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JP2006292021A - スペーサエキスパンダ及びその製造方法 - Google Patents

スペーサエキスパンダ及びその製造方法 Download PDF

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JP2006292021A JP2005111236A JP2005111236A JP2006292021A JP 2006292021 A JP2006292021 A JP 2006292021A JP 2005111236 A JP2005111236 A JP 2005111236A JP 2005111236 A JP2005111236 A JP 2005111236A JP 2006292021 A JP2006292021 A JP 2006292021A
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Abstract

【課題】 スペーサエキスパンダのギヤ成形時、波形形状角部のめっき皮膜の欠け・剥離やめっき厚さ小等に伴う母材露出によって、窒化処理工程でスペーサエキスパンダ本体とりわけ波形形状角部が窒化されることを防止することを課題とする。
【解決手段】 スペーサエキスパンダ(1)は平板状線材(2)によりピストン軸方向波形(3,4)に形成されて周方向に延伸しており、内周部にはピストン軸方向に母材の剪断により突出して形成され、サイドレールを半径方向外側に押圧する押圧片部(7)を有し、該押圧片部(7)の母材(2)の剪断面(5)には窒化層が形成されており、該剪断面(5)以外の面は、Niめっき皮膜又はNi拡散層を有するNiめっき皮膜で覆われている。
【選択図】 図2

Description

本発明は、内燃機関のピストンに装着されかつオイルコントロールを行う組み合わせ3ピースオイルリングに用いられるスペーサエキスパンダに関する。
3ピースオイルリングは上下のサイドレールとサイドレールを半径方向に押圧するスペーサエキスパンダの組合せからなり、スペーサエキスパンダは周方向に圧縮された状態でシリンダ内に挿入され、内周側に設けられた軸方向の押圧片部を介し、その反発力でサイドレールをシリンダ内周面に押圧するものである。それ故、該押圧片部のサイドレール内周面との接触面は摩耗しやすく、とりわけ、内燃機関の高出力化・高性能化に伴って、サイドレール内周面に硬質Crメッキ皮膜や窒化層が設けられるように成ってからは、その摩耗はいっそう顕著になってきている。
このようなことから、スペーサエキスパンダの耐摩耗性向上を目的として、スペーサエキスパンダに窒化層を設けることが行われるようになってきた。例えば実開昭53−147308号公報では、サイドレールと接触するスペーサエキスパンダの外表面に焼入れ又は窒化処理による硬化層を形成したスペーサエキスパンダが開示されている。
一方、現在、自動車エンジンに於いては、地球温暖化防止の観点からCO2排出の削減が求められており、自動車エンジンでは燃費の向上が図られている。この一手段として、ピストンリングでは摩擦力の低減からピストンリングの低張力化が望まれており、とりわけ張力の高い組合せオイルリングではこれが緊急な課題となっている。
組合せオイルリングの低張力化のためには、スペーサエキスパンダの張力を低く設計することが必要であるが、張力バラツキを従来以上に小さくしなければ、場合によっては、オイルリングの張力がゼロとなることも考えられ、オイルリングの機能が満足されないことも起こりうる。オイルリングの張力はスペーサエキスパンダ周方向での縮径の程度により決められるのであるから、スペーサエキスパンダの周方向の寸法バラツキや母材の弾性率のバラツキがオイルリング張力のバラツキを生む原因となる。
