JP4077613B2 - 車輌用制動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輌の制動制御装置に係り、更に詳細には車輪の制動力をリニアに増減制御することにより制動制御を行う車輌の制動制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の車輌の制動制御装置の一つとして、例えば本願出願人の一方の出願にかかる特開平4−63755号公報に記載されている如く、差圧制御弁(リニア弁)によりホイールシリンダ圧力を増減制御することによりアンチスキッド制御を行うよう構成された制動制御装置が従来より知られている。
【0003】
かかる制動制御装置によれば、差圧制御弁に対する制御電流を制御することによりホイールシリンダ圧力をリニアに増減制御することができるので、増減圧制御弁が開閉弁であり開閉弁が断続的に開閉制御される場合に比して、制動制御時に発生する異音を低減することができ、またキックバックを低減することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし上記公開公報に記載された従来の制動制御装置に於いては、路面の摩擦係数が比較的低い状況に於いて左右一対の後輪についてアンチスキッド制御が実行される場合に、減圧、保持、増圧の各モードのうち減圧の優先順位を最も高くし増圧の優先順位を最も低くして左右後輪の増減圧モードを一致させる所謂ローセレクト制御を、制御弁がリニア弁である制動制御装置に於いて如何に達成するかについては考慮されておらず、従って車輌の制動性能を向上させるためには、この点に於いて改善の余地がある。
【0005】
特にホイールシリンダ圧力を増減制御する弁が増圧(保持)用開閉弁と減圧用開閉弁とよりなる従来の一般的な制動制御装置に於いては、ローセレクト制御は増減圧の優先順位が高い方の車輪、即ちセレクト輪の開閉弁の開閉時間をコピーして左右反対側の車輪、即ち非セレクト輪の開閉弁が開閉され、これにより左右後輪の制動圧の増減が同一に制御されるようになっている。
【0006】
しかしホイールシリンダ圧力を増減制御する弁としてリニア弁が使用される場合には、リニア弁は開閉弁に比して応答のばらつきが大きいことを考慮しなければならず、セレクト輪に於けるリニア弁に対する目標増減圧勾配と同一の目標増減圧勾配にて非セレクト輪のリニア弁を制御しても、両輪のホイールシリンダ圧力を必ずしも同期して増減させることができない場合がある。
【0008】
本発明は、車輪の制動力をリニアに増減制御するよう構成された従来の車輌の制動制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、ホイールシリンダ圧力をリニアに増減する制御弁としてリニア弁が使用される場合に於いて、左右一対の車輪についてアンチスキッド制御が実行されローセレクト制御が実行される場合に於ける車輌の制動性能を向上させることである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述の主要な課題は、本発明によれば、各車輪に対応して設けられたホイールシリンダに対する作動液体の給排を制御することによりホイールシリンダ圧力を増減するリニア弁と、運転者の制動操作量に応じて車輪の目標ホイールシリンダ圧力を決定すると共に、何れかの車輪についてアンチスキッド制御が必要であるときには当該車輪の制動スリップ量を低減するための値として当該車輪の目標ホイールシリンダ圧力を決定し、ホイールシリンダ圧力が目標ホイールシリンダ圧力になるよう前記リニア弁を制御する制御手段とを有する車輌用制動制御装置に於いて、前記制御手段は前記目標ホイールシリンダ圧力を所定の時間毎に決定し、前記左右一対の車輪の一方についてアンチスキッド制御を実行している状況に於いて他方の車輪についてアンチスキッド制御を開始するときには、高い方の前記目標ホイールシリンダ圧力の所定の時間毎の増減変化量を予め設定された制限値以下に制限することを特徴とする車輌用制動制御装置(請求項1の構成)によって達成される。
【0010】
上記請求項1の構成によれば、左右一対の車輪の一方についてアンチスキッド制御を実行している状況に於いて他方の車輪についてアンチスキッド制御を開始するときには、高い方の目標ホイールシリンダ圧力の所定の時間毎の増減変化量が予め設定された制限値以下に制限されるので、高い方の前記目標ホイールシリンダ圧力の急激な増減変動、特にハンチングを確実に防止することが可能になる。
