JP3786743B2 - 押出軸方向エネルギー吸収部材 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車のフロント部のサイドメンバのように、軸方向から加えられる衝撃荷重を変形エネルギーに変換することにより構体全体の破壊を防ぐエネルギー吸収部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車のフロント部分のエネルギー吸収部材には、図8に示すようにバンパー1、フロントサイドメンバ(以下、サイドメンバ)2等があるが、高速で大きな衝撃を受けた場合にそのエネルギーを吸収するのは主としてサイドメンバ2である。そのため、サイドメンバ2には限られたスペースでより多くのエネルギーを吸収することが求められている。
【0003】
自動車のサイドメンバは鋼板プレス製の矩形断面角材が使用されることが多かったが、最近の軽量化要求からより軽量化が見込めるアルミ合金などの軽合金を使用したものも考えられるようになってきた。これらのサイドメンバは全体に中空の柱状をしており、図9に模式的に示すように、軸方向に圧縮されたときに壁面が蛇腹状になりながら変形して、衝撃エネルギーを金属の塑性変形エネルギーに変換することによりエネルギーを吸収している。なお、アルミ合金の場合、鋼に比べて強度も剛性も低いことから塑性崩壊しやすく、良好なエネルギー吸収能力を有している。
【0004】
従来のサイドメンバなどに使われるエネルギー吸収部材は、特開平4−50083号公報又は特開平02−175452号公報のように、軸方向に圧縮力を受けて塑性崩壊する際にいかにうまく蛇腹状に圧壊させるかということに主眼がおかれている。すなわち、故意に蛇腹状に崩壊させることによりオイラー座屈(サイドメンバそのものが折れる)を防ぎ、安定したエネルギー吸収を得ようというものである。
しかし、これらの技術ではエネルギー吸収を安定化させることはできてもエネルギー吸収量そのものを増加させることはできず、これを増加させるためには断面の大径化、厚肉化は避けられない。従って、自動車のように限られたスペース、限られた重量の中でより多くのエネルギー吸収量を確保するためには、これらの従来技術だけでは不十分となっている。
【0005】
軽量化を図る場合、アルミなどの軽金属の使用が考えられるがアルミ合金を中心とする軽金属は鋼に比べて伸びが少なく、わずかな変形量でも割れが入ってしまうなどの欠点もある。特に、少ないボリュームで多くのエネルギー吸収能力を持たせようとした場合、熱処理や合金成分の調整などで材料強度を高める処理を行うがこのような処置を行うと材料の延性(伸び)が失われてしまう場合が多く、圧壊時に材料が割れてエネルギーを効果的に吸収できない恐れがある。また、高強度材を用いない場合はエネルギー吸収部材の肉厚を増してやる必要があり、圧壊時に形材壁面が蛇腹状に変形する際、厚肉化のため壁面表面のひずみが大きくなりすぎ、割れが入ることによりエネルギー吸収能力が落ちてしまうという欠点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
アルミ合金を中心とする軽合金を用いることにより軽量化と良好なエネルギー吸収能力を得ることができるが、上記のように大きなエネルギー吸収能力を持たせようとした場合、材料が割れて所定のエネルギー吸収能力を得ることができない恐れがある。
本発明は上記従来技術の欠点を解消しようとするもので、その目的は、壁面に発生する割れを抑制してエネルギー吸収能力の低下を防ぎ、伸びの少ない材料でも、限られたスペース、重量の中で高いエネルギー吸収能力を持ったエネルギー吸収部材を得ることである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る押出軸方向エネルギー吸収部材は、外壁のコーナー部分が円弧状である中空断面のアルミニウム合金押出形材にあって、コーナー部分の板厚が元板厚よりも薄く形成されていることを特徴とするエネルギー吸収部材である。この元板厚は、外壁の薄く形成されていない箇所の板厚を意味する。
