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JP2004081222A - 酵母におけるタンパク質の高レベル発現 - Google Patents

酵母におけるタンパク質の高レベル発現 Download PDF

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JP2004081222A JP2003412625A JP2003412625A JP2004081222A JP 2004081222 A JP2004081222 A JP 2004081222A JP 2003412625 A JP2003412625 A JP 2003412625A JP 2003412625 A JP2003412625 A JP 2003412625A JP 2004081222 A JP2004081222 A JP 2004081222A
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Abstract

【課題】 本発明は、異種タンパクの収率を増すことを目的とする。
【解決手段】 本発明によれば,ADRIの発現が強化された酵母宿主内において,ADH2調節配列の制御下で非酵母タンパクを発現させる方法が提供される。また,形質転換された酵母宿主も提供される。本発明は、酵母が認識する転写開始配列および転写終結配列の制御下にADR Iのコード配列を含むゲノムに組込まれた発現カセットを有する形質転換された酵母であって、該転写開始配列がADR1プロモーター以外のプロモーターである、形質転換された酵母を提供する。
【選択図】 なし

Description

 本発明は,組換えDNA技術により酵母内で異種タンパクを生産するのに有用な方法,および材料に関する。より詳しくは,本発明は,酵母が酵母アルコールデヒドロゲナーゼイソ酵素II(ADHII)遺伝子プロモーターまたはその上流の活性化配列(UAS)の制御下で発現される場合に,該酵母内で作られる異種タンパクの収率を改善する方法および材料に関する。
 ADHIIの発現を引き起こす系によって調節される酵母の異種遺伝子の発現は,非常に有益であることが証明されている。このような発現は,通常,異種タンパクをコードする配列を,ADH2遺伝子由来のプロモーター,あるいはハイブリッドプロモーターの制御下に配置することを包含する。このハイブリッドプロモーターは,強カな酵母プロモーター(例えば,グリセルアルデヒド−3−リン酸(GAP)プロモーター)と組み合わせて,ADH2プロモーターの上流の調節領域を使用する。例えば,EPO公開公報第164,556号;EPO公開公報第196,056号;および共有する米国特許出願第868,639号(1986年5月29日付で出願)を参照されたい。ADH2調節領域を用いる異種タンパク用の発現カセットは,通常,高いコピー数で酵母発現宿主中に存在する。このような発現系を用いて良好な結果が得られてはいるが,依然として,異種タンパクの収率を増す必要がある。
 酵母ADR1遺伝子によるADH2遺伝子の調節に関して,若干の研究が報告されている。例えば,Shusterら(1986)Mol.Cell.Biol.,6:1894−1902;Denisら(1983)Mol.Cell.Biol.,3:360−370を参照されたいADR1の発現レベルと,天然のADH2遺伝子の発現レベルとの間の関係を調べたいくつかの研究が報告されている。Iraniら(1987)Mo1.Cell.Biol.,7:1233−1241;Denis(1987)Mol.Gen Genet208:101−106を参照されたい。しかしながら,これらの研究は,ADR1の発現の増加が,ADH2調節配列の制御下で発現される異種タンパクの収率を,最終的に改善するかどうかは示していない。例えば,100を越えるADR1のコピーが,多重ADH2プロモーターにより引き起こされるADH2転写における3〜4倍の阻害を克服しなかったことが,Iraniら(1987)によって観察された。この結果により,ADR1とは別の,ADH2の発現を積極的に制限する因子が存在するADHII調節モデルが支持されることが示唆された。Denis(1987)も,ADR1遺伝子の用量増加が,明らかに酵母宿主に有毒であり,その結果,細胞倍加時間に有意の増加を生じるということを報告している。
 異種タンパクの収率を増すこと。
 驚くべきことに,ADH2調節系を用いる異種タンパク用発現カセットで形質転換された酵母宿主による異種タンパクの収率が,酵母宿主中のADR1遺伝子でコードされたタンパクの発現を増加させることにより,有意に増加させ得ることが発見された。この結果は,報告されているADR1遺伝子の用量増加による毒性と,多重ADH2プロモーターで形質転換された酵母宿主におけるADHII活性に対する,ADR1遺伝子の100を越えるコピーの効果が小さいことから考えて,驚くべきことである。
