「オートなんて使わない、邪道だ!」と思っているあなたに送る本企画。シャッターボタンを押すだけで、日常シーンのほとんどを撮影できる「オートモード(全自動撮影、全オート)」の魅力と実際の使いどころについて解説していこう。
本記事では、キヤノンの「EOS R8」とキットレンズ「RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM」を使用した。「EOS R8」は多機能ながら小型・軽量がうれしいフルサイズミラーレスカメラ。「初めてのフルサイズ」にもおすすめできる機種だ。今回はオートモード(シーンインテリジェントオート)を使ってその能力を確認していく
掲載する写真作例について
すべてオートモード(シーンインテリジェントオート)を使って撮影しました。
冒頭でも述べたように、「オートモード」は日常シーンのほとんどに対応できる非常にすぐれた撮影モードだ。しかし、カメラの扱いに慣れてくると、よほどのことがない限り使う機会はなくなっていく。
これは、オートモードの信用度がそれほど高くなく、多くの場面で「自分で設定したほうがより狙いどおりに撮れる」と判断しているからかもしれない。あるいは、「せっかくいいカメラを買ったのにオート撮影だなんてつまらない!」と思っている人もいるかもしれない。
ただ、これは大きな誤解だ。確かにオートモードはカメラ任せの撮影モードである。しかし、最新のデジタルカメラのオートモードは、カメラが撮影シーンを解析し、シーンに適した設定を自動で行ってくれるまでに進化を遂げている。つまり、撮影者の狙いを予測してその設定値を自動で割り出してくれているのだ。カメラが気まぐれに判断しているのではない。構図や主題に合わせて、撮影者の狙いに寄り添いながら判断しているのである。
「EOS R8」は、キヤノンのほかの最新モデル(上位機種を除く)と同様、オートモードとして「シーンインテリジェントオート(A+)」を搭載している。このモードに設定すると、ホワイトバランスや仕上がり設定「ピクチャースタイル」はすべて自動になり、シャッターボタンを押すだけの簡単操作で撮れるようになる。このようにオートモードは多くの撮影項目が自動化されるわけだが、この仕様はどのメーカー・機種でもだいたい同じだ。
「EOS R8」のモードダイヤル。「A+」のマークがオートモード(シーンインテリジェントオート)だ。ダイヤルをこのマークに設定すれば、シャッターボタンを押すだけで被写体に合わせた撮影が行える
このようにシャッターボタンを半押しするだけで、メインの被写体をカメラが自動で判別してピントを合わせてくれる。判別したシーンは、画面左上にアイコンとなって表示される
では、オートモードを使って撮影した作例を紹介しながら、その性能を詳しく紹介していこう。
オートモードを使ってみてまず驚くのが、合わせてほしいポイントに、シーンを選ばず高確率にピントを合わせてくれることだ。「EOS R8」は被写体検出機能もすぐれている。シャッターボタンを半押しし続ける限り、検出した被写体が動いてもピントをずっと合わせ続けてくれる。このあたりも全部自動。AF(オートフォーカス)の操作が省けてうれしい。もちろん、タッチAFも有効だ。
また、撮影時の状況にもよるが、基本的に、遠景で撮る際には絞り値が大きくなって被写界深度が深くなり、被写体に寄って撮る際には絞り値が小さくなって被写界深度が浅くなる。被写体に寄る際は背景をぼかして撮ることが多いので、こうした設定を自動で行ってくれるのはありがたい。
都市風景を撮影してみたところ、自動で絞り値をF10まで絞ってくれた。全体にピントを合わせシャープに描写されている。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、シーンインテリジェントオート、F10、1/320秒、ISO100
「シーンインテリジェントオート」は、夕景や青空のシーンがより印象的な色合いで描写されるのも特徴的。黄色みや赤みが自然で美しい。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、シーンインテリジェントオート、F8、1/200秒、ISO100
ローアングルからダイナミックに撮影。絞り値はF8だが、被写体に寄っているので背景が大きくボケている。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、27mm、シーンインテリジェントオート、F8、1/160秒、ISO100
花にレンズを向けると、花を主要被写体と判断してピントを合わせ続けてくれる。寄っていくと背景をぼかそうとして、絞りもF6.3まで開いた。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、シーンインテリジェントオート、F6.3、1/100秒、ISO800
