オアシスが再始動するという見積りで進めた『リヴ・フォーエヴァー:Oasis 30周年特別展』の裏側➁
2024.11.01
2024.11.01
1994年にデビューし、いくつもの名曲を残して2009年に活動を停止した不世出の兄弟バンド、オアシス。このほど再始動することも発表された彼らのデビュー30周年を記念した特別展が、「六本木ミュージアム」で開催されている。
その責任者であるソニー・ミュージックエンタテインメントの小沢暁子と、プロデューサーの武藤久美子に、開催までの裏側を聞く。この記念すべき展示会に『リヴ・フォーエヴァー』と冠した意味とは。
小沢暁子
Ozawa Akiko
ソニー・ミュージックエンタテインメント
武藤久美子
Muto Kumiko
ソニー・ミュージックエンタテインメント
(写真左より)ノエル・ギャラガー(Gt./Vo.)、リアム・ギャラガー(Vo.)。ノエルとリアムのギャラガー兄弟を擁する、英国・マンチェスター出身のロックバンド。1991年結成。1994年、1 stアルバム『オアシス』(原題:Definitely Maybe)を発表し、一躍人気となる。「ホワットエヴァー」「ワンダーウォール」「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」などのヒット曲を世に放つも、たびたび兄弟の不仲が報じられ、2009年に活動停止。このほど15年ぶりの再始動と2025年のライブツアー開催が発表された。アルバム 『オアシス(Definitely Maybe) 30周年記念デラックス・エディション』、『コンプリート7インチ・シングル・コレクションBOX Vol.1』発売中。『コンプリート7インチ・シングル・コレクションBOX Vol.2』が11月13日発売。
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――今年の8月27日にオアシスが15年ぶりに再始動するというニュースが世界中を駆け巡りました。今回の『リヴ・フォーエヴァー:Oasis 30周年特別展』の企画は、いつごろからスタートしていたんですか?
小沢:2024年がオアシスのデビューアルバム発売から30周年なので、何かしようっていう話は昨年からしていました。2023年3月にノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズの新譜発売の取材でロンドンに出張した際、イギリスの事務所に打ち合わせに行って、「来年の30周年に向けて日本独自で何かやろうと考えている」と伝えて、「例えばオアシス展をやっちゃうとか?」という話を軽くしました。
その打ち合わせのときにマネージャーから、ノエルのプライベートが変化したという話を聞いて、瞬間的に“これは再始動があるな”と思いました。その場では口には出しませんでしたが、30周年記念を盛り上げるためにいくつか企画を走らせつつ、オアシスが活動を再開するつもりでプロジェクトを始動させようと決めました。
武藤:私はもともと、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズをソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(以下、SMJI)に在籍していたころから担当していたんです。
Noel Gallagher’s High Flying Birds - If I Had A Gun…
去年、マーケティング部門に異動してきたときに、2024年は30周年のビッグイヤーということで、小沢さんと一緒にオアシス展の企画を立てることになって。ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズは、去年アルバムを出して、ツアーも回って、もしかして今年はちょっと空くかな? みたいスケジュールだったんですね。
リアムも、自身のソロ活動でオアシスの曲を歌ったりしていたので、もしかしてふたりがクロスする日が来るのではないか? という、いちファンとしての気持ちもありました。
小沢:ちょうど去年、ソロで『サマーソニック』に出演したリアムにも8年ぶりくらいにバックステージで会ったんです。久しぶりに会ったリアムもまったく変わっていなくて安心しました。
――再始動の可能性を感じたのは、どんなところからでしたか?