 ある実施態様では,本発明は,酵母内で異種タンパクを発現させる方法に関する。該発現方法は,次の工程(a),(b)および(c)を包含する:(a)次の(i)および(ii)により形質転換された酵母宿主を提供すること:(i)酵母が認識し,該酵母宿主内で機能する転写開始配列および転写終結配列の制御下に,該非酵母タンパクのDNAコード配列を有する,該非酵母タンパクの発現カセットであって,該転写開始配列がさらに酵母ADH2上流活性化部位を含む,発現カセット;および(ii)酵母が認識し,該酵母宿主内で機能する転写開始配列および転写終結配列の制御下にADRIのDNAコード配列を有する,ADRIの発現カセット;(b)該非酵母タンパクおよび該ADRIが発現される条件下で,形質転換された該酵母宿主のクローン集団を培養すること;(c)該クローン集団から該非酵母タンパクを回収すること。
 他の実施態様では,本発明は,次の(a)および(b)により形質転換された酵母細胞に関する:(a)酵母が認識し,該酵母宿主で機能する転写開始配列および転写終結配列の制御下に,非酵母タンパクのDNAコード配列を有する発現カセットであって,該転写開始配列がさらに酵母ADH2上流活性化部位を含む,発現カセット;および(b)酵母が認識し,該酵母宿主内で機能する転写開始配列および転写終結配列の制御下に,ADRIのDNAコード配列を有する,ADRIの発現カセット。
 さらに他の実施態様では,本発明は,酵母が認識する転写開始配列および転写終結配列の制御下にADRIのコード配列を含むゲノムに組込まれた発現カセットを有する形質転換された酵母を包含する。該転写開始配列は,ADR1プロモーター以外のプロモーターである。
 本発明のこれらの実施態様および他の実施態様は,以下の記述から当業者には容易に明らかとなる。
 本発明を実施するためには,特に指示しない限り,当該技術分野の範囲内の通常の分子生物学,微生物学,および組換えDNA技術を用いるものとする。このような技術は,文献に詳細に説明されている。例えば,Maniatis,Fritsch&Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1982);DNA Cloning,IおよびII巻(D.N.Glover編,1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編,1984);Transcription and Translation(B.D.Hames&S.J.Higgins編,1984);Immobilized Cells and Enzymes(IRLプレス,1986);B.Perbal,A Practical Guide Molecular to Cloning(1984)を参照されたい。
 本発明を記述するにあたって,以下の用語は下記の定義に従って使用される。
 「ADH II」は,酵母(特にサッカロミセス属,特にS.cerevisiae)に由来するグルコース抑制性アルコールデヒドロゲナーゼIIを意味する。「ADH2」は,ADHIIをコードする酵母遺伝子およびその関連調節配列を意味する。例えば.Russellら(1983)J.Biol.Chem.,258:2674−2682を参照されたい。
 「UAS」は,上流活性化配列またはエンハンサー領域に対して当該技術分野で認められた用語である。これらは,通常,プロモーターのTATAボックスの上流に位置する短い反復DNA配列である。本発明で特に興味深いのは,ADH2 UASである。これは,ADH2 TATAボックスから上流に位置する,22bpの完全逆転反復配列である。Shusterら(1986)Mol.Cell.Biol.,6:1894−1902を参照されたい。
 「ADR1」は,ADHIIの発現に必要な酵母由来の正の調節遺伝子を意味する。例えば、Denisら(1983)Mol.Cell.Biol.,3:360−370を参照されたい。ADR1遺伝子によりコードされるタンパクは,ここでは「ADRI」と呼ばれる。
 「レプリコン」は,インビボでのDNA複製の自律的単位として機能する(すなわち,それ自体の制御下で複製が可能である)遺伝子学的要素(例えば,プラスミド,コスミド,染色体,ウイルス)である。
 「ベクター」は,他のDNAセグメントが付着することにより,該付着セグメントの複製が引き起こされるレプリコン(例えば,プラスミド,ファージ,またはコスミド)である。
