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JP2018199838A - 浸炭部品 - Google Patents

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JP2018199838A JP2017103456A JP2017103456A JP2018199838A JP 2018199838 A JP2018199838 A JP 2018199838A JP 2017103456 A JP2017103456 A JP 2017103456A JP 2017103456 A JP2017103456 A JP 2017103456A JP 2018199838 A JP2018199838 A JP 2018199838A
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孝典 岩橋
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秀樹 今高
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尚二 藤堂
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Abstract

【課題】低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性に優れた浸炭部品を提供する。【解決手段】本実施形態の浸炭部品は、芯部の化学組成が質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.50〜1.50%、Mn:0.30〜1.40%、Cr:0.50〜2.00%、Al:0.010〜0.100%、及び、N:0.001〜0.030%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たし、表面のC濃度が0.50〜0.70%であり、有効硬化層深さが0.30〜0.60mmである。X+Y+Z≦26 (1)ただし、X=−15.7×Si4+74.4×Si3−118.9×Si2+61.6×Si+5.8 (2)Y=−0.3×Mn3−3×Mn2+14.2×Mn−3.4 (3)Z=−0.2×Cr4+4.4×Cr3−16.6×Cr2+17×Cr+3.1 (4)【選択図】なし

Description

本発明は、浸炭処理された部品である、浸炭部品に関する。
近年のエンジンの高出力化及び部品小型化に伴い、部品の高強度化が求められている。特に、自動車の歯車部品に用いられるトランスファーギヤ部品等は、車の極端な変速、急発進及び急停止時、及び、車が路面の段差に乗り上げた際に衝撃的な負荷を受ける。このため、これらの部品は数十〜数百回という非常に少ない繰り返し回数の衝撃(低サイクル衝撃疲労)で破壊に至る場合がある。したがって、これらの用途に用いられる部品には、低サイクルでの衝撃的な疲労破壊に対する抵抗(以下、低サイクル衝撃疲労特性)が求められる。
トランスファーギヤ部品の多くは、鋼材を所定の形状に機械加工した後、浸炭焼入れ処理を実施して製造される。この場合、使用される鋼材の多くは、JIS G 4053(2008)に規定された機械構造用合金鋼鋼材であり、たとえばSCr420やSCM420である。したがって、これらの機械構造用合金鋼鋼材に近い化学組成を有する鋼材を用いて浸炭部品を製造し、低サイクル衝撃疲労特性を高めることが求められている。
ところで、従来の浸炭部品では一般的に、特開平10‐8199号公報(特許文献1)に開示されているとおり、表面のC濃度が0.8%程度に設定される。表面のC濃度が0.8%未満であれば、浸炭部品表層の硬さが低下し、十分な疲労強度が得られないと考えられているためである。このような疲労強度の評価には、107回の高サイクルでの疲労強度試験が利用される。そのため、10〜104回の低サイクル衝撃疲労特性については十分な検証ができていない。
浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性の向上技術が、特開2007‐332438号公報(特許文献2)、特開2011‐63886号公報(特許文献3)、及び、国際公開第2010/137607号(特許文献4)に提案されている。
特許文献2に記載された浸炭焼入れ鋼材は、質量%で、C:0.1〜0.4%、Si:0.02〜1.3%、Mn:0.3〜1.8%、Al:0.001〜0.05%、及び、N:0.003〜0.020%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、下記(1)式で定義される投影芯部硬さHp‐coreがHV390以上であることを特徴とする。
Hp‐core=Hcore/(1−t/r) ・・・(1)
ただし、Hcore;芯部硬さ、t;有効硬化層深さ、r;破損部位の半径または破損部位の肉厚の半分である。
これにより、浸炭焼入れ鋼材及び浸炭焼入れ部品において低サイクル衝撃疲労特性を安定して良くすることができる、と特許文献2に記載されている。
特許文献3に記載された浸炭焼入れ鋼材は、質量%で、C:0.1〜0.4%、Si:0.02〜1.3%、Mn:0.3〜1.8%、Al:0.001〜0.05%、N:0.003〜0.020%、及び、Cr:1.8%以下を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、ジョミニ試験における焼入れ端より13mmの位置での硬さが、60×C0.5−5(HRC)以上であり、下記(2)式で定義されるA及び下記(3)式で定義されるBが、A−0.00000293×B≧−14の関係を有することを特徴とする。
A=Mo+0.227Ni+190B−0.087Si−17.2P−2.74V−7.18Cs−0.00955Hs+0.0344Nγ ・・・(2)
ただし、Cs;表層の浸炭濃度(質量%)、Hs;表面硬さ(HV)、Nγ;浸炭層の
旧オーステナイト結晶粒度。
B=t×(Hcore)2 ・・・ (3)
ただし、Hcore;芯部硬さ、t;有効硬化層深さ。
これにより、浸炭焼入れ鋼材及び浸炭焼入れ部品において低サイクル衝撃疲労特性を安定して良くすることができる、と特許文献3に記載されている。
