JP4490472B2 - 溶接熱影響部および母材の低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼板並びにその製造方法 - Google Patents
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Description
IGC CODE 17.13(International Code for the Construction and Equipment of Ships Carrying Liquefied Gases in Bulk) 2002年版
硬質相であるMAの生成を抑制し、−60℃でのHAZ靭性を確保すべく、C含有量を0.09%以下に抑える必要がある。一方、Cは、鋼板の強度確保に必須の元素でもあることから、0.06%以上含有させる。
Siは0.25%以下に低減することにより、MAの生成を十分に抑制でき、HAZの低温靭性を容易に確保することができる。一方、Siは、溶鋼の脱酸に使用されると共に強度向上に有効に作用する元素であるため、0.05%以上含有させる必要がある。
Mnは、SをMnSとして捕捉し、SによるHAZ靭性の劣化を抑制するのに有用な元素である。また、焼入れ性を高めて鋼板の高強度化に寄与する元素でもある。こうした作用を有効に発揮させるには、Mnを1.2%以上含有させる必要がある。好ましくは1.35%以上である。しかし、Mn量が過剰になるとHAZ靭性、母材靭性が却って劣化するため、1.6%以下に抑える。
Pは、HAZ靭性を劣化させる元素であるため極力低減する必要があり、本発明では0.01%以下に抑える。しかしPは、鋼の製造で不可避的に混入する不純物であり、工業的にその量を0%にすることは困難である。
Sは、粗大な硫化物を生成してHAZ靭性を劣化させる元素である。よって極力低減する必要があり、本発明では0.003%以下に抑える。しかしSは、鋼の製造で不可避的に混入する不純物であり、工業的にその量を0%にすることは困難である。
Alは、脱酸剤として使用されるが、Al含有量が過剰になると、アルミナ等の酸化物系介在物が増大し、HAZ靭性が劣化するので、0.06%以下に抑える。
Bは、BNを生成することにより粒内フェライトの生成を促進する作用を有し、HAZ靭性を向上させる。また固溶Bは、粒界フェライトの粗大化およびフェライトサイドプレートの生成を抑制し、オーステナイト粒内の結晶粒を微細化する効果も有する。該作用効果を十分発揮させるには、Bを0.0007%以上含有させる必要がある。一方、Bが多過ぎると、過剰の固溶Bの作用により結晶が一定方向に形成され、HAZ靭性が却って劣化する。よってB含有量は、0.0015%以下に抑える。
Tiは、TiN系析出物を生成して粒内フェライトの生成を促進すると共に、オーステナイト粒の粗大化抑制にも有効な元素である。また、高強度化に寄与する元素でもある。こうした作用を有効に発揮させるには、Tiを0.009%以上含有させる必要があり、好ましくは0.010%以上である。しかし、Tiを過剰に含有させると、却ってHAZ靭性の低下を招くだけでなく、フリーとなるN量(固溶N量)が低下し、圧延での残留オーステナイト(残量γ)の安定効果が弱まるため0.018%以下とする必要がある。
Nは、Ti、B、Al、Nb等の元素と窒化物を形成してHAZ靭性を向上させる元素である。また固溶したN(その量については後述する)はMAに固溶析出し、残留γを安定化させる働きを有していることから、その量も含めて0.0050%以上(好ましくは0.0060%以上)含有させる必要がある。しかしなから、Nが過剰になると固溶N量が増加し却ってHAZ靭性を劣化させるので0.0080%以下に抑える。
Nbは、NbN系析出物を生成してオーステナイト粒の粗大化抑制に有効な元素である。また高強度化に寄与する元素でもある。この様な作用を有効に発揮させるためには、Nb含有量は0.012%以上とする必要があり、好ましくは0.015%以上である。しかし過剰に含まれていると、却ってHAZ靭性の低下を招くだけでなく、フリーとなるN量が低下し、圧延での残留γ量の安定効果が弱まるため、0.020%以下に抑える。
上記のようにNは、窒化物を形成してHAZ靭性を向上させる元素であるが、窒化物を形成して残ったN(固溶N)はMAに固溶析出し、残留γを安定化させる働きを有している。こうした効果を発揮させるためには、固溶N量は、0.0003%以上(好ましくは0.0004%以上)を確保する必要がある。しかしなから、固溶Nが過剰になると却ってHAZ靭性を劣化させるので0.0040%以下(好ましくは0.0037%以下)に抑える。