スペーサエキスパンダの窒化処理では塩浴窒化法やガス窒化法或いはイオン窒化等の技術が用いられるが表面の活性化程度により窒化開始に時間差を生じるため、窒化温度や窒化時間或いは窒化雰囲気等の条件を固定しても窒化層深さにバラツキを生じる。即ち、スペーサエキスパンダの張力に窒化深さバラツキによるバラツキが生まれ、結果的に組合せオイルリングの張力バラツキを生んでいた。
また、上下方向波形のスペーサエキスパンダでは波形形状成形加工中に母材に発生するヘヤークラックが窒化処理によってノッチ効果が増長され、スペーサエキスパンダの疲労限界を低下させるという問題もあった。
このようなことから、窒化スペーサエキスパンダ組合せオイルリングの張力バラツキを押さえるため、また、窒化スペーサエキスパンダの疲労強度低下防止のためにレールリング内周部と接触する押圧片部のみに窒化層を設け、スペーサエキスパンダの本体には窒化層を形成させないとした考えが開示されている。
実開平4−64658号公報は軸方向に連続した波形状を成し、内周側の上下に突出した複数個の離間した耳部を有するスペーサエキスパンダにおいて、前記波形状の成形前の帯状素材の全表面に窒化防止用表面処理層を有し、本体表面より剪断された前記耳部の面に窒化防止用処理層が無い母材表面を有するスペーサエキスパンダを開示する。同公報は、さらに、スペーサエキスパンダの本体全体に窒化が入るとスペーサエキスパンダの疲労強度が低下し、使用中に疲労破壊するという問題を解決するために、スペーサエキスパンダの成形加工前の帯状鋼材表面にSnめっき又はCuめっき等の窒化防止皮膜を施し、後続する成形加工過程でレール部分との接触部分のみ母材が露出するように耳部成形を行った後に窒化するものであり、剪断によって露出した母材部分のみ窒化層を形成し、その他表面は窒化防止層が形成されており、窒化層生成がなされないので疲労強度が高く且つレールリング内周面と接触する耳部のみが窒化された、耐摩耗性が優れるスペーサエキスパンダを開示する。
この公知例はスペーサエキスパンダの張力バラツキ低減を目的とはしていないが、スペーサエキスパンダの耳部以外には窒化層が形成されないことからスペーサエキスパンダの張力バラツキが少なくなることが予想される。しかしながら、Snめっきは融点が低く、窒化処理温度に達したときは溶融するので窒化防止能力は低いうえスペーサエキスパンダの商品性を損ねる。同様に、Cuめっき皮膜もアンモニアガスにより腐食されるので、スペーサエキスパンダの商品性を損ねるという問題がある。尚、Niめっき皮膜及び製造方法については一切記載がない。
特開2003−28299号公報は組合せオイルリングのスペーサエキスパンダであって本体内周部にピストン軸方向上下に突出した押圧片部を有し、該押圧片部の剪断により形成された面にのみ窒化層を有し、その他の表面がNiまたはCrあるいはCu皮膜を有することを特徴とするスペーサエキスパンダである。前記実案と同様に、本体全体に窒化層が形成されることが防止され、剪断によって形成されたスペーサエキスパンダの耳部のみが窒化されたスペーサエキスパンダであり、組合せオイルリングの張力バラツキを低減できることを開示するものである。
実開昭53−147308号公報 実開平4−64658号公報 特開2003−28299号公報 特開平10−311763号公報
本発明の組合せオイルリングのスペーサエキスパンダの製造方法は、平板状線材表面にNi、Cr又はCu皮膜を施す工程、ギヤ成形により線材を軸方向波形に成形する工程、該波形線材の内周部分に押圧片部を剪断によって形成する工程、ついで窒化処理を施す工程から成ることを特徴とするものである。