あるいは、外壁のコーナー部分が円弧状でかつ内部にウエブを有する中空断面のアルミニウム合金押出形材にあって、コーナー部分又はウエブと外壁との接合部の少なくとも一方の板厚が元板厚よりも薄く形成されていることを特徴とするエネルギー吸収部材である。コーナー部分に関しては、元板厚は外壁の薄く形成されていない箇所の板厚を意味し、ウエブと外壁との接合部に関しては、元板厚は、ウエブの薄く形成されていない箇所の板厚を意味する。
この押出軸方向エネルギー吸収部材は、押出軸方向に圧縮するとき蛇腹状に変形してエネルギーを吸収する。押出軸方向エネルギー吸収部材という名称は、押出軸方向に蛇腹状に変形して押出軸方向のエネルギーを吸収する部材であることに由来する。
このようなアルミニウム合金押出形材としては、内部にウエブを有さない口形、内部にウエブを有する日形(ウエブが1つ)、目形(ウエブが2つ)、田の字形(ウエブがクロスセクション)等が例示できる。田の字形の例を図1に示す。また、断面が田の字形の中には、クロスセクションが中央部で交差しない図2のような断面略田の字の形材も含まれるものとする。
【0008】
上記エネルギー吸収部材において、好ましくは、元板厚より薄く形成されたコーナー部分又は内部のウエブと外壁との接合部の板厚と元板厚との比(以下、板厚比という)をkとしたとき、k=0.45〜0.7に設定する。
上記エネルギー吸収部材は、アルミニウム合金押出形材を用いて形成され、特に自動車のサイドメンバのように軸方向から加えられる衝撃荷重を変形エネルギーに変換することにより構体全体の破壊を防ぐ用途に適用される。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、図1〜図7を参照して、本発明に係る押出軸方向エネルギー吸収部材の構成及び作用についてより具体的に説明する。以下、軸方向とは押出軸方向を意味する。
【0010】
図1に示すのは、田の字形断面のアルミニウム合金押出形材において、コーナー部分及び/又は中央部クロスセクションと外壁との接合部の板厚t1を、元肉厚tに対して薄肉化したものである。同図(a)にはコーナー部分を薄肉化する例として、▲1▼内側から薄肉化したもの、▲2▼外側から薄肉化したもの、▲3▼双方の側から薄肉化したものが記載され、(b)には中央部クロスセクションと外壁との接合部を薄肉化する例として、▲4▼中央部クロスセクションを薄肉化したもの(この例ではクロスセクションが接合する部分の外壁内面が円弧状に形成され、薄肉化したクロスセクションの端とこの円弧状部が連続している)、▲5▼クロスセクションと外壁との接合部の外面側を薄肉化したものが記載されている。なお、いずれの場合も、薄肉化した部分の両端を円弧状に形成しているが、これはひずみの集中を防止するためである。
このタイプのエネルギー吸収部材では、薄肉化した部分のひずみが低減することにより割れが防止されるとともに、薄肉化する部分を特定し当該部分の板厚比k(=t1/t)を適当な値に設定することで、極端な軸方向強度の低下なしにエネルギー吸収能力を向上させることができる。
【0011】
このタイプのエネルギー吸収部材では、形材のコーナー部分及び/又は中央部クロスセクションと外壁との接合部の肉厚を減じることにより、蛇腹状に圧壊するときの壁面のひずみを減少させ、材料自体の割れを防ぐ効果がある。また、薄肉化される部分と他の部分を円弧状に連続させることでひずみの集中を防ぐことができる。これにより材料の割れによって引き起こされるエネルギー吸収能力の低下を防ぎ、伸びの少ない材料でもエネルギー吸収部材として使用できるようになる。
【0012】
上記エネルギー吸収部材において材料の割れが防止されるのは、薄肉化した部分において曲げひずみが減少するためである。すなわち、壁面が蛇腹状に圧壊するときは、図3に示すように壁面は曲げによる変形を受け、肉厚が厚い場合、高ひずみ領域(矢印で例示)では表面での曲げひずみが大きくなりこれが割れの原因となるが、材料の応力状態が弾性領域内では曲げひずみは肉厚の2乗に比例するため、薄肉化した部分では、例えば板厚比k=0.5とした場合、曲げひずみは4分の1になる。実際には割れは塑性状態で起こるため前記の比例関係は厳密には成り立たないが、薄肉化によりひずみは確実に減少する。
【0013】
