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JP2006188482A - 希少糖による植物生長調節剤 - Google Patents

希少糖による植物生長調節剤 Download PDF

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亮介 望岡
Atsushi Hasegawa
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Tomohiro Yanagi
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Abstract

【課題】 植物生長調節剤、植物生長調節方法の提供。
【解決手段】 希少糖を有効成分とする植物生長調節剤。前記希少糖はアルドースまたはケトースである。希少糖の植物の生長を調節する作用を用いる植物生長調節方法。前記希少糖はD−プシコース、D−プシコースとD−フラクトースの混合物、D−アロースおよびL−ガラクトースからなる群から選ばれる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、植物生長調節剤、植物生長調節剤組成物、又はそれらを植物の根・茎・葉面若しくは果実に溶液状態若しくは固体状態で葉面散布、土壌灌注等の方法で、施与して用いる植物生長調節方法に関する。
本発明において、「植物」は、植物という用語自体から認識され得るもの、野菜、果実、果樹、穀物、種子、球根、草花、香草(ハーブ)、分類学上の植物等を表すものとする。
植物が生長するには種々の栄養素が必要である。例えば、肥料三大要素として窒素、リン、カリが知られている。さらに、ミネラル類として、Ca、Mg、Fe、S、B、Mn、Cu、Zn、Mo、Cl、Si、Na等が必要である。これら窒素、リン、カリウム等の栄養成分やミネラル類は元肥や追肥の形で施肥されたり、液体肥料を希釈して土壌灌注あるいは葉面散布で与えられる。またメリクロン苗の生産など植物組織培養においては、培地成分として添加されている。これらの成分は、植物の生長に必要な不可欠のものであるが、ある程度の濃度以上に与えても、植物の生長及び収量の向上にはそれ以上貢献できない。
しかし、農作物の生長を促進し、単位面積当たりの収穫量を増やして増収を図ったり栽培期間を短縮することは農業生産上重要な課題であり、そのために必要な種々の植物生長調節剤が開発利用されている。ジベレリンやオーキシン等に代表される植物生長調節剤は、発芽、発根、伸長、花成、着果等生育、形態形成反応の調節のために用いられているが、これらの物質の作用は多面的かつ複雑であり、用途が限定されている。このような問題を解決するために、オリゴ糖を用いた葉面散布剤や糖、ミネラル、アミノ酸、海藻抽出物や微生物の発酵エキスを含んだ液状肥料を葉面散布したり、溶液施肥するような技術が知られているが、実用的には効果の点で十分であるとは言えないのが現状である。
また、従来の植物生長調節剤は、植物の生長を促進する作用が重要視され、除草剤などを除き植物の生長を抑制する作用を狙ったものではない。しかしながら、定植を控えての苗の貯蔵や観賞用植物の延命などの分野で植物の生長を適正に抑制する技術が求められている。
作物増収を目的に土壌中に多量の肥料が施肥されるため、土壌中の種々の要素が過剰になり、その吸収のバランスが悪くなったり、植物の生長停滞等が発生し、目的の増収を達成できなかったり糖度や鮮度等の品質が上がらない等の問題を生じている。
また、養分吸収を目的とした根にも吸収の限界があるため、直接葉面や果実から必要肥料元素の水溶液又は水性懸濁液の散布による吸収を試みているが、単なる必要元素の水溶液を葉面散布しても吸収効率という面からは問題があり、過剰の肥料成分を散布することが、逆に植物に対しストレスを与え障害が生ずる結果となる。
また、植物の生育について障害を伴うことなく適正に抑制するために低温下での貯蔵などは行われているが、薬剤を用いた手段は十分ではない。
本発明は、植物生長調節剤、植物生長調節剤組成物、又はそれらを植物の根・茎・葉面若しくは果実に溶液状態若しくは固体状態で葉面散布、切り枝基部の溶液浸漬、土壌灌注等の方法で、施与して用いる植物生長調節方法の提供を目的とする。
本発明は、以下の(1)〜(4)の植物生長調節剤を要旨とする。
(1)希少糖を有効成分とする植物生長調節剤。
(2)前記希少糖がアルドースまたはケトースである上記(1)の植物生長調節剤。
(3)前記ケトースがD−プシコース、またはD−プシコースとD−フラクトースの混合物である上記(2)の植物生長調節剤。
(4)前記アルドースがD−アロースまたはL−ガラクトースである上記(2)の植物生長調節剤。
本発明は、以下の(5)〜(6)の植物生長調節剤を要旨とする。
(5)希少糖の植物の生長を調節する作用を用いる植物生長調節方法。
(6)前記希少糖がD−プシコース、D−プシコースとD−フラクトースの混合物、D−アロースおよびL−ガラクトースからなる群から選ばれ上記(5)の植物生長調節方法。
本発明は、植物生長調節剤、植物生長調節剤組成物、又はそれらを植物の根・茎・葉面若しくは果実に溶液状態若しくは固体状態で葉面散布、切り枝基部溶液に浸漬、土壌灌注等の方法で、施与して用いる植物生長調節方法を提供することができる。
高濃度のD−プシコースやD−アロースが植物の生育を抑制するのに対し、低高度のD−プシコースやD−アロースは逆に生育を促進する事例が多く見られることは、希少糖の顕著な効果である。
希少糖と類似化合物による植物生長調節剤、及び該生長調節剤を用いる処理方法について説明する。
単糖である希少糖が、様々な生理活性を持つことが明らかになってきた。これら希少糖の植物生育に対する影響を検討した結果、ある希少糖は生長促進作用を持ち、またある希少糖は生長抑制作用を示すことが明らかになった。今後大量生産が可能になる希少糖の生長調節に対する作用を順次検定することにより、多様な活性が解明され、有益な生長調節剤としての実用化が期待できる。
1)現在までに明らかになっている作用:
播種後1週間のトマト発芽苗に、各種濃度(0.01〜5 mM)のD-アロースを液肥(大塚1・2号混合液)に溶かして処理し、水耕で育苗したところ、0.01mM処理区で無処理区に対して、茎長で33%、茎重で67%の生長促進、および開花の促進作用が認められた。この作用は0.01 mM処理区を最高値として、その活性値にばらつきはあるものの1mM処理区まで認められ、5 mM処理区では逆に若干の生長抑制が認められた。
一方、播種後5日目のイネ発芽苗に、各種濃度(0.005〜0.5 mM)のD-プシコースを液肥(木村氏B液)に溶かして処理し、水耕で生苗したところ、0.05 mMまでは無処理区と大差なかったが(>98%)、0.1mMで30%の生長阻害が認められ、0.5 mMでは10日間の水耕で苗丈が43%、根長が67%抑制された。この0.5 mM処理区の苗は水耕10日後に土ポットに移植し、さらに1週間D-プシコースなしで栽培し、葉のtotalRNAを用いて防御関連遺伝子の発現様式を検定したところ、イネ病害抵抗性に関与する遺伝子の発現誘導が認められた。また、水耕時に認められた育苗抑制は、D-プシコース処理時の一過的な作用であり、土に移植後D-プシコースを処理せずに生育させることにより、約3週間で無処理区同等のサイズにまで回復した。
2)これらの作用の解釈:
単糖である希少糖が植物の生長調節作用を持つことが明らかとなった。これらの作用のメカニズムについては、今後さらなる研究が必要であるが、現時点での可能性は、1)希少糖が植物ホルモンの生産制御に関与している、2)希少糖自身に植物生育に関係するホルモンとしての作用がある、3)希少糖に生育に関係する代謝経路の活性化・抑制作用がある等が考えられる。単糖であるこれら希少糖の植物生育調節に関する作用は、これまでまったく研究されたことはなく、今回の知見は新規なものである。生育促進を示すD-アロースの例は、食糧増産の観点から有益な作用であることは容易に想像でき、また生育抑制を示すD-プシコースの例も、根から吸わすことにより生育が一過的に抑制されながらも、処理後一週間後でも耐病性関連遺伝子が葉で誘導されており、抵抗性遺伝子が全身獲得抵抗性(Systemic
