かつて,このような主張を耳にしたことがある。「年号をただ暗記させるような,歴史の表面をなぞっただけの歴史教育には意味がない。それよりも,たくさんの視覚的資料を用いて日本軍がどのような残虐行為をしたか,というのを知らせるべきだ」 それに対し,僕はこう反論した。「それは結局『残虐行為』という歴史の表面をなぞっているだけに過ぎず,『年号丸暗記』教育と同じになってしまう。そうではなく,いかにしてそのような残虐行為をなしえたのか,戦争はどうして起こってしまったのか,そういった仕組みや構造,プロセスを教えるべきだ」 残虐行為をどう教えるか,というのは難しい問題だ。僕は教育に携わっているわけではないので詳しいことは知らないが,社会科教師の間でも大きな論争トピックであるらしい。僕は一度,高校生に向けて,一番上で挙げた主張が目指すような授業が行われるのを見学したことがある。彼らは残虐行為の写真から目を背けた