一方、軸方向圧壊の場合、板厚一定の従来例では、図4(a)に示すように、板の端(コーナー部分及びクロスセクションと外壁との接合部)のほうが中央部より大きな荷重を受け持つことになるが、本発明のようにコーナー部分など板の端の部分を薄肉化することにより、同図(b)に示すように荷重分布が均一になり、従来衝撃による圧壊荷重の吸収にさほど寄与していなかった中央部もエネルギー吸収に寄与させることができるようになる。このため、薄肉化による圧壊時の反力の低下を十分補うことができる。
【0014】
(実施例)次に、このタイプのエネルギー吸収部材の作用効果をより具体的に説明する。
図5に示すような断面(50mm×50mm、元板厚2mm)及び長さ(200mm)を持つアルミ押出形材で、4隅のコーナー部分及び4箇所の中央部クロスセクションの外壁との接合部を薄肉化(その形態は図1の▲1▼及び▲2▼)したものについて、薄肉化した部分の板厚比kを1〜0.3まで数段階変化させ、それぞれ軸方向に1mm/sの速度で圧縮し、図6に示す荷重−変位曲線(ストローク140mm付近まで図示)を得た。但し、図6の縦軸は、形材の圧壊荷重Pを当該形材の全断面が降伏したと仮定したときの荷重P(σ0.2)で無次元化してある。
なお、アルミ押出形材は6061−T6を使用した。これは、耐力28kgf/mm2、引張強さ31.5kgf/mm2、破断伸び12%であり、伸びが比較的少なく脆い材料であるといえる。
【0015】
また、図6の結果から、各形材のエネルギー吸収量U(k=1の形材を基準)と各形材のPcr/Pmeanを求め、それらとkの関係を図7に示す。ここで、エネルギー吸収量Uは図6の各曲線と横軸で囲まれる面積(ストローク160mmまで)で表され、また、Pcrは初期圧壊荷重(初期反力といってもよい)の最大値であり、Pmeanはストローク160mmまでの圧壊荷重の平均値(エネルギー吸収量/ストローク)を表す。
【0016】
この実験結果によると、板厚比k=1、つまり元の均一な板厚の状態よりコーナー部分などを薄肉化した方が、初期反力Pcrを抑えつつ全体的なエネルギー吸収能力が大きくなっている領域があるのがわかる。また、板厚比kを0.5にしたとき最もエネルギー吸収量が大きくなっており、これ以上だと材料の割れ(割れ自体は完全には防げない)の影響、これ以下だと薄肉化による強度低下が原因と思われる吸収エネルギー量の減少が見られる。すなわち、割れによる影響と強度低下による影響が釣り合うところがk=0.5であると考えられる。
【0017】
図7より、望ましい板厚比kの範囲としてk=0.45〜0.7が得られる。この下限値であるk=0.45はエネルギー吸収量が元板厚のものを上回る下限値であり、上限値であるk=0.7を超えるとエネルギー吸収量が元板厚のものを下回るほか、初期圧壊荷重の最大値Pcrと平均圧壊荷重Pmeanとの比が2.0を超えてしまう。通常、輸送機関の構造部材の場合、安全率は2.0付近の値を採用しているため、Pcr/Pmeanが2.0以上の場合では設計上考慮すべき荷重Pmeanに比べ予想される最大入力がPcr≧2.0×Pmeanとなるため構造物全体のバランスが崩れ、構造物全体が破壊される恐れがある。以上のことから0.45≦k≦0.7が好ましい範囲といえる。
【0018】
なお、従来のエネルギー吸収部材のように壁面部にくぼみ(圧壊イニシエーター)を設けて蛇腹状に圧壊しやすくした場合の実験結果を図6に合わせて載せてある。これは、くぼみがある以外は板厚、材質は上述したk=1の場合と同じであり、k=1の場合に比べて初期圧壊荷重の最大値Pcrを低減することはできているが、その後に続く荷重−変位曲線はk=1のものとほとんど同じでありエネルギー吸収量の増加にはつながっていないことが分かる。それに対して、本発明によるエネルギー吸収部材はエネルギー吸収量において従来のものを上回っている。
【0019】
【発明の効果】
本発明によれば、中空断面のアルミニウム合金押出形材のコーナー部分及び/又は内部のウエブと外壁との接合部の板厚を、元肉厚に対して薄肉化することにより、初期反力を抑えつつより大きなエネルギー吸収能力を得ることができ、割れやすい材料でも軸方向エネルギー吸収部材として使用可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に関わる田の字形断面のエネルギー吸収部材の断面形状の種々の形態を示す図である。