特許文献4に記載された鋼製の浸炭部品は、生地の鋼が、質量%で、C:0.15〜0.25%、Si:0.03〜0.50%、Mn:0.60%を超えて1.5%以下、Cr:0.05〜2.0%、Al:0.10%、N:0.03%以下及びO:0.0020%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する鋼であり、表面硬化層部が下記(a)〜(c)の条件を満たすことを特徴とする。
(a)C(ave):質量%で0.35〜0.60%、
(b)表面粗さRz:15μm以下、ならびに、
(c)σr(0):−800MPa以下、σr(100):−800MPa以下および残留応力強度指数Ir:80000以上。
ただし、
C(ave):最表面から深さ0.2mmの位置までの平均炭素濃度、
σr(0):部品の最表面における圧縮残留応力、
σr(100):部品の最表面から100μmの位置における圧縮残留応力、
残留応力強度指数Ir:部品の最表面から100μm深さまでの位置での最表面からの深さをyμm、その部位における残留応力をσr(y)として〔Ir=∫|σr(y)|dy〕で表される値を指す。
これにより、従来の浸炭焼入れ‐焼戻し処理した部品と比べて「低〜中サイクル域」での疲労強度が大幅に向上した浸炭部品が得られる、と特許文献4に記載されている。
特開平10‐8199号公報 特開2007‐332438号公報 特開2011‐63886号公報 国際公開第2010/137607号
ところで、これらの部品の歯面は絶えず摺動している。そのため、これらの部品は、繰り返しの摩擦により部品の表面が一部剥離して、ピッチングと呼ばれる破壊に至る場合がある。したがって、これらの部品には、上述の低サイクル衝撃疲労特性に加え、ピッチングに対する抵抗(以下、耐摩耗性)が求められる。
上述のとおり、低サイクル衝撃疲労特性については十分な検証ができていない。さらに、低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性の両方を改善する技術についても十分な検証ができていない。そのため、上述の技術を用いても、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性が十分に得られない場合がある。
本発明の目的は、低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性に優れた浸炭部品を提供することである。
本実施形態による浸炭部品は、芯部の化学組成が質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.50〜1.50%、Mn:0.30〜1.40%、P:0.030%未満、S:0.030%未満、Cr:0.50〜2.00%、Al:0.010〜0.100%、N:0.001〜0.030%、Mo:0〜0.80%、Ni:0〜0.50%、Cu:0〜0.50%、Ti:0〜0.10%、及び、Nb:0〜0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たし、表面のC濃度が0.50〜0.70%であり、表面から限界硬さがビッカース硬さで550HVとなる位置までの距離である有効硬化層深さが0.30〜0.60mmである。
X+Y+Z≦26 (1)
ただし、
X=−15.7×Si4+74.4×Si3−118.9×Si2+61.6×Si+5.8 (2)
Y=−0.3×Mn3−3×Mn2+14.2×Mn−3.4 (3)
Z=−0.2×Cr4+4.4×Cr3−16.6×Cr2+17×Cr+3.1 (4)
ここで、式(2)〜式(4)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態による浸炭部品は、優れた低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性を有する。
図1は、ガス浸炭焼入れ処理のヒートパターンの一例を示す図である。 図2は、真空浸炭焼入れ処理のヒートパターンの一例を示す図である。 図3は、実施例で作製した落錘試験片の側面図である。 図4は、実施例で作製したローラーピッチング試験片の平面図である。 図5は、ローラーピッチング試験の模式図である。
本発明者らは、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性について調査及び検討を行った。その結果、本発明者らは次の知見を得た。本明細書において、低サイクル衝撃疲労特性とは、材料の降伏応力を超える衝撃的な負荷を10〜104回与えた場合の疲労強度をいう。
浸炭部品を繰り返し使用すれば、浸炭部品の表面にき裂が生じる(き裂発生工程)。き裂は伸展し、最終的には浸炭部品が破壊する(破断工程)。つまり、低サイクル衝撃疲労特性はき裂発生工程に対する浸炭部品の寿命(き裂発生寿命)と破断工程に対する浸炭部品の寿命(破断寿命)とに分けられる。き裂発生寿命と破断寿命とでは、それぞれの長寿命化に求められる特性が異なる。
き裂発生工程において、き裂は浸炭部品の表層で発生する。き裂の発生を抑制するためには、浸炭部品の表面のC濃度を低くして、浸炭部品の表層の靱性を高めることが有効である。低サイクル衝撃疲労は塑性変形を伴う疲労である。浸炭部品の表層の靱性が高ければ、き裂発生までに許容できる塑性変形量が大きい。そのため、浸炭部品表層でのき裂発生を抑制できる。具体的には、浸炭部品の表面のC濃度が0.50〜0.70%であれば、表面のC濃度が十分に低いため、き裂発生工程でのき裂の発生を抑制できる。この場合、低サイクル衝撃疲労特性が高まる。
き裂発生工程でのき裂の発生は、浸炭部品の有効硬化層深さ(Effective Case Depth:以下、ECD)を深くすることでも抑制できる。
き裂発生工程でのき裂の発生は、上述の方法で抑制することができる。しかしながら、低サイクル衝撃疲労特性に対しては、き裂発生工程よりも、破断工程の方が大きく影響する。
低サイクル衝撃疲労試験において、初期き裂が発生したとき、初期き裂の深さは有効硬化層深さ(ECD)とほぼ等しい。ECDを浅くすれば、初期き裂深さが浅くなる。この場合、き裂の進展速度が抑制される。そのため、破断工程については、ECDを浅くすることが有効である。ECDが浅ければ、低サイクル衝撃疲労特性の大部分を占める破断工程が延長され、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性が高まる。
