JP3777966B2 - 変速機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、無段変速機構と差動歯車機構とを併用した変速機に関し、特に動力源から出力したトルクの一部を差動歯車機構に入力すると同時に、動力源から出力したトルクの他の部分を無段変速機構を介して差動歯車機構に入力することにより、いわゆる動力循環を生じさせて変速比を設定することの可能な変速機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両用の変速機に用いられる無段変速機構として、従来、ベルト式のものやトラクション式(トロイダル式)のものなどが知られている。これらの無段変速機構は、ベルトやパワーローラなどの伝動部材とプーリーやディスクなどの回転体との間の摩擦力や油膜のせん断力などによって、トルクを伝達するように構成されている。そのため、伝達できるトルクが制約されたり、また変速比が大きい場合や反対に小さい場合に動力の伝達効率が低下し、さらには実用上設定可能な変速比が制限されるなどの問題がある。
【0003】
そこで従来、無段変速機構の単独で変速機を構成せずに、遊星歯車機構などの歯車機構を併用して変速機を構成することがおこなわれている。その一例が特表平11−504415号公報に記載されている。この公報に記載された変速機の一例を簡単に説明すると、この変速機は、ベルト式の無段変速機構とシングルピニオン型の遊星歯車機構とを備えており、無段変速機構の駆動プーリーが入力軸と同一軸線上に配置されてこれら入力軸と駆動プーリーとが連結され、さらにその入力軸がエンジンの出力軸に連結されている。また、入力軸と平行に中間軸が配置され、無段変速機構の従動プーリーがその中間軸上に配置されている。さらに、これら入力軸および中間軸と平行に出力軸が配置されており、その出力軸と同一軸線上に遊星歯車機構が配置されている。
【0004】
その遊星歯車機構におけるリングギヤが出力軸に一体的に回転するように連結されており、またサンギヤが歯車式の減速機を介して前記中間軸に連結され、従動プーリーからサンギヤに対してトルクを伝達するように構成されている。さらに、キャリヤと入力軸との間にギヤ対が設けられており、入力軸とその入力軸上のギヤとの間にクラッチ機構が設けられ、さらに、そのギヤの回転を選択的に止めるブレーキ機構が入力軸と同軸上に配置されている。なお、遊星歯車機構には、その全体を一体化して回転させるいわゆる一体化クラッチが設けられている。
【0005】
したがって上記の公報に記載された変速機では、一体化クラッチを係合させて遊星歯車機構の全体を一体回転させるとともに、入力軸に対してギヤ対を非連結状態とすれば、無段変速機構によって変速をおこない、その変速比に応じて増減されたトルクが出力軸から出力される。また、一体化クラッチを解放した状態で入力軸に対して前記ギヤ対を連結すれば、入力軸からキャリヤに対してトルクを伝達する一方、無段変速機構によって設定した変速比および減速機の変速比に応じて増減されたトルクがサンギヤに入力されるので、これらのトルクを合成したトルクがリングギヤから出力軸を経て出力される。その結果、設定可能な変速比の幅が広くなるとともに動力の伝達効率が、無段変速機構の単独で変速をおこなう場合に比較して向上する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の変速機では、遊星歯車機構の全体を一体回転させて無段変速機構のみの変速作用で変速比を設定する変速モードと、無段変速機構を経由したトルクを遊星歯車機構の所定の回転要素に伝達してその回転要素の回転数を変化させて変速比を設定する変速モードとが可能である。しかしながら、これらいずれの変速モードであっても、エンジンから所定の出力部材もしくは駆動輪に到るトルクの伝達に、上記の無段変速機構と遊星歯車機構との両方が関与する。
【0007】
そのため、上記従来の変速機では、無段変速機構と遊星歯車機構とのいずれかもしくはそれぞれに関係するクラッチなどに異常が生じた場合には、それが原因となってトルクの伝達に支障を来し、その結果、直ちに走行できなくなってしまう。あるいは走行できる程度の異常であっても、トルクの伝達に関与するために、異常箇所に過剰な荷重が掛かり、あるいは異常が生じることに起因して他の部分に過剰な荷重が掛かり、これが原因となって損傷が拡大し、あるいは二次損傷が生じるなどの可能性があった。
