日向坂46とおひさまが『ひなたフェス』で一緒に考えた“楽しみながら”始めるサステナビリティ②
2025.01.18
2025.02.13
日本サステナブルフラワー協会の協力、監修のもとソニーミュージックグループが取り組む『Rebloom Flower Project』。廃棄されてしまう花を再利用することでフラワーロスという社会課題に向き合いつつ、将来的にはビジネスへの発展も目指している。
このプロジェクトが立ち上がった経緯から現在地、そしてこれからの展望について、日本サステナブルフラワー協会で代表理事を務める安永かおり氏と、プロジェクトの発案者であるソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の神山薫に話を聞いた。
安永かおり氏
Yasunaga Kaori
日本サステナブルフラワー協会
代表理事
神山 薫
Kamiyama Kaoru
ソニー・ミュージックエンタテインメント
ソニーミュージックグループが関わるライブやイベントで使用された祝い花などを廃棄せずに回収して、利活用する取り組み。回収された花はドライフラワーにしてイベントなどの装飾に活用したり、キャンドルやミラー、ポプリなどに生まれ変わらせたりするなど、さまざまな“Rebloom=返り咲き”の手法を展開。『Rebloom Flower Project』の活動趣旨やフラワーロスという社会課題の認知度を高めるため、ワークショップなども手がけ活動の幅を広げている。
──『Rebloom Flower Project』が立ち上がった経緯を教えてください。
神山:私は2024年にソニーグループ株式会社からの出向でSMEのサステナビリティグループに配属になりました。それまで、エンタメ業界に関する仕事に携わったことはなかったのですが、サステナビリティ文脈での異動ということもあり、自分としては経験の有無はあまり気にしていなかったんですね。
しかし、いざ業務が始まってみるとやはり業界がまったく違うので、勝手がわからず……。さらに、エンタメ領域におけるサステナブルな取り組みと言っても、ソニーミュージックグループのエンタメビジネスは範囲が広すぎて、具体的に何から始めればいいかわからなくなっていたんです。
これではいけないと思い、まずは外に出て情報収集が必要だと考えて、サステナブルな取り組みに関係がありそうなエキシビションをいくつか回っていたんです。そこで安永さんが代表理事を務められている日本サステナブルフラワー協会に出会いました。
安永:私たち日本サステナブルフラワー協会は、ウエディング会場をはじめ、さまざまなシーンで廃棄されるお花を回収し、利活用することでフラワーロスという社会課題を減らしていきたいという考えで活動を行なっています。
ただ、フラワーロスは、まだまだ認知度が低く、もっと多くの人に知ってもらいたい社会課題なので、エコやエシカルがテーマのエキシビションに出展していたんですね。そこで神山さんからお声がけをいただきました。あれは、去年の4月でしたよね?
神山:そうですね。会場を観て回っているときに、日本サステナブルフラワー協会のブースに辿り着きまして。スタッフの方に取り組みやこれまでの実績をご紹介いただいて、そこで初めてフラワーロスという課題を知りました。
と同時に、エンタメ業界においては、ライブやイベント会場などに大量の祝い花が届くことを思いついて。この花が展示を終えたあと廃棄されているだけなら日本サステナブルフラワー協会の皆さんにご協力いただいて、何かできるのではないかと考えたのが、このプロジェクトを立ち上げるきっかけでした。
──安永さんは、もともとウエディング業界につながりのあるお仕事をされていたと伺いましたが、フラワーロスとの出会いもこのときですか?