【図2】同じく田の字形断面のエネルギー吸収部材の断面形状の他の形態を示す図である。
【図3】エネルギー吸収部材の蛇腹状圧壊図である。
【図4】田の字型断面のエネルギー吸収部材の圧縮の荷重分布を示すもので、(a)が従来例、(b)が本発明例を示す図である。
【図5】実施例に用いた田の字型断面のエネルギー吸収部材の側面図(a)及び断面図(b)である。
【図6】その荷重(Pcr/P(σ0.2))−変位(圧壊スロトーク)曲線である。
【図7】そのエネルギー吸収量(U)−板厚比(k)曲線と、最大圧壊荷重と平均圧壊荷重の比(Pcr/Pmean)−板厚比(k)曲線である。
【図8】自動車のフロント部の構造を示す図である。
【図9】矩形断面形材の軸圧縮変形の模式図である。
【符号の説明】
1 バンパーリインホースメント
2 フロントサイドメンバ
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車のフロント部のサイドメンバのように、軸方向から加えられる衝撃荷重を変形エネルギーに変換することにより構体全体の破壊を防ぐエネルギー吸収部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車のフロント部分のエネルギー吸収部材には、図8に示すようにバンパー1、フロントサイドメンバ(以下、サイドメンバ)2等があるが、高速で大きな衝撃を受けた場合にそのエネルギーを吸収するのは主としてサイドメンバ2である。そのため、サイドメンバ2には限られたスペースでより多くのエネルギーを吸収することが求められている。
【0003】
自動車のサイドメンバは鋼板プレス製の矩形断面角材が使用されることが多かったが、最近の軽量化要求からより軽量化が見込めるアルミ合金などの軽合金を使用したものも考えられるようになってきた。これらのサイドメンバは全体に中空の柱状をしており、図9に模式的に示すように、軸方向に圧縮されたときに壁面が蛇腹状になりながら変形して、衝撃エネルギーを金属の塑性変形エネルギーに変換することによりエネルギーを吸収している。なお、アルミ合金の場合、鋼に比べて強度も剛性も低いことから塑性崩壊しやすく、良好なエネルギー吸収能力を有している。
【0004】
従来のサイドメンバなどに使われるエネルギー吸収部材は、特開平4−50083号公報又は特開平02−175452号公報のように、軸方向に圧縮力を受けて塑性崩壊する際にいかにうまく蛇腹状に圧壊させるかということに主眼がおかれている。すなわち、故意に蛇腹状に崩壊させることによりオイラー座屈(サイドメンバそのものが折れる)を防ぎ、安定したエネルギー吸収を得ようというものである。
しかし、これらの技術ではエネルギー吸収を安定化させることはできてもエネルギー吸収量そのものを増加させることはできず、これを増加させるためには断面の大径化、厚肉化は避けられない。従って、自動車のように限られたスペース、限られた重量の中でより多くのエネルギー吸収量を確保するためには、これらの従来技術だけでは不十分となっている。
【0005】
軽量化を図る場合、アルミなどの軽金属の使用が考えられるがアルミ合金を中心とする軽金属は鋼に比べて伸びが少なく、わずかな変形量でも割れが入ってしまうなどの欠点もある。特に、少ないボリュームで多くのエネルギー吸収能力を持たせようとした場合、熱処理や合金成分の調整などで材料強度を高める処理を行うがこのような処置を行うと材料の延性(伸び)が失われてしまう場合が多く、圧壊時に材料が割れてエネルギーを効果的に吸収できない恐れがある。また、高強度材を用いない場合はエネルギー吸収部材の肉厚を増してやる必要があり、圧壊時に形材壁面が蛇腹状に変形する際、厚肉化のため壁面表面のひずみが大きくなりすぎ、割れが入ることによりエネルギー吸収能力が落ちてしまうという欠点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
アルミ合金を中心とする軽合金を用いることにより軽量化と良好なエネルギー吸収能力を得ることができるが、上記のように大きなエネルギー吸収能力を持たせようとした場合、材料が割れて所定のエネルギー吸収能力を得ることができない恐れがある。