Acquired Resistance: SAR)の一環として誘導されることが明らかになった。さらに、処理期間中の生育抑制は、処理を終了させることにより停止し、その作用は不可逆的な作用ではないことも明らかとなった。
3)これらの作用の利用方法について:
それでは、これら希少糖の植物生育調節作用を応用して、どのような実用化が想定させるであろうか。想定される実用化例を以下に示す。
生育を促進するアロースの例
・育苗液肥への混合により、健全苗の育苗剤として使用。健全苗であることにより耐
病性も増進すると考えられる。
・生育不良植物への注入剤
・種子へ直接塗着して販売することによる、「発芽・生育促進種子」の開発
・農業補助材・剤(生育マット、保水剤、展着剤等)への吹き付け・混入による生育
促進効果の増強
・殺菌剤・殺虫剤・肥料・液肥への混入による生長促進効果の増強
生育を抑制するD-プシコースの例
・育苗液肥への混合により、不必要な根の伸長抑制とSARによる耐病性増強
・過肥田のイネの一過的な生育抑制およびSARによる耐病性増強剤(無意味な過剰
生育イネは強風・台風による倒伏に繋がる)。
・一過的生育抑制による植物体輸送の簡便化剤(小型の方が輸送には有利)。
・SARを誘起するD-プシコースの生育抑制作用はアロースと混合して使用することに
より緩和されることが期待される。
希少糖について説明する。「希少糖」とは、自然界に微量にしか存在しない単糖と定義づけることができる。自然界に多量に存在する単糖は、D−グルコース、D−フラクトース、D−ガラクトース、D−マンノース、D−リボース、D−キシロース、L−アラビノースの7種類あり、それ以外の単糖は、自然界における存在量が少なく希少糖に分類することができる。また、糖アルコールは単糖を還元してできるが、自然界にはD−ソルビトールおよびD−マンニトールが比較的多いが、それ以外のものは量的には少ないので、これらも本発明に従う希少糖と定義される。これらの希少糖は、これまで入手が困難であったが、自然界に多量に存在する単糖から希少糖を生産する方法が開発されつつあり、その技術を利用して製造することができる。
以下、これらの単糖の関係を一層容易に理解するために提案されたイズモリング(
Izumoring)「登録商標、以下省略」に基づき説明を加える(WO 03/097820参照)。
図13で示される生産過程と分子構造(D型、L型)により、炭素数4から6の単糖全てをつないだ連携図がイズモリング(Izumoring)の全体図である。すなわち、図13から理解できることは、単糖は、炭素数4、5、6全てがつながっているということである。全体図は、イズモリングC6の中でのつながりと、イズモリングC5の中でのつながりと、イズモリングC4の中でのつながりと、C4、C5、C6が全てつながっていることである。この考え方は重要である。炭素数を減少させるには主に発酵法を用いる。炭素数の異なる単糖全てをつなぐという大きな連携図であることも特徴である。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリングは、図13の下段および図14に示すように、炭素数が6つの単糖(ヘキソース)は全部で34種類あり、アルドースが16種類、ケトースが8種類、糖アルコールが10種類ある。これらの糖は、酸化還元酵素の反応、アルドース異性化酵素の反応、アルドース還元酵素の反応で変換できることは、本発明者らの研究を含めた研究で知られている。
しかしながら、これまでの研究では上のグループ、真ん中のグループ、下のグループは酵素反応でつながっていなかった。つまり、上のグループに属しているD−グルコース(ブドウ糖)やD−フラクトースは自然界に多量に存在する糖であり安価であるが、これらから希少糖を合成することができなかった。ところが、本発明者らの研究の過程で、これを結ぶ酵素が発見された。それはガラクチトールからD−タガトースを合成する酵素を持つ菌の培養液中に、全く予期しなかったD−ソルボースが発見されたことに端を発する。その原因を調べた結果、この菌がD−タガトース3エピメラーゼ(DTE)という酵素を産生していることを発見した。
図13の下段および図14に示すように、このDTEはこれまで切れていたD−タガトースとD−ソルボースの間をつなぐ酵素であることがわかる。そしてさらに驚くことに、このDTEは全てのケトースの3位をエピ化する酵素であり、これまで合成接続できなかったD−フラクトースとD−プシコース、L−ソルボースとL−タガトース、D−タガトースとD−ソルボース、L−プシコースとL−フラクトース、に作用するという非常に幅広い基質特異性を有するユニークな酵素であることが分かった。このDTEの発見によって、すべての単糖がリング状につながり、単糖の知識の構造化が完成し、イズモリング(Izumoring)と名付けた。
この図14をよく見てみると、左側にL型、右側にD型、真ん中にDL型があり、しかもリングの中央(星印)を中心としてL型とD型が点対称になっていることもわかる。例えば、D−グルコースとL−グルコースは、中央の点を基準として点対称になっている。しかもイズモリング(Izumoring)の価値は、全ての単糖の生産の設計図にもなっていることである。先の例で、D−グルコースを出発点としてL−グルコースを生産しようと思えば、D−グルコースを異性化→エピ化→還元→酸化→エピ化→異性化するとL−グルコースが作れることを示している。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)を使って、自然界に多量に存在する糖と微量にしか存在しない希少糖との関係が示されている。D−グルコース、D−フラクトース、D−マンノースと、牛乳中の乳糖から生産できるD−ガラクトースは、自然界に多く存在し、それ以外のものは微量にしか存在しない希少糖と分類される。DTEの発見によって、D−グルコースからD−フラクトース、D−プシコースを製造し、さらにD−アロース、アリトール、D−タリトールを製造することができるようになった。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)の意義をまとめると、生産過程と分子構造(D型、L型)により、すべての単糖が構造的に整理され(知識の構造化)、単糖の全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できること、が挙げられる。
イズモリングC6のD−グルコースは、イズモリングC5のD−アラビトールおよびイズモリングC4のエリスリトールとつながっている。この線は、発酵法によってD−グルコースからD−アラビトールおよびエリスリトールを生産できることを示している。すなわち、イズモリングC6,イズモリングC5およびイズモリングC4は連結されている。この連結は、炭素数の減少という主に発酵法による反応であり、このD−アラビトールおよびエリスリトールへの転換反応の二つ以外の発酵法によるイズモリングC6とイズモリングC5,C4との連結は可能である。例えばD−グルコースからD−リボースの生産も可能である。このように、3つのイズモリングにより全ての炭素数4,5,6の単糖(アルドース、ケトース、糖アルコール)が連結されたことで、それぞれの単糖が全単糖の中でその存在場所を明確に確認できる。
