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JP2008240004A - 溶接熱影響部の低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼板 - Google Patents

溶接熱影響部の低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼板 Download PDF

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JP2008240004A JP2007077757A JP2007077757A JP2008240004A JP 2008240004 A JP2008240004 A JP 2008240004A JP 2007077757 A JP2007077757 A JP 2007077757A JP 2007077757 A JP2007077757 A JP 2007077757A JP 2008240004 A JP2008240004 A JP 2008240004A
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Abstract

【課題】大入熱で溶接を行った場合にもHAZの低温靭性に優れると共に、母材(鋼板)の靭性にも優れた低降伏比高張力鋼板を提供する。
【解決手段】所定の化学成分組成を満足すると共に、下記式(1)を満たし、残部鉄および不可避不純物であり、且つ全組織に占めるフェライト分率が45〜85面積%であり、残部がベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織からなり、前記フェライトの平均結晶粒径が19μm以下である。
−20≦(B−NT/1.3)≦10 …(1)
{式中、BはB含有量(質量ppm)を示す。
またNTは、
N(N含有量、単位:質量ppm)とTi(Ti含有量、単位:質量ppm)の関係が、
(N−Ti/3.4)≧0である場合には、NT=(N−Ti/3.4)、
(N−Ti/3.4)<0である場合には、NT=0を示す}
【選択図】なし

Description

本発明は、溶接熱影響部の低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼板に関するものであり、低温に曝される用途に使用される場合、例えば液化アンモニアと液化プロパンガスとを混載する多目的タンク用として適用できるような、溶接熱影響部の低温靭性および母材の靭性に優れている低降伏比高張力鋼板に関するものである。尚、本発明は、上記高張力鋼板の溶接方法まで限定するものではなく、サブマージアーク溶接、エレクトロガスアーク溶接等に適用できるが、以下では、溶接熱影響部の靭性確保が特に困難であるといわれている大入熱の片面サブマージアーク溶接を施す場合を例に説明する。
近年では、海洋構造物やLPG等の液化ガスを貯蔵する低温用タンク等を短期間で製造すべく、例えば入熱量が50〜200kJ/cmにも及ぶ大入熱の片面サブマージアーク溶接施工が広く採用されている。しかし、該溶接は、施工の高能率化を実現できる反面、溶接により形成される溶接熱影響部(以下、「HAZ」と示す)の靭性を安定して確保することが難しく、低入熱による多層溶接を適用して製造しなければならないことも多々ある。従って、上記低温用タンク等の製造に、高能率施工が可能な上記大入熱溶接法が採用され、かつ−60℃程度の低温であっても、HAZの靭性(低温靭性)に優れている鋼板が求められている。
一方、液化アンモニア用タンクに使用する鋼板には、応力腐食割れ(SCC)を防止するために440MPa以下の低い降伏強さYSと、鋼材総重量を低減するために530MPa以下の引張強度TSを具備していることが要求される。液化アンモニウムに液化プロパンガスを混載するタンクの場合、使用する鋼板の特性として低温靭性にも優れていることが要求される。液化アンモニアは、鋼材の応力腐食割れ(SCC)を引き起こすことが知られており、鋼板の特性として降伏強さYSを440MPa以下に抑えることが規定されている(非特許文献1)。
