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JP2005286145A - 軟磁性材料の製造方法、軟磁性粉末および圧粉磁心 - Google Patents

軟磁性材料の製造方法、軟磁性粉末および圧粉磁心 Download PDF

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JP2005286145A JP2004098766A JP2004098766A JP2005286145A JP 2005286145 A JP2005286145 A JP 2005286145A JP 2004098766 A JP2004098766 A JP 2004098766A JP 2004098766 A JP2004098766 A JP 2004098766A JP 2005286145 A JP2005286145 A JP 2005286145A
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前田  徹
Naoto Igarashi
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和弘 廣瀬
Haruhisa Toyoda
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Abstract

【課題】 所望の磁気的特性が得られる軟磁性材料の製造方法、軟磁性粉末および圧粉磁心を提供する。
【解決手段】 軟磁性材料の製造方法は、軟磁性粉末50を準備する工程と、軟磁性粉末50に機械的に荷重を加えるためのボールミル処理を実施する工程と、ボールミル処理を実施する工程の後、粉末状の軟磁性粉末50を400℃以上900℃以下の温度で熱処理をする工程とを備える。
【選択図】 図5

Description

この発明は、一般的には、軟磁性材料の製造方法、軟磁性粉末および圧粉磁心に関し、より特定的には、絶縁被膜によって覆われた複数の軟磁性粒子を備える軟磁性材料の製造方法、軟磁性粉末および圧粉磁心に関する。
従来、モーターコアやトランスコアなどの電気電子部品において高密度化および小型化が図られており、より精密な制御を小電力で行えることが求められている。このため、これらの電気電子部品の作製に使用される軟磁性材料であって、特に中高周波領域において優れた磁気的特性を有する軟磁性材料の開発が進められている。
このような軟磁性材料に関して、たとえば、特開2002−246219号公報には、高い温度環境下の使用に際しても磁気特性が維持できることを目的とした圧粉磁心およびその製造方法が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示された圧粉磁心の製造方法によれば、まず、リン酸被膜処理アトマイズ鉄粉に所定量のポリフェニレンサルファイド(PPS樹脂)を混合し、これを圧縮成形する。得られた成形体を空気中において温度320℃で1時間加熱し、さらに温度240℃で1時間加熱する。その後、冷却することによって圧粉磁心を作製する。
特開2002−246219号公報
このように作製された圧粉磁心の内部に、多数の結晶不連続点(転位、粒界、欠陥)が存在する場合、これらの結晶不連続点は磁壁移動(磁束変化)の妨げとなるため、圧粉磁心の透磁率を低下させ、保磁力を増大させる原因となる。特許文献1に開示された圧粉磁心では、二度に渡って成形体に実施される熱処理によっても内部に存在する結晶不連続点が十分に解消されていない。このため、得られた圧粉磁心の実効透磁率は、周波数やPPS樹脂の含有量によっても変化するが、常に400以下の低い値にとどまっている。
また、圧粉磁心の内部に存在する結晶不連続点を十分に低減させるため、成形体に実施する熱処理の温度を1000℃以上の高温にすることが考えられる。しかし、アトマイズ鉄粉を覆うリン酸化合物は、耐熱性に劣っているため、温度を高く設定すると熱処理時に劣化する。これにより、リン酸被膜処理アトマイズ鉄粉の粒子間渦電流損が増大し、圧粉磁心の透磁率が低下するおそれが生じる。
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、所望の磁気的特性が得られる軟磁性材料の製造方法、軟磁性粉末および圧粉磁心を提供することである。
