を印加することにより、エミッタチップの先端から放射孔を通して電子線を放射するものである。
【0003】
しかしながら、スピント型電極は、製造プロセスが複雑であるとともに、多数の三角錐状のエミッタチップを精度良く構成することが難しく、例えば平面発光装置やディスプレイなどへ応用する場合に大面積化が難しいという問題があった。また、スピント型電極は、電界がエミッタチップの先端に集中するので、エミッタチップの先端の周りの真空度が低くて残留ガスが存在するような場合、放射された電子によって残留ガスがプラスイオンにイオン化され、プラスイオンがエミッタチップの先端に衝突するから、エミッタチップの先端がダメージ(例えば、イオン衝撃による損傷)を受け、放射される電子の電流密度や効率などが不安定になったり、エミッタチップの寿命が短くなってしまうという問題が生じる。したがって、スピント型電極では、この種の問題の発生を防ぐために、高真空(約10-5Pa〜約10-6Pa)で使用する必要があり、コストが高くなるとともに、取扱いが面倒になるという不具合があった。
【0004】
この種の不具合を改善するために、MIM(Metal Insulator Metal)方式やMOS(Metal Oxide Semiconductor)型の電界放射型電子源が提案されている。前者は金属−絶縁膜−金属、後者は金属−酸化膜−半導体の積層構造を有する平面型の電界放射型電子源である。しかしながら、このタイプの電界放射型電子源において電子の放射効率を高めるためには(多くの電子を放射させるためには)、上記絶縁膜や上記酸化膜の膜厚を薄くする必要があるが、上記絶縁膜や上記酸化膜の膜厚を薄くしすぎると、上記積層構造の上下の電極間に電圧を印加した時に絶縁破壊を起こす恐れがあり、このような絶縁破壊を防止するためには上記絶縁膜や上記酸化膜の膜厚の薄膜化に制約があるので、電子の放出効率(引き出し効率)をあまり高くできないという不具合があった。
【0005】
また、近年では、特開平8−250766号公報に開示されているように、シリコン基板などの単結晶の半導体基板を用い、その半導体基板の一表面を陽極酸化することにより多孔質半導体層(ポーラスシリコン層)を形成して、その多孔質半導体層上に金属薄膜を形成し、半導体基板と金属薄膜との間に電圧を印加して電子を放射させるように構成した電界放射型電子源(半導体冷電子放出素子)が提案されている。
【0006】
しかしながら、上述の特開平8−250766号公報に記載の電界放射型電子源では、基板が半導体基板に限られるので、大面積化やコストダウン化が難しいという不具合がある。また、特開平8−250766号公報に記載の電界放射型電子源では電子放出時にいわゆるポッピング現象が生じやすく、電子放出量にむらが起こりやすいので、平面発光装置やディスプレイなどに応用すると、発光むらができてしまうという不具合がある。
【0007】
そこで、本願発明者らは、特願平10−272340号、特願平10−272342号において、多孔質多結晶半導体層(例えば、多孔質化された多結晶シリコン層)を急速熱酸化(RTO)技術によって急速熱酸化することによって、導電性基板と金属薄膜(表面電極)との間に介在し導電性基板から注入された電子がドリフトする強電界ドリフト層を形成した電界放射型電子源を提案した。この電界放射型電子源10’は、例えば、図9に示すように、導電性基板たるn形シリコン基板1の主表面(一表面)側に酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に金属薄膜よりなる表面電極7が形成され、n形シリコン基板1の裏面にオーミック電極2が形成されている。なお、強電界ドリフト層6の厚さは例えば1.5μmに設定されている。
【0008】
図9に示す構成の電界放射型電子源10’では、表面電極7を真空中に配置するとともに図10に示すように表面電極7に対向してコレクタ電極12を配置し、表面電極7をn形シリコン基板1(オーミック電極2)に対して正極として直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極12を表面電極7に対して正極として直流電圧Vcを印加することにより、n形シリコン基板1から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(なお、図10中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e-の流れを示す)。したがって、表面電極7としては、仕事関数の小さな材料を用いることが望ましい。ここにおいて、表面電極7とオーミック電極2との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと称し、コレクタ電極12と表面電極7との間に流れる電流を放出電子電流Ieと称し、ダイオード電流Ipsに対する放出電子電流Ieが大きい(Ie/Ipsが大きい)ほど電子放出効率が高くなる。なお、この電界放射型電子源10’では、表面電極7とオーミック電極2との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができる。
【0009】
この電界放射型電子源10’では、電子放出特性の真空度依存性が小さく且つ電子放出時にポッピング現象が発生せず安定して電子を高い電子放出効率で放出することができる。ここにおいて、強電界ドリフト層6は、図11に示すように、少なくとも、導電性基板たるn形シリコン基板1の主表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン(半導体結晶)51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在するナノメータオーダのシリコン微結晶63と、シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜であるシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。すなわち、強電界ドリフト層6は、各グレインの表面が多孔質化し各グレインの中心部分では結晶状態が維持されていると考えられる。したがって、強電界ドリフト層6に印加された電界はほとんどシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子はシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され多結晶シリコンのグレイン51間を表面に向かって図11中の矢印Aの向きへ(図11中の上方向へ向かって)ドリフトするので、電子放出効率を向上させることができる。ここに、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。なお、表面電極7の膜厚は10nmないし15nm程度に設定されている。