しかしながら、上記液化アンモニウムと液化プロパンガスを混載する多目的用では、当然のことながら両者に要求される特性を満足させる必要があり、また船舶等の海洋構造物の大型化に伴い、船舶に搭載されるタンクの大容量化も進み、それによる鋼板の高張力化も求められおり、降伏強さYSの上限規制に伴う低降伏比化(降伏比YR=YS/TS)の同時達成が大きな課題となっている。
これまでにも、上記HAZの低温靭性を改善すべく種々の方法が提案されている。例えば特許文献1、特許文献2には、TiN、Alオキサイド等のピン止め粒子によりオーステナイト粒の粗大化を抑制することで、HAZ靭性を改善する方法が提案されている。また、特許文献3、特許文献4には、オーステナイト粒内にフェライト変態核を多数存在させることにより結晶粒の微細化を図る技術が示されている。具体的には、TiN、MnS、BN、Tiオキサイド等をフェライト変態核として利用することにより結晶粒の微細化を達成し、HAZの低温靭性の改善を図っている。
しかし上記いずれの方法においても、大入熱の片面サブマージアーク溶接を行った場合には、TiN等の析出物がかなり固溶し、その後の結晶粒粗大化等を抑制することが難しいことから、−60℃程度での低温で優れたHAZの靭性(以下、「HAZの低温靭性」、または単に「HAZ靭性」ということがある)を確保するには、更なる改善が必要である。
また、これまで提案されているHAZ靭性改善技術では、液化アンモニウムと液化プロパンガスを混載する多目的用タンクとして要求される低降伏比(例えば、75%以下)を具備することについては検討されていないのが実情である。
IGC CODE 17.13(International Code for the Construction and Equipment of Ships Carrying Liquefied Gases in Bulk) 2002年版 特公昭55−026164号公報 特許第2950076号公報 特公平07−068577号公報 特公平05−017300号公報
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、大入熱で溶接を行った場合にもHAZの低温靭性に優れると共に、母材(鋼板)の靭性にも優れた低降伏比高張力鋼板を提供することにある。
上記目的を達成し得た本発明の高張力鋼板とは、C:0.03〜0.09%(「質量%」の意味、化学成分については以下同じ)、Si:0.01〜0.25%、Mn:1.20〜1.60%、P:0.010%以下(0%を含まない)、S:0.003%以下(0%を含まない)、Al:0.02〜0.04%、Nb:0.005〜0.016%、B:0.0006〜0.0020%、N:0.0045〜0.0090%、Ti:0.008〜0.020%を夫々含有すると共に、下記式(1)を満たし、残部鉄および不可避不純物であり、且つ全組織に占めるフェライト分率が45〜85面積%であり、残部がベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織からなり、前記フェライトの平均結晶粒径が19μm以下である点に要旨を有するものである。
−20≦(B−NT/1.3)≦10 …(1)
{式中、BはB含有量(質量ppm)を示す。
またNTは、
N(N含有量、単位:質量ppm)とTi(Ti含有量、単位:質量ppm)の関係が、
(N−Ti/3.4)≧0である場合には、NT=(N−Ti/3.4)、
(N−Ti/3.4)<0である場合には、NT=0を示す}
本発明の高張力鋼板においては、必要によって、更に、Cu:0.5%以下(0%を含まない)、Ni:0.8%以下(0%を含まない)、およびV:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を、下記式(2)を満たすように含んでいてもよく、更にはCa:0.003%以下(0%を含まない)を含んでいてもよい。
(Cu+Ni+60Nb+20V)≦1.4 …(2)
{式中、Cu、Ni、Nb、Vは、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す}