被写体に寄ることで、背景をしっかりぼかそうと、絞り値は自動で小さく設定されていく。このあたりの調整具合が絶妙だ。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、シーンインテリジェントオート、F4.5、1/320秒、ISO800
人物に対しては、瞳や顔、上半身をしっかり検出しながら撮れる。被写体が動いても平気。シャッターボタン半押し中は、ピントを合わせ続けてくれる。やや暗い室内の半逆光のシーンだったが、ぶれないように高感度になり、シャッタースピードも高速に。逆光で顔が暗くならないように露出も割り出されている。背景ボケも美しい。言うことなしの結果だ。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、シーンインテリジェントオート、F6.3、1/125秒、ISO3200
人形の目を被写体検出し、ピントを合わせてくれた。手前にピントが合ってしまうこともなく、狙いどおり。オートモードでもAFの性能が下がるわけではないのだ。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、シーンインテリジェントオート、F6.3、1/100秒、ISO400
夜景も撮ってみた。手持ちで撮っても手ブレしないように自動で感度が上がり、高速シャッタースピードが利用できる。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、28mm、シーンインテリジェントオート、F5、1/160秒、ISO2000
奥の白い旗に自動でピントを合わせてくれた。「EOS R8」は暗所でもAFの精度は非常に良好だ。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、シーンインテリジェントオート、F6.3、1/125秒、ISO8000
同じシーンをレンズの焦点距離を変えながら2枚撮ってみた。いずれも背景ボケが美しい。ここでは微妙に色合いが変化していることに注目してほしい。オートモードでは、シャッターを切るたびに、露出値やホワイトバランス、仕上がり設定などが変化する可能性がある。夜景のような明暗差のあるシーンや、色合いが特徴的なシーンでは、特にその変化が大きく出やすい。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、シーンインテリジェントオート、F7.1、1/100秒、ISO2500
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、32mm、シーンインテリジェントオート、F5.6、1/60秒、ISO1000
最近のオートモードは、簡単な操作で明るさや色合いを変更できるアシスト機能が付いていることが多い。オートで狙いどおりの写真が撮れない場合に活用してみよう。通常使っている応用撮影モード(プログラムAFや絞り優先AFなど)と同じような使い方が、より簡単な手数で行える。
「EOS R8」では撮影画面の右下に表示されるアイコンをタッチしてアシスト機能の画面に入る。このように「背景ぼかし」や「明るさ」「コントラスト」などを選択できる
たとえば「明るさ」を選ぶと、わかりやすくスライダーで調整できる
アシスト機能を使えばピントの合う範囲を狙いどおりにセットできる。ここでは手前から奥までピントが合うように「背景ぼかし」の項目をプラス方向に調整した。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、35mm、シーンインテリジェントオート、F11、1/100秒、ISO160、背景ぼかし(+5)
全体を暗めにし、「コントラスト」や「鮮やかさ」を強めに調整。空色を強調したくて、「色合い」も青みを加える設定にした。こうした描写も手軽な操作で作れてしまう
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、37mm、シーンインテリジェントオート、F11、1/320秒、ISO100、明るさ(-3)、コントラスト(+3)、鮮やかさ(+3)、色合い1(-5)
モノクロ表現もアシスト機能から設定できる。ここではセピア調を選んで撮ってみた。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、シーンインテリジェントオート、F11、1/80秒、ISO125、背景ぼかし(+5)、明るさ(-2)、コントラスト(+3)、モノクロ(セピア)
オートモードはきれいな写真をカメラ任せで簡単に撮れるのが特徴だが、「シーンモード」を活用することでもう一歩踏み込んだ撮影が可能になる。オートモードを補う形で使うのがおすすめだ。