しかしながら、この開示情報に基づき本願発明者が実施したところ次の問題があることが判明した。即ち、これらの発明に開示されたスペーサエキスパンダの製造方法では帯状線材にめっき手法を用いて金属膜を形成したのちギヤ成形により上下方向波形形状且つ押圧片部を剪断により形成するために、(1) 実施例のCrめっき皮膜単体では波形形状の角部ではめっき皮膜にクラックが入り窒化防止効果が低い。(2) 同様に、硬いNiめっき皮膜でも波形形状の角部で皮膜剥離や欠けが生じ窒化防止効果が少なくスペーサエキスパンダの変形をもたらす。(3) 施工めっき膜厚さが薄い場合には、波形形状の角部は被膜が伸ばされるので、母材が露出し或いはめっき厚さが極端に薄くなり、窒化防止効果が失われ母材に窒化層が形成される。そのため、張力バラツキは思ったほど小さくはない。(4) 窒化防止を確実にするために軟質のNiめっき皮膜やCuめっき皮膜のめっき厚さを厚くすると、軟質皮膜の耐摩耗性は低いので、使用中に摩耗によりピストンリング溝とのクリアランスが大きくなるのでオイル消費が多くなり望ましくない等の問題があることが判明した。
即ち、この方法ではNiやCrやCuのめっき皮膜の膜厚を狭い範囲に管理しなければならず、また、剥離や欠け防止のためにめっき皮膜の硬さにも注意しなければならないことが解った。尚、本発明の実施例はCrめっき皮膜に関するものであり、Ni、Cuめっき皮膜での詳細については本明細書には一切触れられていない。
本願は以上のような知見に基づきなされたものであって、スペーサエキスパンダのギヤ成形時、波形形状角部のめっき皮膜の欠け・剥離やめっき厚さ小等に伴う母材露出によって、窒化処理工程でスペーサエキスパンダ本体とりわけ波形形状角部が窒化されることを防止することを課題とする。
本願第一の発明は、スペーサエキスパンダとスペーサエキスパンダによって支持される一対のレールリングからなる組合せオイルリングのスペーサエキスパンダであって、スペーサエキスパンダは平板状金属によりピストン軸方向波形に形成されて周方向に延伸しており、内周部にはピストン軸方向に母材の剪断により突出して形成され、サイドレールを半径方向外側に押圧する押圧片部を有し、該押圧片部の母材の剪断面には窒化層が形成されており、該剪断面以外の面は、Niめっき皮膜又はNi拡散層を有するNiめっき皮膜で覆われていることを特徴とする組合せオイルリングのスペーサエキスパンダである。
本願第二の発明は、スペーサエキスパンダの製造方法であって、平板状線材表面にNiめっき皮膜を1〜7μm施す第一工程、該平板状線材に熱処理を施す第二工程、該平板状線材を波形形状に塑性加工すると同時に該波形線材の内周部分に剪断によって押圧片部を形成する第三工程、リング状に成形する第四工程、ついで窒化処理を施す第五工程から成ることを特徴とする請求項1項記載のスペーサエキスパンダの製造方法である。
本願第三の発明は、スペーサエキスパンダの製造方法であって、丸線材表面にNiめっき皮膜を1〜7μm施す第一工程、該丸状線材に熱処理を施す第二工程、該丸状線材を平板状線材に塑性加工する第三工程、該平板状線材を波形形状に塑性加工すると同時に該波形線材の内周部分に剪断によって押圧片部を形成する第四工程、リング状に成形する第五工程、ついで窒化処理を施す第六工程から成ることを特徴とする請求項1項記載のスペーサエキスパンダの製造方法である。
本願第四の発明は、請求項2及び3項記載の発明に於いて、熱処理工程でNiめっき皮膜の硬さをHv250以下とするか又は/及び0.01〜5μmのNi拡散層を設けることを特徴とするものである。
本発明によれば、めっき後熱処理を行い、めっき層の硬度を落とし、塑性変形しやすいように(延びやすく)したことにより、エキスパンダ角部での窒化防止も充分行われる。このため、張力のバラツキを一層押さえることができる。
図1の(a)と(b)を参照する。スペーサエキスパンダ1は、平板状線材2をピストン軸方向に波形に成形し、連続する山部3と谷部4を形成する。次いで、山部3と谷部4との内周側に剪断面5を入れ、山部3と谷部4に平坦なサイドレール着座面6とサイドレールをシリンダ内周面に押圧する押圧片部7とを形成する。リング状に成形し、スペーサエキスパンダ1とし、剪断面5に上下サイドレールの内周面を摺接させて組合せオイルリングとする。
