JP2016183399A - 浸炭機械構造部品 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.01〜0.25%、Mn:0.4〜0.9%、S:0.003〜0.050%、Cr:1.65〜2.00%、Al:0.01〜0.06%、Nb:0.01〜0.06%、及びN:0.010〜0.025%を含有するとともに、残部:Fe及び不可避的不純物を含む。下記の(1)式で表されるFn1が、−35≦Fn1≦−30を満たす。
Fn1=38×Si−7×Mn+7×Ni−17×Cr−10×Mo ・・・(1)
但し、(1)式中の元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。
【選択図】図1
Description
下記の(1)式で表されるFn1が、−35≦Fn1≦−30を満たし、
不純物としてのP及びOの含有量が、それぞれ、P:0.020%以下、及びO:0.002%以下であり、
表層部のC含有量(Cs)が、0.65〜1.0%であり、
表面から20μmの深さの組織が、マルテンサイト及び残留オーステナイトの合計で97%以上であり、
表面から200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率が13〜28%であり、
表面から20μmの深さ位置での残留オーステナイト体積率と、表面から200μmの範囲で最大残留オーステナイト体積率との、比が0.8以下であり、
表面に厚さ1〜15μmの塑性流動組織を有し、
表面の算術平均粗さRaが0.8μm以下である、
ことを特徴とする浸炭機械構造部品。
Fn1=38×Si−7×Mn+7×Ni−17×Cr−10×Mo ・・・(1)
但し、(1)式中の元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。
浸炭機械構造部品(以下、単に「部品」と称する場合がある)の素材となる鋼材は、次の化学組成を有する。なお、以下に示す各元素の割合(%)は全て質量%を意味する。
C:0.1〜0.3%
炭素(C)は、部品の強度(特に芯部の強度)を高める。C含有量が低すぎれば、この効果が得られず、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、C含有量が高すぎれば、鋼材の強度が高くなり、鋼材の被削性が低下する。従って、C含有量は0.1〜0.3%とする。C含有量の好ましい下限は0.15%である。C含有量の好ましい上限は0.25%である。
シリコン(Si)は、表面硬化処理後の切削加工時に、工具と鋼の凝着を引き起こし、工具摩耗を増大させる。従って、Si含有量は0.25%以下とする。Si含有量の好ましい上限は、0.15%である。なお、量産における製造コストを考慮すると、Si含有量の下限は0.01%とすることが好ましい。
マンガン(Mn)は、鋼の焼入れ性を高めるとともに、鋼中の残留オーステナイトを増加させる。その結果、部品の耐摩耗性及び曲げ疲労強度が高まる。しかし、Mn含有量が0.4%未満では、この効果が得られない。一方、Mn含有量が0.9%を超えると、ガス浸炭中の表層にセメンタイトが生成しやすくなり、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、Mn含有量は0.4〜0.9%に限定する。Mn含有量の好ましい下限は0.5%である。Mn含有量の好ましい上限は0.8%である。
燐(P)は不純物である。Pは、オーステナイト結晶粒界に偏析して鋼を脆化する。従って、P含有量は0.050%以下とする。P含有量の好ましい上限は0.030%であって、さらに低いことがより好ましい。
硫黄(S)は、Mnと結合してMnSを形成し、被削性を高める。S含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、S含有量が高すぎれば、粗大なMnSを形成して、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、S含有量は0.003〜0.050%に限定する。S含有量の好ましい上限は0.015%である。
クロム(Cr)は、炭素との親和性が高いため、ガス浸炭時に表面炭素濃度を増大させる効果があり、また、浸炭層のMs点を低下させる効果がある。その結果、浸炭焼入れ後の表層に残留オーステナイトが生成するため、疲労摩耗による耐摩耗性向上に有効な元素である。しかし、その含有量が1.65%未満では、上記効果が十分でなく、目標とする耐摩耗性が得られない。一方、Crの含有量が2.00%を超えると、ガス浸炭中の表層にセメンタイトが生成しやすくなり、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、Crの含有量を1.65〜2.00%とした。Crの含有量は、1.70%以上とすることが好ましく、1.75%以上とすることが一層好ましい。また、Crの含有量は1.95%以下とすることが好ましく、1.90%以下とすることが一層好ましい。