安永:はい。フラワーロスとは、腐ってしまったり、完全に枯れてしまったりする前のお花、まだ役目を終え切っていない、きれいな状態のお花を廃棄してしまうことを指します。
そして、ウエディング会場では、祝い花、飾り花、さらにはフラワーシャワーなどお花が大量に使われている分、廃棄する量もすごくて……。それこそ、ひと組の結婚式でほんの2、3時間飾られていただけのお花が“ごみ”として扱われてしまうことに忸怩たる思いがありました。この状況を何とかできないかと思い、フラワーロスに向き合うことにしたんです。
ただ、いざ始めてみると、私が知っている廃棄花の問題というのは、全体のなかのほんの一部でしかないことがわかって……。1年ほどたったころには、集まってくるお花の量が多すぎてひとりでは手に負えなくなってしまいました。そこで、ともに活動してくれる仲間を集めるために、日本サステナブルフラワー協会を立ち上げたんです。
──フラワーロスの具体的な問題点について教えてください。
安永:わかりやすいのは、やはりゴミの問題ですよね。サステナブルフラワー協会では、ソニーミュージックグループの皆さんのように活動に賛同してくださる企業や結婚式場、あとはお花の農家さんなどからご連絡をいただき、捨てられてしまうお花の回収に伺ったり、送っていただいたりするのですが、例えばソニーミュージックグループのアーティストのライブでは、昨年の6~9月に開催された7公演で57基の祝い花を回収し、これだけで重量に換算すると100kgをゆうに超えました。
これをすべて焼却処分にしようとすると、それなりの量の二酸化炭素が排出されますよね。
そのうえで、私が今、フラワーロスで一番の問題だと考えているのは、このことが世の中に広く知られていないということです。この活動を始めて6年ぐらいになりますが、フラワーロスが環境問題にどのようなインパクトを与えているのかという数字は、実は公的には算出されていなくて。
私たちと同じように、フラワーロスを社会課題に挙げて取り組んでいる団体やメディアはいくつかあり、なかには年間で数億本の花が国内で廃棄されているとか、1,500億円以上の経済損失が出ているという数字を示されていますが、本当の実態というのはわかっていません。
つまり、“無関心”というのがこの問題の本質にあるのではないかと思います。なので、日本サステナブルフラワー協会では、どれだけの廃棄花が発生しているのかがわかるように、回収した花の総量を計測するなど、活動実績の数値化を行なっています。
神山:私も安永さんたちと出会うまでは、フラワーロスという言葉自体を知りませんでしたし、社内でも知っているスタッフはほとんどいませんでした。
──このプロジェクトを始めたときの周囲の反応を教えてください。
神山:やはりフラワーロスのことを知らない人が多かったので、所属するサステナビリティ推進部内では反応が薄かったことを覚えています。ただ、ライブやイベントの会場で大量に飾られる花の行方を気にしている人は結構いて、終了後にこのまま捨てられてしまうのは“もったいない”という声はよく耳にしました。
また、捨ててしまうぐらいなら、スタッフで少しずつ手分けして持ち帰るとか、お客さんに配るという対応が現場で行なわれた例もあったので、やはり“もったいない精神”をベースにした潜在的な課題があることがわかりました。
──もったいないという意識がありながら賛同を得るのが難しかった要因はなんですか?
神山:これまで祝い花の回収をしたことがなかったのが大きいと思います。あと、花が“人の想いがこもった贈りもの”であるということですね。ライブやイベント会場に展示される祝い花は、ファンや関係者など、誰かが気持ちを表わすために贈ったものです。そういう人の心がこもったものを回収し、再利用することに対する抵抗感だと思います。
安永:回収をお手伝いしているとよくみかけますが、ファンの方々がアーティストや作品をイメージしてお花の色やデザインが選らばれているものもたくさんありますよね。本当に気持ちがこもっているなと感じます。
神山:そうなんです。なので、我々は今のところファンの方から贈られた祝い花は手をつけないようにしていて。アーティストや関係者など、贈り主が明確になっているものに限定しています。
──これまでの具体的な実績も教えてください。
神山:『Rebloom Flower Project』が最初に回収させてもらったのは、昨年の6月に横浜アリーナで開催された緑黄色社会の対バンイベント『緑黄色大夜祭2024』です。
これを皮切りに、UNICORN、奥田民生、OKAMOTO’S、さらには錦鯉のお笑いイベントなど、回収実績がどんどん増えていきました。そして、2025年2月時点での総回収量は500kgを超えています。
――回収方法はどのようになっているのでしょうか?