本発明によれば、鋼板(母材)の降伏強さYSが440MPa以下で、引張強さTSが530MPa以上で、且つ鋼板の靭性にも優れ、更に鋼板に大入熱の溶接を施した場合でも、HAZは約−60℃で優れた靭性を示すことから、液化アンモニアと液化プロパンガスとを混載する多目的タンク等の溶接構造物の大型化に寄与すると共に、例えば大入熱の片面サブマージアーク溶接法を採用でき、上記溶接構造物をより短期間で製造することができる。
本発明者は、大入熱の溶接を施した場合に、特にHAZの低温靭性に優れる高張力鋼板を得るべく鋭意研究を行った。
その結果、
(a)Cを0.09%以下、Siを0.25%以下と比較的低めに設定した上で、規定量のB、NおよびTiのバランスを最適化し、且つ一定量のNbを添加すれば、オーステナイト粒界からの粗大なフェライト(以下、単に「粒界フェライト」ということがある)の生成が十分に抑制され、オーステナイト粒内の結晶粒微細化を達成できる、
(b)更には、強度をより高めるべくCu、Ni、Vを添加する場合に、このCu、Ni、VとNbの含有量を総合的に制御すれば、HAZ靭性の劣化を抑制できる、
との着想のもとでその具体的方法を見出した。
まず本発明では、個々の規定量のB、NおよびTiのバランスを最適化して固溶B量の最適化を厳密に図ることにより、オーステナイト粒内の結晶粒を微細化でき、その結果としてHAZの低温靭性を格段に高めることができた点に特徴がある。
図1は、0.06%C−0.20%Si−1.4%Mn−0.03%Al−0.010%Nbを基本成分とし、B、NおよびTiをそれぞれ後述する規定範囲内で変化させ、(B−NT/1.3){BはB含有量(質量ppm)、NTは、N(N含有量、単位:質量ppm)とTi(Ti含有量、単位:質量ppm)の関係が、
(N−Ti/3.4)≧0である場合には、NT=(N−Ti/3.4)、
(N−Ti/3.4)<0である場合には、NT=0を示す。
以下、式(1)についても同じ}
を種々の値とした鋼板を用いて、熱サイクル試験を行い、HAZの低温靭性(vE-60)を後述する実施例の通り測定し、これらの結果を整理したものである。尚、熱サイクル試験は、溶接入熱:60kJ/cm(板厚12mm)を想定して、1400℃×5秒に加熱保持後、800℃から500℃までを150秒で冷却した。
この図1より、HAZの低温靭性として、vE-60:100J以上を達成させるには、下記式(1)に示す通り、(B−NT/1.3)の値が−20ppm以上、10ppm以下の範囲に収まるようにする必要があることが分かる。
−20≦(B−NT/1.3)≦10 …(1)
上記式(1)の通り、B、NおよびTiのバランスを最適化することで、オーステナイト粒内の粒界に存在する固溶Bによる、粒界フェライトの粗大化を抑制し、且つ粒界からのフェライトサイドプレートの生成も抑制するといった効果、およびBNのフェライト変態核としての効果を最大限に発揮し得たものと考えられる。
上記の通りB、NおよびTiのバランスを最適化してHAZの低温靭性を確実に高めると共に、母材(鋼材)の強度等を確保するには、上記B、N、Tiの含有量をそれぞれ下記範囲内とする必要がある。
一方、上記のHAZ靭性および母材特性を損なうことなく、引張強さTSが530MPa以上の高強度鋼板において降伏強さYSが440MPa以下という低い降伏比YRを達成するためには、硬質のベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織の中に軟質のフェライト相を適正量存在させ、且つその軟質相の粒径を細粒化させれば良いことをも見出した。
図2は、フェライト分率と、降伏強さYS(下降伏点YPまたは0.2%耐力σ0.2)、引張強さTSとの関係を示すグラフであり、後述する実施例のデータを整理したものである。この結果から明らかなように、フェライト分率を45〜85面積%の範囲とすることによって、引張強さTS:530MPa以上、降伏強さYS:440MPa以下の両特性を満足できることが分かる。このフェライト分率の好ましい範囲は、50〜80面積%である。
尚、本発明において、「残部がベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織」とは、基本的にはフェライト以外がベイナイトおよび/またはマルテンサイト組織であることを意味するが(即ち、ベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織の分率が15〜55面積%)、製造過程において不可避的に形成される他の元素(セメンタイトや島状マルテンサイト)をも含む趣旨である。
