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JP3599628B2 - 複合硬質膜被覆部材 - Google Patents

複合硬質膜被覆部材 Download PDF

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JP3599628B2 JP2000049530A JP2000049530A JP3599628B2 JP 3599628 B2 JP3599628 B2 JP 3599628B2 JP 2000049530 A JP2000049530 A JP 2000049530A JP 2000049530 A JP2000049530 A JP 2000049530A JP 3599628 B2 JP3599628 B2 JP 3599628B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超高温高圧焼結体でなる基材上にチタンーアルミニウム含有複合化合物でなる複合硬質膜を含む被覆層が被覆された複合硬質膜被覆部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から金属、合金、焼結合金、セラミックス焼結体または超高温高圧焼結体の基材上に、化学蒸着法(以下、「CVD法」という),物理蒸着法(以下、「PVD法」という)またはプラズマCVD法を利用して硬質膜を被覆し、基材と硬質膜とを有効に利用した硬質膜被覆部材が実用されてきている。現在、実用されている硬質膜被覆部材における硬質膜の材質は、Tiの窒化物,炭窒化物,炭化物などのTi元素含有硬質膜と,TiとAlを含有の複合窒化物,複合炭窒化物などのTiーAl元素含有複合硬質膜と、酸化アルミニウム硬質膜を代表例として挙げることができる。
【0003】
これらの硬質膜被覆部材のうち、基材上に、TiーAl元素含有複合硬質膜を被覆し、TiーAl元素含有複合硬質膜の特性を有効に引き出して、長寿命を達成しようとした複合硬質膜被覆部材が多数提案されている。これらのうち、複合硬質膜の結晶構造から長寿命を達成させることについて提案されている代表的なものに、特開平8ー209335号公報、特開平9−291353号公報、特開平9ー295204号公報、特開平9ー300105号公報、特開平9ー300106号公報、特開平9ー323204号公報、特開平9ー323205号公報、特開平10ー76407号公報、特開平10ー76408号公報、特開平11ー1762号公報、特開平11ー131214号公報、特開平11ー131215号公報、特開平11ー131216号公報、および特開平11ー131217号公報がある。また、TiーAl元素含有複合硬質膜ではなく、Ti元素含有化合物硬質膜を被覆した被覆超硬合金について提案されている代表的なものに、特開昭52ー28478号公報がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
TiーAl元素含有複合硬質膜を被覆した複合硬質膜被覆部材に関する先行技術文献のうち、特開平8ー209335号公報、特開平9ー295204号公報、特開平9ー300105号公報、特開平9ー300106号公報、特開平9ー323204号公報、特開平9ー323205号公報、特開平10ー76407号公報、特開平10ー76408号公報、特開平11ー131215号公報、および特開平11ー131217号公報には、Ti−Al元素含有複合硬質膜のX線回折における(111)結晶面のピーク高さに対する(200)結晶面のピーク高さの比が1以上、1.5以上または2以上である構成要件を含む被覆部材について開示されている。また、先行技術文献のうち、特開平9ー291353号公報、特開平11ー131214号公報および特開平11ー131216号公報には、Ti−Al元素含有複合硬質膜のX線回折における(111)結晶面のピーク高さに対する(200)結晶面のピーク高さの比が2以下である構成要件を含む被覆部材について開示されている。
【0005】
また、特開平10ー317123号公報には、Cu,Kα線を線源とするX線回折における(Ti,Al)Nに代表される複合硬質膜の回折ピークのうち、(200)結晶面が最高回折ピーク高さとなる構成要件を含む複合硬質膜部材について、さらに特開平11ー1762号公報には、Cu,Kα線を線源とするX線回折における同複合硬質膜の回折ピークのうち、42.5〜44.5度内の回折角(2θ)に最高回折ピーク高さを構成要件とする複合硬質膜被覆部材について開示されている。