【0008】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、無段変速機構と差動歯車機構とを有する変速機であって、無段変速機構に関連するトルクの伝達系統もしくは差動歯車機構に関連するトルクの伝達系統に異常が生じても走行を確保できると同時に、二次損傷など異常の拡大を防止もしくは抑制することのできる変速機を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段およびその作用】
この発明は、上記の目的を達成するために、無段変速機構と差動歯車機構と併用した変速機であって、これら無段変速機構と差動歯車機構とを動力源に対して個別に接続・遮断できるように構成したことを特徴とするものである。より具体的には、請求項1の発明は、動力源と、その動力源から選択的にトルクが入力される駆動部材とその駆動部材との間で伝動部材を介してトルクが伝達される従動部材とを有する無段変速機構と、前記動力源から選択的にトルクが伝達される第1回転要素と前記動力源から前記無段変速機構を介してトルクが伝達される第2回転要素と出力要素とされた第3回転要素とを有する差動歯車機構とを備えた変速機であって、前記動力源に常時連結された入力部材と、その入力部材と前記駆動部材とを選択的に連結する発進用係合機構と、前記差動歯車機構のいずれか二つの回転要素同士の差動回転を選択的に阻止する第1係合機構と、前記入力部材と前記第1回転要素とを選択的に連結する第2係合機構とを備えて、前記発進用係合機構と前記第1係合機構とを係合させかつ前記第2係合機構を解放した変速モードと、前記第2係合機構と前記第1係合機構とを係合させかつ前記発進用係合機構を解放させた変速モードとの少なくとも二つのモードを設定可能に構成されていることを特徴とする変速機である。
【0012】
したがって請求項1の発明では、発進用係合機構を係合させて駆動部材を動力源に連結するとともに、第1係合機構を係合させて差動歯車機構の差動作用を阻止すれば、無段変速機構によって設定した回転数比がそのまま変速比となる。これに対して第1係合機構に替えて第2係合機構を係合させれば、差動歯車機構の差動作用が生じ、無段変速機構と差動歯車機構との両方の変速作用によって変速比が設定される。さらに、発進用係合機構のみを係合させれば、無段変速機構で変速作用が生じ、その従動部材からトルクが出力される。また発進用係合機構を解放し、第1および第2の係合機構を係合させれば、一体的に回転する差動歯車機構を介して動力源のトルクを出力することができる。このように、無段変速機構と差動歯車機構とのいずれかを動力源に対して遮断した状態でトルクを出力し、走行することができる。
【0013】
さらに、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記従動部材と前記第2回転要素とを連結する伝動機構を更に備え、前記第1係合機構がその伝動機構と前記第3回転要素に連結されている回転部材とを選択的に連結するように構成されていることを特徴とする変速機である。
【0014】
したがって請求項2の発明では、第1係合機構が係合することにより、伝動機構および回転部材を介して第2回転要素と第3回転要素とが連結され、差動歯車機構の全体が一体化される。そのため、第1係合機構の配置位置が制約されなくなる。
【0015】
そして、請求項3の発明は、動力源と、その動力源から選択的にトルクが入力される駆動部材とその駆動部材との間で伝動部材を介してトルクが伝達される従動部材とを有する無段変速機構と、前記動力源から選択的にトルクが伝達される第1回転要素と前記動力源から前記無段変速機構を介してトルクが伝達される第2回転要素と出力要素とされた第3回転要素とを有する差動歯車機構とを備えた変速機において、前記動力源に常時連結された入力部材と、その入力部材と前記駆動部材とを選択的に連結する発進用係合機構と、前記差動歯車機構のいずれか二つの回転要素同士の差動回転を選択的に阻止する第1係合機構と、前記入力部材と前記第1回転要素とを選択的に連結する第2係合機構と、前記差動歯車機構に対して平行に配置された中間軸と、前記従動部材と前記第2回転要素とを連結する第1伝動機構と、前記第3回転要素と中間軸とを連結する第2伝動機構とを更に備え、前記第1係合機構が前記中間軸と第1伝動機構とを選択的に連結する位置に設けられていることを特徴とする変速機である。
【0016】
したがって、請求項3の発明では、第1係合機構が係合することにより、第2回転要素と第3回転要素とが、中間軸および各伝動機構を介して連結され、差動歯車機構の全体が一体化される。すなわち、第1係合機構を無段変速機構の駆動部材や従動部材とは異なる軸線上に配置できる。
