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JP5293330B2 - 表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具 - Google Patents

表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具 Download PDF

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Description

この発明は、合金工具鋼や軸受け鋼の焼入れ材などの高硬度材からなる被削材を高速重切削加工した場合でも、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮し、長期にわたって安定した切削性能を発揮することができる、立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料で構成された切削工具基体(以下、工具基体という)の表面に硬質被覆層を形成した表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具(以下、被覆cBN基焼結工具という)に関するものである。
一般に、被覆cBN基焼結工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるインサートや、前記インサートを着脱自在に取り付けて、面削加工や溝加工、さらに肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うインサート式エンドミルなどが知られている。
また、被覆cBN基焼結工具としては、各種の立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料で構成された工具本体の表面に、チタンとアルミニウムの複合窒化物(TiAlNで示す)層などの表面被覆層を蒸着形成してなる被覆cBN基焼結工具が知られており、これらが例えば各種の鋼や鋳鉄などの切削加工に用いられていることも知られている。
さらに、上記の被覆cBN基焼結工具が、例えば図1に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の工具基体を装入し、ヒータで装置内を、例えば500℃に加熱した状態で、Ti−Al合金からなるカソード電極(蒸発源)と、アノード電極との間に、例えば90Aの電流を印加してアーク放電を発生させ、同時に装置内に、例えば、反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方前記工具基体には、たとえば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記工具基体の表面に、TiAlN層など、所望の層を蒸着形成することにより製造されることも知られている。
特開2001−234328号公報 特開平8−119774号公報
近年の切削加工装置のFA化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は、通常の切削条件に加えて、より高速条件下での切削加工が要求される傾向にあるが、上記の従来被覆工具においては、各種の鋼や鋳鉄を通常条件下で切削加工した場合に特段の問題は生じないが、これを、合金工具鋼や軸受け鋼の焼入れ材などの高硬度材からなる被削材の高速重切削に用いた場合には、切削時の高熱発生、高負荷による硬質被覆層の付着強度の不足のため、あるいは、欠損等の発生によって、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、合金工具鋼や軸受け鋼の焼入れ材などの高硬度材からなる被削材の高速切削加工で、硬質被覆層がすぐれた付着強度を備えるとともにすぐれた耐摩耗性、耐欠損性を発揮し、長期の使用に亘って、すぐれた切削性能を発揮する被覆cBN基焼結工具を開発すべく研究を行った結果、次のような知見を得た。
(a)超高圧焼結材料製工具基体中の立方晶窒化ほう素(以下、cBNで示す)は、きわめて硬質で、焼結材料中で分散相を形成し、そしてこの分散相によって耐摩耗性の向上を図ることができるが、cBNの配合割合が70容量%以上に多くなったような場合には、工具基体の硬さ上昇は見込めるものの、TiAlN層からなる硬質被覆層との付着強度が低下傾向を示すようになるため、高熱発生を伴うとともに、切刃に対して高負荷が作用する高硬度材の高速重切削加工においては、硬質被覆層の欠損、剥離の発生によって、工具基体の有するすぐれた高温硬さを切削性能向上に生かすことができない。
(b)そこで、工具基体とTiAlN層の付着強度を改善する硬質被覆層構造について、数多くの実験を重ねた結果、硬質被覆層を、下部層、中間層および上部層の三層構造として構成し、さらに、下部層は、TiB層、中間層は、TiB相とTiN相との2相混合組織からなる層(以下、TiB−TiN混合層で示す)、上部層は、TiAlN層で形成した場合には、層間付着強度が高いため、その結果、下部層および中間層を介したことにより、工具基体とTiAlN層の付着強度が大幅に改善されることを見出した。