【0010】
ところで、上記導電性基板としてn形シリコン基板1などの半導体基板の代わりに、ガラス基板などの絶縁性基板上に導電性層(例えば、金属薄膜)よりなる下部電極を形成したものを使用すれば、電子源の大面積化および低コスト化が可能になる。
【0011】
図12に、ガラス基板よりなる絶縁性基板11と該絶縁性基板11の一表面上に形成した下部電極8とで構成した導電性基板を用いた電界放射型電子源10”を示す。すなわち、この電界放射型電子源10”は、図12に示すように、絶縁性基板11の一表面上に導電性層よりなる下部電極8が形成され、下部電極8上に強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に金属薄膜よりなる表面電極7が形成されている。ここに、強電界ドリフト層6は、下部電極8上にノンドープの多結晶シリコン層を堆積させた後に、該多結晶シリコン層を陽極酸化処理にて多孔質化し、さらに急速加熱法によって酸化若しくは窒化することにより形成されている。
【0012】
この電界放射型電子源10”では、表面電極7を真空中に配置するとともに図13に示すように表面電極7に対向してコレクタ電極12を配置し、表面電極7を下部電極8に対して正極として直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極12を表面電極7に対して正極として直流電圧Vcを印加することにより、下部電極8から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(なお、図13中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e-の流れを示す)。ここにおいて、表面電極7と下部電極8との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと称し、コレクタ電極12と表面電極7との間に流れる電流を放出電子電流Ieと称し、ダイオード電流Ipsに対する放出電子電流Ieが大きい(Ie/Ipsが大きい)ほど電子放出効率が高くなる。なお、この電界放射型電子源10”では、表面電極7と下部電極8との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができる。
【0013】
また、図12に示した電界放射型電子源10”をディスプレイの電子源とし応用する場合には、例えば図14に示す構成を採用すればよい。
【0014】
図14に示すディスプレイは、電界放射型電子源10に対向してガラス基板14を配設し、ガラス基板14における電界放射型電子源10との対向面にコレクタ電極12および蛍光体層15を設けてある。ここに、蛍光体層15はコレクタ電極12の表面に塗布されており、電界放射型電子源10から放射される電子により可視光を発光する。また、ガラス基板14は図示しないスペーサによって電界放射型電子源10と離間させてあり、ガラス基板14と電界放射型電子源10との間に形成される気密空間を真空にしてある。
【0015】
図14に示した電界放射型電子源10は、ガラス基板よりなる絶縁性基板11と、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数の下部電極8と、下部電極8にそれぞれ重なる形で形成された複数の酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部6aおよびドリフト部6aの間を埋める多結晶シリコン層よりなる分離部6bを有する強電界ドリフト層6と、強電界ドリフト層6の上でドリフト部6aおよび分離部6bに跨って下部電極8に交差する方向に列設された複数の表面電極7とを備えている。
【0016】
この電界放射型電子源10では、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数の下部電極8と、強電界ドリフト層6上に列設された複数の表面電極7との間に強電界ドリフト層6のドリフト部6aが挟まれているから、表面電極7と下部電極8との組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、選択された表面電極7と下部電極8との交点に相当する部位のドリフト部6aに強電界が作用して電子が放出される。つまり、表面電極7と下部電極8とからなる格子の格子点に電子源を配置したことに相当し、電圧を印加する表面電極7と下部電極8との組を選択することによって所望の格子点から電子を放出させることが可能になる。なお、表面電極7と下部電極8との間に印加する電圧は10〜20V程度になっている。
【0017】
なお、図14に示した電界放射型電子源10では、ノンドープの多結晶シリコン層を下部電極8に達する深さまで多孔質化しているが、下部電極8に到達しない深さまで多孔質化するようにしてもよく、後者の場合には、図15に示すように、下部電極8とドリフト部6aとの間にノンドープの多結晶シリコン層3が介在することになる。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述の図14に示した電界放射型電子源10では強電界ドリフト層6を挟んで表面電極7と下部電極8とをマトリクス型に対向させたいわゆる単純マトリクス構造を採用しているが、ドリフト部6aを図16に示すように抵抗Rと仮定した場合、複数の表面電極7のうち選択したものをHレベル、非選択のものをLレベルとし、複数の下部電極8のうち選択したものをLレベル、非選択のものをHレベルとすると、同図中に一点鎖線で示すようにHレベルの表面電極7−抵抗R−Lレベルの下部電極8の経路で電流I1が流れる。
【0019】
しかしながら、仮にドリフト部6aが図16に示すように抵抗Rにより構成された電子源では、Hレベルの下部電極8からLレベルの表面電極7へ向かう逆方向へリーク電流が流れる経路が多数存在し、選択していない格子点にも電流が流れるから、消費電力が大きくなってしまう。これに対し、上述の図14に示した単純マトリクス構造の電界放射型電子源10におけるドリフト部6aは抵抗とは異なり、表面電極7とドリフト部6aと下部電極8との重なった部分を個々の電子源とし、個々の電子源において表面電極7から下部電極8へ電流が流れる方向を順方向とした場合、個々の電子源の表面電極7と下部電極8との間の電流・電圧特性は非線形となり、上述のようにドリフト部6aを抵抗Rと仮定したときよりもリーク電流は小さくなるが、電界放射型電子源10の大面積化を図った際にリーク電流のトータルの電流量が無視できなくなり、低消費電力化の妨げになるとともに、電子放出効率の高効率化の妨げになるという不具合があった。すなわち、図17に示すように、表面電極7と下部電極8との間に表面電極7側をアノードとし、下部電極8側をカソードとするダイオードDが形成されていれば、上述のリーク電流が流れるのを防止することができるが、図14に示した電界放射型電子源10における個々の電子源の表面電極7と下部電極8との間にはダイオードDは形成されていないので、図17中に二点鎖線で示すように、Hレベルの下部電極8からLレベルの表面電極7へリーク電流が流れてしまい、結果的に低消費電力化および電子放出効率の高効率化の妨げになるという不具合があった。