神山:それは割と地道で(笑)。ライブだったら会場からお客さんが退出されたあと、スタッフたちの手作業で1本ずつ丁寧に回収していきます。作業時間は30分~1時間くらいですかね。このとき、安永さんをはじめ、日本サステナブルフラワー協会のスタッフの方々にもご協力いただいています。
安永:回収したお花は、私たちのアトリエに運び込んで、カビが生えてしまう前に、すぐ乾燥の作業に入ります。乾燥が終わったら、ドライフラワーにアレンジしたり、キャンドルやポプリなどに加工したりして“Rebloom”させます。
神山:実際に回収していると、“回収しなかったらこのまま捨てられていたのか”と、改めてもったいないということを感じますね。イベントなどで丸2日間飾られたあとでも、状態のいい花は多いです。ちなみに、我々のプロジェクト名である『Rebloom Flower Project』の“Rebloom”は、日本サステナブルフラワー協会の皆さんで作られた“re;bloom(再び咲く)”という造語をモチーフにさせてもらいました。
──『Rebloom Flower Project』で集められた花の実際の活用方法も教えてください。
安永:ドライフラワーは、イベントやオフィスの装飾に使われてますよね?
神山:はい、ソニーミュージックグループ内の社内イベントなどに加え、同じソニーグループのソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(以下、SPEJ)のオフィスエントランスでも飾られていたり、同じくSPEJが昨年公開した映画『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』では劇場展示の装飾としても活用してもらいました。
『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』/© 2024 Columbia Pictures Industries, Inc., It Ends With Us Movie, LLC and TSG Entertainment II LLC. All Rights Reserved.
安永:グッズ関連でいうと、先ほどご紹介したキャンドルやポプリもそうですし、あとは、お花をあしらった手のひらサイズの鏡、ユニークなところではお酒もありますね。
──お酒もあるんですか?
神山:「お花は、観るだけでなく香りも楽しんでください」と安永さんに言われて、だったら蒸留酒の香りづけにも使えるんじゃないかと思い、エシカル・スピリッツ(東京・蔵前)の皆さんにご協力いただいて、花の香りがするジン「Rebloom Flower Gin」をサンプルで作っていただきました。
残念ながら販売はしていないので、味と香りを体験していただくことはできないのですが、とても美味しいとスタッフ内でも好評です。
安永:『Rebloom Flower Project』の商品は一つひとつ手作りなので、時間や手間はかかりますが、シーズンに合わせた商品をご提案できます。
例えば、春先なら、国際女性デーに使われるミモザ、母の日ならカーネーション、クリスマスが終わったあとは赤系の花やモミの木の花など、同じ商品でも季節を感じるという楽しさも秘めています。
特にモミの花は、とてもいい香りのポプリにもなりますし、使用するお花の個性をいかした活用もできますので、無限の可能性がありますね。
神山:まだ、通年の活動をしていないのでそこまでの展開はできていないのですが、将来的には季節感も取り入れた取り組みができると面白いですよね。
──ワークショップも展開していくと伺いました。
神山:はい。こちらも日本サステナブルフラワー協会の皆さんにご協力いただいて進めています。直近では、品川区立の環境学習交流施設「エコルとごし」の皆さんと連携して、ポプリづくりの子ども向けワークショップを実施します。
また、ワークショップについては、アーティストやキャラクター、外部企業との連携も決まっていて、直近だとアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』から生まれた結束バンド初のアリーナワンマンライブ『結束バンドTOUR “We will B”』でも花を回収させてもらう予定で、そこで回収したものをいずれ何らかのかたちでワークショップに活用したいと考えています。
ちなみに、メンバーの青山吉能さん(後藤ひとり役)、鈴代紗弓さん(伊地知虹夏役)、水野朔さん(山田リョウ役)、長谷川育美さん(喜多郁代役)には、既にポプリづくりのワークショップは体験していただいて、皆さんが好きな香りを作ってもらいました。
