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JP3562365B2 - 車輌の制動制御装置 - Google Patents

車輌の制動制御装置 Download PDF

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JP3562365B2
JP3562365B2 JP02481699A JP2481699A JP3562365B2 JP 3562365 B2 JP3562365 B2 JP 3562365B2 JP 02481699 A JP02481699 A JP 02481699A JP 2481699 A JP2481699 A JP 2481699A JP 3562365 B2 JP3562365 B2 JP 3562365B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輌の制動制御装置に係り、更に詳細には車輪の制動スリップ量又は制動スリップ率が過剰になるとアンチスキッド制御(ABS制御)を行う車輌の制動制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の車輌に於いて、車輪の制動スリップ量又は制動スリップ率が過剰になるとアンチスキッド制御を行う制動制御装置は従来よりよく知られており、かかる制動制御装置の一つとして、例えば特開平6−344884号公報に記載されている如く、例えば車輌が左右の車輪間に於いて路面の摩擦係数が大きく異なる所謂またぎ路を走行する場合に於いて、左右の車輪の一方のみがアンチスキッド制御される場合には、アンチスキッド制御される車輪とは左右反対側の車輪の制動力の上昇率を低減することにより車輌に不必要な過剰なヨーモーメントが作用することを防止するヨーモーメント調整制御を行うよう構成された制動制御装置も従来より知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしヨーモーメント調整制御を行うよう構成された従来の制動制御装置に於いては、ヨーモーメント調整制御は左右反対側の車輪がアンチスキッド制御される場合に行われるようになっている。そのため例えば左右の車輪の一方にその制動力を適正に制御することができない失陥が生じ、運転者の制動操作量が過剰になって失陥輪についてアンチスキッド制御条件が成立しても、失陥輪はアンチスキッド制御されないので、失陥輪とは左右反対側の車輪についてヨーモーメント調整制御は行われず、従って失陥輪とは左右反対側の車輪の制動力が過剰になることに起因して車輌に不必要なヨーモーメントが作用し車輌の安定性が悪化するという問題がある。
【0004】
本発明は、左右の車輪の一方のみがアンチスキッド制御される場合にはその車輪とは左右反対側の車輪についてヨーモーメント調整制御を行うよう構成された従来の制動制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、左右の車輪の一方に制動力を適正に制御することができない失陥が生じその失陥輪についてアンチスキッド制御条件が成立するような場合にも、失陥輪とは左右反対側の車輪についてヨーモーメント調整制御を行うことにより、失陥輪とは左右反対側の車輪の制動力が過剰になることを確実に防止することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち左右の車輪の一方についてアンチスキッド制御が実行される際には、該一方の車輪とは左右反対側の車輪の制動力をヨーモーメント調整制御する車輌の制動制御装置に於いて、何れか一つの車輪に制動力を適正に増減させることができない異常が生じた場合には、該異常が生じた車輪とは前後反対側の車輪ついてアンチスキッド制御が実行される際に前記異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力がヨーモーメント調整制御されることを特徴とする車輌の制動制御装置によって達成される。
【0006】
上記請求項1の構成によれば、何れか一つの車輪に制動力を適正に増減させることができない異常(以下単に異常という)が生じた場合には、該異常が生じた車輪とは前後反対側の車輪ついてアンチスキッド制御が実行される際に異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力がヨーモーメント調整制御されるので、その車輪の制動力が過剰になることが確実に防止される。
【0007】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、運転者の制動操作量を検出する手段を有し、前記制動操作量に応じて車輪の制動力を電気的に制御するよう構成される(請求項2の構成)。
【0008】