窒化層は母材に比べ弾性率が高いので、少しの窒化層深さのバラツキでもスペーサエキスパンダの張力バラツキに大きく影響する。従って、窒化スペーサエキスパンダの製造に伴う張力バラツキを低く押さえるには、スペーサエキスパンダ全体に均一な深さの窒化層を形成するようにしなければならない。しかしながら、前述のように窒化深さを均一にすることは難しい。そのため、スペーサエキスパンダ全体に窒化層が入ることを防ぎながら、耐摩耗性の必要な押圧片部のサイドレール内周面との接触面にのみ窒化層を形成することが考えられる。
この場合、平板状線材を波形に成形した後、押圧片部を形成すると同時にリング状にコイリングした後、切断し又は切断しないでスペーサエキスパンダ全体に窒化防止用の皮膜を形成し、窒化層が必要な箇所の皮膜を除去して窒化処理を行うか、窒化層が必要な部分を除いた全面に窒化防止層を成形した後窒化処理を行うことが一般的である。しかし、スペーサエキスパンダが波形形状をしていることやリング状になっていることから、生産性よく窒化防止用皮膜を均一に形成することや窒化層が必要な部分を除いてその他全面に窒化防止層を成形することは難しい。
そこで、本願に於いては、押圧片部の窒化層が必要な面が押圧片部形成のための母材の剪断によって新たに生ずる面であることを生かし、線材に窒化防止用のNiめっき皮膜を形成した後、ギヤ成形によって波形形状に成形すると同時に母材の剪断加工による押圧片部を形成し、その後とリング状へのコイリング後窒化処理をする方法をとることとした。
この場合、スペーサエキスパンダ素材は主にオーステナイトステンレス鋼であり表面にはいろいろな厚さの酸化膜が形成されており、波形形状加工時に波形形状角部の窒化防止皮膜の剥離が生じないような、密着性に優れためっき層を形成することは高度な前処理が必要になり、また、波形形状角部の窒化防止皮膜の薄肉化により部分的に窒化層が形成されるのを防止するためには、帯状線材全周に均一な限定された膜厚の皮膜を形成するようなめっき工程を組むことが必要なこと、波形形状加工時に波形形状角部のめっき皮膜の剥離や欠を防ぐために、欠けにくく延びやすい低硬度なめっき皮膜になるようなめっき条件とすることは生産性を著しく悪化させること等から、高コストとなり得策ではないと判断した。
そこで本発明者たちは、波形形状成形加工時のめっき皮膜のカケ・剥離防止について鋭意研究した結果、皮膜形成後に熱処理を施すことによって、Niめっき皮膜は軟化し延びやすくなるので、波形形状角部でも母材の変形に良く追随し皮膜の剥離や・欠けが生じにくいこと、更に、熱処理温度・時間を選ぶことにより容易に母材であるステンレス鋼に拡散し皮膜の密着性が更に上がること、同時に、この拡散層も窒化防止効果を持つとの知見を得た。
そこで、素材を平板状線材とした場合にはめっき皮膜形成後、波形形状への塑性加工の前に、また、丸状線材を素材として用いる場合には、めっき皮膜形成後平状線材に圧延加工する前に、熱処理工程を加えることで、その後の工程でのNiめっき皮膜の欠け・剥離が防止でき、また、拡散層が有ればNiめっき皮膜の欠け・剥離が生じても窒化防止機能があるので、母材が窒化されないことを見いだした。即ち、Niめっき皮膜形成後熱処理工程を加えることで、Niめっき皮膜の厚さのバラツキや密着性のバラツキ硬さ等を気にすることなく波形形状角部の窒化防止できることから、めっき工程の生産性をも向上できることを見いだした。以下具体的に説明する。
[スペーサエキスパンダ]
本願第一の発明であるスペーサエキスパンダは母材には一般的なオーステナイトステンレス鋼を使用する。しかし、これに限られるものではなく、サイドレールとの摺接面に窒化層を形成できるものであり、ギヤ成形により波形形状に成形する際に問題とならない素材であるならば使用することができる。