【0020】
この種の不具合を解決するために、図18に示すように、ノンドープの多結晶シリコン層3の表面側にドリフト部6aと離間してn形多結晶シリコン領域31を形成するとともに、n形多結晶シリコン領域31内の表面側にp形多結晶シリコン領域32を形成し、表面電極7をドリフト部6aとn形多結晶シリコン領域31の一部とに跨って設け、さらにp形多結晶シリコン領域32上に擬似表面電極17を設けて擬似表面電極17と下部電極8との間の電流・電圧特性に整流特性を持たせることが考えられる。
【0021】
しかしながら、図18に示した構成では、n形多結晶シリコン領域31およびp形多結晶シリコン領域32をドリフト部6aと離間して設けるとともに、表面電極7と離間して擬似表面電極17を設ける必要があるので、上述のような単純マトリクス構造を採用する際に、単位面積当たりの電子放出面積が小さくなってしまうという不具合があった。
【0022】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、従来に比べて単位面積当たりの電子放出面積を小さくすることなしに低消費電力化を図ることが可能な電界放射型電子源を提供することにある。
【0023】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、基板と、基板の一表面側に列設された複数の下部電極と、下部電極の表面側に各下部電極にそれぞれ重なる形で形成された酸化若しくは窒化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部およびドリフト部の間を埋める分離部を有する強電界ドリフト層と、強電界ドリフト層上において下部電極に交差する方向に列設された複数の表面電極とを備え、表面電極を下部電極に対して正極として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出されるようにし、表面電極と下部電極との間に強電界ドリフト層に加えて下部電極から表面電極へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段を設けてなり、逆阻止手段は、ドリフト部と下部電極との間に設けられ下部電極側のn層とドリフト部側のp層とを有する半導体層からなり、p層とドリフト部との間には、低濃度の半導体層であるノンドープの多結晶シリコン層が形成されてなり、前記n層および前記p層を有する半導体層は、基板の前記一表面側の全面に連続して成膜され成膜時にそれぞれ不純物がドーピングされたn形多結晶シリコン層とp形多結晶シリコン層とのうち下部電極に重なる部位により構成され、分離部は、前記n形多結晶シリコン層と前記p形多結晶シリコン層とのうち下部電極に重なる部位と絶縁するためのイオン注入を行うことにより形成された部位と、ドリフト部の間に介在するノンドープの多結晶シリコン層とからなることを特徴とするものであり、表面電極と下部電極との間に強電界ドリフト層に加えて下部電極から表面電極へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段が設けられていることにより、従来に比べて単位面積当たりの電子放出面積を小さくすることなしにリーク電流が流れるのを阻止することができて低消費電力化を図ることができる。
【0025】
また、逆阻止手段は、ドリフト部と下部電極との間に設けられ下部電極側のn層とドリフト部側のp層とを有する半導体層からなり、p層とドリフト部との間には、低濃度の半導体層であるノンドープの多結晶シリコン層が形成されているので、ドリフト部と下部電極との間に設けられ下部電極側のn層とドリフト部側のp層とを有する半導体層を設けることでpn接合の整流特性を利用してリーク電流が流れるのを阻止することが可能となり、また、p層とドリフト部との間には低濃度の半導体層であるノンドープの多結晶シリコン層が形成されていることにより、n層およびp層を有する半導体層とドリフト部とを空間的に分離することができ、n層およびp層を有する半導体層の影響を受けずにドリフト部を形成することが可能になる。
【0028】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記逆阻止手段は、前記p層と前記n層との間にi層が介在しているので、前記逆阻止手段においてpn接合の整流特性を利用してリーク電流が流れるのを阻止する場合に比べて高耐圧化を図ることができる。
【0033】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記ドリフト部は、前記基板の前記一表面側に列設された柱状の半導体結晶と、半導体結晶間に介在するナノメータオーダの半導体微結晶と、半導体微結晶の表面に形成され当該半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜とからなるので、強電界ドリフト層では下部電極から注入された電子が半導体微結晶に衝突せずに前記絶縁膜に印加されている電界で加速されてドリフトし、強電界ドリフト層で発生した熱が柱状の半導体結晶を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず高効率で電子を放出することができる。
【0040】
【発明の実施の形態】
(実施形態1)
