パナソニックHD、1兆円子会社売却 EV電池に重点投資
パナソニックホールディングス(HD)は17日、自動車部品を手掛けるパナソニックオートモーティブシステムズを米ファンドに売却することで合意したと発表した。売上高が1兆円を超える子会社の売却で成長資金を確保し、電気自動車(EV)向け電池などの成長領域に重点投資する。低収益の事業を切り離し、パナソニックの事業の柱を外部から分かりやすくする狙いもある。
パナソニックHDは17日、パナソニックオートが長期的な成長を実現するには「新しい資金調達の手段を確保しやすくすることが最善と判断した」とコメントした。株式の売却後も「パナソニックグループの一員として社名やブランドは残す」としている。
パナソニックオートは自動車向けの電子部品や車載充電器事業などを手掛ける。2022年度の売上高は1兆2975億円、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は777億円。パナソニックHDは売却する株式の比率を50〜80%の間で今後詰めるが、売却額は数千億円とみられる。あるアナリストはパナソニックオートの企業価値について「6000億〜7000億円ではないか」と語る。
パナソニックHDはEV電池と、欧州向けヒートポンプ暖房などの空質空調、サプライチェーン(供給網)管理システムの計3事業を成長領域に位置づけている。23年度の設備投資計画は7000億円。08年度の4944億円を上回り過去最高を更新する見通し。約半分にあたる3810億円は電池関連に充てる。
米インフレ抑制法(IRA)の追い風もあり、グループのなかで売上高営業利益率が段違いに高い電池事業(23年度の会社計画は12.8%)に集中投資する姿勢が鮮明だ。
一方で、22年度からの3年間の戦略投資枠(6000億円)は、米カンザス州に建設中の工場の建設費でほぼ使い切る見込み。EV電池を巡る競争が激化するなか、パナソニックHD傘下の電池事業会社のパナソニックエナジーはカンザスに続く北米で3つめの工場を23年度に決める考えを明らかにしている。
大型投資を継続するには新たな資金調達が必要だが、自前で調達するのは簡単ではない。パナソニックHDの9月末時点の長期負債は1兆1842億円と半年間で1割超増えた。財務基盤を損なわずに成長資金を手当てするため、主要子会社の売却を決めた面もある。
パナソニックオートは足元は自動車生産の回復で業績が上向いているものの、22年度の売上高営業利益率は1.2%にとどまり、過去には赤字のこともあった。EV電池を重視しながら車部品を売却する経営判断は一見、矛盾するようにも映るが、パナソニックHDはかつてプラズマテレビを中心に周辺機器も売る総花的な経営戦略をとり、巨額の赤字を出した。
自動車関連では電池に経営資源を一極集中する経営方針は、過去の反省を踏まえたものだ。岩井コスモ証券の清水範一シニアアナリストは17日の発表について「不採算事業にメスを入れ、投資を特定領域に集中していく姿勢を鮮明にした」と指摘する。
株式市場のなかには「車部品の売却は、構造改革の第1弾に過ぎない」(アナリスト)との見方もある。別のアナリストは「住宅設備」や「(テレビなどの)黒物家電」は今後、売却あるいは他社との協業に動く可能性があるとみる。
パナソニックHDは、これまでも事業の売却・買収を繰り返してきた。プラズマテレビ事業からの撤退を発表して屋台骨が揺らいでいた14年には、中核事業ではなかったパナソニックヘルスケアの株式を米投資ファンドのKKRに売却した。
M&A(合併・買収)では、11年に旧・三洋電機と旧・パナソニック電工を約8000億円を投じて完全子会社化した。重複事業をなくすため、三洋電機の洗濯機や家庭用冷蔵庫などの白物家電事業を中国・海爾集団(ハイアール)に売却したことでも話題になった。
17日の東京株式市場でパナソニックHDの株価は、午後2時の売却発表まで1420円台で推移していたが、発表直後には前日比7%高の1522円50銭まで急騰。終値は1497円だった。
市場の期待に応え続けられるかどうかは「(23年度は事業)見直しの封印を解く」と語るパナソニックHDの楠見雄規社長が、スピード感をもって次の手を打ち出せるかにかかっている。
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