【0006】
これら15件の公開特許公報には、Ti−Al元素含有複合硬質膜における複合硬質膜内の残留圧縮応力、または複合硬質膜内の結晶配向を考慮し、複合硬質膜内の粒界破壊の抑制、基材と複合硬質膜との密着性の向上、耐摩耗性の向上を発揮させることにより、安定した切削加工と長寿命を可能としたことが開示されている。しかしながら、これら15件の同公報に記載されている複合硬質膜被覆部材は、複合硬質膜に存在する結晶の欠陥および歪みに配慮されていないことから、複合硬質膜自体の強度,耐摩耗性に満足できなく、その結果基材と複合硬質膜との密着性および複合硬質膜と隣接する他の膜との密着性に満足できなく、寿命のバラツキが大きく、切削工具として実用したときに低温領域から高温領域まで広範囲の領域において、安定して長寿命を得ることが困難であるという問題を有している。
【0007】
その他、Ti−Al元素含有複合硬質膜に関する先行技術文献ではないが、特開昭52ー28478号公報には、硬質膜の(200)結晶面におけるX線回折線が2θで半価幅が0.4度以上である硬質膜部材について開示されている。同公報に開示の硬質膜部材は、物理蒸着法による硬質膜であり、化学蒸着法による硬質膜との相違を半価幅により表現しており、硬質膜の結晶の欠陥および歪みを配慮していないことから、上述した複合硬質膜と同様に硬質膜の強度、耐摩耗性および密着性に満足できなく、寿命のバラツキが大きく、切削工具として実用したときに低温領域から高温領域まで広範囲の領域において、安定して長寿命を得ることが困難であるという問題を有している。
【0008】
本発明は、上述のような問題点を解決したもので、具体的には、チタンーアルミニウムを含む複合化合物でなる複合硬質膜の結晶の欠陥,歪み,結晶構造および結晶配向を配慮し、特に切削工具としての使用領域を拡大し、複合硬質膜の特性のバラツキを抑制し、高靭性,高硬度性,耐摩耗性,耐酸化性,耐熱衝撃性,耐欠損性,耐溶着性のある複合硬質膜、特に高強度および耐剥離性を高めて被削材との耐溶着性を向上させた複合硬質膜とすることにより一層長寿命を達成させた複合硬質膜被覆部材の提供を目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、CVD法,PVD法およびプラズマPVD法に関する硬質膜の成膜についての研究、特にPVD法による硬質膜についての研究を長期に亘って行ってきた結果、硬質膜の中でもTi−Al含有の複合硬質膜の成膜時におけるプラズマ密度の向上およびイオン化効率の向上を行い、さらに気相法エピタキシャル成長させて、結晶を最適に配向させると、複合硬質膜内の歪みが均一に緩和されること、複合硬質膜の結晶の欠陥が抑制されること、微細結晶の複合硬質膜が得られることから、複合硬質膜自体の強度,耐摩耗性,耐酸化性および耐熱性を向上させることが可能となり、複合硬質膜と基材または下地層や外層との密着性の向上が顕著になるという第1の知見と、このように硬質膜が完全な結晶に近似する場合には、X線回折における最高ピークを含めた少なくとも2本の回折線ピークの高さ比および半価幅比から判断することが簡易であるという第2の知見とを得るに至ったものである。これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
本発明の複合硬質膜被覆部材は、超高温高圧焼結体でなる基材の表面にチタンとアルミニウムとを含む複合窒化物、複合炭化物、複合炭窒化物、複合窒酸化物、複合炭酸化物、複合炭窒酸化物の中から選ばれた少なくとも1種の複合硬質膜を含む単層または積層の被覆層として被覆されており、該複合硬質膜の表面から銅ターゲットを用いてX線回折したときに、(200)結晶面のピーク高さをh(200)とし、(111)結晶面のピーク高さをh(111)としたときに、h(200)/h(111)≧4.0からなり、該(200)結晶面のピークの半価幅をd(200)とし、該(111)結晶面のピークの半価幅をd(111)としたときに、1.5≧d(200)/d(111)≧0.8からなるものである。
【0011】
