JP6029790B2 - 組合せオイルコントロールリング - Google Patents
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Description
本発明は、エンジンのピストンに装着され、オイルコントロールを行う組合せオイルコントロールリング(以下、「組合せオイルリング」又は「オイルリング」ともいう。)に関する。
近年、地球温暖化防止の観点からCO2排出の削減が求められており、自動車エンジンでは、燃費の向上、燃焼効率の向上が図られ、特に燃費の向上を目指して、ピストン系摺動部のフリクション低減に着目した改良が進められている。
ピストンリングの低張力化は特に重要で、中でもオイルリングの張力は、ピストンリングの全張力の50%以上を占めていることから、その張力を低減する対策が行われている。また、張力の低減には張力の公差幅も小さくすることが求められている。
一方、燃焼温度の上昇や直噴化による燃焼効率の向上は、エンジン潤滑油の変性により生じるオイルスラッジがサイドレールやスペーサエキスパンダを固着又は膠着する問題や、サイドレールやサイドレール内周面と接触するスペーサエキスパンダの耳部を摩耗するという問題も抱えている。
オイルリングの張力を低減することは、シリンダ壁面への追従性を低下させることにも繋がるため、オイル消費を増加させてしまうという懸念が生じ、また、オイルリングの固着・膠着、さらには摩耗の問題も、オイル消費を急激に増加させてしまうという不具合をもたらす。
追従性の問題については、サイドレールを薄幅化して断面係数を小さくし、追従性係数を増加させる方法、固着・膠着の問題については、表面にフッ素含有皮膜等の撥油性皮膜を形成する方法、摩耗の問題については、クロムめっきや窒化処理を施す方法等、様々な方法が提案されている。
例えば、ピストンリングの薄幅化については、特許文献1は具体的寸法として圧力リングの幅寸法を1.0 mm以下、組合せオイルリングの幅寸法を2.0 mm以下とすることを開示している。また、オイルリングの固着・膠着の問題について、特許文献2は金属アルコキシドとアルコキシル基の一部がフルオロアルキル基で置換されたフルオロアルキル基置換金属アルコキシドからゾルゲル法により撥液膜を形成する方法を提案している。さらに、摩耗の問題について、特許文献3はスペーサエキスパンダに窒化処理することを開示し、特許文献4は、耐食性に優れた窒化層として、Cu-KαX線回折において2θ=40°及び2θ=46°にピークを持つ特殊なS相を含むガス窒化層を10〜60μmに厚く形成することを開示している。
しかし、スペーサエキスパンダへの窒化は、窒化層を施す面積と厚さが増加すると、窒化によるヤング率の上昇とスペーサエキスパンダの展開長さ(周方向長さ)の増加によって、張力バラツキが大きくなり、所定の公差幅で製造しにくくなる。例えば、ガス窒化により30μmの厚さの窒化層をスペーサエキスパンダ全面に形成すると、窒化層形成前の張力に対し18Nも張力が上昇してしまって張力管理が困難になる。
特許文献5は、張力バラツキを低減するため、スペーサエキスパンダを製造する線材表面に窒化防止層としてNi、Cr又はCu皮膜を1〜5μm施す第一工程、ギア成形により線材を軸方向波形に形成する第二工程、波形線材の内周部分に押圧片部(耳部)を剪断によって形成する第三工程、ついで剪断面に窒化処理を施す第四工程からなるスペーサエキスパンダの製造方法を教示し、さらに、特許文献6は、スペーサエキスパンダのギア成形時に、波形形状角部のNiめっき皮膜の欠け・剥離や、めっき厚さが薄いこと等に伴う母材露出によって、窒化処理工程でスペーサエキスパンダ本体、とりわけ波形形状角部が窒化されることを防止するために、剪断面以外の面がNi拡散層を有する膜厚1〜7μmのNiめっき皮膜で覆われるべきことを教示している。
なお、特許文献7は、Niめっき皮膜が表面自由エネルギー及び水素結合力の観点でオイルスラッジの付着を抑制することを教示している。
上記のように、Niめっき皮膜は窒化防止膜又は耐固着・耐膠着膜として良好に機能することが確認されたが、製造条件によってはNiめっき皮膜自体の欠けや剥離をもたらす欠陥が導入される場合もあり、現実には、Niめっき皮膜の好ましい構造についてさらなる検討が求められている。
本発明は、低張力で張力バラツキが少なく、耐摩耗性及び耐スラッジ性に優れた組合せオイルコントロールリングを提供することを課題とする。
本発明者らは、組合せオイルコントロールリングのスペーサエキスパンダに被覆しためっき皮膜の構造について鋭意研究した結果、めっき皮膜の結晶配向、組織構造等を所定の範囲に調整することにより、欠陥が無く皮膜の欠けや剥離を起こさないめっき皮膜を形成することができることに想到した。
