日勤と夜勤でマスクの色分け、残業時間が大幅減…「はよ帰り」「おつかれさま」など声かけやすく
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日勤と夜勤でマスクの色を変える――。滋賀県甲賀市の甲南病院が、そんなちょっとした工夫で残業時間を大幅に減らすことに成功した。「余分な経費はかからず、リスクもゼロ、働きやすい職場環境にもつながる」(担当者)という“一石三鳥”のアイデアは注目を集め、ほかの医療機関にも広がり始めている。(祝迫博)
退勤直前に指示受け、そのまま残業…
甲南病院の4病棟で働く約80人の看護師は、日勤(午前8時半~午後5時)が水色、夜勤(午後4時半~午前9時)がオレンジ色のマスクを着用する。
色分けが始まったのは今年1月から。それまでは日勤も夜勤も同じ水色のマスクだったため、退勤直前の看護師が指示を受け、そのまま残業するということが起こりがちだった。
転機は広瀬京子・看護部長(58)が昨年、日本看護協会のまとめた看護業務の効率化に関する先進事例集を目にしたことだ。熊本市の医療機関が日勤と夜勤で制服の色を変え、残業時間の減少につなげたことが紹介されていた。昨年冬、看護部で業務効率化について話し合った際、この事例のことも話題になった。当時を広瀬さんが振り返る。
「色ごとにユニホームを用意するとなると、ランニングコストがすごくかかる。だからうちは厳しいね、という話をしていたら、ある看護師が言ったんです。『だったらマスクの色ですね』って」
仕事柄、マスクの着用は必須だ。納入業者に確認すると、色を変えても同じ値段とわかり、ほどなく色分けの導入が始まったという。その効果は数字で表れた。
心理的な効果も大きく
7~9月、4病棟で働く看護師1人の1か月あたりの残業時間は昨年が約4時間半に対し、今年が約3時間。9月でみれば昨年の約5時間から今年は約2時間半と半減した。
残業には病床稼働率も関係するため、一概には言い切れないが、マスクの色分けで夜勤と日勤の区別が明確となり、当事者も周囲も交代の意識が高まり、指示や引き継ぎの効率化が進んだことが主な原因とみられる。
「働きやすい心理的な効果の影響も大きいんです」と広瀬さんは話す。例えば水色のマスクをした看護師が夜遅くまで残っていると周囲が「はよ帰り」と帰宅を促したり、オレンジ色のマスク着用者に夜勤明け、ねぎらいの声をかけやすくなったりしたという。
こうした取り組みが知られるにつれ、ほかの複数の医療機関が色マスクの取り組みを採用。京都府内で5病院を運営する洛和会ヘルスケアシステムは今年9月から洛和会東寺南病院で試験的に夜勤者がラベンダー色のマスクを着用するようにした。
洛和会本部の三宅友美・総看護部長(54)は「夜勤明けに『おつかれさま』と声をかけやすくなったと評判がよく、コミュニケーションツールとしても使えます。看護師には子育て世帯も多く、いいアイデア」と評価する。洛和会では11月まで試してアンケートを実施し、本格導入を検討するという。