本発明の複合硬質膜被覆部材は、気相法エピタキシャル成長を利用して、チタンとアルミニウムとを含む複合硬質膜における(200)結晶面の配向を強くし、複合硬質膜内の歪みを極力抑制することにより、複合硬質膜自体の強度、靱性を高めると共に、耐摩耗性もすぐれるというシナージ効果を発揮させたものであり、複合硬質膜の表面から銅ターゲットを用いてX線回折したときに、h(200)/h(111)<4.0になる場合、d(200)/d(111)>1.5またはd(200)/d(111)<0.8になる場合には、(200)結晶面への配向性が弱く、膜内の欠陥および歪みが大きくなり、上述のシナージ効果が弱くなることから、上述のようなピーク高さ比および半価幅比と定めたものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の複合硬質膜被覆部材における基材は、立方晶窒化硼素系焼結体,ダイヤモンド系焼結体に代表される超高温高圧焼結体を挙げることができる。これらのうち、従来から切削用工具または耐摩耗用工具として用いられている材料または物質を基材とする場合には、被覆切削用工具または被覆耐摩耗用工具としての寿命向上の効果が高くなることから、好ましいことである。
【0013】
これらの基材のうち、70体積%以上のダイヤモンドと残部の粒界相とからなるダイヤモンド系焼結体、ならびに20体積%以上の立方晶窒化硼素と粒界結合相とからなる立方晶窒化硼素系焼結体でなる場合が好ましいことである。これらのうち、ダイヤモンド系焼結体は、ダイヤモンド(以下、「DIA」と記す)が85〜98体積%と残部の粒界相が従来のダイヤモンド系焼結体に含有されている金属、合金、具体的には、Co,Ni,Fe,Siおよびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種を含む場合には、基材と複合硬質膜との両特性を最適に発揮させることができ、切削工具としての寿命向上が顕著になることから好ましいことである。立方晶窒化硼素系焼結体は、立方晶窒化硼素が35〜95体積%と残部の粒界結合相が周期律表の4a,5a,6a族元素の炭化物、窒化物、硼化物、Si,Mg,Alの窒化物、硼化物、酸化物およびこれらの相互固溶体、Co,Ni,Ti,Alの金属、合金、金属間化合物の中から選ばれた少なくとも1種からなる場合には、基材と複合硬質膜との両特性を最適に発揮させることができ、切削工具としての寿命向上が顕著になることから好ましいことである。
【0014】
これらの基材に共通した問題として、基材の表面精度があり、基材の表面精度を高くすると、複合硬質膜の表面精度も高くなり、例えば、切削工具として使用した場合に摩擦抵抗が低くなって複合硬質膜表面および被削材表面の荒れが抑制されて、寿命向上効果が高くなることから好ましいことである。基材の表面精度は、JIS規格B0601に規定されている表面粗さにおける中心線平均粗さであるRaで0.1μm以下が好ましく、より好ましいのはRaが0.05μm以下からなるものである。
【0015】
これらの基材表面に被覆される複合硬質膜を含む被覆層の構成は、基材に隣接して密着性を目的に被覆される下地層、この下地層に隣接して被覆される本発明における複合硬質膜でなる中間層、この中間層に隣接して被覆される外層、この外層の表面に使用前後の判別および装飾目的で被覆される最外層などを2層以上に積層する構成、具体的には、例えば基材の表面に順次被覆される被覆層が基材ー下地層ー複合硬質膜(中間層)ー外層ー最外層からなる積層の構成、基材ー下地層ー複合硬質膜(中間層)ー外層からなる積層の構成、基材ー下地層ー複合硬質膜(中間層)の積層からなる構成、基材ー下地層ー複合硬質膜(中間層)ー最外層からなる積層の構成、基材ー複合硬質膜(中間層)ー外層ー最外層からなる積層の構成、基材ー複合硬質膜(中間層)ー外層からなる積層の構成、基材ー複合硬質膜(中間層)ー最外層の積層からなる構成、または基材ー複合硬質膜(中間層)の構成、を挙げることができる。これらのうち、基材表面に直接に複合硬質膜を被覆する構成の場合には、製造時における工程の煩雑さがないこと、工程時間の短縮となること、品質管理上のバラツキが少なくなることから、好ましいことである。
【0016】