したがって、低サイクル衝撃疲労特性を高めるためには、最適なECDの範囲が存在する。具体的には、浸炭部品のECDを従来よりも浅い0.30〜0.60mmとすれば、優れた低サイクル衝撃疲労特性が得られる。
一方で、浸炭部品の耐摩耗性を高めるには、浸炭部品の表面硬さを高めることが有効である。具体的には、鋼材のSi含有量を0.50〜1.50%として、焼戻し軟化抵抗を高める。これにより、使用中の摩擦により発熱がある場合でも、浸炭部品の表面硬さの低下が抑制される。その結果、浸炭部品の耐摩耗性を高めることができる。
Si含有量が高ければ、浸炭部品の耐摩耗性が高まる。しかしながら、Siは酸化されて粒界酸化層を形成する。そのため、Si含有量が高ければ、粒界酸化層が厚くなる。この場合、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性が低下する。
そこで、浸炭部品の芯部の化学組成を、粒界酸化層が薄くなる化学組成とする。具体的には、浸炭部品の芯部の化学組成が式(1)を満たすようにする。
X+Y+Z≦26 (1)
ただし、
X=−15.7×Si4+74.4×Si3−118.9×Si2+61.6×Si+5.8 (2)
Y=−0.3×Mn3−3×Mn2+14.2×Mn−3.4 (3)
Z=−0.2×Cr4+4.4×Cr3−16.6×Cr2+17×Cr+3.1 (4)
ここで、式(2)〜式(4)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
浸炭部品の芯部の化学組成が式(1)を満たせば、Siを多量に含有するにもかかわらず浸炭部品の粒界酸化層が薄くなる。これにより、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性が高まる。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態の浸炭部品は、芯部の化学組成が質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.50〜1.50%、Mn:0.30〜1.40%、P:0.030%未満、S:0.030%未満、Cr:0.50〜2.00%、Al:0.010〜0.100%、N:0.001〜0.030%、Mo:0〜0.80%、Ni:0〜0.50%、Cu:0〜0.50%、Ti:0〜0.10%、及び、Nb:0〜0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たし、表面のC濃度が0.50〜0.70%であり、表面から限界硬さがビッカース硬さで550HVとなる位置までの距離である有効硬化層深さが0.30〜0.60mmである。
X+Y+Z≦26 (1)
ただし、
X=−15.7×Si4+74.4×Si3−118.9×Si2+61.6×Si+5.8 (2)
Y=−0.3×Mn3−3×Mn2+14.2×Mn−3.4 (3)
Z=−0.2×Cr4+4.4×Cr3−16.6×Cr2+17×Cr+3.1 (4)
ここで、式(2)〜式(4)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態の浸炭部品は、低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性に優れる。
上記浸炭部品の芯部の化学組成は、Mo:0.01〜0.80%、Ni:0.05〜0.50%、及び、Cu:0.10〜0.50%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。上記浸炭部品の芯部の化学組成はまた、Ti:0.05〜0.10%、及び、Nb:0.01〜0.10%からなる群から選択される1種又は2種を含有してもよい。
以下、本実施形態の浸炭部品について詳述する。各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
[浸炭部品の芯部及び表層部]
本実施形態による浸炭部品は、芯部と、表層とを含む。芯部は、浸炭部品のうち表層よりも内部の部分を意味する。より具体的には、浸炭部品の表面から2.0mmよりも深い内部部分を芯部と定義する。浸炭部品の表面から2.0mm以内の部分を表層と定義する。
[浸炭部品の芯部の化学組成]
浸炭部品の芯部の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.10〜0.30%
炭素(C)は、鋼の焼入れ性を高め、芯部の硬さを高める。これにより、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性が高まる。C含有量が0.10%未満であれば、この効果が得られない。一方、C含有量が0.30%を超えれば、鋼の被削性及び冷間鍛造性が低下する可能性がある。したがって、C含有量は0.10〜0.30%である。C含有量の好ましい下限は0.15%であり、さらに好ましくは0.18%である。C含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.23%である。
Si:0.50〜1.50%
シリコン(Si)は鋼を脱酸する。Siはさらに、鋼の焼入れ性を高め、さらに、固溶強化により鋼の強度を高める。そのため、芯部の硬さが高まり、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性が高まる。Siはさらに、鋼の焼戻し軟化抵抗を高める。これにより、浸炭部品の耐摩耗性が高まる。しかしながら、Si含有量が0.50%未満であれば、上記効果は十分に得られず、浸炭部品の耐摩耗性が低下する。一方、Si含有量が1.50%を超えれば、鋼の浸炭を阻害する。この場合、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性が低下する。したがって、Si含有量は0.50〜1.50%である。Si含有量の好ましい下限は0.52%であり、さらに好ましくは0.80%である。Si含有量の好ましい上限は1.30%であり、さらに好ましくは1.20%である。
