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JP2024094254A - 蓄電デバイス用セパレータ - Google Patents

蓄電デバイス用セパレータ Download PDF

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JP2024094254A JP2023199663A JP2023199663A JP2024094254A JP 2024094254 A JP2024094254 A JP 2024094254A JP 2023199663 A JP2023199663 A JP 2023199663A JP 2023199663 A JP2023199663 A JP 2023199663A JP 2024094254 A JP2024094254 A JP 2024094254A
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麻由 貴傳名
Mayu Kidena
義隆 中川
Yoshitaka Nakagawa
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Asahi Kasei Corp
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Abstract

【課題】本発明は、電極との捲回体からピンを引き抜く時のピン抜け性に優れる蓄電デバイス用セパレータ、及びその製造方法、又はそれを含む蓄電デバイスを提供することを目的とする。【解決手段】多孔性基材と、前記多孔性基材の一方の面のみに配置された無機フィラー含有層と、前記無機フィラー含有層の表面に配置された熱可塑性ポリマー含有層とを有し、前記多孔性基材側の表面とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’α、および前記無機フィラー含有層側の表面と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’βが、下記式:μ’α/μ’β<1.00の関係を満たす、蓄電デバイス用セパレータが提供される。【選択図】図1

Description

本発明は、蓄電デバイス用セパレータ、その製造または使用方法、及び蓄電デバイスなどに関する。
近年、非水電解液電池に代表される蓄電デバイスの開発が活発に行われている。通常、リチウムイオン電池などの非水電解液電池には、微多孔膜が正負極間にセパレータとして設けられている。このようなセパレータは、正負極間の直接的な接触を防ぎ、微多孔中に保持した電解液を通じイオンを透過させる機能を有する。
セパレータには、異常加熱した場合には速やかに電池反応が停止される特性(ヒューズ特性)や高温になっても形状を維持して正極物質と負極物質が直接反応する危険な事態を防止する性能(ショート特性)等の安全性が従来から求められていた。
近年、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話、デジタルカメラ、車載用品等の電子機器の高性能化が著しく、これに伴い、捲回型電池または円筒型電池のニーズがある。例えば、特許文献1には、リチウム二次電池の製造において、セパレータと電極とを巻芯に捲き付ける捲回工程の開始および完了が図示されている。
従来、捲回型電池または円筒型電池を製造する際の課題として、セパレータと電極とをピンに捲き付けて捲回体を作製して、捲回体からピンを引き抜く時のピン抜け不良、例えば、捲回体のピン周辺部がタケノコ状に突出して型崩れすること、捲回体の捲き崩れ、段ズレ、捲回体の端部の変形などの問題がある。
これに対して、従来は、主に微多孔膜の摩擦特性、表面特性または表面塗工が注目されていた(特許文献2~5)。
例えば、特許文献2には、膨張収縮の激しい合金系負極材料と併用されてもリチウムイオン二次電池用セパレータの表層部の潰れが発生しないか、又は緩和されて、透過性能の減滅を抑制するという観点、および電池捲回工程でのピン抜け性の向上の観点から、少なくとも片面の動摩擦係数が0.1以上0.4以下の合金系負極電極リチウムイオン二次電池用セパレータが微多孔膜として記載されている。
特許文献3には、ポリオレフィン微多孔膜の製造又は加工ライン、更には電池捲き取り工程ラインにおける捲き取り安定性に優れ、捲回体が衝撃を受けた場合の段ズレまたは捲ズレを生じ難くするという観点から、圧縮弾性率が0.1~1000kPaかつ幅方向の引張弾性率に対する長さ方向の引張弾性率の比が1.5~7.8のポリオレフィン製微多孔膜について、面積100mmおよび0.5mmφのピアノ線を20本巻きつけて成る接触子との間の動摩擦係数が0.2~0.7であることが記載されている。
特許文献4には、ピン抜け不良または電池内部の発熱の問題に鑑みて、電池の安全性と生産性の双方に優れるという観点から、共重合高密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンとを含む微多孔膜について、炭素数3以上のα-オレフィン単位の含有量が0.01モル%以上0.6モル%以下であり、微多孔膜の粘度平均分子量が30万未満であり、かつ微多孔膜の動摩擦係数が0.2未満であることが記載されている。
特許文献5には、ピン抜け性等に優れるという観点から、ポリオレフィン微多孔膜と、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に塗工された多孔質層とを有する電池用セパレータについて、多孔質層に含まれるアルミナ粒子およびバインダーのうち、50体積%以上のアルミナ粒子のフーリエ変換型赤外分光法による特定のピークの消失温度、一次粒径分布の2つの極大、粒径に応じた体積比などが検討されている。
特開2004-253381号公報 国際公開第2008/059806号 国際公開第2010/073707号 国際公開第2017/010528号 国際公開第2018/021143号
近年、非水電解液電池の容量を向上させるために、厚みの小さい、すなわち薄いセパレータの需要が高まっている。特に、セパレータ基材または単層型の微多孔膜だけでなく、積層型、多層型またはコーティング型セパレータも薄膜化が強く求められている。
しかしながら、一般に、薄膜セパレータは、厚膜セパレータと比べて、コシが弱く、皺が入り易いため、ピン抜け性が悪化することがある。
本発明は、上記の事情に鑑みて、電極との捲回体からピンを引き抜く時のピン抜け性に優れる蓄電デバイス用セパレータ、及びその製造もしくは使用方法、又はそれを含む蓄電デバイスを提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、以下の構成を有する蓄電デバイス用セパレータにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。本発明の態様の一部を以下に列記する。
(項1) 多孔性基材と、前記多孔性基材の一方の面のみに配置された無機フィラー含有層と、前記無機フィラー含有層の表面に配置された熱可塑性ポリマー含有層とを有し、前記多孔性基材側の表面とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’α、および前記無機フィラー含有層側の表面と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’βが、下記式:
μ’α/μ’β<1.00
の関係を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。
(項2) 多孔性基材と、前記多孔性基材の一方の面のみに配置された無機フィラー含有層と、前記多孔性基材の表面および前記無機フィラー含有層の表面に配置された熱可塑性ポリマー含有層とを有し、前記多孔性基材側の表面とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’α、および前記無機フィラー含有層側の表面と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’βが、下記式:
μ’α/μ’β<1.00
の関係を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。
(項3) 前記μ’βが、下記式:
μ’β>0.50
の関係を満たす、項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(項4) 前記熱可塑性ポリマー含有層に含まれる熱可塑性ポリマーを1Hzで動的粘弾性測定した際の30℃における損失正接(tanδ値)が、0.01以上0.05以下である、項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(項5) 前記熱可塑性ポリマー含有層に含まれる熱可塑性ポリマーを1Hzで動的粘弾性測定した際の損失正接(tanδ値)の極大値が、70℃以上にある、項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(項6) 前記多孔性基材に対する前記熱可塑性ポリマー含有層の総被覆面積割合が10%以上70%以下である、項1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(項7) 前記熱可塑性ポリマー含有層が、前記多孔性基材の表面及び前記無機フィラー含有層の表面に、ドット状のパターンで配置されている、項1~6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(項8) 前記熱可塑性ポリマー層を構成する粒子の平均体積粒径D50が、100nm以上800nm以下である、項1~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(項9) 前記熱可塑性ポリマー含有層を構成する熱可塑性ポリマーが、少なくとも二つのガラス転移温度を有し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも一つは20℃未満の領域に存在し、かつ、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも一つは30℃以上の領域に存在する、
項1~8のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(項10) 前記熱可塑性ポリマー含有層が、(メタ)アクリル酸エステル単量体の単量体単位を含む共重合体を含む、項1~9のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(項11) 前記無機フィラー含有層を構成する無機フィラーの平均体積粒径D50が、0.5μm以下である、項1~10のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(項12) 前記蓄電デバイス用セパレータのMDの引張破断強度とTDの引張破断強度の比(MD/TD引張破断強度比)が、0.5以上1.5以下である、項1~11のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(項13) 前記蓄電デバイス用セパレータの厚みが、16μm以下である、項1~12のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(項14) 正極、負極、項1~13のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ、および非水電解液を含む蓄電デバイス。
本発明によれば、蓄電デバイス用セパレータと電極とをピンに捲き付けて捲回体を形成して捲回体からピンを引き抜く時のピン抜け性に優れ、さらには薄膜セパレータでさえもピン抜け性に優れるため、蓄電デバイス用セパレータ及びそれを含む蓄電デバイスの製造において生産性又は経済性に優れ、ひいては蓄電デバイス容量も向上させられる。
図1は、本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータと、正極と、負極とをピンに捲き付けて捲回体を形成するときの捲回状態を説明するための模式的な断面図である。 図2は、手動捲回装置の全体構成(A)および捲取部構成(B)を示す概略図である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
また、本実施形態で記載する特性値は、特記がない限り、[実施例]の項において記載する方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で測定される値であることを意図する。
以下の説明において、段階的な記載の数値範囲における上限値又は下限値は、ほかの段階的な記載の数値範囲における上限値又は下限値に置き換わってよい。また、以下の説明において、ある数値範囲における上限値又は下限値は、実施例に記載の値に置き換わってよい。さらに、以下の説明における用語「工程」について、独立した工程はもちろん、他の工程と明確に区別できない場合でも、その「工程」の機能が達成されれば本用語に含まれうる。
本明細書では、長手方向(MD)とは微多孔膜連続成形の機械方向を意味し、幅方向(TD)とは微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向を意味する。
<蓄電デバイス用セパレータ>
本実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう。)は、多孔性基材と、多孔性基材の一方の面に配置された無機フィラー含有層と、多孔性基材の表面及び無機フィラー含有層の表面に配置された熱可塑性ポリマー含有層と、を有する。また、本実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータは、多孔性基材と、多孔性基材の一方の面に配置された無機フィラー含有層と、無機フィラー含有層の表面のみに配置された熱可塑性ポリマー含有層と、を有してもよい。
〔セパレータと摩擦係数との関係〕
本実施形態に係るセパレータは、多孔性基材側の表面とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’α、または多孔性基材の表面上の熱可塑性ポリマー含有層とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’α、および無機フィラー含有層側の表面と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’β、または無機フィラー含有層の表面上の熱可塑性ポリマー含有層と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’βが、下記式:
μ’α/μ’β<1.00
の関係を満たす。
図1は、本実施形態に係るセパレータと、正極と、負極とをピンに捲き付けて捲回体を形成するときの捲回状態を説明するための模式的な断面図である。図1は、模式的な断面図であるため、本発明が図1で示される形態に限定されることを意図するものではない。図1には、扁平型ピン(1)に対してセパレータ(実線)-正極(点線)-セパレータ(実線)-負極(1点鎖線)の順に積層された積層体の捲回状態が示される。図1を参照して、本実施形態に係るセパレータ、及びその作用機序について以下に説明する。
一般に、扁平型ピン(1)は、JIS規格におけるSUS430,304,201,600などのステンレス鋼(SUS)で形成されるため、セパレータの多孔性基材側の表面とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’α、またはセパレータの多孔性基材の表面上の熱可塑性ポリマー含有層とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’αは、セパレータの多孔性基材または多孔性基材の表面上の熱可塑性ポリマー含有層と扁平型ピン(1)の間(薄灰色の領域α)の動摩擦係数として把握されることができる。
他方、本技術分野では、正極が、例えば、LCO、LMO、(L)NMC、NCA、LFP、LFMPなどのリチウム金属酸化物またはリチウム金属リン酸化合物により代表される正極活物質と、バインダー樹脂とを含む塗布液を正極集電体に塗布することにより形成されることが知られているため、セパレータの無機フィラー含有層側の表面と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’β、または無機フィラー含有層の表面上の熱可塑性ポリマー含有層と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’βは、熱可塑性ポリマー含有層と正極の間(濃灰色の領域β)の動摩擦係数として把握されることができる。なお、図1には、膜形態のセパレータ(実線)が2枚あるため、2つの領域βが、正極(点線)を挟んで向かい合うように図示されている。正極fは、例えば、実施例に記載の動摩擦係数μ’β測定用の正極fの製造条件および製造方法により得られることができる。
μ’α/μ’β<1.00を満たすセパレータ(実線)は、扁平型ピン(1)とセパレータ(実線)との摩擦係数を一定値以下にして、捲回体からピン(1)を抜くときに滑り易くすることができ、さらに例えば正極(点線)等の電極とセパレータ(実線)との摩擦係数を一定値より大きくすることでピン抜け不良を抑制または防止することができる。ここで、ピン抜け不良とは、例えば、捲回体のピン周辺部がタケノコ状に突出して型崩れすること、捲回体の捲き崩れ、段ズレ、捲回体の端部の変形などの問題である。
また、本実施形態に係るセパレータは、ピン抜け性をさらに向上させる観点から、動摩擦係数μ’α、および動摩擦係数μ’βが、下記式:
μ’α/μ’β<0.90
の関係を満たすことがより好ましい。
ピン抜け性の向上、およびセパレータのμ’α/μ’β<1.00を満たすという摩擦制御の観点からは、セパレータにおいて、無機フィラー含有層側の表面と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’β、または無機フィラー含有層の表面上の熱可塑性ポリマー含有層と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’βは、下記式:
μ’β>0.50
の関係を満たすことが好ましく、下記式:
0.51≦μ’β≦1.0
の関係を満たすことがより好ましく、下記式:
0.51≦μ’β≦0.80
の関係を満たすことが更に好ましく、下記式:
0.51≦μ’β≦0.70
の関係を満たすことが特に好ましく、下記式:
0.51≦μ’β≦0.60
の関係を満たすことが最も好ましい。