圧粉磁心の内部に存在する結晶不連続点には、軟磁性粉末の加圧成形時に導入される転位に代表される歪みのほか、軟磁性粒子の表面に沿って形成される表層微結晶の粒界や、軟磁性粒子の内部に形成される副結晶の粒界が含まれる。これらの結晶粒界は、たとえば、軟磁性粉末を作製するためのアトマイズ工程時において、軟磁性粉末を強制急冷する際の熱応力歪みによって形成される。これらの結晶粒界は、エネルギー的に非常に安定しており、たとえば1000℃以上の高温の熱処理によってしか解消させることできない。そこで、発明者等が鋭意検討を重ねた結果、比較的低い温度の熱処理であってもこれらの結晶不連続点を、十分に解消できる本発明を完成させるに至った。
なお、本明細書において、軟磁性粉末は、複数の軟磁性粒子から構成されているものとして説明を行なう。
この発明の1つの局面に従った軟磁性材料の製造方法は、軟磁性粉末を準備する工程と、軟磁性粉末に機械的に荷重を加える加工を実施する工程と、その加工を実施する工程の後、粉末状の軟磁性粉末を400℃以上900℃以下の温度で第1の熱処理をする工程とを備える。
このように構成された軟磁性材料の製造方法によれば、第1の熱処理の前に予め、軟磁性粉末に機械的に荷重を加える加工を行なうことによって、軟磁性粒子の表面に沿って形成された表層微結晶や、軟磁性粒子の内部に形成された副結晶をエネルギー的に不安定にさせることができる。これにより、その軟磁性粉末に第1の熱処理を行なうと、これらの結晶間に延びる結晶粒界を効果的に解消することができる。結果、保磁力が十分に低減された軟磁性粉末を実現することができる。
この際、熱処理の温度を400℃以上にすることにより、第1の熱処理による上述の効果を十分に得ることができる。また、熱処理の温度を900℃以下にすることにより、熱処理時に軟磁性粉末が焼結し、固まってしまうことを防止できる。軟磁性粉末が焼結すると、固まった軟磁性粉末を機械的に細かくする必要があり、この際に軟磁性粒子の内部に新たな歪みを発生させるおそれが生じる。このため、熱処理の温度を900℃以下にすることによって、このようなおそれを回避することができる。
また好ましくは、加工を実施する工程と第1の熱処理をする工程との少なくともいずれか1の工程を、2回以上繰り返して行なう。このように構成された軟磁性材料の製造方法によれば、これらの工程を2回以上繰り返すことによって、軟磁性粉末の保磁力をさらに低減させることができる。
また好ましくは、加工を実施する工程は、軟磁性粉末と比較して大きい硬度を有する部材と軟磁性粉末との衝突を繰り返す工程を含む。このように構成された軟磁性材料の製造方法によれば、部材との衝突によって生じる衝撃力を軟磁性粒子の内部に蓄積させ、軟磁性粒子に元々、形成されていた表層微結晶や副結晶を、エネルギー的により不安定にさせることができる。
この発明の別の局面に従った軟磁性材料の製造方法は、軟磁性粉末を準備する工程と、軟磁性粉末に機械的に荷重を加えるとともに、400℃以上900℃以下の温度で第1の熱処理をする工程とを備える。
このように構成された軟磁性材料の製造方法によれば、前述の製造方法と同様に、保磁力が十分に低減された軟磁性粉末を実現することができる。さらに、第1の熱処理と同時に、軟磁性粉末に機械的に荷重を加える工程を実施するため、軟磁性材料の生産効率を向上させることができる。
また好ましくは、第1の熱処理をする工程は、軟磁性粉末と比較して大きい硬度を有する部材と軟磁性粉末との衝突を繰り返すことによって、軟磁性粉末に機械的に荷重を加える工程を含む。このように構成された軟磁性材料の製造方法によれば、部材との衝突によって生じる衝撃力を軟磁性粒子の内部に蓄積させ、軟磁性粒子に元々、形成されていた表層微結晶や副結晶を、エネルギー的により不安定にさせることができる。
また好ましくは、軟磁性粉末は、10μm以上400μm以下の範囲にのみ実質的に存在する粒度分布を有する。このように構成された軟磁性材料の製造方法によれば、軟磁性粉末の粒径分布を10μm以上にすることで、「表面エネルギーによる応力歪み」の影響を抑制することができる。ここで言う「表面エネルギーによる応力歪み」とは、軟磁性粒子の表面に存在する歪みや欠陥に起因して発生する応力歪みのことであり、その存在は、磁壁の移動を妨げる原因となる。このため、この影響を抑制することによって、軟磁性粉末の保磁力を小さくすることができる。加えて、粒径分布を10μm以上にすることで、軟磁性粉末が固まった状態になることを防止できる。また、粒径分布を400μm以下にすることで、本発明による製造方法を用いて圧粉磁心を作製した場合に、圧粉磁心の粒子内渦電流損を低減させることができる。これにより、粒子内渦電流損に起因する圧粉磁心の鉄損を低減させることができる。