【0012】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記制御手段はアンチスキッド制御が必要であるときには制動スリップ量に応じて目標増減圧勾配を演算し、前記目標ホイールシリンダ圧力の増減圧勾配が前記目標増減圧勾配になるよう前記目標ホイールシリンダ圧力を決定するよう構成される(請求項2の構成)。
【0013】
請求項2の構成によれば、アンチスキッド制御が必要であるときには制動スリップ量に応じて目標増減圧勾配が演算され、目標ホイールシリンダ圧力の増減圧勾配が目標増減圧勾配になるよう目標ホイールシリンダ圧力が決定されるので、目標ホイールシリンダ圧力を車輪のスリップ状態に応じた適正な値に設定することができ、これにより実際のホイールシリンダ圧力を車輪のスリップ状態に応じて適正に且つ高精度に制御し、アンチスキッド制御を適正に且つ効果的に実行することが可能になる。
【0018】
【課題解決手段の好ましい態様】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、リニア弁はマスタシリンダとホイールシリンダとを接続する通路の途中に設けられ、制動制御装置はマスタシリンダとリニア弁との間にて前記通路の途中に設けられた連通制御弁と、該連通制御弁とリニア弁との間にて前記通路に高圧の作動液圧を供給する高圧源とを有し、少なくとも所定の制動制御の開始時には前記連通制御弁を閉弁させるよう構成される(好ましい態様1)。
【0019】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は上記好ましい態様1の構成に於いて、リニア弁は増圧用のリニア弁と減圧用のリニア弁とよりなるよう構成される(好ましい態様2)。
【0020】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は2の構成に於いて、左右一対の車輪は左右一対の後輪であるよう構成される(好ましい態様3)。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明による車輌用制動制御装置の一つの実施形態の油圧回路及び電子制御装置を示す概略構成図である。尚図1に於いては、簡略化の目的で各弁のソレノイドの図示は省略されている。
【0023】
図1に於て、10は電気的に制御される油圧式のブレーキ装置を示しており、ブレーキ装置10は運転者によるブレーキペダル12の踏み込み操作に応答してブレーキオイルを圧送するマスタシリンダ14を有している。ブレーキペダル12とマスタシリンダ14との間にはドライストロークシミュレータ16が設けられている。
【0024】
マスタシリンダ14は第一のマスタシリンダ室14Aと第二のマスタシリンダ室14Bとを有し、これらのマスタシリンダ室にはそれぞれ前輪用のブレーキ油圧供給導管18及び後輪用のブレーキ油圧制御導管20の一端が接続されている。ブレーキ油圧制御導管18及び20の他端にはそれぞれ左前輪及び左後輪の制動力を制御するホイールシリンダ22FL及び22RLが接続されている。
【0025】
ブレーキ油圧供給導管18及び20の途中にはそれぞれ常開型の電磁開閉弁(マスタカット弁)24F及び24Rが設けられ、電磁開閉弁24F及び24Rはそれぞれ第一のマスタシリンダ室14A及び第二のマスタシリンダ室14Bと対応するホイールシリンダとの連通を制御する遮断装置として機能する。またマスタシリンダ14と電磁開閉弁24RLとの間のブレーキ油圧供給導管20には常閉型の電磁開閉弁26を介してウェットストロークシミュレータ28が接続されている。
【0026】
マスタシリンダ14にはリザーバ30が接続されており、リザーバ30には油圧供給導管32の一端が接続されている。油圧供給導管32の途中には電動機34により駆動されるオイルポンプ36が設けられており、オイルポンプ36の吐出側の油圧供給導管32には高圧の油圧を蓄圧するアキュムレータ38が接続されている。リザーバ30とオイルポンプ36との間の油圧供給導管32には油圧排出導管40の一端が接続されている。
【0027】
オイルポンプ36の吐出側の油圧供給導管32は、油圧制御導管42により電磁開閉弁24Fとホイールシリンダ22FLとの間のブレーキ油圧供給導管18に接続され、油圧制御導管44により右前輪用のホイールシリンダ22FRに接続され、油圧制御導管46により電磁開閉弁24Rとホイールシリンダ22RLとの間のブレーキ油圧供給導管20に接続され、油圧制御導管48により右後輪用のホイールシリンダ22RRに接続されている。
【0028】