 「二本鎖DNA分子」とは,その正常な二本らせん構造のデオキシリボヌクレオチド(アデニン,グアニン,チミジン,またはシトシン)の重合形態を意味する。この用語は,分子の一次構造および二次構造についてのみ用いられており,この分子を特定の三次元形態に限定するものではない。従って,この用語は,特に鎖状DNA分子(例えば,制限断片),ウイルス,プラスミド,および染色体中に見られる二本鎖DNAを包含する。特定の二本鎖DNA分子の構造について考察する際には,DNAの非転写鎖に沿って5’から3’の方向の配列のみを記述するという通常の慣行に従って配列を記載する。つまり,鎖は,特定のコード配列から産生されたmRNAと相同の配列を有する。
 DNA「コード配列」は,適切な調節配列の制御下に配置された場合,インビボで転写され,ポリペプチドヘ翻訳され得るDNA配列である。コード配列の境界は,5’(アミノ)末端の翻訳開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端の翻訳終結コドンにより決定され,かつこれらを包含する。コード配列は,原核DNA配列,ウイルスDNA配列,真核細胞源(例えば,哺乳動物のcDNAまたはゲノムDNA配列,および合成DNA配列さえ包含し得るが,これらに限定はされない。
 「酵母が認識する転写開始配列および転写終結配列」は,コード化配列に隣接し,該コード配列と相同なmRNAの酵母内における転写に関与するDNA調節領域を意味する。該mRNAは,次いで該コード配列によりコードされたポリペプチドに翻訳され得る。転写開始配列は,酵母プロモーター配列を有する。これらは,細胞中の酵母RNAポリメラーゼを結合し,下流(3’方向)のコード配列の転写を開始し得るDNA調節配列である。
本発明を定義するために,プロモーター配列は,その3’末端においてコード配列の翻訳開始コドンに接しており(ただし,該翻訳開始コドンは含まれない),上流(5’方向)はバックグラウンドを越えて検知し得るレベルで転写を開始させるのに必要な最少数のヌクレオチドまたは要素を包含する範囲まで及んでいる。プロモーター配列内には,転写開始部位(S1ヌクレアーゼを用いてマッピングすることにより都合よく定義される)および酵母RNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク結合ドメイン(コンセンサス配列,例えばTATAボックス)が見られる。転写開始配列はまた,例えばプロモーターの調節または増強に関与する他の調節領域(例えば,UAS)を含んでいてもよい。
 本発明において有用なプロモーターには,野生型ADR1プロモーターおよび他の酵母プロモーターが含まれる。特に好ましいものとしては,解糖経路の酵素(例えば,ホスホグルコイソメラーゼ,ホスホフルクトキナーゼ,ホスホトリオースイソメラーゼ,ホスホグルコムターゼ,エノラーゼ,ピルビン酸キナーゼ,グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPD),ADHI,ADHII)と関連するプロモーター、およびこれらのプロモーターのハイブリッドがある。特に好ましいハイブリッドプロモーターは,ADH2遺伝子の5’調節配列(UASを含む)と,GAPDプロモーターの転写開始部位およびコンセンサス配列とから形成されたハイブリッドである。これらは,「ADH2/GAPDハイブリッドプロモーター」と呼ばれる。例えば,EPO公開公報第120,551号および第164,556号,そして第196,056号を参照されたい。同様に,翻訳終結コドンの3’側に位置する転写終結配列は,野生型ADR1,ADH2,またはGAPD転写終結配列か,あるいは酵母が認識する他の終結配列(例えば,他の解糖酵素の遺伝子由来の終結配列)のいずれかであり得る。
 コード配列は,RNAポリメラーゼが転写開始配列に結合し,かつコード配列をmRNAに転写し,この転写が転写終結配列において終結する場合,転写開始配列および転写終結配列の「制御下にある」。次いで,mRNAは,コード配列によりコードされたポリペプチドヘ翻訳される(すなわち,「発現」)。
 「発現カセット」は,転写開始配列および転写終結配列の制御下にコード配列を有するDNA構築物である。本発明の実施において,このような構築物は,酵母が認識する転写開始配列および転写終結配列を包含する。該発現カセットは,例えばADR1タンパクまたは非酵母タンパク,あるいはこれらの両方のコード配列を含む。適切なベクターに発現カセットを都合よくクローニングするために与えられる制限部位を,該発現カセットに隣接するように配置することが特に好ましい。