(c)さらに、中間層のTiB−TiN混合層について、下部層側ではTiBの含有比率を高くしTiNの含有比率を下げ、逆に、上部層側ではTiBの含有比率を下げTiN含有比率を高める傾斜組織構造を採用することにより、より一層、下部層−中間層、また、中間層−上部層間での層間付着強度が高くなることから、硬質被覆層間の付着強度がより一段と高くなることを見出したのである。
(d)したがって、cBN含有量が70容量%以上の被覆cBN基焼結工具において、TiB層からなる下部層、傾斜組織構造のTiB−TiN混合層からなる中間層、TiAlN層からなる上部層で硬質被覆層を構成した場合には、各層間の付着強度が高くなることに加えて、工具基体と硬質被覆層を合わせた強度の点でも高くなることから、硬質被覆層は全体として、すぐれた高温硬さ、靭性、高温強度を備え、その結果、大きな発熱と高負荷を伴う合金工具鋼や軸受け鋼の焼入れ材などの高硬度材からなる被削材の高速重切削加工において、欠損、剥離等を生じることなく、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性と耐欠損性を示し、安定した切削性能を発揮するものである。
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「 立方晶窒化ほう素の含有量が70容量%以上の立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料からなる工具基体の表面に、下部層、中間層および上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具において、
(a)上記下部層は、0.05〜0.5μmの層厚を有するTiB層、
(b)上記中間層は、0.3〜1μmの層厚を有し、
組成式:Ti1−X−Y
で表した場合、0.15≦X≦0.60、0.05≦Y≦0.35、0.50≦X+Y≦0.65(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足する平均組成を有し、さらに、下部層側から上部層側へ向うにしたがって、Xの値は次第に減少し、Yの値は次第に増加する傾斜組織構造を有するTiB相とTiN相との2相混合層、
(c)上記上部層は、0.5〜5μmの層厚を有し、
組成式:(Ti1−ZAl)N層
で表した場合、Zが0.3〜0.65(但し、Zは原子比)であるTiとAlの複合窒化物層、
であることを特徴とする表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具(被覆cBN基焼結工具)。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆cBN基焼結工具の硬質被覆層を構成する各層について説明する。
下部層:
下部層を構成するTiB層は、高温での安定性にすぐれ、かつ硬さも高く、工具基体および中間層を構成するTiB−TiN混合層のいずれに対してもすぐれた密着性を有し、工具基体と硬質被覆層の付着強度の向上に寄与する。
さらに、下部層のTiBのヤング率は、工具基体の主成分であるcBN相のそれに近く、刃先に大きな応力が作用する重切削に用いた場合でも、下部層と工具基体の変形挙動の差が小さく、下部層の剥離や破壊が生じにくいため、結果として安定した刃先を長期に亘って維持することができる。
TiB層は、ターゲットにTiB焼結体を使用し、Arガス雰囲気中で高周波スパッタリングを行うことにより形成することができる。
TiB層の層厚は、0.05μm未満では、密着層としての効果が十分でなく、一方、その層厚が0.5μmを超えると、膜全体としての強度が低下し、高負荷での切削時に破壊が生じやすくなることから、TiB層の層厚は、0.05〜0.5μmと定めた。
中間層:
中間層を構成するTiB−TiN混合層を、
Ti1−X−Y
で表した場合、Xは0.15〜0.60、Yは0.05〜0.35、X+Yは0.50〜0.65(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足する平均組成を有し、さらに、下部層側から上部層側へ向うにしたがって、Xの値は次第に減少し、Yの値は次第に増加する傾斜組織構造を形成するように、中間層中のTiB含有割合およびTiN含有割合を調整する。
上記組成式において、X、YおよびX+Yを、それぞれ、0.15〜0.60、0.05〜0.35および0.50〜0.65(但し、X、Yのいずれも原子比)を満足ように定めた理由は、以下のとおりである。
Bの含有割合Xが0.60を超える場合、あるいは、Nの含有割合Yが0.05を下回る場合には、上部層のTiAlN層との密着強度が十分でなく、層間での剥離が生じやすくなり、逆に、Bの含有割合Xが0.15を下回る場合、あるいは、Nの含有割合Yが0.35を超える場合には、下部層のTiB層と所定の密着性が得られなくなり、同様に層間での剥離が生じやすくなる。また、BとNの合計含有割合X+Yが0.65を超えると、相対的にNの含有割合が減少し、実質的にTiB相の量が大部分を占めるようになることを意味し、上部層TiAlN層との密着強度が十分でなくなる。
また、X+Yが0.50を下回る場合には、TiB相とTiN相の2相混合層を形成することが困難となり、特に、下部層戸の密着強度が得られなくなる。