また、請求項4の発明は、請求項3における前記第1伝動機構が、前記中間軸に回転自在に保持されたアイドルギヤを備え、前記第1係合機構が、前記中間軸と同軸上で該中間軸とアイドルギヤとを連結するように配置されていることを特徴とする変速機である。
さらに、請求項5の発明は、動力源と、その動力源から選択的にトルクが入力される駆動部材とその駆動部材との間で伝動部材を介してトルクが伝達される従動部材とを有する無段変速機構と、前記動力源から選択的にトルクが伝達される第1回転要素と前記動力源から前記無段変速機構を介してトルクが伝達される第2回転要素と出力要素とされた第3回転要素とを有する差動歯車機構とを備えた変速機において、前記動力源に常時連結された入力部材と、その入力部材と前記駆動部材とを選択的に連結する発進用係合機構と、前記差動歯車機構のいずれか二つの回転要素同士の差動回転を選択的に阻止する第1係合機構と、前記入力部材と前記第1回転要素とを選択的に連結する第2係合機構と、中間軸と、前記従動部材と前記第2回転要素とを連結する第1伝動機構と、前記第3回転要素と中間軸とを連結する第2伝動機構とを更に備え、前記第1係合機構が前記中間軸と第1伝動機構とを選択的に連結する位置に設けられ、また前記第1伝動機構が、前記中間軸に回転自在に保持されたアイドルギヤを備え、前記第1係合機構が、前記中間軸と同軸上で該中間軸とアイドルギヤとを連結するように配置されていることを特徴とする変速機である。
したがって請求項4あるいは5の発明では、中間軸と同軸上でその中間軸にアイドルギヤが連結されているので、第1伝動機構を係合状態とすることにより、第2回転要素と第3回転要素とが連結され、これらの各要素の相対回転(差動回転)が阻止されて、差動歯車機構の全体が一体となって回転する。また、アイドルギヤと第1伝動機構との間、および第2伝動機構でトルクが生じないことにより、これらの歯車でのかみ合い損失が回避される。
【0017】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1は無段変速機構としてベルト式の無段変速機構1を使用し、かつ差動歯車機構としてシングルピニオン型の遊星歯車機構2を使用した例を示している。すなわち、動力源であるエンジン(内燃機関)3の出力軸と同一軸線上に入力軸4が配置され、その入力軸4とエンジン3とがダンパー5を介して連結されている。したがってエンジン3の出力軸と入力軸4とは、常時、共に回転するように構成されている。
【0018】
その入力軸4の先端側すなわちエンジン3とは反対側に、無段変速機構1における駆動部材である駆動プーリー6が配置され、その中心軸線上に設けられている駆動軸6Aが、入力軸4と同一軸線上に位置している。この駆動プーリー6は、固定シーブに対して可動シーブを軸線方向に移動させて両者の間隔すなわち溝幅を大小に変化させるように構成されている。なお、その可動シーブは、固定シーブに対してエンジン3とは反対側(すなわち図1での左側)に配置されている。それに伴って可動シーブを軸線方向に前後動させるためのアクチュエータ7が、可動シーブの背面側(図1での左側)に配置されている。
【0019】
また、無段変速機構1における従動部材である従動プーリー8が、上記の駆動プーリー6と平行に配置されている。この従動プーリー8は、上記の駆動プーリー6と同様の構成であって、固定シーブと可動シーブとを有し、その可動シーブをアクチュエータ9によって前後動させて溝幅を変更するように構成されている。なお、各プーリー6,8の溝幅は、一方が増大することに伴って他方が減少するように制御され、その際にそれぞれのプーリー6,8の軸線方向での中心位置が変化しないようにするために、従動プーリー8におけるアクチュエータ9は、駆動プーリー6におけるアクチュエータ7とは軸線方向で反対側すなわち図1での右側に配置されている。
【0020】
そして、これらのプーリー6,8に伝動部材であるベルト10が巻き掛けられている。したがって、各プーリー6,8の溝幅を互いに反対方向に変化させることにより、これらのプーリー6,8に対するベルト10の巻き掛け有効径が変化して変速比が連続的に変化するようになっている。また、従動プーリー8に対してトルクを入出力するために、その従動プーリー8に従動軸11が取り付けられている。
【0021】
つぎに、遊星歯車機構2について説明すると、図1に示す遊星歯車機構2は、外歯歯車であるサンギヤ12と、そのサンギヤ12に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ13と、これらのサンギヤ12とリングギヤ13とに噛合したピニオンギヤを自転および公転自在に保持したキャリヤ14とを回転要素とするものであって、上記の入力軸4の外周側に入力軸4と同軸上に配置されている。より具体的には、入力軸4の外周に、サンギヤ軸15が回転自在に嵌合されており、前記サンギヤ12がこのサンギヤ軸15に一体化されている。