油圧制御導管42、44、46、48の途中にはそれぞれ常閉型の電磁式のリニア弁50FL、50FR、50RL、50RRが設けられている。リニア弁50FL、50FR、50RL、50RRに対しホイールシリンダ22FL、22FR、22RL、22RRの側の油圧制御導管42、44、46、48はそれぞれ油圧制御導管52、54、56、58により油圧排出導管40に接続されており、油圧制御導管52、54、56、58の途中にはそれぞれ常閉型の電磁式のリニア弁60FL、60FR、60RL、60RRが設けられている。
【0029】
リニア弁50FL、50FR、50RL、50RRはそれぞれホイールシリンダ22FL、22FR、22RL、22RRに対する増圧制御弁として機能し、リニア弁60FL、60FR、60RL、60RRはそれぞれホイールシリンダ22FL、22FR、22RL、22RRに対する減圧制御弁として機能し、従ってこれらのリニア弁は互いに共働してアキュムレータ38内より各ホイールシリンダに対する高圧のオイルの給排を制御する増減圧制御弁を構成している。
【0030】
前輪の油圧供給導管18及び右前輪の油圧制御導管44はそれぞれ対応するホイールシリンダ22FL、22FRに近接した位置に於いて接続導管62Fにより互いに接続されている。接続導管62Fの途中には常閉型の電磁開閉弁64Fが設けられ、電磁開閉弁64Fはホイールシリンダ22FLと22FRとの連通を制御する連通制御弁として機能する。
【0031】
同様に、後輪の油圧供給導管20及び右後輪の油圧制御導管48はそれぞれ対応するホイールシリンダ22RL、22RRに近接した位置に於いて接続導管62Rにより互いに接続されている。接続導管62Rの途中には常閉型の電磁開閉弁64Rが設けられ、電磁開閉弁64Rはホイールシリンダ22RLと22RRとの連通を制御する連通制御弁として機能する。
【0032】
図1に示されている如く、第一のマスタシリンダ室14Aと電磁開閉弁24Fとの間のブレーキ油圧制御導管18には該制御導管内の圧力を第一のマスタシリンダ圧力Pm1として検出する第一の圧力センサ66が設けられている。同様に第二のマスタシリンダ室14Bと電磁開閉弁24Rとの間のブレーキ油圧制御導管20には該制御導管内の圧力を第二のマスタシリンダ圧力Pm2として検出する第二の圧力センサ68が設けられている。第一及び第二のマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2はブレーキペダル12に対する運転者の制動操作力に対応する値として検出される。
【0033】
ブレーキペダル12には運転者の制動操作変位量としてその踏み込みストロークStを検出するストロークセンサ70が設けられ、オイルポンプ34の吐出側の油圧供給導管32には該導管内の圧力をアキュムレータ圧力Paとして検出する圧力センサ72が設けられている。
【0034】
それぞれ電磁開閉弁24F及び24Rとホイールシリンダ22FL及び22RLとの間のブレーキ油圧供給導管18及び20には、対応する導管内の圧力をホイールシリンダ22FL及び22RL内の圧力Pfl、Prlとして検出する圧力センサ74FL及び74RLが設けられている。またそれぞれ電磁開閉弁50FR及び50RRとホイールシリンダ22FR及び22RRとの間の油圧制御導管44及び48には、対応する導管内の圧力をホイールシリンダ22FR及び22RR内の圧力Pfr、Prrとして検出する圧力センサ74FR及び74RRが設けられている。
【0035】
電磁開閉弁24F及び24R、電磁開閉弁26、電動機34、リニア弁50FL、50FR、50RL、50RR、リニア弁60FL、60FR、60RL、60RR、電磁開閉弁64F及び64Rは、後に詳細に説明する如く電子制御装置76により制御される。電子制御装置76はマイクロコンピュータ78と駆動回路80とよりなっている。
【0036】
各電磁開閉弁、各リニア弁及び電動機34には図1には示されていないバッテリより駆動回路80を経て駆動電流が供給され、特に各電磁開閉弁、各リニア弁及び電動機34に駆動電流が供給されない非制御時には電磁開閉弁24F及び24R、電磁開閉弁64F及び64Rは開弁状態に維持され、電磁開閉弁26、リニア弁50FL、50FR、50RL、50RR、リニア弁60FL、60FR、60RL、60RRは閉弁状態に維持される(非制御モード)。
【0037】
尚マイクロコンピュータ78は図1には詳細に示されていないが例えば中央処理ユニット(CPU)と、リードオンリメモリ(ROM)と、ランダムアクセスメモリ(RAM)と、入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成のものであってよい。
【0038】
