資金を貸出して利息を得る銀行ビジネスは、もう時代遅れなのだろうか?しかし矛盾を感じるのは、モンテパスキ銀もドイツ銀も、不良債権削減を求められているという事実だ。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)
プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
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今や「生き残り」の最善策は、当局と距離を置くことなのかもしれない
世界最古の銀行・モンテパスキに破綻懸念
欧州銀行監督機構(EBA)は7月29日、主要51行のストレステストの結果を公表した。
査定では、2018年にかけて域内の景気が一時マイナス成長に陥る事態を想定。各銀行への影響を2015年末の財務状況を基に試算した結果、今後3年間で51行全体の普通株など中核的自己資本が計2690億ユーロ減り、健全性を示す中核的自己資本比率は15年末の13.2%から18年末に9.4%に低下するとなった。今後導入が予定される新たな規制を加味して見積もると9.2%となる。
巨額の不良債権を抱え、市場が注目するイタリア3位のモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナの自己資本比率は12.01%から、資本不足を意味するマイナス2.23%になるという最も厳しい結果が示された。同行は29日に、最大50億ユーロの増資をめざすと発表した。
モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナは1472年に設立された世界最古の銀行だ。同行の不良債権比率は2015年末時点で41%に達している。同行は欧州銀行監督機構から、今後3年間で100億ユーロ以上の不良債権削減を求められている。
伝統ある銀行ビジネスを崩壊させる「当局の矛盾」とは
このところ、何百年も続いて来たビジネス・モデルの崩壊を、しばしば耳にするようになった。時代に適応できないビジネス・モデルが淘汰されるのは、仕方のないことだとも言える。グローバリゼーションによる大資本による攻勢に、ローカルな小資本が太刀打ちできないのは、それなりに納得がいく説明だ。
では、何百年も続いて来たビジネス・モデルを崩壊させるような時代の変化とは何だろう?金融市場を例に挙げれば、資金(やモノ)を貸出して、利息(や見返り)を得るという古来からのビジネス・モデルが、マイナス金利政策や、世界で流通している国債の3分の1以上がマイナス利回りという「時代の変化」に適応できていないことになる。
では、モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ、あるいはドイツ銀行のような、資金を貸出して利息を得るという銀行ビジネスのモデルは、時代遅れなのだろうか?
ここで矛盾を感じるのは、不良債権削減を求められているという事実だ。不良債権とは、貸出しを行っていながら、利息を受け取っていない状態だ。このことを、欧州銀行監督機構がダメ出ししている。
では、銀行にとって、利息は受け取るべきものか、払うべきものか?不良債権をダメ出ししている以上、受け取るべきものなのだろう。
一方で、ECBに対する貸出し(当座預金)はマイナス金利で、銀行が利息を払っている。不良債権がゼロ利息ならば、マイナス利息は超がつく不良債権だということで、削減の対象になるべきことになる。
つまり、マイナス金利政策では、プラス金利を前提とした銀行のビジネスが否定され、ゼロ金利や追い貸しによる実質マイナス金利で不良債権が増えることが肯定される。一方で、不良債権が増えれば、銀行経営が成り立たなくなる。
こういった、欧州政府の筋の通らない政策、いわば、規制のための規制が「時代の変化」なのだ。
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