図3は、フェライト粒径と母材靭性(−60℃におけるシャルピー衝撃吸収エネルギーvE-60)との関係を示したグラフである。この結果から明らかなように、フェライトの平均粒径を19μm以下とすることによって、良好な母材靭性(vE-60で100J以上)が達成されていることが分かる。
本発明の高張力鋼板では、その鋼板としての基本的特性を満足させるために、C、Si、Mn、P、S、Al等の基本成分の他、前記(1)式に関与する成分であるB、N、Ti等も適切に調整する必要があるが、まずB、N、Ti等の範囲限定理由は次の通りである。
[B:0.0006〜0.0020%]
Bは、BNを生成することによりHAZ靭性に有害な固溶Nを固定する共に、粒内フェライトの生成を促進する作用を有する。また固溶Bは、粒界フェライトの粗大化およびフェライトサイドプレートの生成を抑制し、オーステナイト粒内の結晶粒を微細化する効果も有する。該作用効果を十分発揮させるには、Bを0.0006%以上含有させる必要がある。一方、Bが多過ぎると、過剰の固溶Bの作用により結晶が一定方向に形成され、HAZ靭性が却って劣化する。よってB含有量は、0.0020%以下に抑える。尚、B含有量の好ましい下限は0.0008%であり、好ましい上限は0.0018%である。
[N:0.0045〜0.0090%]
Nは、TiやAl等の元素と窒化物を形成してHAZ靭性を向上させる元素であるため、0.0045%以上(好ましくは0.0060%以上)含んでいてもよい。尚、固溶Nは、HAZの靭性を劣化させる原因となる。全窒素量の増加により、先述の窒化物は増加するが固溶Nも過剰となるため、本発明ではN含有量を0.0090%以下に抑える。
[Ti:0.008〜0.020%]
Tiは、TiN系析出物を生成して粒内フェライトの生成を促進すると共に、オーステナイト粒の粗大化抑制にも有効な元素である。また、高強度化に寄与する元素でもある。こうした作用を有効に発揮させるには、Tiを0.008%以上含有させる必要があり、好ましくは0.012%以上である。しかし、Tiを過剰に含有させると、却ってHAZ靭性の低下を招くため0.020%以下とする。
本発明では、上記の通り、個々の規定量のB、Ti、Nのバランスを最適化すると共に、一定量のNbを添加する。Nbは、粗大な粒界フェライトの生成を十分に抑制し、オーステナイト粒内の結晶粒微細化を達成させるのに有用な元素である。本発明では、この様な効果を十分発揮させるべくNbを0.005%以上含有させる。しかし過剰に含まれていると、硬質相である島状マルテンサイト(MA:Martensite−Austenite constituent)が生成し易く、また結晶が一定方向に形成され、HAZ靭性の劣化を招くので、0.016%以下に抑える。
HAZの低温靭性をより確実に高めるには、更にC、Siを低減させることが有効である。本発明では、MAのHAZ部での生成を抑制し、約−60℃でのHAZ靭性を確保すべく、C量を0.09%以下に抑える。一方、Cは、鋼板の強度確保に必須の元素でもあることから、0.03%以上含有させる。
更に、Siも0.25%以下に低減することにより、MAの生成を十分に抑制でき、HAZの低温靭性を容易に確保することができる。一方、Siは、溶鋼の脱酸に使用されると共に強度向上に有効に作用する元素であるため、0.01%以上含まれていてもよく、好ましくは0.05%以上含有させる。
尚、上記の通りHAZ靭性を確実に高めると共に、鋼板(母材)の強度や靭性等その他の特性を具備させるには、上記以外の成分の含有量を下記範囲内とする必要がある。
[Mn:1.20〜1.60%]
Mnは、SをMnSとして捕捉し、SによるHAZ靭性の劣化を抑制するのに有用な元素である。また、焼入れ性を高めて鋼板の高強度化(高引張強度TS化)に寄与する元素でもある。こうした作用を有効に発揮させるには、Mnを1.20%以上含有させる必要がある。しかし、Mn量が過剰になるとHAZ靭性が却って劣化するため、1.60%以下に抑える。好ましくは、1.50%以下である。