マイクロコンピュータ78には、圧力センサ66及び68よりそれぞれ第一のマスタシリンダ圧力Pm1及び第二のマスタシリンダ圧力Pm2を示す信号、ストロークセンサ70よりブレーキペダル12の踏み込みストロークStを示す信号、圧力センサ72よりアキュムレータ圧力Paを示す信号、圧力センサ74FL〜74RRよりそれぞれホイールシリンダ22FL〜22RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号が入力されるようになっている。
【0039】
またマイクロコンピュータ78には、図には示されていない車輪速度センサ82FL〜82RRより左右前輪及び左右後輪の車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号及び前後加速度センサ84より車輌の前後加速度Gxを示す信号が入力されるようになっている。
【0040】
マイクロコンピュータ78は後述の如く図2及び図3に示された制動力制御フローを記憶しており、上述の圧力センサ66、68により検出されたマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2及びストロークセンサ70より検出された踏み込みストロークStに基づき運転者の制動要求量を推定し、推定された制動要求量に基づき車輌の最終目標減速度Gtを演算し、最終目標減速度Gtに基づき各車輪の目標ホイールシリンダ圧力(図に於いては目標WC圧力という)Pti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、目標ホイールシリンダ圧力Ptiと実際のホイールシリンダ圧力Piとの偏差に基づきリニア弁50FL〜50RR又は60FL〜60RRに対する目標駆動電流Itを演算し、目標駆動電流Itに基づき各リニア弁に駆動電流を通電することにより各車輪のホイールシリンダ圧力が目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう制御する。
【0041】
この場合、マイクロコンピュータ78は制動制御モードが増圧モードであるときにはリニア弁50FL、50FR、50RL、50RRの開弁量を目標ホイールシリンダ圧力Ptiに応じて制御し、制動制御モードが減圧モードであるときにはリニア弁60FL、60FR、60RL、60RRの開弁量を目標ホイールシリンダ圧力Ptiに応じて制御し、制動制御モードが保持モードであるときにはリニア弁50FL〜50RR及び60FL〜60RRを閉弁状態に維持する。
【0042】
またマイクロコンピュータ78は後述の如く各車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vbを推定すると共に、各車輪について推定車体速度Vbと車輪速度Vwiとの偏差として制動スリップ量SLi(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、制動スリップ量SLi等に基づき各車輪毎にアンチスキッド制御の開始条件が成立したか否かを判定し、アンチスキッド制御(図に於いてはABS制御という)の開始条件が成立したときには車輌の前後加速度に基づく車輌の減速度Gxb及び制動スリップ量SLiに基づき当該車輪について目標ホイールシリンダ圧力Ptiを演算し、各車輪のホイールシリンダ圧力が目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう制御することによりアンチスキッド制御を行って制動スリップ量を低減する。
【0043】
特に図示の実施形態に於いては、マイクロコンピュータ78は車輌の減速度Gxb若しくは制動スリップ量SLiが大きいほどホイールシリンダ圧力の目標増減圧勾配ΔPti(i=fl、fr、rl、rr)の大きさが大きくなるよう車輌の減速度Gxb及び制動スリップ量SLiに基づきホイールシリンダ圧力の目標増減圧勾配ΔPtiを演算し、前回の目標ホイールシリンダ圧力をPtfiとし図2に示されたルーチンのサイクルタイムをΔTとして、アンチスキッド制御の開始時には下記の式1に従って、またアンチスキッド制御の開始時以降はアンチスキッド制御の終了条件が成立するまで下記の式2に従って当該車輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptiを演算する。
Pti=Pi+ΔPtiΔT……(1)
Pti=Ptfi+ΔPtiΔT……(2)
【0044】
またマイクロコンピュータ78は、左右後輪の両方についてアンチスキッド制御を行う場合に於いて、路面の摩擦係数が低く車輌の減速度が低いときには、左右後輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptrl、Ptrrをそれらの低い方の値と同一に設定し、これにより左右後輪の制動力を制御するローセレクト制御を行う。