 外来DNAがある細胞内に導入されている場合,この細胞は該外来DNAにより「形質転換される」という。外来DNAを維持するような細胞の後代を,ここでは同様に「形質転換された」細胞と呼ぶ。外来DNAは,必ずしも細胞のゲノムを構成する染色体DNAに組込む(共有結合させる)必要はない。外来DNAは,形質転換された細胞中で,染色体外のプリコン(例えば,プラスミド)上に維持されてもよい。外来DNAが染色体に組込まれた場合,該外来DNAは染色体の複製により娘細胞に受け継がれる。染色体中に組込まれた外来DNAにより形質転換された細胞は,「安定に」形質転換された細胞と呼ばれる。
 「クローン」または「クローン集団」は,単一の細胞または共通の祖先細胞から有糸分裂により誘導された細胞集団である。
 2つのDNA配列は,ヌクレオチドの少なくとも約60%(好ましくは少なくとも約75%,最も好ましくは少なくとも90%)が,これらの分子の一定の長さ(例えば,100bp,200bp,500bp,1kb,2kbまたはそれ以上)にわたって一致する場合に,「実質的に相同」である。実質的に相同な配列は,特定の系について定義される選択された厳密性の条件下でのサザンハイブリダイゼーション実験において同定され得る。適切なハイブリダイゼーション条件の決定は,当該技術分野の範囲内のものである。例えば,Maniatisら(前出);DNA Cloning(前出);Nucleic Acids Hybridization(前出)を参照されたい。
 DNA分子の「異種」領域は、天然の大きなDNA分子には見られない該DNA分子内の同定可能なDNAセグメントである。同定可能なセグメントは、大きな該DNA分子またはその起源である生物に対して外来となる起源を有するものとして同定するのに充分な長さの配列である。従って,異種領域が哺乳動物タンパクをコードする場合、該異種領域には,起源である生物のゲノム中では哺乳動物DNA配列に隣接していないDNAが通常隣接している。異種コード配列の他の例として,コード配列自体が天然には存在しない構築物がある(例えば,ゲノムのコード配列がイントロンを含むcDNA,あるいは同じタンパクまたは類似のタンパクをコードする,生物とは異なるコドンを有する合成配列)。対立遺伝子変異,点突然変異,あるいは自然に発生する突然変異現象は,ここで用いられているようなDNAの「異種」領域を生じない。ある生物に対する「異種」タンパクは,該生物のゲノムにより天然ではコードされないタンパクである。「非酵母」タンパクは,問題の酵母に対して異種である。
 ここで使用されているように,「酵母」には,有子嚢胞子酵母(Endomycetales),有担子胞子酵母,および不完全菌類に属する酵母(Blastomycetes)が含まれる。有子嚢胞子酵母は,2つの科(すなわち,Spermophthoraceae科およびSaccharomycetaceae科)に分けられる。後者は,4つの亜科〔すなわち,Schizosaccharomycoideae亜科(例えば,Schizosaccharomyces属),Nadsonioideae亜科,Lipomycoideae亜科,およびSaccharomycoideae亜科,(例えば,Pichia属,Kluyveromyces属,Saccharomyces属)〕からなる。有担子胞子酵母には,Leucosporidium属,Rhodosporidium属,Sporidiobolus属,Filobasidium属,およびFilobasidiella属が含まれる。不完全菌類に属する酵母は,2つの科〔すなわち,Sporobolomycetaceae科(例えば,Sporobolomyces属,Bullera属)およびCryptococcaceae科(例えば,Candida属)〕に分けられる。本発明で特に興味があるのは,Pichia属,Kluyveromyces属,Saccharomyces属,Schizosaccharomyces属,およびCandida属に属する種である。特に興味があるのは,Saccharomyces種のS.cerevisiae,S.carlsbergensis,S.diastaticus,S.douglasii,S.kluyveri,S.norbensis,およびS.oviformisである。Kluyveromyces属で特に興味のある種には,K.lactisが含まれる。酵母の分類は将来変わるかもしれないので,本発明では,酵母は,Biology and Activities of Yeast(F.A.Skinner,S.M.Passmore&R.R.Davenport編,1980年)(Soc.App.Bacteriol.Symp.Series No.9)に記載されているように定義されるものとする。上記のことに加えて,当業者は,酵母の生物学および酵母の遺伝子操作について,おそらく熟知している。例えば,Bio−chemistry and Genetics of Yeast(M.Bacila,B.L.Horecker&A.O.M.Stoppani編,1978年):The Yeasts(A.H.Rose&J.S.Harrison編,第2版,1987年):The Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces(Strathernら編,1981年)を参照されたい。