【0022】
この遊星歯車機構2におけるキャリヤ14と入力軸4とを選択的に連結するクラッチCH が設けられている。このクラッチCH は、遊星歯車機構2に増速作用を生じさせるためのものであって、いわゆる高速モード用クラッチである。さらに、キャリヤ14を選択的に固定するブレーキBR が設けられている。これは、遊星歯車機構2に反転減速作用を生じさせるためのものであって、リバースブレーキとなっている。
【0023】
さらに、前記入力軸4の先端側、すなわち上記の高速モード用クラッチCH と駆動プーリー6との間に、入力軸4と駆動軸6A(駆動プーリー6)とを選択的に連結する発進用クラッチCS が設けられている。この発進用クラッチCS は、そのトルク容量を徐々に変化させることが可能なクラッチであり、一例として摩擦クラッチが採用されている。またこの発進用クラッチCS は、湿式あるいは乾式のいずれでもよい。
【0024】
前記の入力軸4を含む平面と該平面に平行でかつ前記従動軸11を含む平面との間に、これらの軸4,11と平行に中間軸16が回転自在に配置されている。この中間軸16と前記リングギヤ13とが一対のギヤ17,18によって連結されている。また、この中間軸16とフロントデファレンシャル19とが、他の一対のギヤ20,21によって連結されている。そして、このフロントデファレンシャル19から左右の車輪(図示せず)にトルクを出力するようになっている。したがって上記のリングギヤ13が出力要素となっている。
【0025】
また、前記従動プーリー8から前記サンギヤ12(サンギヤ軸15)にトルクを伝達するためのギヤ対が設けられている。このギヤ対は、図1に示すように、従動軸11に取り付けられた第1ギヤ22と、中間軸16に回転自在に保持されているアイドルギヤ23と、前記サンギヤ軸15に取り付けられた第2ギヤ24とによって構成されている。この第1ギヤ22と第2ギヤ24とのギヤ比は、前記無段変速機構1で設定される最も小さい回転数比(駆動プーリー6と従動プーリー8との回転数の比率)γmin の逆数(1/γmin )とほぼ等しい値に設定されている。
【0026】
さらに、中間軸16とアイドルギヤ23との間には、これらを選択的に連結するクラッチCD が設けられている。その中間軸16が前記一対のギヤ17,18を介してサンギヤ13に連結され、またアイドルギヤ23が第2ギヤ24およびサンギヤ軸15を介してサンギヤ12に連結されているので、クラッチCD が係合することにより、サンギヤ12とリングギヤ13とが連結され、これらのギヤ12,13の相対回転(差動回転)が阻止されて、遊星歯車機構2の全体が一体となって回転するようになっている。したがってこのクラッチCD はいわゆる直結クラッチとなっている。
【0027】
上記のように従動軸11とサンギヤ軸15との間のギヤ比がほぼ(1/γmin )に設定されているので、無段変速機構1での回転数比をほぼ最小の値に設定した状態では、サンギヤ12が入力軸4とほぼ同速度で回転し、その結果、いずれのクラッチCD ,CH の係合・解放の状態に関わらず、遊星歯車機構2の全体がほぼ一体となって回転するようになっている。
【0028】
つぎに、上述した構成の変速機の作用について説明する。上述した無段変速機構1および遊星歯車機構2を有する変速機では、無段変速機構1のみの変速作用で変速比を設定する変速モード(仮にダイレクトモードあるいはLモードという)と、無段変速機構1の変速作用と遊星歯車機構2の変速作用との両方で変速比を設定する変速モード(仮に動力循環モードあるいはHモードという)との2つのモードでの変速をおこなうことができる。
【0029】
先ず、エンジン3を始動する場合、発進用クラッチCS および高速モード用クラッチCH を解放し、上記の無段変速機構1および遊星歯車機構2からなる変速機構からエンジン3を離脱させておく。これらの係合機構CS ,CH が油圧式であって、かつエンジン3によって油圧ポンプ(図示せず)を駆動する構造の場合には、特に制御をおこなうことなくこれらの係合機構が解放状態になるが、蓄圧手段を有する場合や他の動力源で油圧ポンプを駆動するように構成されている場合には、これらの係合機構から排圧して解放状態とする。したがって、エンジン3の出力側に負荷がかかっていないので、エンジン3を始動することができる。
