JP2004183035A - ネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】重量比において,Si:0.25〜0.40%,Fe:0.35〜0.50%,Cu:0.15〜0.25%,Mn:0.7〜1.3%,Mg:0.93〜1.3%,Zn:≦0.25%を含み,残部がアルミニウムと不可避的不純物からなる組成を有する。板表面から観察される1μm以上の金属間化合物が3500個/mm2以上である。ブランク径が55mm,絞り比が1.67という条件で絞った成形カップにおける45°耳率が3%以下であると共に,(0−180°耳高さの平均値)−(45°耳高さの平均値)≦0.3mmである。
【選択図】 図2
Description
【技術分野】
本発明は,絞り,しごき加工で成形されるリシール機能のついたネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板に関する。
【0002】
【従来技術】
アルミ缶としては,従来から2ピース(蓋と胴)からなる2ピースアルミ缶が用いられてきた。この2ピースアルミ缶の胴部(以下,2ピースアルミ缶胴と称す)を製造するに当たっては,図1に示すように,素材となるアルミ缶胴用アルミニウム合金板(板材S0)に対し,ブランキング工程S11を施してブランク材を打ち抜くと共に,カッピング工程S12を施して大径のカップに成形する。次に,カップ絞り(DRAWING)としごき(IRONING)を組み合わせたDI成形工程S13を施して,細長い円筒状カップを作製する。その後,開口部のトリミングを行うトリミング工程S14および内・外面の塗装・印刷を行い,さらに開口部のネック加工を行うネッキング工程S15と,蓋部と嵌合させるためのフランジ部を形成するフランジング工程S16を施して2ピースアルミ缶胴が完成する。
【0003】
一方,最近においては,缶デザインの多様化により,従来の2ピースアルミ缶とは異なる,ボトル形状の缶が誕生した。現在のところ,非特許文献1に示すように,ボトル形状には,口部がペットボトルと同サイズの「ニューボトル缶」と,口部が比較的大きい「ボトル缶」の2種類がある。両者共通の特徴はボトル形状とするための大きなネック部と,ネジキャップによるリシール性を得るためのネジ部とを有する点にある。
【0004】
本明細書では両者を含めたボトル形状の缶を総称して「ネジ付アルミ缶」と称する。ニューボトル缶の製造方法は特許文献2〜特許文献4に,ボトル缶の製造方法は文献5に開示されているが,それらネジ付アルミ缶の胴部(以下,ネジ付アルミ缶胴と称す)の製造方法の主要部を図2,図3に示す。図2は,ボトル缶用の胴部の製造方法を示し,図3は,ニューボトル缶用の胴部の製造方法を示す。
【0005】
両者の加工方法は異なるものの,従来の2ピースアルミ缶胴にない,大きなネック部を形成するための絞り加工,および絞り加工により形成された口部にネジ切り加工を行うことが特徴となっている。
即ち,両者の製造工程は,それぞれ図2,図3に示すごとく,アルミニウム合金板S0に対して,ブランキング工程S21,S31,カッピング工程S22,S32,DI成形工程S23,S33,トリミング工程S24,S34までは,従来の2ピースアルミ缶胴の製造工程とほぼ同様に行われる。その後は,ボトル缶用としては,カップの開口部側にネッキング工程S25を施した後,ネジ切り工程S26を施す。一方,ニューボトル缶用としては,カップの底部側にネッキング+エンド部開口工程S35,カップの開口部側にフランジング工程S36,底部の巻き締め+ネジ切り工程S37が施される。
【0006】
ここで,注目すべき点は,両ネジ付アルミ缶胴の製造方法では,ネッキングを行う工程S25,S35において,詳細な工程はそれぞれ異なるが,いずれも,2ピースアルミ缶胴にない,大きなネック部を形成するための絞り加工が施され,さらにその後のネジ切り工程S26,S36が施される点にある。
【0007】