Mn:0.30〜1.40%
マンガン(Mn)は鋼を脱酸する。Mnはさらに、鋼の焼入れ性及び強度を高め、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性を高める。Mn含有量が0.30%未満であれば、この効果が得られない。一方、Mn含有量が1.40%を超えれば、残留オーステナイト量が過多となり、表面硬さが低下して、浸炭部品の耐摩耗性が低下する。したがって、Mn含有量は0.30〜1.40%である。Mn含有量の好ましい下限は0.50%であり、さらに好ましくは0.70%である。Mn含有量の好ましい上限は1.20%であり、さらに好ましくは1.00%である。
P:0.030%未満
リン(P)は不純物である。Pは浸炭時にオーステナイト粒界に偏析して、浸炭層の粒界強度を低下する。浸炭層の粒界強度が低下すれば、低サイクル衝撃疲労特性が低下する。P含有量が0.030%未満であれば、芯部だけでなく表層のP含有量も低い。このため、表層の靱性が高まり、粒界き裂の発生が抑制される。その結果、低サイクル衝撃疲労特性が高まる。したがって、P含有量は0.030%未満である。P含有量の好ましい上限は0.015%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。
S:0.030%未満
硫黄(S)は不純物である。Sは結晶粒界に残存して浸炭層の粒界強度を低下する。Sはさらに、粒界に粗大なMnSを形成して低サイクル衝撃疲労特性を低下させる。したがって、S含有量は0.030%未満である。S含有量の好ましい上限は0.015%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。
Cr:0.50〜2.00%
クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性を高めて芯部硬さを高め、低サイクル衝撃疲労特性を高める。Cr含有量が0.50%未満であれば、この効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が2.00%を超えれば、粒界酸化層が厚くなり、低サイクル衝撃疲労特性が低下する。したがって、Cr含有量は0.50〜2.00%である。Cr含有量の好ましい下限は0.60%であり、さらに好ましくは0.80%である。Cr含有量の好ましい上限は1.85%であり、さらに好ましくは1.70%である。
Al:0.010〜0.100%
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。Alはさらに、鋼中のNと結合してAlNを形成し、浸炭時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する。オーステナイト粒の粗大化が抑制されれば、鋼の体積当たりの粒界面積が高いまま維持される。き裂発生工程におけるき裂は粒界を起点として発生する。そのため、鋼の体積当たりの粒界面積が高ければ、低サイクル衝撃疲労試験における負荷が分散される。したがって、き裂発生工程におけるき裂の発生が抑制され、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性が高まる。Al含有量が0.010%未満であればこの効果が得られない。一方、Al含有量が0.100%を超えれば、上記効果が飽和する。したがって、Al含有量は0.010〜0.100%である。Al含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.025%である。Al含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.065%である。本実施形態の浸炭部品の芯部の化学組成において、Al含有量は、鋼材中に含有する全Al量を意味する。
N:0.001〜0.030%
窒素(N)は、鋼中でTi、Al、V及びNbと結合して窒化物や炭窒化物を形成し、浸炭時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する。これにより、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性が高まる。N含有量が0.001%未満であれば、十分な粗大化抑制効果は得られない。一方、N含有量が0.030%を超えれば、上記効果が飽和する。したがって、N含有量は0.001〜0.030%である。N含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.008%である。N含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。
本実施形態による浸炭部品の芯部の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、浸炭部品を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態の浸炭部品に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素について]
本実施形態の浸炭部品の芯部はさらに、Feの一部に代えて、Mo、Ni及びCuからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼の焼入れ性を高める。
Mo:0〜0.80%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Moは、鋼の焼入れ性を高めて芯部硬さを高め、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性を高める。Moはさらに、浸炭層の靱性を高める。Moはさらに、浸炭部品の焼戻し軟化抵抗を高める。Moが少しでも含有されれば、これらの効果が得られる。しかしながら、Mo含有量が0.80%を超えれば、これらの効果は飽和し、原料コストが高くなる。したがって、Mo含有量は0〜0.80%である。上記効果を安定して得るためのMo含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.10%である。Mo含有量の好ましい上限は0.60%であり、さらに好ましくは0.40%である。
