とうに秋も半ばを過ぎ去っている。 権勢を奮っていた秋の虫たち。 蟋蟀。 鈴虫。 管巻。 いずれの鳴き声も、まばらである。 互いに競いあうようなこともなく、ただ流々と鳴いている。 何より天にも届かせようとする力強さが、虫たちからは失われている。 去っていく秋を、偲んで鳴いているようであった。 命が消える前の最後の一鳴きをしているようであった。 「なあ晴明。虫がこうして寂しげに鳴くのもまた良いものだと思わぬか」 右手の杯から酒を飲みながら虫の音を聞き入っていた源博雅がつぶやいた。 平安京土御門小路にある、安倍晴明の屋敷である。 庭は一見して荒れ放題になっているが、何がしかの力でも働いているのか、奇妙な調和が取れている。 造られた庭とは違う、天然の美である。 すでに日は落ちかけている。 秋の終わりは冬の訪れでもあり、風が吹くと少しだけ、肌寒い。 安倍晴明と源博雅は庭に開けた廊下に胡坐をかき座って