本発明のスペーサエキスパンダではスペーサエキスパンダ押圧片部のサイドレールとの摺接面はスペーサエキスパンダ押圧片部の剪断により形成され、窒化された面であるため、サイドレールと摺接による摩耗を防止することが出来る。窒化層深さに制限はなく必要な窒化深さは窒化処理時間の調整で得ることができる。通常オーステナイトステンレス鋼を母材とした時は窒化層の表面硬さはHv1000〜1500とする。窒化深さは5〜20μm(Hv700以上)である。尚、表面には窒化物層が形成されていても良い。
スペーサエキスパンダ押圧片部の剪断により形成され、窒化された面を除く部分は、Niめっき皮膜又はNi拡散層を有するNiめっき皮膜で覆われており、母材には窒化層が形成されていない。従って、スペーサエキスパンダは折損しにくいばかりではなく、窒化層が形成されないので、窒化層の窒化ムラに起因するスペーサエキスパンダの張力のバラツキを低く押さえることが出来る。
[スペーサエキスパンダの製造方法]
本願第二、第三の発明はスペーサエキスパンダの製造方法であってスペーサエキスパンダ用線材にNiめっき皮膜形成後に熱処理を施すことを特徴とする。熱処理によってNiめっき皮膜の残留応力が除去され、硬度も下がるので、皮膜が延びやすくなり、次工程のギヤ成形でも皮膜の破断や剥離・欠けが生じず波形形状の角部でも窒化されない。又、熱処理の温度と時間を調整することで拡散層も形成されるので、皮膜の母材への密着性も向上し、次工程のギヤ成形によっても皮膜が剥離したり、欠けたりすることがない。
また、拡散層自体にも窒化防止機能があるので、仮に、めっき皮膜が剥離した場合や窒化前に摩滅したとしても、スペーサエキスパンダ波形形状角部が窒化されることはない。つまり、確実に、窒化による張力バラツキを低減することができる。また、めっき後の皮膜硬さも厳密に管理する必要がないので、電着速度の速いめっき浴、めっき条件を選ぶことができるのでめっき工程の生産性を高めることができる効果もある。
本発明に於いて、Niめっき浴は通常のワット浴、塩化物浴、ホウフッ化浴、スルファミンサン浴等多くのめっき浴を使用することができる。これは、めっき皮膜形成後に熱処理を行うことで皮膜の電着応力を低下させ皮膜の展性や密着性を確保するからである。従って、熱処理により硬化するNi−Pめっき浴は望ましくない。
同様に光沢剤で残留応力が高くなるめっき浴は避けたいが、このような支障のない程度の光沢めっき浴は母材の凹凸にも対応するので成膜厚さを薄くできることから望ましい。従って、電着速度の速いスルファミン浴やワット使用が好適である。同様に、めっき浴温度、電流密度は皮膜の展性に支障のない範囲で高速にめっきできる条件を選択することが望ましい。
Niめっき厚さは1μm〜7μmがよい。めっき厚さが1μm以下では波形形状角部では下地が露出して窒化される可能性が高い。Niめっき厚さは7μm以下が良い。7μm以上有ると、剪断面にめっき皮膜が被さり剪断部の窒化処理される面積が狭くなるうえ、使用中の摩耗によりピストンリング溝とのクリアランスが増大しオイル消費に影響を与えるので、めっき膜厚さは7μm以下が好ましい。
又、Niめっき皮膜硬度はHv250以下であることが必要である。Hv250以上有ると成形時の皮膜の延びが不足し、皮膜破断や皮膜剥離・欠けが発生し窒化防止の効果が十分でなくなる。
めっき拡散層は0.01μm以上あればめっき皮膜の密着性向上に効果があり、拡散層厚さが5μm以上あると、拡散層が脆くなるのでめっき皮膜が剥離しやすくなる。めっき皮膜が剥離しても拡散層があるので窒化防止はできるが、めっき皮膜の欠け・剥離は商品性等を損ねるので、拡散層厚さは5μm以下が望ましい。
熱処理温度は400〜600℃が望ましい。400℃以下では熱処理に時間を要しめっき工程と連続にできず得策ではない。600℃以上では次工程の窒化温度以上となり母材の強度低下をもたらすので望ましくない。但し、高温での熱処理は熱処理時間を短縮できるので生産性の向上につながるメリットはある。