すなわち、本発明の組合せオイルコントロールリングは、合口を有する一対の円環状のサイドレールと、それらの間に介在し内周部に前記サイドレールの内周面を押圧する耳部を有する軸方向波形形状のスペーサエキスパンダよりなる組合せオイルコントロールリングであって、前記耳部のサイドレール押圧面に窒化層が形成され、前記窒化層が形成された部分を除く前記スペーサエキスパンダの全面にめっき皮膜が被覆され、前記めっき皮膜は、ビッカース硬さが300 HV0.01以下であり、めっき皮膜被覆面のX線回折プロファイルで、(200)面の組織係数が1.1以上であることを特徴とする。
また、前記めっき皮膜は、平均径0.2μm未満の柱状晶を含まないことが好ましい。
また、めっき皮膜の膜厚は、1〜7μmであることが好ましい。
また、めっき皮膜の表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra75)で0.005〜0.4μmであることが好ましい。
また、前記めっき皮膜は、Niめっき皮膜であることが好ましい。
また、本発明の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記窒化層の厚さは30μm以上であることが好ましい。
また、本発明の組合せオイルコントロールリングは、組合せ張力が5〜20 Nであることが好ましい。
本発明の組合せオイルコントロールリングは、スペーサエキスパンダ用フープ材に被覆しためっき皮膜において、(111)面の優先配向を抑え、(200)面の比率を高めた結晶構造とすることにより、欠陥のほとんど無い、欠けや剥離の生じにくいめっき皮膜とすることができる。このめっき皮膜は確実な窒化防止膜として機能し、スペーサエキスパンダ耳部のサイドレール押圧面に厚い窒化層の形成を可能とする。また、めっき皮膜の表面粗さを中心線平均粗さ(Ra75)で0.005〜0.4μmとすれば、さらにオイルスラッジによる固着・膠着の抑制にも貢献し、張力バラツキが小さく、低張力の、耐摩耗性及び耐スラッジ性に優れた組合せオイルコントロールリングとすることが可能となり、燃焼効率の向上による厳しい使用環境においても、低燃費化に貢献することができる。
以下に、本発明の組合せオイルリング、特にNiめっき皮膜を被覆したオイルリングについて詳細に説明する。
図1は組合せオイルリングの断面図を、図2はスペーサエキスパンダの一部の斜視図を示す。組合せオイルリング(1)は、合口を有する一対の円環状サイドレール(3,3)と、サイドレール(3,3)を支持するスペーサエキスパンダ(2)とからなり、スペーサエキスパンダ(2)の内周部にはサイドレール(3,3)の内周面を押圧する耳部(4)が設けられ、外周部には必要に応じてサイドレール(3,3)を支持するための軸方向に突出する支持部(5)が設けられている。支持部(5)が設けられた場合、耳部(4)と支持部(5)の連結部分を中手部(6)と呼んでいる。本発明では、耳部(4)のサイドレール押圧面(7)に窒化層が形成され、窒化層が形成された部分を除くスペーサエキスパンダの全面にNiめっき皮膜が被覆される。
Niめっき皮膜はスペーサエキスパンダに成形する前の帯状のフープ線材に被覆される。スペーサエキスパンダは、まずNiめっき皮膜が被覆されたフープ線材を軸方向波形に成形して図3に示すような連続する山部(10)と谷部(20)が形成され、続いて、図2に示すように山部(10)と谷部(20)の内周部に耳部(4)、外周部に支持部(5)及び中手部(6)が形成されて製造される。この時、耳部(4)の中手部(6)側にNiめっき皮膜の無い剪断面が形成される。窒化層は、この剪断面(サイドレール押圧面(7))のみに形成される。また、他の部分のNiめっき皮膜が窒化防止膜として機能するためには、フープ線材からスペーサエキスパンダに成形加工された後も被覆されたNiめっき皮膜に欠けや剥離等の不具合の無いことが求められる。
本発明のNiめっき皮膜は、めっきしたままでは350〜550 HV0.01程度のビッカース硬さを有する。このレベルの硬さでは伸びが6%程度と小さいので、スペーサエキスパンダへの加工においてNiめっき皮膜に欠けや剥離を生じてしまう。よって、熱処理によりNiめっき皮膜の硬さを300 HV0.01以下にする。熱処理は、非酸化性雰囲気(例えば、N2雰囲気)中、500〜700℃の温度で行うことが好ましい。生産性を考慮すれば、550℃以上の温度で1分以下とするのがより好ましい。また、非酸化性雰囲気は酸素濃度で評価すれば200 ppm以下が好ましい。このように熱処理したNiめっき皮膜の硬さは、270 HV0.01以下であるのがより好ましく、250 HV0.01以下であるのがさらに好ましい。一例として、硬さが250 HV0.01以下であれば、これらのNiめっき皮膜は10%以上の伸びを示すといわれている。