【0030】
ついで前進方向への発進は、変速比を可及的に大きくする必要があるので、無段変速機構1における駆動プーリー6の溝幅を最大にしてベルト10を巻き掛ける有効径を最小とし、かつ従動プーリー8の溝幅を最小にしてその有効径を最大にすることにより、その入出力回転数比の値を最も大きく(γmax )する。また、直結クラッチCD を係合させて、従動プーリー8を中間軸16を介してフロントデファレンシャル19に連結する。なお、直結クラッチCD を係合させることにより、サンギヤ12とリングギヤ13とが差動回転しないように連結され、遊星歯車機構2の全体が一体となって回転する状態となる。
【0031】
その状態で、発進用クラッチCS を次第に係合させる。すなわち係合油圧を次第に増大させて、解放状態からスリップ状態を経て最終的には完全に係合させる。こうすることにより、エンジン3の出力トルクが直結クラッチCD を介して無段変速機構1の駆動プーリー6に入力され、この無段変速機構1から第1ギヤ22およびアイドルギヤ23を経て中間軸16に伝達され、さらにここから前記他のギヤ対20,21を介してフロントデファレンシャル19に出力される。ここに述べたトルクの伝達経路がLモードでのトルク伝達経路であり、したがって遊星歯車機構2はそのトルク伝達経路から切り離されている。また、フロントデファレンシャル19に現れる駆動トルクは、直結クラッチCD のトルク伝達容量が次第に増大することに伴って増大するので、直結クラッチCD を上記のようにトルク容量が次第に増大するように制御することにより、駆動トルクの変化が滑らかになり、車両がスムースに発進する。
【0032】
なおこの場合、アイドルギヤ23に第2ギヤ24が噛み合っていることによりこの第2ギヤ24およびこれと一体のサンギヤ12が回転し、また一対のギヤ対17,18が噛み合っていることによりその一方のギヤ17と一体のリングギヤ13が回転するが、第2ギヤ24に入ったトルクは、遊星歯車機構2を介してギヤ対17,18に抜けるのみであるから、遊星歯車機構2がトルクの伝達に関与しない。すなわち、アイドルギヤ23と第2ギヤ24との間、および一対のギヤ対17,18でトルクの伝達が生じないことにより、これらの歯車でのかみ合い損失が回避される。
【0033】
比較のために、上記の直結クラッチCD をサンギヤ12とリングギヤ13との間に直接設けた場合について説明すると、従動プーリー6のトルクがアイドルギヤ23を含むギヤ対を介してサンギヤ12を含む第2ギヤ24に一旦伝達され、その後、直結クラッチによって一体化させている遊星歯車機構2から一対のギヤ17,18を介して出力されることになるので、遊星歯車機構2がエンジン3から出力部材であるフロントデファレンシャル19に到るトルクの伝達を媒介することになる。中間軸16に前記直結クラッチCD を設けることにより、このような遊星歯車機構2によるトルク伝達の媒介が回避される。
【0034】
上述したLモードの状態を遊星歯車機構2についての共線図で示せば、図2のとおりである。すなわち直結クラッチCD が係合することにより、遊星歯車機構2の全体が一体となって回転し、したがってエンジン(Eng)3から無段変速機構(CVT)1を介してサンギヤ12にトルクを伝達すると、出力要素であるリングギヤ13が入力要素であるサンギヤ12と同速度で同方向に回転するので、この場合の運転状態は直線Aで表される。
【0035】
この状態から無段変速機構1による回転数比を小さくすれば、すなわち駆動プーリー6の溝幅を次第に小さくして有効径を増大させ、同時に従動プーリー8の溝幅を次第に大きくして有効径を減少させれば、遊星歯車機構2に対する入力回転数が相対的に次第に大きくなるとともに、遊星歯車機構2の全体が一体的に回転するので、エンジン3の回転数に対する出力軸15の回転数が、無段変速機構1での回転数比の変化に応じて増大する。言い換えれば、車速の変化がない場合、エンジン回転数が、変速比の減少に応じて低下する。このような動作状態の変化は、図2において前記の直線Aを回転数の増大方向である上側に平行移動させることにより表される。そして、遊星歯車機構2をいわゆる直結状態に設定して無段変速機構1の回転数比を最低値(最も高速側の値:γmin )とした状態は、図2の直線Bで表される。
【0036】
このように、直結クラッチCD を係合させ、かつ高速モード用クラッチCH を解放した状態がダイレクトモード(Lモード)であって、無段変速機構1の回転数比の変化がそのまま変速機全体の変速比の変化として現れる。
【0037】