これらの加工は,従来の2ピースアルミ缶胴より過酷であるため,従来材ではしわや割れが発生しやすい不具合があった。この不具合を解決するために,特許文献6ではベーキング(印刷後の焼付け)後の耐力を220〜250N/mm2とすること,さらに好ましくは45°耳の耳率を2.5%以下にすることが開示されている。しかし,ネジ付アルミ缶胴の過酷な加工に絶えきれるアルミニウム合金板を得るには,更なる研究及び改良が必要であった。
【0008】
【非特許文献1】
「飲料缶の新展開−機能と差別化をめざす−」ビバリッジジャパンNo.237(2001年第9号)
【特許文献2】
特開2001−114245号公報
【特許文献3】
特開2001−158436号公報
【特許文献4】
特開2001−162344号公報
【特許文献5】
特開2000−191006号公報
【特許文献6】
特開2002−256366号公報
【0009】
【解決しようとする課題】
本発明は,上記従来の問題点に鑑みてなされたもので,ネジ付アルミ缶のネック加工およびネジ切り加工に優れたアルミニウム合金板を提供しようとするものである。
【0010】
【課題の解決手段】
本発明は,重量比において,Si:0.25〜0.40%,Fe:0.35〜0.50%,Cu:0.15〜0.25%,Mn:0.7〜1.3%,Mg:0.93〜1.3%,Zn:≦0.25%を含み,残部がアルミニウムと不可避的不純物からなる組成を有し,
板表面から観察される1μm以上の金属間化合物が3500個/mm2以上であり,
かつ,ブランク径が55mm,絞り比が1.67という条件で絞った成形カップにおける45°耳率が3%以下であると共に,(0−180°耳高さの平均値)−(45°耳高さの平均値)≦0.3mmであることを特徴とするネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板にある(請求項1)。
【0011】
まず,本発明における各成分の限定範囲について説明する。
Si:0.25〜0.40%,
Siは,Mn,Feとともに,しごき成形時の素材と工具の焼き付き防止に効果のあるα相化合物(Al−Mn−Fe−Si系)形成に必要な成分である。また,この他にAl−Mn−Si相も形成し,Mnの固溶量を低下させて,より均一な変形を促進する。したがって,ネック成形性の向上には,その量の最適化が重要である。Si含有量は,0.25%未満では不十分であり,望ましくは0.28%以上であり,更に望ましくは0.32%以上である。しかし,Si含有量が0.40%を越えて過剰に添加されると,Mg2Si相晶出物が形成されやすくなり,成形性が低下するとともに耐食性を損なう。
【0012】
Fe:0.35〜0.50%,
Feは,Mnとともに鋳造時にAl6(Mn,Fe)相,α相化合物(Al−Fe−Mn−Si系),Al−Fe−Si系の化合物を形成する。これは上述したようにしごき成形時に不可欠である。しかし,Fe添加量が0.50%を越えると粗大な化合物を生じやすく,成形加工時に破断の起点となりうるので好ましくない。また,0.35%未満では,均一変形に寄与する金属間化合物の形成が不十分であり,好ましくない。
【0013】
Cu:0.15〜0.25%,
Cuは,Mgとともに低温熱処理などにより,Al−Mg−Cu系化合物を形成して強度を高め,塗装焼き付けなどの加熱による軟化を抑制する効果をもつ。Cu添加量が0.15%未満であると上記効果が小さく,0.25%を越えると成形加工時の加工硬化性が大きくなりすぎて成形性が低下し,また耐食性が低下し好ましくない。また,現行の国内の缶ボディ材には,Cuが0.20〜0.25%含まれている材料が大半のため,リサイクルの観点からも,上記範囲の量のCuを添加した合金が好ましい。
【0014】
Mn:0.7〜1.3%,
Mnは,強度に寄与する主要元素であり,またα相化合物(Al−Mn−Fe−Si系)の生成によるしごき加工時の焼き付き防止に効果のある成分である。Mn添加量が0.7%未満では上記効果が得られない。1.3%を越えると,Mn固溶量が増加し,ネック成形時に均一変形しにくくなり,好ましくない。
【0015】
Mg:0.93〜1.3%,