捲回時にはピンを保持し、捲回体からピンを抜く時に滑り易くするという観点、およびセパレータのμ’α/μ’β<1.00を満たすという摩擦制御の観点からは、セパレータの多孔性基材側の表面とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’α、またはセパレータの多孔性基材の表面上の熱可塑性ポリマー含有層とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’αは、下記式:
0.30<μ’α≦0.70
の関係を満たすことが好ましく、下記式:
0.37<μ’α≦0.65
の関係を満たすことがより好ましく、下記式:
0.37<μ’α≦0.60
の関係を満たすことが更に好ましく、下記式:
0.41<μ’α≦0.50
の関係を満たすことが特に好ましく、下記式:
0.42≦μ’α≦0.48
の関係を満たすことが最も好ましい。
セパレータの動摩擦係数μ’αまたはμ’βおよびμ’α/μ’β<1.00は、例えば、セパレータの製造プロセスにおいて、セパレータの構成、熱可塑性ポリマーの動的粘弾性や粒径によるポリマー原料の選定または樹脂設計、無機フィラーの選定または設計、多孔性基材の設計の最適化、多孔性基材または無機フィラー含有層への熱可塑性ポリマー層の塗布形態などにより制御されることができる。
セパレータの層構成については、無機フィラー含有層の位置として、多孔性基材表面の少なくとも一部、熱可塑性ポリマー含有層表面の少なくとも一部、及び/又は多孔性基材と熱可塑性ポリマー含有層との間が挙げられる。本実施形態のセパレータは、無機フィラー含有層を多孔性基材の片面又は両面に備えていてよく、上記で説明されたピン抜け性の向上および摩擦制御の観点、ならびに図1に示されるようなセパレータと電極との捲回の観点からは、多孔性基材の片面上に、かつ多孔性基材と熱可塑性ポリマー含有層の間に、無機フィラー含有層を備えることが好ましい。
セパレータは、本発明の作用機序の観点から、多孔性基材を基準として両面で非対称な層構成を有することが好ましい。例えば、多孔性基材の両側に所定のパターン状の熱可塑性ポリマー含有層を備え、かつ多孔性基材の一方の面と熱可塑性ポリマー含有層の間に無機フィラー含有層を備えることができるように、無機フィラー含有層の有無および構造・組成・配置、または熱可塑性ポリマー含有層の有無および構造・組成・配置を決定してよい。また、セパレータの両側では、熱可塑性ポリマー含有層の露出形態または被覆形態が異なっていてよい。
本実施形態に係るセパレータの構成要素について以下に説明する。
〔多孔性基材〕
セパレータには絶縁性とイオン透過性が必要なため、セパレータ基材は、一般的には、多孔質構造を有する絶縁材料である紙、ポリオレフィン製不織布又は樹脂製微多孔膜などから形成される。セパレータ多孔性基材は、上記で説明された摩擦制御の観点から最適化された構造を有することが好ましい。特に、リチウムを吸蔵・放出することが可能な正極及び負極と、非水系溶媒に電解質を溶解して成る非水系電解液とを備える非水系二次電池などの蓄電デバイスに使用されるセパレータ基材としては、酸化還元耐性を持ち、緻密で均一な多孔質構造を構築できるポリオレフィン微多孔膜が好ましい。
(ポリオレフィン微多孔膜)
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンを含有するポリオレフィン樹脂組成物から構成される微多孔膜が挙げられ、ポリオレフィン樹脂を主成分とする微多孔膜であることが好ましい。本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂の含有量は特に限定されないが、蓄電デバイス用セパレータとして用いた場合のシャットダウン性能などの点から、微多孔膜を構成する全成分の質量分率の50%以上100%以下をポリオレフィン樹脂が占めるポリオレフィン樹脂組成物からなる微多孔膜であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂が占める割合は60%以上100%以下がより好ましく、70%以上100%以下であることが更に好ましい。
ポリオレフィン樹脂は、特に限定されないが、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用するポリオレフィン樹脂をいい、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等のホモポリマー及びコポリマー、多段ポリマー等を使用することができる。また、これらのホモポリマー及びコポリマー、多段ポリマーからなる群から選ばれるポリオレフィンを単独、もしくは混合して使用することもできる。
ポリオレフィン樹脂の代表例としては、特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレンなどのポリプロピレン、エチレン-プロピレンランダムコポリマー、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。
本実施形態のセパレータを電池セパレータとして使用する場合には、低融点であり、かつ高強度であることから、ポリエチレンを主成分とすることが好ましく、特に高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂を使用することが好ましい。
また、微多孔膜の耐熱性向上の観点から、ポリプロピレンと、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物からなる微多孔膜を用いることがより好ましい。ここで、ポリプロピレンの立体構造に限定はなく、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン及びアタクティックポリプロピレンのいずれでもよい。
ポリオレフィン樹脂組成物中の総ポリオレフィンに対するポリプロピレンの割合は、特に限定されないが、耐熱性と良好なシャットダウン機能の両立の観点から、1~35質量%であることが好ましく、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは4~10質量%である。この場合、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂に限定はなく、例えば、エチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のオレフィン炭化水素のホモポリマー又はコポリマーが挙げられる。具体的には、ポリエチレン、ポリブテン、エチレン-プロピレンランダムコポリマー等が挙げられる。
孔が熱溶融により閉塞するシャットダウン特性の観点から、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂として、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレンを用いることが好ましい。これらの中でも、強度の観点から、JIS K 7112に従って測定した密度が0.93g/cm以上0.97g/cm以下であるポリエチレンを使用することがより好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量は、特に限定されないが、3万以上1200万以下であることが好ましく、より好ましくは5万以上200万未満、さらに好ましくは10万以上120万未満、最も好ましくは50万以上100万未満である。粘度平均分子量が3万以上であると、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり成形性が良好になると共に、ポリマー同士の絡み合いにより高強度となる傾向にあるため好ましい。一方、粘度平均分子量が1200万以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。さらに、粘度平均分子量が100万未満であると、温度上昇時に孔を閉塞しやすく良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。なお、例えば、粘度平均分子量100万未満のポリオレフィンを単独で使用する代わりに、粘度平均分子量200万のポリオレフィンと粘度平均分子量27万のポリオレフィンの混合物であって、その粘度平均分子量が100万未満の混合物を用いてもよい。
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜は、任意の添加剤を含有することができる。このような添加剤は、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン以外のポリマー;無機粒子;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の合計含有量は、ポリオレフィン樹脂組成物100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
(ポリオレフィン微多孔膜の物性)
ポリオレフィン微多孔膜は、上記で説明された摩擦制御の観点から、次に示す物性の少なくとも1つを有するように構造が最適化されることが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜(PO微多孔膜)の目付(g/m)に換算されたときの突刺強度(以下、目付換算突刺強度という。)は、50gf/(g/m)以上、又は60gf/(g/m)以上であることが好ましい。50gf/(g/m)以上又は60gf/(g/m)以上の目付換算突刺強度を有するPO微多孔膜は、蓄電デバイスの衝撃試験等の安全性試験においてPO微多孔膜が破断し難い傾向にある。PO微多孔膜の強度を維持しながら蓄電デバイスの安全性、例えば耐衝撃性等を向上させるという観点から、目付換算突刺強度は、より好ましくは70gf/(g/m)以上、更に好ましくは80gf/(g/m)以上である。目付換算突刺強度は、限定されるものではないが、例えば、200gf/(g/m)以下、150gf/(g/m)以下、又は140gf/(g/m)以下であることができる。なお、式:1gf≒0.0098Nに従って、CCS単位「gf」をSI単位「N」に変換可能である。
PO微多孔膜の目付に換算されていない突刺強度(以下、単に突刺強度という。)については、その下限値が、好ましくは100gf以上、より好ましくは200gf以上、更に好ましくは300gf以上である。100gf以上の突刺強度は、衝撃試験等の安全性試験においてPO微多孔膜の破断を抑制する観点から好ましい。また、PO微多孔膜の突刺強度の上限値は、製膜時の安定性の観点から、好ましくは1000gf以下、より好ましくは800gf以下、更に好ましくは700gf以下である。下限値は、製膜および電池製造の安定生産できる値であれば用いることができる。上限値は他の特性とのバランスで設定される。突刺強度は、押出時に成形品に掛かる剪断力又は延伸による分子鎖の配向の増加で高めることができるが、強度の増加とともに残留応力の増加に伴う熱安定性の悪化が生じるので目的に合わせて制御される。
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜の目付は、特に限定されないが、好ましくは1.8g/m以上、より好ましくは2.8g/m以上、さらに好ましくは3.0g/m以上、特に好ましくは3.3g/m以上であり、好ましくは7.0g/m以下、より好ましくは6.9g/m以下、さらに好ましくは6.7g/m以下、特に好ましくは6.4g/m以下である。
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、特に限定されないが、好ましくは20%以上、より好ましくは35%以上であり、更に好ましくは40%以上であり、好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは55%以下である。気孔率を20%以上とすることは、セパレータの透過性を確保する観点から好ましい。一方、80%以下とすることは、突刺強度を確保する観点から好ましい。なお、気孔率は、延伸倍率の変更等により調節可能である。
また、動摩擦係数の制御の観点からも、ポリオレフィン微多孔膜の気孔率が上記範囲であることが好ましい。多孔性基材側の表面に熱可塑性ポリマー層を有する場合、ポリオレフィン微多孔膜の気孔率が高いと、熱可塑性ポリマー含有層を塗布乾燥させる際に、コーヒーリング現象が発生し易く、熱可塑性ポリマー粒子が被塗布面に平面的に積まれ難くなり、多孔性基材上の熱可塑性ポリマー含有層とステンレス鋼(SUS304)との接触点が少なくなるため、セパレータの多孔性基材側の表面とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’αは小さくなる傾向がある。また、多孔性基材側の表面に熱可塑性ポリマー含有層を有さない場合、ポリオレフィン微多孔膜の気孔率が高いと、気孔率が低いものに比べて多孔性基材とステンレス鋼(SUS304)との接触点が少なくなり、セパレータの多孔性基材側の表面とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’αは小さくなる傾向がある。
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜の厚さは、特に限定されないが、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上であり、さらに好ましくは4μm以上であり、特に好ましくは5μm以上であり、最も好ましくは6μm以上であり、その上限は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは16μm以下、特に好ましくは10μm以下、最も好ましくは8μm以下である。膜厚さを2μm以上とすることは、機械強度を向上させる観点から好ましい。一方、膜厚さを30μm以下とすることは、セパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の観点において有利となる傾向があるので好ましい。
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜の透気度は、特に限定されないが、好ましくは10sec/100cm以上、より好ましくは20sec/100cm以上、さらに好ましくは30sec/100cm以上、更に好ましくは50sec/100cm以上、特に好ましくは70sec/100cm以上、最も好ましくは80sec/100cm以上であり、好ましくは200sec/100cm以下、より好ましくは180sec/100cm以下、更に好ましくは140sec/100cm以下、特に好ましくは120sec/100cm以下である。透気度を10sec/100cm以上とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制する観点から好ましい。一方、透気度を200sec/100cm以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。なお、上記透気度は、延伸温度、延伸倍率の変更等により調節可能である。
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、好ましくは0.15μm以下、より好ましくは0.1μm以下であり、下限として好ましくは0.01μm以上である。平均孔径を0.15μm以下とすることは、蓄電デバイス用セパレータとする場合に、蓄電デバイスの自己放電を抑制し、容量低下を抑制する観点から好適である。平均孔径は、ポリオレフィン微多孔膜を製造する際の延伸倍率の変更等により調節可能である。
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜の耐熱性の指標であるショート温度は、好ましくは140℃以上であり、より好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは160℃以上である。ショート温度を140℃以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータとする場合に、蓄電デバイスの安全性の観点から好ましい。
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜の粘度平均分子量は、特に限定されないが、10万以上500万以下であることが好ましく、より好ましくは30万以上150万以下、さらに好ましくは50万以上100万以下である。粘度平均分子量が10万以上500万以下であると、ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度、透過性、熱収縮、およびシャットダウン機能の観点で好ましい。
(ポリオレフィン微多孔膜の製造方法)
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜を製造する方法は、特に限定されず、公知の製造方法を採用することができる。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、場合により延伸した後、可塑剤を抽出することにより多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法等が挙げられる。これらの中でも、上記で説明された摩擦制御の観点およびピン抜け性の観点から、多孔性基材として、得られるポリオレフィン微多孔膜の構造を最適化する方法、例えば延伸工程を含む方法の選択が好ましい。以下、微多孔膜を製造する方法の一例として、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、可塑剤を抽出する方法について説明する。
まず、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂及び必要によりその他の添加剤を、押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入して混練する方法が挙げられる。この際、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤及び可塑剤を樹脂混練装置に投入する前に、予めヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で事前混練しておくことが好ましい。より好ましくは、事前混練において可塑剤の一部のみを投入し、残りの可塑剤を樹脂混練装置サイドフィードしながら混練することである。このようにすることにより、可塑剤の分散性を高め、後の工程で樹脂組成物と可塑剤の溶融混練合物のシート状成形体を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができる。
