JP5293330B2 - 表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具 - Google Patents
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「 立方晶窒化ほう素の含有量が70容量%以上の立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料からなる工具基体の表面に、下部層、中間層および上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具において、
(a)上記下部層は、0.05〜0.5μmの層厚を有するTiB2層、
(b)上記中間層は、0.3〜1μmの層厚を有し、
組成式:Ti1−X−YBXNY
で表した場合、0.15≦X≦0.60、0.05≦Y≦0.35、0.50≦X+Y≦0.65(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足する平均組成を有し、さらに、下部層側から上部層側へ向うにしたがって、Xの値は次第に減少し、Yの値は次第に増加する傾斜組織構造を有するTiB2相とTiN相との2相混合層、
(c)上記上部層は、0.5〜5μmの層厚を有し、
組成式:(Ti1−ZAlZ)N層
で表した場合、Zが0.3〜0.65(但し、Zは原子比)であるTiとAlの複合窒化物層、
であることを特徴とする表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具(被覆cBN基焼結工具)。」
に特徴を有するものである。
下部層を構成するTiB2層は、高温での安定性にすぐれ、かつ硬さも高く、工具基体および中間層を構成するTiB2−TiN混合層のいずれに対してもすぐれた密着性を有し、工具基体と硬質被覆層の付着強度の向上に寄与する。
さらに、下部層のTiB2のヤング率は、工具基体の主成分であるcBN相のそれに近く、刃先に大きな応力が作用する重切削に用いた場合でも、下部層と工具基体の変形挙動の差が小さく、下部層の剥離や破壊が生じにくいため、結果として安定した刃先を長期に亘って維持することができる。
TiB2層は、ターゲットにTiB2焼結体を使用し、Arガス雰囲気中で高周波スパッタリングを行うことにより形成することができる。
TiB2層の層厚は、0.05μm未満では、密着層としての効果が十分でなく、一方、その層厚が0.5μmを超えると、膜全体としての強度が低下し、高負荷での切削時に破壊が生じやすくなることから、TiB2層の層厚は、0.05〜0.5μmと定めた。
中間層を構成するTiB2−TiN混合層を、
Ti1−X−YBXNY
で表した場合、Xは0.15〜0.60、Yは0.05〜0.35、X+Yは0.50〜0.65(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足する平均組成を有し、さらに、下部層側から上部層側へ向うにしたがって、Xの値は次第に減少し、Yの値は次第に増加する傾斜組織構造を形成するように、中間層中のTiB2含有割合およびTiN含有割合を調整する。
上記組成式において、X、YおよびX+Yを、それぞれ、0.15〜0.60、0.05〜0.35および0.50〜0.65(但し、X、Yのいずれも原子比)を満足ように定めた理由は、以下のとおりである。
Bの含有割合Xが0.60を超える場合、あるいは、Nの含有割合Yが0.05を下回る場合には、上部層のTiAlN層との密着強度が十分でなく、層間での剥離が生じやすくなり、逆に、Bの含有割合Xが0.15を下回る場合、あるいは、Nの含有割合Yが0.35を超える場合には、下部層のTiB2層と所定の密着性が得られなくなり、同様に層間での剥離が生じやすくなる。また、BとNの合計含有割合X+Yが0.65を超えると、相対的にNの含有割合が減少し、実質的にTiB2相の量が大部分を占めるようになることを意味し、上部層TiAlN層との密着強度が十分でなくなる。
また、X+Yが0.50を下回る場合には、TiB2相とTiN相の2相混合層を形成することが困難となり、特に、下部層戸の密着強度が得られなくなる。
したがって、TiB2−TiN混合層の平均組成を示すBの含有割合X、Nの含有割合YおよびBとNの合計含有割合X+Yを、それぞれ、0.15〜0.60、0.05〜0.35および0.50〜0.65と定めた。
さらに、下部層および上部層との密着性、付着強度を高めるために、下部層側では、相対的にTiB2の含有比率を高くしTiNの含有比率を下げ、逆に、上部層側では、相対的にTiB2の含有比率を下げTiN含有比率を高める組織傾斜構造を有するTiB2−TiN混合層を形成することが必要である。TiB2の含有比率が高くTiNの含有比率が低い下部層側のTiB2−TiN混合層、および、TiB2の含有比率が低くTiNの含有比率が高い上部層側のTiB2−TiN混合層は、それぞれ、下部層および上部層と類似する成分、組成の界面を形成するため、密着性、付着強度がより一層高められる。
また、形成するTiB2−TiN混合層の層厚が0.3μm未満では、密着層としての効果が十分でなく、一方、その層厚が1μmを超えると、膜全体としての強度が低下し、高負荷での切削時に破壊が生じやすくなることから、TiB2−TiN混合層の層厚は、0.3〜1μmと定めた。
TiAlN層におけるTi成分は高温強度の維持、Al成分は高温硬さと耐酸化性の向上に寄与することから、TiAlN層は、所定の高温強度、高温硬さおよび耐熱性を具備する層であって、合金工具鋼や軸受け鋼の焼入れ材などの高硬度材からなる被削材の高速切削加工時における切刃部の耐摩耗性を確保する役割を基本的に担う。
ただ、上部層を構成するTiAlN層を、
組成式:(Ti1−ZAlZ)N
で表した場合に、Alの含有割合Zが0.65を超えると、結晶構造の変化により、高温強度が低下し欠損が生じやすくなり、一方、Alの含有割合Zが0.3未満になると、高温硬さと耐熱性が低下し、その結果、耐摩耗性の低下がみられるようになることから、Alの含有割合Zの値を0.3〜0.65(但し、原子比)と定めた。
TiAlN層からなる上部層は、例えば、アークイオンプレーティング法により成膜すればよいが、上部層の層厚が0.5μm未満では、自身のもつ耐熱性、高温硬さおよび高温強度を硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その層厚が5μmを越えると、欠損が生じ易くなることから、上部層の層厚は、0.5〜5μmと定めた。
(a)まず装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を450〜600℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200Vのパルスバイアス電圧を印加して、さらに2.0PaのAr雰囲気として、もって工具基体表面をArガスボンバード洗浄し、