CuおよびNiは、いずれも母材靭性確保、強度確保に有用な元素である。こうした効果は、それらの含有量が増加するにつれて増大するが、過剰に含有させると、Cuは熱間加工性を阻害させ、NiはHAZ靭性を劣化させる。またNiの過剰添加は、液体アンモニア中で応力腐食割れ(SCC)を誘発する可能性がある。こうしたことから、CuおよびNiを含有させるときの含有量は、0.4%以下と定めた。
Mo,CrおよびVは、いずれも焼入れ性を高めて高強度化に有効な元素である。こうした効果は、それらの含有量が増加するにつれて増大するが、過剰に含有させると、HAZ靭性の劣化を招くので、Moは0.15%以下、Crは0.15%以下、Vは0.04%以下に夫々抑えるのがよい。
Caは、HAZ靭性に悪影響を及ぼすSをCaSとして固定すると共に、非金属介在物を粒状に形態制御して靭性を向上させるのに有効な元素である。この様な効果を十分発揮させるには、Caを0.0010%以上含有させることが好ましいが、過剰に含有させても、これらの効果は飽和しHAZ靭性が却って劣化する。よってCa含有量は、0.003%以下とすることが好ましい。
熱間圧延時の鋼片の加熱温度は、加熱時のオーステナイト粒を小さく保ち、圧延組織の微細化を図るために適切な範囲に設定する必要がある。1250℃は加熱時のオーステナイト粒を極端に粗大化しない上限であり、加熱温度がこれを超えるとオーステナイト粒の粗大化と共に、変態後の組織も粗大化し、鋼の靭性が著しく劣化する。一方、加熱温度が低過ぎると、後述する圧延完了温度(Ar3変態点以上)の確保が困難となるばかりでなく、オーステナイト粒の粗大化を抑制する働きを持つNbの溶体化の観点から、加熱温度の下限を1000℃とした。
熱間圧延終了温度は、上記加熱温度と同様、鋼材を確実にオーステナイト状態にするための条件である。そのためにはAr3変態点以上の温度とする必要がある。Ar3変態点温度を下回ると、圧延中不均一にフェライトが変態析出し、フェライトを加工(圧延)する恐れがあり、材質のバラツキの観点から好ましくない。圧延終了温度の上限は、上記加熱温度の範囲内となる。尚、本発明において、「Ar3変態点」とは、下記式(1)で求められた値である。
Ar3変態点(℃)=930―230・[C]+25・[Si]−74・[Mn]−56・[Cu]−16・[Ni]−9・[Cr]−5・[Mo]−1620・[Nb]
…(1)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo]および[Nb]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,MoおよびNbの含有量(質量%)を示し、合金元素を添加しない場合は、その項がないものとして計算する。
上記熱間圧延を終了した後は、放冷(1℃/秒相当)して所定の温度範囲としてから加速冷却を開始する。冷却開始温度が720℃を超えると、フェライト変態の核生成の成長が不足することでフェライト分率が不足し、降伏強さが大きくなる。一方、冷却開始温度が620℃未満になると、フェライト分率が多くなり過ぎ、その後の放冷中にパーライトが生成して母材の強度・靭性が低下する。
上記冷却開始温度(620〜720℃)から、350〜450℃の温度まで冷却するときの平均冷却速度は、10℃/秒以上とする必要がある。この冷却速度が10℃/秒未満となると、冷却途中でパーライトが生成して所定のフェライト+ベイナイトの混合組織が得られず(フェライト+パーライト組織となる)、母材靭性や強度が低下することになる。この平均冷却速度の上限については、限定するものではないが、工業的に採用できることを考慮して60℃/秒程度が好ましい。
冷却停止温度が、350℃よりも低くなると、マルテンサイト(ラスマルテンサイト)が生成して、フェライト+マルテンサイト組織となって母材の靭性や強度が低下することになる。一方、この冷却停止温度が450℃よりも高くなると、所定量の島状マルテンサイトが確保できず、母材の靭性や強度が低下することになる。
加速冷却を行った後は、放冷を行う必要がある。この放冷によって所定のフェライト分率を確保できることになる。尚、本発明において「放冷」とは、冷却を停止して鋼板を放置することによって、冷却速度が1.0℃/秒未満であるような状態を意味する。
によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
10×10×50(mm)のサンプルを、各鋼板のt/4部(t:板厚)から切り出し、このサンプルを電解液(アセチルアセトンを10質量%含有するエタノール溶液)中に浸漬させ、100mAの電流を5時間流して、母材の金属Feを電気分解し、電解液体に存在する析出物(TiN、BN、NbN等)をメッシュ直径:0.1μmのフィルターで濾過して残渣を回収した。残渣中のN濃度を求め、全N量から差し引いた量を固溶N量とした。