この発明に従った軟磁性粉末は、上述のいずれかに記載の軟磁性材料の製造方法を用いて作製された軟磁性粉末である。この軟磁性粉末は、準備する工程により準備された軟磁性粉末の保磁力に対して、60%以下の値に低減された保磁力を有する。本発明による軟磁性材料の製造方法を用いることによって、軟磁性粉末の保磁力を元の値から60%以下の値に低減させることができる。
また、軟磁性粉末は、複数の軟磁性粒子を含む。好ましくは、軟磁性材料の製造方法は、第1の熱処理をする工程の後、複数の軟磁性粒子の各々に絶縁被膜を形成する工程と、絶縁被膜が形成された複数の軟磁性粒子を加圧成形することによって、成形体を形成する工程とをさらに備える。このように構成された軟磁性材料の製造方法によれば、第1の熱処理の後に絶縁被膜を形成するため、第1の熱処理によって絶縁被膜が劣化するということがない。
また、結晶粒界が効果的に解消された軟磁性粉末を用いて成形体を形成するため、成形体の内部に存在する結晶不連続点は、そのほとんどが加圧成形時に生じる歪みによるものとなる。このため、成形体の内部に存在する結晶不連続点を少なくすることができる。さらに、結晶不連続点が低減された軟磁性粒子は、加圧成形時に変形しやすい状態になっている。このため、複数の軟磁性粒子が互いに隙間なく噛み合った状態の成形体を得ることができ、成形体の密度を大きくすることができる。
また好ましくは、軟磁性材料の製造方法は、成形体を形成する工程の前に、軟磁性粉末に有機物を添加する工程をさらに備える。このように構成された軟磁性材料の製造方法によれば、加圧成形時、絶縁被膜が形成された軟磁性粒子の各々の間には、有機物が介在する。このため、有機物は、加圧成形時に潤滑剤としての機能を発揮し、絶縁被膜が破壊されることを抑制する。また、加圧成形後において、有機物は、軟磁性粒子を互いに接合する役割を果たす。これにより、成形体の強度を向上させることができる。
また好ましくは、軟磁性材料の製造方法は、成形体を、30℃以上絶縁被膜の熱分解温度未満の温度で第2の熱処理をする工程をさらに備える。このように構成された軟磁性材料の製造方法によれば、第2の熱処理によって、成形体の内部に存在する結晶不連続点を低減させることができる。この際、第1の熱処理によって、軟磁性粉末の内部に存在する結晶不連続点は、予め十分に低減されている。このため、成形体の内部に存在する結晶不連続点は、そのほとんどが加圧成形時に生じた歪みによるものである。したがって、絶縁被膜の熱分解温度未満、たとえば、リン酸系絶縁被膜の場合では500℃未満という比較的低い熱処理温度であっても、成形体の内部に存在する歪みを十分に低減させることができる。
加えて、第2の熱処理では、熱処理時の温度が絶縁被膜の熱分解温度未満であるため、軟磁性粒子を取り囲む絶縁被膜が劣化することを抑制できる。これにより、適切に保護された絶縁被膜によって、軟磁性粒子間で発生する粒子間渦電流損を低減させることができる。また、熱処理温度を30℃以上とすることで、第2の熱処理による上述の効果を一定の水準で得ることができる。
この発明に従った圧粉磁心は、上述の軟磁性材料の製造方法を用いて作製された圧粉磁心である。圧粉磁心は、1.0×10A/m以下の保磁力を有する。このように構成された圧粉磁心によれば、保磁力が十分に小さいため、圧粉磁心のヒステリシス損を低減させることができる。これにより、鉄損に占めるヒステリシス損の割合が大きくなる低周波領域においても、圧粉磁心を有効に利用することができる。
以上説明したように、この発明に従えば、所望の磁気的特性が得られる軟磁性材料の製造方法、軟磁性粉末および圧粉磁心を提供することができる。
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1における軟磁性材料の製造方法を用いて作製された圧粉磁心の断面を示す模式図である。図1を参照して、圧粉磁心は、軟磁性粒子10と、軟磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜20とから構成された複数の複合磁性粒子30を備える。複数の複合磁性粒子30の間には、有機物40が介在している。複数の複合磁性粒子30の各々は、有機物40によって接合されていたり、複合磁性粒子30が有する凹凸の噛み合わせによって接合されている。有機物40は、複合磁性粒子30同士を強固に接合して、圧粉磁心の強度を向上させている。