【0045】
更に電子制御装置76はアキュムレータ内の圧力が予め設定された下限値以上であって上限値以下の圧力に維持されるよう、圧力センサ72により検出されたアキュムレータ圧力Paに基づき必要に応じて電動機34を駆動してオイルポンプ36を作動させる。
【0046】
次に図2に示されたフローチャートを参照して図示の実施形態に於ける制動制御ルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。また図2には示されていないが、制御の開始時には電磁開閉弁26が開弁され、電磁開閉弁24F、24R、64F、64Rが閉弁され、電動機34によるオイルポンプ36の駆動が開始される。
【0047】
まずステップ10に於いてはそれぞれ圧力センサ66及び68により検出された第一のマスタシリンダ圧力Pm1及び第二のマスタシリンダ圧力Pm2を示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いてはストロークセンサ70により検出された踏み込みストロークStに基づき図4に示されたグラフに対応するマップより踏み込みストロークに基づく目標減速度Gstが演算される。
【0048】
ステップ30に於いては第一のマスタシリンダ圧力Pm1及び第二のマスタシリンダ圧力Pm2の平均値Pmaが演算され、ステップ40に於いては平均値Pmaに基づき図5に示されたグラフに対応するマップよりマスタシリンダ圧力に基づく目標減速度Gptが演算される。
【0049】
ステップ50に於いては目標減速度Gptに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより目標減速度Gstに対する重みα(0≦α≦0.6)が演算され、ステップ60に於いては下記の式3に従って目標減速度Gpt及び目標減速度Gstの重み付け和として最終目標減速度Gtが演算される。尚図示の実施形態に於いては、重みαは0≦α≦0.6を満たす範囲にて設定されるが、その最大値は0.6に限定されるものではなく、0以上1以下の任意の値であってよい。
Gt=αGst+(1−α)Gpt ……(3)
【0050】
ステップ70に於いては最終目標減速度Gtに対する左右前輪及び左右後輪の目標ホイールシリンダ圧力の係数をそれぞれKf、Krとして、最終目標減速度Gtに基づき下記の式4及び5に従って各車輪の目標ホイールシリンダ圧力Pti(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
Ptfl=Ptfr=Kf・Gt ……(4)
Ptrl=Ptrr=Kr・Gt ……(5)
【0051】
ステップ80〜170は例えば左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の順に各車輪について時系列的に実行され、ステップ80に於いては現在の制御対象車輪について当技術分野に於いて公知の要領にてアンチスキッド制御が必要であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ170へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ110に於いて図3に示されたフローチャートに従ってアンチスキッド制御の目標ホイールシリンダ圧力Ptiが演算される。
【0052】
ステップ120に於いては現在の制御対象車輪が左後輪又は右後輪であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ170へ進み、肯定判別が行われたときには左右反対側の車輪についてアンチスキッド制御が実行されているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ170へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ140へ進む。
【0053】
ステップ140に於いては、車輌の減速度Gxbが基準値Gxbo(正の定数)以下であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ170へ進み、肯定判別が行われたときには、即ち左右反対側の後輪についてアンチスキッド制御が既に実行されており且つ車輌の減速度が小さいときには、ステップ160へ進む。
