両社合併で利益率7%へ
日産・ホンダが合併すれば、営業利益率が上述のように7%へ上がると指摘されている。なぜ、この指標が重視されるのか。営業利益率は、企業がどれだけ効率的に経営資源を活用しているかを示すものだ。自動車企業の場合、営業利益率は最低で5%を維持しなければ、十分な新車開発費用を賄えないとされる。
次に、日産・ホンダの営業利益率の推移をみておこう。
営業利益率は、正式には売上高営業利益率という。売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた営業利益を売上高で割ったものだ。
営業利益率推移(年度)
日 産 ホンダ トヨタ
2014年: 5.2% 5.5% 8.4%
2015年: 6.5% 6.0% 10.1%
2016年: 6.3% 6.1% 10.0%
2017年: 4.8% 6.0% 7.2%
2018年: 2.7% 6.2% 8.2%
2019年:-0.4% 5.5% 8.1%
2020年:-0.2% 4.2% 8.0%
2021年: 2.9% 5.5% 8.1%
2022年: 3.6% 6.0% 9.5%
2023年: 4.5% 6.5% 7.3%
出所:各社財務諸表
参考までに、トヨタ自動車も加えて3社比較をすると、日産の劣勢が明らかである。とくに、2019~20年にかけては、営業利益率がマイナスへ落ち込んでいる。それだけでない。2017年以降の営業利益率が限界点の「5%ライン」を割り込んでいる点だ。これは、日産の新車開発余力がなくなっていたことを示唆している。
日産が、HV(ハイブリッド車)を開発せず、今になって「売る車がない」という惨状は、新車開発方針を誤ったか、資金的にそこまで開発する経済的なゆとりがなかったのかのいずれかだ。ハッキリ言えば、ゴーン元会長が在籍した17年当時から、すでに経営はふらついていたのである。
ホンダとトヨタの営業利益率もみておこう。ホンダは、2020年に4.2%へ落ち込んだが、それ以外は5%ラインをクリアしている。トヨタは、販売台数で2020年以来「世界トップ」の座にある。それ以来、営業利益率は23年を除くと、コンスタントに8%以上を上回っている。経営に余裕を持っていることが分かる。
営業利益率に焦点を合わせてきた理由は、経済的な新車開発力を判定する上で重要な指標になるからだ。ここで、日産・ホンダとトヨタが年間で研究開発費へどれだけ投入しているかをみておきたい。
研究開発費推移(単位:億円 年度)
日産 ホンダ トヨタ
2014年 3,368 5,516 9,460
2015年 3,422 5,449 10,110
2016年 3,134 6,430 10,738
2017年 3,043 6,767 12,050
2018年 3,025 7,262 12,420
2019年 2,808 7,398 12,416
2020年 2,325 6,941 12,030
2021年 2,476 7,005 12,420
2022年 2,878 6,519 14,160
2023年 3,218 6,373 15,350
出所:各社財務諸表
日産、ホンダ、トヨタ3社の研究開発費をみると各社の「実力」が一目瞭然である。23年度を基準にすると、日産はホンダのほぼ半分に過ぎないのだ。ホンダは、トヨタの4割見当である。これだけ研究開発費で格差がつくと、日産は自力で生き延びることは困難であることが分る。仮に、日産とホンダが合併しても、研究開発費は23年度で9,591億円であり、トヨタの6割である。「世界のトヨタ」に、大きく水を開けられたままである。
産業界再編は歴史の必然
ここで、久しぶりに「業界再編」という言葉が登場する。
日本では、鉄鋼産業が再編を終えて安定した経営基盤を築き上げた。日本製鉄は、米国USスチールを吸収合併すべく交渉中という前向き経営に転じている。こうした日本鉄鋼業の再編の歴史は、自動車業界にも当てはまるはずだ。
まず、日本鉄鋼業再編の歴史を追ってみたい。
戦後の日本鉄鋼業は、八幡製鉄・富士製鉄、日本鋼管、住友金属工業、川崎製鉄の「5社体制」であった。八幡・富士は、戦後の過度経済力集中排除法によって日本製鉄が分割されたもの。この5社は、不況時に減産の足並みが揃わず、住金が自由競争論を唱えるなど混乱の歴史であった。それが、しだいに集約化された。八幡・富士が新日本製鉄となり、後に住金が合併し日本製鉄となった。一方、日本鋼管と川崎製鉄は合併し、JFEと横文字社名へ。こうして、高度経済成長をリードした日本鉄鋼業は現在、2社体制である。
鉄鋼業は、戦後の高度経済成長時代は5社が競い合った。低成長時代には、集約化して経営基盤を安定させた。自動車業界も事情は同じだ。自動車は、中国というニューフェースが登場し、EVという新たな車種をめぐって国境を越えた競争が展開されている。競争力は、技術開発が左右する時代である。今、まさにその黎明期にある。こうした環境下では、過去の行きがかりを捨てて、新しい「船」へ乗り込む勇気が必要だ。JFEのように。
「技術の日産」と言われていた。これまでの分析によれば、完全に過去の話であって、現状は戦後企業のホンダの足下にも及ばない零落ぶりをみせている。これが現実である以上、昔の「栄光」にしがみ付くのは社運を縮めるだけであろう。戦前からの歴史を持つ日本鋼管が、戦後誕生の川崎製鉄と合併したように、「メンツ」を捨てる覚悟が必要だ。
日産・ホンダが「合併」するとなれば、国内では日産と関係の深い三菱自動車やフランスのルノーとの関係を再構築する必要があろう。同時に、日産・ホンダ・ルノー・三菱というグループを再編すれば、大きなグループが生まれて、世界2~3位を狙える希望が生まれる。