これらの被覆層のうち、下地層は、金属、合金,金属間化合物または金属化合物でなり、具体的には、例えばTi,Al,Ni,Co,Wの金属,これなの相互合金,Ti−Al,Ti−Ni,Ti−Co,Al−Ni,Al−Co,Co−W,Ti−Al−Ni,Ti−Al−Coの金属間化合物,周期律表の4a,5a,6a族金属の炭化物、窒化物、炭酸化物、窒酸化物,これらの相互固溶体でなる金属化合物から選ばれた少なくとも1種の単層または多層でなる場合を挙げることができる。また、外層は、具体的には、例えば周期律表の4a,5a,6a族金属の炭化物、窒化物、炭酸化物、窒酸化物,これらの相互固溶体,Alの酸化物,窒化物,酸窒化物,ダイヤモンド,硬質カーボン(ダイヤモンド状カーボンともいわれる),立方晶窒化硼素,硬質窒化硼素これら2種以上の混合物の中から選ばれた少なくとも1種の単層または多層でなる場合を挙げることができる。さらに、最外層は、使用前後の判別が容易な色彩を有する被覆層、装飾的効果のある被覆層であればよく、具体的には、例えば4a,5a,6a族金属の窒化物、炭窒化物、窒酸化物,これらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種の単層または多層でなる場合を挙げることができる。
【0017】
本発明の骨子となる複合硬質膜は、被覆層自体が複合硬質膜でなる場合、別の表現をすると、基材表面に複合硬質膜のみが被覆された構成でなる場合、基材表面に上述の下地層と複合硬質膜とが被覆されている構成の場合、または前述の被覆層の構成のように中間層として被覆されている構成の場合がある。この複合硬質膜の組成成分、膜質は、具体的な例示として化学式により記載すると、(Ti,Al)N、(Ti,Al)C、(Ti,Al)(C,N)、(Ti,Al)(N,O)、(Ti,Al)(C,O)、(Ti,Al)(C,N,O)、(Ti,Al,M)N、(Ti,Al,M)C、(Ti,Al,M)(C,N)、(Ti,Al,M)(N,O)、(Ti,Al,M)(C,O)、および(Ti,Al,M)(C,N,O)の中から選ばれた少なくとも1種の単層または積層でなる場合を挙げることができる。(ただし、Mは、Ti,Alを除いた金属および半金属の元素の1種以上を表わし、特に周期律表の4a,5a,6a族元素、希土類元素、Mn元素、Mg元素、Si元素、B元素の中の少なくとも1種からなる場合が好ましい)
【0018】
これらの複合硬質膜は、金属元素がTiとAlのみを含有している場合には、次の化学式で表せる(Tia,Alb)(Cx,Ny,OzWの複合硬質膜[ただし、aは金属元素中のTi(チタン)元素の原子比、bは金属元素中のAl(アルミニウム)元素の原子比、xは非金属元素中の炭素(C)元素の原子比、yは非金属元素中の窒素(N)元素の原子比、zは非金属元素中の酸素(O)元素の原子比、wは金属元素の合計に対する非金属元素の原子比を表し、それぞれがa+b=1、0.8≧a≧0.4、x+y+z=1、0.5≧x≧0、1≧y≧0.5、0.5≧z≧0、1.05≧w≧0.7の関係にある]でなる場合には、複合硬質膜自体の強度、耐摩耗性および靱性にすぐれること、しかも歪み,欠陥が少なく耐剥離性にすぐれることから好ましいことである。
【0019】
また、TiとAl以外の金属元素を含有した複合硬質膜でなる場合には、次の化学式で表せる(Tia,Alb,M1-a-b)(Cx,Ny,OzWの複合硬質膜[ただし、aは金属元素中のTi(チタン)元素の原子比、bは金属元素中のAl(アルミニウム)元素の原子比、Mは周期律表の4a,5a,6a族元素、希土類元素、Si元素、Mn元素、Mg元素、B元素の中の少なくとも1種を表し、xは非金属元素中の炭素(C)元素の原子比、yは非金属元素中の窒素(N)元素の原子比、zは非金属元素中の酸素(O)元素の原子比、wは金属元素の合計に対する非金属元素の原子比を表し、それぞれが0.8≧a≧0.4、0.6>b>0.2、x+y+z=1、0.5≧x≧0、1≧y≧0.5、0.5≧z≧0、1.05≧w≧0.7の関係にある]でなる場合には、複合硬質膜自体の強度、耐摩耗性および靱性にすぐれること、しかも歪み,欠陥が少なく耐剥離性にすぐれることから好ましいことである。
【0020】
これらの複合硬質膜は、複合硬質膜の結晶粒子の界面に金属元素からなる複合硬質膜強化物質が極微量に含有されていると、より一層複合硬質膜自体の強度、靱性がすぐれること、歪みが緩和されること、耐剥離性の向上が顕著になることから好ましいことである。このときの複合硬質膜強化物質は、基材を構成している金属元素からなる場合には、基材と複合硬質膜との整合性を高めること、密着性を高めることから好ましいことである。この複合硬質膜強化物質は、被覆層を被覆する前に、メッキ法や真空蒸着法などにより形成しておいて、これを拡散させることも可能であるが、基材を構成している金属元素を複合硬質膜中に拡散させると簡易に得られることから、好ましいことである。