軟磁性粒子10は、たとえば、鉄(Fe)、鉄(Fe)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−窒素(N)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)系合金、鉄(Fe)−炭素(C)系合金、鉄(Fe)−ホウ素(B)系合金、鉄(Fe)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−リン(P)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)−コバルト(Co)系合金および鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−シリコン(Si)系合金などから形成することができる。軟磁性粒子10は、金属単体でも合金でもよい。
絶縁被膜20は、たとえば、軟磁性粒子10をリン酸処理することによって形成されている。また好ましくは、絶縁被膜20は、酸化物を含有する。この酸化物を含有する絶縁被膜20としては、リンと鉄とを含むリン酸鉄の他、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、酸化シリコン、酸化チタン、酸化アルミニウムまたは酸化ジルコニウムなどの酸化物絶縁体を使用することができる。絶縁被膜20は、図中に示すように1層に形成されていても良いし、多層に形成されていても良い。
絶縁被膜20は、軟磁性粒子10間の絶縁層として機能する。軟磁性粒子10を絶縁被膜20で覆うことによって、圧粉磁心の電気抵抗率ρを大きくすることができる。これにより、軟磁性粒子10間に渦電流が流れるのを抑制して、渦電流に起因する圧粉磁心の鉄損を低減させることができる。
有機物40としては、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミド、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドまたはポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂や、全芳香族ポリエステルまたは全芳香族ポリイミドなどの非熱可塑性樹脂や、高分子量ポリエチレン、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カルシウム、オレイン酸リチウムおよびオレイン酸カルシウムなどの高級脂肪酸を用いることができる。また、これらを互いに混合して用いることもできる。なお、高分子量ポリエチレンとは、分子量が10万以上のポリエチレンをいう。
図2および図6から図9は、図1中の圧粉磁心を製造する各工程において、得られる軟磁性粒子の状態を示す模式図である。続いて、図2から図9を用いて、本実施の形態における軟磁性材料の製造方法について説明を行なう。
図2を参照して、まず、アトマイズ法を用いて、複数の軟磁性粒子10から構成される軟磁性粉末を作製する。より具体的には、溶解された原料金属を、高圧の水を利用して噴霧しながら急冷することによって粉末状とし、複数の軟磁性粒子10を作製する。このような急冷工程を経て得られた軟磁性粒子10には、結晶間に延びる結晶粒界51のほかに、表面10aに沿って所定の深さで形成された表層微結晶57と、表層微結晶57間に延びる表層微結晶粒界53と、軟磁性粒子10の内部に形成された副結晶56と、副結晶56間に延びる副結晶粒界52とが存在する。なお、軟磁性粉末を作製する方法は、水アトマイズ法に限定されず、ガスアトマイズ法であっても良い。
図3は、図2中に模式的に示した軟磁性粒子のSEM−EBSP像(scanning electron microscope−electron back scattering pattern)写真である。図4は、図3中の2点鎖線IVで囲まれた範囲を示す軟磁性粒子の拡大図である。図中には、水アトマイズ法により作製された純度99.8%以上のアトマイズ鉄粉が示されている。図3および図4を参照して、水アトマイズ法を用いた場合、100μm程度の直径を有する軟磁性粒子10では、その表面から100nmから250nm程度の深さに渡って表層微結晶57が形成される。一方、ガスアトマイズ法を用いて軟磁性粉末を作製した場合、100μm程度の直径に対して10nm前後の深さで表層微結晶が形成される。