請求項2の構成によれば、運転者の制動操作量が検出され、制動操作量に応じて車輪の制動力が電気的に制御されるので、異常が生じた車輪とは前後反対側の車輪ついてアンチスキッド制御が実行される際に異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力が確実にヨーモーメント調整制御される。
【0009】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記異常が生じた車輪は前輪であるよう構成される(請求項3の構成)。
【0010】
一般に、前輪は後輪に比して車輌の重心に近いので、左右の車輪の制動力差に起因するヨーモーメントが車輌に与える影響は後輪に於けるよりも前輪に於ける方が高く、従ってヨーモーメント調整制御の重要性は後輪の場合よりも前輪の方が高い。
【0011】
上記請求項3の構成によれば、異常が生じた車輪は前輪であり、ヨーモーメント調整制御が行われる車輪も前輪であるので、異常が生じた前輪とは前後反対側の後輪についてアンチスキッド制御が実行される際に該後輪とは左右反対側の後輪についてヨーモーメント調整制御が行われる場合に比して、車輌に不必要な過剰なヨーモーメントが作用することが確実に且つ効果的に防止される。
【0012】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項3の構成に於いて、前記異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力がヨーモーメント調整制御される際の制動力の増加率は車輪に制動力を適正に増減させることができない異常が生じていない場合よりも低減されるよう構成される(請求項4の構成)。
【0013】
一般に、後輪のアンチスキッド制御が開始されるタイミングは前輪よりも遅れるので、異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力がヨーモーメント調整制御される際の制動力の増加率が車輪に異常が生じていない場合に行われるヨーモーメント調整制御に於ける制動力の増加率と同一である場合には、異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力が過剰になり易く、そのため車輌の安定性を向上させることが困難である。
【0014】
上記請求項4の構成によれば、異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力がヨーモーメント調整制御される際の制動力の増加率は車輪に異常が生じていない場合よりも低減されるので、異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力が過剰になることが確実に防止される。
【0015】
【課題解決手段の好ましい態様】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、ヨーモーメント調整制御は制動力の上昇率を低減する制御であるよう構成される(好ましい態様1)。
【0017】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、ヨーモーメント調整制御は制動操作量の増加量に対する制動力の増加量の比を低減する制御であるよう構成される(好ましい態様)。
【0018】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、各車輪には制動圧に応じて制動力を発生する制動力発生装置が設けられ、各輪の制動圧は運転者の制動操作量に基づき制御され、異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動圧の増大率が車輪に異常が生じていない場合よりも低減されることにより、異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力がヨーモーメント調整制御される際の制動力の増加率が車輪に異常が生じていない場合よりも低減されるよう構成される(好ましい態様)。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明による車輌の制動制御装置の一つの実施形態の油圧回路及び電子制御装置を示す概略構成図である。
【0021】
図1に於て、10は電気的に制御される油圧式のブレーキ装置を示しており、ブレーキ装置10は運転者によるブレーキペダル12の踏み込み操作に応答してブレーキオイルを圧送するマスタシリンダ14を有している。ブレーキペダル12とマスタシリンダ14との間にはドライストロークシミュレータ12aが設けられている。マスタシリンダ14には左前輪用のブレーキ油圧制御導管16及び右前輪用のブレーキ油圧制御導管18の一端が接続され、これらのブレーキ油圧制御導管の他端にはそれぞれ左前輪及び右前輪の制動力を制御するホイールシリンダ20FL及び20FRが接続されている。またブレーキ油圧制御導管16及び18の途中にはそれぞれ常開型の電磁開閉弁22FL及び22FRが設けられている。
【0022】