可塑剤としては、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒を用いることができる。このような不揮発性溶媒の具体例として、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。これらの中で、流動パラフィンは、ポリエチレンやポリプロピレンとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸してもポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の界面剥離が起こり難いので、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とからなる組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは30~80質量%、より好ましくは40~70質量%である。可塑剤の質量分率が80質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが不足し難く、成形性が向上する傾向にある。一方、質量分率が30質量%以上であると、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合物を高倍率で延伸してもポリオレフィン鎖の切断が起こらず、均一かつ微細な孔構造を形成し強度も増加し易い。
次に、溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、あるいは可塑剤自身等が使用できるが、金属製のロールが熱伝導の効率が高いため好ましい。この際、金属製のロールに接触させる際に、ロール間で挟み込むと、熱伝導の効率がさらに高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上するためより好ましい。Tダイよりシート状に押出す際のダイリップ間隔は400μm以上3000μm以下であることが好ましく、500μm以上2500μm以下であることがさらに好ましい。ダイリップ間隔が400μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジや欠点など膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程において膜破断などを防ぐことができる傾向にある。一方、ダイリップ間隔が3000μm以下であると、冷却速度が速く冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる傾向にある。
このようにして得たシート状成形体を延伸することが好ましい。延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができるが、得られる多孔膜の強度等の観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔膜が裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができ、突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点から同時二軸延伸が好ましい。
なお、ここで、同時二軸延伸とは、MD方向の延伸とTD方向の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD方向、又はTD方向の延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD方向又はTD方向に延伸がなされている際は、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上50倍以下の範囲であることがさらに好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲であることがさらに好ましい。総面積倍率が20倍以上であると、得られる多孔膜に十分な強度を付与できる傾向にあり、一方、総面積倍率が100倍以下であると延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる傾向にある。
また、シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延は特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍より大きく3倍以下であることが好ましく、1倍より大きく2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍より大きいと、面配向が増加し最終的に得られる多孔膜の膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚さ方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にあるため好ましい。
次いで、シート状成形体から可塑剤を除去して微多孔膜とする。可塑剤を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して可塑剤を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。可塑剤を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。微多孔膜の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、微多孔膜中の可塑剤残存量は1質量%未満にすることが好ましい。
抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂組成物に対して貧溶媒で、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
微多孔膜の収縮を抑制するために、延伸工程後、又は、微多孔膜形成後に熱固定や熱緩和等の熱処理を行うこともできる。また、上記で説明された摩擦制御の観点およびピン抜け性の観点から、微多孔膜を後処理に供して、微多孔膜の構造を最適化してよい。例えば、微多孔膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよく、また微多孔膜の引張強度を最適範囲にするため適宜調整してもよい。
〔熱可塑性ポリマー含有層〕
本実施形態に係る熱可塑性ポリマー含有層は、熱可塑性ポリマーを含み、そして多孔性基材の表面、および多孔性基材の一方の面に配置された無機フィラー含有層の表面に配置される。熱可塑性ポリマー含有層は、ピン抜け性の良化の観点、および上記で説明された摩擦制御の観点から、多孔性基材の表面、および多孔性基材の一方の面に配置された無機フィラー含有層の表面に配置され、かつセパレータ両側において熱可塑性ポリマー含有層の少なくとも一部が露出または被覆するように配置されることが好ましい。また、本実施形態に係る熱可塑性ポリマー含有層は、多孔性基材の表面には配置されず、多孔性基材の一方の面に配置された無機フィラー含有層の表面のみに配置されてもよい。この場合、無機フィラー含有層の表面に配置された熱可塑性ポリマー含有層の少なくとも一部が露出または被覆するように配置されることが好ましい。
本実施形態に係るセパレータは、熱可塑性ポリマー含有層がセパレータの両側に配置される場合には、多孔性基材を基準として、両側に配置される熱可塑性ポリマー含有層は、同じでよく、又は相違してよく、そして環境への配慮、経済性および生産性の観点から両熱可塑性ポリマー含有層は、同じ構成を有することが好ましい。
(熱可塑性ポリマー)
本実施形態に係る熱可塑性ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、α-ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂とこれらを含むコポリマー;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンをモノマー単位として含むジエン系ポリマー又はこれらを含むコポリマー及びその水素化物;アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステルなどをモノマー単位として含むアクリル系ポリマー又はこれらを含むコポリマー及びその水素化物;エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等の融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂及びこれらの混合物等が挙げられる。また、熱可塑性ポリマーを合成する際に使用するモノマーとして、ヒドロキシル基やスルホン酸基、カルボキシル基、アミド基、シアノ基を有するモノマーを用いることもできる。
(熱可塑性ポリマーの動的粘弾性)
熱可塑性ポリマーは、粘性と弾性とのバランスが取れていることが好ましい。具体的には、熱可塑性ポリマーを1Hzで動的粘弾性測定した際の30℃における熱可塑性ポリマーの損失正接(tanδ値)は、上記で説明されたピン抜け性の向上および摩擦制御の観点から、0.01以上0.05以下であることが好ましく、0.02以上0.04以下であることがより好ましい。熱可塑性ポリマーを1Hzで動的粘弾性測定した際の30℃における熱可塑性ポリマーの損失正接(tanδ値)が大きいと、セパレータの多孔性基材側の表面とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’α、およびセパレータの無機フィラー含有層側の表面と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’βは、小さくなる傾向がある。
熱可塑性ポリマーを1Hzで動的粘弾性測定した際の損失正接(tanδ値)の極大値は、70℃以上にあることが好ましく、80℃~120℃の範囲内になることがより好ましく、90℃~110℃の範囲内にあることが更に好ましい。1Hzで動的粘弾性測定した熱可塑性ポリマーのtanδの極大値が70℃以上にあると、比較的高温でさえも熱可塑性ポリマーの物性変動が少ないため、本実施形態に係るセパレータを含む蓄電デバイスの安全性が向上する傾向にある。
熱可塑性ポリマーの動的粘弾性は、例えば、多孔性基材または無機フィラー含有層の表面への熱可塑性ポリマー含有層の配置、またはセパレータの製造プロセスにおいて、ポリマー原料の選定、熱可塑性樹脂の設計などにより適切な調整が可能である。
上記で列挙された熱可塑性ポリマーのうち、電極活物質との密着性及び強度や柔軟性に優れることから、ジエン系ポリマー、アクリル系ポリマー又はフッ素系ポリマーが好ましい。
(ジエン系ポリマー)
ジエン系ポリマーは、特に限定されないが、例えば、ブタジエン、イソプレンなどの共役の二重結合を2つ有する共役ジエンを重合してなるモノマー単位を含むポリマーである。共役ジエンモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエンなどが挙げられる。これらは単独で重合しても共重合してもよい。
ジエン系ポリマー中の共役ジエンを重合してなるモノマー単位の割合は、特に限定されないが、例えば、全ジエン系ポリマー中40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
上記ジエン系ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエンのホモポリマー及び共役ジエンと共重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。共重合可能なモノマーは、特に限定されないが、例えば、後述の(メタ)アクリレートモノマーや下記のモノマー(以下、「その他のモノマー」ともいう。)を挙げることができる。
「その他のモノマー」としては、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β-不飽和ニトリル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル化合物;β-ヒドロキシエチルアクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基含有化合物;アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などのアミド系モノマーなどが挙げられ、これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
(アクリル系ポリマー)
アクリル系ポリマーは、特に限定されないが、好ましくは(メタ)アクリレートモノマーを重合してなるモノマー単位を含むポリマーである。
熱可塑性ポリマー含有層が、熱可塑性ポリマーとしてアクリル系ポリマーを含む場合、(メタ)アクリル酸エステル単量体の単量体単位を含む共重合体を含むことが好ましい。熱可塑性ポリマー含有層の熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体の単量体単位を含む共重合体を含むと、セパレータが低目付の場合での接着力の向上、ピン抜け性の向上、および上記で説明された摩擦制御の観点から好ましい。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸又はメタクリル酸」を示し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を示す。
(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート;アミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート(GMA)等のエポキシ基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
(メタ)アクリレートモノマーを重合してなるモノマー単位の割合は、特に限定されないが、全アクリル系ポリマーの例えば40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。アクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリレートモノマーのホモポリマー、これと共重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。 共重合可能なモノマーとしては、上記ジエン系ポリマーの項目で列挙した「その他のモノマー」が挙げられ、これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
(フッ素系ポリマー)
フッ素系ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、フッ化ビニリデンのホモポリマー、これと共重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。フッ素系ポリマーは、電気化学的安定性の観点から好ましい。
フッ化ビニリデンを重合してなるモノマー単位の割合は、特に限定されないが、例えば、40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。 フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロアクリル酸、パーフルオロメタクリル酸、アクリル酸又はメタクリル酸のフルオロアルキルエステル等のフッ素含有エチレン性不飽和化合物;シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル等のフッ素非含有エチレン性不飽和化合物;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のフッ素非含有ジエン化合物等を挙げることができる。
フッ素系ポリマーのうち、フッ化ビニリデンのホモポリマー、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー等が好ましい。特に好ましいフッ素系ポリマーは、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマーであり、そのモノマー組成は、通常、フッ化ビニリデン30~90質量%、テトラフルオロエチレン50~9質量%及びヘキサフルオロプロピレン20~1質量%である。これらのフッ素樹脂粒子は、単独で又は2種以上を混合して使用しても良い。
また、上記熱可塑性ポリマーを合成する際に使用するモノマーとして、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、アミド基、又はシアノ基を有するモノマーを用いることもできる。
ヒドロキシル基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、ペンテンオール等のビニル系モノマーを挙げることができる。
カルボキシル基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のエチレン性二重結合を有する不飽和カルボン酸、ペンテン酸等のビニル系モノマーを挙げることができる。
アミノ基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸2-アミノエチル等を挙げることができる。
スルホン酸基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリススルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
アミド基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、アクリルアミド(AM)、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドなどが挙げられる。
シアノ基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル(AN)、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-シアノエチルアクリレート等を挙げることができる。
本実施形態で用いる熱可塑性ポリマーは、ポリマーを単独で又は2種類以上混合して使用してもよいが、ポリマーを2種類以上含むことが好ましい。熱可塑性ポリマーは、溶媒と共に使用されてよく、溶媒としては、熱可塑性ポリマーを均一かつ安定に分散できるものでよく、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、ヘキサン等が挙げられ、中でも水系溶媒が好ましい。また、熱可塑性ポリマーは、ラテックスの形態で使用されることができる。