[P:0.010%以下(0%を含まない)]
Pは、HAZ靭性を劣化させる元素であるため極力低減する必要があり、本発明では0.010%以下に抑える。
[S:0.003%以下(0%を含まない)]
Sは、粗大な硫化物を生成してHAZ靭性を劣化させる元素である。よって極力低減する必要があり、本発明では0.003%以下に抑える。
[Al:0.02〜0.04%]
Alは、脱酸剤として使用されると共に、AlN系析出物を生成して大入熱溶接時のHAZ靭性を向上させる元素であり、本発明では0.02%以上含有させる。しかしAl含有量が過剰になると、アルミナ等の酸化物系介在物が増大すると共に、MAの生成が促進されHAZ靭性が劣化するので、0.04%以下に抑える。
本発明で規定する含有元素は上記の通りであって、残部は鉄および不可避不純物であり、該不可避不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素の混入が許容され得る。また、更に下記元素を積極的に含有させることも可能である。
[Cu:0.5%以下(0%を含まない)、Ni:0.8%以下(0%を含まない)、およびV:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上(但し、下記式(2)の範囲内とする)]
(Cu+Ni+60Nb+20V)≦1.4 …(2)
{式中、Cu,Ni,NbおよびVは、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す}
Cu、Ni、Vは、いずれも強度確保に有用な元素である。Cuは、固溶強化および析出強化により強度(引張強さTS)を高めるのに有効な元素である。しかし過剰に含有させると、熱間加工性を阻害させるため0.5%以下に抑える。
Niは、母材の強度と靭性を同時に向上させる元素である。こうした作用を有効に発揮させるには、0.2%以上含有させることが好ましい。しかし、過剰な添加はコストアップとなると共に、液化アンモニア中でSCCを誘起する可能性がるため0.8%以下に抑える。
Vは、焼入れ性を高めて高強度を確保すると共に、焼戻し軟化抵抗を高めるのに有用な元素である。しかし過剰に含有されると、HAZ靭性が劣化するため0.05%以下に抑える。
また本発明では、前述の通りNbを0.016%以下に抑制すると共に、Cu、Ni、Nb、Vの含有量を下記式(2)の通り制限することにより、Cu、NiおよびVよりなる群から選択される1種以上を含有させる場合であっても、優れたHAZ靭性を確保することができる。
図4は、0.06%C−0.20%Si−1.4%Mn−0.03%Al−0.014Ti−0.0014%B−0.0065%Nを基本成分とし、Cu:0.5%以下、Ni:0.8%以下、およびV:0.05%以下よりなる群から選択される1種以上と規定量のNbを、(Cu+Ni+60Nb+20V)が種々の値となるよう含んだ鋼板を用いて、熱サイクル試験を行い、HAZの低温靭性(vE-60)を後述する実施例の通り測定し、これらの結果を整理したものである。尚、熱サイクル試験は、溶接入熱:60kJ/cm(板厚12mm)を想定して、1400℃×5秒に加熱保持後、800℃から500℃までを150秒で冷却したものである。
この図4より、Cu:0.5%以下、Ni:0.8%以下およびV:0.05%以下よりなる群から選択される1種以上を含有させる場合、HAZの低温靭性としてvE-60:100J以上を達成させるには、下記式(2)に示す通り、(Cu+Ni+60Nb+20V)の値が1.4%以下となるようにする必要があることが分かる。Nbを0.016%以下に抑制すると共に、上記の通りCu、Ni、Nb、Vの含有量を総合的に制限することにより、硬質相であるMAの生成を抑制して、優れたHAZ靭性を確保することができる。
(Cu+Ni+60Nb+20V)≦1.4(%) …(2)
{式中、Cu、Ni、Nb、Vは、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す}
[Ca:0.003%以下(0%を含まない)]