Mgは,Mnとともに強度を付与する不可欠な添加元素であり,固溶して合金を硬化する。Mg添加量が0.93%未満では,強度が不十分であり,また後述の0−180°耳の抑制の観点からも所定の量以上の添加が好ましい。一方,酸化抑制しフローマークを出にくくするため,添加量は抑制した方が良いので,1.3%を越えて添加することは望ましくなく,望ましくは1.2%以下である。
【0016】
Zn:≦0.25%,
Znは,絞りおよびしごき加工性,ならびにネック・フランジ成形性の向上に効果がある。しかし,Zn添加量が1.0%を越えると耐食性を損なう傾向があり,コスト的にも不利となる。ここでは,現行のA3004(A3104)と同範囲である0.25%以下とした。
【0017】
また,本発明では,板表面から観察される1μm以上の金属間化合物が3500個/mm2以上である。これにより,ネック成形時にひずみが均一に入りやすく,成形性の優れた材料となる。望ましくは4000個/mm2以上がよい。一方,この1μm以上の金属間化合物が3500個/mm2未満の場合には,上記の成形性向上効果があまり得られない。
ここで,上記金属間化合物としては,例えば,Al6(Mn,Fe),α相化合物(Al−Mn−Fe−Si系)等がある。
【0018】
また,本発明では,ブランク径が55mm,絞り比が1.67という条件で絞った成形カップにおける45°耳率が3%以下であると共に,(0−180°耳高さの平均値)−(45°耳高さの平均値)≦0.3mmである。
ネジ付アルミ缶胴のネックを成形する際には,板材を何度も絞っていくので,耳率を小さくすることは重要である。このため,上記のごとく,ブランク径55mmの円板から絞り比1.67で成形した絞りカップにおいて,耳率を3%以下にすること,かつ(0−180°耳高さの平均値)−(45°耳高さの平均値)の値を0.3mm以下とする。好ましくは0.15mm以下がよい。
【0019】
また,製品の板厚が既存のアルミ缶用材料よりも厚くなっている場合には,熱間圧延上がりから冷間圧延上がりまでの冷間圧延の負荷を軽減することが一般的である。しかし,冷間圧延加工度が小さくなると,圧延集合組織の発達が不十分で,また熱間圧延上がりで形成されたCube方位およびCube方位から冷間圧延の過程で増加する圧延軸回りに回転したRD−rotated Cubeに起因する0−180°耳が多く残存しやすくなる。したがって,0−180°耳が大きく残らないように,化学成分および製造条件を規定する必要がある。化学成分として0−180°耳を抑制するために最も効果のある元素はMgであり,少なくとも0.93%以上添加する必要がある。
【0020】
ここで,上記45°耳率,0−180°耳高さの平均値,および45°耳高さの平均値の定義について説明する。なお,0°,45°,180°等の角度は,いずれも圧延方向を0°とした場合に板面上において時計回り方向に角度をとった方向を意味する。また,耳高さおよび谷高さは,いずれも成形カップの底から上端までの高さをいう。
【0021】
まず,45°耳高さ=A,135°耳高さ=B,225°耳高さ=C,315°耳高さ=D,45°と135°の間の最小谷高さ=E,135°と225°の間の最小谷高さ=F,225°と315°の間の最小谷高さ=G,315°と45°の間の最小谷高さ=H,と定義する。
また,0°耳高さ=I,180°耳高さ=Jと定義する。
【0022】
<45°耳率>
(45°耳率)=(M45−V45)/{(M45+V45)/2}×100(%),
ここで,M45=(A+B+C+D)/4,V45=(E+F+G+H)/4
【0023】
<0−180°耳高さの平均値>
(0−180°耳高さの平均値)=(I+J)/2
<45°耳高さの平均値>
(45°耳高さの平均値)=(A+B+C+D)/4
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明のネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板は,上記成分組成において,さらに,Ti:≦0.10%を含むことが好ましい。
