日経サイエンス  2012年12月号

特集:「限界」を科学する

睡眠者の殺人 意識と無意識の境界を問う

J. ブラホス(サイエンスライター)

 睡眠中に妻を殺害して罪に問われた男性がいる。眠っていたのは妻の方ではなくて,手を下した本人がそう主張する。しかし,人を殺すことができたとすれば,その人はその時に起きていたというほかはないのではないか?実は,睡眠中の暴力やいたずらなど「睡眠時随伴症」とよばれる行動による事件は,一般に思われているよりはずっと多い。

 脳が眠っているか目覚めているかは,どちらかにはっきり分けられる現象ではないと,一部の研究者は考え始めている。「局所睡眠理論」と呼ばれる考えによれば,脳は部位によって眠っている状態と,そうでない状態が混じっている。目覚めているように見える人でも,脳の一部が眠っている場合があり,その逆もありえる。この睡眠をめぐる謎めいた現象を手掛かりに,意識と無意識の境界について考える。

 

 

再録:別冊日経サイエンス191 「心の迷宮 脳の神秘を探る」

著者

James Vlahos

フリーライター。National Geographic Adventure誌やNew York Times Magazine誌,Popular Science誌に記事を執筆している。

原題名

The Case of the Sleeping Slayer(SCIENTIFIC AMERICAN September 2012)

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