Ni:0〜0.50%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Niは、鋼の焼入れ性を高めて芯部高さを高め、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性を高める。Niはさらに、粒界酸化層を浅くする。これにより、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性を高める。Niはさらに、浸炭層の靱性を高める。Niが少しでも含有されれば、これらの効果が得られる。しかしながら、Ni含有量が0.50%を超えれば、残留オーステナイト量が増大して加工性が低下する。したがって、Ni含有量は0〜0.50%である。上記効果を安定して得るためのNi含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Ni含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%である。
Cu:0〜0.50%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Cuは鋼の焼入れ性を高めて芯部硬さを高め、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性を高める。Cuが少しでも含有されればこの効果が得られる。一方、Cu含有量が0.50%を超えれば、熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は0〜0.50%である。上記効果を安定して得るためのCu含有量の好ましい下限は0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Cu含有量の好ましい上限は0.35%であり、さらに好ましくは0.25%である。
本実施形態の浸炭部品の芯部はさらに、Feの一部に代えて、Ti及びNbからなる群から選択される1種又は2種を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、結晶粒の粗大化を抑制する。
Ti:0〜0.10%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Tiは鋼中のC及びSと結合して微細なTiC及びTiSを形成し、浸炭時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する。これにより、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性が高まる。Tiが少しでも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、Ti含有量が0.10%を超えれば、TiCが粗大化して鋼の靱性が低下する。この場合、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性が低下する。したがって、Ti含有量は0〜0.10%である。上記効果を安定して得るためのTi含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.06%である。Ti含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.07%である。
Nb:0〜0.10%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Nbは鋼中のC及びNと結合してNb炭窒化物(Nb(CN))を形成し、浸炭時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する。これにより、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性が高まる。Nbが少しでも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、Nb含有量が0.10%を超えれば、浸炭性が低下する。したがって、Nb含有量は0〜0.10%である。上記効果を安定して得るためのNb含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Nb含有量の好ましい上限は0.07%であり、さらに好ましくは0.05%である。
[式について]
本実施形態の浸炭部品の芯部の化学組成はさらに、式(1)を満たす。
X+Y+Z≦26 (1)
ただし、
X=−15.7×Si4+74.4×Si3−118.9×Si2+61.6×Si+5.8 (2)
Y=−0.3×Mn3−3×Mn2+14.2×Mn−3.4 (3)
Z=−0.2×Cr4+4.4×Cr3−16.6×Cr2+17×Cr+3.1 (4)
ここで、式(2)〜式(4)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
ここで、fn=X+Y+Zと定義する。fnが大きい程、浸炭部品の粒界酸化層が厚くなる。fnが26より大きい場合、粒界酸化層が厚くなり過ぎて、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性が低下する。したがって、fn≦26である。本実施形態の浸炭部品の芯部の化学組成は、式(1)を満たす。そのため、Siを多量に含有するにもかかわらず、浸炭部品の粒界酸化層が薄くなる。これにより、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性が高まる。fnの好ましい上限は21であり、より好ましい上限は19である。
[浸炭部品表面のC濃度]
浸炭部品表面のC濃度:0.50〜0.70%