さらに、本発明では、熱処理後、Niめっき皮膜の被覆面のX線回折プロファイルで、 (200)面の組織係数は1.1以上とする。ここで、(hkl)面の組織係数(Texture Coefficient)は、一般に、
(hkl)面の組織係数=I(hkl)/I0(hkl)・[(1/n)・Σ(I(hkl)/I0(hkl))]-1 …(1)
により定義され、I(hkl)は測定された(hkl)面のX線回折強度(測定されたX線回折強度の最大のものを100として換算している)、I0(hkl)はJCPDSファイル番号04-0850に記載されている標準X線回折強度である。ファイル番号04-0850には(111)、(200)、(220)、(311)、(222)、(400)、(331)、(420)の8種類の(hkl)面の標準X線回折強度が載っているが、本発明では、簡単のため、(111)、(200)、(220)の3種類の(hkl)面のみのX線回折強度を用いて定義する。したがって、本発明においては、
(hkl)面の組織係数= I(hkl)/I0(hkl)・[1/3・I(111)/I0(111)+I(200)/I0(200)
+I(220)/I0(220))]-1 …(2)
と定義する。ちなみに、I0(111)は100、I0(200)は42、I0(220)は21である。(200)面の組織係数は1.2以上であればより好ましく、1.3以上であればさらに好ましい。(200)面の回折強度(I(200))が最大となった場合は、(200)面の組織係数は1.8以上となればさらに好ましい。
(hkl)面の組織係数=I(hkl)/I0(hkl)・[(1/n)・Σ(I(hkl)/I0(hkl))]-1 …(1)
により定義され、I(hkl)は測定された(hkl)面のX線回折強度(測定されたX線回折強度の最大のものを100として換算している)、I0(hkl)はJCPDSファイル番号04-0850に記載されている標準X線回折強度である。ファイル番号04-0850には(111)、(200)、(220)、(311)、(222)、(400)、(331)、(420)の8種類の(hkl)面の標準X線回折強度が載っているが、本発明では、簡単のため、(111)、(200)、(220)の3種類の(hkl)面のみのX線回折強度を用いて定義する。したがって、本発明においては、
(hkl)面の組織係数= I(hkl)/I0(hkl)・[1/3・I(111)/I0(111)+I(200)/I0(200)
+I(220)/I0(220))]-1 …(2)
と定義する。ちなみに、I0(111)は100、I0(200)は42、I0(220)は21である。(200)面の組織係数は1.2以上であればより好ましく、1.3以上であればさらに好ましい。(200)面の回折強度(I(200))が最大となった場合は、(200)面の組織係数は1.8以上となればさらに好ましい。
本発明のNiめっき皮膜は、皮膜の厚さ方向に貫通する柱状晶が無いことが好ましく、平均径0.2μm未満の柱状晶も無いことが好ましい。本発明で柱状組織とはアスペクト比(長さ/径)が2以上のものをいい、アスペクト比が2未満であれば粒状組織に分類する。本発明のNiめっき皮膜は、熱処理により再結晶を起こすが、この時、欠陥の少ない適度なサイズの粒径に成長することが好ましい。よって、平均粒径0.2〜3μmの粒状晶及び/又は平均径0.2〜3μmの柱状晶からなることが好ましい。粒状晶の平均粒径は0.3〜2μmがより好ましく、0.5〜1.5μmがさらに好ましい。柱状晶の平均径も0.3〜2μmがより好ましく、0.5〜1.5μmがさらに好ましい。ここで、平均粒径及び平均径は、粒状晶と柱状晶を抽出し、画像解析により求めることができる。
本発明のNiめっき皮膜は膜厚が1〜7μmであることが好ましい。3〜6.5μmがより好ましく、4〜6μmがさらに好ましい。