小沢:過去に一度だけ、ひょっとしたら再始動の可能性があるかもと思ったときはあって。2012年に、兄弟ふたりが愛するマンチェスター・シティFCが44年ぶりにリーグ優勝をしたときに、ノエルとリアムにテキストメッセージでのやりとりがあったと聞いて。
2009年にノエルがオアシスを抜けてから、3年間はまったく接点を持たなかったふたりなので、それが、マンチェスター・シティの優勝をきっかけに距離が縮まったなら、万が一があるかもなと思ってたんですね。結局何も起こりませんでしたが。
オアシスの活動停止以降、上司から聞かれるたびに「いつかは再始動しますよ」って言っていましたが、実際は全然気配はなかったです(笑)。でも、去年、活動再開を阻んでいた問題が一つひとつクリアされていって、私のなかではあらゆるパズルがピタッとハマったんです。これは再始動あるな、と。
あとから聞いたところによると、本国のマネジメントもちょうど去年の6月くらいから再始動の準備を始めていたようです。だいたい同じ時期に感じてたんですね。本当に、ここでなかったらもう一生ないだろうというタイミングだったと思います。
――実際に再始動のアナウンスがされたときはどう感じましたか?
武藤:正直に言うと個人的には、本当に再始動するんだという驚きが大きかったですね。でも、本当に良かったなと思ってます。周りが盛り上げるお祭りムードだけではなく、改めて、今もオアシスがいるというなかで展示を見ていただけるのはすごいことだなと感じています。
小沢:オアシスが2009年に活動停止して、まずリアムのバンド、ビーディー・アイができて、そしてノエルのソロプロジェクトがスタートして。日本のレーベルとしては、オアシスが休止したあとも、それぞれのソロとしてのキャリアを全面的にサポートしてきました。でも、私個人的にはこの15年間、オアシスの再始動を見据えていました。
Beady Eye - The Roller
いつか活動を再開する想定で、オアシスがいつ戻ってきても良いように動いていました。2008年にオアシスの原盤やマーチャンダイズの権利を直接契約するところから始まり、リアム、ノエル、それぞれの原盤、マーチャンダイズ権を直接契約し、ファンクラブも始め、多角的なサポートをつづけました。
特に、動いていない期間のオアシスに関しては、アパレルへのサブライセンスやコラボレーショングッズを展開したり、楽曲が聴かれつづけるようにCMのタイアップを決めたり、バンドの不在期間を埋められるように、バンドがいつファンの元に帰ってきても良いようにマーケットを温めつづけてきました。
だから、日本ではオアシスがいないというブランク感があまりなかったんじゃないでしょうか。そういう意味で言うと、再始動の発表はうれしかったですけど、「やっと……」という思いのほうが強いですね。もう不在期間が15年になっていたので、そろそろ着地してほしいなと思ってました。
――活動期間が15年で、活動していない期間も15年。それでも不在感が薄いというのはすごいですよね。サブスクリプションでもずっと聴かれていますし。
小沢:ちょうど親世代である40~50歳がど真ん中のファン層だったことで、親と一緒に聴いてたという中高生が多いんですよね。存在感を保てていたのは、レーベルも出版もグッズもファンクラブも、すべてずっとソニーミュージックでやってきたからこそじゃないかと思います。日本では一回も外に出ていないバンドなので、関わってきたソニーミュージックのスタッフが非常に多く、その全員がめちゃくちゃ愛着を感じているバンドだと思います。
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――『リヴ・フォーエヴァー:Oasis 30周年特別展』の開催にあたり、具体的にはどのように進めていったんですか?