 本発明は,一例として,Saccharomyces属(特に,S.cerevisiae)の酵母に関して記載される。しかしながら,本発明はこれらの酵母に限定されない。
 本発明(すなわち,酵母における異種タンパクの増強発現)は,異種タンパクのコード配列を酵母宿主内のADH2調節配列の制御下に配置し.該酵母宿主におけるADRI発現を増強することにより達成される。ADH2プロモーター(ADH2/GAPDハイブリッドプロモーターのようなハイブリッドADH2プロモーターを包含する)を用いる非酵母タンパク用の発現カセットの構築は,EPO公開公報第120,551号および第164,556号に詳細に記載されている。
 本発明は,野生型酵母株と比べてADRI発現が増強された酵母宿主を用いるこのような酵母宿主を,ADH2プロモーターに基づく上記の発現カセットと共に用いた場合,ADH2カセットから産生される異種タンパクの生産量が実質的に増加する。ADRI発現が増強された酵母宿主は,数多くの方法で提供することができる。
 ある好ましい実施態様では,増強されたADRI発現は,(通常,ADR1遺伝子に由来する)ADRIのコード配列を含む発現カセットで酵母宿主を形質転換することにより与えられる。該発現カセットは,宿主におけるADRIのより高い発現レベルを与える。該発現カセットは,ADR1転写開始配列および転写終結配列の制御下にあるコード配列を含み得る。あるいは,異種の転写開始配列および転写終結配列を用いてもよい。ある好ましい実施態様では,ADRIカセットは,ADR1プロモーターの代わりに,強力な酵母プロモーター(すなわち,ADR1プロモーターに比べて,コード配列の転写を少なくとも5倍増加させるプロモーターである)を用いて構築される。このようなプロモーターの例として,GAPDプロモーターがある。
 ADRIカセットは,カセットを染色体外ベクター(例えば,コピー数の多いベクター)上に維持するか,あるいは組込みベクターを用いて酵母宿主ゲノム内に組込むことにより,酵母宿主を形質転換するのに用いることができる。ADRIカセットおよび非酵母タンパクカセットは,酵母宿主の内部における同じベクターまたは異なるベクター上に維持するか,あるいは同じ組込みベクターまたは異なる組込みベクターを用いて宿主ゲノム内に組込むことができる。
 特に好ましい実施態様では,酵母宿主は,強力な酵母プロモーターを用いたADRIカセットを有する組込みベクターにより形質転換され,異種タンパクカセットは,染色体外の高コピーベクター上に維持される。例えば,組込まれたADRIカセットは,GAPDプロモーターを用いることができ,染色体外非酵母タンパクカセットは,ADH2プロモーターまたはADH2/GAPDハイブリッドプロモーターを用いることができる。
 本発明において使用されるレプリコン(通常,プラスミド)は,1つまたはそれ以上の複製系,望ましくは発現用の酵母宿主とクローニング用の細菌宿主(例えば,E.coliとの両方において,レプリコンの維持を可能にする2つの複製系を包含する。このような酵母−細菌シャトルベクターの例には,YEp24〔Botsteinら(1979)Gene,8:17−24〕,pC1/1〔Brakeら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:4642−4646〕,およびYRp17〔Stinchombら(1982)J.Mol.Bio1.158:157〕が挙げられる。さらに,染色体外ベクターは,コピー数が多いかまたは少ないベクターであってもよい。コピー数は,一般に約1〜約500である。高コピー数酵母ベクターを用いると,単一宿主内におけるコピー数は,一般に少なくとも10,好ましくは少なくとも20であり,通常は約150〜500を越えない。選択された非酵母タンパクによって,宿主に対するベクターおよび異質タンパクの影響により,コピー数の多いベクターまたはコピー数の少ないベクターが望ましい。例えば,Brakeら(前出)を参照されたい。本発明のDNA構築物はまた,組込みベクターによって酵母ゲノム内に組込むことができる。このようなベクターの例は,当該技術分野で知られている。例えば,Botsteinら(前出)を参照されたい。ゲノムに組込まれるカセットのコピー数は,好ましくは50より少なく,より好ましくは約10より少なく,通常は約5より少ない(野生型遺伝子に加えて)。典型的には,組込まれるカセットのコピー数は,1または2である。