マスタシリンダ14にはウェットストロークシミュレータ24及びリザーバ26が接続されており、リザーバ26には油圧供給導管28及び油圧排出導管30の一端が接続されている。油圧供給導管28の途中には電動機32により駆動されるオイルポンプ34が設けられており、後述の如くオイルポンプ34の吐出圧及びその昇圧勾配はそれぞれ電動機32に対する駆動電圧及び駆動電流により制御される。尚図1には示されていないが、オイルポンプ34の吸入側及び吐出側の油圧供給導管28の間には、吐出側の導管内の圧力が所定値以上になると吐出側より吸入側へ高圧のオイルの一部を解放するリリーフ弁を含むリリーフ導管が接続されている。
【0023】
油圧供給導管28の他端は左前輪用の油圧供給導管36FL及びブレーキ油圧制御導管16の一部を介して左前輪のホイールシリンダ20FLに接続され、右前輪用の油圧供給導管36FR及びブレーキ油圧制御導管18の一部を介して右前輪のホイールシリンダ20FRに接続され、左後輪用の油圧供給導管36RLを介して左後輪のホイールシリンダ20RLに接続され、左後輪用の油圧供給導管36RLの一部及び右後輪用の油圧供給導管36RRを介して右後輪のホイールシリンダ20RRに接続されている。
【0024】
同様に油圧排出導管30の他端は左前輪用の油圧排出導管38FL、左前輪用の油圧供給導管36FLの一部及びブレーキ油圧制御導管16の一部を介して左前輪のホイールシリンダ20FLに接続され、右前輪用の油圧排出導管38FR、右前輪用の油圧供給導管36FR及びブレーキ油圧制御導管18の一部を介して右前輪のホイールシリンダ20FRに接続され、左前輪用の油圧排出導管38FLの一部、左後輪用の油圧排出導管38RL及び左後輪用の油圧供給導管36RLの一部を介して左後輪のホイールシリンダ20RLに接続され、左後輪用の油圧排出導管38RLの一部及び右後輪用の油圧排出導管38RR及び右後輪用の油圧供給導管36RRの一部を介して右後輪のホイールシリンダ20RRに接続されている。
【0025】
油圧供給導管36FL、36RL、36RL、36RRの途中にはそれぞれ常閉型の電磁流量制御弁40FL、40FR、40RL、40RRが設けられており、油圧排出導管38FL、38RL、38RL、38RRの途中にはそれぞれ常閉型の電磁流量制御弁42FL、42FR、42RL、42RRが設けられている。ブレーキ油圧制御導管16及び18にはそれぞれ対応する制御導管内の圧力をホイールシリンダ20FL及び20FR内の圧力Pfl、Pfrとして検出する圧力センサ44FL及び44FRが設けられており、油圧供給導管36RL及び36RRにはそれぞれ対応する導管内の圧力をホイールシリンダ20RL及び20RR内の圧力Prl、Prrとして検出する圧力センサ44RL及び44RRが設けられている。
【0026】
更にブレーキペダル12にはその踏み込みストロークSp を検出するストロークセンサ46が設けられ、マスタシリンダ14と右前輪用の電磁開閉弁22FRとの間のブレーキ油圧制御導管18には該制御導管内の圧力をマスタシリンダ圧力Pm として検出する圧力センサ48が設けられている。またオイルポンプ34の吐出側の油圧供給導管28には該制御導管内の圧力をポンプ供給圧力Pp として検出する圧力センサ50が設けられている。
【0027】
電磁開閉弁22FL、22FR、電動機32、電磁流量制御弁40 FL 、40 FR 、40 RL 、40 RR及び電磁流量制御弁42FL、42FR、42RL、42RRは後に詳細に説明する如く電気式制御装置52により制御される。電気式制御装置52はマイクロコンピュータ54と駆動回路56とよりなっている。各弁及び電動機32には図1には示されていないバッテリより駆動回路56を経て駆動電流が供給される。
【0028】
尚マイクロコンピュータ54は図1には詳細に示されていないが例えば中央処理ユニット(CPU)と、リードオンリメモリ(ROM)と、ランダムアクセスメモリ(RAM)と、入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成のものであってよい。
【0029】
マイクロコンピュータ54の入出力ポート装置には、圧力センサ44FL〜44RRよりそれぞれホイールシリンダ20FL〜20RR内の圧力Pi (i=fl、fr、rl、rr)を示す信号、ストロークセンサ46よりブレーキペダル12の踏み込みストロークSp を示す信号、圧力センサ48よりマスタシリンダ圧力Pm を示す信号、圧力センサ50よりポンプ供給圧力Pp を示す信号、車輪速度センサ58FL〜58RRよりそれぞれ左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号が入力されるようになっている。
【0030】
またマイクロコンピュータ54のROMは後述の制動力制御フローを記憶しており、CPUは上述の各センサにより検出されたブレーキペダル12の踏み込みストロークSp 及びマスタシリンダ圧力Pm に基づき後述の如く車輌の目標減速度を演算し、目標減速度に基づき必要に応じてオイルポンプ34を駆動すると共に各輪の目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、各輪のホイールシリンダ圧力が目標制動圧になるよう制御する。