浸炭部品表面のC濃度(以下、表面C濃度)は、質量%で0.50〜0.70%である。表面C濃度が0.70%を超えれば、浸炭層の靱性が低くなるため、低サイクル衝撃疲労試験におけるき裂発生寿命が低下する。一方、表面C濃度が0.50%未満であれば、浸炭部品の表面硬さが低すぎ、耐塑性変形能が低下する。この場合、低サイクル衝撃疲労試験における負荷一回当たりの浸炭部品の変形量が大きくなる。そのため、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性が低下する。浸炭部品の表面硬さが低ければさらに、耐摩耗性が低下する。そのため、表面C濃度は0.50〜0.70%である。表面C濃度の好ましい下限は0.54%であり、さらに好ましくは0.56%である。表面C濃度の好ましい上限は0.66%であり、さらに好ましくは0.64%である。
浸炭部品表面のC濃度は次の方法で測定される。浸炭部品の表面のうち、任意の5箇所の測定位置を選定する。選定された測定位置のC濃度(質量%)を、EPMA(電子線マイクロアナライザ)により分析する。EPMAにより得られた5箇所のC濃度の平均を、浸炭部品表面のC濃度(質量%)と定義する。
[有効硬化層深さ]
有効硬化層深さ:0.30〜0.60mm
低サイクル衝撃疲労試験において、初期き裂が発生したとき、初期き裂の深さは有効硬化層深さ(ECD)とほぼ等しい。ここで、本明細書でいう有効硬化層深さ(ECD)とは、JIS G 0577(2006)で定義された有効硬化層深さであって、焼入れまま、又は、200℃を超えない温度で焼戻しした硬化層の表面から限界硬さが550HVとなる位置までの距離(深さ)を意味する。
ECDを浅くすれば、初期き裂深さが浅くなる。この場合、き裂の進展速度が抑制され、低サイクル衝撃疲労特性の大部分を占める破断工程が延長される。その結果、破断寿命が向上し、浸炭部品の低サイクル衝撃疲労特性が高まる。ECDが0.60mmを超えれば、上記効果が得られない。一方、ECDが0.30mm未満であれば、浸炭部品の耐塑性変形抵抗能が低下する。したがって、ECDは0.30〜0.60mmである。ECDの好ましい下限は0.31mmであり、さらに好ましくは0.33mmであり、さらに好ましくは0.35mmであり、さらに好ましくは0.39mmである。ECDの好ましい上限は0.57mmであり、さらに好ましくは0.55mmであり、さらに好ましくは0.50mmである。
ECDは浸炭処理時間に依存する。浸炭処理時間が長ければ、ECDが深くなる。浸炭処理時間が長ければさらに、粒界酸化層が深く形成される。
ECDは次の方法で測定できる。10個の浸炭部品を用意し、1個の浸炭部品に対して2箇所から観察面を含むサンプルを採取する。観察面は、浸炭部品の表面と垂直な断面であって浸炭部品の表面近傍部分を含む。サンプルの観察面を表面研磨した後、表面から深さ方向に0.1mmピッチで、JIS Z 2244(2009)に準拠したビッカース硬さ試験を実施する。試験力は0.98Nとする。得られた各位置での硬さを連続的に結んで、硬化層を含む表層付近の硬さプロファイルを作成する。作成された硬さプロファイルに基づいて、浸炭部品の表面から、限界硬さが550HVとなる位置までの距離を求める。各測定で得られた結果の平均を、ECDと定義する。
[粒界酸化層の厚さ]
上述の式を満たす化学組成、表面C濃度及びECDを有する浸炭部品では、粒界酸化層の厚さが15μm以下になる。粒界酸化層の厚さが15μm以下であるため、き裂の発生が抑制される。その結果、低サイクル衝撃疲労特性が高まる。
粒界酸化層の厚さは、次の方法で測定できる。浸炭部品の表面と垂直な断面であって、浸炭部品の表面近傍部分を含む観察面を有するサンプルを採取する。サンプルの観察面を研磨した後、1000倍の光学顕微鏡でサンプル(浸炭部品)の表面近傍の写真画像を作製する。写真画像を用いて、粒界酸化層深さ(μm)を求める。具体的には、写真画像において、母材と粒界酸化層とではコントラストが異なる。したがって、粒界酸化層は容易に特定できる。画像処理により、写真画像の10箇所での粒界酸化層深さを求め、その平均を粒界酸化層深さ(μm)と定義する。
[製造工程]
本実施形態による浸炭部品の製造方法の一例を説明する。
上述の化学組成を満たす鋼材を製造する。たとえば、上記化学組成の溶鋼を製造し、溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片(スラブ又はブルーム)を製造する。溶鋼を用いて造塊法によりインゴット(鋼塊)を製造してもよい。鋳片又はインゴットを熱間加工して、ビレット(鋼片)を製造する。ビレットを熱間加工して、棒鋼又は線材を製造する。熱間加工は、熱間圧延でもよいし、熱間鍛造でもよい。製造された棒鋼又は線材を冷間鍛造又は機械加工して、所定の形状の中間品を製造する。機械加工はたとえば、切削や穿孔である。中間品の形状は、周知の方法により形成される。
製造された中間品に対して、浸炭焼入れ処理を実施する。さらに、浸炭焼入れ処理後、中間品に対して焼戻しを実施して、浸炭部品を製造する。焼入れ後の中間品に対してさらに機械加工(切削加工等)を実施して、浸炭部品を製造してもよい。
浸炭焼入れ処理及び焼戻し処理を実施することにより、浸炭部品表面のC濃度を0.50〜0.70%に調整でき、ECDを0.30〜0.60mmに調整できる。浸炭焼入れ処理の条件の一例は次のとおりである。
[浸炭焼入れ処理]
本実施形態の浸炭部品で実施される浸炭処理は、ガス浸炭処理でもよいし、真空浸炭処理でもよい。浸炭処理の諸条件を適宜調整することにより、浸炭部品表面のC濃度を0.50〜0.70%に調整できる。以下、一例として、ガス浸炭処理を説明する。
図1は、ガス浸炭焼入れ処理のヒートパターン例を示す図である。図1の縦軸は処理温度(℃)であり、横軸は時間である。図1を参照して、ガス浸炭処理は、加熱工程S0と、浸炭工程S1と、拡散工程S2と、均熱工程S3とを含む。
加熱工程S0では、炉内に装入された中間品を浸炭温度まで加熱する。浸炭工程S1では、所定のカーボンポテンシャルCp1の雰囲気中において、浸炭温度Tcで中間品を所定時間t1保持して、浸炭処理を実施する。拡散工程S2では、浸炭工程でのカーボンポテンシャルCp1よりも低く、かつ、浸炭部品表面のC濃度以上のカーボンポテンシャルCp2の雰囲気中において、浸炭温度Tcで所定時間t2保持する。均熱工程S3は、中間品全体を所定の焼入れ温度に均熱化することを目的とした工程である。均熱工程S3では、浸炭温度Tcよりも低い温度Tsで所定時間t3均熱する。ただし、均熱工程S3は省略してもよい。