本発明は上記従来技術の欠点を解消しようとするもので、その目的は、壁面に発生する割れを抑制してエネルギー吸収能力の低下を防ぎ、伸びの少ない材料でも、限られたスペース、重量の中で高いエネルギー吸収能力を持ったエネルギー吸収部材を得ることである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る押出軸方向エネルギー吸収部材は、外壁のコーナー部分が円弧状である中空断面のアルミニウム合金押出形材にあって、コーナー部分の板厚が元板厚よりも薄く形成されていることを特徴とするエネルギー吸収部材である。この元板厚は、外壁の薄く形成されていない箇所の板厚を意味する。
あるいは、外壁のコーナー部分が円弧状でかつ内部にウエブを有する中空断面のアルミニウム合金押出形材にあって、コーナー部分又はウエブと外壁との接合部の少なくとも一方の板厚が元板厚よりも薄く形成されていることを特徴とするエネルギー吸収部材である。コーナー部分に関しては、元板厚は外壁の薄く形成されていない箇所の板厚を意味し、ウエブと外壁との接合部に関しては、元板厚は、ウエブの薄く形成されていない箇所の板厚を意味する。
この押出軸方向エネルギー吸収部材は、押出軸方向に圧縮するとき蛇腹状に変形してエネルギーを吸収する。押出軸方向エネルギー吸収部材という名称は、押出軸方向に蛇腹状に変形して押出軸方向のエネルギーを吸収する部材であることに由来する。
このようなアルミニウム合金押出形材としては、内部にウエブを有さない口形、内部にウエブを有する日形(ウエブが1つ)、目形(ウエブが2つ)、田の字形(ウエブがクロスセクション)等が例示できる。田の字形の例を図1に示す。また、断面が田の字形の中には、クロスセクションが中央部で交差しない図2のような断面略田の字の形材も含まれるものとする。
【0008】
上記エネルギー吸収部材において、好ましくは、元板厚より薄く形成されたコーナー部分又は内部のウエブと外壁との接合部の板厚と元板厚との比(以下、板厚比という)をkとしたとき、k=0.45〜0.7に設定する。
上記エネルギー吸収部材は、アルミニウム合金押出形材を用いて形成され、特に自動車のサイドメンバのように軸方向から加えられる衝撃荷重を変形エネルギーに変換することにより構体全体の破壊を防ぐ用途に適用される。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、図1〜図7を参照して、本発明に係る押出軸方向エネルギー吸収部材の構成及び作用についてより具体的に説明する。以下、軸方向とは押出軸方向を意味する。
【0010】
図1に示すのは、田の字形断面のアルミニウム合金押出形材において、コーナー部分及び/又は中央部クロスセクションと外壁との接合部の板厚t1を、元肉厚tに対して薄肉化したものである。同図(a)にはコーナー部分を薄肉化する例として、▲1▼内側から薄肉化したもの、▲2▼外側から薄肉化したもの、▲3▼双方の側から薄肉化したものが記載され、(b)には中央部クロスセクションと外壁との接合部を薄肉化する例として、▲4▼中央部クロスセクションを薄肉化したもの(この例ではクロスセクションが接合する部分の外壁内面が円弧状に形成され、薄肉化したクロスセクションの端とこの円弧状部が連続している)、▲5▼クロスセクションと外壁との接合部の外面側を薄肉化したものが記載されている。なお、いずれの場合も、薄肉化した部分の両端を円弧状に形成しているが、これはひずみの集中を防止するためである。
このタイプのエネルギー吸収部材では、薄肉化した部分のひずみが低減することにより割れが防止されるとともに、薄肉化する部分を特定し当該部分の板厚比k(=t1/t)を適当な値に設定することで、極端な軸方向強度の低下なしにエネルギー吸収能力を向上させることができる。
【0011】
このタイプのエネルギー吸収部材では、形材のコーナー部分及び/又は中央部クロスセクションと外壁との接合部の肉厚を減じることにより、蛇腹状に圧壊するときの壁面のひずみを減少させ、材料自体の割れを防ぐ効果がある。また、薄肉化される部分と他の部分を円弧状に連続させることでひずみの集中を防ぐことができる。これにより材料の割れによって引き起こされるエネルギー吸収能力の低下を防ぎ、伸びの少ない材料でもエネルギー吸収部材として使用できるようになる。
【0012】