軟磁性粒子10の粒径は、10μm以上400μm以下の範囲にのみ実質的に分布していることが好ましい。この場合、上述の工程により作製された軟磁性粉末から、適当なメッシュ粗さの篩を用いて、10μm未満の粒径を有する粒子と400μmを超える粒径を有する粒子とを強制的に排除すれば良い。軟磁性粒子10の粒径は、75μm以上355μm以下の範囲にのみ実質的に分布していることがさらに好ましい。
図5は、図1中の圧粉磁心を製造するボールミル工程を説明するための平面図である。図5を参照して、容器71に、複数個のボール72と、先の工程で得られた軟磁性粉末50とを投入する。容器71を矢印73に示す方向に自転させるとともに、矢印74に示す方向に公転させる。これにより、たとえば1分間以上1時間以下、軟磁性粉末50に対してボールミル処理を実施する。この間、軟磁性粒子10と、ボール72または容器71の表面とが衝突を繰り返す。なお、軟磁性粉末50をエタノール、ヘキサン、トルエン等の有機溶剤に浸した状態でこのボールミル処理を実施すれば、処理中に軟磁性粉末50が酸化することを防止できる。
図6を参照して、上述のボールミル処理により、軟磁性粒子10には外部からの荷重が加わり、その内部に、加工歪み58が新たに形成される。この加工歪み58は、元々、軟磁性粒子10に形成されていた表層微結晶57や副結晶56の結晶性を損なわせる(アモルファス化)。これによって、これらの結晶間にそれぞれ延びる表層微結晶粒界53や副結晶粒界52は、粒界が明瞭に特定できないほどの状態へと変化する。
なお、図5中に示す装置を用いたボールミル処理に限られず、アトライタやジェットミルを用いた処理を行なっても良い。これらの場合、軟磁性粉末50と、軟磁性粉末50よりも硬度の高い部材との衝突を繰り返すことによって、より多くの加工歪み58を軟磁性粒子10に形成することができる。また別の方法として、軟磁性粒子10同士を固まらなくするためのバインダーが混合された軟磁性粉末50を、加圧成形して、その後ほぐす方法も考えられる。この方法によっても、加圧成形時に軟磁性粒子10同士が強く擦れ合うため、軟磁性粒子10に新たな歪みを形成することができる。
図7を参照して、次に、軟磁性粉末を400℃以上900℃以下の温度で、たとえば1時間、熱処理する。熱処理の温度は、700℃以上900℃以下であることがさらに好ましい。この熱処理によって、先の工程において軟磁性粒子10に形成された加工歪み58とともに、表層微結晶粒界53や副結晶粒界52を解消させる。この際、表層微結晶57および副結晶56は、結晶性が損なわれた状態とされているため、これらの結晶を容易に再結晶化させることができる。これにより、表層微結晶粒界53や副結晶粒界52の大部分を消滅させることができる。
なお、図5および図6を用いて説明したボールミル処理と、図7を用いて説明した熱処理との少なくともいずれか1の工程を、2回以上5回以下繰り返し実施しても良い。これらの処理を2回以上繰り返すことによって、表層微結晶粒界53や副結晶粒界52をさらに効果的に消滅させることができる。一方、これらの処理を5回を超えて繰り返しても、表層微結晶粒界53や副結晶粒界52をさらに消滅させることは難しく、製造コストが増大するデメリットを無視できなくなる。
図8を参照して、次に、軟磁性粒子10の表面10aに絶縁被膜20を形成し、複合磁性粒子30を作製する。次に、得られた複合磁性粒子30に有機物40を添加し、これらを混合することによって混合粉末を得る。なお、混合方法に特に制限はなく、たとえばメカニカルアロイング法、振動ボールミル、遊星ボールミル、メカノフュージョン、共沈法、化学気相蒸着法(CVD法)、物理気相蒸着法(PVD法)、めっき法、スパッタリング法、蒸着法またはゾル−ゲル法などのいずれを使用することも可能である。
次に、得られた混合粉末を金型に入れ、たとえば、700MPaから1500MPaまでの圧力で加圧成形する。これにより、混合粉末が圧縮されて成形体が得られる。加圧成形する雰囲気は、不活性ガス雰囲気または減圧雰囲気とすることが好ましい。この場合、大気中の酸素によって混合粉末が酸化されるのを抑制できる。この加圧成形によって、軟磁性粒子10には、歪み61が新たに形成される。
この際、軟磁性粒子10の内部に元々、存在する表層微結晶粒界53や副結晶粒界52は、図7を用いて説明した熱処理によって、その大部分が消滅させられている。このため、複合磁性粒子30は、加圧成形時において変形しやすい状態とされている。このため、図1に示すように複数の複合磁性粒子30が互いに噛み合った隙間のない状態に成形体を形成することができる。これにより、成形体の密度を大きくし、高い透磁率を得ることができる。また、有機物40は、隣り合う複合磁性粒子30間に位置して潤滑剤として機能し、複合磁性粒子30同士が擦れ合って絶縁被膜20が破壊されることを防止する。