ステップ160に於いては、P tfi を当該車輪の前回の目標ホイールシリンダ圧力とし、ΔP u (正の定数)を増圧勾配の制限値とし、ΔP d (正の定数)を減圧勾配の制限値とし、P tro を当該車輪とは左右反対側の目標ホイールシリンダ圧力として、下記の式6に従ってローセレクト制御される車輪の目標ホイールシリンダ圧力P ti が演算される。尚下記の式6に於けるMEDは( )内の中間値を選択することを意味し、iは当該車輪が左後輪であるときには fl であり、当該車輪が右後輪であるときには rr である。
P ti =MED(P tfi +ΔP u ,P tfi −ΔP d ,P tro ) ……(6)
【0054】
ステップ170に於いては目標ホイールシリンダ圧力Ptiと実ホイールシリンダ圧力Piとの偏差に基づきリニア弁50FL〜50RR又は60FL〜60RRが制御されることにより、ホイールシリンダ圧力Piが目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう制御され、しかる後ステップ10へ戻る。
【0055】
次に図3に示されたフローチャートを参照して図示の実施形態に於けるアンチスキッド制御の目標ホイールシリンダ圧力演算ルーチンについて説明する。
【0056】
ステップ112に於いては車輪加速度、例えば車輪速度Vwiの時間微分値Vwdiと車輪の制動スリップ量SLiとに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて制動制御モードが増圧モード、保持モード、減圧モードの何れかに決定され、ステップ113に於いては制動制御モード、車輌の減速度Gxb、車輪の制動スリップ量SLiに基づき図には示されていないマップよりホイールシリンダ圧力の目標増減圧勾配ΔPtiが演算される。
【0057】
この場合目標増減圧勾配ΔPtiは、制動制御モードが増圧モードであるときには、車輌の減速度Gxb若しくは車輪の制動スリップ量SLiが大きいほど正の大きい値に演算され、制動制御モードが減圧モードであるときには、車輌の減速度Gxb若しくは車輪の制動スリップ量SLiが大きいほど負の小さい値に演算され、制動制御モードが保持モードであるときには、0に設定される。
【0058】
ステップ114に於いてはアンチスキッド制御の開始時であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ116へ進み、否定判別、即ち既にアンチスキッド制御が行われている旨の判別が行われたときにはステップ115へ進む。
【0059】
ステップ115に於いては制動制御モードが例えば減圧モードより増圧モードの如く変化したか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ116に於いて目標ホイールシリンダ圧力Ptiが上記式1に従って演算され、否定判別が行われたときにはステップ117に於いて目標ホイールシリンダ圧力Ptiが上記式2に従って演算され、ステップ118に於いては上記ステップ116又は117に於いて演算された目標ホイールシリンダ圧力PtiがRAMの如きメモリに記憶される。
【0060】
かくして図示の実施形態によれば、ステップ20〜70に於いて運転者の制動操作量に応じて各車輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptiが演算され、アンチスキッド制御が必要であるときにはステップ80に於いて肯定判別が行われることにより、ステップ110に於いてアンチスキッド制御の目標ホイールシリンダ圧力Ptiが演算される。
【0061】
特にアンチスキッド制御の目標ホイールシリンダ圧力Ptiの演算に於いては、ステップ112に於いて制動制御モードが増圧モード、減圧モード、保持モードの何れかに決定され、ステップ113に於いて制動制御モード、車輌の減速度Gxd、車輪の制動スリップ量SLiに基づき目標増減圧勾配ΔPtiが演算され、アンチスキッド制御の開始時であるときにはステップ114に於いて肯定判別が行われることによりステップ116に於いて目標ホイールシリンダ圧力Ptiが上記式1に従って演算され、アンチスキッド制御の開始時以降であるときにはステップ114に於いて否定判別が行われる。
【0062】
アンチスキッド制御の開始時以降である場合に於いて、制動制御モードが変化していないときにはステップ115に於いて否定判別が行われることによりステップ117に於いて目標ホイールシリンダ圧力Ptiが上記式2に従って演算されるが、制動制御モードが変化したときにはステップ115に於いて肯定判別が行われることによりステップ116に於いて目標ホイールシリンダ圧力Ptiが上記式1に従って演算される。
