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ガザ戦闘、イスラエルとイランのミサイル応酬…戦火が絶えない中東「悲劇の構図」

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 イスラエルとイスラム主義組織ハマスの戦闘が始まって半年以上がたった。停戦への見通しが立たない中、今度はハマスを支援するイランとイスラエルが互いに相手をミサイル攻撃するなど、戦火は収まる気配がない。シリアの専門家・東京外国語大学の青山弘之教授(現代東アラブ政治、思想、歴史)は「中東では日本の戦国時代のように紛争が次々と起き、片端から忘れられていく」と語る。ガザの戦闘も同じ道をたどるのか。(デジタル編集部・長谷部耕二)

イスラエル軍のガザ空爆で90人死亡…病院閉鎖や乳児の凍死相次ぎ、難民キャンプも被害広がる
青山弘之(あおやま・ひろゆき)。専門は現代東アラブ政治、思想、歴史。ダマスカス・フランス・アラブ研究所(現フランス中東研究所)共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員などを経て現職。『シリア情勢』(岩波書店、2017年)、『膠着(こうちゃく)するシリア』(東京外国語大学出版会、2021年)、『ロシアとシリア』(岩波書店、2022年)などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春 顛末(てんまつ)記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。(東京外国語大学で)
青山弘之(あおやま・ひろゆき)。専門は現代東アラブ政治、思想、歴史。ダマスカス・フランス・アラブ研究所(現フランス中東研究所)共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員などを経て現職。『シリア情勢』(岩波書店、2017年)、『膠着(こうちゃく)するシリア』(東京外国語大学出版会、2021年)、『ロシアとシリア』(岩波書店、2022年)などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春 顛末(てんまつ)記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。(東京外国語大学で)

広大な地域、複雑な利害関係…紛争の「再生産」「忘却」「矮小化」

 ――中東で次から次に紛争が起きるのはなぜか。

 「まず、中東(Middle East)が、西アジアから北アフリカに達する広大な地域を指すことを知っておく必要がある。アラビア語を話す国々やイスラム教徒の国々が中心だ。民族や宗教、歴史的経緯や利害関係が複雑にからみあっており、この地域の紛争に様々なプレーヤーが登場する一因になっている。

 いわば、大名や豪族、朝廷、宗教勢力など多数の当事者が入り乱れていた日本の『戦国時代』が再現されているようなものだ。中東でも、イスラエルと近隣アラブ諸国、米露英仏などの大国、イスラム過激派、民族主義組織、外国の支援を受けた武装勢力など多数の関係者が、その時々の状況や利害関係で離合集散し、外交や駆け引き、同盟や裏切り、暗闘や陰謀などを展開している」

中東(西アジア・北アフリカ)地図(青山教授作成)
中東(西アジア・北アフリカ)地図(青山教授作成)

 ――中東の紛争に特有な点とは。

 「一つ目は『戦争や内戦、軍事紛争などが次々に再生産される』こと。21世紀以降を見ても、2001年のアフガニスタン紛争、03年のイラク戦争、06年のレバノン紛争、11年の『アラブの春』に端を発したシリア、イエメン、リビアの内戦などが次々に起きている。

 二つ目は『新しい紛争が起きると、前の紛争がどんどん忘れられてしまう』こと。世界やメディアの関心が低下し、過去の問題がすべて解決したように受け止められることがずっと続いてきた。

 最後は『世間の見方は限定的で、紛争の背景まで目を向けない』こと。ガザでの軍事衝突でも、日本では当初、『ハマスとイスラエルの問題』『紛争はガザだけで起きている』などと狭い視点でとらえられ、物事がすごく (わい)(しょう) 化されていた」

イスラエルとハマスそれぞれに支援勢力…ガザの戦闘は西側VSアラブ

 ――現在、ガザで起きているイスラエルとハマスの戦闘をどう捉えるべきか。

 「西側諸国とアラブ諸国の戦いでもある。イスラエルを軍事支援するのは米国で、後ろには英国やフランスがいる。ハマスを支援しているのはシリアや、米国と長年対立しているイランで、他のアラブ諸国やイスラム勢力も控えている。

 レバノンにはイスラム教シーア派組織ヒズボラ、イエメンには反政府武装勢力フーシがいるが、それぞれイランなどの支援を受けている。これらの組織は共通の敵イスラエルに対して、同志のような協力関係にある。だから、イスラエルとハマスが戦闘状態に入ると、ヒズボラも攻撃を開始した。フーシも紅海で米艦船や商船を狙い、無人機やミサイルでの攻撃を行った。

 イスラエルのヨアブ・ガラント国防相も『ガザ地区、ヨルダン川西岸、レバノン、シリア、イラク、イエメン、イランの7正面と戦っている』と述べており、世界中のパレスチナ支援の軍事勢力との戦いとの認識を示している」