オイルスラッジに関する問題については、トップリングの合口隙間を縮小することによってブローバイガスを少なくし、エンジンオイルの劣化を抑制することや、生成したスラッジがリングに付着しづらくするためにスペーサエキスパンダやサイドレール表面に皮膜処理を施すことが有効である。その点、特許文献7に開示されているように、Niめっき皮膜はオイルスラッジによる固着・膠着の抑制に効果を有するので、耳部のサイドレール押圧面を除くスペーサエキスパンダの全面にNiめっき皮膜を被覆したことは有効である。さらに、このNiめっき皮膜の表面粗さを中心線平均粗さ(Ra75)で0.005〜0.4μmとすれば、耐オイルスラッジ性をより向上させることができる。鏡面状態がもちろん好ましいが、表面部を光沢Niめっき皮膜とすれば、これらの範囲の表面粗さとすることが可能となる。Niめっき皮膜の表面粗さRa75は0.005〜0.25μmであればより好ましく、0.005〜0.15μmであればさらに好ましい。
また、オイルスラッジは、特にスペーサエキスパンダ(2)の中手部(6)とサイドレール(3,3)との間の狭い空間に付着・堆積しやすい。よって、構造的な観点から、本発明の組合せオイルリングは、支持部(5)の軸方向幅(A)を0.07 mm以上とすることが好ましい。0.09 mm以上とすることがより好ましく、0.11 mm以上とすることがさらに好ましい。
スペーサエキスパンダ耳部(4)のサイドレール押圧面(7)に形成する窒化層は、耐摩耗性の観点から厚さが30μm以上であることが好ましい。35μm以上であればより好ましく、40μm以上であればさらに好ましい。上限値は、生産性の観点から60μmであることが好ましい。
本発明の組合せオイルリングは、上記に詳述したように、スペーサエキスパンダのサイドレール押圧面にのみ窒化層が形成されているので、張力バラツキが小さく、低張力化が可能となって、組合せ張力を5〜20 Nとすることができる。
本発明においてスペーサエキスパンダは、限定されるものではないが、母材にSUS304材のオーステナイト系ステンレス鋼を使用する。表面が不動態皮膜で覆われているため、Niめっきの前処理として、塩酸系電解研磨による電解脱脂、塩酸洗浄による活性化、及びウッド浴によるNiストライクめっきを行うことが好ましい。Niめっきは、ワット浴、スルファミン酸浴等、様々なめっき浴が使用できる。スペーサエキスパンダへの曲げ加工を考慮すると分散強化めっきは好ましくなく、また、光沢剤等の添加剤は所定の表面粗さや均一な膜厚を確保するための必要最低限とすることが好ましい。一方、皮膜の厚さ方向に貫通する柱状晶が現れないようにするためにも、条件の異なるNiめっきからなる2段階以上のめっき処理を行うことが好ましい。その点、Niストライクめっきの後に、半光沢Niめっき、さらに光沢Niめっきを行うことも好ましい。
本発明のNiめっき皮膜は、前処理としてNiストライクめっきが施されていれば、特に母材とNiめっき間の拡散相の存在を必要としないが、硬さ調整のための軟化熱処理において拡散相が形成されることは、好ましくはあっても、不都合をもたらすものではない。生産性を考慮した550℃以上、1分以内の熱処理は、拡散相が形成されたとしても、部分的なものか、極めて薄いものとなる。拡散相が存在しなくても、Niストライクめっきが施され且つ(200)面の比率を高めた組織のNiめっき皮膜であれば、窒化防止膜として十分機能する。
スペーサエキスパンダへの成形は、上記Niめっき皮膜を被覆したフープ線材から、局部的な曲げと剪断による耳部成形を含むギア成形、コイリング、定寸切断、合口面部仕上げの工程を経て作製される。耳部は、山部と谷部への1段目のギア成形の後に、内周側で剪断して形成されるため、耳部のサイドレール押圧面にはNiめっき皮膜は存在しない。Niめっき皮膜の厚さが厚すぎれば、押圧面の一部にNiめっき皮膜が被さることもあるが、厚さが10μm以内であれば問題ない。スペーサエキスパンダの張力は、展開長さの調整によってコントロールできるが、精度的には正確な形状と展開長さのバラツキを抑えることが重要である。
また、本発明の窒化処理は、厚さ30μm以上の窒化層とするためには、NH3を含むガスを使用したガス窒化を利用することが好ましい。塩浴窒化も使用できるが、厚い窒化層とするのは困難である。スペーサエキスパンダの母材がSUS304材の場合は、窒化処理に先立ち、不動態皮膜を還元するため塩化アンモニウムを所定のタイミングで添加するのが好ましい。窒化温度は470〜600℃が好ましく、所望の窒化層の厚さに応じて窒化時間を選択すればよい。
実施例1
[1] Niめっき
2.50 mm×0.25 mmの圧延した帯状のSUS304フープ線材(端部は0.3R)を用い、次の条件でNiめっきを行った。
前処理:電解脱脂−酸活性−Niストライク
Niめっき浴:半光沢Niめっき浴(スルファミン酸Ni溶液+塩化Ni+ホウ酸+添加
剤A)、及び光沢Niめっき浴(スルファミン酸Ni溶液+塩化Ni+ホ
ウ酸+添加剤B)
浴温:50℃
初期pH:2.8
電流密度:8 A/dm2