したがって、TiB−TiN混合層の平均組成を示すBの含有割合X、Nの含有割合YおよびBとNの合計含有割合X+Yを、それぞれ、0.15〜0.60、0.05〜0.35および0.50〜0.65と定めた。
さらに、下部層および上部層との密着性、付着強度を高めるために、下部層側では、相対的にTiBの含有比率を高くしTiNの含有比率を下げ、逆に、上部層側では、相対的にTiBの含有比率を下げTiN含有比率を高める組織傾斜構造を有するTiB−TiN混合層を形成することが必要である。TiBの含有比率が高くTiNの含有比率が低い下部層側のTiB−TiN混合層、および、TiBの含有比率が低くTiNの含有比率が高い上部層側のTiB−TiN混合層は、それぞれ、下部層および上部層と類似する成分、組成の界面を形成するため、密着性、付着強度がより一層高められる。
TiB−TiN混合層は、ターゲットにTiB焼結体と金属チタンの2種類を使用し、Arガスと窒素ガスの混合雰囲気中で高周波スパッタリングを行うことにより形成することができる。ただ、TiB−TiN混合層中に傾斜組織構造を構成するために、スパッタリングによる成膜初期には、雰囲気ガス中の窒素ガス含有割合および金属チタンターゲットへの供給電力を小さくしておき、成膜の進行に伴って、雰囲気ガス中の窒素ガス含有割合および金属チタンターゲットへの電力を順次高めていくことが必要である。
また、形成するTiB−TiN混合層の層厚が0.3μm未満では、密着層としての効果が十分でなく、一方、その層厚が1μmを超えると、膜全体としての強度が低下し、高負荷での切削時に破壊が生じやすくなることから、TiB−TiN混合層の層厚は、0.3〜1μmと定めた。
上部層:
TiAlN層におけるTi成分は高温強度の維持、Al成分は高温硬さと耐酸化性の向上に寄与することから、TiAlN層は、所定の高温強度、高温硬さおよび耐熱性を具備する層であって、合金工具鋼や軸受け鋼の焼入れ材などの高硬度材からなる被削材の高速切削加工時における切刃部の耐摩耗性を確保する役割を基本的に担う。
ただ、上部層を構成するTiAlN層を、
組成式:(Ti1−ZAl)N
で表した場合に、Alの含有割合Zが0.65を超えると、結晶構造の変化により、高温強度が低下し欠損が生じやすくなり、一方、Alの含有割合Zが0.3未満になると、高温硬さと耐熱性が低下し、その結果、耐摩耗性の低下がみられるようになることから、Alの含有割合Zの値を0.3〜0.65(但し、原子比)と定めた。
TiAlN層からなる上部層は、例えば、アークイオンプレーティング法により成膜すればよいが、上部層の層厚が0.5μm未満では、自身のもつ耐熱性、高温硬さおよび高温強度を硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その層厚が5μmを越えると、欠損が生じ易くなることから、上部層の層厚は、0.5〜5μmと定めた。
この発明の被覆cBN基焼結工具は、cBNの配合割合が70容量%以上の工具基体表面に、下部層、中間層および上部層からなる硬質被覆層を形成し、かつ、下部層をTiB層、中間層を特定組成の、かつ、傾斜組織構造を有するTiB−TiN混合層、また、上部層を特定組成のTiAlN層とすることによって、特にすぐれた付着強度を有し、さらに、高温硬さ、靭性、耐衝撃性を兼ね備えることから、合金工具鋼や軸受け鋼の焼入れ材などの高硬材からなる被削材の、高熱発生を伴い、かつ、切刃に高負荷が作用する高速重切削という厳しい切削条件下であっても、前記硬質被覆層に、剥離等の発生はなく、長期の使用に亘って、すぐれた耐摩耗性、耐欠損性を発揮することができる。
この発明の被覆cBN基焼結工具の硬質被覆層を形成するための高周波スパッタリング(RF−SP)装置とアークイオンプレーティング(AIP)装置が併設されている物理蒸着装置の概略説明図を示し、(a)は平面図、(b)は側面図を示す。 比較被覆cBN基焼結工具の硬質被覆層を形成するためのアークイオンプレーティング(AIP)装置の概略説明図を示す。
つぎに、この発明の被覆cBN基焼結工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも0.5〜4μmの範囲内の平均粒径を有するcBN粉末、TiN粉末、AlN粉末、Ni粉末、Al粉末、Co粉末、W粉末を用意し、これら原料粉末を表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで80時間湿式混合し、乾燥した後、120MPaの圧力で直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法をもった圧粉体にプレス成形し、ついでこの圧粉体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、900〜1300℃の範囲内の所定温度に60分間保持の条件で焼結して切刃片用予備焼結体とし、この予備焼結体を、別途用意した、Co:8質量%、WC:残りの組成、並びに直径:50mm×厚さ:2mmの寸法をもったWC基超硬合金製支持片と重ね合わせた状態で、通常の超高圧焼結装置に装入し、通常の条件である圧力:4GPa、温度:1200〜1400℃の範囲内の所定温度に保持時間:0.8時間の条件で超高圧焼結し、焼結後上下面をダイヤモンド砥石を用いて研磨し、ワイヤー放電加工装置またはダイヤモンド切断機にて一辺3mmの正三角形状に分割し、さらにCo:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびCIS規格SNGA120412の形状(厚さ:4.76mm×一辺長さ:12.7mmの正方形)をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Cu:26%、Ti:5%、Ni:2.5%、Ag:残りからなる組成を有するAg合金のろう材を用いてろう付けし、所定寸法に外周加工した後、切刃部に幅:0.13mm、角度:25°のホーニング加工を施し、さらに仕上げ研摩を施すことによりISO規格SNGA120412のインサート形状をもった工具基体A〜Jをそれぞれ製造した。
