「薬剤師」への道をすすめてくれた父
「大事なことは嘉永生まれの祖父から教わりました」
今から102年前の1922年9月18日、幡本圭左(けさ)さんは燃料問屋を営む父と母の長女として、長野県に生まれた。下に弟と妹がいる。人の出入りが多い賑やかな家庭で、幡本さんは伸び伸びと育った。
小学生の頃、神奈川県三浦町に住む父方の祖母が亡くなり、1人になった祖父が移り住んでくる。高齢の祖父を心配した父に言われて、幡本さんは祖父と枕を並べて寝た。
「今でも記憶に残っているのは、夏の朝、蚊帳の中で論語を習ったこと。祖父が『子曰く、學びて時に之を習ふ』など1節ずつ唱えて、私が大きな声で復唱するんです。論語以外にもいろんなことを暗唱して教わりました。だから小学校に上がる前なのに『子~、丑、寅、卯~、辰、巳~』って、干支をそらで言えたりしてね(笑)」
学問の喜び、他人への思いやりと配慮、感謝の気持ちなど、祖父は時々、幼い幡本さんに論語の意味も説いた。枕を並べて暗唱した祖父の教えは人生に根づいているなあと、幡本さんは思う。
その教えの中で今も大切にしていることがある。「身体髪膚これを父母に受くあえて毀傷せざるは孝の始めなり」という孝経(中国の教え)の言葉だ。
「体はすべて父母からいただいたものなので、傷つけたりせず、親より先に死んだりしてはいけない」ということだと幡本さんは教わった。自身の子や孫にも伝えてきたという。
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