(熱可塑性ポリマーのガラス転移点)
熱可塑性ポリマー含有層を構成する熱可塑性ポリマーは、上記で説明された摩擦制御の観点、基材への密着性とブロッキング抑制の観点、及び接着力と耐粉落ち性とのバランスの観点から、少なくとも二つのガラス転移温度を有し、ガラス転移温度のうち少なくとも一つは20℃未満の領域に存在し、かつガラス転移温度のうち少なくとも一つは30℃以上の領域に存在するという熱特性を有することが好ましい。
ここで、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)で得られるDSC曲線から決定される。なお、本明細書では、ガラス転移温度をTgと表現する場合もある。
具体的には、DSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の変曲点における接線との交点により決定される。より詳細には、実施例に記載の方法を参照することができる。
ここで、「ガラス転移」はDSCにおいて試験片であるポリマーの状態変化に伴う熱量変化が吸熱側に生じたものを指す。このような熱量変化はDSC曲線において階段状変化形状又は階段状変化とピークとが組み合わさった形状として観測される。
「階段状変化」とは、DSC曲線において、曲線がそれまでのベースラインから離れ新たなベースラインに移行するまでの部分を示す。なお、ピーク及び階段状変化の組み合わさった形状も含む。
「変曲点」とは、階段状変化部分のDSC曲線のこう配が最大になるような点を示す。また、階段状変化部分において上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点と表現することもできる。
「ピーク」とは、DSC曲線において、曲線がベースラインから離れてから再度ベースラインに戻るまでの部分を示す。
「ベースライン」とは、試験片に転移及び反応を生じない温度領域のDSC曲線のことを示す。
本実施形態では、用いる熱可塑性ポリマーのガラス転移温度のうち少なくとも一つが20℃未満の領域に存在することにより、SUS304との動摩擦係数の制御、または所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数の制御に優れ、多孔性基材または無機フィラー含有層との密着性に優れ、かつブロッキングが抑制される結果、セパレータと電極との密着性に優れるという効果を奏する。ガラス転移温度は、ハンドリング性及び耐ブロッキング性の観点で-100℃以上が好ましく、-50℃以上がより好ましく、-40℃以上がさらに好ましく、-6℃以上が特に好ましく、動摩擦係数の制御、および多孔性基材又は無機フィラー含有層との密着性の観点で20℃未満が好ましく、10℃以下がより好ましく、又は0℃以下が特に好ましい。
本実施形態では、用いる熱可塑性ポリマーのガラス転移温度のうち少なくとも一つが30℃以上の領域に存在することにより、SUS304との動摩擦係数の制御、または所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数の制御に優れ、さらにはセパレータと電極との接着性及びハンドリング性に優れる。ガラス転移温度は、動摩擦係数の制御、ならびにハンドリング性及び耐ブロッキング性の観点で30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましく、85℃以上が特に好ましく、接着力の観点で150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、120℃以下が特に好ましい。
熱可塑性ポリマーが2つのガラス転移温度を有することは、例えば、2種類以上の熱可塑性ポリマーをブレンドする方法、熱可塑性樹脂の構造設計等によって達成できるが、この方法に限定されない。
特に、ポリマーブレンドは、ガラス転移温度の高いポリマーと低いポリマーを組み合せることにより、熱可塑性ポリマー全体のガラス転移温度を制御できる。また、熱可塑性ポリマー全体に複数の機能を付与できる。例えば、ブレンドの場合は、特にガラス転移温度を30℃以上の領域に持つポリマーと、ガラス転移温度を20℃未満の領域に持つポリマーを2種類以上ブレンドすることで、耐ベタツキ性と摩擦制御とを両立することができる。ブレンドする場合の混合比としてはガラス転移温度を30℃以上の領域に持つポリマーと、ガラス転移温度を20℃未満の領域に持つポリマーとの比が0.1:99.9~99.9:0.1の範囲であることが好ましく、より好ましくは、5:95~95:5であり、さらに好ましくは50:50~95:5であり、よりさらに好ましくは60:40~90:10である。また、粘性の高いポリマーと弾性の高いポリマーとを組み合わせて粘弾性の制御をすることもできる。
本実施形態において、熱可塑性ポリマーのガラス転移温度、すなわちTgは、例えば、熱可塑性ポリマーを製造するのに用いるモノマー成分及び各モノマーの投入比を変更することにより適宜調整できる。すなわち、熱可塑性ポリマーの製造に用いられる各モノマーについて一般に示されているそのホモポリマーのTg(例えば、「ポリマーハンドブック」(A WILEY-INTERSCIENCE PUBLICATION)に記載)とモノマーの配合割合から概略推定することができる。例えば約100℃のTgのポリマーを与えるスチレン、メチルメタクリレ-ト、及びアクリルニトリルなどのモノマーを高比率で配合したコポリマーは高いTgのものが得られ、例えば約-80℃のTgのポリマーを与えるブタジエンや約-50℃のTgのポリマーを与えるn-ブチルアクリレ-ト及び2-エチルヘキシルアクリレ-トなどのモノマーを高い比率で配合したコポリマーは低いTgのものが得られる。
また、ポリマーのTgはFOXの式(下記式(1))より概算することができる。なお、本実施形態の熱可塑性ポリマーのガラス転移点としては、上記DSCを用いた方法により測定したものを採用する。 1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・+W/Tg+・・・W/Tg (1)
{式(1)中において、Tg(K)は、コポリマーのTg、Tg(K)は、各モノマーiのホモポリマーのTg、Wは、各モノマーの質量分率を各々示す。}
熱可塑性ポリマーのガラス転移温度は、以下の方法により求められる。
熱可塑性ポリマーの塗工液を、アルミ皿に適量取り、130℃の熱風乾燥機で30分間乾燥する。乾燥後の乾燥皮膜約5mgを測定用アルミ容器に詰め、DSC測定装置(TA Instruments社製、DSC Q2000)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線及びDDSC曲線を得る。測定条件は下記のとおりとする。
(1段目昇温プログラム)
40℃スタート、毎分50℃の割合で昇温。200℃に到達後5分間維持。
(2段目降温プログラム)
200℃から毎分20℃の割合で降温。-50℃に到達後5分間維持。
(3段目昇温プログラム)
-50℃から毎分20℃の割合で200℃まで昇温。この3段目の昇温時にDSC及びDDSCのデータを取得。
JIS―K7121に記載の方法に従って、ベースライン(得られたDSC曲線におけるベースラインを高温側に延長した直線)と、変曲点(上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点)における接線との交点をガラス転移温度(Tg)とする。
(熱可塑性ポリマー含有層の構造)
熱可塑性ポリマー含有層において、蓄電デバイス用セパレータの最表面側に、30℃以上120℃以下のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂が存在し、かつ、ポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層の界面側に、20℃未満のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂が存在することが好ましい。なお、「最表面」とは、蓄電デバイス用セパレータと電極とを積層したときに、熱可塑性ポリマー含有層のうち電極と接する面をいう。また、「界面」とは、熱可塑性ポリマー含有層のうちポリオレフィン微多孔膜と接している面をいう。
熱可塑性ポリマー含有層において、蓄電デバイス用セパレータの最表面側に、30℃以上120℃以下のガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーが存在することにより、微多孔膜との密着性により優れ、その結果セパレータと電極との密着性に優れる傾向にある。また、ポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層の界面側に、20℃未満のガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーが存在することにより、セパレータと電極との接着性及びハンドリング性により優れる傾向にある。セパレータは、このような熱可塑性ポリマー含有層を有することにより、セパレータと電極との接着性及びハンドリング性がより向上する傾向にある。
上記のような構造は、(a)熱可塑性ポリマーが、粒状(particle)熱可塑性ポリマーと、粒状熱可塑性ポリマーが表面に露出した状態で粒状熱可塑性ポリマーをポリオレフィン微多孔膜に接着するバインダーポリマーと、からなり、粒状熱可塑性ポリマーのガラス転移温度が30℃以上120℃以下の領域に存在し、ポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層の界面側には20℃未満のガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーが存在すること、(b)熱可塑性ポリマーが積層構造であり、セパレータとしたときに最表層となる部分の熱可塑性ポリマーのガラス転移温度が30℃以上120℃以下の領域に存在し、ポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層の界面側には20℃未満のガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーが存在すること等によって、達成できる。なお、(b)熱可塑性ポリマーが、Tgが異なるポリマー毎の積層構造になっていてもよい。
(熱可塑性ポリマーの平均粒径)
本実施形態における熱可塑性ポリマーの構造は、特に限定されないが、例えば、粒状に構成されることができる。このような構造を有することにより、セパレータと電極との接着性及びセパレータのハンドリング性により優れる傾向にある。ここで、粒状とは、走査型電子顕微鏡(SEM)の測定にて、個々の熱可塑性ポリマーが輪郭を持った状態のことを指し、細長形状であっても、球状であっても、多角形状等であってもよい。
粒状熱可塑性ポリマーの粒径分布及びメジアン径については、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて測定できる。必要に応じて、ベースラインとして水又はバインダ高分子の粒径分布を用いて、粒状熱可塑性ポリマーの粒径分布を調整できる。累積頻度が50%となる粒径を平均体積粒径D50とし、粒状熱可塑性ポリマーのD50をDとする。
粒状熱可塑性ポリマーの平均体積粒径Dは、上記で説明された摩擦制御の観点、ピン抜け性の向上の観点、およびセパレータの電極との接着力の観点から、100nm以上800nm以下であることが好ましく、200nm以上700nm以下であることがより好ましく、300nm以上650nm以下であることが更に好ましく、400nm以上600nm以下であることが特に好ましく、500nm以上590nm以下であることが最も好ましい。粒状熱可塑性ポリマーの平均粒径Dは、例えば、熱可塑性樹脂の設計により調整可能である。
(ドット状のパターン)
熱可塑性ポリマー含有層は、上記で説明された摩擦制御の観点から、多孔性基材の表面及び無機フィラー含有層の表面にドット状のパターンで配置されていることが好ましい。ドット(dots)状とは、ポリオレフィン微多孔膜上に、熱可塑性ポリマーを含む部分と熱可塑性ポリマーを含まない部分とが存在し、熱可塑性ポリマーを含む部分が島状に存在することを示す。なお、熱可塑性樹脂層は、熱可塑性ポリマーを含む部分が独立してよい。
熱可塑性ポリマー含有層のドットの直径は、上記で説明された摩擦制御、電池の抵抗を低くする、ガス抜けし易くする、熱を籠り難くして安全性を高める、およびセパレータと電極との接着性の観点から、50μm以上1000μm以下であることが好ましく、100μm以上500μm以下であることがより好ましく、150μm以上300μm以下であることが特に好ましく、200μm以上300μm以下であることが最も好ましい。
上記で特定された熱可塑性樹脂層のドット状のパターンは、例えば、セパレータの製造プロセスにおいて、熱可塑性ポリマー含有塗工液の最適化、塗工液のポリマー濃度または塗工量及び塗工方法または塗工条件の調整、印刷版の工夫等により達成され得る。
(熱可塑性ポリマーの電解液に対する膨潤度)
本実施形態における熱可塑性ポリマーは、サイクル特性等の電池特性の観点、および電解液存在下(Wet)での電極接着性の観点から、電解液に対する膨潤性を有することが好ましい。より詳細には、イオンの透過性を高め、かつ電極表面と密着した状態におけるバルク強度を高め、接着性を良くすることから、熱可塑性ポリマーの電解液に対する膨潤度は、1.5倍~20倍が好ましく、2倍~15倍がより好ましく、6倍~12倍がさらに好ましく、7~10倍が特に好ましい。本実施形態における熱可塑性ポリマーの電解液に対する膨潤度は、例えば、重合するモノマー成分及び各モノマーの投入比を変更することにより調整することができる。
(熱可塑性ポリマーの膨潤度の測定)
熱可塑性ポリマー含有層に使用した材料を融点以下の温度で12時間真空乾燥し、溶媒を完全に除去することで均一拡散層材料の乾燥物を得る。得られた乾燥物のうち約0.5gの質量を秤量し、浸漬前質量(WA)とした。この乾燥物を、25℃の1mol/LのLiPFと1wt%のビニレンカーボネートを含むエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=1:2(体積比)の電解液15gと共に50mLのバイアル瓶に入れ、72時間浸漬した後、サンプルを取り出し、タオルぺーパーで拭き取った直後に質量を測定し、浸漬後質量(WB)とする。
熱可塑性ポリマー含有層の電解液膨潤度は、以下の式より算出する。
膨潤度(倍)=WB/WA
なお、上記の式において、均一拡散層の材料が上記電解液に膨潤も溶解もしない場合、膨潤度は1倍となる。
(熱可塑性ポリマー含有層の片面当たりの目付)
本実施形態に係るセパレータにおいて、熱可塑性ポリマー含有層の片面当たりの目付は、電極との接着力とイオンの透過性を両立する観点から、0.03g/m以上0.50g/m以下であることが好ましく、0.04g/m以上0.30g/m以下であることがより好ましく、最も好ましくは、0.06g/m以上0.20g/m以下である。熱可塑性ポリマー含有層の目付は、塗工する液のポリマー濃度やポリマー溶液の塗布量を変更することにより調整することができる。本実施形態の効果を妨げない範囲で、電極の膨張収縮に伴うセル形状の変形を抑制して電池のサイクル特性を良好にする観点では、0.06g/mを超える範囲が好ましい。
(熱可塑性ポリマー含有層による基材又は無機フィラー含有層表面の被覆面積割合)
本実施形態において、多孔性基材又は無機フィラー含有層表面に対する熱可塑性ポリマー含有層の片面当たりの総被覆面積割合は、上記で説明された摩擦制御の観点、ピン抜け性の向上の観点、およびセパレータの電極との接着力を維持しつつ電池抵抗を低くする観点から、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、20%以上、又は25%以上が好ましく、また90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、55%以下、又は45%以下であることが好ましい。
本実施形態の効果を効率よく発揮するという観点から、多孔性基材表面に対する熱可塑性ポリマー含有層の片面当たりの総被覆面積割合は、20%~45%の範囲内にあることが特に好ましい。
本実施形態の効果を効率よく発揮するという観点から、無機フィラー含有層表面に対する熱可塑性ポリマー含有層の片面当たりの総被覆面積割合は、25%~55%の範囲内にあることが特に好ましい。
熱可塑性ポリマー含有層の総被覆面積割合が上記で説明された下限値より小さいと、セパレータと電極界面の距離が不均一化することにより電流分布が不均一化するので、安全性試験において温度上昇し易くなることがある。また、熱可塑性ポリマー含有層の総被覆面積が上記で説明された上限値より大きいと、電池抵抗が上昇し、レート特性の悪化につながることがある。
また、熱可塑性ポリマー含有層の総被覆面積割合が大きいと、熱可塑性ポリマー含有層とステンレス鋼(SUS304)、または熱可塑性ポリマー含有層と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面の接触点が多くなるため、セパレータの多孔性基材側の表面とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’α、またはセパレータの無機フィラー含有層側の表面と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’βは、大きくなる傾向がある。
多孔性基材表面または無機フィラー含有層表面に存在する熱可塑性ポリマー含有層の総被覆面積割合Sは、上面観察において多孔性基材と無機フィラー含有層の合計露出面積が多孔性基材の表面積と等しいため、以下の式から算出される。
S(%)=熱可塑性ポリマー含有層の総被覆面積÷多孔性基材の表面積×100
基材表面に対する熱可塑性ポリマー含有層の塗工パターンの被覆面積割合(%)は、マイクロスコープ(型式:VHX-7000、キーエンス社製)を用いて測定することができる。サンプルであるセパレータを30倍(同軸落射)で撮影した後、計測モードの自動面積計測を選択して、熱可塑性ポリマーの被覆面積割合を測定する。各サンプルにおける被覆面積割合は、上記測定を3回行い、その相加平均値とする。
熱可塑性ポリマー含有層の総被覆面積割合は、塗工液のポリマー濃度やポリマー溶液の塗布量及び塗工方法、塗工条件を変更することにより調整することができる。
〔無機フィラー含有層〕