時間:半光沢Niめっき 60秒、光沢Niめっき30秒
[1] Niめっき
2.50 mm×0.25 mmの圧延した帯状のSUS304フープ線材(端部は0.3R)を用い、次の条件でNiめっきを行った。
前処理:電解脱脂−酸活性−Niストライク
Niめっき浴:半光沢Niめっき浴(スルファミン酸Ni溶液+塩化Ni+ホウ酸+添加
剤A)、及び光沢Niめっき浴(スルファミン酸Ni溶液+塩化Ni+ホ
ウ酸+添加剤B)
浴温:50℃
初期pH:2.8
電流密度:8 A/dm2
時間:半光沢Niめっき 60秒、光沢Niめっき30秒
[2] 熱処理
Niめっき皮膜被覆フープ線材は、湯洗浄、乾燥後に、N2雰囲気中(酸素濃度50 ppm)、600℃、30秒の軟化熱処理を行った。
Niめっき皮膜被覆フープ線材は、湯洗浄、乾燥後に、N2雰囲気中(酸素濃度50 ppm)、600℃、30秒の軟化熱処理を行った。
[3] 硬さ測定
Niめっき皮膜の硬さ測定は、被覆面に平行な鏡面研磨した表面について、マイクロビッカース硬さ試験機を使用し試験力0.098 N(10 g)で行った。実施例1のNiめっき皮膜の硬さは、熱処理前は435 HV0.01、熱処理後は245 HV0.01であった。
Niめっき皮膜の硬さ測定は、被覆面に平行な鏡面研磨した表面について、マイクロビッカース硬さ試験機を使用し試験力0.098 N(10 g)で行った。実施例1のNiめっき皮膜の硬さは、熱処理前は435 HV0.01、熱処理後は245 HV0.01であった。
[4] 表面粗さの測定
表面粗さは、熱処理後のフープ線材について、触針式表面粗さ測定機を用いて中心線平均粗さ(Ra75)を測定した。実施例1の中心線平均粗さ(Ra75)は0.16μmであった。
表面粗さは、熱処理後のフープ線材について、触針式表面粗さ測定機を用いて中心線平均粗さ(Ra75)を測定した。実施例1の中心線平均粗さ(Ra75)は0.16μmであった。
[5] X線回折測定
X線回折強度は、鏡面研磨した被覆面に平行な表面について、管電圧40 kV、管電流30 mAのCu-Kα線を使用して2θがNiの(111)、(200)及び(220)の各面の回折線位置をカバーする2θ=35〜90°の範囲で測定した。図4に実施例1で得られたX線回折プロファイルを示す。3つの回折強度のうちの最大強度を100として、(111)、(200)、(220)の各回折強度を換算し、(200)面の組織係数を求めた。実施例1の(200)面の組織係数は1.35であった。
X線回折強度は、鏡面研磨した被覆面に平行な表面について、管電圧40 kV、管電流30 mAのCu-Kα線を使用して2θがNiの(111)、(200)及び(220)の各面の回折線位置をカバーする2θ=35〜90°の範囲で測定した。図4に実施例1で得られたX線回折プロファイルを示す。3つの回折強度のうちの最大強度を100として、(111)、(200)、(220)の各回折強度を換算し、(200)面の組織係数を求めた。実施例1の(200)面の組織係数は1.35であった。
[6] Niめっき皮膜の膜厚測定と組織観察
膜厚測定と組織観察は、被覆面に垂直な鏡面研磨した断面の走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真を用いて行った。図5にSEM写真を示す。実施例1のNiめっき皮膜は、Niストライク層(31)、半光沢Niめっき層(32)及び光沢Niめっき層(33)から構成され、膜厚は約5μmであった。また、皮膜の厚さ方向に貫通する柱状晶は無く、平均径0.2μm未満の柱状晶も観察されなかった。なお、粒状組織の平均粒径は0.8μmであった。
膜厚測定と組織観察は、被覆面に垂直な鏡面研磨した断面の走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真を用いて行った。図5にSEM写真を示す。実施例1のNiめっき皮膜は、Niストライク層(31)、半光沢Niめっき層(32)及び光沢Niめっき層(33)から構成され、膜厚は約5μmであった。また、皮膜の厚さ方向に貫通する柱状晶は無く、平均径0.2μm未満の柱状晶も観察されなかった。なお、粒状組織の平均粒径は0.8μmであった。
[7] スペーサエキスパンダ及びサイドレールの成形
スペーサエキスパンダは、上記Niめっき皮膜を被覆したフープ線材から、通常のギア成形等を用い、呼び径82.5 mm、組合せ呼び幅2.5 mm、組合せ厚さ2.8 mm、張力23 N±3.0 Nの組合せオイルリングとなるように成形した。サイドレールは、2.30 mm×0.40 mmの圧延した帯状のSUS440Bフープ線材(端部は0.3R)からコイリングにより成形し、外周面にイオンプレーティングによるCrN皮膜を形成し、さらに特許文献8に開示のC6FMA、PolySiMA、及びSiMAを含有する耐オイルスラッジ用コーティング組成物をサイドレールの全表面に被覆した。