本実施形態の電界放射型電子源10は、図1に示すように、ガラス基板よりなる絶縁性基板11と、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数の下部電極8と、下部電極8にそれぞれ重なる形で形成された半導体層20と、下部電極8にそれぞれ重なる形で半導体層20上に形成されたノンドープの多結晶シリコン層3(図2参照)と、下部電極8にそれぞれ重なる形で多結晶シリコン層3上に形成された複数の酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部6aおよびドリフト部6aの間を埋める多結晶シリコン層よりなる分離部6bを有する強電界ドリフト層6と、強電界ドリフト層6の上でドリフト部6aおよび分離部6bに跨って下部電極8に交差(直交)する方向に列設された複数の表面電極7とを備えている。ここにおいて、下部電極8はアルミニウム薄膜からなる導電性層により構成し、表面電極7は金属薄膜(例えば、金薄膜)からなる導電性薄膜により構成している。なお、表面電極7の膜厚は15nmに設定されているが、この膜厚は特に限定するものではない。また、強電界ドリフト層6の厚さは1.5μmに設定してあるが、強電界ドリフト層6の厚さも特に限定するものではない。また、本実施形態では、絶縁性基板11が基板を構成している。
【0041】
本実施形態の電界放射型電子源は、図14に示した従来構成と同様、単純マトリクス構造を採用しているが、上述の半導体層20が、下部電極8から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止するpn接合を有している点に特徴がある。すなわち、上述の半導体層20は、図2に示すように、下部電極8上に形成されたn層21と該n層21上に形成されたp層22とを備えており、上記pn接合が形成されている。なお、半導体層20は、表面電極7と下部電極8との間に強電界ドリフト層6に加えて設けられており、半導体層20が、下部電極8から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段を構成している。また、半導体層20とドリフト部6aとの間に設けられたノンドープの多結晶シリコン層3が低濃度の半導体層を構成している。また、本実施形態では、p層22とドリフト部6aとの間に低濃度の半導体層たるノンドープの多結晶シリコン層3が形成されているので、半導体層20とドリフト部6aとを空間的に分離することができ、半導体層20の影響を受けずにドリフト部6aを形成することが可能になる。
【0042】
本実施形態の電界放射型電子源10では、図14に示した従来構成と同様、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数の下部電極8と、強電界ドリフト層6上に列設された複数の表面電極7との間に強電界ドリフト層6のドリフト部6aが挟まれているから、表面電極7と下部電極8との組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、選択された表面電極7と下部電極8との交点に相当する部位のドリフト部6aに強電界が作用して電子が放出される。つまり、表面電極7と下部電極8とからなる格子の格子点に電子源を配置したことに相当し、電圧を印加する表面電極7と下部電極8との組を選択することによって所望の格子点から電子を放出させることが可能になる。なお、表面電極7と下部電極8との間に印加する電圧は10〜20V程度になっている。ここにおいて、各表面電極7は、短冊状に形成され、長手方向の両端部上にそれぞれパッド27が形成されている。また、各下部電極8も、短冊状に形成され、長手方向の両端部上にそれぞれパッド28が形成されている。
【0043】
本実施形態の電界放射型電子源10におけるドリフト部6aは、上述の図11に示した強電界ドリフト層6と同様に、少なくとも、絶縁性基板11の一表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン(半導体結晶)51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在するナノメータオーダの半導体微結晶たるシリコン微結晶63と、シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜であるシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。
【0044】
しかして、本実施形態の電界放射型電子源10では、表面電極7と下部電極8との間に強電界ドリフト層6に加えて下部電極8から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段が設けられていることにより、従来に比べて単位面積当たりの電子放出面積を小さくすることなしにリーク電流が流れるのを阻止することができて低消費電力化を図ることができる。ここにおいて、逆阻止手段が、ドリフト部6aと下部電極8との間に設けられpn接合を有する半導体層20からなるので、ドリフト部6aと下部電極8との間にpn接合を有する半導体層20を介在させるだけでpn接合の整流特性を利用してリーク電流が流れるのを阻止することができる。また、本実施形態の電界放射型電子源10においても、強電界ドリフト層6では下部電極8から注入された電子がシリコン微結晶63に衝突せずにシリコン酸化膜64に印加されている電界で加速されてドリフトし、強電界ドリフト層6で発生した熱が柱状のグレイン51を通して放熱されるものと考えられ、電子放出時にポッピング現象が発生せず高効率で電子を放出することができる。
【0045】
なお、本実施形態では、強電界ドリフト層6のドリフト部6aを酸化した多孔質多結晶シリコン層により形成しているが、強電界ドリフト層6のドリフト部6aを窒化した多孔質多結晶シリコン層により形成してもよく、多孔質多結晶シリコン層以外の多孔質半導体層を酸化若しくは窒化したものでもよい。なお、強電界ドリフト層6のドリフト部6aを窒化した多孔質多結晶シリコン層とした場合には図11にて説明した各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン窒化膜となる。
【0046】
本実施形態においては、表面電極7を構成する導電性薄膜として金薄膜を用いているが、表面電極7の材料は金に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム、クロム、タングステン、ニッケル、白金などの仕事関数が小さな材料を用いてもよい。ここに、金の仕事関数は5.10eV、アルミニウムの仕事関数は4.28eV、クロムの仕事関数は4.50eV、タングステンの仕事関数は4.55eV、ニッケルの仕事関数は5.15eV、白金の仕事関数は5.65eVである。また、表面電極7を厚み方向に積層された複数層の薄膜電極層からなる導電性薄膜により構成してもよい。この場合、最上層の薄膜電極層としては、耐酸化性に優れ仕事関数が小さな性質を有する材料を採用し、最下層の薄膜電極層としては、仕事関数が小さく且つ強電界ドリフト層6との密着性が良い性質の材料を採用すればよい。ここに、最下層の薄膜電極層の材料は、最上層の薄膜電極層の材料に比べて強電界ドリフト層6中へ拡散しにくい(つまり、強電界ドリフト層6の材料中での拡散係数が小さい)性質を有していることが望ましい。