【0021】
これらの複合硬質膜は、複合硬質膜中のTiとAlとの金属元素の合計含有量に対するAl元素の含有量が基材表面から複合硬質膜の表面に向かって増加していること、別の表現をすると、Ti元素の含有量が複合硬質膜の表面から基材表面に向かって増加していること、いわゆる傾斜組成の複合硬質膜にすると基材と複合硬質膜との密着性がすぐれること、複合硬質膜自体の強度,靱性にすぐれて、欠陥,歪みおよび残留応力が減少すること、複合硬質膜表面の耐酸化性,耐摩耗性および耐腐食性がすぐれることから、好ましいことである。このときのAl元素およびTi元素の増加は、階段状,ノコギリの刃状にミクロ的には増減があるとしてもマクロ的には段階的に増加する場合、放物線状,直線状に連続的に増加している場合でもよいものである。
【0022】
この複合硬質膜は、複合硬質膜自体の構造からすると、基材表面に対し垂直方向に柱状に成長した柱状結晶が含まれている場合には、複合硬質膜の表面からの耐圧壊強度が向上し、耐剥離性、耐微小チッピング性にすぐれることから、好ましいことである。この柱状結晶を含む複合硬質膜は、具体的には、複合硬質膜全体が柱状結晶の層でなる場合、粒状結晶と柱状結晶との混在した層でなる場合、粒状結晶の層と柱状結晶の層との積層でなる場合、またはこれらの粒状結晶と柱状結晶のそれぞれの中に前述した複合硬質膜強化物質が微量含有されている場合を例示することができる。これらのうち、複合硬質膜強化物質が複合硬質膜と複合硬質膜強化物質との合計に対し、3体積%以下、好ましくは1体積%以下含有していると、複合硬質膜の表面からの垂直方向および水平方向の両方からの耐圧壊強度,耐圧縮強度にすぐれるとともに、耐摩耗性にもすぐれるというシナージ効果を発揮することができることから、好ましいことである。
【0023】
これらの複合硬質膜は、前述した被覆層の構成のどの位置に存在するかにより複合硬質膜自体の構造を考配慮ることが好ましく、この被覆層の構成として、基材に直接複合硬質膜を被覆する場合、または基材に下地層を被覆した後、下地層に複合硬質膜を被覆し、複合硬質膜の表面が他の物質(例えば、切削工具における被削材)と接触する状態で使用される第1の構成による複合硬質膜部材と、複合硬質膜の表面に外層を被覆した場合、または複合硬質膜の表面に外層および最外層を被覆し、複合硬質膜の表面が他の物質と直接接触しない状態で使用される第2の構成による複合硬質膜部材とに大別することができる。
【0024】
これらのうち、第1の構成による複合硬質膜部材の場合には、複合硬質膜の表面は、JIS規格B0601に規定されている表面粗さにおける中心線平均粗さRaで0.1μm以下、好ましくは0.05μm以下にすると、切削工具として使用した場合に、被削材への損傷が緩和されること、切削抵抗が緩和されること、切粉の排出が容易になることから、より一層の長寿命となり、好ましいことである。また、第2の構成による複合硬質膜部材においても、外層の膜厚さ、または外層と最外層との合計膜厚さにより異なるが、複合硬質膜の表面粗さを上述のようにしておくと、外層および最外層の表面粗さも滑らかで、平坦となり、上述と同様の効果を発揮できることから、好ましいことである。
【0025】
被覆層を構成する各層の膜厚さは、用途、形状および被覆層の構成により、選択されるのであるが、上述の第1の構成による複合硬質膜部材の場合には、被覆層の主体が複合硬質膜となり、この場合には複合硬質膜の膜厚さを1〜20μm、主として密着性を目的として下地層を介在させる場合には、下地層の膜厚さを0.2〜2μmとすると、被覆層自体の強度、耐摩耗性、靱性および耐剥離性から、好ましいことである。また、上述の第2の構成による複合硬質膜部材でなる場合には、下地層の膜厚さを0.2〜2μm、複合硬質膜の膜厚さを1〜10μm、外層の膜厚さを1〜10μm、最外層の膜厚さを0.5〜2μmとすると、各膜層の特性を最適に発揮させることができることから、好ましいことである。以上に詳述してきた複合硬質膜を初め、下地層,外層,および最外層は、化学量論組成でなる場合、または非化学量論組成でなる場合でもよく、実質的には非化学量論組成からなっている場合が多いものである。
【0026】