アルミニウム(Al)は、Nと結合してAlNを形成し、鋼の結晶粒を微細化することで、鋼の強度を高める。Al含有量が低すぎれば、この効果は得られない。一方、Al含有量が高すぎれば、硬質で粗大なAl2O3が生成して、鋼の被削性が低下し、さらに、曲げ疲労強度及び低サイクル疲労強度も低下する。従って、Al含有量は0.010〜0.060%とする。Al含有量の好ましい下限は0.020%である。Al含有量の好ましい上限は0.050%である。
ニオブ(Nb)は、C、Nと結合してNbC、NbN、Nb(C、N)を形成することで、浸炭加熱時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する効果がある。その結果、使用時に亀裂の発生を抑制して、部品の低サイクル曲げ疲労強度が顕著に向上する。この効果を安定して得るためには、0.01%以上のNbを含有させる必要がある。一方、Nbの含有量が0.06%を超えると、オーステナイト粒粗大化抑制の効果がむしろ低下する。従って、Nbの含有量を0.01〜0.06%とした。Nbの含有量は、0.015%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすることが一層好ましい。また、Nbの含有量は0.05%以下とすることが好ましく、0.04%以下とすることが一層好ましい。
窒素(N)は窒化物を形成して鋼の結晶粒を微細化し、部品の耐摩耗性を高める。N含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、N含有量が高すぎれば、粗大な窒化物が生成して鋼の靱性が低下する。従って、N含有量を0.010〜0025%に限定する。N含有量の好ましい上限は0.020%である。
酸素(O)は不純物である。OはAlと結合して硬質な酸化物系介在物を形成する。酸化物系介在物は鋼の被削性を低下させ、曲げ疲労強度及び低サイクル疲労強度も低下させる。従って、O含有量は0.002%以下とする。O含有量はなるべく低い方がよい。
Pb:0.5%以下
鉛(Pb)は選択元素であり、含有されなくてもよい。Pbを含有した場合、工具摩耗の低減、及び切り屑処理性の向上などの被削性が良好となる。しかしながら、Pb含有量が高すぎれば、鋼の強度及び靱性が低下し、耐摩耗性及び曲げ疲労強度も低下するため、Pb含有量の上限は0.5%以下とすることが好ましい。このようなPbの効果を安定して得るためには、Pbの含有量は0.03%以上とすることが好ましい。Pb含有量のさらに好ましい上限は0.4%以下である。
銅(Cu)は、焼入れ性を高める作用があり、低サイクル曲げ疲労強度や耐ピッチング強度を高めるので、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cuの含有量が0.3%を超えると、浸炭性を阻害するために浸炭焼入れ後の残留オーステナイトが増加しにくくなり、耐摩耗性が低下する。従って、含有させる場合のCu含有量は0.3%以下とすることが好ましい。Cuの含有量は0.25%以下とすることがさらに好ましく、0.2%以下とすることが一層好ましい。このようなCuの効果を安定して得るためには、Cuの含有量は、0.05以上とすることが好ましく、0.1%以上とすることが一層好ましい。
モリブデン(Mo)は選択元素であり、含有されなくてもよい。Moは鋼の焼入れ性を高め、残留オーステナイトを増加させる。Moはさらに、焼戻し軟化抵抗を高め、耐摩耗性及び曲げ疲労強度を高める。しかしながら、Mo含有量が高すぎれば、浸炭焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となる。この場合、切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。その結果、部品の耐摩耗性及び曲げ疲労強度が低下する。従って、Mo含有量を0.15%以下に限定することが好ましい。Mo含有量のさらに好ましい上限は0.13%である。また、Moを添加する場合、上記の効果を得るためのMo含有量の好ましい下限は0.05%である。
ニッケル(Ni)は選択元素であり、含有されなくてもよい。Niは鋼の焼入れ性を高め、残留オーステナイトを増加させる。Niはさらに、鋼の靱性を高める。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、浸炭焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となる。この場合、焼戻し後の切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。その結果、部品の耐摩耗性及び曲げ疲労強度が低下する。従って、Ni含有量を0.3%以下とすることが好ましい。Ni含有量のさらに好ましい上限は0.2%である。また、Niを添加する場合、上記の効果を得るためのNi含有量の好ましい下限は0.05%である。
本実施形態に係る浸炭機械構造部品は、下記(2)式で表されるFn1が、−35以上−30以下の範囲内でなければならない。
Fn1=38×Si−7×Mn+7×Ni−17×Cr−10×Mo ・・・(2)
なお、(1)式中の元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。