【0047】
上述のような仕事関数が小さくかつ強電界ドリフト層6との密着性が良い性質を有する表面電極7を採用することにより、表面電極7が強電界ドリフト層6から剥離するのを防止することができ、表面電極7の断線を防止できるとともに経時安定性が向上し、また、製造時の歩留まりが高くなって低コスト化を図ることができる。
【0048】
また、最上層の薄膜電極層としては例えば金を用い、最下層の薄膜電極層としては、クロムを用いればよいが、最下層の薄膜電極層としてはクロムの代わりに、ニッケル、白金、チタン、ジルコニウム、ロジウム、ハフニウム、イリジウムのいずれかあるいはそれらの酸化物を用いてもよい。最下層の薄膜電極層として、クロム、ニッケル、白金、チタン、ジルコニウム、ロジウム、ハフニウム、イリジウムのいずれかあるいはそれらの酸化物を用いることにより、最下層の薄膜電極層の材料コストを比較的安価にすることができる。
【0049】
また、本実施形態では、下部電極8を構成する導電性層としてアルミニウム薄膜を用いているが、下部電極8の材料はアルミニウムに限定されるものではなく、アルミニウム以外の導電性材料を用いてもよい。
【0050】
以下、本実施形態の電界放射型電子源10の製造方法について図3を参照しながら説明する。なお、図3では要部についてのみの断面を示してある。
【0051】
まず、絶縁性基板11の一表面(図3(a)における上面)の全面上に所定膜厚のアルミニウム薄膜よりなる導電性層をスパッタ法により成膜(堆積)した後、導電性層上に下部電極8のパターンに対応してパターニングされたレジスト層を形成し、その後、レジスト層をマスクとして導電性層の不要部分をエッチングすることにより、絶縁性基板11の上記一表面上にパターニングされた導電性層よりなる下部電極8が形成され、その後、レジスト層を除去することにより、図3(a)に示す構造が得られる。
【0052】
次に、絶縁性基板11の上記一表面側の全面に、n形不純物としてリンが添加されたn形多結晶シリコン層よりなるn層21を例えばプラズマCVD法によって成膜することにより、図3(b)に示す構造が得られる。なお、n層21は、プラズマCVD法により堆積しているので、600℃以下(100℃〜600℃)の低温プロセスで成膜することができる。また、プラズマCVD法による成膜時にn形不純物をドーピングしているので、容易にn層21を形成することができる。
【0053】
その後、絶縁性基板11の上記一表面側の全面に、p形不純物としてボロンが添加されたp形多結晶シリコン層よりなるp層22を例えばプラズマCVD法によって成膜することにより、図3(c)に示す構造が得られる。なお、p層22は、プラズマCVD法により堆積しているので、600℃以下(100℃〜600℃)の低温プロセスで成膜することができる。また、プラズマCVD法による成膜時にp形不純物をドーピングしているので、容易にp層21を形成することができる。
【0054】
続いて、n層21およびp層22それぞれにおいて下部電極8に重ならない部位を下部電極8に重なる部位と絶縁するために酸素イオンのイオン注入を行った後、絶縁性基板11の上記一表面側の全面に所定膜厚(例えば、1.5μm)のノンドープの多結晶シリコン層3を例えばプラズマCVD法によって形成することにより、図3(d)に示すような構造が得られる。なお、ノンドープの多結晶シリコン層3は、プラズマCVD法により堆積しているので、600℃以下(100℃〜600℃)の低温プロセスで成膜することができる。ここに、ノンドープの多結晶シリコン層3の形成方法は、プラズマCVD法に限らず、触媒CVD法により形成してもよく、触媒CVD法でも600℃以下の低温プロセスで成膜することができる。
【0055】
ノンドープの多結晶シリコン層3を形成した後、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液よりなる電解液の入った陽極酸化処理槽を利用し、白金電極(図示せず)を負極、下部電極8を正極として、多結晶シリコン層3に光照射を行いながら所定の条件で陽極酸化処理を行うことによって、多結晶シリコン層3のうち下部電極8に重なる部位に多孔質多結晶シリコン層を形成し、その後、陽極酸化処理槽から電解液を除去し、該陽極酸化処理槽に新たに酸(例えば、略10%の希硝酸、略10%の希硫酸、王水など)を投入し、その後、この酸の入った陽極酸化処理槽を利用して、白金電極(図示せず)を負極、下部電極8を正極として、定電流を流し多孔質多結晶シリコン層を酸化することにより下部電極8に重なる部位に酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部6aを形成し、続いて、強電界ドリフト層6上に所定膜厚(例えば、15nm)の金薄膜からなる表面電極7を例えばメタルマスクを用いて蒸着法によって形成し、次に、図1に示したパッド27,28を形成することによって図3(e)に示す構成の電界放射型電子源10が得られる。ここにおいて、ドリフト部6aの間に介在している多結晶シリコン層3と上述の酸素イオンが注入された部位とで上述の分離部6bを構成している。
【0056】
なお、本実施形態では、陽極酸化処理の条件として、陽極酸化処理の期間、多結晶シリコン層3の表面に照射する光パワーを一定、電流密度を一定としたが、この条件は適宜変更してもよい(例えば、電流密度を変化させてもよい)。また、表面電極7となる導電性薄膜を蒸着により形成しているが、導電性薄膜の形成方法は蒸着に限定されるものではなく、例えばスパッタ法を用いてもよい。
【0057】
しかして、上述の製造方法によれば、n層21およびp層22それぞれの形成にあたって、成膜時に不純物をドーピングして形成しているので、p層22およびn層21を容易に形成することができるとともにn層21とp層22とを同じ成膜装置(例えば、プラズマCVD装置)により連続して成膜することができるので、従来に比べて単位面積当たりの電子放出面積を小さくすることなしにリーク電流が流れるのを阻止することができて低消費電力化を図れる電界放射型電子源10を容易に提供することができる。また、上述の半導体層20や低濃度の半導体層が多結晶シリコンからなるので、一般的なシリコンプロセスや液晶ディスプレイ装置の製造プロセスを利用することが可能になり、低コスト化を図ることが可能になる。
【0058】
(参考例1)
本参考例の電界放射型電子源は、実施形態1で説明した図1と同じ構成であって、実施形態1とは製造方法が異なるだけなので、以下、製造方法について図4を参照しながら説明する。なお、図4では要部についてのみの断面を示してある。
【0059】
