今季J1開幕を前に、昨季5位に終わった鹿島アントラーズの巻き返しを期待する声は多かった。 昨季J1得点ランク2位(21ゴール)のレオ・セアラ(セレッソ大阪→)をはじめ、日本代表経験を持つ小池龍太(横浜F・マリノス→)、パリ五輪代表の荒木遼…
今季J1開幕を前に、昨季5位に終わった鹿島アントラーズの巻き返しを期待する声は多かった。
昨季J1得点ランク2位(21ゴール)のレオ・セアラ(セレッソ大阪→)をはじめ、日本代表経験を持つ小池龍太(横浜F・マリノス→)、パリ五輪代表の荒木遼太郎(FC東京→)ら、充実の補強が行なわれたことは、その理由のひとつだろう。
とはいえ、今季の鹿島に対する期待の裏づけとなっていたのは、戦力補強以上に、数々のタイトルを手にしてきた名将の"帰還"ではなかっただろうか。
すなわち、2017年から8シーズンにわたって川崎フロンターレを率い、その間に4度のJ1制覇と3度のカップ戦制覇を果たした、鬼木達監督の就任である。
今季から鹿島アントラーズの指揮を執る鬼木達監督
photo by Fujita Masato
いわば苦杯をなめさせられてきたライバルから指揮官を引き抜いた格好だが、もとをただせば、鬼木監督は選手として鹿島でプレーしていたクラブOB。川崎に圧倒的な強さをもたらした先進性を備えていることに加え、鹿島に脈々と受け継がれてきた伝統を肌で知ることも大きなメリットとなるのだろう。
近年の鹿島は監督交代が繰り返され、短命政権が相次いだ。それは結果にも反映され、かつての栄光が嘘のように、すっかりタイトル獲得から遠ざかってしまっているのが現状だ。昨季にしても、ランコ・ポポヴィッチ監督が新たに就任したにも関わらず、シーズン終了を待たずにクラブを離れている。
だからこそ、鹿島OBにして、Jリーグでの頭抜けた実績を誇る新指揮官にかかる期待は大きい。いよいよ腰を据えた強化とともに、常勝軍団の逆襲が始まるのではないか、と。
しかし、結論から言えば、今季の鹿島のスタートは前途多難。逆襲の気配を感じさせるものではなかった。
J1第1節で湘南ベルマーレとのアウェーゲームに臨んだ鹿島は、0-1の敗戦。立ち上がりこそ優勢に試合を進めたものの、その後は湘南にペースを握られる展開が続き、内容的に見ても結果は妥当なものだった。
「もっともっとアグレッシブなサッカーを見せたかった」
鬼木監督が試合後、そんな言葉を口にしたのも納得である。
もちろん、どんなに優れた監督であろうと、就任からわずかな期間で望むことすべてをチームに落とし込むことなど不可能だろう。まして目指す理想が高いものであればあるほど、相応の時間がかかるのは当然だ。
しかしながら、そんな当たり前のことを理解したうえでなお、開幕戦の内容はかなり物足りないものだったと言うしかない。
前述した先進性を"鬼木色"、伝統を"鹿島色"と表現するなら、ピッチ上に色濃く表われていたのは、後者のほうだ。
よく言えば、慎重で手堅い戦いぶりは鹿島らしいとも言えたが、相手にとっての怖さに欠け、攻守両面で劣勢を強いられる展開を引き起こした。「選手の気持ちをもっと前面に押し出せるような展開に持っていきたかった」とは、鬼木監督の弁である。
ボールを保持していても、立ち位置で先手を取ることができず、相手の守備をずらすようなパス回しができない。また、ボールを失った直後にすばやくプレスをかけようとしてもあっさりと外され、前進されてしまう。
仮に川崎がJ1を席巻した時代のサッカーを理想形とするなら、この日のピッチで展開されていたのは、その片鱗すらうかがえない代物だった。
今季新加入の小池は、「みんなで描いている絵はあるが、そこまでたどり着かなかった」と言い、こう続けた。
「特別なことはなくて、自分たちがやりたいこと、やろうとすることを信じ続ける。そして、それにトライし続ける。それを日々の練習のなかでやるしかないし、そういった成果を試合で見せるしかない」
鬼木監督もまた、「自分たちのチャンスというか、パスを通せるシーンで通せなかった」と言い、その原因として「技術のところと、気持ちのところ」を挙げた。
ここ数年、迷走を続けている感のある鹿島は必然、志向するスタイルも定められずにいる。
最近のヴィッセル神戸やFC町田ゼルビア、あるいは少し前の川崎や横浜FMと、J1では異なるスタイルがシーズンごとにトレンドを形成してきたが、鹿島はいずれの流れにも乗れずに来た。
そんな状況で鹿島の指揮を託された鬼木監督には、これから先、さまざまな困難が待ち受けているに違いない。「我慢強く戦っていくしかない」と力を込める指揮官は、覚悟を決めたように語る。
「もちろん目指すのはこうしたいというところがあるが、ただそれと同時に、我慢強く戦っていくのも、自分たちが目指している部分のひとつでもある。選手もそうだが、やっぱり自分が(監督として)もっともっとそこをやっていかないといけない」
J1通算最多優勝回数を誇る名将は、いかに古巣を立て直すのだろうか。鬼木色が鮮明になるまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。