以下実施例に基づき説明する。
[1.Niめっき]
幅:2.2mm、厚さ:0.25mm、端部:0.3RのSUS304材(硬度Hv240)のフープ材をフープ材連続めっき装置にてNiめっきを行った。
めっき工程 フープ材は脱脂→水洗→酸洗→水洗→Niめっき→水洗→乾燥
Niめっき浴 硫酸ニッケル 240g/l
塩化ニッケル 45 g/l
硼酸 30 g/l
めっき条件 浴温 45℃
電流密度 約5A/dm2
時間 1〜10分
めっき方法 平行部が地面に対し垂直となるようにし連続巻き取り両側面にNi陽極を設置した。
巻き取り速度: 0.1〜1m/分
狙いめっき膜厚さ 約10μm、約7μm、約5μm、約3μm、約1μm、約0.5μm
[2.熱処理]
めっき処理が終わったものについて電気炉を用いていれ熱拡散処理を行った。熱処理条件は下記の2条件とした。
(1) 500℃×60分
(2) 500℃×10分
[3.成形]
この帯材を通常の成形工程(ギヤ成形方法で局部的な曲げと剪断による耳部成形→コイリングにより真円に連続巻き)を経て、1本ずつのエキスパンダ素材を得た。
[4.窒化]
得られたこれらスペーサエキスパンダをガス窒化処理炉にて窒化処理を行った。条件は下記の通りである。
窒化温度 580℃
時間 70分
[5.切断]
窒化後のスペーサエキスパンダを一定寸法に切断する。
[6.調査・測定]
1)断面観察
窒化処理後のスペーサエキスパンダの曲げ部(角部)を目視観察すると共に、剥離や欠けが合ったものについては、切断後、合成樹脂に埋め込み、電子顕微鏡や光学顕微鏡により断面観察を行った。
2)張力測定
作成したスペーサエキスパンダ(例No.7〜No.9、例No.13〜No.15)をn=30本で組合せ張力値を図1の張力測定器を用いて測定し張力バラツキを比較した。
[7.実験結果]
実験結果を表1に示す。
1)断面観察
Niめっき皮膜厚さ狙い5μm及び1μmの断面観察写真を図2乃至7に示す。
図2乃至7の顕微鏡写真において、写真中央の帯状の黒い部分はサンプル固定のための合成樹脂部分を示し、この黒い部分に接する母材の外周面の白い部分がめっき層を示す。めっき層の内側の灰色部分は窒素拡散層で、窒素がCrと反応してCrNが生成され母材中のCrが少なくなった部分を示し、その内側の色の薄くなっている層は窒素濃度の低い部分であって、残りは母材そのものを示す。
Niめっき皮膜厚さ狙いが5μmのものは、実際の膜厚は約5.2μmであった。Niめっきのみのものには(図2)には窒化拡散層が形成されているが、500℃×10分の熱処理を施したもの図3及び500℃×60分の熱処理品図4には、窒化拡散層は形成されていなかった。これは熱処理によってNiめっき皮膜の延性が増し、ギヤ成形時にNiめっき皮膜に破断・微細クラック・皮膜欠け等が発生しなかったためである(熱処理を実施しなかったものには、目視で微細なひび割れ様のものが観察された)。
図3、図4の比較からは、熱処理時間の長短に関わらず熱処理実施のみで窒化防止効果が十分得られていることが伺える。
図5、図6、図7はNiめっき皮膜厚さが約1.2μmと薄い場合の窒化処理後の断面写真である。図5は熱処理無し、図6は500℃、10分の熱処理品であるが、共に窒素拡散層が形成されているのが分かる。
図7は同ロットめっき処理品の500℃×60分の熱処理品である。めっき厚さは同じであるが窒化層は確認できないことから、
イ)めっき厚さが薄い場合には、熱処理によってNiめっき皮膜に延性が生じても、角部では極端にNiめっき皮膜が薄くなったり、皮膜の破断が生じるためか、短時間の熱処理では窒化防止効果としては弱い。
ロ)熱処理時間を長くすることにより、より一層めっき皮膜の延性が良好になり皮膜の破断が起こりにくくなると共に、Ni拡散層が生じて母材への密着性が向上しめっき剥離が発生しないこと、拡散層が窒化防止効果を持つことから、窒化防止がなされていると思われる。