表層部に含まれるCは、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度を高める。Csが低ければ、切削加工前後での残留オーステナイトの体積減少率が小さくなり、表層の硬さも低くなる。その結果、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、Csが高ければ、表層部に硬質な初析セメンタイトが生成する。Csが過度に高く、表層部の初析セメンタイトが3%を超えた場合、セメンタイトが疲労破壊の起点となり、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下するだけでなく、切削加工時の工具摩耗が増大し、被削性が低下する。従って、表層部のC含有量(Cs)を0.65〜1.0%に限定する。Csの好ましい下限は0.70%である。Csの好ましい上限は0.95%である。
本実施形態に係る浸炭機械構造部品は、その表面から20μmの深さの組織が、マルテンサイト及び残留オーステナイトの合計で97%以上であり、表面から200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率(R1)が13〜28%であり、表面から20μmの深さ位置(以下、単に「基準位置」と称する場合がある)での残留オーステナイト体積率(R2)と、表面から200μmの範囲で最大残留オーステナイト体積率との、比(M)が0.8以下であり、表面に厚さ1〜15μmの塑性流動組織を有し、表面の算術平均粗さRaが0.8μm以下である。
表面から20μmの深さ位置(基準位置)にフェライト、パーライト等の強度の低い相が存在すれば、これらの相を基点に亀裂が発生しやすく、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。また、初析セメンタイトが存在すれば、切削加工時の工具摩耗が増大するうえに、疲労破壊の起点となるため、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、マルテンサイト及び残留オーステナイト合計の体積率を97%以上に限定する。上記体積率は99%以上とすることが好ましい。
残留オーステナイトは、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態を発生する。その結果、表面の強度が上昇し、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が上昇する。このような効果を得るためには、最大残留オーステナイト体積率(R1)が少なくとも13%存在しなければならない。一方、残留オーステナイトは軟質であるため体積率(R1)が28%を超えるとかえって強度が低下する。従って、体積率(R1)は13〜28%に限定する。体積率(R1)は15〜25%とすることが好ましい。なお、上述した電解研磨方法と同じ方法を用いて、表面から10μmピッチで200μm深さまで測定した残留オーステナイトの体積率のうち最大の値を、最大残留オーステナイト体積率(R1)とした。
比Mは、仕上げ加工時の加工誘起マルテンサイト変態の程度を表す。Mが小さいと、仕上げ加工時により多くの加工誘起マルテンサイト変態が発生したことを意味し、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が向上する。上記の効果を得るためにはMが0.8以下でなければならない。なお、好ましいMの値は0.75以下である。
表層の塑性流動組織の厚さは次の方法で測定される。部品の表面を含み、部品の軸方向(例えば、ダンベル状の試験片の場合はその長手方向)に垂直な面(横断面)が観察面になるような試験片を採取する。鏡面研磨した試験片を、5%ナイタール溶液で腐食する。腐食された面を、倍率5000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察する。得られたSEM像の一例を図1に示す。同図において、塑性流動組織11は、中心部12に対して組織が製品部材の周方向(図1において紙面の左方向から右方向)に湾曲している部分であり、製品部材の表面から湾曲した組織の端までの距離を塑性流動組織11の厚さと定義した。
算術平均粗さRaは、JIS B0601(2001)に規定される算術平均粗さRaであり、この規定に準拠する。算術平均粗さRaの評価方法及び測定機は、JIS B0633(2001)及びJIS B0651(2001)の規定に準拠する。
次に、本実施形態に係る浸炭機械構造部品の製造方法の一例を説明する。
上記化学組成を有する鋼材を加工して粗加工品を製造する。加工方法は周知の方法でよい。例えば、熱間加工、冷間加工、切削加工等を用いることができる。粗加工品は、最終部品に近い形状とする。
浸炭焼入れ工程は、初めに、浸炭処理を施し、その後、恒温保持処理を施し、さらに、焼入れ処理及び焼き戻し処理を施す。浸炭処理、恒温保持処理、焼入れ処理及び焼き戻し処理は、それぞれ、次の条件で行う。
浸炭温度(T1):900〜1050℃
浸炭温度T1が低すぎれば、粗加工品の表層が十分に浸炭されない。この場合、浸炭焼入れ後の残留オーステナイトが少なく、表層の硬さも低い。そのため、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低くなる。一方、浸炭温度T1が高すぎれば、オーステナイト粒が粗大化して耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、浸炭温度T1は、例えば900〜1050℃とすることができる。