拡散工程S2又は均熱工程S3後、中間品を急冷して焼入れを実施し、浸炭部品を製造する。焼入れは水焼入れでもよいし、油焼入れでもよい。
各工程の好ましい条件は次のとおりである。
浸炭温度Tc:Ac3点〜1100℃
浸炭工程S1での保持時間t1:1.0〜3.5時間
拡散工程S2での保持時間t2:0.5〜2.4時間
浸炭工程S1でのカーボンポテンシャルCp1:0.80〜1.00
拡散工程S2でのカーボンポテンシャルCp2:0.60〜0.85
ただし、上記条件のいずれかが上記範囲から外れていても、その他の条件を調整することにより、浸炭部品表面のC濃度を0.50〜0.70%として、ECDを0.30〜0.60mmとすることができる場合がある。
上述のとおり、図1のヒートパターンにおいて、均熱工程S3が省略されてもよい。さらに、図2に示す真空浸炭焼入れ処理を実施してもよい。図2では、加熱工程S0後であって、浸炭工程S1前に、均熱工程S4を実施する。この場合、均熱工程S4では、浸炭温度Tcで所定時間t4均熱する。さらに、図2の真空浸炭焼入れ処理では、炉内圧力を0.1kPa以下にする。
浸炭焼入れ処理された中間品に対して、周知の焼戻し処理を実施する。焼戻し温度はたとえば200℃未満である。
以上の工程により、本実施形態の浸炭部品を製造できる。
種々の化学組成、製造条件で複数の浸炭部品を製造して、低サイクル衝撃疲労特性、粒界酸化層の厚さ、及び、耐摩耗性について調査した。
[浸炭部品用鋼材の製造]
表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。表1中、「fn」とは、X、Y及びZの合計値である(fn=X+Y+Z)。ただし、X=−15.7×Si4+74.4×Si3−118.9×Si2+61.6×Si+5.8 (2)、Y=−0.3×Mn3−3×Mn2+14.2×Mn−3.4 (3)、Z=−0.2×Cr4+4.4×Cr3−16.6×Cr2+17×Cr+3.1 (4)であり、式(2)〜式(4)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
各鋼番号の鋼を180kg真空溶解炉によって溶製後、造塊してインゴットを製造した。
インゴットを1250℃で8時間均熱した。その後、インゴットを熱間鍛造して、直径50mmの棒鋼を製造した。
各棒鋼に対して次の工程を実施して浸炭部品を製造した。
[試験片の作製]
初めに、各棒鋼に対して、焼準処理を実施した。焼準処理での処理温度は925℃であり、保持時間は1時間であった。保持時間経過後の棒鋼を大気中で放冷した。焼準処理後の棒鋼から、2種類の試験片を作製した。
[落錘試験片]
焼準処理後の直径50mmの棒鋼に対して機械加工を実施して、図3に示す形状を有する落錘試験片を作製した。図3は、落錘試験片を水平方向から見た側面図である。図3の落錘試験片の形状は、実歯車の歯元R部を模擬した。図3中の数値は寸法を示し、単位はmmである。「R=2」は、R部の曲率半径が2mmであることを示す。落錘試験片の幅は20mmであった。
[ローラーピッチング試験片]
焼準処理後の直径50mmの棒鋼に対して機械加工を実施して、図4に示す形状を有するローラーピッチング試験片を作製した。図4中の数値は寸法を示し、単位はmmである。ローラーピッチング試験片は円柱状であり、中央に直径26mmの平行部を有していた。ローラーピッチング試験片の平行部以外の直径は22mmであった。ローラーピッチング試験片は、後述するローラーピッチング試験における小ローラーであった。
[浸炭焼入れ処理]
表2に示す試験番号の落錘試験片及びローラーピッチング試験片に対して、図1及び図2に示すヒートパターン、及び、表3に示す条件で浸炭処理を実施した。均熱工程S3でのカーボンポテンシャルは、カーボンポテンシャルCp2と同じであった。さらに、真空浸炭であるパターン11における炉内圧力は0.05kPaであった。
[焼戻し処理]
浸炭焼入れ後の落錘試験片及びローラーピッチング試験片に対して、焼戻しを実施した。焼戻し温度は180℃であり、保持時間は120分であった。
以上の製造工程により、試験番号1〜46の浸炭部品(落錘試験片及びローラーピッチング試験片)を作製した。
[評価試験]
[低サイクル衝撃疲労試験]
各試験番号の落錘試験片に対して、落錘型衝撃疲労試験機を用いて低サイクル衝撃疲労試験を行った。具体的には、所定の範囲の高さ(20〜80mm)から61kgの重錘を自由落下させて落錘試験片の厚さ10mm側の端部より10mm位置に衝突させ、衝撃的な応力負荷を与えた。図3中、矢印は重錘の衝突方向を示す。この衝突を繰り返し、100回目の応力負荷で落錘試験片が破断に至る応力(100回破断強度という)を求めた。100回破断強度が3000MPa以上であった試験片を評価Aとし、2800MPa〜3000MPa未満であった試験片を評価B、2600〜2800MPa未満であった試験片を評価C、2400〜2600MPa未満であった試験片を評価D、2400MPa未満であった試験片を評価×とした。評価A〜Dの場合、低サイクル衝撃疲労特性に優れると判断した。評価×の場合、低サイクル衝撃疲労特性が低いと判断した。結果を表2に示す。
[ローラーピッチング試験]
図5は、ローラーピッチング試験の模式図である。各試験番号のローラーピッチング試験片に対して、ローラーピッチング試験を実施した。具体的には、コマツエンジニアリング社製ローラーピッチング疲労強度試験機を用いて、以下の条件で試験を実施した。すべり率:−40%、潤滑剤:オートマチック用オイル、潤滑剤温度:90℃、潤滑剤の流量:2L/分、回転数:1500rpm及び面圧:2000MPa。図5に示すとおり、小ローラー2に大ローラー1を上記面圧で押し当てながら小ローラー2を回転させた。小ローラー2は上記試験片の作製で作製したローラーピッチング試験片であった。大ローラー1はJIS G 4053(2016)のSCM420の規格を満たす鋼を用いて、共析浸炭後に低温焼戻しして表面研磨したものを使用した。大ローラー1の半径は130mmであった。回転数1×106回における各試験片の摩耗深さDwを測定した。摩耗深さDwの測定には、触針式の表面粗さ計を用いた。測定長さは24mmとして、各試験片の軸方向に触針を走査して断面曲線を得た。各試験片において、円周方向に180°毎に2箇所測定を実施し、断面曲線を得た。得られた断面曲線から、各試験片において、大ローラー1が接触していない部分における断面曲線要素の平均高さ、及び、大ローラー1が接触して摩耗した部分における断面曲線要素の平均高さをそれぞれ算出した。そして、大ローラー1が接触していない部分と大ローラー1が接触していた部分との高さの差を算出した。得られた高さの差の上記測定箇所における平均値を、各試験番号の摩耗深さDw(μm)とした。摩耗深さDwが20μm未満であった試験片を評価Aとし、20〜40μm未満であった試験片を評価B、40〜60μm未満であった試験片を評価C、60〜80μm未満であった試験片を評価D、80μm以上であった試験片を評価×とした。評価A〜Dの場合、耐摩耗性に優れると判断した。評価×の場合、耐摩耗性が低いと判断した。結果を表2に示す。