たとえば、「EOS R8」では、「シーンインテリジェントオート」のアシスト機能の中に、被写体の動きに関わる項目がない。ちょっと裏技的な使い方だが、動きを止めたいときはシーンモードの「スポーツ」を設定してみよう。また、逆に動きをぶらしたいときは、シーンモードの「流し撮り」を選んでみよう。この際シャッタースピードは1/30秒程度になる。手ブレしないようにしっかり構えよう。
このように、シーンモードをうまく活用することで、オート機能を使いながら、ぶらしたり止めたりの選択肢を増やすことができるのだ。
「EOS R8」ではシーンモードは「スペシャルシーンモード」と呼び、ダイヤルの「SCN」から利用する
「スペシャルシーンモード」の画面。項目を選択するだけの簡単操作だ
シーンモードの「スポーツ」を選択して撮影した作例。このモードを使うと、高速シャッターが自動で選ばれ、被写体をしっかり止めて写せるようになる。連写機能も同時に設定される。これはとっさの判断で静止物と動きものの撮影を切り替えたい場面で便利だ。落ち着いてスピーディーに動きの速い被写体に対応できる。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、スペシャルシーン(スポーツ)、F5、1/1250秒、ISO250
オートモードで撮影。噴水を止めて写したかったがぶれてしまった。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、インテリジェントオート、F6.3、1/125秒、ISO125
シーンモードで「スポーツ」を選択して撮ってみた。水がしっかり止まって粒で写っている。被写体は風景だが、「スポーツ」モードはその特徴を理解できればこういう場面でも重宝する。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、スペシャルシーン(スポーツ)、F6.3、1/1250秒、ISO1250
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、インテリジェントオート、F10、1/250秒、ISO100
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、インテリジェントオート、F6.3、1/100秒、ISO100
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、インテリジェントオート、F4.5、1/60秒、ISO2500
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、インテリジェントオート、F6.3、1/125秒、ISO640
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、インテリジェントオート、F6.3、1/30秒、ISO25600、モノクロ(白黒)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、インテリジェントオート、F10、1/250秒、ISO100、明るさ(-1)、コントラスト(+3)、鮮やかさ(+3)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、43mm、スペシャルシーン(スポーツ)、F6.3、1/1250秒、ISO320
今回「EOS R8」を用いて、オートモードをフル活用してみたが、撮り手の心を見透かすように、狙いに沿って最適な撮り方が自動で選ばれていくさまは、使っていて信頼でき非常にインパクトがあった。確かに苦手なシーンもあるが、そこもアシスト機能を使えばきっちり補える。もうオートモードでいいのではないか!? と思えるほどだった。
「EOS R8」は特にオートモードでのAF性能がすぐれていたが、機種やメーカーによって個体差が出そうだ。自分のカメラで確認してみてほしい。また、オートモードは、使用するレンズの影響を受けることも覚えておこう。本記事ではそれほど明るくない標準ズーム「RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM」を使用したが、明るいレンズに変えると表現の厚みが増すだろう。よりボケ味を生かしやすく、暗所でも低感度で撮影しやすくなる。
なお、最近のミラーレスはオートモードでもRAWデータの記録に対応するものが増えている(※「EOS R8」もRAW記録に対応)。撮影時にこだわれなかった部分をRAW現像で補うというのも面白い。撮影に集中するためにオートモードを用い、細かな微調整はRAW現像で行う。そんな使い方もできるだろう。
正直、オートモードは思った以上に優秀で驚いた。昨今の人工知能をはじめとするテクノロジーの進化は、こうしたオート機能にこそ力を発揮する。進化するデジタルカメラの姿をより実感できる分野がオートモードなのだ。ぜひ、いつものモードと合わせて、有効に活用してほしい。