最も有名なキシリトールは、未利用資源の木質から生産できるD−キシロースを還元することで容易に生産できることを明確に確認できる。もしも特定の単糖が生物反応によって多量に得られた場合には、それを原料とした新たな単糖への変換の可能性が容易に見いだすことが可能である。すなわち、この全体像から全ての単糖の原料としての位置を確実につかむことができるため、有用な利用法を設計することができる。特に廃棄物や副産物から単糖が得られた場合の利用方法を容易に推定できるのである。希少糖の生産分野ばかりではなく、希少糖の持つ生理活性を探索する研究においても有効性を発揮する。例えば、ある希少糖に生理活性が判明したとき、図13で示される連携図の存在位置を確認する。そして構造の近い希少糖に関しての生理活性との比較、あるいは、構造的に鏡像関係にある希少糖の生理活性を検討することで、生理活性の機構を分子の構造から類推する助けになるであろう。また、希少糖の生理機能を解析し、イズモリング上に性質を集積することにより、これまで単純な羅列的理解から、単糖全体を、「単糖の構造」、「単糖の生産法」、および「単糖の生理機能」を包括的に理解することに大いに利用できると期待される。
炭素数4から6の単糖全てをつないだ連携図がイズモリング(Izumoring)の全体図(図13)であり、単糖は、炭素数4、5、6全てがつながっているということが理解できる。全体図は、イズモリングC6の中でのつながりと、イズモリングC5の中でのつながりと、イズモリングC4の中でのつながりと、C4、C5、C6が全てつながっている。たとえば、炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリングは、図13の下段および図14に示すように、炭素数が6つの単糖(ヘキソース)は全部で34種類あり、アルドースが16種類、ケトースが8種類、糖アルコールが10種類ある。
希少糖のうち、現在大量生産ができているD−プシコースという希少糖について説明する。プシコースは、単糖類の中で、ケトン基を持つ六炭糖の一つである。このプシコースには光学異性体としてD体とL体とが有ることが知られている。ここで、D−プシコースは既知物質であるが自然界に希にしか存在しないので、国際希少糖学会の定義によれば「希少糖」と定義されている。D−プシコースは、ケトースに分類されるプシコースのD体であり六炭糖(C6H12O6)である。このようなD−プシコースは、自然界から抽出されたもの、化学的またはバイオ的な合成法により合成されたもの等を含めて、どのような手段により入手してもよい。比較的容易には、例えば、エピメラーゼを用いた手法(例えば、特開平6-125776号公報参照)により調製されたものでもよい。得られたD−プシコース液は、必要により、例えば、除蛋白、脱色、脱塩などの方法で精製され、濃縮してシラップ状のD−プシコース製品を採取することができ、更に、カラムクロマトグラフィーで分画、精製することにより99%以上の高純度の標品も容易に得ることができる。このようなD−プシコースは単糖としてそのまま利用できるほか、必要に応じて各種の誘導体として用いることも期待される。
次に、D−アロースについて説明する。D−アロースは、希少糖研究の中で特に各種生理活性を有することが判明してきた希少糖である。D−アロース(D−アロヘキソース)は、アルドース(アルドヘキソース)に分類されるアロースのD体であり、融点が178℃の六炭糖(C6H12O6)である。このD−アロースの製法としては、D−アロン酸ラクトンをナトリウムアマルガムで還元する方法による製法や、また、シェイクワット・ホセイン・プイヤン等による「ジャーナル・オブ・ファンメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング」第85巻、539ないし541頁(1993年)において記載されている、L−ラムノース・イソメラーゼを用いてD−プシコースから合成する製法がある。さらに近年では、特開2002-17392号公報に記載されている。D−プシコースを含有する溶液にD−キシロース・イソメラーゼを作用させて、D−プシコースからD−アロースを生成する製法が発明されている。特開2002-17392号公報に記載されている製法によれば、D−アロースを生成する場合には、未反応のD−プシコースと共に、新たに生成したD−アロースを含有している酵素反応液として得られる。
D−アロースに変換可能な基質を酵素反応でD−アロースに変換する際に用いる酵素の種類は限定されないが、D−プシコースからD−アロースを生産することができる酵素「L−ラムノースイソメラーゼ」を好ましいものとして例示される。L−ラムノースイソメラーゼは、「ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering)」第85巻、539乃至541頁(1998年)で発表された公知酵素である。L−ラムノースからL−ラムニュロースへの異性化反応ならびにL−ラムニュロースからL−ラムノースへの異性化を触媒する酵素である。L−ラムノースイソメラーゼは、D−アロースとD−プシコースの間の異性化にも作用するので、D−プシコースからD−アロースを生産することができる酵素である。
本発明は、植物の生長に影響を及ぼす希少糖、好ましくはD−プシコースおよびD−アロースを含有する植物生長調節剤組成物に関する。更に、本発明は、これら何れかの植物活力剤又は植物生長調節剤組成物を植物に供給することからなる植物の生長調節方法に関する。本発明の植物生長調節剤の形態は、液体、ペースト、水和剤、粒剤、粉剤、錠剤等いずれでも良い。
本発明の植物生長調節剤の植物への供給方法としては色々な手段を使うことができる。例えば、粉剤や粒剤を直接肥料のように施肥したり、希釈された水溶液を葉面、茎、果実等直接植物に散布したり、土壌中に注入する方法や水耕栽培やロックウールのように根に接触している水耕液や供給水に希釈混合して供給したり、組織培養においては培地に添加したりする方法が挙げられる。
本発明の植物生長調節剤により処理できる植物としては、果菜類では、キュウリ、カボチャ、スイカ、メロン、トマト、ナス、ピーマン、イチゴ、オクラ、サヤインゲン、ソラマメ、エンドウ、エダマメ、トウモロコシ等が挙げられる。葉菜類では、ハクサイ、ツケナ類、チンゲンサイ、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、メキャベツ、タマネギ、ネギ、ニンニク、ラッキョウ、ニラ、アスパラガス、レタス、サラダナ、セロリ、ホウレンソウ、シュンギク、パセリ、ミツバ、セリ、ウド、ミョウガ、フキ、シソ等が挙げられる。根菜類としては、ダイコン、カブ、ゴボウ、ニンジン、ジャガイモ、サトイモ、サツマイモ、ヤマイモ、ショウガ、レンコン等が挙げられる。その他に、イネ、麦類、花卉類、果樹類等にも使用が可能である。すなわち、オカヒジキ、カキ、ゴデチャ、ワスレナグサ、ホオズキ、センニチコウ、キンギョソウ、リモニューム、スカビオサ、クラスペディア グロボーサ、インパチェンス、アグロステンマ(2品種)、ビスカリア、キキョウ、ビオラ、ムラサキハナナ、ヒユナ、カリフラワー、サヤエンドウ、ゴボウ、チンゲンサイ、ジャーマンカモミール、チャイブ、サマーサポリ、タイム、ヒソップ、シナモンバジル、スィートバジル、オレガノ、セイジ、ムギ、トウモロコシ、ソルガム、イタリアングラス、レモンバーム、実エンドウ、クリサンセマム パルドサム、シャスターデージー、ベニジューム、スイスチャード、デージー、ヤグルマソウ、アスター、美女ナデシコ、キンセンカ、ルナリア、チマサンチェ、アズキ、サヤエンドウ、エンサイ、モロヘイヤ、ピーマン、青汁ケール、トマト、カンラン、タカナ、リーフレタス、シュンギク、蔓なしエンドウ、ネギ、ベンリナ、ウイキョウ、チャービル、ロケット、コリアンダー、ディル、ウォーターレタス、スィートマジョラム、ダイヤメロン、イネなどが挙げられる。さらに、圃場での栽培だけでなく、メリクロン苗の生産などの組織培養や育苗時にも使用が可能である。
実施例6で示すように、処理区間での差が不明瞭であった(28種類)を列挙する。
