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オピニオン・小原ブラス

男のネイルを男らしくないと嫌う小原ブラスがメンズネイルを始めた理由

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僕が出演したテレビ番組を見ていた視聴者から、インスタグラムのDM(ダイレクトメッセージ)に「社会の問題に対していろんな立場の人に寄り添い、偏見を持たずに発言される姿をみて応援しています」とありがたいコメントをいただいた。

いつからか、出演する番組のプロフィルに「少数派に寄り添う」といった文言が加えられるようになり、視聴者の中には僕が世の中の偏見と闘うタイプの人間だと思われている節がある。

偏見を感じさせない言動を評価してもらえることは大変喜ばしいが、僕としては偏見を撲滅しようと闘っているつもりはないし、偏見を大量に持ち合わせている側の人間だ。

むしろ、人よりも多くの偏見を持って生きている自覚がある。偏見をなくそうとするより、偏見を増やすことで相対的に偏見を無価値なものにしたほうが楽しいのではないか。偏見と上手に共存できる社会を目指すほうが現実的なのではないかと思っている。

「パーカー着てるおじさんおかしい」と言うのがおかしい?

「男性は爪のことなんかよりももっと違うことに夢中になっていてほしい」と小原さん
「男性は爪のことなんかよりももっと違うことに夢中になっていてほしい」と小原さん

作家の妹尾ユウカ氏が昨年12月、「40歳近くになってパーカー着てるおじさんおかしい」と発言したことで炎上、「パーカーおじさん論争」に発展したことは記憶に新しい。その当時、SNSにあふれていた「お前のために着てないし、あんたの感想なんてどーでもいいよ」といったおじさんたちの応酬は、まさに偏見と共存する社会の到来を予感させた。

女性のファッションに男性が物申すのも自由だし、女性が男性のことをとやかく言うのも自由だと僕は思う。だって「勝手に言ってろよ、知らねーよ」で済ませばいい話なのだから。それさえも「悪しき偏見」として批判されるような社会では、自分の「好み」も口にできなくなる。

「好みを口にすることで傷つく人もいるから、言うべきではない」という考えもあるかもしれないが、個人的にそれはやりすぎだと思う。いくらなんでも、自分が他人の好みじゃないことに傷つくのは、傷つくほうに問題がある。

僕はゲイだが、どうしても好みとして受け付けない男性のファッションがいくつかある。特に気になるのが最近増えたメンズネイル。一昔前までメンズネイルといえば、V系のバンドマンが黒色のネイルをしているか、いわゆる新宿二丁目系の方がやっているぐらいだったが、最近はカジュアルにストレートな男性がやるようになった。しかも20代の若者だけではなく、僕の同年代の30代や40代の男性もメンズネイル愛好家のボリュームゾーンだと言われるから驚きだ。

メンズネイルに限らず、ピアスやネックレスなどのアクセサリーを男性がつけているのも好きじゃない。アクセサリーをまとった姿そのものが嫌なのではなく、自宅でピアスやネックレスを身に着けるしぐさを想像するとなんだか女性的で、自分の古めかしい価値観でいうところの「男らしさ」に欠けるのだ。一方でネクタイや腕時計は、それを購入するために店で吟味する姿や、実際に着用する所作も男らしくてかっこいいと思える。

メンズネイルが「男らしさに欠ける」は僕の偏見

ジェルネイルで仕上げた小原さんの爪(本人提供)
ジェルネイルで仕上げた小原さんの爪(本人提供)

メンズネイルなんてのは男らしさに欠ける最たるもので、ネイルサロンで両手を出して爪をやすりで削られている姿を想像をしたら、どんなにイケメンでも 興醒(きょうざ) めしてしまう。男性は爪のことなんかよりも、もっと違うことに夢中になっていてほしい。これは紛れもなく僕の持つ偏見によるものではあるが、その偏見をなくすつもりも、その必要性もないと思っている。

ここまで書き切ると、さすがにメンズネイル愛好家に反発される気もするが、かくいう私もメンズネイルをやっている。「男のネイルなんて嫌だ」と言いながら自分がネイルをやってる意味が分からないと言われそうだが、僕は僕自身を性的に気に入る必要はないという点を考えてもらえれば、何も不思議なことではないだろう。

僕は男のネイルは嫌だけど、僕のネイルを「素敵だな」と思ってくれる人はいるかもしれないし、僕自身が僕の性的な好みっぽい格好をする必要はないのだ。

統計的に正しいか分からないが、おそらく「メンズネイルは男らしくない」と否定的に捉える人が多数派だろう。ゲイの 界隈(かいわい) でもモテるのは、ネイルをしないようなタイプが多い。だから、メンズネイルをすることで、今よりモテなくなることは承知している。

好感を持ってくれる人もいるかもしれないが、僕がネイルをするのはむしろ、「誰かに好かれようと () びを売ろうとするなよ!」と自らを戒めるためだ。

メンズネイルの特別感とかなり高い満足度

テレビに出てコメントをする時、つい「人に気に入られよう」とか「カッコよく見られよう」という思いが頭をよぎることがあるが、きれいに仕上げたネイルを目にすると、「アカン! カッコつけたらアカン!」と邪心を振り払えるのだ。

モテることを諦めるためにメンズネイルを始めたが、実際にやってみて気づいたのは女性との会話が増えたこと。ネイルをやっていると、他人のネイルが気になってつい指先に目がいく。

ネイルをやっている割合の高い女性からは、しょっちゅう「ネイルかわいいね」と言われ、それがきっかけとなって会話が始まるのだ。その点女性はネイルをやっていても特別感は薄く、ネイルになじみのない男性からの反応を期待しないだろう。

街を歩いていても、ほとんどの男性がネイルをしていないので「ふん。俺は皆と違って特別!」と思える点はメンズネイルの特権かもしれない。

しかも髪形やファッションと違って、ずっと自分の視界に入るので満足度はかなり高い。モテないかもしれないけれど、モテ以外の目的があれば、メンズネイルには大きな価値がある。

だから、「メンズネイルは嫌い」「男がネイルなんて気持ち悪い」と言う人がいて、仮にそれが多数派だったとしても、「ふざけんな!」とキレ散らかす必要は全くないのだ。これはメンズネイルに限らず、「おかしい」だの「痛い」だのと好き勝手に言われた「パーカーおじさん」や「カジュアルおばさん」など数多くの人に共通する。

ファッションやルックスにとどまらず、言論もそうだ。「そんなふうに言うなんて、人としてどうかしている!」とかみつかれたって、自分にとってどうでもいい人に「どうかしている」と思われたから何なんだ。

他人の好みに合わず気に入られないからと、落ち込んだり、キレたりする人が多すぎる。(タレント 小原ブラス)

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プロフィル

小原ブラス
タレント・コラムニスト
1992年、ロシア・ハバロフスク生まれ。6歳から兵庫県姫路市で育つ。「見た目はロシア人、中身は関西人」というインパクトに、「めんどくさい」「ひねくれ者」と言われるほど独特の視点を生かしたコメントが魅力。テレビのバラエティ番組などにコメンテーターとして出演し、SNSの話題から政治・社会問題までコテコテの関西弁で鋭く斬る。ゲイをオープンにし、幅広い層の支持を集める。
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6272430 0 大手小町 2025/01/30 16:20:00 2025/01/30 16:40:21 /media/2025/01/20250130-OYT8I50043-T.jpg?type=thumbnail

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