パナソニックのハイブリッド式衣類乾燥除湿機「F-YHMX120」
先日、関東以西の各地域が梅雨入りし、曇りや小雨の続く天気が多くなってきた。こうした梅雨の季節になると人気が高まるのが「除湿機」である。元々は、湿度の高い部屋を除湿し高温多湿になるこの時期を快適に過ごせるように、あるいは押し入れ・クローゼットなどの湿気取りにということで、広まってきた製品であるが、ここ1〜2年で、除湿機のイメージもだいぶ変化しつつある。それが、従来はさほどクローズアップされていなかった「衣類乾燥機」としての利用法である。
除湿機には大きく分けて、コンプレッサーと冷媒で熱交換器を回し、冷気で水分を結露させて除去する「コンプレッサー式」と、親水性の高いゼオライトという物質を使って水分を吸着させ、それを温風ファンで取り除く「ゼオライト式(デシカント式)」の2種類があり、この両方の機能を備えた「ハイブリッド式」という製品も存在する。どの方式でも、部屋の湿度を下げるという効果自体は同じなため、洗濯物の部屋干しなどを行う際に利用すると、洗濯物が早く乾くというメリットはあった。ただ、最近では、こうした「衣類乾燥」の効果を前面に押し出して、除湿機をアピールするメーカーが増えており、実際パナソニックやシャープでは「衣類乾燥除湿機」という名前で、製品を売り出している。
図1:「除湿機」カテゴリーのアクセス数推移(過去2年間)
こうしたメーカー側のPR効果もあって、ここ1〜2年で見ると、わずかずつではあるが、除湿機の人気は高まりつつある。図1は、「価格.comトレンドサーチ」で見た、過去2年間における「除湿機」カテゴリーのアクセス数推移を示したもの。これを見ると、昨年2015年の5月末よりも、今年2016年の5月末のほうがアクセス数は高めで推移しており、前年比では約145%ほどの進捗率となっている。今後どの程度伸びるかはまだわからないが、例年よりも早い時期から、製品が売れ出しているということが見て取れる。
図2:「除湿機」カテゴリーにおける売れ筋人気ベスト5製品のランキング推移(過去3か月)
その除湿機の中でも人気となっているモデルの顔ぶれを見ると、今年の傾向が如実にわかってくる。ベスト5製品中、1位のパナソニック「F-YZM60-W」(ゼオライト式)を除くと、ほかの4製品すべてがコンプレッサー式、あるいはハイブリッド式なのだ(図2)。さらに広げてベスト10まで見てみても、ゼオライト式はわずかに2製品のみ。6製品がコンプレッサー式で、2製品がハイブリッド式という状況になっている。
図3:「除湿機」カテゴリーに掲載中の除湿機のタイプ別割合(2016年5月時点)
ちなみに、現在、価格.comの「除湿機」カテゴリーに掲載されている除湿機をタイプ別に分けてその割合を出したのが図3だ。これを見ると、コンプレッサー式がやはり多く全体の約60%を占めている。次いで、ゼオライト式が20%強で、ハイブリッド式が20%弱となっている。上述の売れ筋ベスト10の顔ぶれとほぼ同じ割合になっており、いかに今、コンプレッサー式あるいはその機能を搭載したハイブリッド式の人気が高いかがわかるだろう。
ただ、数年前までは、コンプレッサー式とゼオライト式との間にここまで大きな差はなかった。コンプレッサー式は確かに除湿パワーが強く、冷気で除湿するエアコンと同じ原理で動作するため、梅雨時など夏場の利用に向いている。ただ、価格が全般的に高めで、ボディも大きくなりやすいというデメリットもあった。これに対して、ゼオライト式は、価格が比較的安めでボディも小型化しやすいため、比較的手軽に購入できる除湿機として一定の人気を保っていたのだが、ここ数年でコンプレッサー式の人気に大きく差を付けられた形となっている。
この理由としては、やはり前述の「衣類乾燥機」として除湿機が認知され始めたということが大きいだろう。衣類を部屋干しする際に、一番重要になるのは、「いやな臭いの元になる室内の雑菌が付く前に、素早く衣類を乾かすということ」であるが、これには除湿機の除湿パワーが重要になってくる。そうなると、どうしてもパワーの強いコンプレッサー式のほうが有利になってくるのだ。さらに、気温の下がる冬場の除湿には、逆にゼオライト式のほうが有利になるのだが、そのどちらの機能も兼ね備えたハイブリッド式であれば、季節を問わず1年中いつでもパワーが落ちることがない。こうした理由から、今、除湿機の中では、コンプレッサー式、あるいはハイブリッド式が人気となってきているのである。