Caは、HAZ靭性に悪影響を及ぼすSをCaSとして固定すると共に、非金属介在物を粒状に形態制御して靭性を向上させるのに有効な元素である。この様な効果を十分発揮させるには、Caを0.0010%以上含有させることが好ましいが、過剰に含有させても、これらの効果は飽和しHAZ靭性が却って劣化する。よってCa含有量は、0.003%以下とすることが好ましい。
上記のような組織にして本発明の鋼材を製造するには、例えば下記に示す方法によって、HAZの低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼板を得ることができる。
前述した成分組成を満足する鋼材を、1050〜1200℃以下に加熱し、所定の板厚まで熱間圧延を施し、880〜720℃で熱間圧延を終了した後、10℃/秒以上の冷却速度で600〜700℃まで冷却し(1回目の冷却)、途中で冷却を停止して30秒以上空冷し、引き続き当該温度範囲から10℃/秒以上の冷却速度で550〜350℃まで冷却する。この方法で各条件の範囲設定理由は次の通りである。
[加熱温度:1050〜1200℃]
鋼素材は、鋳造欠陥を圧着させるため、1050℃以上に加熱する。一方、加熱温度が1200℃を超えるとオーステナイト粒が粗大化し、母材靭性が劣化するため、1050〜1200℃で加熱する必要がある。
[熱間圧延温度:880〜720℃]
上記温度に加熱後、圧延を開始して880℃以下で熱間圧延を行って、720℃以上で圧延を終了する。圧延温度が880℃未満では、圧延によってオーステナイトが再結晶するか、若しくは再結晶せずともオーステナイト粒内部に変形帯の欠陥が導入されることにより、フェライト変態の核生成サイトが増加し、組織を微細化し、母材靭性が向上する。こうしたことから、圧延は880℃以下で行う必要がある。但し、熱間圧延終了温度(FRT)720℃以上とする。熱間圧延終了温度が720℃未満となると、初析フェライトが加工を受け、降伏強さYSおよび降伏比YRが上昇することになる。
[冷却条件]
(a)1回目の冷却速度:10℃/秒以上
上記温度で圧延を終了後、10℃/秒以上(好ましくは15℃/秒以上)の冷却速度で600〜700℃の温度域まで冷却し、その途中で冷却を停止することで、過冷されたオーステナイトから微細なフェライトが析出する。その後、その温度(1回目の冷却停止温度)で30秒以上保持することによって、フェライト分率を適切な範囲に制御できる。このときの保持時間が、30秒未満ではフェライト分率が不足し、冷却停止温度が600℃未満や700℃を超えてもフェライト分率が低下する。但し、この保持時間は、150秒を超えると、パーライト組織となり易いので150秒以下とするのが良い。
(b)2回目の冷却速度:10℃/秒以上
上記冷却停止温度から、10℃/秒以上の冷却速度で550℃以下(2回目の冷却停止温度)まで冷却することによって、硬質な第二相を生成させることができる。冷却速度が10℃/秒未満になったり、冷却停止温度が550℃よりも高くなると、第二相がパーライト主体の組織となる。
上記のように550℃以下まで冷却した後は、室温まで特に冷却方法を問わず、空冷(AC)することが好ましい。500〜600℃で焼戻しを行うこともでき、こうした工程を付加することによって、強度の調整が可能となる。
尚、上記で示した温度は、鋼板の平均的な性能を発揮する位置として、t/4部(t:板厚)の位置の温度で管理したものである。また、本発明の鋼材は、いわゆる厚鋼板に有利に適用できる。このときの板厚は、約7mm以上であり上限は特に限定されないが、通常40mm以下程度である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例
によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
下記表1、2に示す化学成分組成の鋼片を、1050〜1200℃に加熱し、所定の板厚(12mmまたは30mm)まで熱間圧延を施し、880〜720℃の温度範囲で熱間圧延を終了した後、10℃/秒以上の冷却速度で700〜600℃まで冷却し、その途中で冷却を停止し、30秒以上空冷した。その後、当該温度範囲から10℃/秒以上の冷却速度で550℃以下(冷却停止温度)まで冷却した。このときの製造条件を表3、4に示す。
Figure 2008240004
Figure 2008240004