スィートピー、ケイトウ、シネラリア、ポピー、サポナリア、オジギソウ、アゲラタム、ヘリクリサム、セキチク、ルピナス、カスミソウ、ハボタン、タアツァイ、金光菜、細ネギ、コマツナ、ヒョウタン、東京ベカナ、キャベツ、ダイコン、野沢菜、タイサイ、ハツカダイコン、ハクサイ、ナス、ペパーミント、ラベンダー、ガーデンクレス
不発芽あるいは発芽率が低かった(23種類。但し、繰返し実験結果では他に分類されているものも含む*)ものを列挙する。
フロックス、オミナエシ、ホオズキ*、ペチュニア*、チドリグサ、西洋オダマキ、アリッサム、ツルムラサキ、ホウレンソウ(3品種)、セルリー、ミツバ、アシタバ、ニガウリ、ローズマリー、ペパーミント、ラベンダー、ガーデンクレス*、ボリジ、エビズル、アケビ、マスカットアレキサンドリア
D-プシコースに対する農作物の科による発芽の相違は明瞭でなかったが、アブラナ科の多くの植物はD-プシコースで発芽が抑制された。発芽そのものばかりでなく、発芽後の根の伸長や子葉の生長が阻害されるもの、あるいは色素生成(特に葉緑体)が阻害された植物もあった。
多くの植物はD-プシコースで阻害されたが、その中で影響を受けなかった、あるいは促進的であった植物が存在した。それらは、ゴデチャ、カキ、オカヒジキであり興味深い現象であり、希少糖の幅広い植物生長調整剤としての価値を示すものである。
本発明の詳細を実施例で説明する。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
[材料と方法]
生長点培養により無菌状態で得られたイチゴ(品種‘スマイルルビー’)の幼植物体を実験に供した。
イチゴは、0.1%(w/v)のD−プシコースまたはD−グルコースを添加した1/2濃度MS培地を用い、平成15年10月14日に幼植物体を無菌的に移植した後、25℃、5,000lux(12時間日長)の培養室にて培養を行い、平成16年1月20日に地上部や地下部の生育状況や脇芽数などを調査した。結果を表1に示す。
[結果と考察]
イチゴ‘スマイルルビー’の組織培養培地に0.1%(w/v)D−プシコースを添加し、生長などに及ぼす影響を調べた結果、D−プシコース添加区は、対照区である無添加区と比較して根長を除く全ての調査項目で上回った。これらのうち、草丈や地上部重量の増加はD−グルコース添加区でも見られたが、地下部重量、葉面積、脇芽数はD−プシコース添加区がD−グルコース添加区を上回った。このことから、D−プシコースを培地に添加することにより、生長や脇芽形成が促進された。今日のイチゴ栽培に用いられている一次苗の多くは組織培養によりウイルスフリー化した組織培養苗である。したがって、D−プシコースによるイチゴ苗の生長促進効果が明らかになったことは、培養期間の短縮や培養効率の向上につながる可能性があると考えられた。
さらに、イチゴについては、培地へのD−プシコースの添加濃度を高めると生育が遅延した。このことから、D−プシコースは、高濃度では生長を抑制し、反対に低濃度では生長や分化を促進するという作用を持つことが明らかになった。この作用を利用することで、希少糖の濃度や量を変えることにより、目的に応じた植物の生長調節が可能であることが明らかになった。
[材料と方法]
無菌播種により得られたシランの幼植物体を実験に供した。
シランは、D−プシコースまたはD−アロース、D−グルコース、D−フラクトースを0.005%
から0.05%(w/v) の濃度で添加した1/2濃度MS培地を用い、平成15年2月27日に幼植物体を無菌的に移植した後、実施例1のイチゴと同じ条件で培養を行い、平成15年6月30日に地上部や地下部の生育状況、芽数、バルブ形成率、バルブ径などを調査した。結果を表2に示す。
[結果と考察]
シランの組織培養培地に0.005%(w/v)から0.05%(w/v)までの濃度でD−プシコースおよびD−アロースを添加し、生長やバルブ形成などに及ぼす影響を調べた。その結果、対照区である無添加区、D−グルコース添加区、D−フラクトース添加区と比較して、芽数、葉数には顕著な差が見られなかったものの、草丈、最大根長、地上部重量、地下部重量については、低濃度(0.005%(w/v)および0.02%(w/v))のD−プシコースを添加することにより増加する傾向が認められた。このことから、D−プシコースはシランに対して生長促進効果を示すことが明らかになった。さらに、バルブ形成率は、糖添加区全体で大きくなる傾向が見られたが、D−アロースを添加することで著しく増大した。現在、コチョウランやシンビジウムなど洋ラン類の多くは組織培養によるメリクロン苗が用いられ、生産コストの低減や普及に大きな役割を演じている。D−プシコースやD−アロースによるシラン苗の生長促進効果やバルブ形成率向上効果が明らかになったことは、イチゴと同様に、培養期間の短縮や培養効率の向上につながる可能性があると考えられた。
さらに、シランについても、イチゴと同様に培地へのD−プシコースやD−アロースの添加濃度を高めると生育が遅延した。このことから、これらに希少糖は、高濃度では生長を抑制し、反対に低濃度では生長や分化を促進するという作用を持つことが明らかになった。この作用を利用することで、希少糖の濃度や量を変えることにより、目的に応じた植物の生長調節が可能であることが明らかになった。
[材料と方法]
イチゴ(品種‘スマイルルビー’)を実験に供した。イチゴをポット植えし、平成16年2月13日よりガラス温室内で栽培を行いながら、週3回の頻度で、水、0.5%(w/v)糖溶液を株全体に散布した。糖の種類としては、D−グルコース、D−プシコースとし、それぞれの試験区について2ポットずつ栽培を行った。栽培を継続しながら、平成16年3月25日までに収穫できた果実数、果実重量、糖度を測定した。結果を図1に示す。
[結果と考察]
栽培期間内に収穫できた果実数は、D−プシコースを散布することにより25個から38個に増加した。また、平均果実重も、D−プシコースを散布することにより13.5gから16.6gに増加した。その結果、栽培期間内に収穫できた果実総重量は、D−プシコースを散布することにより337.8gから630.3gに増加した。このことから、イチゴにD−プシコースを葉面散布することで、果実数や果実重量の増加が可能である、収量増に効果があることが明らかになった。
[材料と方法]
イネ(品種‘ヒノヒカリ’)の種子をナイロンネットに入れ、慣行に従い0.1%(w/v)ベンレート(北興化学)に浸しながら30℃のグロースチャンバー内で2日間殺菌と催芽処理を行った後、「くみあい粒状培土SD」(呉羽化学)を入れた育苗トレイに播種し、ファイトトロン内(昼温25℃/夜温18℃)で約2週間育苗した。次に、1/5,000aサイズのワグネルポットに「くみあい粒状培土SD」(呉羽化学)を入れ、ここに育苗したイネ苗を定植し、ポット内に冠水した状態にて平成15年7月2日より屋外で栽培を開始した。活着が確認できた平成15年7月16日より週3回の頻度で、水、0.02%(w/v)糖溶液、0.1%(w/v)糖溶液、0.5%(w/v)糖溶液を株全体に散布した。糖の種類としては、D−グルコース、D−フラクトース、D−プシコースとし、それぞれの試験区について3ポットずつ栽培を行った。ポット内の水を切らさないように栽培を続け、平成15年8月29日に追肥としてポットあたり5gのマグアンプK中粒(ハイポネックス・ジャパン)を追加した後、平成15年9月22日に収穫調査を行った。調査項目は、草丈、分げつ数、葉重量、籾重量、地下部重量などとした。結果を表3に示す。
[結果と考察]
対照区である水散布区に比べて、D−グルコース散布区やD−フラクトース散布区は大きな影響を示さなかったが、D−プシコース散布区では濃度が大きくなるにつれて草丈、葉重量、籾重量が減少し、生育や収量の抑制効果を示した。反対に分げつ数は増加した。以上の結果から、D−プシコースは、イネの生長抑制や分げつ数増加に効果があることが明らかになった。