フェライトの分率は、各鋼板のt/4部(t:板厚)について、3%ナイタール溶液でエッチングした後、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で10視野の写真を撮影した後、画像解析ソフトを用いて測定し、平均値を求めた。また、フェライトの分率については、各鋼板のt/4部(t:板厚)の位置だけでなく、t/2部(t:板厚)の位置においても測定したところ、同じ組織となっていることが確認できた。
各鋼板のt/4部(t:板厚)の位置において、レペラ腐食をした後、光学顕微鏡を用いて倍率1000倍で1視野:50μm×50μmの領域を観察し、画像解析ソフトを用いて測定し、10視野の平均値を求めた。
各鋼板のt/4部(t:板厚)の位置において、X線回折し、リーベルト法でα−Fe(200)面とγ−Fe(200)面のピーク強度比から理論強度比を計算によって求めて、残留γの比率を求めた。このとき用いたX線回折装置は、RAD−RU300(商品名:理学電気社製)を使用し、ターゲットはCo、ターゲット出力は40kV、200mAとした。
各鋼板の全厚から、圧延方向に直角の方向にJIS Z 2201の1B号試験片を採取して、JIS Z 2241の要領で引張試験を行ない、降伏強さYS(降伏点があるときは下降伏点YP、ないときは0.2%耐力σ0.2)および引張強さ(TS)を測定した。そして降伏強さ:440MPa以下、引張強さ:510MPa以上で、降伏比(YS/TS)が80%以下のものを、本発明の低降伏比高張力鋼板と評価した。
上記鋼板を用いた片面サブマージアーク溶接をFCB法で実施した。FCB法は銅板の上に裏当てフラックスを敷き、開先裏面に押し当て、表面片側から裏ビードを形成しながら溶接を完了させる方法であり、造船等の板継ぎ溶接で一般的に適用されている。開先形状を図1[(a)は板厚12mmの場合、(b)は板厚30mmの場合]に示す。溶接材料は、下記の低温用鋼溶接材料(神戸製鋼所製)を使用し、図2および表3の溶接条件で溶接継手を作製した。
[溶接材料]
・ワイヤ;US−255
・表フラックス;PFI−50LT
・裏当てフラックス;MF−1R
Claims (5)
- C:0.06〜0.09%(「質量%」の意味、化学成分については以下同じ)、Si:0.05〜0.25%、Mn:1.2〜1.6%、P:0.01%以下(0%を含まない)、S:0.003%以下(0%を含まない)、Al:0.06%以下(0%を含まない)、B:0.0007〜0.0015%、Ti:0.009〜0.018%、N:0.0050〜0.0080%およびNb:0.012〜0.020%を夫々含有すると共に、鋼中の固溶N量が0.0003〜0.0040%であり、残部が鉄および不可避的不純物であり、且つt/4(t:板厚)位置のミクロ組織において、全組織に占めるフェライト分率が60〜85面積%、島状マルテンサイト分率が1〜5面積%であり、残部がベイナイト組織の混合組織からなり、更に前記島状マルテンサイト中の残留オーステナイトが60面積%以上であることを特徴とする溶接熱影響部および母材の低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼板。
- 更に、Cu:0.4%以下(0%を含まない)および/またはNi:0.4%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1に記載の低降伏比高張力鋼板。
- 更に、Mo:0.15%以下(0%を含まない)、Cr:0.15%以下(0%を含まない)およびV:0.04%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有するものである請求項1または2に記載の低降伏比高張力鋼板。
- 更に、Ca:0.003%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の低降伏比高張力鋼板。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の低降伏比高張力鋼板を製造するに当り、前記化学成分組成を満足する鋼スラブを、1000〜1250℃の温度に加熱し、Ar3変態点以上の温度で熱間圧延を終了した後、620〜720℃の温度域から冷却を開始し、350〜450℃の温度範囲まで10℃/秒以上の平均冷却速度で加速冷却を行い、その後放冷することを特徴とする低降伏比高張力鋼板の製造方法。
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