渡辺英治さん(右)と、「ナス」をほおばる学生ら。学生と話せるようにと、店内はカウンター席だ=東京都新宿区 メニューはいろいろあるのに、「ナス」と「から揚げ」以外の料理を頼むと、店主の表情が渋くなる。早稲田大学(東京都新宿区)近くの定食屋「珍味」。店主渡辺英治さん(65)の「ナスでいいよね」の声に押され、学生は結局、「なすと豚肉の味噌(みそ)炒(いた)め定食」か、鶏のから揚げ定食を食べることになる。だが、そんな店主と料理が、学生に愛されてきた。その珍味が、今月末で閉店する。 店は今、閉店を惜しむ学生や卒業生らであふれ、16席のカウンターは、すぐにいっぱいになる。「ナス!」。午前11時、開店直後に訪れた男子学生6人は、メニューを見ずに注文した。店を始めて27年。ずっと、同じ光景だ。 ナスいために丼ご飯、スープで650円。学生の一人は「うまくて安くて量が多い。早大生にははずせない店なのに」