 本発明を実施するのに適切な酵母および他の微生物宿主(例えば,二倍体,一倍体,栄養要求株など)の選択は,当該技術の範囲内のことである。発現用の酵母宿主を選択する場合,適切な宿主には,特に,良好な分泌能力,低いタンパク分解活性,および全体的な強さを有することが知られているものが含まれる。酵母および他の微生物は,一般に様々な供給源から入手できる。これらの中には,カリフォルニア州バークレーのカリフォルニア大学生物物理および医学物理学部の酵母遺伝子ストックセンター,およびメリーランド州ロックビルのアメリカンタイプカルチャーコレクションが含まれる。
 外来DNAを酵母宿主内に導入する方法は,当該技術分野でよく知られている。酵母を形質転換するには,種々様々な方法がある。例えば,スフェロプラスト形質転換が教示されている(例えば,Hinnenら(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1919−1933;およびStinchcombら,EPO公開公報第45,573号)。形質転換体は,適切な栄養培地で増殖し,適切な場所で,内存DNAの保持を確実にする選択圧下で維持される。発現を誘発させ得る場合,酵母宿主を増殖させて細胞密度を高くすることができ,次いで発現を誘発させる。非酵母タンパクは,従来の手段により採集され,クロマトグラフィー,電気泳動,透析,溶媒抽出などにより精製される。
 以下の実施例は,単に例示を目的とするものであり本発明の範囲を限定するものではない。この発明を実施するのに必要な生物学的出発材料は,同一もしくは同等物を公に入手できるので,寄託する必要はないと思われる。本願明細書に引用されているすべての文献に記載されている内容は,当業者が熟知していると思われ,特に本願に引用文献として用いる。
 実施例I
 この実施例では,ADRIの発現が強化された発現カセットの構築,自律的に複製する酵母ベクターへの該カセットの挿入,および該ベクターによる酵母株の形質転換について述べる。第1図は,ベクター構築の流れ図を示し,第2図は,得られたベクターの部分制限地図を示す。
 プラスミドYPp7−ADR1−411〔デニス(Denis)ら.Mol.Cell.Biol.3巻,360〜370頁,1983年〕は酵母ADR1遺伝子を有する。このプラスミドを,制限酵素HincIIで切断し,5’末端の最初の16個のアミノ酸のコドンを欠いたADR1遺伝子を含む断片を単離した。標準方法で,N末端コドンを置換してBglII制限部位を含む5’延長部分を付与し,ひとつのオリゴヌクレオチドを合成した。ADR1遺伝子に通常存在するコドンの代わりに酵母に好ましいコドンを用いて調製したオリゴヌクレオチドアダプターの配列は下記のとおりである。
Figure 2004081222
 このアダプターを,YPp7−ADR1−411由来の上記HincII断片に,標準条件下で連結した。リガーゼを不活性化した後,得られた混合物をBglIIで切断し,ADRIの最初の641個のアミノ酸のコード配列を有する1.9kbのBglII断片を創製した。次にこのBglII断片を精製し,再クローン化し,プラスミドpAB27のGAPDプロモーターとGAPDターミネーターとの間のBglII部位に連結した。上記連結は,このプロモーターが,ADRIをコードする配列の正確な転写を指示するように行なわれた。得られたプラスミドをpJS118と命名した。
 プラスミドpAB27は,酵母の2ミクロンプラスミド,E.coli pBR322プラスミド,酵母の標識遺伝子URA3およびLEU−2d由来の配列,そして,GAPDプロモーターおよびGAPDターミネーターの配列の間に配置されたBglII挿入部位を有する”空の”(empty)GAPD発現カセットを含む酵母シャトル発現ベクターである。
 プラスミドpJS118は,ADRIの最初の641個のアミノ酸のみをコードするので,中間体である。次に,ADR1遺伝子由来のコード配列の残りの部分をこのベクターに付加してpJS119を得た。まず,YRp7−ADR1−411をSacIで切断し,ADR1由来の残りのコード配列と,ADR1の3’隣接配列とを有する4kbの断片を単離した。次いでこの4kbの断片を,SacIで切断してアルカリホスファターゼで処理したpJS118に連結して,プラスミドpJS119を創製した。ADR1コード配列の完全性を制限酵素分析法で試験して,断片が正しい方向に挿入されていることを確認した。プラスミドpJS119を,標準法を用いて,2種の異なる酵母宿主株AB110およびJC482に形質転換した。〔例えばヒネン(Hinnen)ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75巻,1929頁,1978年,を参照〕。