カーボンポテンシャルCp1が低すぎれば、十分浸炭されない。Cp1が低い場合、浸炭焼入れ後の残留オーステナイトが少なく、仕上げ加工後の表層の硬さが低くなるため、部品の耐摩耗性が低下する。一方、Cp1が高すぎれば、浸炭時に析出した硬質な初析セメンタイトが残存して切削加工時の工具摩耗が増大し、被削性が低下する。従って、Cp1は、例えば0.7〜1.1%とすることができる。Cp1は浸炭処理時に上記範囲内で変動させてもよい。
浸炭処理の時間(浸炭時間)t1が短すぎれば、十分な浸炭がされない。一方、t1が長すぎれば、生産性が低下する。従って、t1は、例えば60〜240分とすることができる。
浸炭処理後、恒温保持処理を施す。恒温保持処理は、次の条件で行う。
恒温保持温度T2が低すぎれば、カーボンポテンシャル等の雰囲気制御が困難になり、残留オーステナイトの体積率が調整しにくい。一方、T2が高すぎれば、焼入れ時に生じる歪みが増大して、焼割れが発生する場合がある。従って、恒温保持温度T2は、例えば820〜870℃とすることができる。
恒温保持処理時におけるカーボンポテンシャルCp2が低すぎれば、浸炭時に侵入したCが再度外部に放出されて浸炭焼入れ後の残留オーステナイトが少なくなり、表層硬さが低下し、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、Cp2が高すぎれば、硬質な初析セメンタイトが析出して切削加工時の工具摩耗が増大し、浸炭品の被削性が低下する。従って、Cp2は、例えば0.7〜0.9%とすることができる。
恒温保持時間t2が短すぎれば、浸炭品の温度が均一にならず、焼入れ時に生じる歪みが増大して、浸炭品に焼割れが生じる場合がある。一方、t2が長すぎれば、生産性が低下する。従って、t2は、例えば20〜60分とすることができる。
上記恒温保持処理後、周知の方法で焼入れ処理を施す。焼入れ処理としては、例えば、油焼入れが挙げられる。
上記浸炭焼入れ処理を施した後、焼戻し処理を施す。焼戻し処理を行えば、製品部材の靱性が高まる。さらに、Cが拡散して炭化物の前駆体を生成するため、残留オーステナイトが不安定化して、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が発生しやすくなる。焼戻し処理は次の条件で行われる。
焼戻し温度T3が低すぎれば、上記焼戻しによる効果が得られない。一方、焼戻し温度が高すぎれば、残留オーステナイトが著しく不安定化して、焼戻し中に残留オーステナイトが分解する。さらに、分解せずに残留したオーステナイトは、熱処理歪みから解放されて安定化するため、切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。従って、T3は、例えば160〜200℃とすることができる。
焼戻し時間t3が短すぎれば、上記焼戻しの効果が得られない。一方、焼戻し時間t3が長すぎれば、残留オーステナイトが著しく不安定化して、焼戻し中に残留オーステナイトが分解する。さらに、分解せずに残留したオーステナイトは、熱処理歪みから解放されて安定化するため、切削加工時に十分に加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。従って、t3は60〜180分とする。
上記浸炭焼入れ工程を経た後、切削加工工程を行う。切削加工工程により、製品部材の形状に仕上げつつ、表層に加工誘起マルテンサイト変態を生じさせる。これにより、部品の耐摩耗性が高まる。切削加工工程は、次の条件で行う。
すくい角αが−5°よりも大きければ、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が十分に発生しない。そのため、部品の耐摩耗性が低下する。一方、αが−30°以下であれば、切削抵抗が大きくなりすぎる。この場合、工具摩耗が増大し、場合によっては工具が欠損する。従って、αは、例えば−30°<α≦−5°とすることができる。より好ましいαの範囲は−25°以上−15°以下である。
工具のノーズrが小さければ表面粗さが大きくなり、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。表面粗さが大きくなった場合には、仕上げ研磨を実施して、表面粗さを小さくしなければならない。一方、rが大きければ、切削抵抗が大きくなるため、工具摩耗が増大する。従って、rは、例えば0.4〜1.2mmとすることができる。
送りfが小さければ、切削抵抗、つまり、工具が被削材に押し付けられる力が小さくなり、十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。そのため、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、送りが大きければ、切削抵抗が大きくなって工具摩耗が大きくなる。そのため、部品の耐摩耗性が低下する。従って、fは、例えば0.1超〜0.4mm/revとすることができる。fの好ましい下限は0.2mm/revである。