また、本実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータは、無機フィラーと樹脂製バインダーを含む無機フィラー含有層(本実施形態では、無機フィラー含有層を多孔層と称する場合がある)を備えていてもよい。無機フィラー含有層の位置は、多孔性基材表面の少なくとも一部、熱可塑性ポリマー含有層表面の少なくとも一部、及び/又は多孔性基材と熱可塑性ポリマー含有層との間が挙げられる。
一態様において、無機フィラー含有層の位置は、ポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層との間にある。本実施形態のセパレータは、無機フィラー含有層を多孔性基材の片面又は両面に備えていてよく、上記で説明されたピン抜け性の向上および摩擦制御の観点、ならびに図1に示されるようなセパレータと電極との捲回状態の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の片面上に、かつポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層の間に、無機フィラー含有層を備えることが好ましい。
本実施形態の無機フィラー含有層は、無機フィラー含有層中の各孔の面積が0.001μm以上である孔に対して、面積が0.001μm~0.05μmの範囲にある孔の割合Tが90%以上であることがより好ましい。
(無機フィラー)
無機フィラー含有層に使用する無機フィラーとしては、特に限定されないが、200℃以上の融点をもち、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。
無機フィラーの材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム又はベーマイト、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維などが挙げられる。これらの中でも、アルミナ、ベーマイト、及び硫酸バリウムから成る群から選ばれる少なくとも1つが、リチウムイオン二次電池内での安定性の観点から好ましい。また、ベーマイトとしては、電気化学素子の特性に悪影響を与えるイオン性の不純物を低減できる合成ベーマイトが好ましい。
無機フィラーの形状としては、例えば、板状、鱗片状、多面体、針状、柱状、粒状、球状、紡錘状、ブロック状等が挙げられ、上記形状を有する無機フィラーを複数種組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、透過性と耐熱性のバランスの観点からは、ブロック状が好ましい。
無機フィラーのアスペクト比としては、1.0以上5.0以下であることが好ましく、より好ましくは、1.1以上3.0以下である。アスペクト比が5.0以下であることで、多層多孔膜の水分吸着量を抑制し、サイクルを重ねた時の容量劣化を抑制する観点、及びポリオレフィン微多孔膜の融点を超えた温度における変形を抑制する観点から好ましい。
無機フィラーの比表面積としては、3.0m/g以上17m/g以下であることが好ましく、より好ましくは、5.0m/g以上15m/g以下であり、更に好ましくは、6.5m/g以上13m/g以下である。比表面積が17m/g以下であることで、多層多孔膜の水分吸着量を抑制し、サイクルを重ねた時の容量劣化を抑制する観点から好ましく、比表面積が3.0m/g以上であることで、ポリオレフィン微多孔膜の融点を超えた温度における変形を抑制する観点から好ましい。無機フィラーの比表面積は、BET吸着法を用いて測定する。
無機フィラーを含むスラリーの粒径分布において、無機フィラー粒子の平均体積粒径D50であるDは、0.5μm以下であることが好ましく、0.1μm~0.5μmの範囲内にあることがより好ましく、0.2μm~0.4μmの範囲内にあることが更に好ましい。無機フィラーの0.5μm以下のDは、リチウム金属酸化物または電極活物質との摩擦力を高めるため、上記で説明されたピン抜け性の向上および摩擦制御の観点、ならびに無機フィラー含有層を備えるセパレータの熱収縮率低減の観点から好ましい。
無機フィラー粒子のDFが小さいと、熱可塑性ポリマー含有層を塗布乾燥させる際にコーヒーリング現象の発生が抑制されて、熱可塑性ポリマー粒子が被塗布面に対して平面的に積まれ易くなるため、無機フィラー含有層上の熱可塑性ポリマー含有層と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との接触点が多くなり、セパレータの無機フィラー含有層側の表面と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’βは、大きくなる傾向がある。
無機フィラー粒子の粒径分布及びメジアン径については、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて、無機フィラー粒子分散液の粒径分布を測定できる。必要に応じて、ベースラインとして水又はバインダー高分子の粒径分布を用いて、無機フィラー粒子分散液又はスラリー塗工液の粒径分布を調整できる。累積頻度が50%となる粒径を平均体積粒径D50とし、無機フィラー粒子のD50をDとする。
無機フィラーの粒径分布を上記のように調整する方法としては、例えば、ボールミル・ビーズミル・ジェットミル等を用いて無機フィラーを粉砕し、所望の粒径分布を得る方法、複数の粒径分布のフィラーを調製した後にブレンドする方法等が挙げられる。
無機フィラーが、無機フィラー含有層中に占める割合としては、無機フィラーの密着性、多層多孔膜の透過性及び耐熱性等の観点から適宜決定することができるが、50質量%以上100質量%未満であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上99.99質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上99.9質量%以下、特に好ましくは90質量%以上99質量%以下である。
(樹脂製バインダー)
樹脂製バインダーの種類としては、特に限定されないが、本実施形態における多層多孔膜をリチウムイオン二次電池用セパレータとして使用する場合には、リチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定なものを用いることが好ましい。
樹脂製バインダーの具体例としては、以下の1)~7)が挙げられる。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体;
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体;
6)セルロース誘導体:例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース;
7)融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル。
短絡時の安全性をさらに向上させるという観点からは、3)アクリル系重合体、5)含フッ素樹脂、及び7)ポリマーとしてのポリアミドが好ましい。ポリアミドとしては、耐久性の観点から全芳香族ポリアミド、中でもポリメタフェニレンイソフタルアミドが好適である。
樹脂製バインダーと電極との適合性の観点からは上記2)共役ジエン系重合体が好ましく、耐電圧性の観点からは上記3)アクリル系重合体及び5)含フッ素樹脂が好ましい。
上記2)共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体である。
上記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、特に1,3-ブタジエンが好ましい。
上記3)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位として含む重合体である。上記(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステルから成る群から選ばれる少なくとも一つを示す。
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアメタクリレート;エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート;が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)、ブチルアクリレート(BA)が好ましい。
アクリル系重合体は、衝突試験での安全性の観点から、EHA又はBAを主な構成単位として含むポリマーであることが好ましい。主な構成単位とは、ポリマーを形成するための全原料に対して40モル%以上を占めるモノマーと対応するポリマー部分をいう。
上記2)共役ジエン系重合体および3)アクリル系重合体は、これらと共重合可能な他の単量体をも共重合させて得られるものであってもよい。用いられる共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なお、上記2)共役ジエン系重合体は、他の単量体として上記(メタ)アクリル系化合物を共重合させて得られるものであってもよい。
樹脂製バインダーは、常温を超えるような高温時でさえも複数の無機粒子間の密着力が強く、熱収縮を抑制するという観点から、ラテックスの形態であることが好ましく、アクリル系重合体のラテックスであることがより好ましい。
樹脂製バインダーの平均粒径は、50nm以上500nm以下であることが好ましく、より好ましくは60nm以上460nm以下、更に好ましくは80nm以上250nm以下である。樹脂製バインダーの平均粒径が50nm以上である場合、無機フィラーと樹脂製バインダーとを含む無機フィラー含有層をポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に積層した際、イオン透過性が低下し難く、高出力特性が得られ易い。加えて異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られ易い。樹脂製バインダーの平均粒径が500nm以下である場合、良好な密着性を発現し、多層多孔膜とした場合に熱収縮が良好となり安全性に優れる傾向にある。
樹脂製バインダーの平均粒径は、重合時間、重合温度、原料組成比、原料投入順序、pHなどを調整することで制御することが可能である。
無機フィラー塗布液には、分散安定化又は塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤を加えてもよい。分散剤は、スラリー中で無機フィラー粒子表面に吸着し、静電反発などにより無機フィラー粒子を安定化させるものであり、例えば、ポリカルボン酸塩、スルホン酸塩、ポリオキシエーテルなどである。分散剤の添加量としては、無機フィラー100重量部に対し、固形分換算で0.2重量部以上5.0重量部以下が好ましく、より好ましくは0.3重量部以上1.0重量部以下が好ましい。
(無機フィラー含有層の物性・構成)
無機フィラー含有層の厚みは、1層当たり、0.1μm以上4.0μm以下が好ましく、より好ましくは0.2μm以上3.0μm以下、更に好ましくは0.5μm以上2.0μm以下、特に好ましくは、1.0μm以上1.5μm以下である。無機フィラー含有層の厚みが0.1μm以上であることは、保存試験中に基材の収縮応力に抗えず微短絡などが発生することによる性能や安全性の悪化を防ぎ、微多孔膜の融点を超えた温度における変形を抑制する観点で好ましい。無機フィラー含有層の厚みが4.0μm以下であることは、電池容量の増大およびレート特性悪化の抑制、多層多孔膜の水分吸着量の抑制の観点で好ましい。
無機フィラー含有層中の層密度は、1.10g/(m・μm)以上3.00g/(m・μm)以下であることが好ましく、より好ましくは1.20g/(m・μm)以上2.90g/(m・μm)以下、更に好ましくは1.40g/(m・μm)以上2.70g/(m・μm)以下、特に好ましくは1.50g/(m・μm)以上2.50g/(m・μm)以下である。無機フィラー含有層中の層密度が1.10g/(m・μm)以上であることは、PO微多孔膜の融点を超えた温度における変形を抑制する観点から好ましい。無機フィラー含有層中の層密度が3.00g/(m・μm)以下であることは、無機フィラー含有層のイオン透過性を維持し、サイクルを重ねた時の容量劣化を抑制する観点から好ましい。
〔セパレータの物性・構成〕
蓄電デバイス用セパレータの総厚みの下限は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、更に好ましくは5μm以上であり、その上限は、好ましくは16μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは9μm以下である。総厚みを3μm以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータの強度確保や安全性の観点から好適である。一方、総厚みを16μm以下とすることは、蓄電デバイスの電気抵抗を低くして蓄電デバイス容量を向上させ、かつ本実施形態に係るセパレータの良好なピン抜け性が顕著になるため好ましい。セパレータの総厚みは、例えば、多孔性基材の製膜条件、セパレータの積層構造、熱可塑性ポリマー含有層または無機フィラー含有層の形成条件等により適切な調整が可能である。
蓄電デバイス用セパレータのMDの引張破断強度とTDの引張破断強度の比(MD/TD引張破断強度比)は、上記で説明されたピン抜け性の向上および摩擦制御の観点から、0.5以上1.5以下であることが好ましく、0.5以上1.2以下であることがより好ましく、0.5以上1.0以下であることが更に好ましい。同様の観点から、セパレータのMDの引張破断強度は、1,000~1,500kgf/cmの範囲内にあることが好ましく、1,100~1,400kgf/cmの範囲内にあることがより好ましく、かつ/又はセパレータのTDの引張破断強度は、1,100~1,700kgf/cmの範囲内にあることが好ましく、1,200~1,600kgf/cmの範囲内にあることがより好ましい。セパレータの引張破断強度およびMD/TD引張破断強度比は、例えば、セパレータの製造プロセスにおいて、ポリオレフィン微多孔膜などの多孔性基材を構成する原料組成などの設計、熱固定条件、無機フィラー含有層または熱可塑性ポリマー含有層の塗工条件などにより調整が可能である。
蓄電デバイス用セパレータの目付の下限は、好ましくは4.0g/m以上、より好ましくは5.0g/m以上、さらに好ましくは6.0g/m以上であり、その上限は、好ましくは13.5g/m以下、より好ましくは11.2g/m以下、さらに好ましくは9.9g/m以下である。目付を4.0g/m以上とすることは、強度確保や安全性の観点から好適である。一方、目付を13.5g/m以下とすることは、電池の抵抗を低くするため、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。
蓄電デバイス用セパレータの透気度の下限は、好ましくは10sec/100cm以上、より好ましくは20sec/100cm以上、さらに好ましくは30sec/100cm以上であり、最も好ましくは50sec/100cm以上であり、その上限は、好ましくは200sec/100cm以下、より好ましくは180sec/100cm以下、さらに好ましくは150sec/100cm以下、最も好ましくは120sec/100cm以下である。透気度を10sec/100cm以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータとする場合に、保存試験中に微短絡の発生、性能や安全性の低下の抑制及び蓄電デバイスの自己放電を一層抑制する観点から好適である。一方、透気度を200sec/100cm以下とすることは、電池の抵抗を低くするため、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。蓄電デバイス用セパレータの透気度は、ポリオレフィン微多孔膜を製造する際の延伸温度、延伸倍率の変更、熱可塑性ポリマーの面積割合、存在形態等により調節可能である。
蓄電デバイス用セパレータの突刺強度については、その下限値が、好ましくは200gf以上、より好ましくは300gf以上、更に好ましくは400gf以上、特に好ましくは450gf以上である。200gf以上の突刺強度は、セパレータを電極と共に捲回したときにおける、脱落した活物質等による破膜を抑制する観点、及び充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡することを抑制する観点、蓄電デバイスの耐衝撃性を向上させる観点から好ましい。また、蓄電デバイス用セパレータの突刺強度の上限値は、加熱時の配向緩和による幅収縮を低減する観点から、好ましくは800gf以下、より好ましくは700gf以下、更に好ましくは600gf以下である。
蓄電デバイス用セパレータの熱収縮率については、150℃、1時間におけるTDの熱収縮率が、好ましくは-3%以上10%以下、より好ましくは-1%以上8%以下、更に好ましくは0%以上5%以下である。ここで、TDの熱収縮率が-3%以上であると、負の収縮(膨張)によるセパレータのヨレ等に起因する電極間の短絡のリスクを抑制し、さらには性能・安全性の低下を抑制することができる。TDの熱収縮率が10%以下であると、保存試験中に微短絡の発生等に起因する性能・安全性の低下を抑制することができる。セパレータの熱収縮率の調整は、基材の延伸操作と熱処理とを適宜組み合わせることにより行うことができる。TDの熱収縮率を抑制すると同時に、MDの熱収縮率もまた、好ましくは-3%~10%以下、より好ましくは-1%以上8%以下、更に好ましくは0%以上5%以下である。
蓄電デバイス用セパレータは、蓄電デバイスの安全性の指標であるシャットダウン温度が、好ましくは160℃以下であり、より好ましくは155℃以下であり、さらに好ましくは150℃以下であり、最も好ましくは145℃以下である。
蓄電デバイス用セパレータは、耐熱性の指標であるショート温度が、好ましくは140℃以上であり、より好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは160℃以上である。ショート温度を160℃以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータとする場合に、蓄電デバイスの安全性の観点から好ましい。
セパレータは、本実施形態の効果を効率よく発揮するという観点から、好ましくは、基材を基準として非対称な多層構造を有し、より好ましくは、基材の少なくとも一方の表面(片面又は両面)上に熱可塑性ポリマー含有層があり、かつ基材の少なくとも一方の表面と熱可塑性ポリマー含有層との間に、無機フィラーおよび樹脂製バインダーを含む無機フィラー含有層が形成されている多層構造を有する。
〔セパレータの製造方法〕
本実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータの製造方法は、例えば、以下の工程:
多孔性基材を準備する工程と、
多孔性基材の一方の表面に無機フィラー含有層を形成する工程と、
多孔性基材の他方の表面、および無機フィラー含有層の表面に、熱可塑性ポリマー含有層を形成する工程と、
所望により、乾燥工程と、
を含有してよい。
〈多孔性基材を準備する工程〉
本実施形態のセパレータの製造方法は、多孔性基材を準備する工程を有する。多孔性基材を準備する工程としては、例えば、上述のポリオレフィン微多孔膜の製造方法での微多孔膜の製膜および、後述の基材の表面処理等が含まれる。
〈無機フィラー含有層を形成する工程〉
本実施形態のセパレータの製造方法は、多孔性基材の少なくとも一方の表面上に形成された無機フィラー含有層を形成する工程を含有する。無機フィラー含有層の形成方法としては、例えば、多孔性基材としてのポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂製バインダーとを含む塗布液を塗布して無機フィラー含有層を形成する方法を挙げることができる。
塗布液の溶媒としては、無機フィラー、及び樹脂製バインダーを均一かつ安定に分散できるものが好ましく、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、ヘキサン等が挙げられる。
塗布液には、分散安定化や塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;酸、アルカリを含むpH調製剤等の各種添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、溶媒除去の際に除去できるものが好ましいが、リチウムイオン二次電池の使用範囲において電気化学的に安定で、電池反応を阻害せず、かつ200℃程度まで安定ならば無機フィラー含有層内に残存してもよい。
無機フィラーと樹脂製バインダーとを、塗布液の溶媒に分散させる方法については、塗布工程に必要な塗布液の分散特性を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、ジェットミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。中でも、ピン抜け性の向上および摩擦制御の観点、ならびに無機フィラー含有層を備えるセパレータの熱収縮率低減の観点から、塗布液中の無機フィラーのDが0.5μm以下になるように、例えばボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いて、無機フィラーを粉砕し、かつ/又は複数の粒径分布の無機フィラーを調製した後にブレンドすることが好ましい。
塗布液を微多孔膜に塗布する方法については、必要とする層厚や塗布面積を実現できる方法であれば特に限定はなく、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。
さらに、塗布液の塗布に先立ち、セパレータ基材としての微多孔膜の表面に表面処理を施すと、塗布液を塗布し易くなると共に、塗布後の無機フィラー含有層と微多孔膜表面との接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法は、微多孔膜の多孔質構造を著しく損なわない方法であれば特に限定はなく、例えば、コロナ放電処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、微多孔膜に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はなく、例えば、微多孔膜を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法等が挙げられる。樹脂製バインダーの結着成分であるバインダーポリマーが基材である微多孔膜や無機フィラー含有層(多孔層)との結着及び粒子状バインダー同士の結着力を発現しつつ、セパレータの透過性を阻害することを防止する観点から、常圧で乾燥することが好ましい。微多孔膜及びセパレータのMDの収縮応力を制御する観点から、乾燥温度、捲き取り張力等は適宜調整することが好ましい。
〈熱可塑性ポリマー含有層を形成する工程〉
本実施形態に係るセパレータの製造方法は、多孔性基材の少なくとも一方の表面、および多孔性基材の他方の表面に配置された無機フィラー含有層の表面に、熱可塑性ポリマーを含有するスラリーを塗布して、熱可塑性ポリマー含有層を形成する工程を含有する。別の実施形態に係るセパレータの製造方法は、多孔質基材の表面に配置された無機フィラー含有層の表面のみに、熱可塑性ポリマーを含有するスラリーを塗布して、熱可塑性ポリマー含有層を形成する工程を含有する。
熱可塑性ポリマー含有スラリーの形成において、ピン抜け性の向上および摩擦制御の観点、高温での熱可塑性ポリマーの物性変動の抑制、ならびに蓄電デバイスの安全性の向上の観点から、1Hzでの動的粘弾性測定において30℃でのtanδ値が0.01~0.05の範囲内になるように、またはtanδ値の極大温度が70℃以上になるように、ポリマー原料を選定若しくは配合したり、熱可塑性樹脂を設計したりすることが好ましい。同様の観点から、少なくとも二つのガラス転移温度を有し、少なくとも一つは20℃未満の領域に存在し、かつ別の一つは30℃以上の領域に存在するように、ポリマー原料を選定若しくは配合したり、熱可塑性樹脂を設計したりすることが好ましい。
熱可塑性ポリマーとしては、上記で説明されたピン抜け性の向上および摩擦制御の観点から、(メタ)アクリル酸エステル単量体の単量体単位と他のコモノマーの単量体単位との共重合体を用いて、熱可塑性ポリマー含有スラリーを形成することが好ましい。
スラリー中の熱可塑性ポリマーは、上記で説明された摩擦制御の観点から、100nm以上800nm以下の平均粒径Dを有することが好ましい。
スラリーを塗布する方法は、特に限定されず、例えば熱可塑性ポリマーを含有するスラリー(塗布液)をポリオレフィン微多孔膜に塗布する方法が挙げられる。
熱可塑性ポリマーを含有する塗布液を多孔性基材または無機フィラー含有層に塗布する方法については、必要とする層厚や塗布面積を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、スプレーコーター塗布法、インクジェット塗布等が挙げられる。これらのうち、熱可塑性ポリマーの塗工形状の自由度が高く、好ましい面積割合を容易に得られる観点でグラビアコーター法又はスプレー塗布法が好ましい。また、熱可塑性ポリマー含有層のドット状のパターンについて上述のとおりに調整するという観点から、グラビアコーター法、インクジェット塗布、および印刷版の調整が容易な塗布方法が好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜に熱可塑性ポリマーを塗工する場合、塗布液が微多孔膜の内部にまで入り込んでしまうと、接着性樹脂が孔の表面及び内部を埋めてしまい透過性が低下してしまう。そのため、塗布液の媒体としては、熱可塑性ポリマーの貧溶媒が好ましい。
塗布液の媒体として熱可塑性ポリマーの貧溶媒を用いた場合には、微多孔膜の内部に塗工液は入り込まず、接着性ポリマーは主に微多孔膜の表面上に存在するため、透過性の低下を抑制する観点から好ましい。このような媒体としては水が好ましい。また、水と併用可能な媒体は、特に限定されないが、エタノール、メタノール等を挙げることができる。所望により、熱可塑性ポリマー含有塗布液には消泡剤(例えば、信越化学工業株式会社のKM-73、日信化学工業株式会社のSK-14等)を加えてよい。
ポリオレフィン微多孔膜または無機フィラー含有層への熱可塑性ポリマーの塗布は、上記で説明された摩擦制御の観点から、ポリオレフィン微多孔膜表面または無機フィラー含有層表面に対する熱可塑性ポリマー含有層の片面当たりの総被覆面積割合が10%~70%の範囲内になるように、かつ/又は熱可塑性ポリマー含有層の塗布パターンがドット状になるように行われることが好ましい。熱可塑性ポリマー含有層のドット状のパターンについて上述のとおりに調整するという観点から、上記で説明された熱可塑性ポリマー、貧溶媒などを用いて、熱可塑性ポリマー含有塗布液(単に塗料ともいう)を最適化することが好ましい。
熱可塑性ポリマー含有塗布液については、電極との接着力とイオンの透過性を両立する観点から、片面当たりの塗布量が0.03g/m以上0.50g/m以下であることが好ましく、0.04g/m以上0.30g/m以下であることがより好ましく、最も好ましくは、0.06g/m以上0.20g/m以下である。
熱可塑性ポリマー含有塗布液については、電池抵抗の増大およびレート特性の悪化を抑制する観点と、セパレータと電極界面の距離が不均一化することにより電流分布が不均一化することに起因する、(加熱)安全性試験でのセル温度上昇を抑制するという観点から、塗工層厚みが0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.2μm以上5.0μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上4.0μm以下であることがさらに好ましく、0.4μm以上3.0μm以下であることが特に好ましい。
さらに、塗布に先立ち、セパレータ基材としての多孔性基材に表面処理をすると、塗布液を塗布し易くなると共に、上記で説明された摩擦制御が達成され易く、かつ多孔性基材または無機フィラー含有層と熱可塑性(接着性)ポリマーとの接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法は、多孔性基材の多孔質構造を著しく損なわない方法であれば特に限定はなく、例えば、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
コロナ放電処理法の場合には、熱可塑性ポリマー含有層又はセパレータの電解液との接触角を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、基材表面のコロナ処理強度は、1W/(m/min)以上40W/(m/min)以下の範囲内にあることが好ましく、3W/(m/min)以上32W/(m/min)以下の範囲にあることがより好ましく、5W/(m/min)以上25W/(m/min)以下の範囲にあることが更に好ましい。上記範囲内のコロナ処理強度によって、基材表面に親水基を導入するとこで電解液との親和性が向上し、濡れ性が向上する傾向にある。さらに、熱可塑性ポリマー含有層のドット状のパターンが塗布により形成された後に、コロナ放電処理を行うことも好ましい。
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、多孔性基材に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はない。例えば、多孔性基材を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、接着性ポリマーに対する貧溶媒に浸漬して接着性ポリマーを凝固させると同時に溶媒を抽出する方法等が挙げられる。
〈乾燥工程〉
本実施形態の製造方法は、多孔性基材の一方の面に無機フィラー含有層を配置し、さらに多孔性基材のもう一方の表面及び無機フィラー含有層の表面に熱可塑性ポリマー含有層を配置した後に、無機フィラー含有スラリー及び/又は熱可塑性ポリマー含有スラリーの乾燥工程を行なうことが好ましい。
塗布膜の乾燥では、上記で説明された摩擦制御を達成し易くするという観点から、乾燥速度は、0.03g/(m・s)以上4.0g/(m・s)以下の範囲内にあることが好ましく、0.05g/(m・s)以上3.5g/(m・s)以下の範囲内にあることがより好ましく、0.08g/(m・s)以上3.0g/(m・s)以下の範囲内にあることが更に好ましく、そして熱可塑性ポリマー含有層の粒子形状を損なわない程度に、加温または加熱などにより昇温することも好ましい。
<積層体・捲回体>
本実施形態に係る積層体は、セパレータと電極とが積層したものである。本実施形態に係る捲回体は、積層体を捲回したものである。本実施形態のセパレータは、電極と接着することにより積層体または捲回体として用いることができる。積層体は、捲回時のハンドリング性及び蓄電デバイスのレート特性が優れ、さらには、熱可塑性ポリマー含有層とポリオレフィン微多孔膜との接着性及びイオン透過性にも優れる。そのため、積層体の用途としては、特に限定されないが、例えば、非水電解液二次電池等の電池やコンデンサー、キャパシタ等の蓄電デバイス等に好適に使用できる。
本実施形態の積層体に用いられる電極としては、後述の蓄電デバイスの項目に記載のものを用いることができる。本実施形態のセパレータを用いて積層体を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、本実施形態のセパレータと電極とを重ね、必要に応じて加熱および/またはプレスして製造することができる。加熱および/またはプレスは電極とセパレータとを重ねる際に行うことができる。
また、電極とセパレータとを重ねた後に円または扁平な渦巻状に捲回して捲回体を得ることができる。捲回工程では、円状または扁平上のピンを使用してよく、ピンは単数でも複数でもよく、そして一対のピンを使用してもよい。ピンは、本発明の作用機序の観点およびピン抜け性の向上の観点からは、SUS430,304,201,600などのステンレス鋼(SUS)製であることが好ましい。捲回工程は、例えば、図1に示すように、セパレータと、正極と、負極とをピンに捲き付けることにより行われることができる。所望により、得られる捲回体に対して、加熱および/またはプレスを行ってよい。
また、積層体は、正極-セパレータ-負極-セパレータ、又は負極-セパレータ-正極-セパレータの順に平板状に積層し、必要に応じて加熱および/またはプレスして製造することもできる。積層において、本発明の効果を効率よく発揮するという観点から、セパレータの基材を基準として、セパレータのうち上記で説明された無機フィラー含有層を有する側と、正極とが対向するように配置されることが好ましい。
より具体的には、本実施形態のセパレータを幅10mm~500mm(好ましくは50mm~500mm)、長さ200m~4000m(好ましくは1000m~4000m)の縦長形状のセパレータとして調製し、当該セパレータを、正極-セパレータ-負極-セパレータ、又は負極-セパレータ-正極-セパレータの順で重ね、必要に応じて加熱および/またはプレスして製造することができる。
加熱温度としては、40℃~120℃が好ましい。加熱時間は5秒~30分が好ましい。プレス時の圧力としては、1MPa~30MPaが好ましい。プレス時間は5秒~30分が好ましい。また、加熱とプレスの順序は、加熱をしてからプレスをしても、プレスをしてから加熱をしても、プレスと加熱を同時に行ってもよい。このなかでも、プレスと加熱を同時に行うことが好ましい。
<蓄電デバイス>
本実施形態に係るセパレータは、電池、コンデンサー、キャパシタ等におけるセパレータや物質の分離に用いることができる。特に、蓄電デバイス用セパレータとして用いた場合に、電極への密着性と優れた電池性能を付与することが可能である。以下、蓄電デバイスが非水電解液二次電池である場合についての好適な態様について説明する。
本実施形態に係る蓄電デバイスは、正極と、負極と、本実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータと、非水電解液とを含む。本実施形態のセパレータを用いて非水電解液二次電池を製造する場合、正極、負極、非水電解液に限定はなく、公知のものを用いることができる。蓄電デバイスの正極としては、例えば、所定の正極fを使用してよく、または本発明の作用効果を奏する限り、正極f以外の公知の正極を使用してよい。
正極材料は、特に限定されないが、例えば、LiCoO、LiNiO、スピネル型LiMnO、オリビン型LiFePO、(L)NMC等のリチウム含有複合酸化物、またはリン酸鉄系リチウム化合物(LFP、LFMP)等が挙げられる。
負極材料は、特に限定されないが、例えば、黒鉛質、難黒鉛化炭素質、易黒鉛化炭素質、複合炭素体等の炭素材料;シリコン、スズ、金属リチウム、各種合金材料等が挙げられる。
非水電解液は、特に限定されないが、電解質を有機溶媒に溶解した電解液を用いることができ、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が、電解質としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF等のリチウム塩が挙げられる。
本実施形態のセパレータを用いて蓄電デバイスを製造する方法は、特に限定されないが、蓄電デバイスが二次電池の場合、例えば、本実施形態のセパレータを幅10mm~500mm(好ましくは80mm~500mm)、長さ200m~4000m(好ましくは1000m~4000m)の縦長形状のセパレータとして調製し、当該セパレータを、正極-セパレータ-負極-セパレータ、又は負極-セパレータ-正極-セパレータの順で重ね、円または扁平な渦巻状に捲回して捲回体を得て、当該捲回体を電池缶などの電池外装体内に収納し、更に電解液を注入することで製造することができる。この際、所望により、捲回体に対して加熱および/またはプレスを行ってよい。捲回体として上述の積層体を円または扁平な渦巻状に捲回したものを用いて製造することもできる。
蓄電デバイスは、正極-セパレータ-負極-セパレータ、又は負極-セパレータ-正極-セパレータの順に平板状に積層したもの、または上述の積層体を袋状のフィルムでラミネートし、電解液を注入する工程と、場合によって加熱および/またはプレスを行う工程を経て製造することもできる。上記の加熱および/またはプレスを行う工程は、電解液を注入する工程の前および/または後に行うことができる。
正極、負極、本実施形態に係るセパレータ、および非水電解液を含む蓄電デバイスでは、セパレータは、本発明の効果を効率よく発揮するという観点から、多孔性基材を基準として、上記で説明された無機フィラー含有層を有する側が正極と対向するように配置されることが好ましい。
本実施形態の蓄電デバイスは、後述の実施例に記載のレート特性試験、サイクル特性試験、捲回体からのピン抜け性評価試験等で使用した電池を作製する方法と同様の方法により、製造することができる。
なお、上述した各種パラメータの測定値については、特に断りの無い限り、後述する実施例における測定法に準じて測定される値である。
以下、本発明を実施例、比較例に基づいて詳細に説明をするが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下の製造例、実施例、比較例において使用された各種物性の測定方法や評価方法は、以下のとおりである。なお、特に記載のない限り各種測定および評価は室温23℃、1気圧、相対湿度50%の条件で行った。
[測定方法]
<粘度平均分子量(以下、「Mv」ともいう)>