まず、絶縁性基板11の一表面(図4(a)における上面)の全面上に所定膜厚のアルミニウム薄膜よりなる導電性層をスパッタ法により成膜(堆積)した後、導電性層上に下部電極8のパターンに対応してパターニングされたレジスト層を形成し、その後、レジスト層をマスクとして導電性層の不要部分をエッチングすることにより、絶縁性基板11の上記一表面上にパターニングされた導電性層よりなる下部電極8が形成され、その後、レジスト層を除去することにより、図4(a)に示す構造が得られる。
【0060】
次に、絶縁性基板11の上記一表面側の全面にノンドープの多結晶シリコン層24を例えばプラズマCVD法によって成膜することにより、図4(b)に示す構造が得られる。なお、ノンドープの多結晶シリコン層24は、プラズマCVD法により堆積しているので、600℃以下(100℃〜600℃)の低温プロセスで成膜することができる。
【0061】
その後、ノンドープの多結晶シリコン層24のうち下部電極8に重なる部位へイオン注入法または不純物拡散法によってn形不純物(例えば、リン)をドーピングしてn層21を形成することにより、図4(c)に示す構造が得られる。
【0062】
続いて、絶縁性基板11の上記一表面側の全面にノンドープの多結晶シリコン層25を例えばプラズマCVD法によって成膜することにより、図4(d)に示す構造が得られる。なお、ノンドープの多結晶シリコン層25は、プラズマCVD法により堆積しているので、600℃以下(100℃〜600℃)の低温プロセスで成膜することができる。
【0063】
その後、ノンドープの多結晶シリコン層25のうち下部電極8に重なる部位へイオン注入法または不純物拡散法によってp形不純物(例えば、ボロン)をドーピングしてp層22を形成することにより、図4(e)に示す構造が得られる。
【0064】
続いて、絶縁性基板11の上記一表面側の全面に所定膜厚(例えば、1.5μm)のノンドープの多結晶シリコン層3を例えばプラズマCVD法によって形成することにより、図4(f)に示すような構造が得られる。なお、ノンドープの多結晶シリコン層3は、プラズマCVD法により堆積しているので、600℃以下(100℃〜600℃)の低温プロセスで成膜することができる。ここに、ノンドープの多結晶シリコン層3の形成方法は、プラズマCVD法に限らず、触媒CVD法により形成してもよく、触媒CVD法でも600℃以下の低温プロセスで成膜することができる。
【0065】
ノンドープの多結晶シリコン層3を形成した後、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液よりなる電解液の入った陽極酸化処理槽を利用し、白金電極(図示せず)を負極、下部電極8を正極として、多結晶シリコン層3に光照射を行いながら所定の条件で陽極酸化処理を行うことによって、多結晶シリコン層3のうち下部電極8に重なる部位に多孔質多結晶シリコン層を形成し、その後、陽極酸化処理槽から電解液を除去し、該陽極酸化処理槽に新たに酸(例えば、略10%の希硝酸、略10%の希硫酸、王水など)を投入し、その後、この酸の入った陽極酸化処理槽を利用して、白金電極(図示せず)を負極、下部電極8を正極として、定電流を流し多孔質多結晶シリコン層を酸化することにより下部電極8に重なる部位に酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部6aを形成し、続いて、強電界ドリフト層6上に所定膜厚(例えば、15nm)の金薄膜からなる表面電極7を例えばメタルマスクを用いて蒸着法によって形成し、次に、図1に示したパッド27,28を形成することによって図4(g)に示す構成の電界放射型電子源が得られる。ここにおいて、ドリフト部6aの間に介在している多結晶シリコン層3とn層21の間に介在しているノンドープの多結晶シリコン層24とp層22の間に介在しているノンドープの多結晶シリコン層25とで分離部6bを構成している。
【0066】
しかして、本参考例では、n層21およびp層22をそれぞれ形成するにあたって、それぞれノンドープの半導体層たる多結晶シリコン層24,25を成膜した後にイオン注入法または不純物拡散法により不純物をドーピングして形成しているので、成膜装置に依存せずにn層21およびp層22それぞれの不純物濃度を制御性良く制御することができる。
【0067】
(参考例2)
本参考例の電界放射型電子源の基本構成は図1に示した実施形態1と略同じであって、図5に示すように、p層22上にドリフト部6aが形成されている点に特徴がある。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0068】
本参考例では、p層22とn層21とからなる半導体層が、下部電極8から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段を構成している。
【0069】
しかして、本参考例では、実施形態1と同様、表面電極7と下部電極8との間に強電界ドリフト層6に加えて下部電極8から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段が設けられていることにより、従来に比べて単位面積当たりの電子放出面積を小さくすることなしにリーク電流が流れるのを阻止することができて低消費電力化を図ることができる。しかも、本参考例では、逆阻止手段を構成する半導体層とドリフト部6aとの間に実施形態1で説明したようなノンドープの多結晶シリコン層3が設けられていないので、実施形態1に比べて構造が簡単になる。
【0070】
なお、本参考例の電界放射型電子源の製造方法は、実施形態1または参考例1で説明した製造方法において、多結晶シリコン層3のうち下部電極8に重なる部位の全部を陽極酸化処理によって多孔質化する点が相違するだけである。
【0071】
(参考例3)
本参考例の電界放射型電子源の基本構成は実施形態1と略同じであって、図6に示すように、基板として半導体基板たるシリコン基板1を用い、実施形態1で説明した図1における下部電極8を比較的高濃度のn形シリコン領域からなるn層21と比較的高濃度のp形シリコン領域からなるp層22とで構成している点に特徴がある。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0072】
本参考例では、p層22とn層21とからなる下部電極が、下部電極から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段を構成している。
【0073】