上記エネルギー吸収部材において材料の割れが防止されるのは、薄肉化した部分において曲げひずみが減少するためである。すなわち、壁面が蛇腹状に圧壊するときは、図3に示すように壁面は曲げによる変形を受け、肉厚が厚い場合、高ひずみ領域(矢印で例示)では表面での曲げひずみが大きくなりこれが割れの原因となるが、材料の応力状態が弾性領域内では曲げひずみは肉厚の2乗に比例するため、薄肉化した部分では、例えば板厚比k=0.5とした場合、曲げひずみは4分の1になる。実際には割れは塑性状態で起こるため前記の比例関係は厳密には成り立たないが、薄肉化によりひずみは確実に減少する。
【0013】
一方、軸方向圧壊の場合、板厚一定の従来例では、図4(a)に示すように、板の端(コーナー部分及びクロスセクションと外壁との接合部)のほうが中央部より大きな荷重を受け持つことになるが、本発明のようにコーナー部分など板の端の部分を薄肉化することにより、同図(b)に示すように荷重分布が均一になり、従来衝撃による圧壊荷重の吸収にさほど寄与していなかった中央部もエネルギー吸収に寄与させることができるようになる。このため、薄肉化による圧壊時の反力の低下を十分補うことができる。
【0014】
(実施例)次に、このタイプのエネルギー吸収部材の作用効果をより具体的に説明する。
図5に示すような断面(50mm×50mm、元板厚2mm)及び長さ(200mm)を持つアルミ押出形材で、4隅のコーナー部分及び4箇所の中央部クロスセクションの外壁との接合部を薄肉化(その形態は図1の▲1▼及び▲2▼)したものについて、薄肉化した部分の板厚比kを1〜0.3まで数段階変化させ、それぞれ軸方向に1mm/sの速度で圧縮し、図6に示す荷重−変位曲線(ストローク140mm付近まで図示)を得た。但し、図6の縦軸は、形材の圧壊荷重Pを当該形材の全断面が降伏したと仮定したときの荷重P(σ0.2)で無次元化してある。
なお、アルミ押出形材は6061−T6を使用した。これは、耐力28kgf/mm2、引張強さ31.5kgf/mm2、破断伸び12%であり、伸びが比較的少なく脆い材料であるといえる。
【0015】
また、図6の結果から、各形材のエネルギー吸収量U(k=1の形材を基準)と各形材のPcr/Pmeanを求め、それらとkの関係を図7に示す。ここで、エネルギー吸収量Uは図6の各曲線と横軸で囲まれる面積(ストローク160mmまで)で表され、また、Pcrは初期圧壊荷重(初期反力といってもよい)の最大値であり、Pmeanはストローク160mmまでの圧壊荷重の平均値(エネルギー吸収量/ストローク)を表す。
【0016】
この実験結果によると、板厚比k=1、つまり元の均一な板厚の状態よりコーナー部分などを薄肉化した方が、初期反力Pcrを抑えつつ全体的なエネルギー吸収能力が大きくなっている領域があるのがわかる。また、板厚比kを0.5にしたとき最もエネルギー吸収量が大きくなっており、これ以上だと材料の割れ(割れ自体は完全には防げない)の影響、これ以下だと薄肉化による強度低下が原因と思われる吸収エネルギー量の減少が見られる。すなわち、割れによる影響と強度低下による影響が釣り合うところがk=0.5であると考えられる。
【0017】
図7より、望ましい板厚比kの範囲としてk=0.45〜0.7が得られる。この下限値であるk=0.45はエネルギー吸収量が元板厚のものを上回る下限値であり、上限値であるk=0.7を超えるとエネルギー吸収量が元板厚のものを下回るほか、初期圧壊荷重の最大値Pcrと平均圧壊荷重Pmeanとの比が2.0を超えてしまう。通常、輸送機関の構造部材の場合、安全率は2.0付近の値を採用しているため、Pcr/Pmeanが2.0以上の場合では設計上考慮すべき荷重Pmeanに比べ予想される最大入力がPcr≧2.0×Pmeanとなるため構造物全体のバランスが崩れ、構造物全体が破壊される恐れがある。以上のことから0.45≦k≦0.7が好ましい範囲といえる。
【0018】
なお、従来のエネルギー吸収部材のように壁面部にくぼみ(圧壊イニシエーター)を設けて蛇腹状に圧壊しやすくした場合の実験結果を図6に合わせて載せてある。これは、くぼみがある以外は板厚、材質は上述したk=1の場合と同じであり、k=1の場合に比べて初期圧壊荷重の最大値Pcrを低減することはできているが、その後に続く荷重−変位曲線はk=1のものとほとんど同じでありエネルギー吸収量の増加にはつながっていないことが分かる。それに対して、本発明によるエネルギー吸収部材はエネルギー吸収量において従来のものを上回っている。