ASRM-D4020に基づき、デカリン溶剤における135℃での極限粘度[η]を求め、ポリエチレンのMvは次式により算出した。
[η]=0.00068×Mv0.67
また、ポリプロピレンのMvは次式より算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
<熱可塑性ポリマー粒子及び無機フィラー粒子の体積平均粒径D50
無機フィラー粒子又は熱可塑性ポリマー粒子の粒径分布及びメジアン径については、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて、無機フィラー粒子分散液又は熱可塑性ポリマー粒子を含むスラリー塗工液の粒径分布を測定した。必要に応じて、ベースラインとして水又はバインダ高分子の粒径分布を用いて、無機フィラー粒子分散液又はスラリー塗工液の粒径分布を調整した。累積頻度が50%となる粒径をD50とし、無機フィラー粒子のD50をD、熱可塑性ポリマー粒子のD50をDとした。
<ポリオレフィン微多孔膜の目付と熱可塑性ポリマー含有層の片面当たり目付>
10cm×10cm角の試料をポリオレフィン多孔性基材又は、ポリオレフィン多孔性基材+無機フィラー含有層から切り取り、(株)島津製作所製の電子天秤AEL-200を用いて重量を測定した。得られた重量を100倍することで1m当りの膜の目付(g/m)を算出した。
10cm×10cm角の試料を、ポリオレフィン多孔性基材又は、ポリオレフィン多孔性基材+無機フィラー含有層に熱可塑性ポリマー含有層が形成されたセパレータから切り取り、電子天秤AEL-200を用いて重量を測定した。得られた重量を100倍することで1m当りのセパレータの目付(g/m)を算出した。
ポリオレフィン多孔性基材又は、ポリオレフィン多孔性基材+無機フィラー含有層とセパレータの目付の差から、熱可塑性ポリマー含有層の片面当たり目付を算出した。
あるいは、熱可塑性ポリマー含有層の片面当たり目付は、10cm×10cm角の試料表面から熱可塑性ポリマー含有層を剥がし取り、熱重量示差熱分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス社製、NEXTA STA 200RV)による重量減少率から算出してもよい。
<ポリオレフィン微多孔膜の気孔率(%)>
10cm×10cm角の試料をポリオレフィン微多孔膜から切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、膜密度を0.95(g/cm)として次式を用いて計算した。
気孔率=(体積-質量/膜密度)/体積×100
<ポリオレフィン微多孔膜及びセパレータの透気度(sec/100cm)>
JIS P-8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計G-B2(商標)により測定したポリオレフィン微多孔膜及びセパレータの透気抵抗度を透気度とした。
<セパレータの厚み>
東洋精機株式会社製の微小測厚器「KBM(商標)」を用いて、室温(23±2℃)でセパレータの厚みを測定した。
<熱収縮率>
サンプルとしてセパレータをMDに100mm、TDに100mmに切り取り、150℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が直接サンプルに当たらないように、サンプルを2枚の紙に挟んだ。サンプルをオーブンから取り出して冷却した後、長さ(mm)を測定し、下式にて熱収縮率を算出した。測定はMD、TDで行い、TDの方を熱収縮率として表示した。
熱収縮率(%)={(100-加熱後のサンプルの長さ)/100}×100
<熱可塑性ポリマーの膨潤度の測定>
熱可塑性ポリマー粒子を融点以下の温度で12時間真空乾燥し、溶媒を完全に除去することで熱可塑性ポリマー粒子の乾燥物を得た。得られた乾燥物のうち約0.5gの質量を秤量し、浸漬前質量(WA)とした。この乾燥物を、25℃の1mol/LのLiPFと1wt%のビニレンカーボネートを含むエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=1:2(体積比)の電解液15gと共に50mLのバイアル瓶に入れ、72時間浸漬した後、サンプルを取り出し、タオルぺーパーで拭き取った直後に質量を測定し、浸漬後質量(WB)とした。
熱可塑性ポリマー含有層の電解液膨潤度は、以下の式より算出した。
膨潤度(倍)=WB/WA
なお、上記の式において、熱可塑性ポリマー含有層の材料が上記電解液に膨潤も溶解もしない場合、膨潤度は1倍となる。
<熱可塑性ポリマーのガラス転移温度(℃)>
熱可塑性ポリマーの塗工液(不揮発分=30%)を、アルミ皿に適量取り、130℃の熱風乾燥機で30分間乾燥した。乾燥後の乾燥皮膜約5mgを測定用アルミ容器に詰め、DSC測定装置(TA Instruments社製、DSC Q2000)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線及びDDSC曲線を得た。測定条件は下記のとおりとした。
(1段目昇温プログラム)
40℃スタート、毎分50℃の割合で昇温。200℃に到達後5分間維持。
(2段目降温プログラム)
200℃から毎分20℃の割合で降温。-50℃に到達後5分間維持。
(3段目昇温プログラム)
-50℃から毎分20℃の割合で200℃まで昇温。この3段目の昇温時にDSC及びDDSCのデータを取得。
JIS―K7121に記載の方法に従って、ベースライン(得られたDSC曲線におけるベースラインを高温側に延長した直線)と、変曲点(上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点)における接線との交点をガラス転移温度(Tg)とした。
<ドット直径>
塗工パターンのドット直径は、マイクロスコープ(型式:VHX-7000、キーエンス社製)を用いて測定した。サンプルであるセパレータを100倍(同軸落射)で撮影し、複数(5点)のドットについて計測モードで各直径を測定し、それらの平均値をドット直径として算出した。
<基材又は無機フィラー含有層表面への熱可塑性ポリマー含有層の被覆面積割合(%)>
基材又は無機フィラー含有層表面に対する熱可塑性ポリマー含有層の塗工パターンの被覆面積割合は、マイクロスコープ(型式:VHX-7000、キーエンス社製)を用いて測定した。サンプルであるセパレータを30倍(同軸落射)で撮影した後、計測モードの自動面積計測を選択して、熱可塑性ポリマーの被覆面積割合を測定した。各サンプルにおける被覆面積割合は、上記測定を3回行い、その相加平均値とした。
<微多孔膜および塗工層の厚み測定>
サンプルであるセパレータをBIB(ブロードイオンビーム)により断面加工を行った。断面加工は、加工条件として、日立ハイテク社製IM4000を用いて、ビーム種アルゴン、加速電圧3kV、ビーム電流25~35μAで行った。加工の際、熱ダメージを抑制するために、必要に応じて、サンプルを加工の直前まで冷却させた。具体的には、-40℃の冷却装置にサンプルを一昼夜放置した。これにより、平滑なセパレータの断面が得られた。
熱可塑性ポリマー含有層の高さは、走査型電子顕微鏡(SEM)(型式:S-4800、HITACHI社製)を用いて測定した。オスミウム蒸着し、加速電圧1.0kV、5000倍の条件にて観察し、5点の観察箇所についてポリオレフィン微多孔膜と無機フィラー含有層の厚みを測定し、それぞれについて相加平均値を算出した。
熱可塑性ポリマー含有層の厚みは、東洋精機株式会社製の微小測厚器「KBM(商標)」を用いて、室温(23±2℃)で測定して得られたセパレータの厚みから、上述の方法で算出したポリオレフィン微多孔膜と無機フィラー含有層の厚みを差し引いて算出した。
<動的粘弾性>
ドラフト内で十分に乾燥させた表3-1又は表3-2に示される各熱可塑性ポリマーを、7cm角に切り出したルミラーフィルムの上に薬さじで山盛り1杯程度載せ、150℃、1MPaおよび2min.でプレスして、フィルム状サンプルを作製した。
作製したフィルムを5mm×30mmの短冊状に切り出し、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社のDMAQ850の引張モードを使って、周波数を1Hzに固定して25℃から200℃まで昇温した。
動的粘弾性について30℃でのtanδやtanδ極大値を観察した。
<引張破断強度(kgf/cm)>
JIS K7127に準拠し、島津製作所製の引張試験機、オートグラフAG-A型(商標)を用いて、MD及びTDサンプル(形状;幅10mm×長さ100mm)について測定した。引張試験機のチャック間を50mmとし、サンプルの両端部(各25mm)の片面にセロハン(登録商標)テープ(日東電工包装システム(株)製、商品名:N.29)を貼ったものを用いた。更に、試験中のサンプル滑りを防止するために、引張試験機のチャック内側に、厚み1mmのフッ素ゴムを貼り付けた。
なお、測定は、温度23±2℃、チャック圧0.40MPa、及び引張速度100mm/minの条件下で行った。
引張破断強度(MPa)は、ポリオレフィン微多孔膜またはセパレータの破断時の強度を、試験前のサンプル断面積で除することにより求めた。
引張破断強度をMDとTDのそれぞれについて求めて、MDおよびTD引張破断強度だけでなく、MD/TD引張破断強度比も算出して表示した。
<動摩擦測定>
(摩擦試験)
セパレータ試料の被覆層が形成された面について、動摩擦係数は、東洋精機製作所社製、MH―3摩擦試験機を用い、スレッド質量200g、荷重レンジ2N、接触子面積63mm×63mm(フェルト素材)、接触子送りスピード100mm/分、測定距離30mm、温度23℃、及び湿度50%の条件下にて、MDに3回測定し、それらの平均値を求めることにより算出した。
相手材となるテーブルは、測定する動摩擦係数によって調整した。
SUSとの動摩擦係数μ’αを測定する際は、SUS304 6F加工品(前工程:板フライス加工 特#200バフ+窒化+仕上げ、バフ仕上げ:加工方向性の統一(幅方向加工)、番手特#200(公差#200~#230程度)で研磨)のテーブルを使用した。
リチウム金属酸化物(LiCoO)含有面との動摩擦係数μ’βを測定する際は、上記のテーブルに後述の正極fを貼りつけたテーブルを使用した。
以上のとおりに測定したμ’αとμ’βを用いて、μ’α/μ’βを算出して表に示す。
・動摩擦係数μ’β測定用の正極f
正極活物質としてLiCoO(enertech社製)を90.4質量%、導電助材としてカーボンブラック(Super-P Li)を5.4質量%、及びバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)(密度1.75g/cm)を4.2質量%の比率で混合し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔の両面にL/Wが36mg/cmとなるようにダイコーターを用いて塗布し、130℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧縮成形することにより、リチウム金属酸化物(LiCoO)含有面を有する正極fを作製した。前記正極fのエネルギー密度は5.47mAh/cmであった。正極の表面粗さSqは0.6、水との接触角は122°であった。
正極の表面粗さSqは、共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス製OLS5000 SA F)で電極表面を観察することで算出される、表面粗さのパラメータSq(二乗平均平方根高さ)の値を採用した。
正極の水との接触角は、協和界面科学社製接触角計(CA-V)(型式名)を用いて、正極表面に水を2μL滴下し、40000ミリ秒経過後の接触角の値を採用した。
<セパレータの接着性、およびピン抜け性試験用の電極作製>
セパレータの接着性試験用の正極及び負極
・正極(enertech社製、正極材料:LiCoO、導電助剤:カーボンブラック(Super-P Li)、結着剤:PVDF、L/W:両側について36mg/cm、Al集電体の厚み:15μm、5.47mAh/cm
・負極(enertech社製、負極材料:グラファイト、導電助剤:カーボンブラック(Super-P Li)、結着剤:PVDF、L/W:両側について20mg/cm、Cu集電体の厚み:10μm、5.75mAh/cm
<セパレータの接着性試験用の電解液の調製>
1wt%のビニレンカーボネートを含むエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1mol/Lとなるように溶解させることにより、電解液を調製した。
<レート特性及びサイクル特性試験用の正極及び負極の作製>
正極活物質としてニッケル、マンガン、コバルト複合酸化物(NMC)(Ni:Mn:Co=1:1:1(元素比)、密度4.70g/cm)を90.4質量%、導電助材としてグラファイト粉末(KS6)(密度2.26g/cm、数平均粒子径6.5μm)を1.6質量%、及びアセチレンブラック粉末(AB)(密度1.95g/cm、数平均粒子径48nm)を3.8質量%、並びにバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)(密度1.75g/cm)を4.2質量%の比率で混合し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターを用いて塗布し、130℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧縮成形することにより、正極を作製した。このときの正極活物質塗布量は109g/mであった。
負極活物質としてグラファイト粉末A(密度2.23g/cm、数平均粒子径12.7μm)を87.6質量%、及びグラファイト粉末B(密度2.27g/cm、数平均粒子径6.5μm)を9.7質量%、並びにバインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%(固形分換算)(固形分濃度1.83質量%水溶液)、及びジエンゴム系ラテックス1.7質量%(固形分換算)(固形分濃度40質量%水溶液)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、負極を作製した。このときの負極活物質塗布量は5.2g/mであった。
<レート特性及びサイクル特性試験用の非水電解液の調製>
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより、非水電解液を調製した。
(電池組立)
セパレータ又は基材を24mmφの円形に、レート特性及びサイクル特性測定用の正極、及び負極をそれぞれ16mmφの円形に切り出した。正極と負極の活物質面とが対向するように、負極、セパレータ又は基材、正極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収容した。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミニウム箔と、それぞれ接していた。この容器内にレート特性及びサイクル特性測定用の非水電解液を0.4mL注入して密閉することにより、電池(蓄電デバイス)を組み立てた。
<電池捲回後ピン抜け性>
皆藤製作所株式会社製手動捲回機を使用し、当該装置の全体構成を示す図2(A)のように、長さ3m、巾60mmの捲取サンプル(12)として、図1に図示するようにセパレータを2枚、セパレータの接着性試験用の正負極を1枚ずつの計4枚重ねで荷重400gにてピン(9)に捲回した後、図2(B)に示す捲取部構成において、ピンI(10)を抜き、巻取りサンプル(12)を手で引っ張りピンII(11)からはずし、抜き終わったサンプルの捲回姿からピン抜け特性を下記基準で評価した。
A(良好):ピンに引っ張られ、ピン接触部分がピンを抜く前に対して2mm以上ずれるものの割合 1個/100個以下
B(可):ピンに引っ張られ、ピン接触部分がピンを抜く前に対して2mm以上ずれるものの割合 2~4個/100個
C(不良):ピンに引っ張られ、ピン接触部分がピンを抜く前に対して2mm以上ずれるものの割合 5~9個/100個
D(著しく不良):ピンに引っ張られ、ピン接触部分がピンを抜く前に対して2mm以上ずれるものの割合 10個/100個以上
<電極へのWet接着性>
各実施例及び比較例で得られた蓄電デバイス用セパレータを幅20mm及び長さ70mmの長方形状に切り取り、被着体としての接着性試験用の正極または負極をそれぞれ幅15mm及び長さ60mmの長方形状に切り取った。
セパレータの熱可塑性ポリマー含有層と、正極又は負極それぞれの正極活物質または負極活物質とが相対するように重ね合わせて積層体を得た。
幅60mm及び長さ120mmの長方形状のアルミニウム製のパウチに入れて25℃の電解液を0.4mL加えて、25℃で12hr静置した後、積層体が入ったアルミニウム製のパウチを、以下の条件でプレスした。
プレス圧:1MPa
温度:90℃
プレス時間:1分
プレス後の積層体について、(株)イマダ製のフォースゲージZP5N及びMX2-500N(製品名)を用いて、電極を固定し、セパレータを把持して引っ張る方式によって剥離速度50mm/分にて90°剥離試験を行い、剥離強度を測定した。
多孔性基材表面側の熱可塑性ポリマー含有層と負極の剥離強度をW1、無機フィラー含有層表面側の熱可塑性ポリマー含有層と正極の剥離強度をW2とし、W1とW2のうち大きい方の値をそのサンプルのWet接着力とした。熱可塑性ポリマー含有層を基材片面のみに有する構成においては、熱可塑性ポリマー含有層がある側のWet接着力のみを測定した。
Wet接着性の評価はWet接着力の値に従って下記の基準で実施した。
A(良好):Wet接着力が3N/m以上
B(可):Wet接着力が1N/m以上3N/m未満
C(不良):Wet接着力が1N/m未満
<レート特性>
組み立てた簡易電池を、25℃において、電流値3mA(約0.5C)で電池電圧4.2Vまで充電した後、4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法により、電池作製後の最初の充電を合計約6時間行った。その後、電流値3mAで電池電圧3.0Vまで放電した。次に、25℃において、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電した後、4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法により、合計約3時間充電を行った。その後、電流値6mAで電池電圧3.0Vまで放電した時の放電容量を1C放電容量(mAh)とした。次に、25℃において、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電した後、4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法により、合計約3時間充電を行った。その後、電流値12mA(約2.0C)で電池電圧3.0Vまで放電した時の放電容量を2C放電容量(mAh)とした。そして、1C放電容量に対する2C放電容量の割合を算出し、この値をレート特性とした。