【0063】
また制御対象車輪についてアンチスキッド制御が必要ではないときには、ステップ80に於いて否定判別が行われることにより、ステップ170が実行され、これによりホイールシリンダ圧力が運転者の制動操作量に応じて制御される。
【0072】
かくして図示の実施形態によれば、左右後輪の一方についてアンチスキッド制御が実行されている状況にて他方の車輪についてアンチスキッド制御が開始されローセレクト制御が実行される際に、ローセレクト制御される車輪の目標ホイールシリンダ圧力の増圧勾配がΔPuに制限され、減圧勾配がΔPdに制限されるので、ローセレクト制御される車輪のホイールシリンダ圧力の急激な増減変動、特にハンチングを確実に防止することができる。
【0073】
例えば図7は時点t0まで左右の後輪が独立にアンチスキッド制御され、時点t1に於いてローセレクト制御が開始される場合に於ける目標ホイールシリンダ圧力Pti及び実際のホイールシリンダ圧力Piの変化の一例を比較例の場合(太い破線)及び図示の実施形態の場合(細い破線)について示す説明図である。尚比較例に於いては、左右後輪の両方についてアンチスキッド制御が実行されており、路面の摩擦係数が低いときには、左右後輪の目標ホイールシリンダ圧力P trl 、P trr が低い方の値に設定され、これにより左右後輪のホイールシリンダ圧力が同一になるよう制御されることによりローセレクト制御が実行される。
【0074】
比較例の場合には、ローセレクト制御の開始により右後輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptrrが左後輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptrlと同一の値に設定されるので、時点t0までの左右後輪のホイールシリンダ圧力Prl、Prrの差が大きい場合には、時点t0の直後に右後輪のホイールシリンダ圧力Prrが急激に低下し、右後輪の制動力の急激な低下やホイールシリンダ圧力Prrのハンチングが生じ易い。
【0075】
これに対し図示の実施形態によれば、ローセレクト制御される右後輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptrrの減圧勾配がΔPdに制限されることにより右後輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptrrが漸次低下され、時点t6に於いて右後輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptrrが左後輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptrlと同一になったとすると、それ以降右後輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptrrが左後輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptrlと同一の値に設定されるので、右後輪のホイールシリンダ圧力の急激な低下及びこれに起因する右後輪の制動力の急激な低下やホイールシリンダ圧力のハンチングを確実に防止することができる。
【0076】
特に図示の実施形態によれば、アンチスキッド制御の開始時には目標ホイールシリンダ圧力Ptiが必ず実際のホイールシリンダ圧力Piをベースにして演算され、その後の目標ホイールシリンダ圧力Ptiは前回の目標ホイールシリンダ圧力Ptfiベースにして演算されるので、アンチスキッド制御開始時の目標ホイールシリンダ圧力Ptiを必ず実際のホイールシリンダ圧力Piよりも低く且つ車輪のスリップ状態に応じた適正な値に設定することができ、これによりアンチスキッド制御開始時の減圧を遅れなく適正に実行することができ、またその後の目標ホイールシリンダ圧力Ptiを車輪のスリップ状態に応じた適正な値に設定することができ、これにより実際のホイールシリンダ圧力Piを車輪のスリップ状態に応じて適正に且つ高精度に制御し、アンチスキッド制御を適正に且つ効果的に実行することができる。
【0077】
また図示の実施形態によれば、アンチスキッド制御中に制動制御モードが変化したときにも、目標ホイールシリンダ圧力Ptiが必ず実際のホイールシリンダ圧力Piをベースにして演算されるので、制動制御モードが変化したときにも目標ホイールシリンダ圧力Ptiが前回の目標ホイールシリンダ圧力Ptfiベースにして演算される場合に比して、目標ホイールシリンダ圧力Ptiを車輪のスリップ状態に応じて適正に設定することができ、これによりホイールシリンダ圧力を車輪のスリップ状態に応じて遅れなく適正に制御することができる。