【0031】
また電気式制御装置52は各輪の車輪速度Vwiに基づき推定車体速度Vs を演算し、推定車体速度Vs と当該車輪の車輪速度Vwiとの偏差Vs −Vwiが基準値Vwo(正の定数)を越えているときには、当該車輪の制動圧を低減するABS制御を行うと共に、左右前輪の一方についてABS制御を行うときには左右反対側の前輪についてヨーモーメント調整制御を行うようになっている。
【0032】
更に電気式制御装置52は後述の如く、各輪についてその制動圧を適正に制御できない失陥が生じているか否かの判定を行い、失陥輪があるときには警報装置60を点灯して失陥が生じている旨を示す警報が車輌の運転者に発せられると共に、車輌に余分なヨーモーメントを与えることなく車輌の目標減速度を達成するよう他の正常な三輪の目標制動圧Ptiを補正してそれらの車輪の制動圧を制御し、特に失陥輪が左右前輪の一方であり且つ該失陥輪とは前後反対側の車輪がABS制御されるときには、失陥輪とは左右反対側の前輪についてヨーモーメント調整制御を行うようになっている。
【0033】
尚ABS制御、失陥輪がある場合の三輪制御、ヨーモーメント調整制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、これらの制御は当技術分野に於いて公知の任意の要領にて行われてよい。
【0034】
次に図2及び図3に示されたフローチャートを参照して図示の実施形態に於ける制動力制御について説明する。尚図2及び図3に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチがオンに切り換えられることにより開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。またイグニッションスイッチがオンに切り換えられると、ステップ10に先立ち電磁開閉弁22FL、22FRが閉弁されることによりマスタシリンダ14とホイールシリンダ20FL、20FRとの連通が遮断され、またステップ110に先立ちフラグF1及びF2が0に初期化される。
【0035】
まずステップ10に於いてはストロークセンサ46により検出されたブレーキペダル12の踏み込みストロークSp を示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては図3に示されたフローチャートに従って各輪の目標制動圧Ptiが演算される。
【0036】
ステップ30に於いては例えば電磁流量制御弁42FL〜42RR等の異常に起因して対応するホイールシリンダ20FL〜20RR内の圧力を適正に目標制動圧に制御することができない失陥が生じているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100へ進み、否定判別が行われたときにはステップ40へ進む。
【0037】
尚何れかの車輪の失陥が生じているか否かの判別は、例えば車輌が停車状態にあるときに各輪毎にホイールシリンダ内の圧力Pi を所定のパターンにて増減圧させる指令信号を出力し、その場合の各ホイールシリンダ内圧力の増減変化パターンが所定のパターンであるか否かを判定することにより行われてよい。
【0038】
ステップ40に於いてはフラグF1が1であるか否かの判別、即ち何れの車輪にも失陥が生じていない状況にてABS制御されている車輪とは左右反対側の前輪についてヨーモーメント調整制御が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ80へ進み、否定判別が行われたときにはステップ50へ進む。
【0039】
ステップ50に於いてはABS制御が行われている車輪とは左右反対側の前輪についてヨーモーメント調整制御の開始条件が成立したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ180へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ60に於いてフラグF1が1にセットされる。
【0040】
尚ステップ50に於けるヨーモーメント調整制御の開始条件が成立したか否かの判別は、例えば前サイクルに於いてはヨーモーメント調整制御が行われておらず且つ現サイクルに於いて左右反対側の前輪が各輪毎の通常の制動圧制御よりABS制御へ移行したか否かの判定により行われてよい。
【0041】
ステップ70に於いてはヨーモーメント調整制御が必要な車輪について前サイクルの目標制動圧Pti(i=fr又はfl)と現サイクルの目標制動圧Ptiとの偏差ΔPtiが演算され、偏差ΔPtiが負の値であるときには目標制動圧Ptiは補正されず、偏差ΔPtiが正の値であるときにはKc1を0よりも大きく且つ1よりも小さい正の補正係数として、目標制動圧Ptiが下記の式1に従って補正されることにより、ヨーモーメント調整補正(1)後の目標制動圧Ptiが演算される。