【0019】
【発明の効果】
本発明によれば、中空断面のアルミニウム合金押出形材のコーナー部分及び/又は内部のウエブと外壁との接合部の板厚を、元肉厚に対して薄肉化することにより、初期反力を抑えつつより大きなエネルギー吸収能力を得ることができ、割れやすい材料でも軸方向エネルギー吸収部材として使用可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に関わる田の字形断面のエネルギー吸収部材の断面形状の種々の形態を示す図である。
【図2】同じく田の字形断面のエネルギー吸収部材の断面形状の他の形態を示す図である。
【図3】エネルギー吸収部材の蛇腹状圧壊図である。
【図4】田の字型断面のエネルギー吸収部材の圧縮の荷重分布を示すもので、(a)が従来例、(b)が本発明例を示す図である。
【図5】実施例に用いた田の字型断面のエネルギー吸収部材の側面図(a)及び断面図(b)である。
【図6】その荷重(Pcr/P(σ0.2))−変位(圧壊スロトーク)曲線である。
【図7】そのエネルギー吸収量(U)−板厚比(k)曲線と、最大圧壊荷重と平均圧壊荷重の比(Pcr/Pmean)−板厚比(k)曲線である。
【図8】自動車のフロント部の構造を示す図である。
【図9】矩形断面形材の軸圧縮変形の模式図である。
【符号の説明】
1 バンパーリインホースメント
2 フロントサイドメンバ
Claims (6)
- 外壁のコーナー部分が円弧状である中空断面のアルミニウム合金押出形材にあって、全てのコーナー部分の板厚が、押出軸方向の全長にわたり、元板厚すなわち外壁の薄く形成されていない箇所の板厚よりも薄く形成され、コーナー部分の板厚と元板厚との比をkとしたとき、k=0.45〜0.7であることを特徴とする押出軸方向に圧縮するとき蛇腹状に変形してエネルギーを吸収する押出軸方向エネルギー吸収部材。
- 外壁のコーナー部分が円弧状でありかつ内部にウエブを有する中空断面のアルミニウム合金押出形材にあって、全てのコーナー部分の板厚が、押出軸方向の全長にわたり、元板厚すなわち外壁の薄く形成されていない箇所の板厚よりも薄く形成され、コーナー部分の板厚と元板厚との比をkとしたとき、k=0.45〜0.7であることを特徴とする押出軸方向に圧縮するとき蛇腹状に変形してエネルギーを吸収する押出軸方向エネルギー吸収部材。
- 外壁のコーナー部分が円弧状でありかつ内部にウエブを有する中空断面のアルミニウム合金押出形材にあって、ウエブと外壁との全ての接合部の板厚が、押出軸方向の全長にわたり、元板厚すなわちウエブの薄く形成されていない箇所の板厚よりも薄く形成され、ウエブと外壁との接合部の板厚と元板厚との比をkとしたとき、k=0.45〜0.7であることを特徴とする押出軸方向に圧縮するとき蛇腹状に変形してエネルギーを吸収する押出軸方向エネルギー吸収部材。
- 外壁のコーナー部分が円弧状でありかつ内部にウエブを有する中空断面のアルミニウム合金押出形材にあって、全てのコーナー部分の板厚が、押出軸方向の全長にわたり、元板厚すなわち外壁の薄く形成されていない箇所の肉厚より薄肉に形成され、コーナー部分の板厚と元板厚との比をkとしたとき、k=0.45〜0.7であり、かつウエブと外壁との全ての接合部の板厚が、押出軸方向の全長にわたり、元板厚すなわちウエブの薄く形成されていない箇所の板厚よりも薄く形成され、かつウエブと外壁との接合部の板厚と元板厚との比をkとしたとき、k=0.45〜0.7であることを特徴とする押出軸方向に圧縮するとき蛇腹状に変形してエネルギーを吸収する押出軸方向エネルギー吸収部材。
- アルミニウム合金押出形材の断面が田の字形であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の押出軸方向エネルギー吸収部材。
- 自動車のサイドメンバに用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の押出軸方向エネルギー吸収部材。
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