安永:ワークショップで作ったものを持ち帰ると、ご家庭でもお花について話すきっかけができて、そのネットワークがどんどん広がっていったらいいですよね。
ワークショップに参加してくれた方々からは、「楽しかった」「また来たい」というお言葉をたくさんいただいています。実際に体験していただくことでフラワーロスという課題にも関心を高めてもらえるのではないかと思いますので、ワークショップも大切な出会いの機会にしていけたらと考えています。
──『Rebloom Flower Project』の今後の展望を教えてください。
神山:まずはネットワークをもっと広げていくことですね。この取り組みは、ライブやイベントの主催者に賛同してもらえなければ取り組めないという前提があるなかで、先ほどもお伝えした通り、約9カ月で500kgを超える花を回収することができました。
最初の回収が緑黄色社会からスタートしていることからもわかる通り、初めの一歩は理解、賛同が得やすい、グループ内でマネジメントも行なっているアーティストのイベントからスタートしましたが、実例が出てプロジェクトの内容もより理解してもらいやすくなったので、“話を聞きたい”というアーティストサイドからの問い合わせが増えてきました。
1度取り組みを見てもらえれば、引き続き賛同が得やすいサステナブルなプロジェクトなので、「次回もぜひ」という声も既にもらっています。
また、このようにメディアに取り上げていただく機会も増えて、外部からのお問い合わせもいただくようになりました。具体的には、サントリーホールの皆さんとのお取り組みになります。サントリーホールで開催される1月と2月の10公演で回収を予定していて、今後も継続して取り組ませていただく予定です。回収したお花の活用についても、2社で取り組めることがないか相談していきたいと思っています。
こうした事例をひとつずつ積み上げていくことで、次のステップを目指したいと思っています。
──次のステップというのは具体的に?
神山:『Rebloom Flower Project』をビジネスとして発展させることですね。工数がかかるところもあるので、フローやシステムのブラッシュアップは必要になりますが、例えばアーティストの全国ライブツアーが開催されるときに、最初の数公演で花を回収し、ツアーの最終日にその花を使ったグッズを販売するということが考えられます。もちろん、販売は事後のイーコマースでも可能です。
アルバムや楽曲、ツアーのコンセプトに花が入っていれば、その花をテーマにしたグッズ開発というのもできると思いますし、それによってそこにまつわるストーリーやメッセージをより際立たせることもできる。
ファンの方からしても、自分が好きなアーティストに気持ちを込めて贈った花が、違うかたちで手元に戻るというのを楽しんでいただけます。そういった循環型のソリューションビジネスにまで発展させていきたいと考えています。
もちろんそのためには、先ほど言った“贈る人の気持ち”のケアが必須なので、システムのブラッシュアップという課題には、この点も含めた取り組みになっていきます。
安永:グッズの展開については、宿題にしていることがあって。それが香水や石鹸の開発です。過去に何度か挑戦しているのですが、原価が高くなってしまうなどの課題があり、まだ実現できていません。でも、先ほど神山さんにおっしゃっていただいた通り、お花は観るだけでなく香りも楽しめるものなので、いつか実現したいですね。
そのうえで、お花の香りが苦手という方もいらっしゃるので、香りのグッズ以外もご提案していきたいと考えています。
──展開がどんどん広がっていきそうですね?
安永:最初にお伝えした通り、フラワーロスの課題は認知度が低い=無関心です。だからこそ、エンタテインメントという人に伝播させるビジネスを手がけているソニーミュージックグループの皆さんが、こういうかたちで取り組んでいただけるのは本当にありがたいです。
『Rebloom Flower Project』の取り組みをきっかけに、より多くの人たちとフラワーロスという課題の解決について議論し、アイデアを出し合っていければと考えています。
神山:灯台下暗しと言いますか、フラワーロスという課題とエンタメ業界の相性が良かったというのが良いスタートを切れた要因ですね。
人に花を贈るときの想いや感情は、エモーショナルなものであって、それは人に感動を提供するという意味で、その行為自体がエンタテインメントなのではないかと思います。
だからこそ、数多くのエンタテインメントを手がけるソニーミュージックグループとして、『Rebloom Flower Project』の取り組みを世の中に広く届けていきたいと考えています。
文・取材:加藤綾子
撮影:冨田 望
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