図9を参照して、次に、加圧成形によって得られた成形体を、30℃以上絶縁被膜20の熱分解温度未満の温度で熱処理する。絶縁被膜20の熱分解温度は、たとえばリン酸系絶縁被膜の場合、500℃である。
この際、軟磁性粒子10の内部に元々、存在する表層微結晶粒界53や副結晶粒界52は、その大部分が消滅させられているため、加圧成形後においても、成形体の内部に存在する結晶不連続点の量は、比較的少ない。また、加圧成形時、軟磁性粒子10の内部には結晶不連続点がほとんど存在しないため、新たな歪み61は、これらの結晶不連続点と複雑に絡み合うことなく形成されている。これらの理由から、絶縁被膜20の熱分解温度未満という比較的低い温度で熱処理しているにもかかわらず、成形体の内部に存在する結晶不連続点を、容易に低減させることができる。
また、成形体に対する熱処理は絶縁被膜20の熱分解温度未満の温度で実施されているため、熱処理によって絶縁被膜20が劣化するということがない。これにより、熱処理後においても絶縁被膜20が軟磁性粒子10を覆う状態が保持され、絶縁被膜20によって軟磁性粒子10間に渦電流が流れるのを確実に抑制することができる。さらに好ましくは、加圧成形によって得られた成形体を、30℃以上300℃以下の温度で熱処理する。この場合、絶縁被膜20の劣化をさらに抑制することができる。
その後、得られた成形体に押出し加工や切削加工など適当な加工を施すことによって、図1中に示す圧粉磁心が完成する。
この発明の実施の形態1における軟磁性材料の製造方法は、軟磁性粉末50を準備する工程と、軟磁性粉末50に機械的に荷重を加える加工としてのボールミル処理を実施する工程と、ボールミル処理を実施する工程の後、粉末状の軟磁性粉末50を400℃以上900℃以下の温度で第1の熱処理をする工程とを備える。
このように構成された軟磁性材料の製造方法によれば、加圧成形前に軟磁性粒子10に対して、ボールミル処理を行ない、さらに所定の温度範囲で熱処理を実施することによって、結晶不連続点が十分に解消された圧粉磁心を作製することができる。これにより、圧粉磁心のヒステリシス損を低減することができる。また、軟磁性粒子10に対する熱処理は、軟磁性粒子10に絶縁被膜20を形成する前に行なわれるため、その熱処理によって絶縁被膜20が劣化するということがない。さらに、成形体に対する熱処理は、絶縁被膜20の熱分解温度未満の温度で実施されているため、その熱処理によって絶縁被膜20が劣化することも抑制されている。このため、絶縁被膜20を軟磁性粒子10間の絶縁層として十分に機能させ、圧粉磁心の渦電流損を低減させることができる。結果、ヒステリシス損および渦電流損の低減を通じて、圧粉磁心の鉄損を大幅に小さくすることができる。
(実施の形態2)
この発明の実施の形態2における軟磁性材料の製造方法は、実施の形態1における軟磁性材料の製造方法と比較して、基本的には、同様の工程を備える。以下、本実施の形態における軟磁性材料の製造方法を用いて図1中に示す圧粉磁心を作製する方法について説明する。なお、実施の形態1における軟磁性材料の製造方法と比較して重複する工程については、説明を繰り返さない。
本実施の形態における軟磁性材料の製造方法では、軟磁性粉末を作製した後、その軟磁性粉末に所定の加工を行なう工程と、400℃以上900℃以下の温度で熱処理する工程とを同時に実施する。
より具体的には、たとえば、ロータリーキルン炉を用いて、軟磁性粉末を熱処理する。ロータリーキルン炉は、耐火材を内張りした横型円筒炉で、炉の一端にバーナーが設けられている。炉は、炉軸が若干傾いた状態で回転可能に設けられている。炉が回転することにより、炉内に配置された軟磁性粉末が転動する。このため、ロータリーキルン炉を用いれば、熱処理と同時に、軟磁性粒子同士または軟磁性粒子と炉の内壁とが衝突を繰り返すこととなる。これにより、軟磁性粒子に元々、形成されている表層微結晶や副結晶をアモルファス化しつつ、これらを再結晶化することができ、表層微結晶粒界や副結晶粒界を効果的に消滅させることができる。
この発明の実施の形態2における軟磁性材料の製造方法は、軟磁性粉末を準備する工程と、軟磁性粉末に機械的に荷重を加えるとともに、400℃以上900℃以下の温度で第1の熱処理をする工程とを備える。