ついで、上記の工具基体A〜Jのそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示されるアークイオンプレーティング(AIP)装置とRFスパッタリング(RF−SP)装置を併設した蒸着装置内の回転テーブル上に外周部に沿って装着し、前記AIP装置のカソード電極(蒸発源)として、所定の成分組成をもったTi−Al合金、前記RF−SP装置のターゲット(蒸発源)として金属TiおよびTiB焼結体を装着し、
(a)まず装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を450〜600℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200Vのパルスバイアス電圧を印加して、さらに2.0PaのAr雰囲気として、もって工具基体表面をArガスボンバード洗浄し、
(b)ついで、装置内に反応ガスとして、アルゴンガスを導入して0.3Paの反応雰囲気とすると共に、TiB焼結体のターゲットに高周波電源を用いて300Wの高周波電力を印加してスパッタを行い、また、−200Vのパルス電圧を印加することにより前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体表面に目標層厚の下部層(TiB層)を形成し、
(c)ついで、装置内に反応ガスとして、アルゴン−窒素混合ガスを導入し、スパッタの進行とともに、窒素含有割合を増加させるように調整しつつ、0.3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加して、TiB焼結体のターゲットに高周波電源を用いてスパッタを行うとともに、金属Tiのターゲットに高周波電源を用いてスパッタを行い、それぞれの印加電力を目標組織となるように調整し、工具基体表面に目標層厚、目標傾斜組織の中間層(TiB−TiN混合層)を形成し、
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2〜4Paの反応雰囲気とすると共に、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−10〜−50Vのパルスバイアス電圧を印加し、前記Ti−Al合金からなるカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体表面に、表2に示される目標組成および目標層厚をもったTiAlN層からなる上部層を蒸着することにより、
ISO規格SNGA120412に規定するスローアウエイチップ形状の本発明の被覆cBN基焼結工具1〜10(本発明工具1〜10という)をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、
(a)上記の工具基体A〜Jのそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図2に概略示される通常のアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、また、装置内には、硬質被覆層(TiAlN層)形成用のTi−Al合金からなるカソード電極を配置し、
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、Arガスを導入して、2.0Paの雰囲気とすると共に、前記テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200Vのパルスバイアス電圧を印加し、もって工具基体表面をアルゴンイオンによってボンバード洗浄し、
(c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2〜4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−10〜−50Vのパルスバイアス電圧を印加し、Ti−Al合金のカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表3に示される目標組成および目標層厚のTiAlN層を硬質被覆層として蒸着形成することにより、
比較被覆cBN基焼結工具1〜10(比較工具1〜10という)をそれぞれ製造した。
この結果得られた本発明被覆cBN基焼結工具1〜10および比較被覆cBN基焼結工具1〜10の硬質被覆層の各層について、その組成をオージェ電子分光分析法により測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