[材料と方法]
ナバナはアブラナ科の野菜であり、花蕾部を収穫して利用する。同種の野菜には、ブロッコリーやカリフラワーなどがあり、重要な園芸作物となっている。これらの野菜は、花芽発達が収穫量に大きく影響する。そこで、ナバナ(品種‘春一番’)のハウス栽培時に、0.5%(w/v)の濃度の糖溶液を葉面散布し、生育や花芽発達などに及ぼす影響を調べた。ナバナの種子を128穴セルトレーに平成15年10月23日に播種し約20日間育苗した。栽培用培土「花と野菜の土」(黒川種苗園)を充填した隔離ベッドに株間40cm、条間50cmの2条植えで平成15年11月12日に苗を定植した。栽培は簡易な養液土耕方式とし、点滴チューブを用いてハイポネックスの2,000倍希釈液を一日約1時間潅水した。栽培は側窓を開放した無加温ビニール温室にて行った。平成15年12月18日より週3回の頻度で、水および0.5%(w/v)糖溶液を株全体に散布した。糖の種類としては、D−グルコース、D−フラクトース、D−プシコースとし、それぞれの試験区について5株ずつ栽培を行った。平成16年2月23日に、中位3株について収穫調査を行った。調査項目は、草丈、茎径、脇芽数、頂芽重量、脇芽総重量などとした。結果を表4に示す。
[結果と考察]
ナバナ栽培試験の結果、対照区である水散布区に比べて、糖散布区では全般的に草丈が大きくなる傾向にあり、D−フラクトース散布区では脇芽数が増加傾向にあったが、D−プシコース散布区やL−ガラクトース散布区では草丈、茎径、脇芽数がさらに大きくなり、生育促進効果や花芽分化への促進効果があるものと考えられた。また、D−プシコース散布区やL−ガラクトース散布区でも脇芽総重量は他の試験区と比べて差が見られなかったが、これは調査の関係から通常の収穫時期よりも早い段階で調査したため、脇芽の発達が十分でなかったためであると考えられる。したがって、生育の旺盛さや脇芽数の多さから判断して、栽培を継続することによりD−プシコース散布区やL−ガラクトース散布区では最終的な脇芽総重量は他の試験区を上回るものと予想される。以上の結果から、ナバナの栽培過程でD−プシコースやL−ガラクトースを葉面散布することにより、生育や花芽発達が促進されることが明らかになった。
D-プシコース(以下,プシコース)をブドウの休眠枝に処理したところ,興味深い結果が得られた。
[材料および方法]
1.野生種クマガワブドウの休眠枝に対するD-プシコースの効果
挿し木発根が困難で(望岡ら,植物組織培養13:139-145.1996;日本ブドウ・ワイン学会誌13:2-8.2002)、芽の休眠が深い(望岡ら,園学雑.65:49-54.1996)日本原産野生種クマガワブドウ(Vitis kiusiana Momiyama)の登熟枝を休眠期の1月に採取し、乾燥しないように冷蔵貯蔵して、3月11日に一芽に調製した。その切り枝基部を3%D-プシコース水溶液(展着剤アプローチBIを0.2%添加)に24時間浸漬した後、翌12日にバーミキュライト床に挿し木し、25℃、16時間明期の恒温室に搬入して、経時的に萌芽率を測定した。芽の鱗片がはがれ、芽を保護している綿毛の約50%が現れた時点を萌芽と判定した。なお、対照区はアプローチBIを0.2%添加した蒸留水に切り枝基部を24時間浸漬処理し、前述と同様の処理をした。
萌芽率の調査には各区9本の挿し木を用い、3反復して平均値を求めた。
2.栽培品種‘ネオ・マスカット’の休眠枝に対するD-プシコースの効果
休眠期である12月25日に、露地栽培している‘ネオ・マスカット’(V. vinifera L.)より登熟枝を採取し、一芽に調整した後、0.01,0.1,1%のプシコース水溶液に切り枝基部を24時間浸漬し、翌26日に1.と同様の管理をした。対照区は蒸留水とし、処理液にはアプローチBIを添加しなかった。萌芽の判定は1.に準じた。萌芽の測定は約1週間ごとに行った。
萌芽率の調査には各区9本の挿し木を用い、2反復して平均値を求めた。
[結果および考察]
1.野生種クマガワブドウの休眠枝に対するD-プシコースの効果
クマガワブドウの萌芽率の推移は図2に示した。対照区では4月中旬に萌芽が始まったが、D-プシコース区では3月下旬から萌芽を開始した。また、全期間を通じて、D-プシコース区では対照区よりも高い萌芽率を示した。
2.栽培品種‘ネオ・マスカット’の休眠枝に対するD-プシコースの効果
‘ネオ・マスカット’の萌芽率の推移は図3に示した。2月上旬まで全D-プシコース区は対照区より低い値であったが、中旬以降、1%プシコース区が最も高い値で推移した。また、0.01%D-プシコース区は対照区とよく似たパターンを示したのに対し、0.1%D-プシコース区は全期間最低値で推移した。
夏季にブドウの緑枝を用いて2.と同様の処理をしたところ、1%D-プシコース区で枝は枯死した(データ省略)。このことから、ブドウの枝にとって1%以上の濃度のD-プシコースは極めて強いストレスがかかるものと思われる。ブドウの芽の休眠打破物質は、エチレン生成経路で副産物的に作られるシアン化合物が大きく関与していると考えられているので(東部ら,園学雑.67:897-901.1998a;園学雑.67:902-906.1998b)、高濃度D-プシコース処理ではエチレン生成が進み、シアン化合物が作られて休眠が打破されるのではないかと思われる。
また、希少糖は活性酸素などのラジカル消去能も存在することから、適正濃度でのD-プシコース処理はエチレン生成を抑制し、休眠打破物質が作られず、その結果、萌芽率が低下したのではないかと考えられた。Fuchigami・Nee(HortScience 22:836-845.1987)は、休眠の制御に生体内の酸化還元反応を担っているグルタチオンが重要な役割を果たしているのではないかとしている。グルタチオンは、動植物の生体内に広く分布する低分子の有機物で、ある種の補酵素として働き、酵素やタンパク質のチオール基(SH基)を保護する抗酸化剤として作用すると考えられている(Rennenberg,Phytochemistry 21:2771-2781.1982)。芽の休眠打破に効果のあるシアン化合物であるシアナミド(東部ら,1998b)をナシ‘スパートレット’の休眠芽に処理すると、シアナミドの炭素原子が酵素の働きなしに芽の中の還元型グルタチオン(GSH)のSH基と結合することを認め、これらが結合すると、シアナミドによる休眠打破効果はなくなったとFuchigami・Nee(1987)は報告している。また、シアナミドが生体内の酸化型グルタチオン(GSSG)と反応する場合には、GSSGがGSHに変換され、その結果、ポリアミン、エチレンおよびアルギニンなどの精製が促されるとしている(Wangら,1985)。さらに、致死量以下のストレス(凍結や乾燥など)はGSSGの合成あるいは減少により、直ちにGSHの生成を促す(Fuchigami・Nee,1987)。
これらのことから、希少糖はグルタチオンにも何らかの影響を及ぼしているものと考えられる。
一般に、栽培ブドウの芽の休眠現象は、枝の登熟が進む9月頃から始まり、10月〜11月上旬に自発休眠が最も深く、その後徐々に打破されて、1月下旬頃にはほぼ完了することが知られている(堀内,大阪府立大学学位論文.1977;岡本,p.57-62.農業技術大系.果樹編2.農文協.東京.1981)。今回は自発休眠が終了した後の他発休眠期の枝を用いたため処理区間で明確な差が出なかったが、自発休眠最深期の落葉直前の枝を用いてD-プシコース処理を行うことで明確になると期待される。
現在、休眠打破剤としてよく利用されているものに石灰窒素やシアナミドがあるが、これらのシアン化合物は呼吸阻害作用があり、使用時期が遅かったり使用時に高温であると芽枯れなどの薬害が発生したり、休眠打破効果が不安定なことがある。また、アルデヒドデヒドロゲナーゼを阻害し、肝臓でのエタノール代謝を抑制し、アセトアルデヒドを蓄積して急性アルコール中毒の症状がでることもあり、使用に際しては健康面に配慮が必要な場合もある。希少糖はその点において問題がないので、環境および身体に優しい農薬となる可能性を持っている。