(b)ついで、装置内に反応ガスとして、アルゴンガスを導入して0.3Paの反応雰囲気とすると共に、TiB2焼結体のターゲットに高周波電源を用いて300Wの高周波電力を印加してスパッタを行い、また、−200Vのパルス電圧を印加することにより前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体表面に目標層厚の下部層(TiB2層)を形成し、
(c)ついで、装置内に反応ガスとして、アルゴン−窒素混合ガスを導入し、スパッタの進行とともに、窒素含有割合を増加させるように調整しつつ、0.3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加して、TiB2焼結体のターゲットに高周波電源を用いてスパッタを行うとともに、金属Tiのターゲットに高周波電源を用いてスパッタを行い、それぞれの印加電力を目標組織となるように調整し、工具基体表面に目標層厚、目標傾斜組織の中間層(TiB2−TiN混合層)を形成し、
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2〜4Paの反応雰囲気とすると共に、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−10〜−50Vのパルスバイアス電圧を印加し、前記Ti−Al合金からなるカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体表面に、表2に示される目標組成および目標層厚をもったTiAlN層からなる上部層を蒸着することにより、
ISO規格SNGA120412に規定するスローアウエイチップ形状の本発明の被覆cBN基焼結工具1〜10(本発明工具1〜10という)をそれぞれ製造した。
(a)上記の工具基体A〜Jのそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図2に概略示される通常のアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、また、装置内には、硬質被覆層(TiAlN層)形成用のTi−Al合金からなるカソード電極を配置し、
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、Arガスを導入して、2.0Paの雰囲気とすると共に、前記テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200Vのパルスバイアス電圧を印加し、もって工具基体表面をアルゴンイオンによってボンバード洗浄し、
(c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2〜4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−10〜−50Vのパルスバイアス電圧を印加し、Ti−Al合金のカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表3に示される目標組成および目標層厚のTiAlN層を硬質被覆層として蒸着形成することにより、
比較被覆cBN基焼結工具1〜10(比較工具1〜10という)をそれぞれ製造した。
なお、表2における中間層のB、N含有割合について、下部層側とは、0.1μm(膜厚方向)×1μm(界面と平行な方向)の領域での測定の平均値、上部層側とは、同様に、0.1μm(膜厚方向)×1μm(界面と平行な方向)の領域での測定の平均値をいい、また、平均組成(X値)、平均組成(Y値)とは、中間層の全体(中間層厚)×幅1μmの領域により測定した値をいう。
さらに、本発明被覆cBN基焼結工具1〜10および比較被覆cBN基焼結工具1〜10の各層の層厚を透過型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
[切削条件A]
被削材:JIS・SCr420 (硬さ:HRC60)の丸棒、
切削速度: 280 m/min.、
切り込み: 0.3 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件での焼入クロム鋼の乾式連続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、120m/min.、0.15mm/rev.)、
[切削条件B]
被削材:JIS・SUJ2 (硬さ:HRC61)の丸棒、
切削速度: 230 m/min.、
切り込み: 0.3 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件での焼入軸受鋼の乾式連続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、130m/min.、0.12mm/rev.)。
表4に、切削加工試験結果を示す。
これに対して、下部層、中間層を形成せず、工具基体表面に直接TiAlN層を被覆形成した比較被覆cBN基焼結工具は、工具基体−TiAlN層間の付着強度が十分でないため欠損、剥離等を発生し、そのため、逃げ面摩耗が発生しやすく耐摩耗性に劣るため、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (1)
- 立方晶窒化ほう素の含有量が70容量%以上の立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料からなる工具基体の表面に、下部層、中間層および上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具において、
(a)上記下部層は、0.05〜0.5μmの層厚を有するTiB2層、
(b)上記中間層は、0.3〜1μmの層厚を有し、
組成式:Ti1−X−YBXNY
で表した場合、0.15≦X≦0.60、0.05≦Y≦0.35、0.50≦X+Y≦0.65(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足する平均組成を有し、さらに、下部層側から上部層側へ向うにしたがって、Xの値は次第に減少し、Yの値は次第に増加する傾斜組織構造を有するTiB2相とTiN相との2相混合層、
(c)上記上部層は、0.5〜5μmの層厚を有し、
組成式:(Ti1−ZAlZ)N層
で表した場合、Zが0.3〜0.65(但し、Zは原子比)であるTiとAlの複合窒化物層、
であることを特徴とする表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具。
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