切削速度vが大きければ、切削温度が上昇し、凝着摩耗が発生して工具摩耗が増大する。さらに、発熱によってオーステナイトの加工誘起変態が抑制され、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、vが小さければ、切削能率が低下する。従って、切削速度vは、例えば50〜150m/分とすることができる。
切り込みdが小さければ、切削抵抗が小さくなるため、十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。そのため、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、切り込みdが大きければ、切削抵抗が大きくなり、工具摩耗が大きくなる。従って、dは、例えば0.05〜0.2mmとすることができる。dの好ましい下限は0.08mmであり、好ましい上限は0.15mmである。
部品相当の試験片(摩耗試験片21)表面に対して、電解研磨を施した。具体的には、試験片表面に穴の直径3mmのマスキングを施し、11.6%の塩化アンモニウムと、35.1%のグリセリンと、53.3%の水とを含有する電解液中において、試験片を陽極として、20Vの電圧で電解研磨を施し、表面から20μm深さの位置の表面(以下、観察面という)を露出させた。
部品相当の試験片において、残留オーステナイト以外の他の組織の体積率を、上述した方法で測定した。
図2に示す摩耗試験片2を用いて、図4に示す二円筒摩耗試験(RP試験)を行った。図4は、RP試験方法を示す正面図である。図4に示すとおり、RP試験において、摩耗試験片21と大ローラ試験片41とを準備した。大ローラ試験片41は円板状であり、直径が130mm、円周面の幅が18mm、円周面のクラウニング曲率半径が700mmであった。大ローラ試験片は、JIS規格SCM882に相当する化学組成を有し、浸炭焼入れ処理がなされていた。大ローラ試験片41の円周面を摩耗試験片21の表面に接触させ、表4に示す条件でRP試験を実施した。
図3に示す疲労試験片31を用いて、試験荷重を50MPaピッチで変化させて小野式回転曲げ疲労試験を行い、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度を求めた。
切削工具の工具摩耗を逃げ面摩耗量(μm)によって評価した。方法は以下の通りである。即ち、浸炭焼入れ及び焼戻し後の被削性試験片(浸炭品相当)を、表3に示す粗加工品と同じ切削条件で、1本あたり1パスの切削加工を行った。複数の試験片について切削加工を繰り返し、合計の切削時間が5分となるまで切削加工した後に、切削工具の逃げ面摩耗幅を測定した。逃げ面摩耗幅の測定には、マイクロスコープを用いた。工具逃げ面が測定物台と平行になるように工具を設置し、倍率200倍で摩耗部を観察した。この時の、摩耗部中心付近で摩耗が最大となる部分の切れ刃から摩耗先端部までの距離を測定し、逃げ面摩耗量とした。本測定においては、逃げ面摩耗量が40μm以下の場合が、従来技術に対して切削加工時の工具摩耗を抑制することができるという点で合格である。
以上に説明した各試験等に関する結果を表5、表6に示す。
12 中心部
21 摩耗試験片
22 試験部
23 つかみ部
31 曲げ疲労試験片
41 大ローラ
Claims (2)
- 質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.01〜0.25%、Mn:0.4〜0.9%、S:0.003〜0.050%、Cr:1.65〜2.00%、Al:0.01〜0.06%、Nb:0.01〜0.06%、及びN:0.010〜0.025%を含有するとともに、残部:Fe及び不可避的不純物を含み、
下記の(1)式で表されるFn1が、−35≦Fn1≦−30を満たし、
不純物としてのP及びOの含有量が、それぞれ、P:0.020%以下、及びO:0.002%以下であり、
表層部のC含有量(Cs)が、0.65〜1.0%であり、
表面から20μmの深さの組織が、マルテンサイト及び残留オーステナイトの合計で97%以上であり、
表面から200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率が13〜28%であり、
表面から20μmの深さ位置での残留オーステナイト体積率と、表面から200μmの範囲で最大残留オーステナイト体積率との、比が0.8以下であり、
表面に厚さ1〜15μmの塑性流動組織を有し、
表面の算術平均粗さRaが0.8μm以下である、
ことを特徴とする浸炭機械構造部品。
Fn1=38×Si−7×Mn+7×Ni−17×Cr−10×Mo ・・・(1)
但し、(1)式中の元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。 - 質量%で、Pb:0.5%、Cu:0.05〜0.3%、Ni:0.05〜0.3%、及びMo:0.05〜0.15%から選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の浸炭機械構造部品。
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