レート特性(%)=(2C放電容量/1C放電容量)×100
レート特性(%)の評価基準
A(良好):レート特性が、85%超
B(可):レート特性が、80%超85%以下
C(不良):レート特性が、80%以下
<サイクル特性>
上記<レート特性>の試験を行った電池を、温度25℃の条件下で、放電電流1Cで放電終止電圧3Vまで放電を行った後、充電電流1Cで充電終止電圧4.2Vまで充電を行った。これを1サイクルとして充放電を繰り返した。そして、初期容量(第1回目のサイクルにおける容量)に対する300サイクル後の容量保持率を用いて、以下の基準でサイクル特性を評価した。
A(良好):65%以上の容量維持率
B(可):60%以上65%未満の容量維持率
C(不良):60%未満の容量維持率
<実施例1>
(ポリオレフィン微多孔膜B1の製造)
Mvが70万であり、ホモポリマーの高密度ポリエチレン45質量部と、Mvが30万であり、ホモポリマーの高密度ポリエチレン45質量部と、Mvが40万であるホモポリマーのポリプロピレン5質量部とを、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。得られたポリオレフィン混合物99質量部に酸化防止剤としてテトラキス-[メチレン-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、窒素雰囲気下で二軸押出機へフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。押し出される全混合物中に占める流動パラフィンの割合が68質量部となるように、すなわち、ポリマー濃度が32質量部となるように、フィーダー及びポンプの運転条件を調整した。
次いで、それらを二軸押出機内で160℃に加熱しながら溶融混練し、得られた溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度80℃に制御された冷却ロール上に押し出し、その押出物を冷却ロールに接触させ成形(cast)して冷却固化することにより、シート状成形物を得た。このシートを同時二軸延伸機にて表1に記載のB1の物性を満たす倍率、温度の条件で延伸した後、塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去後乾燥し、テンター延伸機にて表1に記載のB1の物性を満たす温度、倍率の条件で延伸した。その後、この延伸シートを幅方向に約10%緩和して熱処理を行い、ポリオレフィン微多孔膜B1を得た。
得られたポリオレフィン微多孔膜B1について、必要に応じて上記方法により物性(膜の片面当たりの目付、気孔率、透気度、厚さなど)を測定した。
(ポリオレフィン微多孔膜B2~B6の製造)
表1に示す物性(膜の目付、気孔率、透気度、厚さなど)を満たすように適宜製造条件を変更したこと以外はB1と同様にして、ポリオレフィン微多孔膜B2~B6を得た。得られたポリオレフィン微多孔膜B2~B6について、上記方法により、評価した。得られた結果も表1に示す。
〔無機フィラー含有スラリーの調製〕
(無機フィラー含有スラリーC1の調製)
表2に示されるとおり、無機粒子として水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト、ブロック状、平均体積粒径D=0.4μm)94.6質量部に対して、水100質量部とポリカルボン酸アンモニウム水溶液(固形分換算で)0.5質量部を混合し、ビーズミル処理を行った。ビーズミル処理は、条件として、ビーズ径0.1mm、ミル内の回転数2000rpmで行った。処理後の混合液に、増粘剤としてキサンタムガムを固形分換算で0.2質量部、アクリルラテックス(固形分濃度40%)を固形分換算で4.7質量部を添加し、無機塗料(以下、無機フィラー含有スラリーともいう)C1を調製した。
(無機フィラー含有スラリーC2~C5の調製)
表2に示されるとおり、無機塗料の作製条件を変更して、無機フィラー含有スラリーC2~C5を得た。
〔熱可塑性ポリマーの水分散体の調製〕
(熱可塑性ポリマーの水分散体P1の調製)
撹拌機、還流冷却器、滴仮想、および温度計を取り付けた反応器に、イオン交換水70.4質量部と、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液、表中「KH1025」と表記。以下同様。)0.5質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製、25%水溶液、表中「SR1025」と表記。以下同様。)0.5質量部と、を投入し、反応容器内部温度を95℃に昇温した。その後、95℃の容器内部温度を保ったまま、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)(表中「APS(aq)」と表記。以下同様。)を7.5質量部添加した。
一方、メタクリル酸メチル34.6質量部、アクリル酸n-ブチル22.5質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル33.4質量部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル1.5質量部、アクリルアミド4質量部、メタクリル酸グリシジル2.8質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート0.7質量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)3質量部、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)3質量部、p-スチレンスルホン酸ナトリウム0.05質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業株式会社製)0.7質量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)7.5質量部、及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて、乳化液を作製した。
得られた乳化液を滴下槽から上記反応容器に滴下した。滴下は反応容器に過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に開始し、150分かけて乳化液の全量を滴下した。乳化液の滴下中は、容器内部温度を95℃に維持した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部温度を95℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却し、エマルジョンを得た。得られたエマルジョンを、水酸化アンモニウム水溶液(25%水溶液)を用いてpH=9.0に調整し、濃度40質量%のアクリル系コポリマーラテックス(熱可塑性ポリマーの水分散体P1)を得た。
(熱可塑性ポリマーの水分散体P2~P6の調製)
単量体、及びその他の原料の組成を、それぞれ、表3-1に記載の通りに変更する以外は、熱可塑性ポリマーP1と同様にして、コポリマーラテックス(熱可塑性ポリマーの水分散体)P2~P6を得て、それぞれ物性を評価した。得られた結果も表3-1に示す。
表3-1、及び後述する表3-2での原材料名の略称は、それぞれ、以下の意味である。
<乳化剤>
KH1025:「アクアロンKH1025」登録商標、第一工業製薬株式会社製、25%水溶液
SR1025:「アデカリアソープSR1025」登録商標、株式会社ADEKA製、25%水溶液
NaSS:p-スチレンスルホン酸ナトリウム
<開始剤>
APS(aq):過硫酸アンモニウム(2%水溶液)
<単量体>
((メタ)アクリル酸モノマー)
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
((メタ)アクリル酸エステル)
MMA:メタクリル酸メチル
BA:アクリル酸n-ブチル EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
(シアノ基含有単量体)
AN:アクリロニトリル
(その他の官能基含有単量体)
HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
AM:アクリルアミド
(架橋性単量体)
GMA:メタクリル酸グリシジル
A-TMPT:トリメチロールプロパントリアクリレート
AcSi:γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
(熱可塑性ポリマーの水分散体P2-1の調製)
熱可塑性ポリマーの水分散体P2の一部を採り、これをシードポリマーとする多段重合を行うことで、水分散体P2-1を合成した。具体的には、まず、撹拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取り付けた反応容器に、水分散体P2を固形分換算で20質量部、アクアロンKH1025(登録商標)0.5質量部、アデカリアソープSR1025(登録商標)0.5質量部、及びイオン交換水70.4質量部の混合物を投入し、反応容器内部温度を95℃に昇温した。その後、95℃の容器内部温度を保ったまま、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)を7.5質量部添加した。以上が初期仕込みである。
一方、アクリル酸2-エチルヘキシル10質量部、メタクリル酸シクロヘキシル33質量部、メタクリル酸1質量部、アクリル酸1質量部、アクリロニトリル55質量部「アクアロンKH1025」(登録商標、25%水溶液)2.0質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート1.0質量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5質量部、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)7.5質量部、及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて、乳化液を作製した。得られた乳化液を滴下槽から上記反応容器に滴下した。滴下は反応容器に過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に開始し、150分かけて乳化液の全量を滴下した。乳化液の滴下中は、容器内部温度を95℃に維持した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部温度を95℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却し、エマルジョンを得た。得られたエマルジョンを、水酸化アンモニウム水溶液(25%水溶液)を用いてpH=9.0に調整し、濃度40質量%のアクリル系コポリマーラテックス(熱可塑性ポリマーの水分散体P2-1)を得て、物性を上記方法により評価した。
(熱可塑性ポリマーの水分散体P2-2~P6-2の調製)
シードポリマー、単量体、及びその他の原料の組成を、それぞれ、表3-2に記載の通りに変更する以外は、原料ポリマー(水分散体)P2-1と同様にして、多段重合によって各コポリマーラテックス(熱可塑性ポリマーの水分散体)P2-2~P6-2を得て、それぞれ物性を上記方法により評価した。
(熱可塑性ポリマーの水分散体PVDF)
表4に記載のPVDFは、市場から入手可能なポリフッ化ビニリデン(PVDF―HFP共重合体、ガラス転移温度:-35℃、膨潤度:2倍、平均粒径D50:200nm)を使用した。
〔熱可塑性ポリマー含有塗料の調製〕
(熱可塑性ポリマー含有塗料A1の調製)
表4に示すとおり、アクリル樹脂を主成分として含むポリマー第1成分P1(Tg:-6℃、電解液への膨潤度:2倍、平均体積粒径D:132nm)10質量部と、アクリル樹脂を主成分として含むポリマー第2成分P2-2(Tg:95℃、電解液への膨潤度:8倍、平均体積粒径D:500nm)90質量部とを配合して、熱可塑性ポリマー含有塗料A1を調製した。熱可塑性ポリマー含有塗料A1の動的粘弾性測定を上記のとおりに行って、測定結果も表4に示した。
(熱可塑性ポリマー含有塗料A2~A6の調製)
表4に示すように、ポリマー第2成分、またはポリマー第1成分と第2成分との配合量を変更したこと以外は、熱可塑性ポリマー含有塗料A1と同様にして熱可塑性ポリマー含有塗料A2~A6を得て、物性を評価した。得られた結果も表4に示す。
〔無機フィラー含有層の形成〕
表5に示すように、ポリオレフィン微多孔膜の多孔性基材B1の片面に、無機フィラー含有スラリーC1を塗工層厚みが1.5μmになるように塗工して、無機フィラー含有層を形成した。
〔ポリオレフィン微多孔膜への熱可塑性ポリマー含有層の塗工〕
ポリオレフィン微多孔膜の多孔性基材B1の表面側と、無機フィラー含有層の表面側とに、それぞれ熱可塑性ポリマー含有塗料A1を、表5に示す塗工形状、被覆面積またはドット径になるように、グラビア又はインクジェット印刷で塗工して、多孔性基材B1の表面側に熱可塑性ポリマー含有層(第1層)および無機フィラー含有層の表面側に熱可塑性ポリマー含有層(第2層)を備える蓄電デバイス用セパレータを得た。得られたセパレータについて、上記方法により、評価した。得られた結果も表5に示す。
<実施例2~18、比較例1~8>
表5に示すとおり、多孔性基材、無機フィラー含有スラリー又はその塗工条件、熱可塑性ポリマー含有塗料又はその塗工条件などを変更したこと以外は実施例1と同様にして、多孔性基材の表面側に熱可塑性ポリマー含有層(第1層)および無機フィラー含有層の表面側に熱可塑性ポリマー含有層(第2層)を備えるセパレータを得た。得られたセパレータについて、上記方法により、評価した。得られた結果も表5に示す。
実線 セパレータ
点線 正極
1点鎖線 負極
α(薄灰色) :μ’α測定予定領域
β(濃灰色) :μ’β測定予定領域
1 扁平型ピン
9 ピン
10 ピンI
11 ピンII
12 捲取サンプル

Claims (14)

  1. 多孔性基材と、
    前記多孔性基材の一方の面のみに配置された無機フィラー含有層と、
    前記無機フィラー含有層の表面に配置された熱可塑性ポリマー含有層と
    を有し、前記多孔性基材側の表面とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’α、および前記無機フィラー含有層側の表面と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’βが、下記式:
    μ’α/μ’β<1.00
    の関係を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。
  2. 多孔性基材と、
    前記多孔性基材の一方の面のみに配置された無機フィラー含有層と、
    前記多孔性基材の表面および前記無機フィラー含有層の表面に配置された熱可塑性ポリマー含有層と
    を有し、前記多孔性基材側の表面とステンレス鋼(SUS304)との動摩擦係数μ’α、および前記無機フィラー含有層側の表面と所定の正極fのリチウム金属酸化物含有面との動摩擦係数μ’βが、下記式:
    μ’α/μ’β<1.00
    の関係を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。
  3. 前記μ’βが、下記式:
    μ’β>0.50
    の関係を満たす、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  4. 前記熱可塑性ポリマー含有層に含まれる熱可塑性ポリマーを1Hzで動的粘弾性測定した際の30℃における損失正接(tanδ値)が、0.01以上0.05以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  5. 前記熱可塑性ポリマー含有層に含まれる熱可塑性ポリマーを1Hzで動的粘弾性測定した際の損失正接(tanδ値)の極大値が、70℃以上にある、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  6. 前記多孔性基材に対する前記熱可塑性ポリマー含有層の総被覆面積割合が10%以上70%以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  7. 前記熱可塑性ポリマー含有層が、前記多孔性基材の表面及び前記無機フィラー含有層の表面に、ドット状のパターンで配置されている、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  8. 前記熱可塑性ポリマー層を構成する粒子の平均体積粒径D50が、100nm以上800nm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  9. 前記熱可塑性ポリマー含有層を構成する熱可塑性ポリマーが、少なくとも二つのガラス転移温度を有し、
    前記ガラス転移温度のうち少なくとも一つは20℃未満の領域に存在し、かつ、
    前記ガラス転移温度のうち少なくとも一つは30℃以上の領域に存在する、
    請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  10. 前記熱可塑性ポリマー含有層が、(メタ)アクリル酸エステル単量体の単量体単位を含む共重合体を含む、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  11. 前記無機フィラー含有層を構成する無機フィラーの平均体積粒径D50が、0.5μm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  12. 前記蓄電デバイス用セパレータのMDの引張破断強度とTDの引張破断強度の比(MD/TD引張破断強度比)が、0.5以上1.5以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  13. 前記蓄電デバイス用セパレータの厚みが、16μm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  14. 正極、負極、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ、および非水電解液を含む蓄電デバイス。
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