12月18日に上場を予定しているキオクシアについてお話したいと思います。キオクシアは2020年に一度上場を検討していましたが、当時は結局取り下げとなり、4年後の今となって上場ということになりました。証券会社からキオクシアの株を買わないかという話が来て悩んでいる方も多いかと思います。想定時価総額としては約7,000億円となりますので、なかなかの規模のIPOです。果たしてこのIPOは買って良いでしょうか。結論から言いますと、長期投資の観点ではキオクシアは買うべきではないと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
キオクシアとは?
キオクシアは世界トップクラスのフラッシュメモリメーカーです。
今注目が集まっている半導体のメーカーです。
元々は東芝メモリでしたが、東芝グループから離れて上場する形となっています。
NAND型フラッシュメモリという、記憶するための半導体を発明しました。
エヌビディアやインテルなどが作っている半導体はロジック半導体と呼ばれる半導体は計算をつかさどりますが、メモリは記憶をつかさどることになります。
今非常に盛り上がっているのはAIを動かすサーバーです。
サーバーにはエヌビディアのGPUが大量に使われていますが、GPUが計算したものを保存したり持ち出したりするためにはメモリが必要なので、AIの需要が増えればNAND型フラッシュメモリの需要も間違いなく増えていきます。
NAND型フラッシュメモリは電源が無くても記録を保持することができ、今後も重要なものであり続けると思います。
ブックビルディング期間を経て公開価格が決まることになりますが、人気が高いほど公開価格も高くなります。
赤字と黒字を繰り返す
業績の推移を見てみましょう。
AIの需要で盛り上がることが期待されていますが、2022~2023年には大きく赤字となっています。
半導体、特にメモリの世界は、黒字と赤字を繰り返すことが常となっています。
需要が増えたら利益が増えるというような単純な話ではなく、需要が増えても価格が上がるとは限らず、むしろ価格競争に陥りやすいのです。
メモリを生産するためには巨大かつ最先端の工場を作る必要があります。
膨大な設備投資費がかかるものの、いざ大きな需要が発生した時にそれにこたえる生産力が無ければ業界で負けてしまうので、設備投資をし続けなければならないのは宿命です。
需要が多くて供給が少ない時には高い価格で売れますが、メモリ各社はできるだけ工場を稼働させて多く売りたいと考え、供給が過多となり値崩れを起こします。
値崩れを起こすと売っても利益が出なくなり、在庫も溜まって売上も下がります。
キオクシアの今の状況は、その冬の期間を乗り越えてようやく利益が出てきたタイミングです。
このタイミングを見計らって上場するということです。
足元では最悪の状況を逃れたところですが、この先さらに右肩上がりで伸びていくかというと疑問があります。
良い時もあれば悪い時もあるというのがこの業界なので、今は良くても必ず悪い時も訪れます。
しかしこれはキオクシアに限った話ではないのでそこまで大きな問題ではありません。
ライバルにはサムスンやウエスタンデジタル、SKハイニクスなどがありますが、大きな差別化がなかなかできない商品なので価格競争に陥りやすいです。
また、2010年の東芝メモリの時代には約35%のシェアを持っていましたが、その後どんどんシェアを落とし、直近では14.5%と、かなり落ちぶれてしまっています。
このメモリを作れる会社は世界的に見ると多くはないので、高い技術を持っていることは間違いないのですが、やはり財務的な力を持っているところが強くなる傾向があります。
その点サムスンは別格で、スマートフォンなどあらゆるものを作っていて収益源があるので、大規模な投資も厭わないわけです。
一方でキオクシアは大きな負債を抱えていて、大胆な投資もできませんし、利払いも多くあります。
資金を調達するために苦肉の策として社債型優先株を発行しています。
社債型優先株…将来議決権のある株式に代えることができる債券
そしてその社債型優先株を持っているのがライバルのSKハイニクスなのです。
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