Pti=Pti+Kc1ΔPti ……(1)
【0042】
ステップ80に於いては左右反対側の車輪がABS制御中であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ70へ進み、否定判別、即ちヨーモーメント調整制御が不要になった旨の判別が行われたときにはステップ90に於いてフラグF1が0にリセットされた後ステップ180へ進む。
【0043】
ステップ100に於いては失陥輪が前輪であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ160へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ110へ進む。
【0044】
ステップ110に於いてはフラグF2が1であるか否かの判別、即ち左右前輪の一方に失陥が生じている状況にてABS制御されている後輪とは前後及び左右反対側の前輪(対角輪)についてヨーモーメント調整制御が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ150へ進み、否定判別が行われたときにはステップ120へ進む。
【0045】
ステップ120に於いてはABS制御が行われている後輪とは前後及び左右反対側の前輪についてヨーモーメント調整制御の開始条件が成立したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ170へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ130に於いてフラグF2が1にセットされる。
【0046】
尚ステップ120に於けるヨーモーメント調整制御の開始条件が成立したか否かの判別は、例えば前サイクルに於いてはヨーモーメント調整制御が行われておらず且つ現サイクルに於いて前後及び左右反対側の後輪が各輪毎の通常の制動圧制御よりABS制御へ移行したか否かの判定により行われてよい。
【0047】
ステップ140に於いてはヨーモーメント調整制御が必要な車輪について前サイクルの目標制動圧Pti(i=fr又はfl)と現サイクルの目標制動圧Ptiとの偏差ΔPtiが演算され、偏差ΔPtiが負の値であるときには目標制動圧Ptiは補正されず、偏差ΔPtiが正の値であるときにはKc2を0よりも大きく且つKc1よりも小さい正の補正係数として目標制動圧Ptiが下記の式2に従って補正されることにより、ヨーモーメント調整補正(2)後の目標制動圧Ptiが演算される。
Pti=Pti+Kc2ΔPti ……(2)
【0048】
ステップ150に於いては前後及び左右反対側の後輪がABS制御中であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ140へ進み、否定判別、即ちヨーモーメント調整制御が不要になった旨の判別が行われたときにはステップ160に於いてフラグF2が0にリセットされる。
【0049】
ステップ170に於いては車輌に余分なヨーモーメントが発生しないよう、例えば失陥輪により発生されている制動力Fboが推定され、失陥輪とは左右反対側の車輪の制動力が実質的にFboになるよう当該車輪の目標制動圧Ptiが演算され、失陥輪及び該失陥輪とは左右反対側の車輪により発生される制動力の和2Fboによる減速度Gaが推定され、目標減速度GtがGt−Gaに補正され、補正後の最終目標減速度Gtに基づき他の二輪の目標制動圧Ptiが演算され、しかる後ステップ180へ進む。
【0050】
ステップ180に於いては電磁流量制御弁40 FL 、40 FR 、40 RL 、40 RR 及び電磁流量制御弁42FL、42FR、42RL、42RRが目標制動圧Ptiに基づき制御されることにより各輪のホイールシリンダ圧力Pi が目標制動圧Ptiになるようフィードバック制御される。
【0051】
この場合、運転者によりブレーキペダル12が踏み込まれておらず、最終目標減速度Gt が0であるときには、電磁開閉弁22FL、22FRは閉弁状態に維持され、電磁流量制御弁40 FL 、40 FR 、40 RL 、40 RR 及び電磁流量制御弁42FL、42FR、42RL、42RRも図1の位置に維持され、従って各輪に制動力は与えられない。これに対し運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれることにより最終目標減速度Gt が正の値であるときには、電磁開閉弁22FL及び22FRが開弁され、各輪のホイールシリンダ20FL〜20RR内の圧力Pfl〜Prrが目標制動圧Ptfl 〜Ptrr になるよう制御される。
【0052】
尚制動力の制御自体、即ち目標制動圧Ptiの演算及びその制御は本発明の要旨をなすものではなく、制動力の制御は当技術分野に於いて公知の任意の態様にて行われてよい。またABS制御は図2及び図3に示されたフローチャートによる制御に凌駕して図には示されていないルーチンにより実行されてもよく、或いは上述のステップ180に於いて実行されてもよい。