 エス.セレビシエ(S.cerevisiae)2150−2−3(ワシントン大学のリー ハートウェルより入手)と,pCl/l誘導体を有するエス.セレビシエABl03.1形質転換体とを交雑させることによって酵母株AB110を得た。二倍体の胞子が形成され,四分染色体は全裂であった。酵母株は,プラスミドの保持を確実にするためにロイシン選択プレート上に維持した。なぜなら親株が栄養素要求体だからである。一連のコロニーを,いくつかの標識(Matα,ura3,leu2,pep4−3)について,その遺伝子型を選別した。得られた雑種株を,ロイシンの存在下(すなわち選択圧なし)で増殖することによってその常在性プラスミドを除去(cure)し,次にレプリカ平板法でleuコロニーを選別することによって,AB110株を得た。AB110は,遺伝子型Matα,ura3−52,leu2−04,またはleu2−3とleu2−112,pep4−3,his4−580,cir°を有する。種々の非相同プラスミドを有する上記の株の試料は,1984年5月9日付でATCCに寄託番号第20709号で寄託された。EPO公開公報第164,556号を参照されたい。
 JC482株は,米国,ペンシルヴェニア州,フィラデルフィアのペンシルヴェニア大学のジョン キャノン博士(Dr.John Cannon)から入手した。この株は常在性2ミクロンプラスミドが除去されている。
 上記の株は,ADHII活性が増強されているので,ADH2調節配列,特に組込みベクター上の発現カセットの制御下にある,非相同タンパクの発現カセットで形質転換するのに適している。あるいは,このような発現カセットは,pJS119の通常の制限部位に挿入され,得られたベクターを適当な酵母株を形質転換するのに使用することができる。
 実施例II
 この実施例では,ADRIの発現カセットを有する組込みベクターの構築と,そのベクターによる,酵母株の形質転換について述べる。組込みプラスミドpDM15を第3図に示し,その構築を第1図の流れ図に示す。
 プラスミドpJS132は,pBR322配列と;クライベロミセス ラクティス(Kluyveromyces lactis)ADH1のプロモーターおよびターミネーター配列の制御下で酵母のG418耐性をコードする遺伝子と;を有するプラスミドである。このプラスミドをSmaIとSalIとで切断し,得られた大きい方の線状断片を精製した。
 プラスミドpJS119をPstIで切断した。このPstIは,ADRIをコードする配列の3’末端から下流の部位で切断する。次に,切断されたプラスミドを一重鎖に特異的に作用するS1ヌクレアーゼで処理して平滑断端をつくり出し,次にSalIで切断してADRI発現カセットを有する6.2kbの断片を得た。フェノールによる抽出とエタノールによる沈澱とを,各逐次工程の間に行った。SalIによる平滑断端を有する断片を,前記の大きい方のpJS132断片に連結してプラスミドpDM15を作製した。
 次にプラスミドpDM15を用い,標準方法を使用して酵母を形質転換することによって,ADRIを過剰生産するサッカロミセスを作製した。例えば,AB110株を,G418耐性株に形質転換し,ADRI過剰生産性を示す株を分離した。この株をJSC300と命名した。もうひとつのADRI過剰生産株JSC302を、常在性プラスミドを除去したBJ2168(前出のYeast Genetic Center)から同様の方法で作製した。さらに他のADRI過剰生産株はJSC308である。
 実施例III
 以下の実施例では,非相同性タンパクの発現宿主として,ADRI生産性を強化された酵母株が有用であることを証明する。
 酵母株JSC300を,スーパーオキシドジスムターゼ(SDD)/インスリン様増殖因子II(IGFII)融合タンパクの発現カセットと,塩基性ヒト繊維芽細胞増殖因子(hFGF)の発現カセットとで形質転換した。
 SOD/IGFII発現ベクターであるpYLUIGF2−14はEPO公開公報第196,056号に記載されている。またこのベクターは,ATCC寄託番号第20745号で寄託されている(1985年2月27日)。
 塩基性hFGF発現ベクターのpA/G−hFGFは次のようにして作製した。最初に,標準的な方法で下記の配列を有する合成hFGF遺伝子を作製した。
Figure 2004081222
