折口信夫 [著]安藤礼二 総索引が付いた全集ばかりか講義録まで完備している。個人の思想を研究するのに、一見これほど恵まれた環境はない。けれども、いったんその「森」に足を踏み入れるや、あまりに鬱蒼(うっそう)としていて方向感覚を見失ってしまう――折口信夫とは、そんな思想家だ。一体これまで幾人が踏破を試み、失敗を重ねてきただろうか。 安藤礼二は、2002年に「神々の闘争――折口信夫論」を世に問うて以来、一貫して批評家としてこの巨人と向き合ってきた。テキストを厳密に読み抜き、読み破った者でなければ見えてくることのない新たな地平を、独力で切り開いてきたのだ。本書は、10年以上にわたる安藤折口論の集大成として大きな意味をもつ。 第1章から劇的である。これまでの研究で空白のままだった大学時代に、折口は本荘幽蘭(ゆうらん)という女性と出会い、神風会という神道系の団体と関わっていたことが、新資料を交えつつ