【0053】
図3に示された各輪の目標制動圧Pti演算ルーチンのステップ21に於いては、図4に示されたグラフに対応するマップより踏み込みストロークSp に基づく目標減速度Gstが演算され、ステップ22に於いては図5に示されたグラフに対応するマップよりマスタシリンダ圧力Pm に基づく目標減速度Gptが演算される。
【0054】
尚図4及び図5に示されたグラフに対応するマップは、運転者の制動要求の程度を示すブレーキペダル12に対する踏力の変化に対し踏み込みストローク及びマスタシリンダ圧力がそれぞれ図7及び図8に示されている如く変化することに対応している。
【0055】
ステップ23に於いては前サイクルに於いて演算された最終目標減速度Gt に基づき図6に示されたグラフに対応するマップよりマスタシリンダ圧力Pm に基づく目標減速度Gptに対する重みα(0≦α≦1)が演算され、ステップ24に於いては下記の式3に従って目標減速度Gpt及び目標減速度Gstの重み付け和として最終目標減速度Gt が演算される。
Gt =αGpt+(1−α)Gst ……(3)
【0056】
ステップ25に於いては最終目標減速度Gt が正の値であるか否かの判別、即ち各輪のホイールシリンダ圧力の制御が必要であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ26に於いてポンプ34が駆動されているときにはその駆動が停止された後ステップ10へ戻り、肯定判別が行われたときにはステップ27に於いて電動機32が駆動されることによりポンプ34の駆動が開始される。
【0057】
ステップ28に於いては最終目標減速度Gt に対する各輪の目標ホイールシリンダ圧力の係数(正の定数)をKi (i=fl、fr、rl、rr)として、下記の式4に従って各輪の目標ホイールシリンダ圧力Pti(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
Pti=Ki Gt ……(4)
【0058】
かくして図示の実施形態によれば、ステップ21に於いてブレーキペダル12の踏み込みストロークSp に基づく目標減速度Gstが演算され、ステップ22に於いてマスタシリンダ圧力Pm に基づく目標減速度Gptが演算され、ステップ23に於いて前サイクルに於いて演算された最終目標減速度Gt に基づき目標減速度Gptに対する重みαが演算される。
【0059】
そしてステップ24に於いて目標減速度Gpt及び目標減速度Gstの重み付け和として最終目標減速度Gt が演算され、最終目標減速度Gt が正の値であるときにはステップ27に於いてオイルポンプ34の駆動が開始され、ステップ28に於いて各輪の目標制動圧Ptiが最終目標減速度Gt に比例する値として演算され、ステップ180に於いて各輪のホイールシリンダ圧力Pi が目標制動圧Ptiになるようフィードバック制御される。
【0060】
従って図示の実施形態によれば、各輪のホイールシリンダ圧力Pi を目標制動圧Ptiに制御し、これにより各輪の制動力を運転者によるブレーキペダル12に対する操作量に応じて正確に制御し、従って車輌の制動制御を正確に行うことができる。
【0061】
また図示の実施形態によれば、何れかの車輪に失陥が生じているか否かに拘わらず、運転者によるブレーキペダル12に対する操作量が過剰になり、これにより車輪のスリップ量が過剰になると、そのスリップ量が過剰な車輪についてABS制御が行われるので、車輪がロック状態になることを効果的に防止することができる。
【0062】
また何れの車輪にも失陥が生じていない状況に於いて例えば車輌が左右の車輪間に於いて路面の摩擦係数が大きく異なる所謂またぎ路を走行する場合の如く、左右の前輪の一方のみがABS制御される場合には、ステップ30に於いて否定判別が行われ、ステップ40及び80に於いて肯定判別が行われ、ステップ70及び180に於いてABS制御されている左右一方の前輪とは左右反対側の車輪についてヨーモーメント調整制御が行われ、その車輪の制動力の増大率が低減されるので、車輌に不必要な過剰なヨーモーメントが作用することに起因して車輌の挙動が不安定になることを確実に防止することができる。
【0063】
また例えば図9に示されている如く、左前輪100FLに失陥が生じている状況に於いて車輌102が摩擦係数の低い左半分の路面104L及び摩擦係数の高い右半分の路面104Rとよりなる道路104を走行しており、運転者の制動操作量が過剰になって左後輪100RLについてABS制御が開始されたとする。尚図9及び後述の図10に於いて、Fbfl、Fbfr、Fbrl、Fbrrはそれぞれ左前輪100FL、右前輪100FR、左後輪100RL、右後輪100RRによる制動力を示している。
【0064】
従来の制動制御装置の場合には、左前輪100FLが失陥しており左前輪100FLはABS制御されないので、右前輪100FRについてヨーモーメント調整制御は行われず、そのための右前輪100FRの制動力Fbfrが相対的に過剰になり、車輌102に図9に於いて時計廻り方向のヨーモーメントMyが作用し、車輌の安定性が悪化する場合がある。
