カウントダウン「量子コンピューティング3.0」――AIが経験した「冬の時代」からの教訓|武田俊太郎・東京大学大学院工学系研究科准教授(2)
長野光と関瑶子のビデオクリエイター・ユニットが、現代のキーワードを掘り下げるYouTubeチャンネル「Point Alpha」。今回は、量子コンピュータ業界の各国の動向、プレイヤーについて、東京大学大学院工学系研究科准教授の武田俊太郎氏に話を聞いた。 ※主な発言を抜粋・編集してあります。
スタートアップが巨大テック企業を一気に出し抜く可能性も
──量子コンピュータ業界には、どのようなプレイヤーがいるのでしょうか。
「米国の大手企業が中心になっているという印象を抱いています。Googleに加え、IBMも超伝導回路方式量子コンピュータの開発に熱心です。この2社が、業界を牽引していると言っても過言ではないでしょう」
「Google、IBM以外にも、米国を中心に多くのスタートアップが誕生しています。加えて、各国で、量子コンピュータの研究開発を行う大学や研究機関への政府レベルでの投資がなされている状況です」
――量子コンピュータ業界は、スタートアップでも参入可能な業界なのですか。
「昨今では基礎研究を積み重ねて高度な量子技術を蓄積してきた大学の研究室が、ベンチャーキャピタルから投資を得て起業に至る、という事例を多く見聞きします」
「スタートアップと一口に言っても、その研究開発対象は多岐にわたります。ハードウェアの研究に特化したスタートアップもあれば、ソフトウェア開発を主とするものもあります。多様な技術を持ったスタートアップが、量子コンピュータ開発の各層でひしめき合っているのです」
「ハードウェアの点では、量子コンピュータは非常にバラエティ豊かで、さまざまな方式の研究が進められています。現時点で主流、かつ最も進んでいるのは、GoogleやIBMなどが牽引している超伝導回路方式ですが、山登りで言えば、まだまだ1合目、2合目です」
「米国のハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の研究成果を基盤に設立されたQuEra Computing(キュエラ・コンピューティング)というスタートアップは、2023年に中性原子方式と呼ばれる方式で、48論理量子ビットで誤り検出を行うことで、エラー率を下げ、堅牢で信頼性が高い複雑な計算が可能であることを報告し1、量子コンピュータ業界で大きな注目を集めました」
「超伝導回路方式が現時点では最も進んでいることは確かです。それでも、スタートアップが持っている別の方式の技術が超伝導回路方式を一気に出し抜く可能性は十分にあります。そういった意味でも、量子コンピュータ業界は今、とても面白い局面にあると思います」
――QuEra Computing以外で注目すべきスタートアップがあれば、教えてください。
「光方式の量子コンピュータ業界では、米国のPsiQuantum(サイクオンタム)、カナダのXanadu(ザナドゥ)が注目されています。いずれも、大学の研究者が設立したスタートアップです」
「両者ともに、ベンチャーキャピタルから多額の投資を得て、それぞれの研究を推し進めている段階です」
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