このように構成された軟磁性材料の製造方法によれば、実施の形態1に記載の効果と同様の効果を奏することができる。
以下に説明する実施例によって、本発明における軟磁性材料の製造方法の評価を行なった。
(実施例1)
まず、実施の形態1に記載の製造方法に従って、軟磁性粉末に対してボールミル処理を行なった。この際、軟磁性粒子10としては、純度99.8%以上のアトマイズ鉄粉(ヘガネス社製の商品名「ABC100.30」)を用いた。また、ボールミル処理には、フリッチュ社製の「遊星型ボールミルP−5」を用いた。容器71として、メノウ製ポット(500cc)を用い、回転数250rpmで自転させた。ボール72として、メノウ製ボール(φ10mm×100個)を用い、軟磁性粉末とともにエタノールに浸した状態とした。処理時間を1分間から60分間の範囲で変化させ、ボールミルによる加工条件の異なる複数の軟磁性粉末を作製した。また、比較のため、ボールミル処理を実施しない軟磁性粉末も準備した。
このように作製された軟磁性粉末の保磁力を測定した。保磁力の測定に際しては、まず、樹脂バインダーを用いて軟磁性粉末を固め、ペレット(直径20mm、厚み5mm)を作製した。そのペレットに対して、1(T:テスラ)→−1T→1T→−1Tの磁場を順に印加するとともに、試料振動型磁力計(VSM)を用いてそのときのB(磁場)H(磁界)ループの形状を特定した。そして、このBHループの形状からペレットの保磁力を算出し、その値を軟磁性粉末の保磁力とした。
次に、軟磁性粉末に対して、水素気流中、温度850℃、1時間の条件で、熱処理を実施した。熱処理後の軟磁性粉末の保磁力を、上述と同様の方法により測定した。
次に、軟磁性粉末に被膜処理を実施し、軟磁性粒子10の表面に絶縁被膜20としてのリン酸鉄被膜を形成した。被膜処理された軟磁性粉末に、ポリフェニレンサルファイド(PPS樹脂)を、軟磁性粉末に対して1質量%の割合で添加し、これらを混合した。得られた混合粉末を面圧13ton/cmでプレス成形し、リング状(外径34mm、内径20mm、厚み5mm)の成形体を作製した。得られた成形体にコイル(1次巻き数が300回、2次巻き数が20回)を設け、磁場を印加することによって、成形体の保磁力および透磁率を測定した。
次に、成形体に対して、窒素気流中、温度550℃、1時間の条件で熱処理を実施した。熱処理後の成形体の保磁力および透磁率を、上述と同様の方法により測定した。以上の測定により得られた軟磁性粉末および成形体の保磁力、透磁率の値を表1に示した。
表1を参照して分かるように、ボールミルによる加工を行なった場合、加工後における軟磁性粉末の保磁力は増大するものの、その後、熱処理を行なうことによって、その保磁力を低減させることができた。このとき、加工時間を15分以下とした軟磁性粉末で、加工を行なわなかった軟磁性粉末と比較して保磁力を小さくすることができた。また特に、加工時間が5分から10分の範囲で、より効果的に保磁力を小さくすることができた。なお、加工時間が10分間以上の範囲で、加工時間の増加とともに保磁力が増大したのは、加工による内部歪みが大きすぎて、熱処理によってもその歪みを十分に解消できなかったためと考えられる。
より詳細には、加工を行なわなかった場合、軟磁性粉末の元々の保磁力は、3.20(Oe:エルステッド)であり、熱処理を実施することによって、その保磁力が、70%程度の2.20(Oe)となった。一方、15分間の加工を行なった場合、熱処理後の保磁力は、3.20(Oe)に対して60%程度の値の1.99(Oe)となった。また、7分間の加工を行なった場合には、熱処理後の保磁力を、3.20(Oe)に対して30%程度の値の1.09(Oe)にまで低減させることができた。
このような軟磁性粉末の保磁力の低減と相伴って、加圧成形によって得られた成形体およびさらに熱処理が実施された成形体の保磁力を小さくし、透磁率を大きくすることができた。特に加工時間を5分から10分の範囲とした場合には、熱処理後の成形体の保磁力を、1.25(Oe)(=1.0×10A/m)以下の値まで小さくすることができた。
(実施例2)
本実施例では、実施例1で使用した、ボールミル処理を実施しなかった軟磁性粉末に対して、水素気流中、1時間の条件で、熱処理温度を変化させて熱処理を行なった。その後、熱処理された軟磁性粉末の保磁力を、実施例1と同様の方法により測定した。図10は、この発明の実施例2において、熱処理温度と軟磁性粉末の保磁力との関係を示すグラフである。測定により得られた保磁力の値を表2に示すとともに、図10にその値をプロットして示した。