Tiは,鋳造組織を微細化し,圧延加工性や再結晶特性を向上し,組織を均一化するので,最終硬質板の異方性を軽減し成形加工性を向上させるのに有効である。なお,鋳塊組織微細化剤としてAl−Ti−B中間合金を添加する場合は,Bが含有されるが,Bは0.02%以下の範囲で添加されるのが好ましい。
Ti添加量が0.01%未満では上記効果が十分に得られず,Ti添加量が0.10%を越える,あるいはB添加量が0.02%を越えると粗大なAl−TiあるいはTi−B化合物を形成し,割れやピンホールなどの重大欠陥を誘発するため好ましくない。
【0025】
次に,上記ネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板においては,ベーキング後の耐力がベーキング前の耐力より20〜30MPa低いことが好ましい(請求項2)。
ここでいうベーキングとは,ネジ付アルミ缶胴の製造工程の塗料焼き付け工程を想定して,未成形の上記アルミニウム合金板を温度205℃に10分間保持する熱処理を加えることを意味する。そして,ベーキング前の耐力とは,上記アルミニウム合金板にベーキングを加える前に引張試験を行って得られた耐力値を意味し,一方,ベーキング後の耐力とは,上記アルミニウム合金板にベーキングを加えた後に引張試験を行って得られた耐力値を意味する。
【0026】
そして,上記ベーキング前の耐力とベーキング後の耐力との差が,20MPa未満では材料が硬く,ネック成形でしわが発生しやすい。30MPaを越えると,強度の低下が大きく,缶体としての強度を維持できないという問題がある。それ故,上記のごとく,ベーキング前後の耐力の差は20〜30MPaが好ましい。
【0027】
また,板表面に付着しているリオイル油の付着量が30〜250mg/m2であることが好ましい(請求項3)。
ここでいうリオイル油とは,板製造の最終工程において板面上に塗布するオイルのことであり,キズ防止,耐食性付与,およびプレス加工時の潤滑の補助の役割を果たすものである。例えば,鉱油系,合成油系のものを用いることができる。また,リオイル油量は,上記アルミニウム合金板の片面当たりに換算した付着量である。上記リオイル油量が30mg/m2未満では,成形時に潤滑不良が起こりやすく,一方,250mg/m2を越える場合には,潤滑過多により成形時に良好な面質を得ることができない。
【0028】
また,上記ネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板は,板厚が0.3〜0.45mmであることが好ましい(請求項4)。板厚が0.3mm未満では,所定の缶体強度が得られない。0.45mmを越える場合には,必要以上に板厚が厚すぎてコストアップになり好ましくない。
【0029】
また,本発明のネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板は,鋳造された鋳塊を均質化処理した後,熱間圧延し,さらに,中間焼鈍を行うことなく冷間圧延を行うことにより作製されていることが好ましい(請求項5)。これにより,上述した優れたネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板を得ることができる。
以下に,各工程毎にさらに好ましい方法について説明する。
【0030】
鋳造,均質化処理:
上述した成分範囲の合金を,通常の方法で溶解,鋳造した後,得られた鋳塊を,580℃以上,融点以下の温度で1時間以上均質化処理することが好ましい。また,Al6(Mn,Fe)から,しごき成形時に焼き付き防止効果のあるα相化合物(Al−Mn−Fe−Si系)の変態を十分に行うためにも,均質化処理はできるだけ高温,長時間行うのが好ましい。しかし,融点を越えた高温で加熱すると,鋳塊の一部が共晶融解を生じ,板表面の面質が悪化するので好ましくない。保持温度が580℃以上融点以下の範囲であれば保持時間は1時間でよく,20時間よりも長く保持しても経済性において不利となる。
【0031】
熱間圧延:
均質化処理後の熱間圧延は,好ましくは450〜550℃で開始する。550℃より高温では表面が酸化したり再結晶粒が粗大化して成形性が低下するなどの問題点を生じやすい。また,450℃より低温では圧延途中の再結晶が不十分となり製品の耳率(異方性)が悪化する傾向がある。硬質板の耳率は,熱間圧延終了時の再結晶集合組織と,それ以後に加えられる冷間圧延時の圧延集合組織に依存する。熱間圧延は圧延終了時の材料温度が280〜350℃になるように行うことが好ましい。350℃を越えると再結晶粒が粗大化し,280℃以下になると再結晶が不十分となり,いずれも耳率を悪化させるので好ましくない。
【0032】
冷間圧延前あるいは途中の中間焼鈍:
中間焼鈍すると,溶質元素の固溶度を上げ,ネック成形性を低下させるので,好ましくない。従って,上記のごとく,中間焼鈍を行うことなく冷間圧延工程を行うことが好ましい。
【0033】
冷間圧延:
冷間圧延は材料強度を向上させるために行う。冷間における総圧下量が60%未満では十分な強度が得られず,また90%より高いと,圧延集合組織が発達しすぎることにより45°耳が高くなりすぎ,材料の歩留まりが悪化する。冷間の総圧下量は,強度と耳率の関係から,より好ましくは80〜88%が良い。
【0034】
そして,上記の好ましい圧下量による冷間圧延まで終えることにより,材料の板表面には,15μmを越える化合物が存在せず,観察した板面の面積を100%とした場合に1〜15μmの化合物の面積率が5.0%以上であり,この1〜15μmの化合物の面積全体を100%とした場合に,α相化合物の面積率が50%以上であり,且つMg2Si相の面積率が1.0%以下である状態を得ることが好ましい。
【0035】
15μmを越える化合物が存在すると,しごき成形およびネック成形後のフランジ成形時に割れの起点となる。1〜15μmの化合物は主に鋳造時に生成したAl6(Mn,Fe)相晶出物および均質化処理によってα相化したものであり,しごき成形時の焼き付き防止となる。この絶対量が5%未満ではその効果が少ない。さらに,このうち,α相化した化合物が50%未満でも効果が少ない。Mg2Si相は,塗装焼き付け処理後の強度を維持するために必要なMg固溶量の減少および耐食性に不利となるために,板表面における面積率で1.0%以下とすることが好ましい。
【0036】
【実施例】
本例では,表1に示すごとく,本発明の実施例としての5種類のアルミニウム合金板(E1〜E5)と,比較例としての4種類のアルミニウム合金板(C1〜C4)を製造し,さらにこれらの特性を測定した。
まず,表1に示す成分を含有するアルミニウム合金鋳塊を半連続鋳造にて造塊し,表面を面削後,580℃の温度に12時間保持する均質化処理を行い,直ちに熱間圧延を開始し,350℃の温度で終了し,3mm厚の熱間圧延板を得た。得られた熱間圧延板が常温になってから87%の圧延率で0.4mm厚まで冷間圧延を行って,上記5種類の実施例(E1〜E5)および4種類の比較例(C1〜C4)の供試材を得た。
【0037】
次に,すべての供試材に対し,板面における金属間化合物の観察,耳率の測定,ベーキング後の耐力低下の測定を行い,その特性を評価した。
板面における金属間化合物の観察は,供試材の表面を脱脂洗浄後,SEM(走査型電子顕微鏡)の組成像で板表面を撮影して行った。そして,画像解析装置((株)ニレコ製ルーゼクス500)を用いて金属間化合物の分布密度およびその面積率を測定した。金属間化合物の大きさとしては,その直径を測定した。この場合,金属間化合物の直径は円相当直径,すなわち写真における金属間化合物の面積と同じ面積を有する円の直径として測定した。
判定は,1μm以上の金属間化合物が3500個/mm2以上の場合に合格,3500個/mm2未満の場合を不合格とした。
【0038】
耳率の測定は,ダイス径34mm,ポンチ径33mm,ポンチ肩R1.5mmの金型を用い,供試材ブランク径55mm,絞り比1.67の条件でカップ絞りを実施した。得られた絞りカップを用い,前述の式により,45°耳率と,(0−180°耳高さの平均値)−(45°耳高さの平均値)の値を求めた。
45°耳率は,3%以下を合格,3%越えを不合格とした。また,(0−180°耳高さの平均値)−(45°耳高さの平均値)は0.3mm以下を合格,0.3mm越えを不合格とした。
【0039】