Figure 2008240004
Figure 2008240004
上記の様にして得られた各鋼板について、母材組織(フェライト分率、フェライト粒径)、母材特性[板厚、降伏強さYS、引張強さTS、靭性(vE-60)]、およびHAZ靭性(vE-60)の評価を、それぞれ下記の要領で実施した。
[フェライト分率、フェライト粒径の測定]
フェライト(ポリゴナルフェライト)の分率は、各鋼板のt/4部(t:板厚)について、光学顕微鏡を用いて倍率200倍で1視野:300μm×300μmの領域を観察し、画像解析ソフトを用いて測定し、5視野の平均値を求めた。また、フェライトの平均結晶粒径は、各鋼板のt/4部(t:板厚)の位置において、400倍で10視野を観察してJIS G 0551で規定される比較法によって測定した。
[母材特性の評価]
各鋼板の全厚から、圧延方向に直角の方向にJIS Z 2201の1B号試験片を採取して、JIS Z 2241の要領で引張試験を行ない、降伏強さYS(降伏点があるときは下降伏点YP、ないときは0.2%耐力σ0.2)および引張強さ(TS)を測定した。そして降伏強さ:440MPa以下、引張強さ:530MPa以上で、降伏比(YP/TS)が75%以下のものを、低降伏比高張力鋼板と評価した。
また各鋼板の表面側から1mm削った部位から、圧延方向にJIS Z 2202のVノッチ試験片を採取して、JIS Z 2242の要領でシャルピー衝撃試験を行い、試験温度:−60℃での吸収エネルギー(vE-60)を測定した。そして、該吸収エネルギー(vE-60)が100J以上のものを優れた母材靭性を具備していると評価した。
[HAZ靭性の評価]
上記鋼板を用いた片面サブマージアーク溶接をFCB法で実施した。FCB法は銅板の上に裏当てフラックスを敷き、開先裏面に押し当て、表面片側から裏ビードを形成しながら溶接を完了させる方法であり、造船等の板継ぎ溶接で一般的に適用されている。開先形状を図5[(a)は板厚12mmの場合、(b)は板厚30mmの場合]に示す。溶接材料は、下記の低温用鋼溶接材料(神戸製鋼所製)を使用し、図6および表5の溶接条件で溶接継手を作製した。
[溶接材料]
・ワイヤ;US−255
・表フラックス;PFI−50LT
・裏当てフラックス;MF−1R
Figure 2008240004
そして、表面側から1mm削り、HAZ(ボンド部、ボンド部+1mm[HAZ1mm])の位置に板表面に垂直に切欠きを入れたJIS Z 2202のVノッチ試験片を、それぞれ3個採取し、JIS Z 2242の要領でシャルピー衝撃試験を行った。そして、試験温度:−60℃での吸収エネルギー(vE-60)を測定した。そして、該吸収エネルギー(vE-60)が吸収エネルギーの平均値が100J以上のものを、HAZの低温靭性に優れると評価した。
これらの結果を、実溶接施工条件(施工法、入熱量)と共に、一括して下記表6、7に示す。
Figure 2008240004
Figure 2008240004
これらの結果から、次の様に考察することができる(尚、下記No.は、表中の実験No.を示す)。
本発明で規定する要件を満たすNo.1〜17の鋼板は、HAZの低温靭性に優れていると共に、母材特性(靭性、降伏強さYS:440MPa以下、引張強さTS:530MPa以上、降伏比YR:75%以下)も優れた高張力鋼板であり、該鋼板を、大入熱片面サブマージアーク溶接法で溶接し、低温条件の用途に用いる場合にも優れた特性を発揮する。
これに対し、本発明の規定を満足しないNo.18〜40は、夫々、以下の不具合を有している。即ち、No.18〜20は、HAZの低温靭性に優れているものの、母材のフェライト分率が低く、希望する母材特性(降伏強さYS:440MPa以下、降伏比YR:75%以下)が得られていない。
No.21は、C含有量が上限を超えており、No.22は、Si含有量が上限を超えているため、HAZ靭性に劣っている。また、No.22では、フェライト粒径も大きくなっており、母材靭性も劣っている。更に、何れも母材のフェライト分率が低くなっており、希望する母材特性(降伏強さYS:440MPa以下、引張強さTS:530MPa以上、降伏比YR:75%以下)が得られていない。
