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フランス「終わらない政治危機」の構造――物語なき中道はデマゴーグに抗えず

執筆者:国末憲人 2024年12月31日
エリア: ヨーロッパ
マクロン大統領の意中の人物は、実は別にいたという[テレビ出演した新首相のバイル氏=2024年12月19日、フランス・パリ](C)AFP=時事
2024年に3度の首相交代があったフランスだが、日本なら宮澤喜一内閣時代に初入閣した4人目の首相も時代錯誤感は否めない。大統領があえて老練な政治家を選んだのは、再度の内閣不信任を避けようとしたからだと見られている。議論と妥協という前提を左右両翼が間接的に結託することで麻痺させた。政府の緊縮型予算案に右翼「国民連合」が反対したのが直近の混乱の引き金だが、同党を率いるルペン氏のスキャンダル対策という要素も否めない。この終わりが見えない政治危機は、「極」の立場にある勢力だけが支持層に現実的「物語」を訴えているという、フランス議会政治の危うい現状を浮き彫りにしている。

 フランスの政治的混乱は、収まる気配を見せない。2024年6~7月に総選挙が実施された後、約2カ月半を経てようやく発足したミシェル・バルニエ(73)首班の内閣は、さらに約2カ月半後の12月4日、国民議会(下院)で不信任案を採択されて崩壊した。大統領のエマニュエル・マクロン(47)は、フランソワ・バイル(73)を2024年で4人目の首相に指名し、年の瀬の23日に内閣が発足したものの、市民の期待は高まらない。マクロンの求心力は大きく損なわれ、欧州連合(EU)内や国際社会でのフランスの地位にも影響している。

 ただ、今回の危機はマクロンのせいというより、右翼「国民連合」を率いるマリーヌ・ルペン(56)と、左翼「不屈のフランス」を率いるジャン=リュック・メランション(73)の思惑によるところが大きい。いずれも党首を若手に任せて院政を敷きつつ党の実権を独裁的に握る2人は、恐らく個人的な野望を実現させようと狙って、結果的に連携して政府を追い込んだのである。

 右翼と左翼のデマゴーグが間接的に結託し、議論と妥協を前提とする議会制民主主義を麻痺させる。一部の人々はこれに危機感を抱くどころか、扇動に乗って混乱を煽る。フランス政治危機の本質は、首相が次々に変わる舞台上の混乱にあるのではなく、その混乱を招く舞台裏の構造に見いだせるのである。

「バルニエはもう持たない」

 国民議会の過半数を制さないまま9月21日に発足したバルニエ内閣は、当初から厳しい国会運営を強いられた。国民議会の主要各勢力は、以下のようなスタンスを取っていた。

▼首相与党の右派「レピュブリカン」(共和主義者)と大統領与党連合「アンサンブル」=与党として内閣を支える。

▼左翼「不屈のフランス」=最初から対決姿勢。内閣不信任案を用意すると同時に、大統領マクロンへの弾劾も請求。左派左翼連合「新人民戦線」で連携する左派にも同調を要求。

▼左派の社会党、共産党、エコロジスト=内閣不信任案には賛同するが、大統領弾劾には同調せず。

▼右翼「国民連合」=バルニエの組閣自体には反対せず。政策に関しては是々非々の立場。

 バルニエ内閣にとって誤算だったのは、それなりに協力を得られると見込んだ国民連合が、強硬な対決姿勢に転じたことだった。

 両者の対立は、表面的には2025年度予算案を巡る論戦がきっかけだった。財政赤字削減のために緊縮型の予算を組もうとする政府と、年金増額など庶民の支持層を満足させるだけの支出を勝ち取りたい国民連合との間で、激しい議論が持ち上がった。この中でも焦点となったのは、社会保障の予算案である。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授、本誌特別編集委員 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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