上記ベーキングの条件は,205℃の温度に10分間保持する条件とした。そして,このベーキングを行っていない供試材とベーキングを完了した供試材をそれぞれJIS5号試験片に加工して,JIS Z2241に準拠して引張試験をを行った。そして,ベーキング前の試験片の耐力値からベーキング後の試験片の耐力値を差し引いて耐力低下値として求めた。
そして,ベーキング後の耐力低下が20〜30MPaの範囲内の場合には合格,これをはみ出した場合を不合格とした。
【0040】
得られた結果を表2に示す。表2より知られるごとく,実施例E1〜E5は,すべての評価項目において合格となり,総合的に合格(○)の判定が得られた。一方,比較例C1〜C4は,少なくとも1つの評価項目において不合格となり,総合的にすべて不合格(×)の判定となった。
【0041】
具体的には,比較例C1においては,Mg量が少ないため,45°耳の形成が少なくなり,(0−180°耳高さの平均値)−(45°耳高さの平均値)が大きくなった。
また,比較例C2においては,Si量が多いため,ベーキングによる軟化量が多く,必要とする缶体強度が得られない。
また,比較例C3においては,Mn量が多く,Si,Fe量が少ないため,晶出物は多くなるがMn固溶量が多くベーキングによる軟化量が少なくなった。
また,比較例C4においては,Si,Fe量が少ないため,晶出物が少ない。そのため,ベーキングによる軟化量が少なくなったと考えられる。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【図1】2ピースアルミ缶胴の製造工程を示す説明図。
【図2】ネジ付アルミ缶胴(ボトル缶)の胴部の製造工程を示す説明図。
【図3】ネジ付アルミ缶胴(ニューボトル缶)の胴部の製造工程を示す説明図。
【符号の説明】
S0...アルミニウム合金板,
S11,S21,S31...ブランキング工程,
S12,S22,S32...カッピング工程
S13,S23,S33...DI成形工程,
S14,S24,S34...トリミング工程,
S15,S25...ネッキング工程,
S16,S36...フランジング工程,
S26,S36...ネジ切り工程,
S35...ネッキング+エンド部開口工程,
S37...底部の巻き締め+ネジ切り工程,
Claims (5)
- 重量比において,Si:0.25〜0.40%,Fe:0.35〜0.50%,Cu:0.15〜0.25%,Mn:0.7〜1.3%,Mg:0.93〜1.3%,Zn:≦0.25%を含み,残部がアルミニウムと不可避的不純物からなる組成を有し,
板表面から観察される1μm以上の金属間化合物が3500個/mm2以上であり,
かつ,ブランク径が55mm,絞り比が1.67という条件で絞った成形カップにおける45°耳率が3%以下であると共に,(0−180°耳高さの平均値)−(45°耳高さの平均値)≦0.3mmであることを特徴とするネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板。 - 請求項1において,ベーキング後の耐力がベーキング前の耐力より20〜30MPa低いことを特徴とするネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板。
- 請求項1又は2において,板表面に付着しているリオイル油の付着量が30〜250mg/m2であることを特徴とするネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板。
- 請求項1〜3のいずれか1項において,板厚が0.3〜0.45mmであることを特徴とするネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板。
- 請求項1〜4のいずれか1項において,鋳造された鋳塊を均質化処理した後,熱間圧延し,さらに,中間焼鈍を行うことなく冷間圧延を行うことにより作製されていることを特徴とするネジ付アルミ缶胴用アルミニウム合金板。
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