小沢:まず、去年の12月に、ノエルがソロツアーで来日したときに、社長であるマネージャーを「六本木ミュージアム」に連れて行ったんです。それで、過去に『DOUBLE FANTASY - John & Yoko』を開催した会場だっていうことを説明しました。ジョン・レノン側がしっかりと判断をして、許諾を出してる会場だという信頼もあって、展示会の了承が得られたんです。そこからやっとちゃんと動き出しましたね。
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武藤:最初は、展示物も、「あるかな? どうかな?」みたいな感じだったんですけど、今年のゴールデンウィークごろに、倉庫で見つけたという大量のアイテムリストが届いて。オアシスが活動していたころのポスターや音楽雑誌、ツアーパスや日程表、実際に彼らが使っていた楽器、それに彼らの偉業に対して贈られたトロフィーなどなど。いろいろとちゃんと保管されていたんです。日本でも保管していたものがあったので、それも倉庫から全部出してきて、そういった品々から、オアシスのヒストリーを見せるっていうイメージで着手しました。
小沢:飾れるものはたくさんある。じゃあ、あるものを全部並べればいいかっていうとそういう話でもないんです。30周年の記念の展示会で何を見せるべきなのか? オアシスの良さはなんなんだ? っていう議論をチームでしました。
それで辿り着いたのが、やっぱり一番大事で何より強いのは、彼らの音楽だ、と。これだけ不在だったにもかかわらず、ずっと聴かれつづけていて、しかもバンドを見たこともない若い世代にも聴かれているというのは、やっぱり曲が強いからなんですよね。
1990年代当時は、ただ流行ってるから聴いてたという人もいたと思いますが、今の若い子たちは時代の後押しもないなかで、いち楽曲としてオアシスの音楽を評価して聴いてる。だったら、その楽曲の良さを見せる展示会にしたいと思ったんです。
――楽曲を中心にした“音楽展”なんですね。
武藤:通常、展示会というと、音楽は館内に流れるBGMが中心だと思うんですけど、今回は来場者がスマホを使って、それぞれイヤホンだったりヘッドホンだったりで身近でしっかりと音を聴きながら見て回れるという作りにしています。普通の展示会よりも音楽に浸りながら回れるものになっています。
小沢:時代を超えて愛されている楽曲の魅力を一番に伝えたい。既に曲の背景を知ってる人たちはそんなふうに聴かなくてもいいのかもしれないけど、聴いたことがあってもその曲の裏側を知らないという人たちにも楽しんでもらえるようにしたかったんです。だから、とにかく音楽が主役になる展示会を目指しました。
武藤:それと、ジャケットなどのアートワークですね。彼らは秀逸なアートワークを作ってきているので、そこをしっかり見せたいというビジョンもありました。
小沢:オアシスって、知ってるようで知らないことがたくさんあって、当時はアートワークの評価は高いわけではなくて、別段語られるようなこともなかったかと。でも実はものすごくカッコ良くて、当時も本当に際立っていました。
カッコ良いものを作ろうと戦略を立てたっていう感じじゃなくて、ただただセンスが良くて。彼らのやりたいことがぴったり時代に合ってたからだったと思います。それを今回改めて振り返る。ずらりと本物ばかり並べて、これまで知られてなかったことをちゃんと見せましょう、と。
――楽曲を中心に、アイコニックなポスターや貴重なアイテムが多数展示されるという内容がだんだんでき上がっていったんですね。
小沢:楽曲については、今回、歌詞にもクローズアップしました。ノエルは一貫して、「自分の書く歌詞には意味がない」っていうふうに言うんですね。
でもそれは、まったく意味がないのではなくて、自分の書いた歌詞で誰かを動かそうという意図はない、ということなんです。何かを押しつけるためにわかりやすくメッセージを書いてるわけではなく、どうぞ自由に聴いてくれっていう姿勢なんです。実は、時代を背負ってたり、独特なうまい表現があったりする歌詞なんだけど、一切説明がない。聴き方も押しつけない。
本人は「読み解こうとするな」って言うんですけど、これが読み解くと意外と面白いんですよ。「さまざまな解釈があって当然」とノエル自身が言ってるので、今回は展示のために新しく訳し直すことにしました。
武藤:今回、作詞家・音楽プロデューサーのいしわたり淳治さんに訳していただきました。再解釈というよりも、噛み砕いて、届きやすい形で訳していただいたという感じですね。
言葉の節々も、オアシスのメンバーだったらこういう言葉遣いじゃないかなっていうような形に落とし込んでいただいています。全部ではないんですけども、ここは伝えたいという言葉を抜き出して、英語でも対訳でもしっかり見せていくという形の展示が散りばめられています。
後編では、さらに展示の内容を語るとともに、本展示会に冠した楽曲「リヴ・フォーエヴァー」が持つ意味を語る。
文・取材:永堀アツオ
撮影:荻原大志
『リヴ・フォーエヴァー:Oasis 30周年特別展』
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