スペーサエキスパンダは、上記Niめっき皮膜を被覆したフープ線材から、通常のギア成形等を用い、呼び径82.5 mm、組合せ呼び幅2.5 mm、組合せ厚さ2.8 mm、張力23 N±3.0 Nの組合せオイルリングとなるように成形した。サイドレールは、2.30 mm×0.40 mmの圧延した帯状のSUS440Bフープ線材(端部は0.3R)からコイリングにより成形し、外周面にイオンプレーティングによるCrN皮膜を形成し、さらに特許文献8に開示のC6FMA、PolySiMA、及びSiMAを含有する耐オイルスラッジ用コーティング組成物をサイドレールの全表面に被覆した。
[8] ガス窒化
スペーサエキスパンダの耳部のサイドレール押圧面への窒化処理は、脱脂洗浄後、NH3:90%、N2:10%のガス窒化雰囲気中、570℃、80分の条件で行った。窒化層の厚さは27μm、であった。
スペーサエキスパンダの耳部のサイドレール押圧面への窒化処理は、脱脂洗浄後、NH3:90%、N2:10%のガス窒化雰囲気中、570℃、80分の条件で行った。窒化層の厚さは27μm、であった。
[9] 張力測定
組合せオイルリングの張力測定サンプルとして20セット準備し、特許文献9に示される張力測定装置を用いて張力を測定した。平均22.91 N、標準偏差0.31 N、工程性能指数Cp 3.23、Cpk 3.13であった。
組合せオイルリングの張力測定サンプルとして20セット準備し、特許文献9に示される張力測定装置を用いて張力を測定した。平均22.91 N、標準偏差0.31 N、工程性能指数Cp 3.23、Cpk 3.13であった。
実施例2〜5、比較例1〜3
電流密度と初期pHを表1に示すように変更し、めっき時間を調整して約5μmの膜厚の皮膜とした以外は、実施例1と同じめっき条件、同じ製造条件で、呼び径82.5 mm、組合せ呼び幅2.5 mm、組合せ厚さ2.8 mm、張力23 N±3.0 Nの組合せオイルリングを作製した。実施例1と同様に、熱処理前後の皮膜硬さ、熱処理後の表面粗さ、X線回折測定、SEM組織観察、窒化層の膜厚及び表面硬さ、並びに張力の測定を行い、その結果を表1及び表2に示す。表には実施例1の各種試験の結果も併せて示す。また、実施例3のX線回折プロファイル及び皮膜断面のSEM写真を図6及び図7に、比較例1のX線回折プロファイル及び皮膜断面のSEM写真を図8及び図9に示す。
電流密度と初期pHを表1に示すように変更し、めっき時間を調整して約5μmの膜厚の皮膜とした以外は、実施例1と同じめっき条件、同じ製造条件で、呼び径82.5 mm、組合せ呼び幅2.5 mm、組合せ厚さ2.8 mm、張力23 N±3.0 Nの組合せオイルリングを作製した。実施例1と同様に、熱処理前後の皮膜硬さ、熱処理後の表面粗さ、X線回折測定、SEM組織観察、窒化層の膜厚及び表面硬さ、並びに張力の測定を行い、その結果を表1及び表2に示す。表には実施例1の各種試験の結果も併せて示す。また、実施例3のX線回折プロファイル及び皮膜断面のSEM写真を図6及び図7に、比較例1のX線回折プロファイル及び皮膜断面のSEM写真を図8及び図9に示す。
意味する。
実施例1〜5及び比較例1〜3の結果からは、電流密度が5〜10 A/dm2、初期pHが2.8〜4.7の範囲でめっき皮膜を形成し、さらに600℃、30秒の熱処理を施すと硬さが300HV以下となり、平均径0.2μm未満の微細柱状晶も無いことが観察された。一方、初期pHが高くなると、図9のSEM写真に示すように、平均径0.2μm未満の微細柱状晶も観察された。さらに、平均径0.2μm未満の微細柱状晶の組織中には欠陥も観察された。
窒化層は、実施例1〜5及び比較例1〜3のいずれにおいても27〜43μmと厚く形成することができた。また、張力測定の結果は、実施例1〜5では、平均張力がほぼ狙い値(23 N)通りであり、標準偏差も0.28〜0.39 N、工程能力のCp値が2.56〜3.57、CpK値は2.45〜3.25で、十分な工程能力を示した。一方、比較例1〜3では、工程能力のうちのCpk値が著しく低く、例えば、比較例2ではCpk値がマイナスとなって、平均張力が規格外であることを示している。
[10] 実機耐久試験1