種子発芽に及ぼす希少糖の影響I
[目的]
種子は播種されるまで自発あるいは多発休眠状態にあるが、発芽好適条件が与えられると硬実種子以外は直ちに発芽を開始する。一般に、種子は胚乳や子葉など発芽に必要な養分を保有している為、外生的に糖を与えたばあいの影響については、無胚乳種子であるランの無菌発芽の研究以外はほとんど知られていない。
本実施例では、希少糖のD-プシコースが植物種子の発芽に及ぼす影響について、一般的な糖であるD-Fructoseと比較で検討し、さらにいくつかの希少糖での比較も行った。
[材料及び方法]
実験1(連続処理の影響)
野菜11科、51種または品種(以下同じ);観賞植物19、47;ハーブ4、14;果樹3、3;穀物1、3;飼料作物1、3の種子を脱イオン水(対照)、1%D-フラクトース、1%D-プシコース、0.5%D-フラクトース+0.5%D-プシコースの4種類の溶液に連続処理し、25℃、35μmol・m-2・s-1、16時間照明または暗黒条件下で発芽させた。種子数は各溶液50粒を基本とし、種子数が少ないばあいは各溶液が等数になるように配分した。濾紙を敷いた直径9cmのシャーレあるいは大型の種子では直径10cm、高さ45mmのスチロール製容器に播種し、溶液を10mlまたは50ml注入し、蒸散に応じて脱イオン水を適宜補充した。
実験2(短時間処理の影響)
短時間処理の影響を明らかにするために、おかひじき、トマト(ホーム桃太郎)、サニーレタス(レッドウエーブ)の種子を50粒、アサガオ(大輪咲き混合)の種子を20粒、それぞれ脱イオン水、1% D-プシコース、1% D-アロース、1% L-ガラクトースに24時間(25℃、暗黒)浸漬したのち、軽く脱イオン水で洗浄し、濾紙を敷いた直径9cmのシャーレに播種し、脱イオン水を5〜10ml注入して実験1と同じ条件下で発芽させた。また、比較のために実験1に倣って1% D-プシコースによる連続処理も行った。
[結果及び考察]
実験1(連続処理の影響)
発芽開始の状態は種によって異なり、種皮を破って根を伸ばす(マメ科など)、発芽と同時に子葉を展開する(アブラナ科など)、発芽孔から根を出す(アカザ科、カキノキ科など)などであったが、吸水して種子の表面がゲル状の物質で覆われ、その中に発根するもの(クリサンセマム ムルチコ−レなど)など様々であった。
発芽開始までに要する日数は1日以内(レタスなど)から7日以上(カキ)まで、まちまちであったが、発芽そのものは以下のように大別された。
(i)発芽はD-プシコースにより影響されないか、または僅かながら促進された(3種類)。
オカヒジキ、カキ(発芽のみ促進、根の伸長は阻害、図4参照)、ゴデチャ
(ii)D-プシコースにより著しく発芽が抑制された(2種類)。
ワスレナグサ、ホオズキ
(iii)D-プシコースによる発芽抑制がD-フラクトースにより軽減された(32種類)。
センニチコウ、キンギョソウ、リモニューム、スカビオサ、クラスペディア グロボーサ、インパチェンス、アグロステンマ(2品種)、ビスカリア、キキョウ、ビオラ、ムラサキハナナ、ヒユナ、カリフラワー、サヤエンドウ、ゴボウ、チンゲンサイ、ジャーマンカモミール、チャイブ、サマーサポリ、タイム、ヒソップ、シナモンバジル、スィートバジル、オレガノ、セイジ、ムギ、トウモロコシ、ソルガム、イタリアングラス、野菜の地方種(2種)
(iv)D-フラクトースにより発芽が促進された(2種類)。
レモンバーム、実エンドウ
(v)D-プシコースおよびD-フラクトースの双方で発芽が抑制された(41種類)。
クリサンセマム パルドサム、シャスターデージー、ベニジューム、スイスチャード、デージー、ヤグルマソウ、アスター、美女ナデシコ、キンセンカ、ルナリア、チマサンチェ、アズキ、サヤエンドウ、エンサイ、モロヘイヤ、ピーマン、青汁ケール、トマト、カンラン、ニラ、タカナ、リーフレタス、シュンギク、パセリ、ブロッコリー、ニンジン、蔓なしエンドウ、カブ、タマネギ、ネギ、パセリー、ベンリナ、ウイキョウ、チャービル、ロケット、コリアンダー、ディル、ウォーターレタス、スィートマジョラム、ダイヤメロン、イネ
(vi)処理区間での差が不明瞭であった(28種類)。
スィートピー、ケイトウ、シネラリア、ポピー、サポナリア、オジギソウ、アゲラタム、ヘリクリサム、セキチク、ルピナス、カスミソウ、ハボタン、タアツァイ、金光菜、細ネギ、コマツナ、ヒョウタン、東京ベカナ、キャベツ、ダイコン、野沢菜、タイサイ、ハツカダイコン、ハクサイ、ナス、ペパーミント、ラベンダー、ガーデンクレス
(vii)不発芽あるいは発芽率が低かった(23種類。但し、繰返し実験結果では他に分類されているものも含む*)。
フロックス、オミナエシ、ホオズキ*、ペチュニア*、チドリグサ、西洋オダマキ、アリッサム、ツルムラサキ、ホウレンソウ(3品種)、セルリー、ミツバ、アシタバ、ニガウリ、ローズマリー、ペパーミント、ラベンダー、ガーデンクレス*、ボリジ、エビズル、アケビ、マスカットアレキサンドリア
D-プシコースに対する農作物の科による発芽の相違は明瞭でなかったが、アブラナ科の多くの植物はD-プシコースで発芽が抑制された。発芽そのものばかりでなく、発芽後の根の伸長や子葉の生長が阻害されるもの、あるいは色素生成(特に葉緑体)が阻害された植物もあった。
多くの植物はD-プシコースで阻害されたが、その中で影響を受けなかった、あるいは促進的であった植物が存在した。それらは、ゴデチャ、カキ、オカヒジキであり興味深い現象であり、希少糖の幅広い植物生長調整剤としての価値を示すものである。
実験2(短時間処理の影響)
トマト、サニーサラダ、アサガオでは1%D-プシコースの連続処理で発芽は阻害されたが、他の処理区では明確な差異が認められなかった。一方、オカヒジキは実験1と同様に、1%D-プシコースの連続処理で発芽が促進されたが、時間の経過とともにDWや1%D-プシコースが追いつき(28%)、最終的には1% L-ガラクトースが最も高い発芽率(34%)となり、1% D-アロースでは16%と抑制された(図5参照)。
以上、2つの実験を通じて、植物種子の発芽に対し希少糖は概して阻害的に作用すると判断された。しかし、その影響は多様であり、植物の種類によっては促進効果が認められるものもあった。種子をつくる顕花植物の種類は非常に多く、希少糖の種類も多数であることから、予想外の結果が得られる可能性がある。
種子発芽に及ぼす希少糖の影響II
実験植物であるシロイヌナズナLER系統の発芽に及ぼす8種類のケトースの影響
[実施内容]
直径3.5cmのシャーレにろ紙2枚を敷き、1シャーレ当たりArabidopsis thaliana Landsberg erecta(LER)の種子30粒を播種し、0.5mlの処理液を入れた。その後25℃一定、24時間日長条件(蛍光灯70μmol/m2/s)の人工気象室内に搬入した。播種後、24時間間隔で発芽した種子数について調査した。処理液は、D−フルクトース、D−プシコース、D−タガト−ス、D−ソルボース、L−フルクトース、L−プシコース、L−タガト−ス、L−ソルボースの各100mM,10mM、1mM水溶液と蒸留水である。各3反復を行った。
[結果]
結果を図6に示す。100mMで明確に発芽阻害を示したのは、D-プシコースのみだった。その他では、L-プシコースを含めてあまり発芽阻害が認められなかった。一般に、糖濃度が高い場合には、浸透圧の関係で吸水阻害が起こり、種子発芽を阻害することが知られている。しかし、種子の状態を観察すると、D-プシコース100mM処理でも、種子が吸水により膨らみ、割れた種子が多く認められた。従って、吸水後に発芽が阻害されているものと考えられる。
ミニトマトの生育に及ぼすD-プシコースの影響
[目的]
D-プシコース処理がミニトマトの生育に及ぼす影響を検討した.