無段変速機構1における回転数比をほぼ最小値γmin とした状態では、従動軸11とサンギヤ軸15との間のギヤ対22,23,24のギヤ比が(1/γmin )であるから、直結クラッチCD を解放してもサンギヤ12とキャリヤ14(入力軸4)との回転数とが同じになる。したがっていずれの回転部材においても回転変動を生じさせることなく、高速モード用クラッチCH を係合させ、かつ直結クラッチCD を解放させることができる。このようにしてクラッチのいわゆるつかみ替えをおこなった後、キャリヤ14をエンジン3の回転数に応じた回転数とするとともに、無段変速機構1によってサンギヤ12の回転数を変化させることにより、無段変速機構1のみで設定できる変速比より小さい変速比となるいわゆるオーバードライブ状態を設定することができる。
【0038】
その状態を図2に直線Cで示してあり、キャリヤ14の回転数をエンジン3の回転数に応じた回転数に維持した状態で、無段変速機構1の回転数比γを増大させてサンギヤ12の回転数を低下させると、それに従って、出力要素であるリングギヤ13の回転数が増大する。すなわち変速機の全体としての変速比が更に小さくなり、車速が変化しないとすれば、エンジン回転数が低下する。これは、動力循環(リサーキュレーション)の状態である。
【0039】
このように、直結クラッチCD を解放させ、かつ高速モード用クラッチCH を係合した状態が動力循環モード(Hモード)であって、無段変速機構1の回転数比の変化方向とは反対方向に変速機全体の変速比が変化する。より具体的には、無段変速機構1の回転数比を増大させることにより、無段変速機構1の単独で設定できる変速比より小さい変速比が設定される。
【0040】
なお、上述したように、無段変速機構1の回転数比を最も小さい値γmin に設定した状態では、直結クラッチCD を解放しても、変速機の全体が一体回転する。この状態は、ダイレクトモード(Lモード)での最も高速側の状態であり、かつ動力循環モード(Hモード)での最も低速側の状態であり、各変速モードに共通の変速状態である。言い換えれば、回転数比の最小値γmin が、一方の変速モードから他方の変速モードへの移行点(切替点)となっている。
【0041】
また、各クラッチCD ,CH を解放し、かつブレーキBR を係合させることにより、後進走行することが可能になる。すなわち、遊星歯車機構2において、ブレーキBR を係合させることによりキャリヤ14が固定され、その状態で無段変速機構1を介してサンギヤ12にトルクが入力されるから、出力要素であるリングギヤ13が、サンギヤ12とは反対方向に回転する。この状態を図2に直線Dで示してある。
【0042】
なお、上述したダイレクトモード(Lモード)および動力循環モード(Hモード)ならびに後進状態を設定するための各係合機構の係合・解放状態をまとめて示すと、図3のとおりである。この図3において、レンジとは、手動操作によって選択される走行の形態であって、Rは後進走行のためのレンジ、Pは停車状態を維持するためのレンジ、Nはニュートラル状態を設定するためのレンジ、Dは前進走行のためのレンジをそれぞれ示す。さらに、図3において空欄は解放状態を示し、〇印は係合状態を示し、さらに破線の〇印は係合と解放とのいずれでもよいことを示す。その係合状態での伝達トルク容量は、例えば油圧を電磁弁(図示せず)によって高低に調整することにより、任意に設定できるようになっている。
【0043】
上述したように、図1に示す変速機によれば、無段変速機構1のみが変速作用をおこなってその回転数比γに応じた変速比を設定するダイレクトモードと遊星歯車機構2に対してエンジン3からトルクを入力する一方、無段変速機構1を介してトルクを入力することにより無段変速機構1の回転数比の変化とは反対に変速比を変化させて、より小さい変速比を設定する高速モードとを設定することができる。したがって、変速比の幅が広くなるうえに、高速走行時には無段変速機構1と遊星歯車機構2とを介してトルクが伝達されるので、トルクの伝達効率が向上する。
【0044】
なお、直結クラッチCD と高速モード用クラッチCH とを係合させ、かつ発進用クラッチCS およびブレーキBR を解放すれば、エンジン3から入力軸4を介して伝達されたトルクが、一体化されている遊星歯車機構2を介してフロントデファレンシャル19に出力される。すなわち入力軸4からキャリヤ14にトルクが伝達されるが、直結クラッチCD が係合していることにより、遊星歯車機構2の全体が一体化されているので、キャリヤ14のトルクがそのまま一対のギヤ17,18を介して中間軸16に伝達され、さらに他のギヤ対20,21を介してフロントデファレンシャル19にトルクが伝達される。したがってこの場合の変速比は、各ギヤ対のギヤ比を掛け合わせた値になる。そして、ここで述べたトルクの伝達経路が、発進用クラッチCS を解放した状態でのトルクの伝達経路であり、したがってこの場合は、無段変速機構1はそのトルク伝達経路から切り離されている。