排気量が2400 cm3の4気筒ガソリンエンジンを用い、各気筒それぞれに実施例1〜4のオイルリングを装着し、6,500 rpm、全負荷(WOT:Wide Open Throttle)の運転条件で実機耐久試験を行った。ここで、トップリング及びセカンドリングは、当該エンジン用として使用されていたリングを使用した。所定時間経過後の各オイルリングについて、張力を再度測定した結果、実施例1は22.15 N、実施例2は22.34 N、実施例3は22.11 N、実施例4は22.26 Nであった。いずれも、規格内に十分入る特性を示しており、スペーサエキスパンダの耳部の摩耗による張力減退は全く生じなかった。
排気量が2400 cm3の4気筒ガソリンエンジンを用い、各気筒それぞれに実施例1〜4のオイルリングを装着し、6,500 rpm、全負荷(WOT:Wide Open Throttle)の運転条件で実機耐久試験を行った。ここで、トップリング及びセカンドリングは、当該エンジン用として使用されていたリングを使用した。所定時間経過後の各オイルリングについて、張力を再度測定した結果、実施例1は22.15 N、実施例2は22.34 N、実施例3は22.11 N、実施例4は22.26 Nであった。いずれも、規格内に十分入る特性を示しており、スペーサエキスパンダの耳部の摩耗による張力減退は全く生じなかった。
[11] 実機耐オイルスラッジ試験1
実機耐オイルスラッジ試験は、上記実機耐久試験に用いたのと同じエンジンを使って、各気筒それぞれに実施例1〜4のオイルリングを装着し、エンジンオイルには市場回収劣化オイルを用い、停止状態から最高出力回転数までの運転条件と、低温から高温までの湯水温条件を連続的に繰り返すサイクリック運転を実施する条件で行った。この試験においても、トップリングとセカンドリングは、当該エンジン用として使用されていたリングを使用した。所定時間経過後、各気筒からピストンを取り出してオイルリングを観察した結果、スペーサエキスパンダとサイドレールの間の固着は無く、オイルリングをピストンから取り出し、アセトン中で一定時間超音波洗浄した結果、付着物も極微量であり、実施例1〜4の組合せオイルリングは、耐オイルスラッジ性に優れていることが確認された。
実機耐オイルスラッジ試験は、上記実機耐久試験に用いたのと同じエンジンを使って、各気筒それぞれに実施例1〜4のオイルリングを装着し、エンジンオイルには市場回収劣化オイルを用い、停止状態から最高出力回転数までの運転条件と、低温から高温までの湯水温条件を連続的に繰り返すサイクリック運転を実施する条件で行った。この試験においても、トップリングとセカンドリングは、当該エンジン用として使用されていたリングを使用した。所定時間経過後、各気筒からピストンを取り出してオイルリングを観察した結果、スペーサエキスパンダとサイドレールの間の固着は無く、オイルリングをピストンから取り出し、アセトン中で一定時間超音波洗浄した結果、付着物も極微量であり、実施例1〜4の組合せオイルリングは、耐オイルスラッジ性に優れていることが確認された。
実施例6
スペーサエキスパンダ用に2.2 mm×0.275 mmの圧延した帯状のSUS304フープ線材(端部は0.3R)を用い、サイドレール用に2.00 mm×0.40 mmの圧延した帯状のSUS440Bフープ線材(端部は0.3R)を用い、呼び径75.0 mm、組合せ呼び幅2.0 mm、組合せ厚さ2.5 mm、張力7.5 N±2.0 Nとなるように成形した以外は、実施例1と同様にして組合せオイルリングを作製した。実施例6の組合せオイルリングの張力は、平均張力が7.23 N、標準偏差が0.33 N、Cp値が2.02、Cpk値が1.75であった。
スペーサエキスパンダ用に2.2 mm×0.275 mmの圧延した帯状のSUS304フープ線材(端部は0.3R)を用い、サイドレール用に2.00 mm×0.40 mmの圧延した帯状のSUS440Bフープ線材(端部は0.3R)を用い、呼び径75.0 mm、組合せ呼び幅2.0 mm、組合せ厚さ2.5 mm、張力7.5 N±2.0 Nとなるように成形した以外は、実施例1と同様にして組合せオイルリングを作製した。実施例6の組合せオイルリングの張力は、平均張力が7.23 N、標準偏差が0.33 N、Cp値が2.02、Cpk値が1.75であった。
[12] 実機耐久試験2
排気量が1500 cm3の4気筒ガソリンエンジンを用い、4気筒全てに実施例6の組合せオイルリングを装着し、6,000 rpm、全負荷(WOT:Wide Open Throttle)の運転条件で実機耐久試験を行った。トップリング及びセカンドリングは、当該エンジン用として使用されていたリングを使用した。所定時間経過後の各オイルリングについて、張力を再度測定した結果、7.15 N、7.09 N、7.12 N、7.04 Nで、いずれも規格内に十分入る特性を示しており、スペーサエキスパンダの耳部の摩耗による張力減退は全く生じなかった。