[張力測定]
外径φ82.5、厚さ0.4、幅2.3のマスターレールを用いて、組合せオイルリング寸歩を外径φ82.5、厚さ2.0、幅2.8として特開平10−311763号公報に開示される張力測定装置を用いて張力測定を行い、張力バラツキの程度を測定した。設計の組合せ張力値は26.5N狙いである。
図8にNiめっき皮膜5.2μm品の張力値変化を示す。例No.7〜例No.9は窒化後の平均値に変化は見られないが、張力値バラツキが変化している。熱処理を実施することにより窒化後でも張力値バラツキ変化は見られず窒化処理前と同等の張力値バラツキを維持している。
図9にNi皮膜約1.2μm品の張力値変化を示す。例No.13、例No.14は窒化後に平均値・張力値バラツキが変化している。図5、図6でも分かるように、曲げ部に窒化が形成されていることが原因で張力値に変化が生じた事が伺える。しかし、例No.15は窒化後の平均値・張力値バラツキともに変化が見られず熱処理効果による窒化防止が確実に実施されている事が伺える。
(a)は帯状体を軸方向波形に形成した状態を示す部分斜視図であり、(b)波形の山部を剪断して押圧片部としたスペーサエキスパンダの部分斜視図である。 例No.7の窒化後の顕微鏡による断面写真である(400倍)。 例No.8の窒化後の顕微鏡による断面写真である(400倍)。 例No.9の窒化後の顕微鏡による断面写真である(400倍)。 例No.13の窒化後の顕微鏡による断面写真である(400倍)。 例No.14の窒化後の顕微鏡による断面写真である(400倍)。 例No.15の窒化後の顕微鏡による断面写真である(400倍)。 Ni皮膜、5μm品の張力変化を示すグラフ図である。 Ni皮膜、1μm品の張力変化を示すグラフ図である。
符号の説明
1 スペーサエキスパンダ
2 平板状線材
3 山部
4 谷部
5 剪断面
6 着座面
7 押圧片部

Claims (5)

  1. スペーサエキスパンダとスペーサエキスパンダによって支持される一対のレールリングからなる組合せオイルリングのスペーサエキスパンダであって、スペーサエキスパンダは平板状金属によりピストン軸方向波形に形成されて周方向に延伸しており、内周部にはピストン軸方向に母材の剪断により突出して形成され、サイドレールを半径方向外側に押圧する押圧片を有し、該押圧片の母材の剪断面には窒化層が形成されており、該剪断面以外の面は、Niめっき皮膜又はNi拡散層を有するNiめっき皮膜で覆われていることを特徴とする組合せオイルリングのスペーサエキスパンダ。
  2. スペーサエキスパンダの製造方法であって、平板状線材表面にNiめっき皮膜を1〜7μm施す第一工程、該平板状線材に熱処理を施す第二工程、該平板状線材を波形形状に塑性加工すると同時に該波形線材の内周部分に剪断によって押圧片部を形成する第三工程、リング状に成形する第四工程、ついで窒化処理を施す第五工程から成ることを特徴とする請求項1項記載のスペーサエキスパンダの製造方法。
  3. スペーサエキスパンダの製造方法であって、丸線材表面にNiめっき皮膜を1〜7μm施す第一工程、該丸状線材に熱処理を施す第二工程、該丸状線材を平板状線材に圧延加工する第三工程、該平板状線材を波形形状に塑性加工すると同時に該波形線材の内周部分に剪断によって押圧片部を形成する第四工程、リング状に成形する第五工程、ついで窒化処理を施す第六工程から成ることを特徴とする請求項1項記載のスペーサエキスパンダの製造方法。
  4. 熱処理によってNiめっき皮膜硬さをHv250以下とすることを特徴としたことを特徴とする請求項2、3に記載のスペーサエキスパンダの製造方法。
  5. 熱処理によってNi拡散層の厚さを0.01〜5μmとしたことを特徴とする請求項2、3項記載のスペーサエキスパンダの製造方法。


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