【0045】
以上のように、発進用クラッチCS を無段変速機構1における駆動プーリー6の直前に設け、かつ直結クラッチCD を中間軸16に設けたことにより、エンジン3から出力部材であるフロントデファレンシャル19に到るトルクの伝達経路として、無段変速機構1のみを経由する経路と、遊星歯車機構2のみを経由する経路とを設定することができる。そのため、無段変速機構1もしくは遊星歯車機構2のいずれかに異常が生じた場合、その異常のある機構を含まないトルク伝達経路でエンジン3のトルクを出力部材に伝達することが可能になる。したがって上記の変速機では、エンジン3のトルクを異常のある機構に伝達しないで走行を確保できるから、退避走行に伴う損傷の拡大や二次損傷を回避もしくは抑制することができる。
【0046】
ここで上記の具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述した構成の発進用クラッチC S が請求項1の発進用係合機構に相当し、直結クラッチCD が請求項1の第1係合機構に相当し、高速モード用クラッチCH が請求項1の第2係合機構に相当する。さらに、従動軸11とサンギヤ軸15との間のギヤ22,23,24が請求項2の伝動機構および請求項3の第1伝動機構に相当し、中間軸16とリングギヤ13と間のギヤ対17,18が請求項3の第2伝動機構に相当する。
【0047】
なお、この発明は上述した各具体例で示した構成に限定されない。したがって無段変速機構はベルト式のもの以外の無段変速機構であってもよく、また遊星歯車機構はダブルピニオン型のものであってもよく、その配置位置は駆動プーリーと同一軸線上ではなく従動部材と同一軸線上であってもよい。さらに、この発明における係合機構は、摩擦式のものに限定されないのであって、シンクロナイザーなどの同期連結機構などの他の機構を採用することもできる。そしてまた、伝動機構はギヤ対に限らず、チェーンやベルトを使用した巻き掛け伝動機構などの他の形式の伝動機構であってもよい。またさらに、この発明は、動力源を電動機によって構成した電気自動車や、内燃機関と電動機もしくは電動・発電機とを動力源としたハイブリッド車にも適用することができる。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、発進用係合機構を係合させて駆動部材を動力源に連結するとともに、第1係合機構を係合させて差動歯車機構の差動作用を阻止すれば、無段変速機構によって設定した回転数比がそのまま変速比となる。これに対して第1係合機構に替えて第2係合機構を係合させれば、差動歯車機構の差動作用が生じ、無段変速機構と差動歯車機構との両方の変速作用によって変速比が設定される。さらに、発進用係合機構のみを係合させれば、無段変速機構で変速作用が生じ、その従動部材からトルクが出力される。また発進用係合機構を解放し、第1および第2の係合機構を係合させれば、一体的に回転する差動歯車機構を介して動力源のトルクを出力することができる。このように、無段変速機構と差動歯車機構とのいずれかを動力源に対して遮断した状態でトルクを出力し、走行することが可能になる。
【0050】
さらに、請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果に加え、第1係合機構が係合することにより、伝動機構および回転部材を介して第2回転要素と第3回転要素とが連結され、差動歯車機構の全体が一体化されるため、第1係合機構の配置位置の制約を少なくすることができる。
【0051】
そして、請求項3の発明によれば、第1係合機構が係合することにより、第2回転要素と第3回転要素とが、中間軸および各伝動機構を介して連結され、差動歯車機構の全体が一体化されるので、第1係合機構を無段変速機構の駆動部材や従動部材とは異なる軸線上に配置することが可能になる。
また、請求項4あるいは5の発明によれば、中間軸と同軸上でその中間軸にアイドルギヤが連結されているので、第1伝動機構を係合状態とすることにより、第2回転要素と第3回転要素とが連結され、これらの各要素の相対回転(差動回転)が阻止されて、差動歯車機構の全体を一体となって回転させることができる。また、アイドルギヤと第1伝動機構との間、および第2伝動機構でトルクが生じないことにより、これらの歯車でのかみ合い損失を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明に係る変速機の一例を示すスケルトン図である。