即時停戦が実現しない理由…中東最強の軍事国家、アラブ側の積年の恨み

イスラエル軍の攻撃で破壊されたガザ南部ハンユニスの街を歩く人々(2024年3月)=AP
イスラエル軍の攻撃で破壊されたガザ南部ハンユニスの街を歩く人々(2024年3月)=AP

 ――なぜ、即時停戦が実現しないのか。

 「これまでの長い歴史的経緯や憎しみの連鎖があるからだ」

 「イスラエルは『常に後がない戦いをしている』ので、軍事的妥協がしにくい。建国直後に起きた第1次中東戦争から一貫して、敵対するアラブ勢力に取り囲まれ、どこにも逃げ場がない。必死で戦うので戦争には強いが、負けたら国家が崩壊する危機感がある。

 現在は世界トップレベルの軍事国家で、陸軍でも空軍でも、中東では圧倒的に強い。米国から軍事援助を受け、核兵器の保有も半ば公然と表明している」

 「一方、アラブ側は19世紀末から、大国に何度も裏切られ、 (じゅう)(りん) されてきた。

 英国が、アラブ人にパレスチナを含む中東一帯にアラブ人国家の独立を約束する『フセイン・マクマホン協定』を締結する一方で、欧州のユダヤ教徒にはパレスチナにユダヤ人国家の建設を約束する『バルフォア宣言』を出した『二枚舌外交』は有名な史実だ。 

ガザ南部ラファで、食べ物をもらうために並ぶ子供たち(2024年3月)=ロイター
ガザ南部ラファで、食べ物をもらうために並ぶ子供たち(2024年3月)=ロイター

 アラブ諸国の恨みが集約されているのがパレスチナ地域で、聖地エルサレムもイスラエルに占領されている。だから、今回のようなことが起きれば、積年の恨みが噴出する」

 「イスラエルは病院や学校を空爆し、子どもを含む民間人に多数の死者が出ている。ガザ地区を封鎖し、電気・水・食料の供給を止めたほか、国連の食糧支援の搬入も制限しているため、住民の半数にあたる約110万人が、必要な食料の入手さえ困難で餓死者が出る「壊滅的飢餓」に陥っているという。

 欧米諸国はウクライナ侵略では『人道主義』を唱え、ロシアを批判するが、イスラエルの行動は強く非難しなかった。これもアラブの人々を怒らせる原因だ」

イスラエルの狙い…ガザ地区完全制圧とハマスの無力化

イスラエル軍の攻撃を受け、煙が上がるガザ市の建物(2023年10月7日)=ロイター
イスラエル軍の攻撃を受け、煙が上がるガザ市の建物(2023年10月7日)=ロイター

 ――ガザに侵攻したイスラエルは最終的に何を目指しているのか?

 「イスラエルはガザ地区を軍事的に完全制圧して、ハマスの主力を排除したいのだと思う。1982年、イスラエルは、対立していたPLO(パレスチナ解放機構)の勢力をそぐため、本部があったレバノンの首都ベイルートまで侵攻して、PLOの力をそいだ成功体験がある。

 ハマスの根絶は無理でも、無力化することで、ガザ地区がイスラエル攻撃の温床にならないように、数十年間は非武装地帯にしたいのだと思う。しかし、イスラエルに強い恨みを持つ住民はそのまま現地に残るので、また敵対勢力が復活するかもしれない」

根本にパレスチナ問題…「2国家解決」は可能か

 ――パレスチナ問題の負の連鎖を断ち切るような根本的解決策はないのか。国際社会が後押ししている、ヨルダン川西岸地区とガザ地区と東エルサレムにパレスチナ国家を樹立し、イスラエルと共存させる「2国家解決」はどうか?

 「この問題の根底には、パレスチナの土地や領土の問題が根深くある。イスラエルは『神から与えられた土地』と主張するが、パレスチナ人にしてみれば、『先祖代々住み続けてきた土地』だからだ。結論から言えば、今、この案を持ち出すことはイスラエルに有利になるかもしれない」

 「ヨルダン川西岸地区では、『ここは自分たちの土地だ』と考えるイスラエルが、国際法に違反して建設しているユダヤ人入植地が年々増加している。虫食いのように広がる入植地を維持するため、軍隊を派遣し、検問所を作り、パレスチナ人居住地と分ける壁まで建設した。

 国家を作るには、領土と国境線と国民が必要だ。『領土』で言えば、パレスチナ国家を作ろうとしても、イスラエルが多額の投資をして建設した入植地を手放すだろうか。イスラエルの占領下にある東エルサレムを完全に自国領土にできるだろうか。

 『国境線』についても、あちこちに数多くある飛び地のような入植地を避けて、国境線を引くことは困難だろう。

 最大の難題は、中東戦争で故郷を追い出された何百万人ものパレスチナ難民の帰還問題だ。『国民』としてどのくらいの人数を、どこにどうやって戻すのか、具体策はまったくない。

 あくまで『2国家解決』を目指すなら、入植地の多い地域や東エルサレムの一部を外さなければ、パレスチナ国家は実現できないかもしれない。パレスチナ人には屈辱的な案になりかねない」