 プラスミドpBSl00(EPO公開公報第181,150号)はADH2/GAPDハイブリッドプロモーターカセットを有する。合成hFGF配列をゲルで精製し,Ncol/Sallで消化したpBSl00にクローン化して,hFGF配列をカセット中に配置した。このカセットを,BamHIで,pBSl00/FGFプラスミドから切取り,次いで酵母シャトルベクターpAB24のBamHI部位にクローン化した。EPO特許出願第88312306.9および特願昭63−335685号、ならびにBrosch、Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces、第1巻、445頁(1981)を参照されたい。得られたベクターをpA/G−hFGFと命名した。
 上記発現カセットは,ADH2遺伝子由来のUASをもっていた。酵母株を形質転換後増殖させ,標準法で非相同性タンパクを回収した。分離したタンパクをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法で分析した。酵母株AB110(対照)およびJSC300内に,SOD/IGFII融合タンパクとhFGFとが発現したということが,JSC300を宿主として用いた時に非酵母のタンパクの収量が300倍も増加したことによって証明された。
 高収量発現の他の例としては,ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)タイプ1由来のポリペプチドがある。例えば,HIV gp120envの1/2のカルボキシ末端に相当するポリペプチドを,高レベルで発現することができる。適切な発現ベクターの例は,EPO公開公報第181,150号および特願昭60−246102号に開示されている。これらの文献に開示される特に好ましいベクターは,pBS24/SOD−SF2env4である。
生物材料の寄託
 下記の株およびプラスミドの試料は,American Type Culture Collection(ATCC)(米国,メリーランド州,ロックビル,パークローン ドライブ12301)に寄託され,ブダペスト条約の規定に基づいて保管されている。これらの寄託番号と寄託日を以下に別記する。
 寄託物                  ATCC寄託No.  寄託日
 S.Cerevisiae JSC300  20878      1988年5月5日
 S.Cerevisiae JSC308  20879      1988年5月5日
 pDM15  DNA           40453      1988年5月5日
 pJS119 DNA           40454      1988年5月5日。
 これらの寄託は,当業者の便宜のために行われるものである。これらの寄託は,このような寄託物がこの発明を実施するのに必要であることを認めるものではなく,また,同等の実施態様が,本願の開示からみて,当該技術分野に含まれていないということを認めるものではない。これらの寄託物が公に入手できるとはいえ,この特許もしくは他の特許に基づいて寄託された材料を使用して,製造,使用もしくは販売する認可を承認しているわけではない。寄託された材料の核酸配列は参照のため本願に組み込まれ,本願に記載の配列と矛盾するか否かをコントロールされている。
 本発明は,明確さと理解を目的として,図示と実施例とでいくぶん詳細に説明したが,添付の特許請求の範囲から逸脱することなく改変および修飾が行なわれ得ることは明らかである。
図1は,プラスミドpJS119およびpDM15の構築を示すフローチャートである。 図2は,プラスミドpJS119の制限地図である。すべての制限部位が示されているわけではない。この図では以下の略号が用いられている:URA3,酵母URA3遺伝子;LEU2−d,酵母LEU2−d遺伝子;GAP−t,グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼmRNA終結配列;ADR1,酵母ADR1遺伝子;p−GAP,グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼmRNAプロモーター開始配列;pBR322,E.coliプラスミド配列;2μm,酵母2ミクロンプラスミド配列。 図3は,プラスミドpDM15の制限地図である。すべての制限部位が示されているわけではない。略号は第2図と同じであるが,以下のものが付け加えられている。:G418,G418(Geneticin)に対する耐性を与える遺伝子;(Sma/Pst),SmaIとPstIとの制限部位間の融合部位。

Claims (1)

  1.  酵母が認識する転写開始配列および転写終結配列の制御下にADR Iのコード配列を含むゲノムに組込まれた発現カセットを有する形質転換された酵母であって、
     該転写開始配列がADR1プロモーター以外のプロモーターである、形質転換された酵母。
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