知っているとタメになるカメラ関連情報をお伝えする連載「曽根原ラボ」。第16回で取り上げるのは、AFレンズに搭載されている「AFモーター」の種類と特性についてです。
AFモーターには、AFのシステムが誕生してから今に至るまで、実にさまざまな種類が採用されてきました。古くはカメラボディ側にモーターを持つ方式もありましたが、ミラーレスカメラが一般的となった現在は、レンズ側にAFモーターを搭載することがほとんど。なかでも現在主流なのが「ステッピングモーター」と「リニアモーター」の2種類です。
今回はそんな主流2種のAFモーターについて解説してみたいと思います。
左はタムロンのステッピングモーターである「RXD」。右はタムロンのリニアモーターである「VXD」。今回はタムロンのレンズを使ってAFモーターの違いを紹介します
レンズ側にAFモーターを搭載するのが今どきのAFシステムのスタイルですが、その方式には「DCモーター」「超音波モーター」「ステッピングモーター」「リニアモーター」などいくつかの種類が存在します。それぞれに特性があるので、当然メリットもデメリットもあります。
DCモーターは今でもミラーレスカメラ用レンズに採用されてはいるものの、最近では採用が減ってきているのが実際。主な理由は、駆動音の大きさと、合焦精度の兼ね合いといったところでしょうか。超音波モーターは、主に一眼レフカメラに適したAFモーターとして発展したものです(キヤノン独自の超音波モーターの先進性については目覚ましいものがありますが今回割愛します)。
ミラーレスは動画撮影での利用も求められるため(場合によっては動画撮影がメイン)、モーターの駆動音の大きさはどうしても忌避されるのが現状です。位相差AFとコントラストAFを併用する最新のAF方式にとって、超音波モーターとDCモーターは必ずしも相性がよいとは言えません。
そうしたこともあって、現在、レンズ内蔵のAFモーターとして主流となっているのが、ステッピングモーターとリニアモーターの2つです。両方式のAFモーターは、各社が独自開発を進めているところですが、今回は、採用の用例がとても理解しやすい、タムロンの高倍率ズームで、AFモーターについての話を進めていきたいと思います。
ステッピングモーターについては、それを採用したタムロンの人気高倍率ズーム「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」で見ていきましょう。
ステッピングモーターを採用したタムロンの「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」。レンズ名中の「RXD」がステッピングモーター採用を意味しています
レンズ名の末尾に「RXD」とありますが、これは “Rapid eXtra-silent stepping Drive” の略でステッピングモーターの独自名称です。キヤノンでいうところの「STM」に相当し、特にレンズ名には付けていないメーカーであっても、ミラーレス用ではよく採用されているAFモーターです。
タムロン「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」とソニー「α7C II」を組み合わせたイメージ
ステッピングモーターは、パルス電圧(ここでは短い間隔で高い電圧と低い電圧を繰り返す波形の信号のこと)に応じて駆動するモーターのことです。電気信号1パルスごとに1ステップずつ正確に回転駆動するため、デジタルカメラのAF方式との相性は非常に良好です。カメラが求めた位置に向かって正確に動いてくれます。回転軸のあるモーターですので、回転運動をギアやリードスクリューを介してフォーカス群の直進運動に変換しています。
タムロンのステッピングモーターである「RXD」。後方のステッピングモーターによる回転駆動がリードスクリューで直進運動に変換される仕組みがよくわかります
ステッピングモーターの利点は、何といっても構造がシンプルであるため小型化が比較的容易なこと。そして、AFの速度が実用上十分に速く、先述のとおり精度が高く、駆動音が静かであるところです。ミラーレス用のAFレンズにふさわしく、静止画にも動画にも満足して使うことができます。
逆に写真用レンズのAFモーターとして実用上で欠点と言えるのが、大きく重いフォーカス群を動かすのが苦手なことでしょうか。あまり無理をさせると脱調と呼ばれる、急激な速度変化や過負荷などで正確なAF駆動に支障をきたしてしまうことがあります。
”Rapid”で“silent”な名称どおり、実用上十分に、高速で静かなAFを実現するステッピングモーターです。構造がシンプルなのでレンズ本体の小型化にも寄与します
α7C II、28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD、158mm、F5.6、1/320秒、ISO1000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
リニアモーターについても、それを採用したタムロンの最新高倍率ズーム「28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD」で見ていきましょう。
リニアモーターを採用したタムロンの「28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD」。レンズ名中の「VXD」がリニアモーター採用を表しています
レンズ名の末尾に「VXD」とありますが、これは “Voice-coil eXtreme-torque Drive” の略でリニアモーターの独自名称です。“Voice-coil” の部分が意外に重要で、別名としてボイスコイルモーターとも呼ばれ、キヤノンはそのまま「VCM」(ボイスコイルモーター)をレンズ名に付けています。ただ、富士フイルムのレンズ名にある「LM」はリニアモーターの略称になっているなど、名称の付け方は案外メーカーそれぞれだったりします。
タムロン「28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD」とソニー「α7R V」を組み合わせたイメージ
リニアモーターが「リニア」と呼ばれる由縁は、ほかの多くのモーターが(ステッピングモーター含め)回転駆動であるのに対し、リニアモーターが ” linear” すなわち、回転軸のない直進駆動であるためです。ギアやリードスクリューを介す必要がないため、大口径レンズや望遠レンズなどの大きなフォーカス群でもダイレクトかつパワフルに動かすことができます。
タムロンのリニアモーターである「VXD」。上部にあるのがリニアモーターで、直進駆動によってダイレクトかつパワフルにフォーカス群を動かします
さらには、ステッピングモーターと同様にデジタル的な相性がよく、高精度で高速なAFが可能。静粛性も高いので動画撮影でもレンズの駆動音にじゃまされることなく撮ることができます。しかし、何といっても、ステッピングモーターに比べて駆動力が大きいのがリニアモーターの利点と言えるでしょう。
逆にリニアモーターの欠点なのは、直進式モーターとしての幅が必要なために、写真レンズ用としてはレンズ全長を抑えにくくなってしまうこと、ステッピングモーターに比べて高価になりがちなことがあげられます。また、パワフルなだけにその制御に関していっそうの技術力が必要になります。
ステッピングモーターに比べパワフルなリニアモーターで、AFの追従性も高く、より信頼感が高まります。ただし、レンズ全長の短縮化と低価格化についてはステッピングモーターに譲るところがあります
α7C II、28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD、280mm、F7.1、1/30秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
ミラーレス用のレンズで現在主流のAFモーターであるステッピングモーターとリニアモーターについて見てきました。両モーターともAF速度が速く、高精度で、静粛性にすぐれているのが特徴です。
ステッピングモーターは、構造上の特性からレンズの全長を抑えることができるうえに、比較的低価格なため、普及タイプのレンズや小型なレンズに採用されることが多いです。
リニアモーターは、ステッピングモーターよりも推力が高いため、大口径レンズや望遠レンズなどに採用されることが多いのですが、価格はそれなりに高くなります。また、レンズによってはリニアモーターを複数搭載することで、さらにAF速度の向上を図ったものもあります。
実際にどのAFモーターが採用されるかは、レンズの特性に応じて適切に選ばれているものと思います。適材適所ですということですね。普段何気なくお世話になっているAFモーターですが、どんな種類が使われていてどんな特徴があるのかを知ってみると、レンズ選びもまた楽しくなるというものではないでしょうか。