「忘却」されたシリアの悲劇…1670万人に人道支援が必要

 ――青山さんの専門のシリアについて聞きたい。シリア内戦は結局どうなったのか。

 「『今世紀最悪の人道危機』『近年、最も難民を出した戦争』と言われ、多くの悲劇を生んだが、すっかり過去の出来事のようだ。

 『アラブの春』によるアサド大統領の支配への抗議運動に端を発し、民主化を求める反体制派への弾圧から、11年に内戦が始まった。当初、アサド政権にロシアとイラン、反体制派にトルコや米国が加勢し、代理戦争の性格を持った。その後、反体制派でイスラム過激派のイスラム国が台頭。広大な地域を支配下に収め、状況は (こん)(とん) となっていった。

 結局、内戦は20年3月、ロシアと、反体制派の後ろ盾となっているトルコが停戦に合意し、シリア政府が反体制派に対して優位な状態で停戦した。その後、大規模な軍事衝突はなくなった。

 『反体制派が住民とともに強権的なアサド政権を倒す』といった勧善懲悪的な結末を迎えることもなく、国土はシリア政府、反体制派、クルド民族主義勢力、トルコや米国の支配地域に分割され、次の火種を残したままだ」

 「最大の被害者は、化学兵器の攻撃を受け、最終的には反体制派にも切り捨てられたシリア住民だ。シリアでは、1670万人以上が人道支援を必要としている。住む場所を追われた『国内避難民』は680万人、国外への『難民』も501万人に上る。これらはまったく解決していない」

シリアとロシアのウクライナ侵略を結ぶ線

 ――シリア内戦は、国際情勢にどのような影響を与えたのか?

 「内戦を通じて、ロシアとトルコが接近し、結果的にロシアがウクライナ侵略をしやすくなった。ウクライナ攻撃の際、北大西洋条約機構(NATO)に属しているトルコと対立する懸念がなくなったからだ。トルコにしてもロシア寄りの姿勢を示すことで、アメリカをけん制し、自国の立場を強化できた」

 ――モスクワ郊外で今年3月に起きた銃乱射事件で、イスラム国を名乗る犯行声明が出た。イスラム国は消滅したのでは?

 「イスラム国は15年、フリージャーナリストの後藤健二さんと湯川遥菜さんを殺害したことで、日本でも悪名が高い。

 銃乱射事件では、アフガニスタンに本拠地を持つイスラム国の一派が犯行声明を出した。シリア内戦中のロシアや米国の掃討作戦で弱体化したが、完全に消滅したわけではない。ガザの軍事衝突以降、活動を活発化させていた。犯行の動機は、プーチン政権がシリアでイスラム国をターゲットにした軍事介入を行なったことに対する恨みだとの見方もある」

イスラエルともアラブとも対話できる日本…中東での貢献は国益にもかなう

青山教授(東京外国語大学で)
青山教授(東京外国語大学で)

 ――日本が中東で果たすべき役割とは。

 「日本は中東で積極的に仲介役を果たすべきだと思う。国際平和への貢献と同時に国益も保つことができる。二つの理由があって、(1)中東は日本の経済的安全保障に深く関わっており、(2)日本はイスラエルにもアラブ諸国にも全方位に関係を持っている。G7の欧米諸国にはない強みだ。

 (1)で言えば、日本は石油の90%以上を中東に依存している。中東情勢が不安定になれば、エネルギーの確保だけでなく、欧州航路の商船などシーレーンにも大きな影響が出る。実際、フーシによる輸送船攻撃で紅海経由の物流網が寸断されたほか、昨年11月には日本郵船が運航する輸送船の ()() 事件も起きた。

 日本は海外に派兵して軍事力を行使する選択肢がない。中東情勢によっては、これまで行なってきた多額の借款、援助、投資による権益を失う事態も起きかねない以上、日本が紛争仲介役を果たすなど独自色を出して、現地での存在感を高めておくことが必要だ。

 たとえば、10年、中東で有数の埋蔵量を誇るイランのアザデガン油田開発から、日本が撤退を表明した後、代わりに中国企業が権益を握った事例もある」

 「(2)では、日本はアラブを侵略したことがなく、親日感情も強い。パレスチナにODA(政府開発援助)で医療や教育、インフラ支援を続けてきた経緯もある。

 パレスチナ情勢を短期的に解決できる見通しがないなら、イスラエルの後ろ盾である米国と連携しながら、恒久平和を話し合うプラットフォームを作るべきだ。両者が敵対関係にあっても、話し合いが続いている間は苛烈な戦闘は起きないものだ。日本が双方にとって良き理解者となることで、和平への道づくりをする努力が求められているのではないか」

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5298310 0 国際 2024/04/29 14:00:00 2024/04/29 14:18:16 2024/04/29 14:18:16 /media/2024/04/20240423-OYT1I50060-T.jpg?type=thumbnail

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