No.23は、Mn含有量が不足しているためHAZ靭性が劣っている。また希望する母材特性(引張強さTS:530MPa以上、降伏比YR:75%以下)が得られていない。一方、No.24は、Mn含有量が過剰であるため、優れたHAZ靭性を確保できていない。
No.25はP含有量が過剰であり、またNo.26はS含有量が過剰であるため、いずれもHAZ靭性に劣っている。また、いずれも母材のフェライト分率が低くなっており、希望する母材特性(降伏強さYS:440MPa以下、降伏比YR:75%以下)が得られていない。
No.27はAl含有量が不足しており、No.28はAl含有量が過剰であるため、HAZ靭性に劣っている。また、No.29はNb含有量が不足しており、No.30はNb含有量が過剰であるため、いずれもHAZ靭性に劣っている。このうち、No.29のものでは、フェライト粒径も大きくなっており、母材靭性が劣化している。
No.31はTi含有量が不足しており、No.32はTi含有量が過剰であるため、HAZ靭性に劣っている。No.33はB含有量が不足しており、No.34はB含有量が過剰であるため、いずれもHAZ靭性に劣っている。またNo.35はN含有量が不足しており、一方、No.36はN含有量が過剰であるため、いずれもHAZ靭性に劣っている。
No.37は、(B−NT/1.3)が式(1)の下限を上回っており、またNo.38は、(B−NT/1.3)が式(1)の上限を下回っているため、いずれもHAZ靭性に劣っている。
No.39、40は、Cu、NiおよびVよりなる群から選択される1種以上を含むものであるが、式(2)の上限を上回っているため、HAZ靭性に劣っている。
(B−NT/1.3)とHAZのvE-60との関係を示すグラフである。 フェライト分率と降伏強さYSとの関係を示すグラフである。 フェライト粒径と母材の吸収エネルギーvE-60との関係を示すグラフである。 (Cu+Ni+60Nb+20V)とHAZのvE-60との関係を示すグラフである。 実施例での溶接における開先形状の断面図を示す。 FCB溶接時の電極配置の模式図を示す。

Claims (3)

  1. C:0.03〜0.09%(「質量%」の意味、化学成分については以下同じ)、Si:0.01〜0.25%、Mn:1.20〜1.60%、P:0.010%以下(0%を含まない)、S:0.003%以下(0%を含まない)、Al:0.02〜0.04%、Nb:0.005〜0.016%、B:0.0006〜0.0020%、N:0.0045〜0.0090%、Ti:0.008〜0.020%を夫々含有すると共に、下記式(1)を満たし、残部鉄および不可避不純物であり、且つ全組織に占めるフェライト分率が45〜85面積%であり、残部がベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織からなり、前記フェライトの平均結晶粒径が19μm以下であることを特徴とする溶接熱影響部の低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼板。
    −20≦(B−NT/1.3)≦10 …(1)
    {式中、BはB含有量(質量ppm)を示す。
    またNTは、
    N(N含有量、単位:質量ppm)とTi(Ti含有量、単位:質量ppm)の関係が、
    (N−Ti/3.4)≧0である場合には、NT=(N−Ti/3.4)、
    (N−Ti/3.4)<0である場合には、NT=0を示す}
  2. 更に、Cu:0.5%以下(0%を含まない)、Ni:0.8%以下(0%を含まない)、およびV:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を、下記式(2)を満たすように含む請求項1に記載の低降伏比高張力鋼板。
    (Cu+Ni+60Nb+20V)≦1.4 …(2)
    {式中、Cu、Ni、Nb、Vは、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す}
  3. 更に、Ca:0.003%以下(0%を含まない)を含む請求項1または2に記載の低降伏比高張力鋼板。
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