日本の自動車業界に再編の波が押し寄せている。かつての栄光を誇った日産は、EV市場の低迷や売上減少に直面し、企業の存続に危機感が漂う状況だ。一方のホンダも、アメリカのGMとの提携解消を経て、日産との新たな提携に踏み出している。この両者が合併すれば、約1兆8,000億円ものコスト削減効果が期待される一方、日本国内外の産業地図にも大きな変化をもたらす可能性がある。果たして、この動きは両社にとって「救世主」となるのだろうか?(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)
プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
海外でささやかれる「日産・ホンダ」合併論
日本の自動車業界は、長いこと「トヨタ・日産」2強時代で過ごしてきた。電機業界は、「日立・東芝」が2枚看板であった。いずれも、もはや昔話になった。
東芝は、非上場企業になって再起を期す境遇になっている。日産も、今年上半期の営業利益は前年同期比90.2%の大幅減益という緊急事態に落込んだ。EV(電気自動車)の世界的な不振の煽りを受けて、米中の両巨大市場で「売る商品がなくなった」という信じがたい事態だ。まさに、SOSの局面である。
海外報道では、しきりと「日産・ホンダ」合併論を報じている。営業データを詳細にみると、日産がこれから生き延びる可能性は、かなり低くなっている。ただ、「技術の日産」と言われていたように、世界初のEVを送り出した技術力は光っている。この貴重な財産を生かして行くにはどうするか。戦後創業のホンダと合併することでしか、危機を乗り越える道はなさそうである。肝心のホンダの意向は、まったく不明である。しかし、日産とEV開発などで業務提携を結んでいる。これが、合併への足がかりになるか、だ。
日産は、フランスのルノーと資本関係にある。従来は、日産の45%の大株主であったが、相互に15%の出資比率へ引き下げて「対等関係」になった。日産はこの点で、ホンダと合併する障害が低くなっている。ルノーは、日産株を30%ポイント分売却する。売却先は、日産が指定できる契約だ。ホンダが、この売却分を引き受ければ、合併への足がかりができたのも同然であろう。
両社が合併すれば、コスト削減効果として約120億ドル(約1兆8,000億円)も見込めるという。これは、両社の売上高合計の7.5%にも相当する。こうして、営業利益率は7%へ跳ね上がるという予測が飛び出している。『ロイター』(11月29日付)が報じたものだ。
日産・ホンダ「EV」で協業
日産・ホンダは今年8月1日、5つの領域で協業すると発表した。新たに、三菱自動車が合流し3社で戦略提携の検討を進めていくことを明らかにしている。
協業領域は、次の5部門である。いずれも、EV(電気自動車)関連である。
1)車載ソフトウェア
2)バッテリー
3)eアクスル
4)車両の相互補完
5)国内の充電サービスと資源循環
次世代車載ソフトウェアのプラットフォームについて、基礎的要素技術の共同研究契約を締結した。
ホンダは23年10月、米国GMとのEVに関する提携を解消した経緯がある。理由は、開発方式の食い違いとされている。内部的には、EVを巡って「GMはつねに金の話ばかりする」「開発の話がなかなかうまくいかない」などの苦労話が漏れ伝わって来た。「実際に一緒にやって、考え方、開発の仕方を互いに知る中で、(一緒に)できないというのがわかってきた」とも伝わっている。GMは、新たに韓国の現代自をパートナーに選んだ。ホンダはEVで先発企業の日産と組む。GMよりも「ましな相手」なのだろう。
ホンダは、GMと組んで失敗しただけに、日産との提携は何が何でも成功させなければならない立場だ。一方の日産は、売上不振で屋台骨を揺るがせている。両社とも、引くに引けない事情を抱えている。それだけに、「合併」という真剣勝負の舞台が整ってきた。
提携の狙いは、生産規模のメリット追求にある。自動車の電動化・知能化には莫大な資金がかかる。バッテリーやeアクスルの開発・生産投資はもちろん、車載ソフトの開発だけでも「数千億円規模」とされる。別々に開発している部品やソフトを共通化できれば、それぞれの投資負担が減るうえに、部品調達面で量産化の利益を享受できる。不足しているソフトウェア人材を両社で活用できることも大きい。以上は、『東洋経済オンライン』(8月7日)が報じた。
こうした両社の合理化により、前述の約1兆8,000億円ものコスト削減効果が期待できるのであろう。
8月1日の日産・ホンダの首脳記者会見で、ホンダの三部社長は「現時点で資本関係という話はしておりません。ただ、可能性としては否定するものではない」と含みを持たせている。これは、今後の「合併含み」とみられるが、その可能性をデータ面でみておきたい。
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