上記と関連した調査です。
浜田聡事務所より国会図書館へ下記調査依頼を送りました。回答と併せてご紹介します。
【依頼内容】
①在留外国人への生活保護給付を認められないと判断した一番初めの判例と、その理由
資料1によれば、外国人に対する生活保護法(昭和 25年法律第 144号)の適用関係が訴訟で表向き争われた最初のケースは、東京地判昭和53年3月31日判決とされます。
・東京地判昭和53年3月31日判決(東京都足立福祉事務所長事件)(資料1~3)
生活保護の準用を受けていた在日朝鮮人が、犯罪で起訴されたことによる保護廃止決定に対し、外国人も生活保護の対象者であることなどを理由に、その処分の取り消しを求めた事案です。判決は、生活保護法の適用対象は日本国民であり、外国人はその適用対象外であると解釈するのが相当とし、請求を棄却しました。
上記の判例は、もともと生活保護の受給を受けていた者が、廃止処分の取消を請求したものです。これに対して、適法に在留している外国人による生活保護の開始請求を認めなかった事例としては、最高裁第二小法廷平成26年7月18日判決があります。
・最高裁第二小法廷平成26年7月18日判決(大分外国人生活保護訴訟)(資料4~7)
永住者の在留資格を有する中国人が、大分市に生活保護を申請したところ却下されたことから、市を相手に申請却下処分の取消と生活保護開始決定の義務付けを請求した事案です。判決は、外国人は生活保護法のいう国民に含まれず、法に基づく保護の対象ではないため、生活保護の受給権を有しないとし、請求を棄却しました。
②当該判例がいくつあるか、同じ判断(理由)となっているか
外国人と生活保護法の適用関係が問題となった判例について、お調べした限りでは、以下の3事例がありました。
・神戸地判平成7年6月19日判決(ゴドウィン訴訟)(資料1,8)
留学目的で入国したスリランカ人が、くも膜下出血に伴う医療について神戸市から生活保護(医療扶助)の準用を受けたところ、政府がその経費支出を拒否したため神戸市の負担となったことについて、神戸市民が市に代位して、国に対しその負担を求めた事案です。
判決は、手続的理由から請求を却下しました。なお、外国人の生活保護については、生活保護法は保護を受けることができる者を国民に限っていることから、外国人が同法によって具体的権利を共有していると解することはできないとしつつ、憲法や国際人権規約等の趣旨に鑑み、法律をもって外国人の生存権に関する何らかの措置を講ずることが望ましいとされました。ただし、その立法措置については、専ら国の立法政策にかかわる事柄であり、直ちに司法審査の対象となるものではないとしています。
・最高裁第三小法廷平成13年9月25日判決(宋事件上告審判決)(資料9~11)
在留期間を超えて滞在していた中国人が、交通事故を原因として中野区に生活保護を申請したところ却下されたことから、申請却下処分の取消を請求した事案です。
判決は、生活保護法が不法残留者を保護の対象とするものではないことは、その規定及び趣旨に照らし明らかというべきとし、請求を却下しました。また、本件の1審判決では、外国人が生活保護の対象とならない実質的な理由として、生活保護は全額国費負担であること、要保護者は日本社会で適法に社会生活・活動をすべきこと、外国人は資産・能力の調査が不能であること、生活保護は納税の対価ではないこと等が挙げられました。
・千葉地判令和6年1月16日判決(資料12,13)
日本で働いていたガーナ人が、腎不全を原因として就労不能に陥り、千葉市に生活保護を申請したところ却下されたことから、生活保護開始を請求した事案です。
判決は、外国人は生活保護法のいう国民に含まれず、法に基づく保護の対象ではないため、生活保護の受給権を有しないとし、請求を棄却しました。令和6(2024)年8月6日に行われた控訴審では、東京高裁は一審判決を支持し、控訴を棄却しました。
▼資料リスト(紙資料はタイトルのみご紹介)
資料1 *高藤昭「外国人に対する生活保護法適用関係判例の問題性(特集 生活保護争訟
判例評釈)」『法律時報』879号, 1995.5.1, pp.100-103.
資料2 *「東京地判昭和53年3月31日判決 生活保護廃止処分等取消請求事件」LEX/DB
インターネット TKC法律情報データベースから打ち出し
資料3 *佐藤敬二「外国人と生活保護法の適用」『別冊ジュリスト』113号, 1991.10, pp.174-175.
資料4 *「最高裁第二小法廷平成26年7月18日判決」LEX/DBインターネット TKC法律
情報データベースから打ち出し
資料5 *松崎勝「外国人と生活保護法との関係」『判例自治』468号, pp.99-100.
資料6 *渡辺豊「永住外国人に対する生活保護法の適用」『新・判例解説Watch』16巻, 2015.4,pp.323-326.
資料7 *三輪まどか「永住外国人と生活保護法の適用」『別冊ジュリスト』227号, 2016.5, pp.160-161.
資料8 *「神戸地判平成7年6月19日判決 国庫負担金代位請求事件」 LEX/DBインター
ネット TKC法律情報データベースから打ち出し
資料9 「最高裁第三小法廷平成13年9月25日判決 生活保護申請却下処分取消請求事件」
2001.9.25. 最高裁判所ウェブサイト
<https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62831>
資料10 *国京則幸「非定住外国人への生活保護適用」『別冊ジュリスト』227号, 2016.5, pp.1213.
資料11 *成嶋隆「不正規滞在外国人への生活保護法の適用―宋事件上告審判決―」『法学教室』260 号, 2002.5, pp.128-129.
資料12 *「千葉地判令和6年1月16日判決 生活保護開始決定義務付け請求事件」LEX/DB
インターネット TKC法律情報データベースから打ち出し