表2および図10を参照して、熱処理温度を900℃にした場合、熱処理によって軟磁性粉末が軽く固まり、軽微な粉砕加工を行なう必要が生じた。結果、測定された保磁力の値が若干大きくなった。また、熱処理温度を900℃を超える値とした場合には、粉砕不可能なほどに軟磁性粉末が堅く固まったり、また粉砕できた場合にも、測定された保磁力の値が大きく増大した。このことから、軟磁性粉末に行なう熱処理時の温度を、900℃以下の温度、たとえば実施例1で実施したように850℃に設定することで、軟磁性粉末の保磁力の低減が図られることを確認できた。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
この発明の実施の形態1における軟磁性材料の製造方法を用いて作製された圧粉磁心の断面を示す模式図である。 図1中の圧粉磁心を製造するアトマイズ工程において、得られる軟磁性粒子の状態を示す模式図である。 図2中に模式的に示した軟磁性粒子のSEM−EBSP像写真である。 図3中の2点鎖線IVで囲まれた範囲を示す軟磁性粒子の拡大図である。 図1中の圧粉磁心を製造するボールミル工程を説明するための平面図である。 図1中の圧粉磁心を製造するボールミル工程において、得られる軟磁性粒子の状態を示す模式図である。 図1中の圧粉磁心を製造する第1の熱処理工程において、得られる軟磁性粒子の状態を示す模式図である。 図1中の圧粉磁心を製造する加圧成形工程において、得られる軟磁性粒子の状態を示す模式図である。 図1中の圧粉磁心を製造する第2の熱処理工程において、得られる軟磁性粒子の状態を示す模式図である。 この発明の実施例2において、熱処理温度と軟磁性粉末の保磁力との関係を示すグラフである。
符号の説明
10 軟磁性粒子、10a 表面、20 絶縁被膜、30 複合磁性粒子、40 有機物、50 軟磁性粉末。
.

Claims (11)

  1. 軟磁性粉末を準備する工程と、
    前記軟磁性粉末に機械的に荷重を加える加工を実施する工程と、
    前記加工を実施する工程の後、粉末状の前記軟磁性粉末を400℃以上900℃以下の温度で第1の熱処理をする工程とを備える、軟磁性材料の製造方法。
  2. 前記加工を実施する工程と前記第1の熱処理をする工程との少なくともいずれか1の工程を、2回以上繰り返して行なう、請求項1に記載の軟磁性材料の製造方法。
  3. 前記加工を実施する工程は、前記軟磁性粉末と比較して大きい硬度を有する部材と前記軟磁性粉末との衝突を繰り返す工程を含む、請求項1または2に記載の軟磁性材料の製造方法。
  4. 軟磁性粉末を準備する工程と、
    前記軟磁性粉末に機械的に荷重を加えるとともに、400℃以上900℃以下の温度で第1の熱処理をする工程とを備える、軟磁性材料の製造方法。
  5. 前記第1の熱処理をする工程は、前記軟磁性粉末と比較して大きい硬度を有する部材と前記軟磁性粉末との衝突を繰り返すことによって、前記軟磁性粉末に機械的に荷重を加える工程を含む、請求項4に記載の軟磁性材料の製造方法。
  6. 前記軟磁性粉末は、10μm以上400μm以下の範囲にのみ実質的に存在する粒度分布を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の軟磁性材料の製造方法。
  7. 請求項1から6のいずれか1項に記載の軟磁性材料の製造方法を用いて作製された軟磁性粉末であって、
    前記準備する工程により準備された軟磁性粉末の保磁力に対して、60%以下の値に低減された保磁力を有する、軟磁性粉末。
  8. 前記軟磁性粉末は、複数の軟磁性粒子を含み、
    前記第1の熱処理をする工程の後、前記複数の軟磁性粒子の各々に絶縁被膜を形成する工程と、
    前記絶縁被膜が形成された前記複数の軟磁性粒子を加圧成形することによって、成形体を形成する工程とをさらに備える、請求項1から6のいずれか1項に記載の軟磁性材料の製造方法。
  9. 前記成形体を形成する工程の前に、前記軟磁性粉末に有機物を添加する工程をさらに備える、請求項8に記載の軟磁性材料の製造方法。
  10. 前記成形体を、30℃以上前記絶縁被膜の熱分解温度未満の温度で第2の熱処理をする工程をさらに備える、請求項8または9に記載の軟磁性材料の製造方法。
  11. 請求項10に記載の軟磁性材料の製造方法を用いて作製され、1.0×10A/m以下の保磁力を有する、圧粉磁心。
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