駆け出しの時期に書いたストーリーの2度目の書き直しを発表した村上春樹(2023年10月、スペインのアストゥリアス皇太子賞授賞式で) SAMUEL DE ROMAN/GETTY IMAGES <村上春樹の『街とその不確かな壁』英訳版がこの冬に刊行された。壁に囲まれた街にこだわった理由とは?> たいていのアーティストには、何度も立ち返るアイデアやテーマがあるものだ。それを練り直したり、書き直したりして、新しい作品に昇華させる。それはこだわりというよりも、どこか取りつかれている感じに近いかもしれない。 だが、小説家が駆け出しの頃に書いたストーリーを、キャリア半ばに書き直して発表し、さらに円熟期もかなり入ってから、磨きをかけて、三たび発表するのは珍しい。 村上春樹が『街とその不確かな壁』(2023年4月刊)でやったことは、まさにそれだ。初期に書いた中編小説『街と、その不確かな壁』を、1985年に『