排気量が1500 cm3の4気筒ガソリンエンジンを用い、4気筒全てに実施例6の組合せオイルリングを装着し、6,000 rpm、全負荷(WOT:Wide Open Throttle)の運転条件で実機耐久試験を行った。トップリング及びセカンドリングは、当該エンジン用として使用されていたリングを使用した。所定時間経過後の各オイルリングについて、張力を再度測定した結果、7.15 N、7.09 N、7.12 N、7.04 Nで、いずれも規格内に十分入る特性を示しており、スペーサエキスパンダの耳部の摩耗による張力減退は全く生じなかった。
[13] 実機耐オイルスラッジ試験2
実施例6についても、上記の排気量1500 cm3のエンジンを使って、実機耐オイルスラッジ試験を行った。ここでは、4気筒全てに実施例6の組合せオイルリングを使用した。所定時間経過後、各気筒からピストンを取り出してオイルリングを観察した結果、スペーサエキスパンダとサイドレールの間の固着は無く、オイルリングをピストンから取り出し、アセトン中で一定時間超音波洗浄した結果、付着物も極微量であり、低張力の組合せオイルリングにおいても、優れた耐オイルスラッジ性を示すことが確認された。
実施例6についても、上記の排気量1500 cm3のエンジンを使って、実機耐オイルスラッジ試験を行った。ここでは、4気筒全てに実施例6の組合せオイルリングを使用した。所定時間経過後、各気筒からピストンを取り出してオイルリングを観察した結果、スペーサエキスパンダとサイドレールの間の固着は無く、オイルリングをピストンから取り出し、アセトン中で一定時間超音波洗浄した結果、付着物も極微量であり、低張力の組合せオイルリングにおいても、優れた耐オイルスラッジ性を示すことが確認された。
1 組合せオイルコントロールリング
2 スペーサエキスパンダ
3 サイドレール
4 耳部
5 支持部
6 中手部
7 サイドレール押圧面
10 山部
20 谷部
31 Niストライクめっき層
32 半光沢Niめっき層
33 光沢Niめっき層
2 スペーサエキスパンダ
3 サイドレール
4 耳部
5 支持部
6 中手部
7 サイドレール押圧面
10 山部
20 谷部
31 Niストライクめっき層
32 半光沢Niめっき層
33 光沢Niめっき層
Claims (7)
- 合口を有する一対の円環状のサイドレールと、それらの間に介在し内周部に前記サイドレールの内周面を押圧する耳部を有する軸方向波形形状のスペーサエキスパンダよりなる組合せオイルコントロールリングであって、前記耳部のサイドレール押圧面に窒化層が形成され、前記窒化層が形成された部分を除く前記スペーサエキスパンダの全面にめっき皮膜が被覆され、前記めっき皮膜は、ビッカース硬さが300 HV0.01以下であり、めっき皮膜被覆面のX線回折プロファイルで、(200)面の組織係数が1.1以上であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
- 請求項1に記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記めっき皮膜が平均径0.2μm未満の柱状晶を含まないことを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
- 請求項1又は2に記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記めっき皮膜の膜厚が1〜7μmであることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記めっき皮膜の表面粗さが中心線平均粗さ(Ra75)で0.005〜0.4μmであることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記めっき皮膜がNiめっき皮膜であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記窒化層の厚さが30μm以上であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、組合せ張力が5〜20 Nであることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
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