なお、表2における中間層のB、N含有割合について、下部層側とは、0.1μm(膜厚方向)×1μm(界面と平行な方向)の領域での測定の平均値、上部層側とは、同様に、0.1μm(膜厚方向)×1μm(界面と平行な方向)の領域での測定の平均値をいい、また、平均組成(X値)、平均組成(Y値)とは、中間層の全体(中間層厚)×幅1μmの領域により測定した値をいう。
さらに、本発明被覆cBN基焼結工具1〜10および比較被覆cBN基焼結工具1〜10の各層の層厚を透過型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
つぎに、上記の各種の被覆cBN基焼結工具を、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆cBN基焼結工具1〜10および比較被覆cBN基焼結工具1〜10ついて、以下に示す切削条件A、Bで高硬度鋼の高速重切削試験を実施した。
[切削条件A]
被削材:JIS・SCr420 (硬さ:HRC60)の丸棒、
切削速度: 280 m/min.、
切り込み: 0.3 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件での焼入クロム鋼の乾式連続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、120m/min.、0.15mm/rev.)、
[切削条件B]
被削材:JIS・SUJ2 (硬さ:HRC61)の丸棒、
切削速度: 230 m/min.、
切り込み: 0.3 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件での焼入軸受鋼の乾式連続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、130m/min.、0.12mm/rev.)。
表4に、切削加工試験結果を示す。
Figure 0005293330
Figure 0005293330
Figure 0005293330
Figure 0005293330
表2〜4に示される結果から、本発明被覆cBN基焼結工具は、cBNの配合割合が70容量%以上の工具基体表面に、下部層、中間層および上部層からなる硬質被覆層を形成し、かつ、下部層をTiB層、中間層を組織傾斜構造を有する特定組成のTiB−TiN混合層、また、上部層を特定組成のTiAlN層とすることによって、cBN含有割合の高い工具基体に対しても、硬質被覆層は特にすぐれた付着強度を備え、さらに、高温硬さ、靭性、耐衝撃性を兼ね備えることから、合金工具鋼や軸受け鋼の焼入れ材などの高硬材からなる被削材の、高熱発生を伴い、かつ、切刃に対して高負荷が作用する高速重切削という厳しい切削条件下で用いた場合であっても、前記硬質被覆層に、欠損、剥離等の発生はなく、長期の使用に亘って、すぐれた耐摩耗性、耐欠損性を発揮することができる。
これに対して、下部層、中間層を形成せず、工具基体表面に直接TiAlN層を被覆形成した比較被覆cBN基焼結工具は、工具基体−TiAlN層間の付着強度が十分でないため欠損、剥離等を発生し、そのため、逃げ面摩耗が発生しやすく耐摩耗性に劣るため、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆cBN基焼結工具は、各種の鋼や鋳鉄などの通常の切削条件での切削加工は勿論のこと、特に合金工具鋼や軸受け鋼の焼入れ材などの高硬度材からなる被削材の高速重切削であっても、前記硬質被覆層がすぐれた付着強度を有し耐摩耗性、耐欠損性に優れるため、長期に亘って安定した切削性能を発揮するものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (1)

  1. 立方晶窒化ほう素の含有量が70容量%以上の立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料からなる工具基体の表面に、下部層、中間層および上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具において、
    (a)上記下部層は、0.05〜0.5μmの層厚を有するTiB層、
    (b)上記中間層は、0.3〜1μmの層厚を有し、
    組成式:Ti1−X−Y
    で表した場合、0.15≦X≦0.60、0.05≦Y≦0.35、0.50≦X+Y≦0.65(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足する平均組成を有し、さらに、下部層側から上部層側へ向うにしたがって、Xの値は次第に減少し、Yの値は次第に増加する傾斜組織構造を有するTiB相とTiN相との2相混合層、
    (c)上記上部層は、0.5〜5μmの層厚を有し、
    組成式:(Ti1−ZAl)N層
    で表した場合、Zが0.3〜0.65(但し、Zは原子比)であるTiとAlの複合窒化物層、
    であることを特徴とする表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具。
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