しかして、本参考例では、実施形態1と同様、表面電極7と下部電極との間に強電界ドリフト層6に加えて下部電極から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段が設けられていることにより、従来に比べて単位面積当たりの電子放出面積を小さくすることなしにリーク電流が流れるのを阻止することができて低消費電力化を図ることができる。
【0074】
なお、本参考例の電界放射型電子源は、基板としてシリコン基板1を用いているので、下部電極となるn層21およびp層22をイオン注入法や不純物拡散法などの一般的なシリコンプロセスを利用して形成することができるから、下部電極のパターン精度を高めることができ、しかも下部電極の形成に伴って基板の一表面側に段差が形成されることもないから、表面電極7の断線を防止することができるとともに、ディスプレイの高精細化が容易になる。
【0075】
(実施形態2)
本実施形態の電界放射型電子源の基本構成は図1に示した実施形態1と略同じであって、図7に示すように、p層22とn層21との間に低濃度の多結晶シリコン層よりなるi層23を介在させている点に特徴がある。すなわち、本実施形態では、p層22とi層23とn層21とからなる半導体層が、下部電極8から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段を構成している。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0076】
しかして、本実施形態では、実施形態1と同様、表面電極7と下部電極8との間に強電界ドリフト層6に加えて下部電極8から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段が設けられていることにより、従来に比べて単位面積当たりの電子放出面積を小さくすることなしにリーク電流が流れるのを阻止することができて低消費電力化を図ることができる。しかも、本実施形態では、逆阻止手段を構成する半導体層がpin接合を有するので、pn接合を有する実施形態1に比べて逆阻止手段の耐圧を高めることができる。なお、他の実施形態および参考例においてp層22とn層21との間にi層23を設けてもよい。
【0077】
なお、本実施形態の電界放射型電子源の製造方法は実施形態1または参考例1と略同じであって、i層23を形成する工程が追加されるだけなので、説明を省略する。
【0078】
(参考例4)
本参考例の電界放射型電子源の基本構成は図1に示した実施形態1と略同じであって、図8に示すような構成を有し、実施形態1で説明した半導体層20を設ける代わりに、表面電極7の材料としてドリフト部6aとの間にショットキ接合を形成する材料を用い、下部電極8から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段が、表面電極7とドリフト部6aとで構成されている点に特徴がある。ここにおいて、表面電極7の材料としては、Cu、Pd、Ag、Al、Ti、Mn、Pb、Bi、Ni、Cr、Fe、Mg、Pt、Be、Sn、Ba、In、Co、Sb、IrSi、PtSi、Pt2Si、MnSi、Pb2Si、Co2Si、NiSi、Ni2Si、WSiなどを用いればよい。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0079】
しかして、本参考例では、表面電極7と下部電極8との間に強電界ドリフト層6に加えて下部電極8から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段が設けられていることにより、従来に比べて単位面積当たりの電子放出面積を小さくすることなしにリーク電流が流れるのを阻止することができて低消費電力化を図ることができる。しかも、本参考例では、表面電極7とドリフト部6aとのショットキ接合の整流特性を利用してリーク電流が流れるのを阻止することができるから、pn接合やpin接合を別途に設ける必要がなく、上記各実施形態1,2に比べて構造が簡単になる。
【0080】
(参考例5)
本参考例の電界放射型電子源10の基本構成は図8に示した参考例4と略同じであって、下部電極8の材料として低濃度の半導体層たるノンドープの多結晶シリコン層3との間にショットキ接合を形成する材料を用い、下部電極8から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段が、下部電極8とノンドープの多結晶シリコン層3とで構成されている点に特徴がある。ここにおいて、下部電極8の材料としては、Cu、Pd、Ag、Al、Ti、Mn、Pb、Bi、Ni、Cr、Fe、Mg、Pt、Be、Sn、Ba、In、Co、Sb、IrSi、PtSi、Pt2Si、MnSi、Pb2Si、Co2Si、NiSi、Ni2Si、WSiなどを用いればよい。なお、参考例4と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0081】
しかして、本参考例では、表面電極7と下部電極8との間に強電界ドリフト層6に加えて下部電極8から表面電極7へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段が設けられていることにより、従来に比べて単位面積当たりの電子放出面積を小さくすることなしにリーク電流が流れるのを阻止することができて低消費電力化を図ることができる。しかも、本参考例では、下部電極8とノンドープの多結晶シリコン層3とのショットキ接合の整流特性を利用してリーク電流が流れるのを阻止することができるから、pn接合やpin接合を別途に設ける必要がなく、上記各実施形態1,2に比べて構造が簡単になる。
【0082】
【発明の効果】
請求項1の発明は、基板と、基板の一表面側に列設された複数の下部電極と、下部電極の表面側に各下部電極にそれぞれ重なる形で形成された酸化若しくは窒化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部およびドリフト部の間を埋める分離部を有する強電界ドリフト層と、強電界ドリフト層上において下部電極に交差する方向に列設された複数の表面電極とを備え、表面電極を下部電極に対して正極として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出されるようにし、表面電極と下部電極との間に強電界ドリフト層に加えて下部電極から表面電極へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段を設けてなり、逆阻止手段は、ドリフト部と下部電極との間に設けられ下部電極側のn層とドリフト部側のp層とを有する半導体層からなり、p層とドリフト部との間には、低濃度の半導体層であるノンドープの多結晶シリコン層が形成されてなり、前記n層および前記p層を有する半導体層は、基板の前記一表面側の全面に連続して成膜され成膜時にそれぞれ不純物がドーピングされたn形多結晶シリコン層とp形多結晶シリコン層とのうち下部電極に重なる部位により構成され、分離部は、前記n形多結晶シリコン層と前記p形多結晶シリコン層とのうち下部電極に重なる部位と絶縁するためのイオン注入を行うことにより形成された部位と、ドリフト部の間に介在するノンドープの多結晶シリコン層とからなることを特徴とするものであり、表面電極と下部電極との間に強電界ドリフト層に加えて下部電極から表面電極へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段が設けられていることにより、従来に比べて単位面積当たりの電子放出面積を小さくすることなしにリーク電流が流れるのを阻止することができて低消費電力化を図ることができるという効果がある。