以上のような形態でなる本発明の複合硬質膜部材は、各種の用途に実用できるものであり、具体的には、例えば旋削工具,フライス工具,ドリル,エンドミルに代表される切削工具、特に被削材が鋳物や鋼であり、耐衝撃性を必要とする断続切削工具や回転切削工具として、ダイス,パンチなどの型工具からスリッタ−などの切断刃,裁断刃などの耐摩耗用工具として、ノズルや塗付工具などの耐腐食耐摩耗用工具として、鉱山,道路,土建などに用いられる切断工具,掘削工具,窄孔工具,破砕工具に代表される土木建設用工具として実用できるものである。これらのうち、本発明の複合硬質膜部材は、ミクロ的に温度,摩擦、熱衝撃および圧縮衝撃などが最も過酷な条件となる切削工具、特にドリル,エンドミルなどの回転切削工具,スローアウエイチップなどの切削工具として使用する場合には、複合硬質膜の特性を最適に発揮させ得ることから、好ましいことである。この複合硬質膜部材を切削工具として使用する場合には、複合硬質膜の膜厚さは、切削工具の切刃に形成される稜線部に向かって減少するように形成すると、耐剥離性、微小チッピング性にすぐれることから好ましいことである。また、これらの複合硬質膜を含む被覆層の膜厚さが切削工具の切刃に形成される稜線部に向かって減少するように形成されることも、同様の効果を惹起させることになり、好ましいことである。
【0027】
この本発明の複合硬質膜被覆部材は、従来から市販されている立方晶窒化硼素系焼結体,ダイヤモンド系焼結体に代表される超高温高圧焼結体を基材とし、この基材の表面を、必要に応じて研磨し、超音波洗浄、有機溶剤洗浄などを行った後に、従来から行われているPVD法,CVD法またはプラズマCVD法により基材上に被覆層を被覆して作製することができるが、以下の本発明の方法で作製すると、プラズマ密度の向上とイオン化効率の向上が可能となること、複合硬質膜自体の気相エピタキシャル結晶成長および結晶配向が容易となること、複合硬質膜の特性および密着性がよりすぐれることから、好ましいことである。
【0028】
この複合硬質膜被覆部材を得るための製造方法として、重要な特徴について具体的に詳述すると、基材の表面は、従来から行われているブラスト処理,ショットピーニング処理,研磨処理,バレル処理の中の少なくとも1種の機械的処理と、酸性もしくはアルカリ性の電解液による電解エッチング,酸溶液,アルカリ溶液による表面腐食、または水,有機溶液による洗浄の中の少なくとも1種の化学的処理と、この機械的処理と化学的処理を同時または別々に行う処理方法とから選択される処理を行うと、基材表面の欠陥を除去できること、複合硬質膜の密着性を高め得ること、膜内歪みを抑制できること、膜内の欠陥を抑制できることから、好ましいことである。また、基材は、このような機械的処置および/または化学的処理と、低温による熱処理を付加して、上述の効果を高めることも好ましいことである。
【0029】
基材の表面に複合硬質膜を被覆する場合は、スパッター法やイオンプレーテイング法に代表されるPVD法により行うことが好ましく、これらのうち、マグネトロンスパッター法またはアークプラズマイオンプレーテイング法により行うと、複合硬質膜の調整が容易であることから、特に好ましいことである。具体的には、例えばイオンプレーテイング装置の反応容器内に基材を配置し、基材表面をボンバード処理する場合に、金属元素イオンによるボンバード処理、もしくは金属元素イオンと非金属元素イオンとの両方によるボンバード処理を施すと、上述の効果を高めることになることから、好ましいことである。特に、前述の下地層のうち、金属,合金または金属間化合物の下地層を必要とする場合は、金属元素イオンを含むイオンボンバードを施すと、下地層の形成が容易であること、基材と下地層との密着性が高くなることから、好ましいことである。
【0030】
複合硬質膜の被覆条件は、反応容器の構造、プラズマの調整など装置自体の影響を重要視する必要があり、具体的には、例えば高電圧、(場合によってはパルス状高電圧と高周波を付加)の電源でイオンを加速し、プラズマを発生させる装置、さらに磁界によるプラズマの調整可能な装置を使用すること、その他、反応容器内の雰囲気圧力,温度,アーク放電電流.電圧,基材バイアス電圧,試料の配置などについて配慮する必要があり、これらのうち、従来の条件に対し、特にアーク放電電圧を高くすること、基材バイアス電圧を高くすること、試料の回転および上下動などが重要な要件である。
【0031】
【実施試験】