[材料、方法、結果および考察]
2003年6月10日にミニトマト ‘ミニキャロル’を水耕装置に定植し、定植7日後からD-プシコース培養液に加える4処理区(0%,0.001%,0.01%,0.03%)を設けた。処理後2週間(7月22日)の生育を調査した。その結果、茎長は、対照区と比較して0.001%と0.01%区でやや大きくなり、0.03%区でやや小さくなった。茎径は対照区と比較して0.01%区でやや大きくなり、0.03%区でやや小さくなった。展開葉数は対照区と比較して0.001%区でやや大きくなり、0.03%区でやや小さくなった。最大根長は、対照区と比較して0.001%区でやや大きくなり、0.01%と0.03%区でやや小さくなった。新鮮重は対照区と比較して0.001%区で大きくなり、0.03%区で小さくなった。新鮮重を部位別で見てみると、0.001%区の根と葉で大きくなった。肉眼で識別できる程度に発達した花房数は対照区で2.0、これと比較して0.001%区でやや多くなり、0.03%区でやや少なくなった。
次に、ミニトマト‘ミニキャロル’を水耕装置に定植し、養液にD-プシコース、D-フルクトース、マンニトールを0.05mMもしくは0.5mMを添加した6処理区に無添加(対照区)を加えた合計7処理区とした。定植後10日間の生育を調査した。その結果、茎長は、D-フルクトース0.5mMで最も大きくなり、次いでD-プシコース0.05mMなどの処理区で大きく、D-プシコース0.5mMでは最も小さくなった。茎径はD-プシコース0.5mMで最も小さくなった。葉数はD-プシコース0.5mMとマンニトール0.5mMで最も少なくなった。根長はプシコース0.5mMで最も小さくなった。地上部新鮮重と乾物重は、D-プシコース0.5mMで最も小さくなり、地下部新鮮重と乾物重でも同様であった。
また、2003年12月18日にミニトマト‘プチ’を水耕装置に定植し、養液にD-プシコース、D-フルクトース、マンニトールを0.05mMもしくは0.5mMを添加した6処理区に無添加を加えた合計7処理区とし、定植40日後までの生育を調査した。その結果、茎長はD-プシコース0.05mMおよびD-フルクトース0.05mMで最も短くなった。茎径では処理区間に有意差はみられなかったが、どの糖も高濃度処理区でやや茎が細くなる傾向が見られた。展開葉数は,処理区間に有意差はみられなかった。地上部重は対照区と比較してどの糖の処理区でもやや軽くなる傾向がみられ、特にD-プシコース0.5mMで最も小さくなった。
以上の結果から,次のように考えられる。
・D-プシコース0.001%から0.05mMの添加はミニトマトの生長をやや促進した。
・D-プシコース0.5mM以上の添加はミニトマトの生長を阻害した。
・品種や生育時期、あるいは処理期間によって糖添加処理の効果に差異が見られる可能性があった。
ミニトマトの生育に及ぼすD-アロースの影響
[目的]
D-アロースを添加した養液を施用してトマトの育苗時期での生育を調査した。
[材料および方法]
2004年7月13日にミニトマト ‘ミニキャロル’(サカタのタネ)を、253穴のロックウール(280×580mm幅×長)のうち30穴分を用いてそれぞれの穴に1粒ずつを播種し、これを8L容量のプラスティック漕に置いた。このプラスティック漕に肥料(大塚1号(1.5g/L)と大塚2号(1.0g/L))を溶解した養液を1リットルずつ入れて、その後は無加温のガラス室で育成した。処理区は、発芽の揃った7月20日から肥料養液にD−アロースを0〜5mMを添加した処理液をプラスティック漕に入れた7処理区とした。なお、処理液は必要に応じて各処理区に同量追加した。処理4週間後に生育を調査した。
[結果]
処理4週間後における生育調査の結果を、表5(処理4週間後における生育調査)に示した。
茎長は、対照区と比較して0.01mMから5.0mM区までの処理区でやや大きくなり、特に0.01mM区で最も増加した。茎径は0.01mM区で最も増加して、その他の処理区では大きな差はみられなかった。葉数は、5.0mM区で最も少なくなったが、他の処理区では大きな差はみられなかった。茎と葉の新鮮重は、いずれも0.01mM区で最も重く、逆に5.0mM区では最も軽くなった。0.01mM区と0.05mM区では、他の処理区と比べて開花が促進されていた。
以上の結果、ミニトマト育苗時の肥料養液にD-アロースを添加した場合、生育促進や開花促進の効果が認められた。
イネ育苗時におけるD-プシコース処理の効果
[目的]
希少糖処理の実用化に向けて、イネ育苗時での処理効果について検討した。
[D-プシコース処理方法]
播種後5日目のイネ幼苗(品種:日本晴、図7参照、写真中、白色バーのサイズ:5mm)を実験に供した。イネ幼苗をポット中でK氏B液により水耕栽培し、各濃度のD-プシコースをK氏B液に混ぜた。5日に1度同溶液を交換しながら、10日間栽培を行った。その後、土入りポットへ移植し、ガラス室・自然光で7日間栽培した。次いで、Total RNAを抽出し、ノーザンブロット解析を行った。
[結果]
育苗時に0.005 mMから0.5 mMのD-プシコースを混ぜた液肥で10日間処理し、処理後ポットに移植し、1週間後に抵抗性関連遺伝子の挙動を確認した(図8)。
その結果、0.5 mMのD-プシコースを混ぜた液肥で育苗した場合には、抵抗性に関連する遺伝子であるPBZ1(プロベナゾールにより発現誘導されるPR遺伝子の一つ)、キチナーゼ遺伝子(PCG3)の誘導が強く認められた(図8)。0.0005から0.1 mMまでの処理区ではいずれの遺伝子も発現していなかったが、本条件下で恒常的に発現するPAL遺伝子には影響は認められなかった。
この処理により植物体の成長抑制が認められた〔表6(イネ育苗時におけるD-プシコース処理の効果)、図9〕。発芽後5日目から0.5
mMのD-プシコースを処理することにより、5日目で植物体長が無処理区の43%、根長が67%に抑制された(表6)。しかしながら、根本数には変化はなかった(表6)。
次に、この抑制が処理時の一過的なものであるか、それとも一度処理を受けると不可逆的に抑制がかかるのかを調べてみた。その結果、D-プシコース処理後ポットに移植して1週間で無処理区に比べて52.4%にまで回復し、2週間後には約80%にまで植物体長が回復した〔表7(D-プシコースによるイネへの生育抑制作用の残存性)、図10〕。
[考察]
希少糖の一つであるD-プシコースの様々な効果が明らかになってきた。その中で、D-プシコースは植物抵抗性関連遺伝子の発現誘導活性を示し、エリシター機能をもつことも明らかになった。そこで、イネ育苗時という閉鎖系で限られた期間にだけD-プシコースを処理することにより、抵抗性関連遺伝子の発現や処理したイネにどのような影響を与えるかを調査した。
その結果、予想通り抵抗性関連遺伝子の発現を誘起し、この誘導はD-プシコース処理を終了して、ポット移植後も継続され、少なくとも1週間(図8)から10日間は効果が維持された。また、本処理により水耕時の生育抑制が認められたが、ポット移植後約2週間で無処理区と大差なく生育し、D-プシコースの生育抑制作用は不可逆的な作用ではないことが明らかとなった。
通常、苗床で過剰に生育した根は、育苗後の田植え時に機械的に切断されている。この事を考えれば、育苗時の根の成長抑制は、後の生育に影響がない限りは有用であると考えられた。また、処理時の一過的な生育抑制と耐病性の向上が望めるので有れば、倒伏被害が予想される前に投げ込み剤的な処理により、一時期の成長を抑制させることも可能であるかもしれない。一般に矮化形質が耐病性とリンクする例は多く、本研究結果も同類のものと考えることが可能かもしれない。
イネ育苗時の肥料養液にD-プシコースを添加した場合、生育抑制の効果が認められた。ただし、この作用は一過的なものであり、D-プシコースを除くと生長は回復した。この現象は、健全な(しっかりした)イネの育苗やイネの倒伏防止に役立つものと考えられる。
コチョウランやシンビジウムの組織培養における、D-プシコースの生長促進の効果
[材料と方法]
コチョウランおよびシンビジウムの組織培養フラスコ苗を実験に供した。
コチョウランは、D−プシコースまたはD−グルコース、D−フラクトースを0.005% (w/v) の濃度で添加したMS培地を用い、平成16年9月6日にフラスコ苗を無菌的に移植した。供試数は1試験区4株とし、上部に直径約1cm結露防止穴を開けた500ml容量のガラス瓶を培養容器として使用した。培養は、25℃、5,000lux(12時間日長)の培養室にて行い、平成17年1月24日に地上部や地下部の生育状況、根数を調査した。結果を表8(コチョウラン苗の生育に及ぼすD−プシコース添加の影響)に示す。
シンビジウムは、上記のコチョウランと同様に、D−プシコースまたはD−グルコース、D−フラクトース、D−アロースを添加したMS培地を用い、平成16年10月4日にフラスコ苗を無菌的に移植した。その際、葉4〜5枚と根2本を残し、残りはメスで切り取った。供試数は1試験区4株とし、上部に直径約1cm結露防止穴を開けた900ml容量のガラス瓶を培養容器として使用した。培養は、25℃、5,000lux(12時間日長)の培養室にて行い、平成17年2月1日に地上部や地下部の生育状況、根数、脇芽数を調査した。結果を表9(シンビジウム苗の生育に及ぼす希少糖添加の影響)に示す。