【0084】
また、逆阻止手段は、ドリフト部と下部電極との間に設けられ下部電極側のn層とドリフト部側のp層とを有する半導体層からなり、p層とドリフト部との間には、低濃度の半導体層であるノンドープの多結晶シリコン層が形成されているので、ドリフト部と下部電極との間に設けられ下部電極側のn層とドリフト部側のp層とを有する半導体層を設けることでpn接合の整流特性を利用してリーク電流が流れるのを阻止することが可能となるという効果があり、また、p層とドリフト部との間には低濃度の半導体層であるノンドープの多結晶シリコン層が形成されていることにより、n層およびp層を有する半導体層とドリフト部とを空間的に分離することができ、n層およびp層を有する半導体層の影響を受けずにドリフト部を形成することが可能になるという効果がある。
【0087】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記逆阻止手段は、前記p層と前記n層との間にi層が介在しているので、前記逆阻止手段においてpn接合の整流特性を利用してリーク電流が流れるのを阻止する場合に比べて高耐圧化を図ることができるという効果がある。
【0092】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記ドリフト部は、前記基板の前記一表面側に列設された柱状の半導体結晶と、半導体結晶間に介在するナノメータオーダの半導体微結晶と、半導体微結晶の表面に形成され当該半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜とからなるので、強電界ドリフト層では下部電極から注入された電子が半導体微結晶に衝突せずに前記絶縁膜に印加されている電界で加速されてドリフトし、強電界ドリフト層で発生した熱が柱状の半導体結晶を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず高効率で電子を放出することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施形態1を示す一部破断した概略斜視図である。
【図2】 同上の要部概略断面図である。
【図3】 同上の製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図4】 参考例1の製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図5】 参考例2を示す要部概略断面図である。
【図6】 参考例3を示す要部概略断面図である。
【図7】 実施形態2を示す要部概略断面図である。
【図8】 参考例4を示す要部概略断面図である。
【図9】 従来例を示す概略断面図である。
【図10】 同上の動作説明図である。
【図11】 同上の動作説明図である。
【図12】 他の従来例を示す概略断面図である。
【図13】 同上の動作説明図である。
【図14】 同上を応用したディスプレイ装置の概略構成を示す斜視図である。
【図15】 別の従来例を示す要部概略断面図である。
【図16】 単純マトリクス構造を採用したディスプレイの動作説明図である。
【図17】 単純マトリクス構造を採用したディスプレイの動作説明図である。
【図18】 さらに別の従来例を示す要部概略断面図である。
【符号の説明】
3 多結晶シリコン層
6 強電界ドリフト層
6a ドリフト部
6b 分離部
7 表面電極
8 下部電極
10 電界放射型電子源
11 絶縁性基板
20 半導体層
Claims (3)
- 基板と、基板の一表面側に列設された複数の下部電極と、下部電極の表面側に各下部電極にそれぞれ重なる形で形成された酸化若しくは窒化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部およびドリフト部の間を埋める分離部を有する強電界ドリフト層と、強電界ドリフト層上において下部電極に交差する方向に列設された複数の表面電極とを備え、表面電極を下部電極に対して正極として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出されるようにし、表面電極と下部電極との間に強電界ドリフト層に加えて下部電極から表面電極へリーク電流が流れるのを阻止する逆阻止手段を設けてなり、逆阻止手段は、ドリフト部と下部電極との間に設けられ下部電極側のn層とドリフト部側のp層とを有する半導体層からなり、p層とドリフト部との間には、低濃度の半導体層であるノンドープの多結晶シリコン層が形成されてなり、前記n層および前記p層を有する半導体層は、基板の前記一表面側の全面に連続して成膜され成膜時にそれぞれ不純物がドーピングされたn形多結晶シリコン層とp形多結晶シリコン層とのうち下部電極に重なる部位により構成され、分離部は、前記n形多結晶シリコン層と前記p形多結晶シリコン層とのうち下部電極に重なる部位と絶縁するためのイオン注入を行うことにより形成された部位と、ドリフト部の間に介在するノンドープの多結晶シリコン層とからなることを特徴とする電界放射型電子源。
- 前記逆阻止手段は、前記p層と前記n層との間にi層が介在してなることを特徴とする請求項1記載の電界放射型電子源。
- 前記ドリフト部は、前記基板の前記一表面側に列設された柱状の半導体結晶と、半導体結晶間に介在するナノメータオーダの半導体微結晶と、半導体微結晶の表面に形成され当該半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜とからなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電界放射型電子源。
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