以上に詳述してきた本発明の実施形態について、さらに具体的な代表例として実施試験により説明する。
40体積%cBNー5体積%Al23−5体積%AlNー10体積%Al−10体積%Mgー10体積%B−20体積%TiN(配合組成)により作製された超高温高圧の立方晶窒化硼素系焼結体の基材と、85体積%cBNー2体積%Coー5体積%Al−2体積%Mgー6体積%TiN(配合組成)により作製された超高温高圧の立方晶窒化硼素系焼結体の基材と、95体積%DIAー2体積%Coー2体積%Niー1体積%ZrC(配合組成)により作製された超高温高圧のDIA系焼結体の基材と、97体積%DIAー1体積%Coー1体積%Niー1体積%Mg(配合組成)により作製された超高温高圧のDIA系焼結体の基材を用いて、これらの基材の上下面と外周面を270#のダイヤモンド砥石で研削加工を施し、刃先部に400#ダイヤモンド砥石により−25°×0.10mmのホーニング加工を施し、さらに表面を湿式ブラスト処理,洗浄処理および乾燥処理を行った後、アークイオンプレーテイング装置により複合硬質膜を被覆した。基材と基材の表面に約1μm膜厚さのTiを蒸着し、基材と基材の表面に約1μm厚さのNi無電解メッキを施した後に、複合硬質膜を被覆し、本発明品1〜4を得た。また、比較として、基材と基材を用いて、比較品および比較品を得た。
【0032】
基材と基材の表面に約1μm膜厚さのTiを蒸着し、基材と基材の表面に約1μm厚さのNi無電解メッキを施した後に、以下の処理条件により複合硬質膜を被覆し、本発明品5〜8を得た。また、比較として、基材と基材を用いて、本発明品1〜4を得た。また、比較として、基材と基材を用いて、比較品および比較品を得た。
処理条件は、各基材表面をボンバード処理した後、複合硬質膜を被覆した。ボンバード処理は、反応容器内の雰囲気:真空,基材温度:873K,アーク電流:70A,基材バイアス電圧:ー600V,Arガスボンバードの条件で行った。複合硬質膜の被覆は、反応容器内のガス流量:200〜350SCCM,蒸発源:Ti−Al合金,アーク電圧:200〜300V,アーク電流:150〜200A,基材温度:773〜873K,基材バイアス電圧:ー100〜ー200Vにより複合硬質膜を被覆した。
【0033】
比較品1および2における基材処理は、上述した本発明品の基材表面処理のうち、湿式ブラスト処理を除いて、その他はほぼ同様に処理した。また、同比較品1および2における複合硬質膜の被覆は、上述した本発明品における複合硬質膜の処理条件のうち、アーク電圧:10〜50V,アーク電流:200〜250A,基材バイアス電圧:ー30〜ー80Vとした以外は、ほぼ同様に処理した。ただし、比較品1および2の複合硬質膜処理時の蒸発源は、Ti−Al元素比が一定のものを使用した。
【0034】
こうして得た本発明品1〜4と比較品及び比較品の複合硬質膜について、X線回 折装置、走査型電子顕微鏡,金属顕微鏡,EDS装置,ビッカース硬さ試験機および引っ掻き硬さ試験機に相当するスクラッチ試験機を用いて、複合硬質膜表面からのX線回折によるh(200)/h(111),d(200)/d(111),複合硬質膜表面のTiとAlの含有率,複合硬質膜表面の硬さ,スクラッチ強度を求めて、それぞれの結果を表1に示した。また、本発明品と本発明品と比較品は、被削材:SCM415(硬さ:約HRC61),切削速度:150m/min,切込み:0.5mm,送り:0.1mm/rev,工具形状:TNMA160408,ホーニング:0.15×ー25°,外周連続乾式旋削試験を行い、その結果を表に併記した。この外周連続乾式旋削試験の評価は、切刃のチッピング、被覆層の剥離したとき、平均逃げ面摩耗量または境界摩耗量が0.3mmに達したときを工具寿命とし、比較品に対する寿命比として表した。なお、本発明品1〜4と比較品1および比較品2の複合硬質膜厚さは、約5μmであった。
【0035】
【表1】
Figure 0003599628
【0036】
【発明の効果】