図4:「除湿機」カテゴリーにおけるメーカー別PV推移(過去3か月)
図4は、過去3か月における「除湿機」カテゴリーのメーカー別PV推移を示したもの。これを見ると、メーカー別では、パナソニックが安定した人気を維持しており、2位をシャープとコロナが争う展開となっているが、直近ではシャープが抜け出し、2位の座を確保しそうな勢いだ。
このように、メーカー別では、パナソニックが非常に強いカテゴリーなのだが、これには大きな理由がある。パナソニックは、除湿機のラインアップをかなり幅広く持っており、前述のタイプ別では、コンプレッサー式、ゼオライト式、そしてハイブリッド式と、3種類すべてをラインアップしている。この中でも、ここ数年非常に人気があるのが、パナソニックならではともいえるハイブリッド式の除湿機である。パナソニックでは、すでに10年以上前からこのハイブリッド式除湿機を展開しているが、ここ数年、その人気が高まってきており、パナソニック自身も「衣類乾燥除湿機」とネーミングを変えて、消費者にアピールしている。コンプレッサー式とゼオライト式の両方の機能を併せ持つハイブリッド式は、おのずと価格も高く、ボディも大型になってしまうが、それでも、1年中パワーを落とすことなく衣類乾燥機として使えるというバリューが人気を呼んで売れているのだ。その結果、昨年の「価格.comプロダクトアワード 2015」の生活家電部門では、2015年モデルの「F-YHLX120」が見事プロダクト大賞を受賞するに至ったほどだ(図5)。
図5:「価格.comプロダクトアワード 2015」の生活家電部門で大賞に輝いた、パナソニックのハイブリッド式加湿器「F-YHLX120」
図6:「除湿機」カテゴリーにおける売れ筋製品ベスト5のアクセス数推移(過去3か月)
図6は、過去3か月における、「除湿機」カテゴリーの売れ筋ベスト5製品のアクセス数推移を示したもの。これを見ると、2015年3月発売のシャープ「CV-EF120」(コンプレッサー式)が元からそこそこ人気だったが、パナソニックやシャープから2016年4月に新モデルが相次いで発売されると、これらの新モデルがグンと人気を上げ、これに迫ってきていることがわかる。なお、現在売れ筋ランキングの4位と5位につけている、パナソニックのハイブリッド式除湿機「F-YHMX120」と「F-YC120HMX」は、型番は違うが、スペック的にはほぼ同一の製品で、いずれも上述した「F-YHLX120」の後継モデルとなっている。
図7:「除湿機」カテゴリーにおける売れ筋製品ベスト5の最安価格推移(過去3か月)
図7は、過去3か月における、「除湿機」カテゴリーの売れ筋ベスト5製品の最安価格推移を示したもの。現在売れ筋ランキング1位のパナソニック「F-YZM60-W」は、ゼオライト式であるため、価格も16,000円台と比較的安いが、シャープのコンプレッサー式モデル2製品は2〜3万円台。パナソニックのハイブリッド式モデル2製品に関しては45,000円台で推移しており、価格差はかなりあることがわかる。面白いのは、価格の安い型落ちモデルではなく、発売されたばかりの最新モデルのほうが人気があること。現在売れ筋3位のシャープ「CV-EF120」以外は、すべて2016年4月発売の新モデルであり、まだ販売価格も高めで推移しているにもかかわらず、こちらのほうが売れている。しかも、3〜4万円台という高額なコンプレッサー式、あるいはハイブリッド式モデルが売れているという状況が、現在の停滞気味な家電業界の中にあっては、非常にユニークだ。
このように、今の除湿機は、従来の部屋の湿気取りとしての除湿機から、衣類乾燥機として1年中使える製品への変貌を遂げつつある。それにともなって、従来は人気のあったゼオライト式よりも、よりパワーのあるコンプレッサー式や、1年中使えるハイブリッド式が人気となってきている。今の除湿機が「高くても売れる」という、その裏には、こうした除湿機自体に求められる消費者のニーズの変化があったのだ。