[結果と考察]
コチョウランの組織培養培地に0.005%(w/v)の濃度でD−プシコースを添加し、生長に及ぼす影響を調べた。その結果、対照区である無添加区、D−グルコース添加区、D−フラクトース添加区と比較して、地上部重量、地下部重量、根数に全てにおいて、D−プシコースを添加することにより増加する傾向が認められた。このことから、D−プシコースはコチョウラン苗に対して生長促進効果を示すことが明らかになった。
また、シンビジウムの組織培養培地に0.005%(w/v)の濃度でD−プシコースまたはD−アロースを添加し、生長などに及ぼす影響を調べた。その結果、対照区である無添加区、D−グルコース添加区、D−フラクトース添加区と比較して、D−アロースを添加することで、地上部重量、根数、脇芽数が増加する傾向が認められた。D−プシコースの添加は若干の脇芽数の増加をもたらしたが、コチョウランほどの効果は見られなかった。
以上のことから、D−プシコースやD−アロースは、コチョウランやシンビジウムといった洋ランの苗に対して生長促進効果や脇芽形成促進効果を示すことが明らかになった。対象植物の種類や目的に応じて添加する希少糖を使い分けることによって、生長促進や脇芽形成が図れることが明らかになった。
トマト萎凋病へのD−プシコースの影響
[材料と方法]
トマトとトマトの代表的な病原菌である萎凋病菌(Fusarium oxysporum)の系を用いて、育苗段階における感染時のD−プシコースの影響を調べた。
すなわち、トマト(品種‘ハウス桃太郎’)の種子を、0.01%(w/v) D−プシコース溶液または0.007%(w/v) プロベナゾール溶液に15分間ゆっくり攪拌しながら浸漬処理を行い、滅菌ガーゼ上で風乾したものを処理種子として用いた。育苗培地(ピート:パーライト:バーミキュライト=2:1:1)に0.01%(w/v)D−プシコースまたは0.007%(w/v) プロベナゾールを混合した後、9cm径の黒ポリポットに入れ、ここに上記処理種子を4粒ずつ播種した。試験区ごとに5ポット(合計20粒の種子)に播種した。播種後は、23℃・5,000lux(12時間日長)のグロースチャンバーに入れ、育苗を開始した。育苗開始1か月後および2か月後に萎凋病菌(Fusarium oxysporum IFO 31213株)の菌糸懸濁液を株元に接種することにより萎凋病菌の感染を起こした。萎凋病菌接種の後は温度を30℃に上げ、栽培を継続した。播種から約4か月後に株の生存率、維管束や根の褐変状況、茎径などを調査した。
[材料と方法]
トマトの代表的な病害である萎凋病に及ぼす希少糖の影響を調べた結果、種子をD−プシコース溶液に浸漬処理するだけでもその後の萎凋病に対する抑制効果が認められ、その効果はプロベナゾールと同等以上であった(図11)。すなわち、種子の処理を行わなかった場合の維菅束褐変率が25%であるのに対し、D−プシコースやプロベナゾールで処理を行った場合には維菅束褐変率が5%にまで低下した。また、それに伴って茎径も増加した。外観観察においても、D−プシコースで種子処理を行った場合は無処理のものよりも健全な株に近く、プロベナゾール処理よりも健全性が高かった。さらに、培地への添加を併用した場合には若干の薬害と考えられる葉の黄化などが生じたものの、D−プシコース薬害の程度はプロベナゾールより小さく、茎径の減少の程度が小さかった。
以上の結果より、D−プシコースによる種子処理や培地への添加は、トマト萎凋病菌の抑制に効果があることが明らかになった。
[材料と方法]
ナス栽培の過程で、D−プシコース散布の効果を調べた。
ナス(品種‘千両二号’)を実験に供した。ナス苗を「花と野菜の土」を入れた7号素焼き鉢に定植した、加温装置付きのビニール温室内で栽培試験を行った。肥料はIB化成肥料を1鉢につき4粒ずつ株元に与え、潅水は自動給水とし一日2回500mlずつ行った。栽培中に週1回の頻度で、水、0.2%(w/v) D−グルコース溶液、0.2%(w/v) D−プシコース溶液を株全体に散布した。ナス株の供試数はそれぞれ10株とし、栽培は夏期(平成16年5月14日から7月15日)と冬期(平成16年11月4日から平成17年2月24日)の2回行った。栽培過程での生育状況や果実収量を調査した。
[結果と考察]
ナス栽培について、夏期においてはD−プシコース溶液散布の顕著な効果は見られなかったものの、冬期においては生育の促進(地上部重量や地下部重量の増加)や果実収量の増加が見られた(図12)。ナスは夏野菜であり栽培中は比較的高温を好むが、冬期試験において加温装置は付いているものの最低夜温は5℃程度にまで低下し、ナスにとっては非常に大きなストレスとなっていたと予想される。こうした環境下において、D−プシコース溶液の散布により生育の促進や収量の増加が見られたことは、D−プシコースがナスに対して冬期の低温ストレスへの抵抗性を向上させた効果であると考えられる。
[材料と方法]
トマト栽培の過程で、D−プシコース散布の効果を調べた。
トマト(品種‘桃太郎’)を実験に供した。トマト苗を「花と野菜の土」を入れた7号素焼き鉢に定植し、加温装置付きのビニール温室内で栽培試験を行った。肥料はIB化成肥料を1鉢につき4粒ずつ株元に与え、潅水は自動給水とし一日2回500mlずつ行った。栽培中に週1回の頻度で、水、0.2%(w/v) D−グルコース溶液、0.2%(w/v) D−プシコース溶液を株全体に散布した。トマト株の供試数はそれぞれ10株とし、栽培は夏期(平成16年4月20日から8月9日)と冬期(平成16年11月4日から平成17年3月14日)の2回行った。栽培過程での生育状況や果実収量を調査した。
[結果と考察]
トマト栽培について、夏期においてはD−プシコース溶液散布の顕著な効果は見られなかったものの、冬期においては果実個数や果実収量の増加が見られた(図13)。トマトは夏野菜であり栽培中は比較的高温を好むが、冬期試験において加温装置は付いているものの最低夜温は5℃程度にまで低下し、トマトにとっては非常に大きなストレスとなっていたと予想される。こうした環境下において、D−プシコース溶液の散布により生育の促進や収量の増加が見られたことは、D−プシコースがトマトに対して冬期の低温ストレスへの抵抗性を向上させた効果であると考えられる。
本発明は、従来の農薬のような有機合成によって塩素等の有毒な元素を含むことなく、炭素、酸素、水素のみからなる単糖である希少糖が植物のいろいろの場面での生長調節に対して利用できる可能性を示したものである。このことは安全でしかも自然界にやさしい各種植物調整剤として利用可能であることが確認されたものである。今後詳細なメカニズムの解明や、他の植物、その他の生長段階への影響を詳細に検討することで新しい希少糖を素材とした植物生長調整剤の開発が加速されることが期待される。今後異なる希少糖の作用をより明確にし、様々な組み合わせで使用することにより、簡便に作物の生育調節が可能になるかもしれない。生育調節により収穫時期をずらすことで、市場で価格の高い時期での出荷が可能となれば、その経済効果はより高くなると期待される。
イチゴ果実に及ぼす糖の影響を示す図面である。 希少糖処理がクマガワブドウ挿し木の萌芽率に及ぼす影響を示す図面である(バーは標準誤差を表す)。 ブドウ‘ネオ・マスカット’休眠枝の芽に対するプシコースの休眠打破効果を示す図面である(バーは標準誤差を表す)。 D-プシコースによるカキ(Diospyros kaki)種子の発芽に及ぼす影響を示す図面に代わる写真である。 希少糖処理がオカヒジキ(Salsora komarovii)の発芽に及ぼす影響を示す図面である。 シロイヌナズナLER系統の発芽に及ぼす8種類のケトースの影響を示す図面である。 イネ(品種:日本晴)播種後5日目の図面に代わる写真である。 D-プシコース処理の抵抗性関連遺伝子の発現誘導を示す図面に代わる写真である。 イネ育苗時におけるD-プシコース処理の効果を示す図面に代わる写真である。 D-プシコース処理後ポットに移植して14日目のイネへを示す図面に代わる写真である。 トマト萎凋病に及ぼすD−プシコースの効果を示す図面である。 冬期ナスの生育や収量に及ぼすD-プシコース溶液散布の効果を示す図面である。 冬期トマトの果実収量に及ぼすD-プシコース溶液散布の効果を示す図面である。 イズモリング(Izumoring)連携図である。 図14の下段のイズモリングC6の説明図である。

Claims (6)

  1. 希少糖を有効成分とする植物生長調節剤。
  2. 前記希少糖がアルドースまたはケトースである請求項1の植物生長調節剤。
  3. 前記ケトースがD−プシコース、またはD−プシコースとD−フラクトースの混合物である請求項2の植物生長調節剤。
  4. 前記アルドースがD−アロースまたはL−ガラクトースである請求項2の植物生長調節剤。
  5. 希少糖の植物の生長を調節する作用を用いる植物生長調節方法。
  6. 前記希少糖がD−プシコース、D−プシコースとD−フラクトースの混合物、D−アロースおよびL−ガラクトースからなる群から選ばれる請求項5の植物生長調節方法。
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