本発明の複合硬質膜被覆部材は、気相法エピタキシャルによる結晶成長と結晶配向による複合硬質膜が被覆されていること、複合硬質膜自体の歪み,欠陥が抑制されていること、微細結晶であること、場合によっては柱状晶結晶および/または微量の金属などの複合硬質膜強化物質が含まれた複合硬質膜であることから、従来の複合硬質膜被覆部材または本発明から外れた複合硬質膜被覆部材に対比して、基材と複合硬質膜,下地層と複合硬質膜,複合硬質膜と外層など、複合硬質膜に隣接する物質に対し、密着性および耐剥離性が非常にすぐれること、複合硬質膜自体の高靱性,高強度,耐熱性,耐熱衝撃性,耐酸化性および耐摩耗性がすぐれていること、その結果として例えば切削工具として使用した場合に、切削工具として重要視される高靭性,耐摩耗性,耐熱衝撃性,耐欠損性,耐酸化性および耐溶着性が顕著に向上し、長寿命化が達成されること、切削加工における高効率化が達成されること、バラツキが小さく安定しているという顕著な効果がある。

Claims (8)

  1. 超高温高圧焼結体でなる基材の表面にチタンとアルミニウムとを含む複合窒化物、複合炭化物、複合炭窒化物、複合窒酸化物、複合炭酸化物、複合炭窒酸化物の中から選ばれた少なくとも1種の複合硬質膜を含む単層または積層の被覆層として被覆されており、該複合硬質膜の表面から銅ターゲットを用いてX線回折したときに、(200)結晶面のピーク高さをh(200)とし、(111)結晶面のピーク高さをh(111)としたときに、h(200)/h(111)≧4.0からなり、該(200)結晶面のピークの半価幅をd(200)とし、該(111)結晶面のピークの半価幅をd(111)としたときに、1.5≧d(200)/d(111)≧0.8からなる複合硬質膜被覆部材。
  2. 上記基材は、立方晶窒化硼素を20〜90重量%と、残部がTi,Al,Mg,Siの窒化物、硼化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種の粒界結合相とを含有する超高温高圧焼結体からなる請求項1に記載の複合硬質膜被覆部材。
  3. 上記複合硬質膜は、膜厚さが1〜15μmでなる立方晶型結晶構造からなる請求項1または2に記載の複合硬質膜被覆部材。
  4. 上記複合硬質膜は、(Tia,Alb)(Cx,Ny,OzW[ただし、aは金属元素中のTi(チタン)元素の原子比、bは金属元素中のAl(アルミニウム)元素の原子比、xは非金属元素中の炭素(C)元素の原子比、yは非金属元素中の窒素(N)元素の原子比、zは非金属元素中の酸素(O)元素の原子比、wは金属元素の合計に対する非金属元素の原子比を表し、それぞれがa+b=1、0.8≧a≧0.4、x+y+z=1、0.5≧x≧0、1≧y≧0.5、0.5≧z≧0、1.05≧w≧0.7の関係にある]で表される複合硬質膜を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合硬質膜被覆部材。
  5. 上記複合硬質膜は、(Tia,Alb,M1-a-b)(Cx,Ny,OzW[ただし、aは金属元素中のTi(チタン)元素の原子比、bは金属元素中のAl(アルミニウム)元素の原子比、Mは周期律表の4a,5a,6a族元素、Si,Mn,Mg,Bの中の少なくとも1種を表し、xは非金属元素中の炭素(C)元素の原子比、yは非金属元素中の窒素(N)元素の原子比、zは非金属元素中の酸素(O)元素の原子比、wは金属元素の合計に対する非金属元素の原子比を表し、それぞれが0.8≧a≧0.4、0.6>b>0.2、x+y+z=1、0.5≧x≧0、1≧y≧0.5、0.5≧z≧0、1.05≧w≧0.7の関係にある]で表される複合硬質膜を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合硬質膜被覆部材。
  6. 上記複合硬質膜は、該複合硬質膜中にNi,Co,W,Mo,Al,Tiの金属、これらの相互合金,これらの金属間化合物の中から選ばれた少なくとも1種の複合硬質膜強化物質が含有されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合硬質膜被覆部材。
  7. 上記複合硬質膜と上記基材との間に、Tiおよび/またはAlの金属、TiとAlの合金、Tiおよび/またはAlを含む金属間化合物でなる薄層が1μm以下の膜厚さで介在されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合硬質膜被覆部材。
  8. 上記請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合硬質膜被覆部材は、切削工具として用いられる複合硬質膜被覆部材。
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