【0078】
以上に於ては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0080】
例えば上述の実施形態に於いては、運転者の制動操作量としての最終目標減速度Gtはマスタシリンダ圧力の平均値Pma及びブレーキペダルのストロークStに基づき演算されるようになっているが、運転者の制動操作量は当技術分野に於いて公知の任意の要領にて演算されてよい。
【0082】
【発明の効果】
以上の説明より明らかである如く、本発明の請求項1の構成によれば、左右一対の車輪の一方についてアンチスキッド制御を実行している状況に於いて他方の車輪についてアンチスキッド制御を開始するときには、高い方の目標ホイールシリンダ圧力の所定の時間毎の増減変化量が予め設定された制限値以下に制限されるので、高い方の前記目標ホイールシリンダ圧力の急激な増減変動、特にハンチングを確実に防止することができる。
【0084】
また本発明の請求項2の構成によれば、アンチスキッド制御が必要であるときには制動スリップ量に応じて目標増減圧勾配が演算され、目標ホイールシリンダ圧力の増減圧勾配が目標増減圧勾配になるよう目標ホイールシリンダ圧力が決定されるので、目標ホイールシリンダ圧力を車輪のスリップ状態に応じた適正な値に設定することができ、これにより実際のホイールシリンダ圧力を車輪のスリップ状態に応じて適正に且つ高精度に制御し、アンチスキッド制御を適正に且つ効果的に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による車輌用制動制御装置の一つの実施形態の油圧回路及び電子制御装置を示す概略構成図である。
【図2】 図示の実施形態に於ける制動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】 図示の実施形態に於けるアンチスキッド制御の目標ホイールシリンダ圧力演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】 ブレーキペダルの踏み込みストロークStと目標減速度Gstとの関係を示すグラフである。
【図5】 マスタシリンダ圧力の平均値Pmと目標減速度Gptとの関係を示すグラフである。
【図6】 前回演算された最終目標減速度Gtと目標減速度Gptに対する重みαとの関係を示すグラフである。
【図7】 図示の実施形態に於いて左右後輪についてアンチスキッド制御が行われ、ローセレクト制御が行われる場合に於ける左右後輪の目標ホイールシリンダ圧力Pti及び実際のホイールシリンダ圧力Piの変化の一例を比較例の場合と対比して示す説明図である。
【符号の説明】
10…ブレーキ装置
12…ブレーキペダル
14…マスタシリンダ
22FL〜22RR…ホイールシリンダ
24F、24R、26…電磁開閉弁
50FL〜50RR…リニア弁
60FL〜60RR…リニア弁
64F、64R…電磁開閉弁
66、68…圧力センサ
70…ストロークセンサ
72、74FL〜74RR…圧力センサ
76…電子制御装置
82FL〜82RR…車輪速度センサ
84…前後加速度センサ
Claims (2)
- 各車輪に対応して設けられたホイールシリンダに対する作動液体の給排を制御することによりホイールシリンダ圧力を増減するリニア弁と、運転者の制動操作量に応じて車輪の目標ホイールシリンダ圧力を決定すると共に、何れかの車輪についてアンチスキッド制御が必要であるときには当該車輪の制動スリップ量を低減するための値として当該車輪の目標ホイールシリンダ圧力を決定し、ホイールシリンダ圧力が目標ホイールシリンダ圧力になるよう前記リニア弁を制御する制御手段とを有する車輌用制動制御装置に於いて、前記制御手段は前記目標ホイールシリンダ圧力を所定の時間毎に決定し、前記左右一対の車輪の一方についてアンチスキッド制御を実行している状況に於いて他方の車輪についてアンチスキッド制御を開始するときには、高い方の前記目標ホイールシリンダ圧力の所定の時間毎の増減変化量を予め設定された制限値以下に制限することを特徴とする車輌用制動制御装置。
- 前記制御手段はアンチスキッド制御が必要であるときには制動スリップ量に応じて目標増減圧勾配を演算し、前記目標ホイールシリンダ圧力の増減圧勾配が前記目標増減圧勾配になるよう前記目標ホイールシリンダ圧力を決定することを特徴とする請求項1に記載の車輌用制動制御装置。
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