[表面C濃度測定]
試験前の落錘試験片に対して、上述の方法により表面C濃度を測定した。結果を表2に示す。
[有効硬化層深さ(ECD)測定]
試験前の落錘試験片のR部の任意の2箇所において、上述の方法によりビッカース硬さ試験を実施して有効硬化層深さECD(mm)を求めた。結果を表2に示す。
[粒界酸化層の厚さ測定]
試験前の落錘試験片のR部表面を含み、R部表面と垂直な断面(以下、観察面という)を有するサンプルを採取した。得られたサンプルに対して、上述の方法で粒界酸化層の厚さを測定した。結果を表2に示す。
[試験結果]
試験結果を表2に示す。表2を参照して、試験番号1〜31の浸炭部品は、化学組成が適切であり、かつ、表面C濃度及びECDが適切であった。そのため、これらの試験番号の浸炭部品は低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性に優れていた。
一方、試験番号32の浸炭部品はC含有量が低すぎた。そのため、低サイクル衝撃疲労特性が低かった。
試験番号33の浸炭部品はSi含有量が高すぎた。そのため、低サイクル衝撃疲労特性が低かった。
試験番号34の浸炭部品はSi含有量が低すぎた。そのため、耐摩耗性が低かった。
試験番号35の浸炭部品はMn含有量が高すぎた。そのため、耐摩耗性が低かった。
試験番号36の浸炭部品はMn含有量が低すぎた。そのため、低サイクル衝撃疲労特性が低かった。
試験番号37の浸炭部品はP含有量が高すぎた。そのため、低サイクル衝撃疲労特性が低かった。
試験番号38の浸炭部品はS含有量が高すぎた。そのため、低サイクル衝撃疲労特性が低かった。
試験番号39の浸炭部品はAl含有量が低すぎた。そのため、低サイクル衝撃疲労特性が低かった。
試験番号40の浸炭部品はCr含有量が高すぎた。そのため、低サイクル衝撃疲労特性が低かった。
試験番号41の浸炭部品はCr含有量が低すぎた。そのため、低サイクル衝撃疲労特性が低かった。
試験番号42の浸炭部品は、拡散工程S2におけるカーボンポテンシャルCp2が高すぎたため表面C濃度が高すぎた。そのため、低サイクル衝撃疲労特性が低かった。
試験番号43の浸炭部品は、拡散工程S2におけるカーボンポテンシャルCp2が低すぎたため表面C濃度が低すぎた。そのため、低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性が低かった。
試験番号44の浸炭部品は、拡散工程S2における保持時間t2が長すぎたためECDが深すぎた。そのため、低サイクル衝撃疲労特性が低かった。
試験番号45の浸炭部品は、浸炭工程S1における保持時間t1が短すぎたためECDが浅すぎた。そのため、低サイクル衝撃疲労特性が低かった。
試験番号46の浸炭部品の芯部の化学組成は、fn=28であり、式(1)〜式(4)を満たさなかった。そのため、低サイクル衝撃疲労特性及び耐摩耗性が低かった。
以上、本発明の実施形態を説明した。しかしながら、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変更して実施することができる。
本実施形態の浸炭部品は、広く部品用途に使用可能であり、特に、自動車、建設機械、産業機械等の動力伝達部品又はシャフト部品等の用途に適する。
1 大ローラー
2 小ローラー

Claims (3)

  1. 芯部の化学組成が質量%で、
    C:0.10〜0.30%、
    Si:0.50〜1.50%、
    Mn:0.30〜1.40%、
    P:0.030%未満、
    S:0.030%未満、
    Cr:0.50〜2.00%、
    Al:0.010〜0.100%、
    N:0.001〜0.030%、
    Mo:0〜0.80%、
    Ni:0〜0.50%、
    Cu:0〜0.50%、
    Ti:0〜0.10%、及び、
    Nb:0〜0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たし、
    表面のC濃度が0.50〜0.70%であり、
    表面から限界硬さがビッカース硬さで550HVとなる位置までの距離である有効硬化層深さが0.30〜0.60mmである、浸炭部品。
    X+Y+Z≦26 (1)
    ただし、
    X=−15.7×Si4+74.4×Si3−118.9×Si2+61.6×Si+5.8 (2)
    Y=−0.3×Mn3−3×Mn2+14.2×Mn−3.4 (3)
    Z=−0.2×Cr4+4.4×Cr3−16.6×Cr2+17×Cr+3.1 (4)
    ここで、式(2)〜式(4)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 請求項1に記載の浸炭部品であって、
    前記芯部の化学組成は、
    Mo:0.01〜0.80%、及び、
    Ni:0.05〜0.50%、及び、
    Cu:0.10〜0.50%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする、浸炭部品。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の浸炭部品であって、
    Ti:0.05〜0.10%、及び、
    Nb:0.01〜0.10%からなる群から選択される1種又は2種を含有することを特徴とする、浸炭部品。
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