【0065】
尚左右後輪の一方についてABS制御が行われているときに当該車輪とは左右反対側の車輪についてヨーモーメント調整制御が行われるよう構成された制動制御装置の場合には、図9に示された状況に於いて右後輪100RRの制動力Fbrrの増大率が低減されるので、車輌102に作用する時計廻り方向のヨーモーメントMyが低減される。しかしかかる制動制御装置の場合にも右前輪100FRはヨーモーメント調整制御されず、一般に前輪は後輪よりも車輌の重心106に近いことに起因してヨーモーメントMyに与える影響が大きいので、車輌の安定性が悪化し易い。
【0066】
これに対し図示の実施形態によれば、図10に示されている如く、失陥輪である左前輪100FLに対し前後反対側の左後輪100RLについてABS制御が行われているときには、本発明に従って右前輪100FRについてヨーモーメント調整制御が行われ、右前輪100FRの制動力Fbfrの増大率が低減されるので、車輌102に作用する時計廻り方向のヨーモーメントMyを確実に低減し、これにより車輌の安定性を確実に向上させることができる。
【0067】
また一般に、車輌のホイールベースに起因する時間差や、車輌が高摩擦係数の路面より低摩擦係数の路面に突入する際の後輪のブレーキの効きは前輪よりも遅れる等の理由から、後輪のABS制御が開始されるタイミングは前輪よりも遅れる。そのため図9及び図10に示された状況に於いて左前輪100FLに失陥が生じていない場合と同様のヨーモーメント調整制御が右前輪100FRについて行われると、右前輪100FRの制動力Fbfrの増大率が高すぎることに起因して車輌の安定性を効果的に向上させることができない。
【0068】
図示の実施形態によれば、上記式2の係数Kc2は上記式1の係数Kc1よりも小さく、従って図11に示されている如く、左右前輪の一方が失陥している状況にて行われるヨーモーメント調整制御による制動圧の増大率は車輪が失陥していない状況にて行われる通常のヨーモーメント調整制御による制動圧の増大率よりも低いので、失陥輪とは左右反対側の前輪の制動力が過剰になる虞れを確実に低減することができる。
【0069】
更に左右前輪の一方が失陥している状況に於いては、失陥輪とは前後反対側の車輪のスリップ量がABS制御開始の基準値よりも低い基準値以上になった時点に於いて、失陥輪とは左右反対側の車輪についてヨーモーメント調整制御を開始する構成も考えられる。
【0070】
しかしかかる構成の場合には、例えば運転者による制動操作量の増大操作が停止されたり制動操作量が維持されたりすることにより、失陥輪とは前後反対側の車輪のABS制御が開始されない場合にも、失陥輪とは左右反対側の車輪について不必要なヨーモーメント調整制御が行われてしまう場合がある。
【0071】
これに対し図示の実施形態によれば、失陥輪とは前後反対側の車輪のABS制御が開始されない状況に於いて、失陥輪とは左右反対側の車輪について不必要なヨーモーメント調整制御が行われることはないので、不必要なヨーモーメント調整制御が行われることに起因して車輌の減速度が不足したり車輌の安定性が却って悪化したりすることを確実に防止することができる。
【0072】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0073】
例えば上述の実施形態に於いては、ヨーモーメント調整制御は前輪についてのみ行われるようになっているが、ヨーモーメント調整制御は必要に応じて後輪についても行われるよう修正されてもよい。
【0074】
また上述の実施形態に於いては、ステップ170に於いて三輪制御補正、即ち失陥輪以外の目標制動圧Ptiが演算されるようになっているが、図12に示されている如く、ステップ100に先立ってステップ95に於いて三輪制御補正が行われ、ステップ120に於いて否定判別が行われた場合及びステップ160の次にステップ40へ進むよう修正されてもよい。
【0075】
また上述の実施形態に於いては、ブレーキペダル12の踏み込みストロークSp 及びマスタシリンダ圧力Pm に基づき車輌の目標減速度Gtが演算され、目標減速度に基づき各輪の目標制動制御量としての目標制動圧Ptiが演算されるようになっているが、目標制動圧Ptiは踏み込みストロークSp 又はマスタシリンダ圧力Pm に基づき演算されてもよく、また各輪の目標制動制御量は目標スリップ率であってもよい。
【0076】
また上述の実施形態に於いては、制動制御装置は一つのオイルポンプ34により四輪のホイールシリンダへ高圧のオイルが供給される油圧式のブレーキ装置に適用されているが、本発明は前輪系統と後輪系統とよりなる二系統型又は左前輪及び右後輪の系統と右前輪及び左後輪の系統とよりなる二系統型のブレーキ装置や、電気式のブレーキ装置に適用されてもよい。
【0077】
【発明の効果】