【図2】 その遊星歯車機構についての共線図である。
【図3】 この係合機構の係合・解放状態を各レンジごとにまとめて示す図表である。
【符号の説明】
1…無段変速機構、 2…遊星歯車機構、 3…エンジン、 4…入力軸、 6…駆動プーリー、 8…従動プーリー、 10…ベルト、 12…サンギヤ、13…リングギヤ、 14…キャリヤ、 CD …直結クラッチ、 CH …高速モード用クラッチ、 CS …発進用クラッチ。
Claims (5)
- 動力源と、その動力源から選択的にトルクが入力される駆動部材とその駆動部材との間で伝動部材を介してトルクが伝達される従動部材とを有する無段変速機構と、前記動力源から選択的にトルクが伝達される第1回転要素と前記動力源から前記無段変速機構を介してトルクが伝達される第2回転要素と出力要素とされた第3回転要素とを有する差動歯車機構とを備えた変速機において、
前記動力源に常時連結された入力部材と、その入力部材と前記駆動部材とを選択的に連結する発進用係合機構と、前記差動歯車機構のいずれか二つの回転要素同士の差動回転を選択的に阻止する第1係合機構と、前記入力部材と前記第1回転要素とを選択的に連結する第2係合機構とを備えて、前記発進用係合機構と前記第1係合機構とを係合させかつ前記第2係合機構を解放した変速モードと、前記第2係合機構と前記第1係合機構とを係合させかつ前記発進用係合機構を解放させた変速モードとの少なくとも二つのモードを設定可能に構成されていることを特徴とする変速機。 - 前記従動部材と前記第2回転要素とを連結する伝動機構を更に備え、前記第1係合機構がその伝動機構と前記第3回転要素に連結されている回転部材とを選択的に連結するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の変速機。
- 動力源と、その動力源から選択的にトルクが入力される駆動部材とその駆動部材との間で伝動部材を介してトルクが伝達される従動部材とを有する無段変速機構と、前記動力源から選択的にトルクが伝達される第1回転要素と前記動力源から前記無段変速機構を介してトルクが伝達される第2回転要素と出力要素とされた第3回転要素とを有する差動歯車機構とを備えた変速機において、
前記動力源に常時連結された入力部材と、その入力部材と前記駆動部材とを選択的に連結する発進用係合機構と、前記差動歯車機構のいずれか二つの回転要素同士の差動回転を選択的に阻止する第1係合機構と、前記入力部材と前記第1回転要素とを選択的に連結する第2係合機構と、前記差動歯車機構に対して平行に配置された中間軸と、前記従動部材と前記第2回転要素とを連結する第1伝動機構と、前記第3回転要素と中間軸とを連結する第2伝動機構とを更に備え、前記第1係合機構が前記中間軸と第1伝動機構とを選択的に連結する位置に設けられていることを特徴とする変速機。 - 前記第1伝動機構が、前記中間軸に回転自在に保持されたアイドルギヤを備え、前記第1係合機構が、前記中間軸と同軸上で該中間軸とアイドルギヤとを連結するように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の変速機。
- 動力源と、その動力源から選択的にトルクが入力される駆動部材とその駆動部材との間で伝動部材を介してトルクが伝達される従動部材とを有する無段変速機構と、前記動力源から選択的にトルクが伝達される第1回転要素と前記動力源から前記無段変速機構を介してトルクが伝達される第2回転要素と出力要素とされた第3回転要素とを有する差動歯車機構とを備えた変速機において、
前記動力源に常時連結された入力部材と、その入力部材と前記駆動部材とを選択的に連結する発進用係合機構と、前記差動歯車機構のいずれか二つの回転要素同士の差動回転を選択的に阻止する第1係合機構と、前記入力部材と前記第1回転要素とを選択的に連結する第2係合機構と、中間軸と、前記従動部材と前記第2回転要素とを連結する第1伝動機構と、前記第3回転要素と中間軸とを連結する第2伝動機構とを更に備え、前記第1係合機構が前記中間軸と第1伝動機構とを選択的に連結する位置に設けられ、また前記第1伝動機構が、前記中間軸に回転自在に保持されたアイドルギヤを備え、前記第1係合機構が、前記中間軸と同軸上で該中間軸とアイドルギヤとを連結するように配置されていることを特徴とする変速機。
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