以上の説明より明らかである如く、本発明の請求項1の構成によれば、何れか一つの車輪に異常が生じた場合には、該異常が生じた車輪とは前後反対側の車輪ついてアンチスキッド制御が実行される際に異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力がヨーモーメント調整制御されるので、その車輪の制動力が過剰になることを確実に防止し、これにより車輌に不必要なヨーモーメントが作用することに起因する車輌の安定性の悪化を確実に防止することができる。
【0078】
また請求項2の構成によれば、運転者の制動操作量が検出され、制動操作量に応じて車輪の制動力が電気的に制御されるので、異常が生じた車輪とは前後反対側の車輪ついてアンチスキッド制御が実行される際に異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力を確実にヨーモーメント調整制御することができる。
【0079】
また請求項3の構成によれば、異常が生じた車輪は前輪であり、ヨーモーメント調整制御が行われる車輪も前輪であるので、異常が生じた前輪とは前後反対側の後輪についてアンチスキッド制御が実行される際に該後輪とは左右反対側の後輪についてヨーモーメント調整制御が行われる場合に比して、車輌に不必要な過剰なヨーモーメントが作用することを確実に且つ効果的に防止することができる。
【0080】
また請求項4の構成によれば、異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力がヨーモーメント調整制御される際の制動力の増加率は車輪に異常が生じていない場合よりも低減されるので、異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力が過剰になることを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による車輌の制動制御装置の一つの実施形態の油圧回路及び電気式制御装置を示す概略構成図である。
【図2】図示の実施形態に於ける制動力制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】図2に示されたフローチャートのステップ20の目標制動圧演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】ブレーキペダルの踏み込みストロークSp と目標減速度Gstとの関係を示すグラフである。
【図5】マスタシリンダ圧力Pm と目標減速度Gptとの関係を示すグラフである。
【図6】前回演算された最終目標減速度Gt と目標減速度Gptに対する重みαとの関係を示すグラフである。
【図7】ブレーキペダルに対する踏力とマスタシリンダ圧力Pm との関係を示すグラフである。
【図8】ブレーキペダルに対する踏力と踏み込みストロークSp との関係を示すグラフである。
【図9】左前輪が失陥した車輌がまたぎ路を走行する際に於ける従来の制動制御装置の作動を示す説明図である。
【図10】左前輪が失陥した車輌がまたぎ路を走行する際に於ける図示の実施形態の作動を示す説明図である。
【図11】失陥輪がある場合及び失陥輪がない場合について制動圧の増大率の一例を示すグラフである。
【図12】修正例に於ける制動力制御ルーチンを示す図2と同様のフローチャートである。
【符号の説明】
10…ブレーキ装置
12…ブレーキペダル
14…マスタシリンダ
20FL〜20RR…ホイールシリンダ
44FL〜44RR…圧力センサ
46…ストロークセンサ
48、50…圧力センサ
52…電子制御装置
58FL〜58RR…車輪速度センサ

Claims (4)

  1. 左右の車輪の一方についてアンチスキッド制御が実行される際には、該一方の車輪とは左右反対側の車輪の制動力をヨーモーメント調整制御する車輌の制動制御装置に於いて、何れか一つの車輪に制動力を適正に増減させることができない異常が生じた場合には、該異常が生じた車輪とは前後反対側の車輪ついてアンチスキッド制御が実行される際に前記異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力がヨーモーメント調整制御されることを特徴とする車輌の制動制御装置。
  2. 運転者の制動操作量を検出する手段を有し、前記制動操作量に応じて車輪の制動力を電気的に制御するよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車輌の制動制御装置。
  3. 前記異常が生じた車輪は前輪であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車輌の制動制御装置。
  4. 前記異常が生じた車輪とは左右反対側の車輪の制動力がヨーモーメント調整制御される際の制動力の増加率は車輪に制動力を適正に増減させることができない異常が生じていない場合よりも低減されることを特徴とする請求項3に記載の車輌の制動制御装置。
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